【実施例】
【0072】
実施例1:誘導体化HPG類の合成及び特性解析
化学物質はすべてSigma−Aldrich Canada Ltd.(Oakville,Canada)から購入し、更なる精製はせずに用いた。溶媒はすべてFisher Scientific(Ottawa,Canada)からのHPLCグレードのものであり、更なる精製はせずに用いた。
【0073】
重合は、攪拌機を備えた三つ口丸底フラスコ中で行った。第2口をデュアルマニホールドのシュレンクラインに接続し、第3口をゴム隔壁で閉じてそこから試薬を加えた。HP
G−C
8/10−MePEG用の典型的な重合化反応手順は以下の通りである。開始剤のトリメチロイルプロパン(TMP)をアルゴン雰囲気下フラスコに加え、カリウムメチラートのメタノール溶液(20wt%)を続けて加えた。マグネティックスターバーを用いて15分間混合物を攪拌し、その後真空中で過剰なメタノールを除去した。フラスコは油浴中で95℃に保ち、シリンジポンプを用いて12時間にわたりグリシドールを滴下して加えた。モノマーの添加完了後、混合物を更に5時間攪拌した。次いでオクチル/デシルグリシジルエーテルを加え、混合物を24時間攪拌してHPG−C
8/10を形成した。当該混合物に、12時間にわたってMePEG350を滴下して加え、次いで更に5時間攪拌した。MePEGのメチル基が、モノマーの一端を当該モノマーが2価にならないように(dHPG分子間を架橋することになる)保護するので、MePEGはPEGよりも好ましい。合成後に除去し得るものも含め、他の保護基も検討される。このように、HPGは、ペプチド、グリコペプチド及びタンパク質等を含む、他の化学基又は生体分子を加えることにより更に修飾され得る表面上でPEG鎖と共に調製し得る。当該手順は、種々のHPGの合成に変更し得、例えば、グリシドール添加後に1,2−エポキシデカンを混合物に加えてHPG−C
18を形成し得る。
【0074】
次いで、生成物をメタノール中に溶解し、それを陽イオン交換カラム(Amberlite(商標) IRC−150)に3回通すことにより中和する。未反応のオクチル/デシルグリシジルエーテルはヘキサンによる抽出によって除去する。メタノールを除去し、酢酸セルロース透析管(MWCO:1000g/mol,Spectrum Laboratories Inc.)を用いて、1日あたり3回の水交換によりポリマーを3日間、水に対して透析する。次いで、凍結乾燥及び加熱乾燥により、乾燥ポリマーを取得する。
【0075】
当該手順は、アルキル鎖がポリマーの至る所に不規則に位置する標準コアのdHPGではなく、アルキル鎖がポリマーの中心の方へ集中する凝集コアのdHPG類を合成するために変更し得る。ポリマーのコアは、グリセロールエポキシド及びアルキルモノマーを種々の速度及び/又は種々の割合で反応混合物に加えることにより、修飾される。凝集コアdHPGを形成するためには、超分岐構造の外側部分がアルキル成分を全く含有しないように、アルキルモノマー類はすべてグリセロールエポキシド添加の前に加える。アルキル成分は、代わりにHPGのコアの方に配置する。
【0076】
まずHPG−C
8/10を上記の通り調製することにより、HPG−C
8/10−COOHを形成する。カルボン酸官能基のHPG−C
8/10への付加のための反応をスキームIIに示す:
【0077】
【化3】
【0078】
HPG−C
8/10(0.5g)にピリジン(50mL)を加え、急速に攪拌してポリマーを溶解した。ジメチルアミノピリジン(0.2g,0.0016モル)を加え、続けて無水コハク酸(12g,0.12モル)をゆっくりと加えた。室温(約22℃)で一晩、反応物を攪拌した。水(100mL)を加え、混合物を30分間攪拌した。共沸蒸留によってピリジンの蒸発をよりよくすることを可能にするために周期的に水を加え、回転蒸発によって溶媒を除去した。残渣をメタノール中に溶解し、Spectra/PorDialysis membrane(MWCO:3500g/mol)を用いて、蒸留水に対して16時間透析した。透析媒体を4度交換し、各度にメタノール濃度を高めた。透析媒体の最終組成は蒸留水中、70%メタノールであった。回転蒸発により溶媒を除去し、真空オーブンで一晩、ポリマーを乾燥した。
【0079】
HPG−C
8/10へのスクシンイミジルカーボネート添加のために試行した初期反応スキームをスキームIIIに示す。簡単に述べると、真空の下110℃でHPG−C
8/10を乾燥し、次いで室温で冷却した。アセトニトリル及びDCMを加えてポリマーを溶解した。次いでフラスコにN,N’−ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)を加えた。フラスコを真空にし、次いでアルゴンでパージし、ピリジンを加えた後、室温で一晩、反応を進行させた。反応後、回転蒸発によりほとんどのアセトニトリルを除去した。メチル tert−ブチルエーテル(MTBE)を加えポリマーを沈殿させた。上清を移し、DCMを加えてポリマーを溶解した。10〜15mmのブフナー漏斗を通して物質を濾
過し、透明な溶液を得、それを回転蒸発してDCMを除去した。MTBEを加えてポリマーを沈殿させた。真空の下、室温で最終生成物HPG−C
8/10−NHSを乾燥した。
【0080】
【化4】
【0081】
第1の試行により、−20℃で保存した場合でも不安定で、マトリクスを架橋してしまうほど反応性に富むHPG−C
8/10−NHSが生成されたことが示された後、第二の合成経路を試行した。HPG−C
8/10−NHSの生成のために試行した第二の反応のスキームを、スキームIVに示す。合成には、中間体として上記したHPG−C
8/10−COOHを生成すること、それに次ぐ、HPG−C
8/10−COOH−NHSを生成するためにNHSと更に反応させることが含まれる。
【0082】
【化5】
【0083】
HPG−C
8/10及び無水コハク酸をピリジン中に溶解し、ジメチルアミノピリジン(DMAP)を触媒として室温で24時間反応させた。等量の水を加えて反応を終結させ、溶液を回転蒸発することによりピリジンを除去した。HPG−C
8/10−COOH水溶液を72時間透析(MWCO:3500g/mol)し、残存溶媒を除去して凍結乾燥した。HPG−C
8/10−COOHを、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を触媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)中でN−ヒドロキシスクシンイミド(succiniamide;NHS)と24時間、室温で更に反応させた。反応終了時に、回転蒸発によりDMFを除去した。生成物を上記の通り単離した。MTBEで沈殿させ、アセトニトリル中で濾過し、回転蒸発して、乾燥に先立ちMTBEで沈殿させた。
【0084】
スキームV中に要約される以下の手順を用いて、様々なアミン密度を有するHPG−C
8/10−MePEG−NH
2のバッチを生成した。各バッチに関しては、表1中に記載する、様々な化学量論の試薬を用いた。
【0085】
【化6】
【0086】
HPG−C
8/10−MePEG(4g)を15mlの無水1,4−ジオキサン中に溶解した。水素化カリウム(0.45g)をヘキサンで3回リンスし、真空の下乾燥した。ポリマー溶液をKHと混合し、透明溶液を形成するまで室温で攪拌し、HPG−C
8/10−MePEG上のおおよそ20%のOH基を脱プロトン化した。一晩攪拌(Na
2SO
4又はMgSO
4)しながらジクロロメタン中に溶解することにより、N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド)(EPP)(1.184g)を乾燥した。溶液を濾過し、真空の下乾燥してジクロロメタンを除去した。乾燥したEPPを無水1,4−ジオキサン中に溶解し、約85〜90℃で一晩攪拌しながらポリマーに加えた。陽イオン交換樹脂カラム(Amberlite IRC−150)に3回通すことにより生成物を中和し、次いでエーテルから3回沈殿させて未反応のEPPを除去した。NMRによれば、15.5%のフタルイミド基がHPG−C
8/10−MePEGに結合した。ヒドラジン分解(ヒドラジン一水和物による還流)により、フタルイミド官能基の開裂を達成した。ポリマーのメタノール溶液に過剰のヒドラジン一水和物溶液(2mL)を加え、混合物を48時間還流した。還流後、メタノールを蒸発させ、MWCO:10000g/mol膜を用いて、ポリマーを水に対して48時間透析し、凍結乾燥した。
【0087】
【表1】
【0088】
取得したポリマー類を、NMR、FTIR、DSC及びTGAにより特性解析した。NMRは、分岐構造及びポリマーのシェルに付加された表面基の存在の確認に特に有用である。ある種の表面化学に関しては、FTIR解析は、ヒドロキシル基の消費及びヒドロキシル基と他の基との置換であって、当該基の化学がHPG構造の残りとは異なるIRスペクトルを与える置換(例えば、C=O結合の付加)の確認にも有用である。例えば、FTIRは、表面への−COOH基の付加又はエステル結合を通した基の付加の確認に用いられ得る。
【0089】
実施例2:dHPG類へのパクリタキセル又はドセタキセルの封入
パクリタキセル又はドセタキセルは、dHPGと共に少量のアセトニトリル中に溶解し得、オーブン中60℃で1時間乾燥し得る。次いで窒素気流でフラッシュして微量の有機溶媒を除去し得る。結果生じるdHPG/パクリタキセル又はdHPG/ドセタキセルの
マトリクスは10mMのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で水和し、2分間ボルテックスしてオーブン中60℃で1時間インキュベーションし得る。結果生じる溶液は、一般的には透明である。白色沈殿が観察される場合、溶液を遠心(18000g、10分間)し、上清を新たな容器に移し、使用するまで冷所に保持し得る。
【0090】
実施例3:dHPG類中でのドセタキセル及びパクリタキセルの安定性
dHPG類に組み込まれたドセタキセル(「DTX」)の安定性を、DTXの不活性な分解産物への分解、及び生物活性を有するそのエピマー(「7−epi−DTX」)への相互変換の観点から、特性解析する。パクリタキセル及びドセタキセルのエピマー形成は、平衡として起こることが知られるが、不活性な分解産物への分解は不可逆的である。安定性は、様々なdHPG類において記載された通り、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いて解析した。主要な分解ピークを分離するために、Waters Acquity UPLC BEH C
18カラム(2.1x50mm,1.7μm)を用いた。注入体積は3μLであった。移動相は、0.385gの塩を秤量し、それを500mLのHPLCグレードの水に溶解することにより調製した10mM酢酸アンモニウム溶液であった。pHは酢酸を用いてpH4.0に調整した。DTXのストック溶液(2mg/mL)はメタノール中に調製し、−20℃の冷凍庫中に保存した。DTXを含有する標準液一式は、0.5〜100μg/mLの範囲にわたり、50/50のメタノール/水中に調製した。検出限界(LOD)及び定量限界(LOQ)は両方とも1μg/mLであった。1〜100μg/mLからの較正曲線は、DTXに関しては、R
2が0.9998の直線であった。1/xの重み付けを適用した。方法の精度(accuracy)及び精度(precision)は、LOQ(1μg/mL)及び中間域(10μg/mL)で確認した。各ケースにおいて、注入を5回反復した。表2に、当該濃度のDTXについて得られた精度(accuracy)及び精度(precision)を集約する。
【0091】
【表2】
【0092】
DTXの強制分解を行って、方法の特異性評価のためのサンプルを生成した。300μLのメタノール、150μLの5%水酸化アンモニウム及び50μL(50°μL)の、アルカリのpHで数分内にDTXに分解するDTXプロドラッグのストックを含有する溶液を調製することにより、DTXの分解を達成した。DTXプロドラッグのDTXへの変換及びDTXの分解は2時間超えでモニターした。トレー上2.2時間(室温)の後、プロドラッグはすべて有効にDTX及び他の成分へと分解した。上記方法を用いて分解サンプルを分析し、DTXプロドラッグの分解、DTX及び関連する分解物を確認した。
【0093】
上記のUPLCの方法を用いると、DTXは2.99分の溶離液であり、7−epi−DTXは3.15分の溶離液である。クロマトグラフのサンプルを
図1中に示す。1.4分と2.0分との間のピークは、DTX及び7−epi−DTXの分解産物である。DTX及び7−epi−DTXのピーク領域は時間の関数として算出し、次いでdHPG中に残存するDTX又は7−epi−DTXのパーセンテージを決定するために用いた。結果を
図2中に示す。
図2から理解できるように、DTXを含む当該製剤は、HPGポリマーがHPG−C
8/10及びHPG−C
8/10−MePEGの場合に安定であり、それら
はpH7.3に緩衝化したPBS中、72時間にわたり、組み込んだDTXの90%超をDTX及び7−epi−DTXとして保持した。残りの量の薬物は不活性成分に分解しており、サンプル全体の2%を超えて寄与したものは各々、質量分析MRMの実験によって同定した。当該実験は、公知のDTX分解産物に関連したイオンフラグメントを同定するために行った。
【0094】
HPG−C
8/10製剤及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2製剤中のDTXイオン及び7−epi−DTXイオン(+H
+)m/z 808.5のシングルイオンレコーディング(SIR)を、
図3A及び
図3Bにおいて比較する。両方のクロマトグラムにより、7−epi分解物の存在が示されるが、それはHPG−MePEG−NH
2のサンプル中により多くの割合で存在する。
図3A及び
図3Bに関しては、最大ピークがDTXであり、より低いピークが7−epi−DTXである。全イオンクロマトグラムにより、製剤中のポリマー構成成分に起因する、総体的な非常に高いシグナル(
図4)が示されるが、DTX分解物フラグメントに一致することが知られる付加質量(Kumar et
al 2007 Isolation and characterization of degradation impurities in docetaxel drug substance and its formulation,Kumar et al.,Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 12 March 2007 43(4):1228−1235)が、最大の分解物ピーク(
図5)に符合して同定された。DTX側鎖からのフラグメントに対応し得る226及び282のm/zが1.5分に観察された。しかし、10−デアセチルバッカチンIII+K
+に対応する583のm/zが存在した。このことにより、タキサンがコア及び側鎖の両方を含有することが示される。320及び562のM/zも観察された。2分のピークは、それぞれ10−オキソ−10−デアセチルバッカチンIII+K
+及び10−デアセチルバッカチンIII+K
+に対応し得る、m/z=581及び583を有した。当該ピーク位置は、クロマトグラムのバッカチン分解物が観察されると期待される領域内でもある。
【0095】
いくつかの製剤の安定性は、製剤のpHを調製することにより、更に増加し得る。例えば、5.5〜6.5のpHを得るための割合で緩衝塩を有する水性媒体中に溶解した、DTXを組み込んだHPG−C
8/10−MePEG−NH
2を含む組成物は、緩衝塩を除いた同一の組成物又は緩衝塩組成を改変した組成物(例、7.4のpHをもたらすPBS緩衝液)よりも安定である(
図6)。適切な緩衝塩としては、リン酸緩衝塩が挙げられる。或いは、組成物のpHは、組成物にHCl等の酸を加えることにより、低下させ得る。その上、組成物のpHを改変することにより、DTXの分解は有意に減速する。
【0096】
実施例4:dHPG類のIn vitroでの生体適合性
種々のdHPG製剤がKU7癌細胞を殺傷できるか否かを決定することにより、dHPG類の毒性を測定した。当該実験は、薬剤又は生物学的に活性のある部分を何ら組み込んでいないdHPG類を用いて行った。結果を
図7A及び7B中に示す。標準コア製剤及び凝集コア製剤の両方について、HPG−C
8/10濃度に応じたKU7細胞の増殖(パーセント)を
図7Aに示す。HPG−C
8/10の安定性は、コア構造の変化によっては有意に影響されなかった。標準コア製剤及び凝集コア製剤の両方について、KU7細胞の生存率をHPG−C
8/10−MePEG濃度に応じて
図7Bに示す。凝集コアを有するポリマー類は、標準コアのポリマーに比べて、細胞生存率について10倍高いIC50を示す。凝集コアを有するdHPG類は、標準コアを有するdHPG類よりも、より細胞に寛容される。両方の製剤とも、1モルのHPG当たり6.5モルのMePEGを含有した。凝集コアの製剤は、標準コアの製剤よりも、KU−7細胞に対する細胞毒性が低かった。
図7A及び
図7B中に示す製剤を調製するために使用したモノマー類の体積比率を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
MePEG外部シェルが無いHPG−C
8/10ポリマー類が中でも最も寛容されず、MePEGシェルが無ければ、標準コア構造から凝集コア構造へとコアを改変することにより、細胞生存率の向上の観点からは全く恩恵が無いことを
図8に示す。HPG−OHは、表面にMePEGが無いHPGであることを表す。しかし、MePEGを加えると、恩恵が顕著となる。The HPG−C
8/10−MePEG
6.5の記号(HPG当たり6.5mol MePEGを有する)で、通常コア型で比較した場合、寛容性はHPG−C
8/10に似ていることが示されるが、凝集コア構造を用いると、HPG−C
8/10−MePEG
6.5の寛容性は、シェル内に2倍量のMePEGを有する標準コアHPG−C
8/10−MePEG13のレベルに改善する。以前に開示されたHPG−MePEGポリマー類(Mugabe C.et al.2008 BJUI 103:978−986)も、定量されなかったもののMEPEG量はより多く、>15mol%と推定され、十分に寛容されていた。
【0099】
実施例5:dHPG類が細胞に運びこまれることを示すin vitroの細胞取り込みアッセイ
フルオレセインで標識されたHPG−C
8/10−COOH−NHS及びHPG−C
8/10−COOHのKU7細胞への取り込みを検証した。dHPGを1mg/mLでFBS−フリーの培地中に溶解した。12ウェルの各プレート中、250μLのdHPGをカバーガラス上で細胞に曝露した。PBSでプレートを2回洗浄し、続けてPBS中3.7%ホルムアルデヒドで10分固定した。再びPBSでプレートを2回洗浄した。Prolong Gold(商標)を用いてDAPIとともにカバーガラスをマウントした。
【0100】
実際にポリマーがKU−7細胞に取り込まれて、単に細胞表面上に留まっているのではないことを確認するために、HPG−C
8/10−COOHのZ−スタックも観察した。見渡したすべての角度で蛍光を観察したので、dHPG類が細胞の内側にあることがわかった。当該結果により、dHPG類は細胞に取り込まれ、細胞内で何ら悪影響を引き起こさないことが示される。In vitroのデータにより、HPG類を細胞に曝露すると
、HPG−C
8/10−COOH−NHS及びHPG−C
8/10−COOHの両方が1時間で取り込まれることが示される。しかし体内では、接触がin vitroでの状況ほど完全ではなく、当該取り込みを促進するためには、曝露を延長することが必要である。
【0101】
実施例6:凝集コアdHGP類及び標準コアdHGPへのタキサンのローディング
凝集コアHPG−C
8/10−MePEG及び標準コアHPG−C
8/10−MePEGの最大薬物ローディングを調査した。薬物濃度0.5、1.0、2.0及び3.0mg/mLを目標にしてDTX及びPTXをHPG−C
8/10−MePEGにロードした。THF中100mg/mLのポリマー溶液を調製し、DTX又はPTXを加えた。N
2気流の下THFを約2時間乾燥し、次いでフードオーブン中で一晩乾燥した。HPG−C
8/10−MePEG/PTX及びHPG−C
8/10−MePEG/DTXマトリクスをPBS緩衝液(pH7.4)で水和した。結果生じる溶液を14000rpmで約15分間スピンダウンした。上清の液体をHPLCで試験し、HPG−C
8/10−MePEG中に内包された薬物の濃度を入手した。結果を表4中に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
PTXについてのローディングより、DTXについてのローディングの方が優れていることがわかった。
【0104】
実施例7:HPG−C
8/10及びHPG−C
8/10−MePEGの合成及び特性解析
報告されたプロトコール(Kainthan,R.K.,Mugabe,C.,Burt,H.M.,Brooks,D.E.,2008.Biomacromolecules 9,886−895)に従い、エポキシドの開環重合を基礎とするシングルポットの合成手順でコア修飾HPG類のオクチル/デシルグリセリルエーテル(O/DGE,C
8/10)重合を実施した。
【0105】
化学物質はすべてSigma−Aldrich(Oakville,ON)から購入し、溶媒はすべてFisher Scientific (Ottawa,ON)からのHPLCグレードのものとした。MePEG 350、水酸化ナトリウム及びエピクロロヒドリンの反応からα−エポキシ,ω−メトキシ ポリエチレングリコール350(MeP
EG 350エポキシド)を合成した。オクチル/デシルグリシジルエーテル、カリウムメチラート及びトリメチルプロパン(TMP)はSigma−Aldrichから入手し、更なる精製はせずに用いた。
【0106】
120mgの開始剤(TMP)を1.5mlのカリウムメチラートのメタノール溶液(25%,w/v)と混合し、アルゴン雰囲気下、三つ口丸底フラスコに加えた。混合物を105℃で1時間攪拌し、その後過剰メタノールを真空の下で除去し、次いでシリンジポンプを用い、13mlのグリシドール及び9mlのO/DGEの混合物を1.4ml/hの速度で開始剤に注入した。デジタルオーバーヘッド攪拌システム(BDC2002)を用い、攪拌速度を68rpmに固定した。モノマー添加の完了後、混合物を更に6時間攪拌した。ヘキサンによる抽出で精製ポリマー類を取得し、未反応のオクチル/デシルグリシジルエーテルを除去した。次いで生成物をメタノール中に溶解し、陽イオン交換カラム(Amberlite IRC−150,Rohmand Haas Co.,Philadelphia,PA)に3回通すことにより中和した。真空の下、メタノールを除去し、次いで酢酸セルロース透析管(MWCO:1000g/mol,Spectrum Laboratories Inc.)を用いて、1日あたり3回の水交換により、ポリマー水溶液を3日間、水に対して透析した。
【0107】
1H NMR (400 MHz, D
6-DMSO) δ
H: 0.75−0.82 (−CH
3, TMP); 0.82−0.91 (O/DGE上の−CH
3−アルキル); 1.16−1.53 (−CH
2−, O/DGE上のアルキル); 2.46 (溶媒, D
6-DMSO); 3.16−3.80 (−CH及び−CH
2−, HPGコアから); 4.8 (−OH)。
【0108】
種々の量のMePEGを含有するHPG−C
8/10−MePEGを調製し、HPG−C
8/10−MePEG
6.5及びHPG−C
8/10−MePEG
13と命名して供給口に加えたMePEG量(1モルのMePEG当たりそれぞれ6.5mol及び13mol)を表示した。合成の最終段階において、異なる量のMePEG 350エポキシドを反応混合物に加えたこと以外はHPG−C
8/10の反応と同様に合成を行った。アルキル(R)で誘導体化したHPG−C
8/10−MePEGのワンポット合成のための反応スキームをスキームVI中に要約する。
【0109】
【化7】
【0110】
120mgの開始剤(TMP)を1.5mlのカリウムメチラートのメタノール溶液(25%,w/v)と混合し、アルゴン雰囲気下、三つ口丸底フラスコに加えた。混合物を105℃で1時間攪拌し、その後過剰メタノールを真空の下で除去し、次いでシリンジポンプを用い、13mlのグリシドール及び9mlのO/DGEの混合物を1.4ml/hの速度で開始剤に注入した。グリシドール及びO/DGEの混合物をすべて注入した後、反応を約6時間継続した。次いで、フラスコに0.1mlの水素化カリウム(KH)を加えた。混合物を1時間攪拌し、その後、シリンジポンプを1.4ml/hの速度で用い、
「ワンポット」合成の最終段階として10ml又は20mlのMePEG 350エポキシドを加えた。HPGに対する、目標とする密度に応じてMePEG 350の量(つまり、目標とする6.5molのMePEGについては、1モルのHPGに対し、10mlのMePEG350)を加えた。次いで、攪拌速度を90rpmに増大させ、反応を105℃で一晩、継続して行った。ヘキサンで抽出することにより、微量の未反応オクチル/デシルグリシジルエーテルをいずれも除去した。生成物をメタノール中に溶解し、陽イオン交換カラム(Amberlite IRC−150,Rohmand Haas Co.,Philadelphia,PA)に3回通すことにより中和した。真空の下、メタノールを除去し、次いで酢酸セルロース透析管(MWCO 10,000g/mol,Spectrum Laboratories)を用いて、1日あたり3回の水交換により、ポリマー水溶液を3日間、水に対して透析し、未反応MePEGエポキシドを除去した。次いで、凍結乾燥により乾燥ポリマーを取得した。
【0111】
1H NMR (400 MHz, D
6-DMSO) δ
H: 0.75−0.82 (−CH
3, TMP); 0.82−0.92 (O/DGE上の−CH
3−アルキル); 1.15−1.55 (−CH
2−, O/DGE上のアルキル); 2.50 (溶媒, D
6-DMSO); 3.15−3.80 (−CH及び−CH
2−,HPGコアから); 3.23 (−OCH
3− MePEGから), 3.32 (残存水); 4.8 (−OH)。
【0112】
カリウムメチラートを用い、一部脱プロトン化したトリメチルプロパン(TMP)から、グリシドールの陰イオン性開環多分岐重合によってHPG−C
8/10(MePEG鎖無しのHPG)を調製した。HPG−C
8/10は無数の末端ヒドロキシル基を有しており、1分子当たりの数はおおよそ重合化度に等しい。C
8/10アルキル鎖でHPG−C
8/10コアを誘導体化して疎水性コアを創り出し、薬物、(例えばタキサン)のローディングを可能にした。MePEG鎖をHPG類のヒドロキシル基に連結した。他の成分反応後に、重合化反応物にMePEG 350エポキシドを加えたので、親水性のシェルが形成され、HPG類の水溶性が増加する。
【0113】
NMR実験を行い、HPGポリマー類の構造特性を解析した。MePEGとHPG類上のアルキル鎖との比は、重水素化溶媒(Cambridge Isotope Laboratories,99.8%D)を用いて、Bruker Avance 400MHz NMR分光計に記録した異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)NMR実験から推定した。化学シフトは残存溶媒のピークを基準にした。Sparky (T.D.Goddard and D.G.Kneller,Sparky 3,University
of California,San Francisco)を用いてHSQCスペクトルを解析した。
図9及び
図10にHPG−C
8/10ポリマー類及びHPG−C
8/10−MePEGポリマー類の代表的なプロトンスペクトル及び2D HSQCスペクトルを示す。原料スペクトルを開始用参照として用い、ピークをすべてHPG類の構造成分にアサインメントした(
図10B)。プロトンNMRスペクトルは報告されたもの(Kainthan,R.K.,Janzen,J.,Kizhakkedathu,J.N.,Devine,D.V.,Brooks,D.E.,2008.Biomaterials 29,1693−1704;Kainthan,R.K.,Mugabe,C.,Burt,H.M.,Brooks,D.E.,2008.Biomacromolecules 9,886−895)と同様だった。HSQC NMRのデータにより、スペクトルにおいて分岐構造は明らかであり(
図9及び
図10)、超分岐ポリマー類としてのHPG類の構造が確認された。各置換基の比は、HSQC実験における体積積分から算出した。MePEGのメトキシ基及びO/DGEのメチル基の積分とTMPのCH
3基の積分とを比較することにより、各HPGポリマーについてO/DGE及びMePEG(mol/mol)の比を算出した。HSQCのデータにより、未反応のエポキシドモノマー類が無いこと(Fig.10)が示される。このことにより、未反応モノマー類によるポリマーのコンタミネーションが無いことが示される。
【0114】
多角度レーザー光散乱検出によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC−MALLS)によってdHPGポリマー類の分子量及び多分散性を決定した。分子量は約80,000g/molであった(表5)。
【0115】
dHPG類の物理化学的特性を表5中に集約する。
【0116】
【表5】
【0117】
実施例8:dHPG類の熱特性並びにPTX及びDTXをロードしたdHPG類の物理的安定性及び化学的安定性に対する精製過程の影響
示差走査熱量測定法(DSC)及び熱重量分析(TGA)により、dHPG類の熱特性及び分解特性に対する精製過程の影響を評価した。精製dHPG類とは、例えば、未反応C
8/10アルキル鎖を除去するための、ヘキサンによる抽出、続く陽イオン交換カラムを通した中和、次いで透析といった様々な精製段階を経たポリマー類を指す。
【0118】
TA Instruments DSC Q100及びTGA Q50を用いて熱解析を行った。密封したアルミニウム製パン中、秤量したサンプルを、温度範囲−90℃〜85℃にわたる、10℃/分での「加熱−冷却−加熱」の循環でサイクルにかけることによりDSCのランを取得した。40ml/minの気流(窒素)を伴うコンスタント ランピング(constant ramping)温度プログラム(20.0oC/min
to 500oC)でTGAのランを行った。重量パーセンテージ及びTGAチャンバー
の温度をリアルタイムで記録した。TA Universal Analysis 2000ソフトウェア(Version 4.2E,TA Instruments)を用いてデータの解析を行い、開始点を見出した。AB104−Sバランスを備えたMettler Toledo DL39 Karl Fisher電量計を用いた滴定により、d
HPG類の水分量を決定した。既知の量のdHPG類を無水メタノール中に溶解し、HYDRANAL(登録商標)−Coulomat reagent(Sigma)によって滴定した。無水メタノールからのバックグラウンドの読みを差し引いて最終結果を取得した。
【0119】
MePEG含有量が0(HPG−C
8/10)〜4.6mol MePEG/HPGに増加するにつれ、HPG−C
8/10及びHPG−C
8/10−MePEGは−38℃〜−55℃に低下した温度でガラス転移を示した(表5)。精製過程によっては、dHPG類のTg値には全く影響が観察されず、熱安定性には有意な影響が観察されなかった。精製dHPG類及び未精製dHPG類とも最大300℃の温度まで安定であり、熱分解の徴候はなかった(表6)。
【0120】
PTX及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGの物理的安定性及び化学的安定性に対する精製過程の影響も評価した。PTX及びDTXを、ともに精製HPG−C
8/10−MePEG又は未精製HPG−C
8/10−MePEGにロードし、PBS(pH7.4)からの薬物の沈殿開始を観察することによって、物理的安定性を評価した。LC/MS/MSにより化学的安定性を評価し、PTX及びDTXの量並びにそれらの分解産物量を決定した。
【0121】
PTX及びDTXをロードしたdHPG類の物理的安定性及び化学的安定性は精製過程により影響を受けた。達成可能なPTX及びDTXの最大ロードは未精製ポリマー類の方が多く、当該製剤は精製dHPG類で作製された製剤よりも物理的に安定であることがわかった(表6)。5%(w/w)のタキサンをロードした未精製ポリマーで調製したサンプルは数日間(>3日)沈殿しなかったが、5%(w/w)タキサンロードの精製ポリマーで調整したものは、PBS中での構成に際して数時間以内又は即座に沈殿した(表6)。しかし、未精製dHPG類中では、PTX及びDTXは化学的に不安定であり、大部分のタキサンは製剤調製中に分解することが観察された。約75〜80%のPTXは、未精製HPG−C
8/10−MePEGにおけるロードに続いて、それが乾燥(バルク)マトリクスであるか、PBS(pH7.4)中で再構成された後であるかに関わらず、即座に分解した(表6)。しかし、ひとたび緩衝液中に入れると、更なるPTX分解は全く起きないが、乾燥マトリクス中のPTXは24時間にわたって分解し続けた。
図11Bに、PTXに対応するピーク及びいくつかの分解産物の形成に起因する他のピークを伴う、未精製HPG−C
8/10−MePEG中のPTXの製剤由来のクロマトグラムを示す。クロマトグラムは、アセトニトリル中に溶解した製剤から、溶媒乾燥直後に取得した(例、バルク状態で、PBS中での構成に先立って)。LC/MS/MSにより、587及び854のm/z値を有する、2つの主要な分解物をそれぞれ同定した。当該質量及び当該ピークの相対保持時間に基づき、それらの正体はそれぞれバッカチンIII(m/z 587,
図11A)及び7−epi−タキソール(m/z 854)と仮定した。未精製製剤においては、他の分解産物(ピークA及びB,
図11B)も観察された。それらの相対保持時間、ピーク域及びタキサンの既知の分解機構に基づき、ピークB(
図11B)は7−エピ−バッカチンIIIであるバッカチンVであると思われ、ピークAは10−デアセチルバッカチンIIIであると思われた。しかし、精製ポリマー類中にロードしたタキサンは異なった挙動を示した。バルク中及び溶液中の両方で、PTXは数日間化学的に安定であることがわかり、製剤調製中に主な分解物は観察されなかった(表6及び
図12C)。未精製HPG類中のPTX及びDTXは迅速に分解することが観察された。これは未精製ポリマー類における塩基性不純物の存在に起因すると思われる。塩基性不純物は、HPG類合成の間に加えた過剰なカリウムメチラート及び水素化カリウムに由来する可能性が最も高い。カリウムメチラート及び水素化カリウムは、ともに強塩基であり、ポリマー中の残存水分と結びついてPTXのC7位におけるエピマー化及びPTXのエステル切断に好都合な環境を創り出し、バッカチンIII(又はDTXに関しては10−デアセチルバッカ
チンIII)を生成するであろう(
図11A)。蒸留水中のdHPGポリマー類のpH測定により、未精製ポリマー類は塩基性のpHであるが、精製ポリマー類は、(陽イオン交換樹脂のAmberlite IRC−150による処理に起因して)タキサンにとってより安定的な環境である酸性pHであることが示された。タキサンは3〜5のpH域で安定性が最大であると報告されている(Dordunoo,S.K.,Burt,H.M.,1996.Int.J.Pharm.133,191−201;Tian,J.,Stella,V.J.,2010.J.Pharm.Sci.99,1288−1298)。精製ポリマー類は当該pH域内であるので(表6)、ロードしたタキサンの化学的安定性を向上させた。未精製dHPGポリマー類中にロードしたタキサンの、見かけ上のより高い薬物ローディング及びより高い物理的安定性は、ロードした薬物の大部分が、親のタキサンよりも低分子量且つ親水性の分子(バッカチンIII及びバッカチンV)に分解したという事実により説明され得る。このことにより、分解された当該分子は、より効率的にdHPG類にロードされたことが示唆される。
【0122】
【表6】
【0123】
実施例9:dHPG類の熱特性、表面電荷及び粒子サイズに対するMePEG誘導体化の影響
粒子サイズ及びゼータ電位の解析は、各解析についてDTS0012 disposable sizing cuvetteを用いたMalvern NanoZS Particle Size analyzerを用いて行った。濃度15mg/mlのポリマー溶液を1mM NaCl中に調製し、0.22μmのシリンジフィルター(PALL Acrodisc 13mm with nylon membrane)で濾過した。サンプルの取得パラメータは:角度173°の後方散乱(自動減衰);ラン回数11(10秒/ラン);分散剤は25℃の水(粘度0.8872cP及びRI 1.330);Mark−HouwinkパラメータはA=0.428及びK=7.67e
−05(cm
2
/s)とした。dHPG類は、屈折率がポリエチレングリコールと同様(RI=1.460及び吸収0.01)であると仮定した。最終データはすべてのランの平均を表す。
【0124】
dHPG粒子サイズは一貫して直径10nm未満であり、PTX及びDTXのロードによりHPG−MePEGのサイズに影響は無かった(データ示さず)。薬物をロードしたHPG類は、10nm未満の極端に小さなナノ粒子を形成する。
【0125】
以下のゼータポテンシャルの測定:HPG−C
8/10=−1.29±0.97mV;HPG−C
8/10−MePEG
6.5=−0.92±1.68mV;HPG−C
8/10−MePEG
13=0.18±0.16mVの通り、当該ナノ粒子上の総体的表面電荷は、HPG類表面上でのMePEG鎖の存在によって有意に影響されなかった。
【0126】
MePEG密度増大に伴う、ガラス転移温度に対する影響を観察した。Tgは、HPG−C
8/10ポリマーについての−37.5℃からHPG−C
8/10−MePEG
6.5及びHPG−C
8/10−MePEG
13についての−45.2及び−55.4℃にそれぞれ低下した(表5)。PTX又はDTXによるローディングもTgを減少させた(表5)。
【0127】
実施例10:dHPG類中のPTX及びDTXのロード、定量及び安定性並びにdHPG類からのPTX及びDTXの放出
PTX又はDTX及びdHPG類を4mlバイアル中1mlアセトニトリル溶液中に溶解し、オーブン中60℃で1時間乾燥し、窒素でフラッシュして微量の有機溶媒を除去した。結果生じるdHPG/タキサンマトリクスを、50℃、1mlの10mM加温リン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH7.4)で水和し、2分間ボルテックスした。結果生じる溶液は一般的に透明であるが、白色粒子が観察される場合は、溶液を遠心(18000g、10分間)し、上清を新たなバイアルに移した。
【0128】
HPG類に組み込まれたPTX量及びDTX量は、以前に記載(Jackson,J.K.,Smith,J.,Letchford,K.,Babiuk,K.A.,Machan,L.,Signore,P.,Hunter,W.L.,Wang,K.,Burt,H.M.,2004.Int.J.Pharma.283,97−109)の通り、逆相HPLCにより決定した。100μlのdHPG/PTX溶液又はdHPG/DTX溶液を900μlのアセトニトリル/水(60:40,v/v)で溶解し、HPLCのバイアル(Canadian Life Science,Peterborough,ON)に移した。アセトニトリル、水及びメタノールの混合物(58:37:5,v/v/v)を含有する移動相を有する対称C18カラム(Waters Nova−Pak,Milford,MA)を用い、流速1ml/minで薬物含有量の解析を行った。注入サンプルの体積は20μlであり、検出はUV検出器を用いて波長232nmで行った。
【0129】
HPG−C
8/10の水溶性は限定的であり、タキサンの薬物ローディングは少なくなった(データは示さない)。疎水性薬物のロードにとっては、dHPG類におけるアルキル(C
8/10)鎖の存在が重要であるが、それによってdHPG類の水溶性が有意に低下する。HPG類の水溶性を増大させるために、当該分子の合成時の反応終期に、MePEG 350鎖を加えた。dHPG類中のMePEG量が比較的少量増加することにより、PTX及びDTXの両方について、HPG−C
8/10−MePEG
13の薬物ロードの増加がもたらされた。HPG類中のDTXローディングは、PTXに関してよりも多かった。DTXをロードしたdHPG類は、PTX製剤よりも物理的安定性が高いことが示された。HPG−C
8/10−MePEG
13(2%,w/w)において、DTX(5%,w/w)の最大ローディングはPTXに関してよりも高かった。
【0130】
タキサンをロードしたdHPG類の物理的安定性及び化学的安定性を評価した。目視による製剤の透明性の観察によって物理的安定性を評価し、24時間未満で沈殿する場合は物理的に不安定な製剤とみなした。室温でPBS中での再水和直後(t=0)又は1、3、6、24、48及び72時間にサンプルを観察した。上記の通りのHPLC法により、PTX及びDTXの化学的安定性をモニターした。Waters TQD質量分析計を用いた質量分析法の解析によって分解産物を同定した。電子スプレーイオン源ブロックの温度150℃、脱溶媒和温度350℃、コーン電圧45kV、キャピラリー電圧0.70kV、引出電圧3kV、RF電圧0.1kV、コーンガス流25l/h、脱溶媒和ガス流600l/h及び衝突ガス流0.2ml/minでシステムを作動させた。陽イオンモードにおいて、分子を電子スプレーでイオン化した。
【0131】
透析法によりdHPG類からのPTX及びDTX放出を決定した。100mgのdHPG類(HPG−C
8/10−MePEG
6.5又はHPG−C
8/10−MePEG
13)を秤量して1mlアセトニトリル溶液中で1mgのPTX又はDTXと混合し、15uCiの
3H−DTX又は
3H−PTX(15ul)でスパイクし、窒素気流下で乾燥して溶媒を除去した。放射性薬物(
3H−DTX又は
3H−PTX)はMoravek Biochemicals及びRadiochemicals(Brea,CA)から入手した。dHPG類/タキサンマトリクスを2mlのPBSで水和し、透析バッグに移して100rpmで震盪しながら500mlの人口尿(pH4.5又は6.5)に対して透析した。透析膜管はSpectrum Laboratories (Rancho Dominguez,CA)から購入した。人口尿はBrooks et alの方法(Brooks,T.,Keevil,C.W.,1997.Lett.Appl.Microbiol.24,203−206)に従い、ぺプトン又はイーストエキストラクトを加えずに調製した。0.1M HClを用いて溶液のpHをpH4.5及び/又は(and or)6.5に調整した。種々の時点で、透析バッグの体積を測定し、透析バッグ中の残存放射活性の測定用にサンプル10μlを採取し、外部放出媒体全体を新鮮媒体と交換してシンクの状態を維持した。ベータシンチレーションカウンティング(Beckman Coulter Canada,Mississagua,ON)により、各時点において透析バッグ中に残存する
3H−DTX又は
3H−PTXの濃度を決定した。実験開始時の初期薬物量から各時点で残存する薬物の量を差し引くことにより、放出された薬物(累積)をパーセントで算出した。データは時間に応じた放出薬物のパーセンテージ(累積)として表した。データは3回の独立した実験の平均(SD)を表す。
【0132】
尿のpHは通常酸性であるが、広範囲(pH4.5〜8)にわたって変動することが知られているので、HPG−C
8/10−MePEG中にロードしたPTX及びDTXの放出プロファイルに対するpHの影響を評価した。HPG類からのタキサン類放出プロファイルの特徴は、放出が継続的に制御され、且つ放出のバースト期がほとんど無いか、又は無く、その後より緩やかな持続放出期となるということであった。DTXは、PTXよりも迅速にHPG−C
8/10−MePEGから放出され(2日後、75%対50%の薬物放出)、ほぼすべてのDTXが6〜7日で放出されるのに対して、PTXは12〜14日であった。これは、DTXの疎水性が非常に大きいためと考えられたが、更に疎水的なPTXは相容性が非常に高くて、HPGコアのアルキル鎖(C
8/C
10)との相互作用が非常に強く、薬物放出はより減速される可能性がある。HPG類におけるMePEG密度の増大によっては、薬物放出に影響が無いことを観察した(
図13A)。放出媒体のpH変化(pH4.5〜pH6.5)によっては、HPG−C
8/10−MePEGナノ粒子からの薬物放出に影響が無いことを観察した(
図13B)。様々な動態モデル(一次モデル、higuchiのモデル及びkorsmeyerのモデルを含む)を用いた、PTX及びDTXの、HPGナノ粒子からの放出プロファイルの評価により、一次及びhiguchiの動態が、両方ともr
2=0.98〜0.99で最もフィットすることが示された(データ示さず)。薬物放出速度の観点からは、製剤間で統計学的な差異は無かった(デ
ータ示さず)。
【0133】
実施例11:HPG−C
8/10−MePEG
13のローダミン標識及びローダミン標識HPG−C
8/10−MePEG
13の細胞取り込み
Huang et al.の方法(Huang,S.N.,Phelps,M.A.,Swaan,P.W.,2003.J.Pharmacol.Exp.Ther.306,681−687)に従い、わずかな変更を伴って、HPG−C
8/10−MePEG
13をテトラメチルローダミン−5−カルボニルアジド(TMRCA)で共有結合的に標識した。500mgのHPG−C
8/10−MePEG
13を5mlの無水1,4−ジオキサン中に溶解した。適量のTMRCAを無水1,4−ジオキサン中に溶解し、最終濃度を1mg/mlとした。当該蛍光プローブのアリコート675μl(おおよそ20mol%のHPGに相当)をHPG−C
8/10−MePEG
13溶液に加え、窒素気流の下5時間攪拌し、油浴中で80℃に加熱した。透析液が無色になるまで溶液をDMF(MWCO
12,000〜14,000)に対して透析し、次いで蒸留水に対して24時間透析した。蛍光標識ポリマー(HPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCA)を凍結乾燥し、アンバーバイアル中、−80℃で保存した。
【0134】
KU7細胞を、細胞数おおよそ7×10
4細胞に相当する〜75%のコンフルエンスに達するまで、10cmシャーレの底において、何枚かの1cm×1cm顕微鏡カバーガラス上で増殖させた。細胞を含有する当該カバーガラスを加温PBSで3回洗浄し、次いでパラフィンで裏打ちしたシャーレ上に細胞側を上にして静置した。250μlのHPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCA溶液(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に1mg/mlで溶解)をカバーガラスに加えた。細胞をHPG−C
8/10MePEG
13−TMRCAと1、4、8及び24時間インキュベーションした。コントロール用に、KU7細胞を何ら補充の無いDMEM中でインキュベーションした。次いで、カバーガラスをPBS緩衝液で4回激しく洗浄し、過剰PBSを穏やかにふき取り、250μlの3.7%のパラホルムアルデヒドを加え細胞を10分間固定した。カバーガラスをPBSで更に3回洗浄し、水中に浸漬した。過剰な液体を拭き取った後、細胞をDAPI(Molecular Probes,Invitrogen)を伴うProlong(登録商標)Gold退色防止剤で染色し、カバーグラスを細胞側を下にして顕微鏡スライドガラス上にマウントした。乾燥防止のため、カバーガラスのへりを透明なマニキュア液で封入した。サンプルを暗黒下一晩インキュベーションし、適切な細胞染色を確実に行った。サンプルを、DAPIフィルター(λ
ex340〜380nm;λ
em,435〜485nm;ダイクロイックスプリッター,400nm)及びローダミンフィルター(λ
ex530〜560nm;λ
em,590〜650nm;ダイクロイックスプリッター,570nm)を備えたOlympus FV−1000倒立共焦点顕微鏡下で観察した。直接コントラスト(DIC)も行って細胞膜を可視化し、405nmレーザーで励起した。標識ポリマーが細胞内側にあったことを明確に示すため、画像を蛍光及びDICで解析した。
【0135】
ローダミン標識HPG−C
8/10−MePEG
13(HPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCA)の細胞取り込みを、共焦点顕微鏡法によりKU7細胞で可視化した。1時間インキュベーション後、KU7細胞へのHPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAの取り込みが明らかとなった。1時間でのHPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAの取り込みの代表的な画像を
図14中に示す。パネルAにDAPI染色した未処理KU7細胞(核を青色(画像中は白色として示す)に可視化することを可能とする)を示す。画像は直接コントラストのシグナル(細胞の輪郭を示す)並びに核を(白色で)示す蛍光シグナル及び存在しない他の蛍光のオーバーレイである。パネルBは、HPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAナノ粒子で1時間インキュベーションしたKU7細胞を示す。核(DAPIにより青色に染色)周辺のポリマーの赤色蛍光(画像中
、赤色蛍光は白色部分として示す。画像中、核を囲む赤色蛍光は暗い部分として示す。)により、細胞質中にHPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAが存在することが示される。パネルBと同一の細胞集団のz−スタックにより(z−スタックの画像は示さず)、赤色蛍光ナノ粒子は、単に細胞膜に接着しているか、又は細胞膜中に存在しているというよりもむしろ、細胞質の至る所に存在することが証明された。いくつかの点状の構造が観察され、それはHPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAナノ粒子が細胞輸送用小胞にパッケージされたことを示すのであるが、当該ナノ粒子は、細胞質中に一様に分布するように見えた。KU7細胞の核コンパートメント中に検出されたポリマー由来の蛍光は無かった。コントロールの細胞と比較すると、全時点で、HPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAナノ粒子は、KU7細胞の生存率及び有病率に影響しない。このことは、当該細胞株と当該ナノ粒子は生体適合性が非常に高いことを示す。HPG−C
8/10−MePEG
13−TMRCAナノ粒子は、1時間のインキュベーションによりKU7細胞に取り込まれ、1、4、8又は24時間の時点で取得した画像間で全く差異は無かった。
【0136】
実施例12:HPG−C
8/10−MePEGのIn vitroでの細胞傷害性実験
上記の通り、既報のプロトコール(Kainthan RK,Mugabe C,Burt HM,Brooks DE.Biomacromolecules,9(3),886−895(2008))に従ってHPG−C
8/10−MePEGを調製した。
1H NMR (400 MHz, D
6-DMSO) δH: 0.75-0.82 (-CH
3, TMP); 0.82-0.92 (O/DGE上の-CH
3-アル
キル); 1.15-1.55 (-CH
2-, O/DGE上のアルキル); 2.50 (溶媒, D
6-DMSO); 3.15-3.80 (-CH及び-CH
2-, HPGコアから); 3.23 (-OCH
3- MePEGから), 3.32 (残存水); 4.8 (-OH).
【0137】
MePEGとHPG類上のアルキル鎖との比は、異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)NMR実験から推定した。化学シフトは残存溶媒のピークを基準にした。多角度レーザー光散乱検出によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC−MALLS)によってポリマー類の分子量及び多分散性を決定した:
分子量=83,000g/mol(1.22の多分散性)(データ示さず)。
【0138】
Malvern NanoZS Particle Size analyzerを用いて粒子サイズ解析を行った。薬物をロードしたHPG−C
8/10−MePEGにより、10nm未満(7.5±3.4〜7.8±2.7nm,データ示さず)のナノ粒子が形成された。
【0139】
PTX又はDTXをロードしたdHPG類は、4mlバイアル中1mlアセトニトリル溶液にPTX(1mg)又はDTX(0.5mg)及びHPG−C
8/10−MePEG(100mg)を溶解することによって調製し、オーブン中60℃で1時間乾燥し、窒素気流でフラッシュして微量の有機溶媒を除去した。パクリタキセル(PTX)粉末はPolymed Therapeutics,Inc.(Houston,TX)から入手した。ドセタキセル(DTX)粉末はNatural Pharmaceuticals Inc.(Beverly,MA)から入手した。結果生じるHPG−C
8/10−MePEG/タキサンマトリクスを、1mlの10mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH6)で水和し、2分間ボルテックスした。逆相HPLCにより、HPG−C
8/10−MePEG中に組み込まれたPTX及びDTXの量を決定した。溶媒蒸発法により、高い薬物ローディング(それぞれ、2及び5%w/wの最大ローディング)でPTX及びDTXをロードできる。
【0140】
市販製剤のタキソール(登録商標)及びタキソテレ(登録商標)並びにPTX及び/又はDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG製剤の、KU7−luc細胞株、並びに低悪性度(RT4,MGHU3)及び高悪性度(UMUC3)の両方のヒト尿路上
皮癌細胞株に対する細胞傷害効果を評価した。タキソール(登録商標)はBristol−Myers−Squibb(Princeton,NJ)からのものであった。タキソテレ(登録商標)はSanofi−Aventis Canada Inc.(Laval,Quebec)から購入した。ヒト膀胱癌細胞株のRT4及びUMUC3は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入した。10%の熱非働化ウシ胎児血清を含有するマッコイ培地(Invitrogen,Burlington,ON)中で細胞を維持し、加湿5%CO
2雰囲気中、37℃で保持した。MGHU3細胞はY.Fradet博士(L’Hotel−Dieu de Quebec,Quebec,Canada)から、ご好意により寄贈していただき、10%ウシ胎児血清及び2mM L−グルタミン(Invitrogen)を添加したMEM中で維持した。KU7はC.Dinney博士(MD Anderson Cancer Center,Houston,TX,USA)より提供していただき、5%ウシ胎児血清含有DMEM中で維持した。可視化目的のため、KU7細胞を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するレンチウイルス(Graig Logsdon博士(M.D.Anderson Cancer Center,Houston,TX,USA)による)に感染させ、当該サブクローンを以前報告(Hadaschik BA,Black PC,Sea JC et al.BJU
Int,100(6),1377−1384(2007))した通りKU7−lucと命名した。96−ウェルプレート中、体積100μlの10% FBSを添加したマッコイ培地中に5,000細胞/ウェルで細胞をプレーティングし、新たに調製したタキソール(登録商標);タキソテレ(登録商標);PTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG;又はDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGの溶液を加える前に、24時間平衡化させた。細胞を薬物製剤に2時間曝露し、注入療法についての現行の臨床基準を模倣して、以前報告(Hadaschik BA,ter Borg MG,Jackson J et al.BJU Int,101(11),1347−1355(2008))した通り、CellTiter96 AQueous Non−Radioactive Cell Proliferation (MTS)assay(Promega,Madison,WI)を用いて、72時間後に細胞の生存率を決定した。各実験を3回繰り返し、すべての細胞株について、MTS値が直線の吸収帯内に収まった。
【0141】
すべての製剤により、試験した細胞株すべての増殖が濃度依存的に阻害された(
図15)。群間で有意差は無かったが、DTX製剤はPTX製剤よりも細胞傷害性が強かった(P>0.05,一元配置分散分析)。タキソテレ(登録商標)のIC
50はタキソール(登録商標)のIC
50より約2〜5倍低かった。PTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子は、それぞれ市販製剤のタキソール(登録商標)及びタキソテレ(登録商標)と同様の細胞傷害性を有することがわかった(
図15)。Cremophor−EL(登録商標)及びTween 80は低濃度であっても細胞毒性を有することが示された(Iwase K,Oyama Y,Tatsuishi T et al.Toxicol Lett,154(1−2),143−148(2004);Henni−Silhadi W,Deyme M,Boissonnade MM et al.Pharm Res,24(12),2317−2326(2007))が、コントロールのHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子(薬物なし)は、15−1,500nMの濃度域にわたって細胞傷害性を示さなかった(データ示さず)。
【0142】
実施例13:同所性膀胱癌モデルにおける膀胱内PTX製剤及びDTX製剤の有効性
マウスの膀胱癌異種移植モデルにおいて、全部で60匹のヌードマウスでin vivoの実験を行い、膀胱内タキソール(登録商標)(1mg/ml,Bristol−Myers−Squibb);タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml,Sanofi−Aventis);PTX(1mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePE
G;及びDTX(0.5mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEGの有効性を評価した。当該同所性マウスモデルは、Mugabe C,Hadaschik BA,Kainthan RK et al.BJU Int,103(7),978−986(2009);Hadaschik BA,Black PC,Sea JC et al.BJU Int,100(6),1377−1384(2007);Hadaschik BA,ter Borg MG,Jackson J et al.BJU
Int,101(11),1347−1355(2008)に報告されている。動物実験はカナダ動物管理協会に従って行った。11週齢の雌性ヌードマウス(Harlan,Indianapolis,IN)をイソフルランで麻酔した。潤滑化24 G Jelco血管カテーテル(Medex Medical Ltd.,Lancashire,UK)を尿道を経て膀胱へ通す前に、6−0ポリプロピレンの巾着縫合を尿道口付近の表層に施した。PBSで膀胱を1回灌注した後、2百万のKU7−luc細胞を、50μlの単一細胞懸濁液として注入し、巾着縫合を2.5時間結紮した。in vivoの腫瘍負荷を定量するために、4、11、18、25及び33日目に150mg/kgルシフェリンを腹膜内注射し、15分後に、IVIS200イメージングシステム(Xenogen/Caliper Life Sciences,Hopkinton,MA)により動物を仰臥位でイメージングした。Living Image software (Xenogen)を用いてデータを取得し、解析した。腫瘍接種後5日目に、無作為に、マウスの膀胱を50μlのPBS(コントロール);HPG−C
8/10−MePEG(薬物無し);タキソール(登録商標)(1mg/ml);PTX(1mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG;タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml);DTX(0.5mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEGで処理した。腫瘍接種後5日目及び19日目に膀胱内治療を行った。生物発光レベルは群間で同等であった;しかし、腫瘍はマウス個体間でばらつきがあるので、統計学的解析のため、処理後の腫瘍の生物発光を、4日目の各マウスにおける初期フラックスに対して正規化した。腫瘍接種後33日目に剖検を行った。膀胱全体を取り出し、10%緩衝化ホルマリンで固定し、パラフィン中に包埋した。5μmの切片を作製し、標準法を用いてH&Eで染色した。スライドは、すべて調査し、BLISS microscope imaging workstation(Bacus Laboratories Inc.,Lombard,IL)上で走査した。KU7−luc癌細胞の膀胱内接種後、マウスはすべて膀胱腫瘍を発症した。しかし、マウス2匹が麻酔から回復せず、腫瘍接種日と同日に死亡した。タキソテレ(登録商標)群のマウス1匹が、イメージングの最終日(腫瘍接種後33日目)に死亡したことがわかった。当該マウスは以前の測定において、腫瘍が当該群中最大であった。別に、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGのマウス1匹を、不可逆的な体重減少(15%体重減少)のため、屠殺した。統計解析のために、当該マウスを実験から排除した。全体的に、膀胱内のPTX及びDTX、市販のタキソール(登録商標)及びタキソテレ(登録商標)、又はHPG−C
8/10−MePEGとも、マウスによって十分寛容され、深刻な毒性又は体重減少は観察されなかった。腫瘍接種後5日及び19日に膀胱内療法を行った。コントロールマウス(PBS及び空のHPG−C
8/10−MePEG)と比較すると、PTX及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGにより腫瘍成長が有意に阻害された(P<0.001,二元配置分散分析、ボンフェローニ事後検定)(
図16)。タキソテレ(登録商標)とは異なり、タキソール(登録商標)(1mg/ml)により、コントロール群(PBS及び空のHPG−C
8/10−MePEG)と比較して、腫瘍成長が有意に低下した(P<0.01,二元配置分散分析,ボンフェローニ事後検定)。しかし、タキソール(登録商標)及びタキソテレ(登録商標)の処理群間で有意差は観察されなかった。PTX(1mg/ml)及びDTX(0.5mg/ml)の膀胱内注入投与量は、PTXを用いた以前の報告(Mugabe C,Hadaschik BA,Kainthan RK et al.BJU Int,103(7),978−986(2009))及びDTXがPTXよりも強力であることを証明するin vitroの細胞傷害性データ(Fig.15)に基づいて選んだ。実
験の最後で、PTX及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子両方における腫瘍成長は、PBSコントロール群と比較して、それぞれ87%及び97%阻害された。タキソテレ(登録商標)及びタキソール(登録商標)により、それぞれ43%及び65%の腫瘍成長阻害が示された。各処理群における、マウスの代表的な生物発光の画像を経時的に
図17中に示す。膀胱組織の組織学的な検証により、KU7−lucの腫瘍は悪性の成長パターン及び高頻度の多病巣性を示したが、腫瘍接種から33日後には、当該処理群における腫瘍の大半が、大抵は固有層に限局し、且つ高悪性度のpT1ステージの疾患と相関したことが示される(
図18)。
【0143】
HPG類のほんの数ナノメートルサイズ域により、当該ナノ粒子の、癌組織を含む膀胱壁へのエンドサイトーシス亢進をもたらす、ムチン鎖間の透過及び尿路上皮のアンブレラ細胞との接触が可能になり得ると考察された。HPG類表面のMePEG鎖は、糖タンパク質ムチンと、鎖の絡み合いを通して相互作用し得、このことにより、当該ナノ粒子がムチン層中に封入されることになって、薬物をロードしたナノ粒子が、膀胱中に滞留する時間の延長がもたらされる可能性もある。PTX及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子は、市販製剤のタキソール(登録商標)又はタキソテレ(登録商標)よりも2〜3倍高い膀胱組織への蓄積を示したことを表7に示す。
【0144】
実施例14:薬物動態
膀胱内のPTX製剤及びDTX製剤の薬物動態特性を評価するため、マウスにタキソール(登録商標)(1mg/ml,n=3);タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml,n=4);PTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG(1mg/ml,n=4);及び/又はDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG(0.5mg/ml,n=4)のいずれかを注入した。膀胱内注入後0、30及び60分で尾部血液サンプルを採取した。当該時間、マウスは依然、イソフルランで麻酔していた。2時間後、CO
2を用いてマウスを窒息させて殺し、心穿刺により血液を更に除去した。血液サンプルをmicro−haematocrit tubes(Fisher Scientific,Pittsburg,PA)中又はserum−separator tubes(Becton Dicknson)中で遠心し、血清を液体窒素中でさっと凍結した。各マウスの尿及び膀胱も回収し、膀胱は、凍結前に切開して内腔を露出させ、10mlPBSで5回連続で激しく洗浄した。サンプルはすべて−80℃で保存した。解析に用いたUPLC−MS/MSシステムは、Waters TQD質量分析計を用いた質量分析と共役した、統合化Waters Acquity UPLC分離システムで構成した。電子スプレーイオン源ブロックの温度150℃、脱溶媒和温度350℃、コーン電圧14V、キャピラリー電圧0.70kV、引出電圧3kV、RF電圧0.1kV、コーンガス流25l/h、脱溶媒和ガス流600l/h及び衝突ガス流0.2ml/minでシステムを作動させた。陽イオンモードにおいて、分子を電子スプレーでイオン化した。溶媒/溶媒抽出法によって、マウス血清からDTXを抽出した。96−ウェルプレートにおいて、マウス血漿及び標準液の50μlアリコートをアセトニトリル中の0.1%ギ酸150μlと混合し、室温で1分間ボルテックスした。サンプルを4℃、10分間、5,500rpmで遠心した(Allegra(商標)25 R centrifuge,Beckman−Coulter)。次いで上清100μlと蒸留水50μlとを混合し、混合して30秒間ボルテックスした。膀胱組織を計量し、ジルコニアビーズ(Biospec Products)及びミクロバイアルホルダーを備えたmini−bead beater(Biospec Products)を用いて0.1%ギ酸/メタノール中で60秒間ホモジェナイズした。サンプルを4℃で2分間、14,000rpmで遠心した(Allegra(商標)25 R centrifuge, Beckman−Coulter)。メタノール中0.1%トリフルオロ酢酸150μlをサンプルに加え、混合及び4℃で15分間、14,000rpmでボルテックスした(Allegra(商標)25 R
centrifuge,Beckman−Coulter)。サンプルの解析は、すべ
てUPLC−MS/MSを用いて行った。スパイクしたコントロールサンプルからの回収率は97%で、DTXの検出限界は10ng/mlであった。
【0145】
いくつかの血清サンプルでは定量不能か、又は検出不能なレベルであった。一般的に、膀胱内注入後のPTX及びDTXの血清中レベルは、両方低かった(5〜20ng/ml)。異群間及び/又は異なる時点の間で、血清レベルには有意差が無かった(P>0.05)(表7)。しかし、膀胱組織中のレベルは血清中レベルよりも約100〜500倍高かった。PTX及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子により、市販の製剤よりも2〜3倍高い膀胱組織蓄積が示されたが、その差は統計的に有意では無かった(P>0.05,一元配置分散分析,ボンフェローニの多重比較検定)。尿中の最終薬物濃度は初期の投与溶液よりも約3〜5倍低かった。これは、2時間の膀胱内注入の間の尿希釈に起因した。しかし、PTX及びDTXの尿中最終濃度において、異なる処理群間で有意差は無かった(P>0.05,一元配置分散分析)。一般的に、膀胱内注入後のPTX及びDTXの血清中レベルは、両方低かった(5〜20ng/ml)。異群間及び/又は異なる時点の間で、血清中レベルには有意差(P>0.05)が無かった(表7)。
【0146】
【表7】
【0147】
実施例15:HPG−C
8/10−MePEG及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2の合成
実施例7に記載したプロトコールに従ってHPG−C
8/10−MePEGを合成した。
1H NMR (400 MHz, D
6-DMSO) δH: 0.75-0.82 (-CH
3, TMP); 0.82-0.92 (O/DGE上の-CH
3-アルキル); 1.15-1.55 (-CH
2-, O/DGE上のアルキル); 2.50 (溶媒, D
6-DMSO); 3.15-3.80 (-CH及び-CH
2-, HPGコアから); 3.23 (-OCH
3- MePEGから), 3.32 (残存水); 4.8 (-OH). HPG-C
8/10-MePEG-NH
2(以下の手順を用いて、様々な目標量でアミン置換を行いHPG
−C
8/10−MePEG−NH
2を合成した。)使用した試薬の量を表8中に集約する。目標のアミン置換は、HPG1モル当たりのNH
2の目標モル数を表し、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(X)(式中、xはHPG1モル当たりのNH
261、12
1及び161モルである)により表示する。15mlの無水1,4−ジオキサン中にHPG−C
8/10−MePEGを溶解した。水素化カリウム(KH)を無水へキサンで3回リンスし、ミネラルオイルを除去して真空下乾燥した。ポリマー溶液をKHと混合し、透明な溶液が形成されるまで室温で攪拌した。一晩攪拌(Na
2SO
4又はMgSO
4)しながらジクロロメタン中に溶解することにより、N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド)(EPP)(Sigma−Aldrich)を乾燥した。溶液を濾過し、真空の下乾燥してジクロロメタンを除去した。乾燥したEPPを無水1,4−ジオキサン中に溶解し、約85〜90℃で一晩攪拌しながらポリマーに加えた。陽イオン樹脂交換カラム(Amberlite IRC−150)に3回通すことにより生成物を中和し、次いでエーテルから3回沈殿させて未反応のEPPを除去した。ヒドラジン一水和物によるヒドラジン分解により、フタルイミド官能基の開裂を達成した。ポリマーのメタノール溶液に過剰のヒドラジン一水和物溶液(2mL)を加え、混合物を72時間還流した。還流後、メタノールを蒸発させ、10,000 MWCO膜を用いて、ポリマーを水に対して48時間透析し、凍結乾燥した。
1H NMR (400 MHz, D
6-DMSO) δH: 0.75-0.82 (-CH
3, TMP); 0.82-0.92 (O/DGE上の-CH
3-アルキル); 1.15-1.55 (-CH
2-, O/DGE 上のアルキル); 2.50 (溶媒, D
6-DMSO); 2.60-2.80 (-CH
2-NH
2) 3.15-3.80 (-CH及び-CH
2-, HPG コアから); 3.23 (-OCH
3- MePEGから)。HPG−C
8/10−MePEG−NH
2製造のための、N−
(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド)(EPP)による、HPG−C
8/10−MePEGポリマー上のいくつかのヒドロキシル基(10〜20%)の表面修飾と、続くヒドラジン分解による、フタルイミド官能基の開裂用の反応スキームをスキームVII中に要約する(R,アルキル(C
8/C
10)鎖の混合物ベースの疎水性コアを表す。()7,MePEG 350ベースの親水性シェルを表す。)。
【0148】
【化8】
【0149】
薬物ローディング及び動物実験における更なる評価のために、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)を選択した。
【0150】
NMR及びGPC
MePEGとHPG類上のアルキル鎖との比は、重水素化溶媒(Cambridge Isotope Laboratories,99.8%D)を用いて、Bruker Avance 400MHz NMR 質量分析計(磁場強度9.4T)に記録した異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)NMR実験から推定した。多角度レーザー光散乱検出によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC−MALLS)によってポリマー類の分子量及び多分散性を決定した。
【0151】
図19AにHPG−C
8/10−MePEGの代表的な2D HSQCスペクトルを示す。N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド)によるHPG−C
8/10−MePEGの表面修飾は、2D HSQC実験によって確認し、芳香族のフタルイミドCH基を同定した(
1H化学シフト7.2〜7.8ppm及び
13C化学シフト125〜135ppm)。遊離アミン基を生成するための、ヒドラジン分解による、フタルイミド基開裂の成功を1D NMR実験及び2D HSQC実験の両方でモニターした。一級アミン基(2.60〜2.80ppm及び
13C化学シフト45ppm,
図19B)を生成するためのフタルイミド保護基開裂の成功を示す、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)の代表的な2D HSQCスペクトルを
図19Bに示す。HSQC NMRのデータにより、スペクトルにおいて分岐構造は明らかであり(
図19)、超分岐ポリマー類としてのdHPG類の構造が確認された。C
8/10アルキル鎖とdHPG類上のMePEGとのモル比は、HSQC実験におけるシグナルの積分から算出し得る。MePEGのメトキシ基及びオクチル/デシルグリシジルエーテル(O/DGE)のメチル基の積分とTMPのCH
3基の積分とを比較することにより、各dHPGポリマーについてMePEG及びO/DGE(mol/mol)の比を算出した(表10)。
【0152】
電気伝導度滴定及びフルオレスカミンアッセイ
HPG−C
8/10−MePEGポリマー類上で誘導体化されたアミン基のモル比を、HCl及びNaOHを用いて電気伝導度滴定により測定した。電気伝導度滴定は、YSI
model 35コンダクタンスメーター及び白金電極を備えた3403セルで、25℃で行った。シリンジポンプ(Harvard Instruments)を用いて、一定流速0.0102ml/minで希釈NaOH溶液を注入した。典型的な滴定に関しては、おおよそ10mgのHPG−C
8/10−MePEG−NH
2を蒸留水中に溶解し、まず0.05N HClで滴定し、続けて0.05N NaOHで逆滴定した。30秒ごとに溶液の電気伝導度を測定した。水酸化ナトリウム溶液の標準化用にフタル酸水素カリウム溶液(0.05N)を用いた。電気伝導度滴定及び分子量測定に基づいて、HPG1分子当たりのアミン基のモル数を算出した。得られた値は50〜119mol/molの範囲であり、HPG−C
8/10−MePEG−NH
21モル当たりのNH
2の目標モル比と一致していた(表8及び10)
。
【0153】
【表8】
【0154】
HPG1分子当たりのアミン基のモル数も、蛍光測定及び重量測定を用いて算出され得る。例えば、NH
2についての蛍光アッセイが用いられ得る(表9)。>5mgのHPG−NH
2を2mLのLC/MSガラスバイアル中に測り取り、適量の脱イオン化H
2Oを加えて濃縮ストックを作製することによりHPG−NH
2のサンプルを調製し、次いで混合物を、HPG−NH
2が溶解するまでソニケーションした。ストック溶液を、脱イオン化H
2Oで1mgのHPG−NH
2当たり1mg/mLに希釈した。
【0155】
おおよそ1mgのフェニルアラニンを、アルミ製のマイクロ秤量皿に計り取って20mLガラスバイアルに移し、次いで1mgのフェニルアラニン当たり5mLの脱イオン化H
2Oを加え、混合物を、フェニルアラニンが溶解するまでソニケーションした(0.2mg
/mLフェニルアラニンストック)。60μLの0.2mg/mLフェニルアラニンストックをガラスのLC/MSバイアルに移した。90μL(90°μL)の脱イオン化H
2Oを加え、ボルテックスして溶液を混合した(80ng/mLフェニルアラニン作業標準液)。
【0156】
40μLの1mg/mL HPG−NH
2ストックを96−ウェルプレートに移し、10μL(10°μL)の脱イオン化H
2Oを加え(或いは、50μL(50°μL)、40μL、30μL(30°μL)、20μL(20°μL)、10μL(10°μL)又は0μL(0°μL)の80ng/mLフェニルアラニン作業標準液を加え、必要な場合は脱イオン化H
2Oをつぎ足して50μL(50°μL)にし);サンプルをピペッティングして混合した。ウェルに12.5μLのホウ酸ナトリウム緩衝液を加え、ピペッティングして混合した。ピペットのチップを0.03%フルオレスカミン溶液で2回リンスし、チップをコーティングして水漏れを防止した。12.5μLの0.03%フルオレスカミン溶液をサンプルのウェルに加えた。サンプルをピペッティングして混合し、次いでプレート震盪器上に置き、覆いをして1分間震盪した。175μLの脱イオン化H
2Oを加え、過剰のフルオレスカミンを反応させてピペッティングして混合し、短時間プレート震盪器上に置いた。サンプルを蛍光プレートリーダー(励起波長390nm、蛍光波長47
5nm並びに励起波長及び蛍光波長の両方についての5nmのバンド幅)によって解析した。
【0157】
【表9】
【0158】
熱解析
DSC及びTGAを用いてdHPG類の熱特性及び分解特性を評価した。TA Instruments DSC Q100及びTGA Q50を用いて熱解析を行った。密封したアルミニウム製パン中、秤量したサンプルを、温度範囲−90℃〜85℃にわたる、10℃/分での「加熱−冷却−加熱」の循環でサイクルにかけることによりDSCのランを取得した。分解過程において、各期の重量減少を等温状態下で観察し、主に、HPG類を500℃で、重量減少100%近くまで熱を通す「段階的等温」モードで、TGAのランを行った。HPG−C
8/10−MePEGサンプル及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2サンプルの熱的なイベントを表10示す。HPG−C
8/10−MePEGサンプル及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2サンプルは同様のDSC/TGAプロファイルを示した。HPG類は、−45〜−58℃のガラス転移温度を示した。アミン基の存在により、HPG類のTgが少し上昇した。主な分解的イベントは300℃を超える温度で観察されたが、このことはHPG類の良好な熱安定特性を示す。おそらくは、HPG類中のいくらかの残存溶媒又は残存水に起因して、100℃以下の温度でおおよそ3〜5%の重量喪失が生じた。想定される熱滅菌法の使用を可能とするために、医薬への適用にとっては、HPG類の良好な熱安定性は望ましい。
【0159】
粒子サイズ決定及びゼータ電位
粒子サイズ及びゼータ電位の解析は、各解析についてDTS0012 disposable sizing cuvetteを用いたMalvern NanoZS Particle Size analyzerを用いて行った。サンプルを0.2μmのインラインシリンジフィルター(PALL Acrodisc 13mm(ナイロン膜付))で濾過した。サンプルの取得パラメータは:角度173°の後方散乱(自動減衰);ラン回数11(10秒/ラン);分散剤は25℃の水(粘度0.8872cP及びRI 1.330);Mark−HouwinkパラメータはA=0.428及びK=7.67e
−
05(cm
2/s)。HPG類の屈折率は、ポリエチレングリコールの屈折率(RI=1.460及び吸収0.01)と同様であると仮定した。最終データはすべてのランの平均を表す。HPG類は、<10nmの流体力学半径を有する小さなナノ粒子である。HPG類は、10nm未満の極端に小さなナノ粒子を形成する。HPG類の粒子サイズ及びゼータ電位の特徴を表10に示す。アミン基でのHPG−C
8/10−MePEG表面の誘導体化によっては、粒子サイズは影響されなかったが、ゼータ電位に対しては、有意な影響を観察した。アミンが末端にくるHPGポリマー類のゼータ電位は、低pHで正に高く、塩基性条件においてはやや負の値に変化した。表面電荷における、pH滴定可能な当該変化は、アミン基のプロトン化/脱プロトン化から生じる。生理学的なpH7.4では、HPG類のいくらかのアミン基がイオン化し、従って正のゼータ電位が予想される(表10)。しかし、8を上回るpH値では実質的にすべてのアミン基が帯電しておらず、従ってpH11ではわずかに負の電荷観察される(おそらく、当該HPG類上に存在する、陰性物質のヒドロキシル基に起因した)。HPG類の薬物ローディングによっては、その粒子サイズは有意に影響されず、HPG類は溶液中で単分子ミセルとして十分に分散したままであった。DTXをロードしたHPG類のナノ粒子は物理的に安定であり、室温で1週間の保存中には薬物沈殿又は凝集を観察しなかった。
【0160】
【表10】
【0161】
実施例16:粘膜付着特性の評価
HPG類の粘膜付着特性を評価するため、Thongborisute and Takeuchiによって開発されたムチン粒子法(Thongborisute,J.;Takeuchi,H.Int.J.Pharm.2008,354,204−209)を用いた。当該方法は、サブミクロンサイズのムチンが粘着性ポリマーとムチンとの相互作用の結果として凝集することに起因する、粒子サイズ変化に基づく。サブミクロンサイズのムチンの溶液を、等体積の100mM酢酸緩衝液中HPG類(10%w/v)と混合し、ボルテックスし、37℃で30分間インキュベーションした。3000 HS Zetasizer (Malvern Instruments,San Bernardino,CA)を用いて、光散乱測定により粒子サイズ変化をモニターした。各試験はトリプリケートで実施し、陽性コントロールとしてキトサン溶液(1%w/v)を用いた。ム
チンの粒子サイズは、キトサン溶液(1%w/v)又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)溶液(10%w/v)のいずれかとのインキュベーション後、有意に増大した(
図20)。HPG−C
8/10−MePEG(10%w/v)によっては、ムチン粒子のサイズは影響されなかった。サブミクロンサイズのムチン粒子サイズの増大は、ムチン粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ナノ粒子の凝集に起因していて、ムチンと、アミンで置換したHPG類との粘膜付着力が原因であった。広く知られている粘膜付着ポリマーのキトサンを陽性コントロールとして用いた。しかし、高分子量と水溶液における低溶解度のために、キトサンの希釈液(1%w/v)を用いた。当該希釈液ですら、共インキュベーション後に、ムチン粒子サイズの有意な変化を示した。キトサン及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2の両方の粘膜付着性は、正に帯電したアミン基と、負に帯電したムチン粒子との静電相互作用に起因するが、水素結合、疎水性効果及び鎖の絡み合い等の他の寄与もまた、影響をもたらし得ると考えられている。しかし、HPG−C
8/10−MePEGの粘膜付着性の欠如からみて、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2の粘膜付着特性には、主に静電引力が寄与するらしいことが示唆される。
【0162】
実施例17:細胞増殖/結合実験及び取り込み実験
細胞増殖
96−ウェルプレート中、10% FBSを添加した体積100μlのマッコイ培地に5,000細胞/ウェルでKU7−luc細胞をプレーティングし、新たに調製したHPG−C
8/10−MePEG及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(PBS,pH7.4に溶解,0〜150μg/ml)溶液を加える前に、24時間平衡化させた。細胞をHPG溶液に2時間曝露し、以前記載(Mugabe,C.;Hadaschik,B.A.;Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.;So,A.I.;Gleave,M.E.;Burt,H.M.BJU Int.2009,103,978−986)した通り、CellTiter96 AQueous Non−Radioactive Cell Proliferation assay(Promega,Madison,WI)を用いて、72時間後に細胞の生存率を決定した。
【0163】
HPG類のローダミン標識
HPG−C
8/10−MePEGポリマー類及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)ポリマー類を、以前報告(Savic,R.;Luo,L.;Eisenberg,A.;Maysinger,D.Science 2003,300,615−618)した通り、テトラメチル−ローダミン−カルボニル−アジド(TMRCA)で共有結合的に標識した。テトラメチル−ローダミン−カルボニル−アジド(TMRCA)は、Invitrogen Canada Inc.(Burlington,ON)から購入した。簡単に述べると、500mgのHPG類(HPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121))を5mlの無水1,4−ジオキサン中に溶解した。適量のテトラメチルローダミン−5−カルボニル−アジド(TMRCA,MW 455.47)を2mlの無水1,4−ジオキサン中に溶解し、最終濃度を1mg/mlとした。当該蛍光プローブのアリコート675μl(おおよそ20mol%のHPG類に相当)をHPG類溶液に加え、窒素気流の下5時間攪拌し、油浴中で80℃に加熱した。透析液が無色になるまで、DMF(MWCO 12,000〜14,000)に対して透析し、次いで蒸留水に対して24時間透析することにより、未反応プローブを除去した。蛍光標識ポリマー類(HPG類−TMRCA)を凍結乾燥し、アンバーバイアル中、−80℃で保存した。
【0164】
細胞結合及び取り込み
KU7−luc細胞を用いて、ローダミン標識HPG類の結合及び取り込みを評価した。96−ウェルプレート中、10% FBSを添加した体積100μlのマッコイ培地に
10,000細胞/ウェルで細胞をプレーティングし、24時間平衡化させた。培地を除去し、細胞をローダミン標識HPG類(HPG−C
8/10−MePEG−TMRCA又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCA,1.56〜200μg/ml)と2時間インキュベーションした。インキュベーション時間に続いて細胞をPBSで3回洗浄し、200μlの0.5%Triton X−100(PBS中pH8)で溶解して細胞の蛍光結合量を蛍光分光光度計(Synergy 4.0)により、545/578の励起/蛍光で測定した。Triton X−100及びPBS(pH8)中のローダミン標識HPG類(0.781〜6.25μg/ml)から標準液を調製した。細胞に取り込まれたか、又は表面に結合したローダミン標識HPG類量を、各ウェルに加えたポリマー全量のパーセンテージとして表した。
【0165】
細胞取り込みの共焦点蛍光解析
KU7−luc細胞を、細胞数7×10
4細胞に相当する〜75%のコンフルエンスに達するまで細胞増殖させ続けるために、10cmシャーレ中、シャーレの底において、1cm×1cmカバーガラス上で増殖させた。次いで、細胞を含有するカバーガラスを取り出し、加温PBSで3回洗浄した。次いで、カバーガラスを、パラフィルムで裏打ちしたシャーレ中に細胞側を上にして、取り込みアッセイの継続時間中静置した。ローダミン標識HPGポリマー類(250μlのHPG−C
8/10−MePEG−TMRCA又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCA)を、1mg/mlの濃度でカバーガラス上の細胞に加えた。細胞を1、4、8及び24時間インキュベーションした。各時点の後、カバーガラスをPBS中で4回激しく洗浄した。過剰PBSを穏やかにふき取った後、250μlの3.7%のパラホルムアルデヒドを用い、細胞を室温で10分間固定した。次いで、カバーガラスをPBS中で更に3回洗浄し、水中に浸漬し、過剰な液体をふき取り、最後に細胞側を下にしてスライドガラス上に4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を伴うProlong goldと共にマウントした。サンプルの乾燥を停止するため、透明なマニキュア液を慎重にカバーガラスのへり周辺に用いた。1晩のインキュベーションによりサンプルの適切な硬化を確実にし、次いでイメージングの準備が整った。Olympus FV−1000倒立共焦点顕微鏡で顕微鏡実験を行った。用いたレーザー波長は、ローダミン及びDAPIのイメージングについて、それぞれ568nm及び405nmであった。直接コントラスト(DIC)も行って細胞膜を可視化し、その上で405nmレーザーで励起した。一貫した比較を可能にするため、各ポリマー群内で、レーザー出力及び高電圧利得を比較的一定に保持した。標識ポリマーが細胞内側にあることを明確に示すため、画像を蛍光及びDICで解析した。
【0166】
細胞増殖/結合及び取り込み実験
HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子は、低濃度で大々的にKU7−luc細胞に結合し、内在化されたが、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子に関しては、12.5μg/ml以下の濃度では、細胞結合又は細胞取り込みの証拠は観察されなかった(
図21A)。当該ポリマーの強力な結合プロファイルは、おそらくは正に帯電したHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)ポリマーと負に帯電したKU7−luc細胞膜との静電引力に起因する。しかし、HPG類濃度が上昇するにつれ、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子の細胞への結合及び細胞取り込みは(25μg/mlで)飽和点に達した。その一方、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子のKU7−lucへの細胞結合及び細胞取り込みは、濃度12.5μg/ml及び50μg/mlの間で観察された直線的関係を伴って濃度依存的であり、続いてポリマー濃度がより高くなると結合及び取り込みがあまり顕著でなくなることがわかった(
図21A)。飽和したHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子の挙動が、その細胞傷害効果に起因したか否かを評価するために、発明者らは、KU7−luc細胞の増殖に対するHPGの影響を評価した。細胞を、空の(薬物をロードしていない)HPG−C
8/1
0−MePEGナノ粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ナノ粒子(0〜150μg/ml)に2時間曝露し、MTSアッセイにより細胞生存率を決定した。HPG−C
8/10−MePEGナノ粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ナノ粒子は、共に増殖に同様の影響を示し、試験した濃度ではKU7−luc細胞株に生体適合性があった(
図21B)。従って、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子について観察された、細胞結合及び取り込みの差異は、KU7−luc細胞株に対するそれらの細胞傷害効果には起因しないようである。
【0167】
ローダミン標識HPG類内在化の共焦点蛍光解析
共焦点顕微鏡を用い、細胞によりナノ粒子が内在化されたのか、又は単にKU7−lucの細胞膜に結合しただけなのかどうかをモニターした。HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子は、両方とも迅速にKU7−luc細胞によって内在化され、1時間のインキュベーションで完全な取り込みが達成された(データ示さず)。蛍光解析により、細胞質中のローダミン標識HPG類の存在を観察した。HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子は、細胞質の至る所に存在することが観察され、単に細胞膜に接着しているか、又は細胞膜中に存在しているのとは対照的だった。KU7−luc細胞の核コンパートメント中に検出されたポリマー類由来の蛍光は無かった。核コンパートメント中にHPGナノ粒子が無いことは、比較的大きなその分子量(<80kDa)に起因している可能性がある。全時点で、コントロールの細胞と比較すると、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)−TMRCAナノ粒子は、KU7−luc細胞の生存率及び有病率に影響しない。全体として、ローダミン標識HPGナノ粒子は、1時間のインキュベーションによりKU7−luc細胞に取り込まれ、1、4、8又は24時間の時点で取得した画像間で全く差異は無かった。
【0168】
実施例18:HPG類におけるDTXのローディング及び定量並びにHPG類からのDTX放出
HPG類におけるDTXのローディング及び定量
薬物及びポリマーを共通の有機溶媒中に溶解し、溶媒を除去する溶媒蒸発法により、DTXをHPG−C
8/10−MePEG及びHPG−C
8/10−MePEGNH
2(121)にロードした。結果生じるポリマー/薬物マトリクスを、10mM PBS(pH7.4)で再構成した。結果生じる溶液は一般的に透明であったが、白色粒子が観察された場合は、溶液を遠心(18000g、10分間)し、上清を新たな容器に移した。
【0169】
HPG類に組み込まれたDTX量は逆相HPLCにより決定した。アセトニトリル、水及びメタノールの混合物(58:37:5,v/v/v)を含有する移動相を有する対称C18カラム(Waters Nova−Pak,Milford,MA)を用い、流速1ml/minで薬物含有量の分析を行った。注入サンプルの体積は20μlであり、検出はUV検出器を用いて波長232nmで行った。全ラン時間を5分に設定した。DTXの保持時間は2.9分であった。最大で、HPG1分子当たり約5〜6のDTX分子に相当する5%(w/w)の薬物ロードが当該方法により達成された。DTXの水溶解度は7μg/ml程度であるが(Du,W.;Hong,L.;Yao,T.;Yang,X.;He,Q.;Yang,B.;Hu,Y.Bioorg.Med.Chem.2007,15,6323−6330;Liggins,R.T.;Hunter,W.L.;Burt,H.M.J.Pharm.Sci.1997,86,1458−1463)、DTXのHPG類への組み込みにより、当該薬物の水への溶解度がおおよそ1,000倍増加した。
【0170】
HPG類からのDTX放出
透析法により、HPGナノ粒子(HPG−C
8/10−MePEG及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121))からのDTX放出を決定した。簡単に述べると、100mgのHPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)を秤量して1mlアセトニトリル溶液中で1mgのDTXと混合し、15μCiの
3H−DTXでスパイクし、次いで窒素気流下で乾燥して溶媒を除去した。HPG/DTXマトリクスを2mlのPBSで水和し、透析バッグに移して100rpmで震盪しながら500mlの人口尿(pH6.5)に対して透析した。0.1M HClを用いて溶液のpHを6.5に調整した。ヒト尿の生理学的pHの範囲は、広範囲にわたってばらつき得る(pH4.5〜pH8)が、中央値は6.5なので、それを選択した(Brooks,T.;Keevil,C.W.Lett.Appl.Microbiol.1997,24,203−206.)。種々の時点で、透析バッグの体積を測定し、透析バッグ中の残存放射活性の測定用にサンプル10μlを採取し、外部放出媒体全体を新鮮媒体と交換してシンクの状態を維持した。ベータシンチレーションカウンティング(Beckman Coulter Canada,Mississagua,ON)により、各時点において透析バッグ中に残存する
3H−DTXの濃度を決定した。実験開始時の初期薬物量から各時点で残存する薬物の量を差し引くことにより、放出された薬物(累積)のパーセントを算出した。データは時間に応じた放出薬物(累積)のパーセンテージとして表した。HPG類からのDTX放出プロファイルでは、放出のバースト期がほぼ無いか、又は全く無い、継続的な放出制御が特徴であった(
図22)。おおよそ55%の初期封入薬物が、インキュベーションの最初の24時間以内に放出された。HPG類表面上でのアミン基の存在によっては、薬物放出は影響されなかった(
図22)。
【0171】
実施例19:同所性膀胱癌モデルにおける膀胱内DTX製剤の評価
同所性膀胱異種移植片を有するマウスにおいて、膀胱内の、DTXをロードしたHPG製剤の寛容度及び有効性を評価した。用いた同所性マウスモデルは、Mugabe,C.;Hadaschik,B.A.;Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.;So,A.I.;Gleave,M.E.;Burt,H.M.BJU Int.2009,103,978−986;Hadaschik,B.A.;Black,P.C.;Sea,J.C.;Metwalli,A.R.;Fazli,L.;Dinney,C.P.;Gleave,M.E.;So,A.I.BJU Int 2007,100,1377−1384;Hadaschik,B.A.;ter Borg,M.G.;Jackson,J.;Sowery,R.D.;So,A.I.;Burt,H.M.;Gleave,M.E.BJU Int.2008,101,1347−1355に報告されている。動物実験は、すべてカナダ動物管理協会に従って行われて、動物管理プロトコールは、本発明者らの研究所(The University of British Columbia)の動物管理委員会に承認されている。当該モデルにおいては、ルシフェラーゼを発現するKU7−luc癌細胞を用いた。腫瘍接種用に、8週齢の雌性ヌードマウス(Harlan,Indianapolis,IN)をイソフルランで麻酔した。潤滑化24 G Jelco血管カテーテル(Medex Medical Ltd.,Lancashire,UK)を尿道を経て膀胱へ通す前に、巾着縫合を尿道口付近の表層に施した。100μl PBSで膀胱を1回灌注した後、2百万のKU7−luc細胞を、50μlの単一細胞懸濁液として注入し、巾着縫合を2.5時間結紮した。その間、マウスの麻酔を維持した。縫合糸を除去した後、マウスをケージ中に留置し、意識を取り戻して通常に排尿するまでモニターした。腫瘍接種後5日目に、以下の処理群:PBS(コントロール);タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml及び1.0mg/ml、Tween 80中DTX);HPG−C
8/10−MePEG中DTX(0.5mg/ml及び1.0mg/ml);HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)中DTX(1.0mg/ml)に従って、マウス26匹を無作為に膀胱内注入処理(50
μl及び滞留時間2時間)した。処理日にマウスを数時間モニターし、その後は日ごとにモニターした。毒性のいかなる兆候(特に、体重減少、食物及び水の摂取における変化、不活発状態、猫背の姿勢及び/又はストレスの巨視的兆候)も記録した。24時間以内に回復しなかった疼痛又は疾病の徴候を示したマウスは屠殺した。IVIS 200イメージングシステム(Xenogen Corp.,Alameda,CA)によるマウスの非侵襲的なイメージングによって、2、8、12及び19日目に腫瘍負荷をモニターした。簡単に述べると、150mg/kgのルシフェリンをマウスに腹膜内注射し、イソフルランで麻酔し、ルシフェリン注射後ちょうど15分で背臥位をイメージングした。Living Imageソフトウェア バージョン2.50(Xenogen)を用いてデータを取得し解析した。
【0172】
腫瘍接種後2日目には、すべてのマウスに膀胱腫瘍が発症したが、生物発光イメージングにより証明された通り、2匹のマウスには腎臓腫瘍も発症した(
図23A)。全体として、市販のタキソテレ(登録商標)製剤又はHPG類製剤のいずれかによる膀胱内DTXは、マウスにより十分に寛容された。深刻な毒性は観察されず、マウスは、すべて実験期間の終わりまで生存した。しかし、腫瘍接種後8日目に、何匹かのマウスが体重を約5%減少させたが、その後の週に回復した。体重減少は膀胱治療の、及び/又は治療後の日々の食料摂取及び水摂取が非常に少ないことの結果であり得る。しかし、体重減少には、異群間で有意差(p>0.05)が無かった。
【0173】
0.5及び1.0mg/mlを投与量に選択し、膀胱癌異種移植片を有するマウスにおいて、適切な膀胱内DTXの投薬計画を確立した。1.0mg/ml タキソテレ(登録商標)、0.5mg/mlのHPG−C
8/10−MePEG中DTX、1mg/mlのHPG−C
8/10−MePEG及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)のいずれかの1回投与で処理したマウスでは、腫瘍成長が強力に阻害された。腫瘍接種後19日目には、タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml)処理群を除くすべての処理群で、PBSのコントロールに比較して統計的に有意な腫瘍抑制(p<0.001,二元配置分散分析後、事後ボンフェローニ解析)が示された。すべての処理群で、タキソテレ(登録商標)(0.5mg/ml)処理群に比較して、統計的有意差があった(
図23B,p<0.05,二元配置分散分析後、事後ボンフェローニ解析)。
【0174】
当該ナノ粒子の粘膜付着特性により、おそらくは、密着結合の変化又は尿路上皮の落屑に起因する、膀胱壁への薬物透過性亢進及び取り込み亢進をもたらす尿路上皮との密接な接触が増加すると考えられる。それらの非常に小さなサイズ(Rh<10nm)のために、HPG類はムチン糖タンパク質を通して拡散し、膀胱壁又は腫瘍組織への、当該ナノ粒子のエンドサイトーシス亢進をもたらす、尿路上皮のアンブレラ細胞と直接相互作用すると思われる。
【0175】
低めのHPG類中DTX注入投与量の有効性を評価するため、別の実験を行った。当該実験のため、19日目に、IVIS 200イメージングシステムによって決定された、見かけ上膀胱癌を有しないか、又は低レベルの生物発光を伴うマウスを用いた。全体で、12匹のマウスが、別の上記腫瘍再接種に好適なことがわかった。以前の実験の100%と比較して、腫瘍取り込みは約75%であり、マウスに以前に同一細胞株を接種しているため、免疫応答に起因していると思われた(使用したのは無胸腺の免疫不全マウスであるが、当該マウスは依然、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞が特徴的である固有の局所免疫システムを有する)。再接種後膀胱腫瘍を発達させたマウス9匹から、2匹のマウスが更により大きい膀胱腫瘍(10〜100倍)を発達させた。腫瘍再接種後5日目に、膀胱腫瘍を発達させたマウスを無作為に2群に分け、DTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG(n=5)又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)(n=4)50μlを膀胱内に1回受容させた。腫瘍再接種後5、
11及び19日目に、マウスをイメージングした。膀胱内の、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)により、マウス腫瘍の成長は阻害されたが、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGでは、同じ濃度でそうはならなかった。腫瘍再接種後11及び19日目で、4匹のうち3匹のマウスには、DTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(121)ナノ粒子による1回の膀胱内処理の後、腫瘍成長の証拠は示されなかったが、DTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子で処理された5匹のうちの4匹のマウスには、膀胱腫瘍成長の証拠が示され、1匹のマウスには、更に腎臓腫瘍が発症していた(
図24)。再度述べるが、当該製剤はマウスに十分寛容され、これらの実験の間、深刻な毒性又は体重減少は生じなかった。
【0176】
実施例20:in vitroの細胞傷害性実験
KU7−luc細胞株、並びに低悪性度(RT4,MGHU3)及び抗悪性度(UMUC3)の両方のヒト尿路上皮癌細胞株に対する、市販製剤タキソテレ(登録商標)及びDTXをロードしたHPG製剤の細胞傷害性効果を評価した。
【0177】
タキソテレ(登録商標)(Tween 80中DTX)はSanofi−Aventis Canada Inc.(Laval,Quebec)から購入した。ヒト膀胱癌細胞株のRT4及びUMUC3は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入した。10%の熱非働化ウシ胎児血清を含有するマッコイ培地(Invitrogen,Burlington,ON)中で細胞を維持し、加湿5%CO
2雰囲気中、37℃で保持した。MGHU3細胞はY.Fradet博士(L’Hotel−Dieu de Quebec,Quebec,Canada)から、ご好意により寄贈していただいた。10%ウシ胎児血清及び2mM L−グルタミン(Invitrogen)を添加したMEM中で維持した。KU7はC.Dinney博士(MD Anderson Cancer Center,Houston,TX,USA)より提供していただき、5%ウシ胎児血清含有DMEM中で維持した。可視化目的のため、KU7細胞を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するレンチウイルス(Graig Logsdon博士(M.D.Anderson Cancer Center,Houston,TX,USA)による)に感染させ、当該サブクローンを以前記載(Hadaschik BA,Black PC,Sea JC,et al.BJU Int2007;100:1377−84)した通りKU7−lucと命名した。
【0178】
96−ウェルプレート中、体積100μlの10%FBSを添加したマッコイ培地に5,000細胞/ウェルで細胞をプレーティングし、新たに調製したタキソテレ(登録商標)溶液或いはHPG−C
8/10−MePEG中及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(PBS,pH7.4中に溶解)中のDTXを加える前に、24時間平衡化させた。細胞を薬物製剤に2時間曝露し、注入療法についての現行の臨床基準を模倣して、以前報告(Mugabe C,Hadaschik BA,Kainthan RK,et al.BJU Int 2009;103:978−86)した通り、CellTiter96 AQueous Non−Radioactive Cell Proliferation(MTS)assay(Promega,Madison,WI)を用いて、72時間後に細胞の生存率を決定した。各実験を3回繰り返し、すべての細胞株について、MTS値が直線の吸収域内に収まった。
【0179】
すべてのDTX製剤により、試験した細胞株すべての増殖が濃度依存的に阻害された。より活発且つ迅速に増殖するKU7−luc細胞株が、DTX製剤に最も感受性であった。DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2の細胞傷害性は、市販製剤タキソテレ(登録商標)と同様であることがわかった(
図25)。DTX製剤のIC
50は、試験した細胞株すべてについて、ほんの数ナ
ノモラー(4〜12nM)の範囲であった。コントロールのHPG類ナノ粒子(薬物なし)では、試験した濃度範囲にわたって細胞傷害性が示されなかった(15〜1,500nM,データ示さず)。HPG類へのDTXロードによっては、その細胞傷害性は影響されなかった。
【0180】
実施例21:in vivo実験
マウス同所性膀胱癌モデルにおける膀胱内DTXの有効性
全部で42匹のヌードマウスでin vivoの実験を行い、タキソテレ(登録商標)(0.2mg/ml)並びにDTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2による1回の膀胱内処理の有効性を評価した。用いた同所性マウスモデルは、Hadaschik BA,Black PC,Sea JC,et al.BJU Int 2007;100:1377−84;Mugabe C,Hadaschik BA,Kainthan RK,et al.BJU Int 2009;103:978−86;Hadaschik BA,ter Borg MG,Jackson J,et al.BJU Int 2008;101:1347−55;Hadaschik BA,Adomat H,Fazli L,et al.Clin Cancer Res 2008;14:1510−8;Hadaschik BA,Zhang K,So AI,et al.Cancer Res 2008;68:4506−10に報告されている。動物実験はカナダ動物管理協会に従って行った。11週齢の雌性ヌードマウス(Harlan,Indianapolis,IN)をイソフルランで麻酔した。潤滑化24 G Jelco血管カテーテル(Medex Medical Ltd.,Lancashire,UK)を尿道を経て膀胱へ通す前に、6−0ポリプロピレンの巾着縫合を尿道口付近の表層に施した。PBSで膀胱を1回灌注した後、2百万のKU7−luc細胞を、50μlの単一細胞懸濁液として注入し、巾着縫合を2.5時間結紮した。in vivoの腫瘍負荷を定量するために、4、11、18及び25日目に150mg/kgルシフェリンを腹膜内注射し、15分後に、IVIS200イメージングシステム(Xenogen/Caliper
Life Sciences,Hopkinton,MA)により動物を仰臥位でイメージングした。Living Image software(Xenogen)を用いてデータを取得し、解析した。腫瘍接種後5日目に、無作為に、マウスの膀胱を50μlのPBS(コントロール);タキソテレ(登録商標)(0.2mg/ml);DTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG;及びDTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2で1回処理した。生物発光レベルは群間で同等であったが、マウス個体間で腫瘍にばらつきがあるため、各マウスにおいて、統計解析のために処理後腫瘍の生物発光を4日目の初期フラックスに対して正規化した。腫瘍接種後25日目に剖検を行った。膀胱全体を取り出し、10%緩衝化ホルマリン中で固定してパラフィン中に包埋した。5μmの切片を作製し、標準法を用いてH&Eで染色した。スライドは、すべて調査し、BLISS microscope imaging workstation(Bacus Laboratories Inc.,Lombard,IL)上で走査した。
【0181】
KU7−luc癌細胞の膀胱内接種後、マウスはすべて膀胱腫瘍を発症した。しかし、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2群中のマウス1匹が、処理後4日目に予期せず死亡した。市販のタキソテレ(登録商標)製剤又はHPG類の製剤のいずれかで膀胱内に投与したDTXは、全体的に、マウスによって十分寛容され、深刻な毒性は観察されなかった。
【0182】
コントロールマウスと比較して、DTXをロードしたHPG類では腫瘍成長が阻害された。しかし、KU7−lucの同所性膀胱癌異種移植片においては、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2が、腫瘍成長を阻害する最も有効な製剤であり
、PBSコントロール群又はタキソテレ(登録商標)群のいずれかと比較すると、統計的に有意となった(
図26,P<0.01,二元配置分散分析後、事後ボンフェローニ解析)。実験の最後では、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ナノ粒子の膀胱内注入(1回)により、PBSコントロール群と比較して、腫瘍成長は88%阻害された。当該処理群においてDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGナノ粒子により、54%の腫瘍阻害が示された。有効性の当該増大は、DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ナノ粒子で処理したマウスの膀胱及び腫瘍組織における薬物取り込み亢進に起因すると思われた。
【0183】
市販製剤タキソテレ(登録商標)は、当該同所性異種移植モデルにおいて、腫瘍成長を阻害しなかった。各処理群におけるマウスの代表的な生物発光の経時的画像を
図26中に示す。膀胱組織の組織学的な検証により、KU7−lucの腫瘍は悪性の成長パターン及び高頻度の多病巣性を示したが、腫瘍接種から25日後には、それらは全般的に固有層に限局し、且つ高悪性度のT1ステージの疾患と相関したことが示される(
図27)。DTX(0.2mg/ml)では、PBS処理と比較して、KU7−luc異種移植片において何ら顕著な組織学的変化が引き起こされなかったが、DTX(0.2mg/ml)をロードしたHPG−C
8/10−MePEG及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2により、腫瘍成長が阻害された。HPG−C
8/10−MePEG−NH
2にロードしたDTXにより処理された腫瘍は、有意にサイズが減少し、細胞サイズ、核形状及び浸潤する炎症細胞が不均一であった。
【0184】
HPLCにより、生物学的に活性のある部分をdHPGにロードするために用いる技法によって、送達システム中、薬物の目標量の±20%を有すると評価され得る製剤を製造できるとも、決定された(表11を参照)。
【0185】
【表11】
【0186】
図28中に示す通り、パクリタキセル(PTX)を組み込んだ製剤とDTXを組み込んだ製剤とで比較を行った。両方の薬物に関して、それらをHPG−C
8/10−MePEG等のdHPGに組み込むことにより、腫瘍の発光減少がもたらされるが、DTXを取り込んだdHPGの方が、パクリタキセルを取り込んだdHPGよりも効果的であった。
【0187】
健康な動物を用い、2つの時点を採用して同様の実験を繰り返した。
図29中に示した当該データにより、健康なマウスにおいては、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2を用いると、同量の薬物を送達するためにHPG−C
8/10−MePEG又はタキソテレ(商標)を用いる場合よりも、膀胱中、経時的に見て、保持されるドセタキセルが多いことが証明される。アッセイの定量上限を超えるため、HPG−MePEG−NH
2についての結果は半定量的である。タキソテレ(商標)群及びHPG−C
8/10−MePE
G群についての結果は定量的である。マウスには各々、体積50μL中50μgの薬物を投与し、50mgのdHPGを用いた(1群あたりn=3)。
【0188】
実施例22:薬物取り込み実験
膀胱内DTX製剤を受けて、膀胱組織中及び血清中の取り込みを評価するために、同所性膀胱腫瘍を有するマウスを、タキソテレ(登録商標)(0.2mg/ml,n=3)又はDTX(0.2mg/ml)をロードした、HPG−C
8/10−MePEG(n=4)及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2(n=4)のいずれかで注入した。注入後2時間に、尿、膀胱組織及び血清中のDTX量を測定した。薬物取り込み実験は、樹立したKU7−lucの腫瘍を有する15週齢の雌性ヌードマウス(腫瘍接種後33日目)で行った。膀胱内注入後0、30及び60分で尾部血液サンプルを採取した。当該時間、マウスは依然、イソフルランで麻酔していた。2時間後、すべてのマウスをCO
2を用いて窒息させて殺し、心穿刺により血液を更に除去した。血液サンプルをmicro−haematocrit tubes(Fisher Scientific,Pittsburg,PA)中又はserum−separator tubes(Becton Dicknson)中で遠心し、血清を液体窒素中でさっと凍結した。各マウスの尿及び膀胱も回収し、膀胱は、凍結前に切開して内腔を露出させ、10mlPBSで5回連続で激しく洗浄した。サンプルはすべて−80℃で保存した。解析に用いたUPLC−MS/MSシステムは、Waters TQD質量分析計を用いた質量分析と共役した、統合化Waters Acquity UPLC分離システム(Acquity BEH C18,1.7μm,2.1 X 50mmカラム)から構成した。電子スプレーイオン源ブロックの温度150℃、脱溶媒和温度350℃、コーン電圧14V、キャピラリー電圧0.70kV、引出電圧3kV、RF電圧0.1kV、コーンガス流25l/h、脱溶媒和ガス流600l/h及び衝突ガス流量0.2ml/minでシステムを作動させた。陽イオンモードにおいて、分子を電子スプレーでイオン化した。以前確立したとおり(Mugabe C,Liggins RT,Guan D,et al.Int J Pharm 2011;404:238−49)、m/z 808.5→527.2の遷移をモニターする複合反応において、DTXを定量した。溶媒/溶媒抽出法によって、マウス血清からDTXを抽出した。96−ウェルプレートにおいて、マウス血漿及び標準液の50μlアリコートをアセトニトリル中の0.1%ギ酸150μlと混合し、室温で1分間ボルテックスした。サンプルを4℃10分間、5,500rpmで遠心した(Allegra(商標)25 R centrifuge,Beckman−Coulter)。上清100μlと蒸留水50μlとを混合し、混合して30秒間ボルテックスした。膀胱組織を計量し、ジルコニアビーズ(Biospec Products)及びミクロバイアルホルダーを備えたmini−bead beater(Biospec Products)を用いて0.1%ギ酸/メタノール中で60秒間ホモジェナイズした。サンプルを4℃で2分間、14,000rpmで遠心した(Allegra(商標)25 R centrifuge,Beckman−Coulter)。メタノール中0.1%トリフルオロ酢酸150μlをサンプルに加え、混合及び4℃で15分間、14,000rpmでボルテックスした(Allegra(商標)25 R centrifuge,Beckman−Coulter)。サンプルの解析は、すべてUPLC−MS/MSを用いて行った。スパイクしたコントロールサンプルからの回収率は97%で、DTXの検出限界は10ng/mlであった。すべての場合において、ランの精度(precision)(%RSD)は15%未満の範囲内であった。
【0189】
タキソテレ(登録商標)で注入したマウスでは、すべての時点で、血清中DTXが検出不能であった。DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2は、2時間の時点で、血清中最高レベルを示した(150.87±34.98対23.97±16.71ng/ml,P<0.01,二元配置分散分析,ボンフェローニ事後検定)。しかし、DTXの血清中濃度は、尿及び膀胱組織中の濃度よりも数桁程度低かった(表12)。
DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2は、タキソテレ(登録商標)又はDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEGと比較して、膀胱組織内蓄積が有意に高くなっていた(P<0.001,一元配置分散分析,ボンフェローニの多重比較検定)。タキソテレ(登録商標)処理群とDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG処理群とでは、胱組織蓄積において統計的な有意差は無かった(P>0.05,一元配置分散分析)。尿中の最終濃度は初期の投与溶液よりも約5〜7倍低かった。これは、2時間の膀胱内注入の間の尿希釈に起因した。しかし、DTXの尿中最終濃度において、異なる処理群の間に有意差は無かった(P>0.05,一元配置分散分析)。各群とも、局所的又は全身的毒性は観察されなかった。
【0190】
【表12】
【0191】
実施例23:腫瘍微環境及びローダミン標識HPG類取り込みの評価
膀胱腫瘍微環境及び腫瘍組織へのローダミン標識HPG類分布を評価した。
【0192】
HPG類のローダミン標識
HPG−C
8/10−MePEGポリマー類及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2ポリマー類を、以前報告(Savic R,Luo L,Eisenberg A,Maysinger D.Science 2003;300:615−8;Mugabe C,Liggins RT,Guan D,et al.Int J Pharm 2011;404:238−49)した通り、テトラメチル−ローダミン−カルボニル−アジド(TMRCA)で共有結合的に標識した。同所性膀胱腫瘍(腫瘍接種後33日目)を有する15週齢の雌性ヌードマウスをイソフルランで麻酔した。6/0ポリプロピレンの巾着縫合を尿道口付近の表層に施し、膀胱を手で圧縮して空にした。ゲージ24の潤滑化Jelco血管カテーテルを尿道を経て膀胱へ通し、次いで50μlのPBS、遊離型ローダミン(TMRCA)、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCA及び/又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2−TMRCAのいずれかを注入し、巾着縫合を2
時間結紮し、その間、マウスの麻酔を維持した。2時間後、巾着縫合を除去し、膀胱を用手圧迫により空にし、150μlのPBS(pH6.0)で2回洗浄した。マウスを安楽死させ、膀胱を切除してアルミブロック上で凍結し、次いで凍結切片作製のためOCT中に包埋した。膀胱の境界から1、2及び3mmの距離で10μmの凍結切片を切った。切片を室温で乾燥し、10xの対物レンズ(0.75μm/ピクセルの解像度)を用いて、ローダミン蛍光についてイメージングした。スライドを1:1のアセトン:メタノール溶液中で10分間固定し、特注の毛管現象染色器を用いてCD31(1:50のハムスター抗CD31(抗ハムスターAlexa 647(二次)を伴う)及びHoechst 33342(核染色色素)について染色した。CD31及びHoechst 33342の蛍光イメージング後、切片をヘマトキシリンで軽くカウンター染色し、マウントして明視野でイメージングした。
【0193】
画像解析:Image Jソフトウェアにおいて扱いやすさを向上させるため、イメージの画像解像度を1.5μm/ピクセルに減少させた。次いで、ユーザー指定のアルゴリズムにより、画像スタックを作り出し、配列させ、腫瘍境界でトリミングしてアーティファクトを除去した。ヘマトキシリン像に基づいて、更に壊死をトリミングした。膀胱内腔を、Hoechst 33342像上の腫瘍組織境界に沿って、人為的にトレースした。ユーザー指定の解析マクロを実行し、以下のタイプのデータ:a)閾値:陽性の染色を含むが、壊死領域の外側のバックグラウンドを取らないよう、手動で決定した;マクロは、当該閾値を満たすか、又は超える陽性ピクセル数を決定する。腫瘍切片全体についての平均として報告された。b)強度:腫瘍組織全体についての平均染色強度或いは二次染色(即ち、CD31)又は人為的にトレースした境界(膀胱内腔)からの距離に基づいて選別したピクセルの平均強度として報告された。平均±標準誤差を決定するために算出を行い、マイクロソフトエクセルを用いてグラフ表示を作り出した。Prism v5 for
Macsソフトウェアを用いて統計解析(分散のノンパラメトリック解析(クラスカル−ウォリス検定))を行った。
【0194】
膀胱腫瘍微環境及び腫瘍組織内のローダミン標識HPG類の分布を評価した。膀胱腫瘍組織には血管が高度に発達しており、直近の血管までの平均距離が40〜60μmであった(
図30A)。異群間で有意差(P=0.8)は見られ無かった。膀胱腫瘍全体の内側の蛍光量を測定した。他の群と比較して、ローダミン標識HPG−C
8/10−MePEG−NH
2(HPG−C
8/10−MePEG−NH
2−TMRCA)が最も高い腫瘍取り込みを示した(P=0.037)。遊離型ローダミン(TMRCA)を注入した膀胱とローダミン標識HPG−C
8/10−MePEGを注入した膀胱とでは、腫瘍の取り込みに有意差(P>0.05)は無かった(
図30B)。腫瘍組織へのローダミン取り込みの深さプロファイルを、膀胱内腔からの距離に応じて評価した。内腔からのすべての距離において、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2−TMRCAナノ粒子の腫瘍取り込み亢進が証明され、HPG−C
8/10−MePEG−TMRCAナノ粒子よりも5〜6倍増加していることが示された(
図30C)。
【0195】
実施例24:HPG−C
8/10−MePEG及びHPG−C
8/10−MePEG−COOHの合成及び特性解析
本発明者らの報告(Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.Bioconjugate Chem.2008,19,2231−2238)に記載したプロトコール従い、O/DGEコアを修飾したHPG類の重合を実施した。以前報告したプロトコール(Haxton,K.J.;Burt,H.M.Dalton Trans.2008,5872−5875)に従い、カルボン酸基によるC
8/10コア修飾HPG類の機能化を行った。典型的な反応については、5.0gのHPG−C
8/10−OH又はHPG−C
8/10−MePEG
6.5を100mLのピリジン中に溶解し、溶液を窒素雰囲気下に保持し、続けて、HPG類上カルボン酸基の標的量に応じて調整したジメチルアミ
ノピリジン及び無水コハク酸を加えた。最高量のCOOH基でHPGを合成するため、利用可能なすべての遊離ヒドロキシル基を、カルボン酸塩への修飾の標的とした。従って、過剰量のジメチルアミノピリジン(0.075g,0.61mmol)及び無水コハク酸(4.5g,45mmol)を反応液に加えた。遊離ヒドロキシル基の理論モル数を算出することにより、HPG1モル当たり348モルの遊離ヒドロキシル基があり、理論的にHPG1モル当たり同数のカルボキシル基があると決定した。従って、結果生じるHPGをHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348と表示した。少量のジメチルアミノピリジン(0.015g,0.12mmol)と、無水コハク酸(0.9g,9mmol)を用いることにより、遊離ヒドロキシル基がすべて修飾の標的とされるわけではないHPG類を生成した。反応混合物に加えた無水コハク酸のモル数を算出することにより、HPGに加えたカルボキシレート基の理論数を決定した。従って、当該カルボン酸塩含量が低いHPGをHPGC
8/10−MePEG
6.5−COOH
113と表示した。ジメチルアミノピリジン及び無水コハク酸を加えた後、マグネティックスターバーを用いて、溶液を室温で1晩攪拌した。脱イオン水(100mL)をフラスコに加え、混合物を30分間攪拌したままにした。共沸蒸留によってピリジンの蒸発をよりよくできるようにするために周期的に水を加え、回転蒸発によって溶媒を除去した。最終生成物をメタノール中に溶解し、酢酸セルロース透析管(MWCO 10000g/mol,Spectrum Laboratories Inc.,Rancho Domunguez,CA)を用いて、3日間、80:20のメタノール/脱イオン水混合物に対して透析した。8時間ごとに透析媒体を変え、透析媒体が水100%である最後の3段階時まで、各回でメタノール濃度を低下させた。凍結乾燥により、ポリマー類を取得した。
【0196】
HPG-C
8/10-MePEG-COOHの
13C NMR (400 MHz, methanol-d
4) δ
C: 0 (テトラメチルシラン, 内部基準), 14.73 (CH
3, O/DGE上のalkyl), 23.92-33.24 (C(O)CH
2CH
2COOH), 48.51-49.86 (溶媒, メタノール-d
4), 59.29 (CH
3O-MePEG), 64.19-65.36 (-CH
2OH, ポリマー中
の未反応一級アルコール基), 69.98-73.74 (-CH
2-O-, ポリマー中-CH-O), 78.93-80.14 (ポリマー中のCH), 173.84-174.16 (C(O)CH
2CH
2COOH), 175.92 (C(O)CH
2CH
2COOH).
【0197】
官能基を有するHPG類の調製においては、すべて、MePEG及びCOOH基の目標量を反応混合物に加えた。様々な官能基を有するHPG類のMePEG及びCOOHの目標量を表13中に集約する。多くのカルボン酸塩で官能基化したHPG類及び少ないカルボン酸塩で官能基化したHPG類の反応収率は、それぞれ84%及び74%であった。HPGポリマー類は、以下の命名法:HPG−C
8/10−MePEGA−COOHB(式中、HPG−C
8/10はアルキルで置換したHPGを表し、Aは、試薬の化学量論(MePEGのモル/TMP開始剤のモル)に基づく、ポリマーにコンジュゲートされたMePEGの目標含量であり、そしてBは、GPCのデータから算出したポリマーの分子量に基づく、HPGポリマー1モル当たりの予想COOHのモル含量である)によって記載する。
【0198】
【表13】
【0199】
NMR解析
精製後、HPG類は、すべてNMRにより特性解析した。400 MHz Bruker Avance II+ spectrometer(Bruker Corporation,Milton,ON)を用いてHPGポリマー類のNMRスペクトルを取得した。ポリマー類をDMSO−d
6又はメタノール−d
4(Cambridge Isotope Laboratories,Andover,MA)中に溶解した。一次元のプロトンスペクトル及び炭素スペクトルを取得し、二次元の、多重度編集異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)NMR実験、異核間多結合相関(HMBC)NMR実験、及びHSQC−TOCSY(全相関分光)NMR実験も同様にした。化学シフトは残存溶媒のピークを基準にした。Sparky(T.D.Goddard and D.G.Kneller,Sparky 3,University of California,San Francisco)を用いて二次元スペクトルを解析した。HSQCのデータから、HPG類上のCOOHのモル比を、以下の通り推定した:各修飾について、メチレンのプロトン4つに対応するピークを積分し、その積分をプロトン数に関して補正した。当該値を、TMPメチル基の積分(プロトン多重度に関して補正)で除し、COOHのモル比を得た。
【0200】
図31から、官能基を有するHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOHポリマー類のピークすべてが、HPG類の構造成分にアサインされたことが理解できる(Kainthan,R.K.;Mugabe,C.;Burt,H.M.;Brooks,D.E.Biomacromolecules 2008,9,886−895;Kaint
han,R.K.;Janzen,J.;Kizhakkedathu,J.N.;Devine,D.V.;Brooks,D.E.Biomaterials 2008,29,1693−1704;Haxton,K.J.;Burt,H.M.Dalton Trans.2008,5872−5875)。HSQC、HMBC及びHSQC−TOCSYを用い、ピーク体積の積分を用いてHPG類上の置換基、C
8/10アルキル鎖、MePEG及びCOOHの比を推定した。
【0201】
分岐の程度及び重合化の程度
超分岐ポリマー類は、典型的に、以下の方程式:
【0202】
【数1】
【0203】
(式中、DBは分岐の程度、D、L
13及びL
14はデンドリティックユニット、リニア1−3ユニット、リニア1−4ユニットの比を表す)を用いて、分岐の程度(DB)及び重合化の程度(DPn)により特性解析される(Ho¨lter,D.;Burgath,A.;Frey,H.Acta Polym.1997,48,30−35)。超分岐構造中に存在するグリシドールのデンドリティックなリピートユニット及びリニアなリピートユニットの構造を
図32中に集約する。更に、当該ポリマー類についての、重合化の程度(DPn)は、以下:
【0204】
【数2】
【0205】
(式中、D、L
13及びL
14は上記の通り定義され、Tはターミナルユニットの比を表し、fcはコア分子の官能基化(TMPについては、3である)のように計算する(Sunder,A.;Hanselmann,R.;Frey,H.;Mu¨lhaupt,R.Macromolecules 1999,32,4240−4246)。Dは一次ユニット及び二次ユニットの和によって得られ、Dp及びDs(
図32を参照)、並びにL
13、L
14及びTは同様に定義される。
【0206】
2D HMBC実験及びHSQC−TOCSY実験の組合せを用いる場合は、一次及び二次のL
13、L
14、T及びDのユニットを未修飾HPGポリマー(基準物質として合成されて、C
8/10アルキル成分を含有せず、MePEGの添加又はカルボキシル修飾が無い、データ示さず)に関してアサインし、多重度−編集HSQCからのピーク体積を用いてDB及びDPnを算出した。未修飾HPGについて得られた本発明者らの結果は、DB)0.51及びDPn)14.83であり、構造ユニットについての相対存在量は、リニアユニットについて39%、デンドリティックユニットについて20%、そしてターミナルユニットについて41%である。当該値は、文献の値(Sunder,A.;Hanselmann,R.;Frey,H.;Mu¨lhaupt,R.Macromolecules 1999,32,4240−4246;Ho¨lter,D.;Burgath,A.;Frey,H.Acta Polym.1997,48,30−35)とよく一致している。C
8/10アルキル鎖で修飾したHPG(HPG−C
8/10−OH)のHSQCスペクトルを未修飾HPGのHSQCスペクトルと比較すると、前者のポリマーコアのスペクトル領域中、2つの新たなピークが見える(
図33)。1つのピークは
脂肪族鎖のR−メチレン基にアサインされるが、もう1つのピークは明確にアサインすることができなかった。化学シフトに基づき、当該ピークは、2級ヒドロキシル基に結合した1本のアルキル鎖を伴うTユニットに対応し得るが、この考察は確認できない。HPG−MePEG
6.5についても、同様の状況が観察された。MePEGのR−メチレン基からのピークはアサインできたが、未知のピークは明確にアサインできなかった。HPG−C
8/10−OHと同様に、新たなピークの化学シフトは、L
14様のユニットに類似している。まとめると、DB及びDPnは、シグナルの明確なアサインメントが無いために、NMRデータから算出できなかった。NMRデータにより、リニアユニット又はターミナルユニットの観察を通して遊離ヒドロキシル基を直接的に特性解析すること、並びに予想された分岐パターン及び修飾(アルキル、MePEG及びカルボキシル)が存在することを、すべて確認することが可能となる。
図33でNMRスペクトル中のアサインされた様々なピークを説明し、予想された分岐パターン、MePEG、アルキル鎖及びCOOH基の存在を示す。
【0207】
COOHのモル比
COOHで修飾されたすべてのHPGポリマー類について、HSQC NMRスペクトルからCOOHのモル比を推定した。当該方法による、HPGポリマー中のCOOH数は、サンプル中に存在するTMPのメチル基に対して相対的に表現されるため、絶対数ではない。各HPG分子は、TMPを1つだけ含有すると仮定するが、様々なポリマーバッチ中での、HPG1モル当たりのTMP量を、独立して定量してはいない。従って、当該数は、どのくらい多くのヒドロキシル基がCOOHで覆われているかの定性的指標としての役割を果たす。更に、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOHポリマー類は、両方同一のHPGC
8/10−MePEG
6.5のバッチから合成するため、TMP含量は同一と予想し、2つのHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOHポリマー類における相対的COOH量を決定するために、NMRスペクトルを比較し得る。モル比は、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113と比較して、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348中では2.8倍多くのCOOH含量であることを示す。これは2つのポリマー類における目標COOH含量の比の3.1倍とよく一致する。HPG−C
8/10−COOHポリマー類及び高カルボニル密度のHPGC
8/10−MePEG
6.5−COOH
348ポリマー類については、リニアユニット又はターミナルユニットに対応するピークは観察されないが、このことは当該ポリマー中にはヒドロキシル基が存在しないことを示す(代表的なNMRスペクトルについては、
図34を参照)。低密度COOHポリマー、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113については、リニア基及びターミナル基のピークが、新たなピークに加えて観察されるが、このことは、カルボン酸によって、一部のみのヒドロキシル基が飽和しているこを示している(データ示さず)。
【0208】
FT−IR
汎用ATRサンプリング装備品を伴うPerkin−Elmer FTIR分光計(Perkin−Elmer,Woodbridge,ON)を用いて、HPG類のFT−IRスペクトルを取得した。走査範囲は4000〜650cm
−1で、分解能は4cm
−1であった。
【0209】
HPG−C
8/10−MePEG
6.5、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113のFT−IRスペクトルを
図35中に示す。2800〜3000cm
−1でのピークは、C−H振動と一致しており、すべてのHPG類で生じた。1680〜1780cm
−1でのピークはCdOバンドから生じたが、このことは、HPG−C
8/10−MePEG−COOHポリマー類においてCOOH基が存在することを示す。1200〜1400cm
−1及び1000〜1180cm
−1でのピークは、それぞれC−H屈曲及びC−O振動から生じてお
り、従ってそれらは、当該ポリマー類すべてにおいて見出され得る。HPG−C
8/10−MePEG
6.5、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113及びHPG−C
8/10−Me−PEG
6.5−COOH
348のFT−IRスペクトルを比較することにより、HPG−C
8/10−MePEG−COOHにおけるOHピーク(3300〜3500cm
−1)が減少し、CdOピーク(1680〜1780cm
−1)が現れることが理解できるが、このことにより、OH基が消費され、COOHに変換されたことが示される。HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348のスペクトルにより、OHピークがほぼ除かれていることが示されたが、このことにより、OH基は大体消費されてCOOHに変換されたことが示される。一方、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113についてのOHピークは、減少はするが依然明らかであり、NMRの結果と一致した。更に、後者のHPGも小さなCdOピークを示すが、このことにより、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348と比較してCOOHのモル比が低いことが示される。FT−IRのデータにより、HPG類の官能基化における変化を裏付けるよい証拠が示され、また、精製手順により未反応試薬が除かれたことが確認された。
【0210】
分子量
DAWN−EOS多角度レーザー光散乱(MALLS)検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(GPC−MALLS)及びOptilab RI検出器(Wyatt Technology Inc.,Santa Barbara,CA)によってHPG類の重量平均分子量(Mw)及び多分散性を決定した。流速0.8mL/minで、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を移動相として用いた。詳細は以前の報告(Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.Bioconjugate Chem.2008,19,2231−2238;Kumar,K.R.;Kizhakkedathu,J.N.;Brooks,D.E.Macromol.Chem.Phys.2004,205,567−573)中に記載している。様々なHPG類に関してのdn/dc値は、0.1N NaNO
3水溶液中、HPGC
8/10−MePEG
6.5、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113について、それぞれ0.146、0.165及び0.138と決定し、ポリマー類の分子量の算出に用いた。Wyatt Technology Corp.により提供されたAstraソフトウェアを用いてデータを処理した。MwをPDIで除することにより、ポリマー類の数平均分子量を算出した。
【0211】
当該HPG類の分子量及び多分散性を表13中に示す。官能基化HPG類(HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH)の分子量は、HPG−C
8/10−MePEG
6.5と比較して増大していることが示された。更に、表面官能基化後には、ポリマー類の多分散性は大きく改変しないことがわかったが、このことにより、表面修飾が比較的一様なことが示される。分子量値は、以前報告したHPG−C
8/10−MePEGのもの(Kainthan,R.K.;Mugabe,C.;Burt,H.M.;Brooks,D.E.Biomacromolecules 2008,9,886−895;Kainthan,R.K.;Janzen,J.;Kizhakkedathu,J.N.;Devine,D.V.;Brooks,D.E.Biomaterials 2008,29,1693−1704;Mugabe,C.;Hadaschik,B.A.;Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.;So,A.I.;Gleave,M.E.;Burt,H.M.BJU Int.2009,103,978−986;Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.Bioconjugate Chem.2008,19,2231−2238)に類似していた。
【0212】
COOH基の滴定
T−50 M titrator(Mettler Toledo,Mississa
uga,ON)において、COOHを表面移植したHPG類の全濃度を定量するため、電位差/pH滴定を行った。HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348のサンプル及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113のサンプルを、10mLの10mM NaOH中に0.2mg/mLで溶解した。各溶液のpHを、0.1M
NaOHを加えることにより、手操作で最大おおよそ11に増大させた。次いで、0.01M HClによりサンプルを滴定した。ダイナミックレンジ10〜50μL及び注入間の時間間隔30〜60秒で注入を設定し、確実に平衡状態を確立した。pHが一旦3.0に到達すると、滴定を終了した。標準的な補外/交差法を用いて、滴定のエンドポイントを決定した。報告したCOOH滴定値は、3回の測定の平均を表す。
【0213】
電位差/pH滴定(表13)によりHPG類にコンジュゲートしたCOOH基のモル比を測定した。目標モル比及び測定分子量とよく一致していることが示された。例えば、HPG−C
8/10−MePEG
6.5の数平均分子量(6.3×10
4)を、COOH基に帰する分子量(カルボン酸塩の分子量(101g/mol)を乗じた、HPG1分子当たりのカルボン酸塩数(滴定データから87)に等しい)と足すことによってもHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113の分子量を算出できる。当該計算に基づくと、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113の数平均分子量は7.2×10
4g/molであり、測定値(7.0×10
4g/mol)とよく一致する。
【0214】
溶解度
HPGポリマー類の溶解度特性は、既知の重量のポリマーを様々な水性緩衝液又は蒸留水に溶解することにより評価した。サンプルを穏やかにボルテックスして溶解速度を上げた。濁りの徴候について、ポリマー溶液の550nmの吸光度を、数日間定期的に測定し、ポリマーが溶液中に残存しているか否かを評価した。カルボン酸で誘導体化したHPGポリマー類のいくつかについては、溶液のpHを調整して溶解を促進した。
【0215】
ナノ薬物輸送体の能力が潜在的にあるため、当該ポリマー類の水性媒体中の溶解度特性は重要である。HPG−C
8/10−MePEGポリマーの水溶性は、蒸留水、PBS緩衝液(pH7.4)及び合成尿中で良好である(100mg/mLを上回る)ことがわかった。HPG−C
8/10−COOHは、中性pHでのイオン化減少のため、水性媒体又はPBS(pH7.4)中では実質的に不溶性であり、0.1M NaOH等のアルカリ溶液中でのみ可溶性であることがわかった。HPGコアの疎水性成分(アルキル鎖)が、溶解度特性を支配するようであった。カルボン酸塩で誘導体化し、MePEG基ともコンジュゲートしたHPG類は、水溶性の増大を示した。従って、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113は、加熱無しで、100mg/mLの濃度で10mM PBSに完全に溶解し得るが、溶液のpHは7.4から4.5に低下することがわかった。より多量のカルボン酸塩を伴うHPG(HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348)は、水又はPBS緩衝液における溶解が不十分で、PBS緩衝液の緩衝能を超えて酸性化をもたらし、pHを7.4からおおよそ3.8に低下させた。550nmでの吸光度測定の通り、溶液は有意な濁度を示した(データ示さず)。このことにより、ポリマーの不溶性残渣画分が実証される。100mg/mLの濃度及びpH4.25での溶液の透明化を達成するためには、水酸化ナトリウムを加える必要があった。
【0216】
粒子サイズ及びゼータ電位
粒子サイズ及びゼータ電位の解析は、disposable sizing cuvetteを用いたMalvern NanoZS Particle Size analyzer(Malvern Instruments Ltd.,Malvern,U.K.)を用いて行った。濃度15mg/mlのポリマー溶液を1mM NaCl中にpH6.0で調製し、測定前に0.22μmのシリンジフィルター(Pall Life Sciences,Ann Arbor,MI)で濾過した。
【0217】
末端がカルボキシルのHPGポリマー類は、粒子サイズが5〜10nmの範囲であった(表13)。ナノ粒子のゼータ電位は、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348について、それぞれ−41.2±3.2mV及び−60.3±2.1mVであり、強い負であった。ゼータ電位の低下は、HPG類表面にコンジュゲートしたカルボキシル基数に起因する。
【0218】
実施例25:HPG類へのシスプラチンの結合
0.01M NaOH中10mg/mLのポリマー類溶液を調製することにより、カルボン酸塩で修飾したHPG類へのシスプラチンの結合を評価した。薬物の最終濃度が0.5〜4mg/mLの範囲となるように、当該溶液へシスプラチンを加えた。少量の5M NaOHにより、各溶液のpHを6.0に調製した。溶液を50rpmで震盪しつつ、37℃で一晩インキュベーションした。溶液をNanosep 3K Omega centrifugal filtration devices (Pall Life Sciences,Ann Arbor,MI)に移し、5000rpmで10分間遠心した。少量の濾液(10〜40μL)を0.01M NaOHで400μLに希釈し、以前に記載のo−phenylenediamine(OPDA)colorimetric
assay (Haxton,K.J.;Burt,H.M.Dalton Trans.2008,5872−5875)により、濾液中の未結合シスプラチン濃度をアッセイした。HPGに結合したシスプラチンの濃度を、HPGに最初に加えた薬物の濃度から濾液中で見出した未結合シスプラチンの濃度を差し引くことにより決定した。
【0219】
シスプラチンのHPG類への結合は、ポリマー上の末端カルボキシレート基への薬物の配位結合により達成した(
図36)。HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113に関しては、シスプラチンは、ほぼ100%の効率で、最大1mg/mL(10%w/w;
図37)でポリマーに結合した。当該濃度を上回ると、濾液中に遊離型薬物を検出するが、このことにより、カルボン酸塩の結合部位が飽和し、媒体中に未結合薬物が存在することが示される。濾液中に遊離型薬物が検出される前には、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348は、100%の効率で最大2mg/mLに結合した。当該結合薬物の増加は、カルボキシレート基数の増加、従って、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113と比較したHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348上のシスプラチン結合部位数の増加に帰するものである。
【0220】
実施例26:in vitroでのシスプラチン放出
上記した通り、シスプラチンは、ポリマー及びシスプラチンの最終濃度がそれぞれ10mg/mL及び1mg/mLで、カルボン酸塩で修飾したHPG類に結合した。20μLのシスプラチン結合ポリマー溶液又は1mg/mLの遊離型シスプラチン溶液を、7000 MWCO Slide−A−Lyzer mini dialysis units(Thermo Scientific,Rockford,IL)に加え、サンプルを攪拌しつつ、pH4.5、6.0及び7.4に調整した1mM PBS又はpH7.0の合成尿4Lに対し、37℃で透析した。合成尿(Surine)はDyna−Tek Industries(Lenexa,KS)から購入した。所定の時点で、放出媒体から3つの透析ユニットを取り出し、透析ユニットを3回洗浄し、続けて新鮮な放出媒体で1mLに希釈することにより内容物全体を除去した。OPDA比色アッセイにより、透析ユニット内容物のシスプラチン濃度を決定した。透析バッグ中の実験開始時の初期薬物量から残存する薬物の量を差し引くことにより、放出された薬物のパーセント(累積)を算出した。データは時間に応じた放出薬物のパーセンテージ(累積)として表した。
【0221】
PBS中での遊離型シスプラチン放出は迅速であり、7時間以内で100%完了したが、このことにより、遊離型薬物の任意の大量放出が膜によって妨げられなかったことが証
明される(
図38)。シスプラチン結合HPGのサンプルすべてについて、薬物は制御された態様で、遊離型薬物よりも相当に遅く放出されことがわかった。PBS中では、pHに関係なく、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113に結合したシスプラチンは、PBS中でほぼ同一の速度(最初の2時間で約5%放出、1日後に40%放出、7日後に最大90%放出)で放出された。HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348に結合したシスプラチンにより、PBS中、pH6.0及びpH7.4で、同様の速度(2hで約3%の結合シスプラチン放出、1日で20%放出、7日超で最大70%)で、ほぼ直線的な態様で薬物が放出された。pH4.5での、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348に結合したシスプラチンについての放出速度は、より高いpHカウンターパートよりも迅速で、放出プロファイルはHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113のものに類似した。シスプラチンの放出速度は、尿存在下では相当速く、放出は2時間で投与量の10%を少し上回り、そしてHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113については2日、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348については3日で、薬物放出が完了した。PBS中での放出と同様に、2つのHPG類間でのシスプラチン放出の違いは、HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
348上に存在するカルボキシレート基数が多いことに起因し得る。尿は、いくつかの成分から構成される複雑な混合物なので、HPG類からのシスプラチンの放出増加の原因がどの化合物なのかは不明であるが、当該放出速度増加は、尿による希釈に際して、薬物放出が増加するメカニズムを提供し、好都合であり得る。HPGからのシスプラチンの移動に際し、尿素、尿酸及びクレアチニン等の、尿中の窒素含有化合物が結合し、シスプラチンを不活性化し得る。シスプラチンはある程度、当該化合物と複合体を形成することが示されているが、IV投与後の尿中に存在するシスプラチンの大部分は、元々投与された形態であり、高活性のモノアクア加水分解産物であると決定された(Tang,X.;Hayes Ii,J.W.;Schroder,L.;Cacini,W.;Dorsey,J.;Elder,R.C.;Tepperman,K.Met.Based Drugs 1997,4,97−109)。当該知見を踏まえると、尿中でHPG類から放出されたシスプラチンの大部分は、薬理学的に活性のある形態だと思われる。
【0222】
実施例27:細胞傷害性評価
MTS cell proliferation assay(Promega,Madison,WI)を用いて細胞傷害性の実験を行った。当該アッセイでは、薬剤の即時の細胞溶解効果は測定されないが、長期間にわたる細胞増殖に対する、ポリマーの影響が測定される。本実験においては、KU−7−luc膀胱癌細胞がM.Tachibana博士(Keio University,Tokyo,Japan)の好意により提供された。96−ウェルプレート中、10%子ウシ血清(FBS)(Invitrogen Canada,Inc.,Burlington,ON)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、及び1%L−グルタミンを添加したダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地(Invitrogen Canada,Inc.,Burlington,ON)180μLに5,000細胞/ウェルで細胞をプレーティングし、細胞傷害性アッセイ用に、5%CO
2中、37℃で24時間増殖させ、おおよそ80%のコンフルエントに到達させた。次いで、細胞を0.01〜100mg/mLの範囲のHPG類単独、或いは0.01〜100μg/mLの範囲の薬物濃度で、遊離型シスプラチン又はシスプラチンをロードしたHPG類と2時間又は72時間インキュベーションした。処理後、細胞をハンクの平衡塩類溶液(HBSS)で2回洗浄し、180μLの新鮮な培養培地を各ウェルに加え、細胞を72時間増殖させた。当該細胞の増殖を、以前記載した(Mugabe,C.;Hadaschik,B.A.;Kainthan,R.K.;Brooks,D.E.;So,A.I.;Gleave,M.E.;Burt,H.M.BJU Int.2009,103,978−986)通り、CellTiter 96 aqueous non−radioactive cell proliferation assay(P
romega,Madison,WI)を用いて測定した。簡単に述べると、180μLのHBSS中3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシルメトニフェノール)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム10%v/v溶液と細胞とを2時間インキュベーションした。マイクロプレートリーダーを用い、620nmを基準にして490nmで吸光度を測定した。
【0223】
KU−7−luc膀胱癌細胞に対する、薬物をロードしていないHPG類及びシスプラチンをロードしたHPG類の阻害効果を、2時間及び72時間のインキュベーション時間について調査した(
図39)。当該インキュベーション時間は、典型的な膀胱内注入時間の模倣を可能にするため及びシスプラチンについて以前決定した阻害濃度と比較するために選択した。2時間のインキュベーションに関して、50%の阻害濃度(IC
50)は、HPG−C
8/10−OH、HPG−C
8/10−MePEG
6.5、HPGC
8/10−MePEG
6.5−COOH
348及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOH
113について、それぞれ1.3、45.7、47.0及び63.0mg/mLであると決定された。72時間のインキュベーション時間を採用した場合、2時間のインキュベーションで見出されたよりも、ポリマー類の細胞増殖阻害の程度が強かった。HPG−C
8/10−OH及びHPG−C
8/10−MePEG
6.5は、IC
50がそれぞれ0.1mg/mL及び0.2mg/mLであった。カルボン酸塩で修飾したHPG類のIC
50は、おおよそ10倍減少したが、当該ポリマー類では、依然、おおよそ5mg/mLのIC
50値で高度の細胞親和性が示された。HPG−C
8/10−MePEG及びHPG−C
8/10−MePEG−COOHの、全般的に優秀な生体適合性は、恐らく、既知の細胞の原形質膜との相互作用が、確実にほとんど無いことが既に知られている、MePEG表面の細胞親和性から生じる。カルボキシル化によって加えられた恩恵は、7.4のpHで、当該部分の正味の負電荷から生じ得、細胞表面負電荷との反発力がわずかに成立する。72時間のインキュベーションの後、遊離型シスプラチンは、1μg/mLのIC
50でKU−7−luc細胞の増殖を阻害した(
図40A)が、このことは、当該薬物と細胞の組合せについての以前の報告(Hadaschik,B.A.;ter Borg,M.G.;Jackson,J.;Sowery,R.D.;So,A.I.;Burt,H.M.;Gleave,M.E.BJU Int.2008,101,1347−1355)と一致した。2時間のインキュベーションでは、当該IC
50値はおおよそ10μg/mLへと増加した(
図40B)。HPG−C
8/10−MePEG
6.5−COOHポリマー類に結合した場合、やはり複合体型シスプラチンによってKU−7−lucの増殖が阻害されたが、2時間のインキュベーションについて、72時間のインキュベーションの値(おおよそ5μg/mL)と比較して高いIC
50値(おおよそ50μg/mL)が観察された。明らかに、2時間及び72時間の両方のインキュベーションに関して、複合体型シスプラチンによる細胞増殖阻害は、遊離型薬物よりもほぼ5倍弱かった。HPG類と複合体化した薬物について、こうしてIC
50が増大するのは、ポリマーからの薬物放出速度が遅いためだと思われる。
【0224】
実施例28:前処理無しでの、種々の製剤からのブタ膀胱組織へのDTX及びマイトマイシンFの浸透
ブタ膀胱組織への、DTX製剤からのDTXの浸透及びマイトマイシンF製剤からのマイトマイシンFの浸透を評価した。新たに切除したブタ膀胱の切片を、フランツ型拡散セル装置上にマウントし、Tween 80、HPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2中に調製した抗癌剤DTXで2時間処理した。いくつかの実験においては、ブタ膀胱組織をTween 80、HPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2中に調製したDTXで処理する前に、キトサン溶液(薬物なし)又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2溶液(薬物なし)で1時間前処理した。マイトマイシンF製剤については、新たに切除したブタ膀胱の組織切片を、フランツ型拡散セル装置上にマウントし、抗癌剤のマイトマイシンF製剤で2時
間処理した。マイトマイシンF製剤で処理する前に、ブタ膀胱組織をHPG−C
8/10−MePEG−NH
2溶液(薬物なし)で1時間前処理した。組織内濃度対組織内深さプロファイルを取得し、濃度曲線下面積(AUC)の算出から、薬物曝露度を取得した。
【0225】
HPLCグレードのアセトニトリル及びジクロロメタンをFisher Scientific(Fairlawn,NJ)から入手した。液体シンチレーション液のCytoScint(商標)ESをMP Biomedicals(Irvine,CA)から購入した。タイロード塩(タイロードは以下:NaCl:8.0、KCl:0.3、NaH
2PO4.5H
2O:0.093、KH
2PO
4:0.025、NaHCO
3:1.0、Glucose:2.0をg/Lで含有する)をSigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。ドセタキセルはNatural Pharma(Langley BC.Canada)から入手した。市販のタキソテレ(登録商標)20mg/0.5mL(Sanofi Aventis,Laval,QC)はバンクーバー総合病院のBC Cancer Agencyから購入した。比活性23.2Ci/mmolのエタノール中トリチウム標識DTXをMoravek Biochemicals(Brea,CA)から購入した。実施例10に記載のプロトコールを適合させることにより、HPG−C
8/10−MePEGを調製し、実施例18に記載のプロトコールを適合させることにより、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2を調製した。キトサンはNovamatrix FMCが提供した。ブタ膀胱はBritco Inc.(Langley,BC)から購入した。施設内で、体重90〜113kgの6〜10月齢の雄性ブタから、膀胱を新たに切除し、取り出した。
【0226】
HPG−MePEG−NH
2ポリマー類について、HPG−MePEG−NH
21モル当たりのアミンのモル数を、正滴定法、逆滴定法及びフルオレスカミンアッセイを含む種々の方法を用いて測定した(表14)。
【0227】
【表14】
【0228】
DTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG製剤、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2製剤及びTween 80製剤の調製
溶媒蒸発法を用い、HPG−C
8/10−MePEG及びDTXをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH
2を調製した。DTX及びHPG−C
8/10−MePEG又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2をアセトニトリル中に溶解し、オーブン中60℃で1時間乾燥し、窒素でフラッシュして微量の有機溶媒を除去した。乾燥前に、ポリマー/薬物溶液を少量アリコートの
3H DTXでスパイクした。結果生じるポリマー/薬物マトリクスを、60℃のタイロード緩衝液(pH7.4)で再構成し、2分間ボルテックスした。薬物の最終濃度は0.5mg/mLであり、37℃で用いた。タキソテレ(登録商標)濃縮液(1mL当たり40mgのDTX及び1040mgのTween 80を含有)をタイロード緩衝液で希釈することにより、DTXをTween 80中に
調製し、DTXの最終濃度を0.5mg/mLとした。希釈前に、少量の
3H DTXを溶液に添加した。
【0229】
マイトマイシンF製剤の調製
タイロード緩衝液中でマイトマイシンF(分子量=363.4)を調製した。American Radiolabeled Chemicals Inc(St Louis,MO)Cat # ART−1689よりそれを受領した。活性は1〜10Ci/mmol、エタノール中1mCi/mLであった。50μLのエタノールストックを3mLの緩衝液中に溶解(300x希釈)することにより、溶液を調製した。
【0230】
前処理として使用するためのキトサン溶液及びHPG−C
8/10−MePEG−NH
2溶液の調製
キトサン溶液を調製するために用いるキトサンは、PROTASAN(商標)UP CL 213(製品番号:4210106)であり、75〜90%のアセチル基を除去したキトサンがベースである。当該陽イオンポリマーは高度に精製され、十分に特性解析された水溶性塩化物塩である。典型的に、PROTASAN(商標)UP CL 213の分子量は150000〜400000g/mol(キトサン酢酸塩として測定)の範囲である。キトサン溶液は、それを水中に溶解することによって調製し、0.5%(w/v)の溶液濃度とした。
【0231】
前処理として用いるためのHPG−C
8/10−MePEG−NH
2溶液は、HPG−C
8/10−MePEG−NH
2をアセトニトリル中に溶解することにより調製した。結果生じる溶液をオーブン中60℃で1時間乾燥し、窒素でフラッシュして微量の有機溶媒を除去した。結果生じるポリマーを、60℃のタイロード緩衝液(pH7.4)で再構成し、2分間ボルテックスした。
【0232】
組織の調製
新たに切除したブタの膀胱から、外壁上の過剰脂肪組織を除去し、縦方向に切って左右両側へと広げ、底浅の、炭素源(95%O
2/5%CO
2)で泡立てた37℃タイロード緩衝液槽中、おおよそ2cmx2cmに細かく切断した。実験はすべて、屠殺後5時間以内に行った。膀胱の小片を、膀胱内腔側の壁を薬物溶液に曝露するように、フランツ型拡散セル装置上にマウントした。当該組織切片は引き伸ばされておらず、厚さはおおよそ2〜3mmであった。レセプターチャンバーに10mLの37℃タイロード緩衝液(pH7.4)を充填した。余分な組織は拡散セルの周囲周辺でトリミングした。拡散セルのドナーチャンバーに1mLの0.5mg/ml薬物溶液を充填した。組織の曝露面積は0.64cm
2であった。各拡散セルを底浅の水層に設置し、37℃で2時間インキュベーションした。いくつかの実験用には、組織サンプルをDTXやマイトマイシンFをロードした製剤で処理する前に、キトサン溶液(薬物無し)又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2溶液(薬物無し)で1時間前処理した。組織サンプルをタイロード緩衝液で3回洗浄し、未結合の薬物をすべて除去した。組織サンプルをトリミングし、金属プレート上で、ドライアイスベッド上の液体窒素により急速凍結した。
【0233】
組織のクリオトーム切片作製
Shandon Cryomatrix(商標)(Themo Scientific,Pittsburgh,PA)と共に、凍結した膀胱組織をクリオトームの対物ホルダー上にマウントした。R404A冷却システムを伴うShandon Cryotome
Electronic(Thermo Electron Corporation,Cheshire,England)上で、Shandon MB35 Premier
Low Grade Microtome Blades (Themo Scientific,Pittsburgh,PA)により、−20℃で膀胱組織を切片にした。
組織を切片にした。組織切片を、予め計量した1.5mLエッペンドルフチューブ中に入れ、凍結して−20℃で保存した。
【0234】
組織中の薬物の定量
薬物抽出のため、計量した組織切片に200μLのアセトニトリルを加えた。サンプルを、すべての組織切片が抵抗無くアセトニトリル中に浸漬するまでボルテックスし、室温で24時間放置して薬物の完全抽出を確実にした。組織切片をすべて含む抽出サンプルを、シンチレーションバイアルに移し、5mLのシンチレーション液を加えた。液体シンチレーション計測により、
3H DTX又は
3HマイトマイシンFのカウントを測定し、元のストック液からの較正グラフを用いて定量化した。
【0235】
組織レベルの深さプロファイル解析
膀胱壁のすべての層から筋肉にかけて(例えば、尿路上皮、固有層及び筋層)における平均DTX濃度又はマイトマイシンF濃度について、組織レベルの深さプロファイルを解析した。平均組織レベルは、組織層中で見出した薬物総量を、当該層の組織総重量で除したものとして決定した。組織レベルの深さプロファイル下面積(AUC)を、直線台形公式を用いて、以下:
【0236】
【数3】
【0237】
(式中、tはμmでの組織深度、Cはμg/gでの濃度である)の通り算出した。
AUC算出のためには、補外法による、0μmでの薬物濃度(μg/g)の推定が必要であった。
【0238】
前処理無しでの、DTX製剤からブタ膀胱組織へのDTX浸透に関するデータを、
図41中に示す。両方のdHPG類により、約1500μmの深さまでは、アミンの含有によって、アミン無しの製剤(Tween 80製剤(タキソテレ(登録商標))及びアミン官能基を含有しないdHPGを含む)と比較して薬物濃度が高くなると評価された。アミン付加の効果は、濃度依存的であることを観察した。
図41により、組織、特に約1500μmの深さにおける最高濃度は、最大のアミン含量(37mol/mol)を含有するdHPG製剤を用いて得られたことが示される。表示した組織深度範囲でのAUCを算出した(表15a及び15b)が、これにより、dHPG製剤では、タキソテレよりも1.3〜2.4倍の範囲で向上することが示された。表示した組織深度範囲でのCavg値及びCmax値を算出した(表15c)。
【0239】
【表15】
【0240】
【表16】
【0241】
【表17】
【0242】
キトサン前処理又はHPG−C
8/10−MePEG−NH
2前処理を伴う、DTX製剤からブタ膀胱組織へのDTX浸透に関するデータを、
図42及び
図43中に示す。当該実験の目的は、dHPGポリマーの機能を、やはりアミン官能基を含有するポリマーであるキトサンから区別することである。膀胱内送達において使用するためのポリマーとして、キトサンを検討したが、組織への薬物取り込みを促進するための前処理との関連で、ある組成のdHPG類が優ることが証明された。データにより、キトサン前処理を伴うTween 80製剤(タキソテレ(登録商標))によって、すべての組織深度で、膀胱中ドセタキセルの組織中濃度が最低であり、組織浸透が相対的にほとんどもたらされないことが示された。同様に、薬物をHPG−C
8/10−MePEG(アミン無し)ビヒクルで投与した場合は、キトサンによる前処理によって、ドセタキセルの組織浸透がやや回復することになるが、これはタキソテレ処理(キトサン前処理)群にのみ優るだけであった。dHPG類がアミンを含有する(37 molアミン/mol ポリマー)場合(
図42及び43においてHPG−C
8/10−MePEG−NH
2と名付けた)に、ドセタキセルの組織浸透において優れた効果を観察した。その上、ドセタキセルをロードしたHPG−C
8/10−MePEG−NH2製剤のために、キトサンを前処理として用いた場合は、キトサンにより送達への恩恵はもたらされなかった。組織の深さにわたる組織内濃度(
図42)の濃度曲線下面積(AUC,
図43)(全薬物曝露の測定値)を測定することにより、各々の成績を比較した。結果により、前処理又は処理で、アミン含有dHPGが利用された場合に、最大曝露度を観察したことが示される。様々な前処理計画後の、様々な製剤からのドセタキセル浸透に関して、組織深度の範囲180〜3360(um)につい
て算出されたAUC値並びに組織深度の範囲180〜1560(um)及び180〜3360(um)について算出されたCavg値及びCmax値を、表15d及び15e中に示す。
【0243】
【表18】
【0244】
【表19】
【0245】
HPG−C
8/10−MePEG−NH
2前処理を伴うマイトマイシンFのブタ膀胱組織への浸透についてのデータを、
図44中に示す。
【0246】
ブタ膀胱のex vivo浸透実験のSEM画像
上記実施例28中で観察した薬物浸透効果は、様々な処理への曝露後の膀胱組織の外見と相関した。当該実験に関して、薬物は用いず、膀胱1つ当たり1ビヒクルに1回のみ曝露した。2時間の曝露時間後、膀胱組織を採取し、緩衝液でリンスして4%パラホルムアルデヒド及び2%グルタルアルデヒドで一晩固定し、1%OsO
4で後固定し、エタノールで脱水して臨界点乾燥した。膀胱全体を2つに分割し、金蒸着した。全表面をSEM(Hitachi S4700,3−5kV)で検査し、代表的な画像を記録した(1サンプル当たり最低3視野)。代表的な画像を示す(幅約130μmx高さ約100μm)。
【0247】
SEM画像により、緩衝液のみで処理した膀胱の尿路上皮で、そしてHPG−C
8/10−MePEG(アミン無し)で処理した膀胱の尿路上皮でも、尿路上皮が無傷か、又はほぼ無傷であること(例、アンブレラ細胞の喪失無し)が示されることが明らかになった。対照的に、キトサン前処理ビヒクルへの曝露後は、膀胱表面の外見は全く異なっており、尿路上皮の表層アンブレラ細胞が喪失していた(
図45)。溶液中濃度1%w/v及び10%w/vで10 molアミン/mol HPGであるHPG−C
8/10−MePEG−NH
2への曝露後は、尿路上皮からのアンブレラ細胞の一部喪失を観察した(
図46)。対照的に、アミン含量がより多い(37mol/mol)HPG−C
8/10−MePEG−NH
2を用いると、より多くのアンブレラ細胞の喪失が観察できた。当該影響は濃度依存的であることを観察した。溶液中濃度0.1%w/vでは、膀胱表面の外見上の変化はほとんど無かったか、無かったが、濃度が1%w/v及び10%w/vの溶液で処理した後は、それぞれアンブレラ細胞の一部及び全部の喪失を観察した(
図46)。理論に縛られないが、アミンの効果は膀胱表面を改変し、その薬物透過性の変化をもたらすことであり得ると考えられる。当該効果は、アミン含量及びポリマー濃度に依存することが示された。
【0248】
実施例29:マウス膀胱のin vivo浸透実験
マウス膀胱に対する種々の製剤(薬物無し)の曝露効果を評価した。8〜11週例の雌性無胸腺ヌードマウス(Harlan,Indianapolis,IN)を、4%イソフルラン及び2L/min O
2を用いてディープ プレーン(deep plane)に麻酔した。膀胱を十分に圧搾し、外科手術で埋め込んだカテーテルを介して製剤を注入した。ゲージ24の潤滑化Jelco血管カテーテル(BDickenson)を尿道を経て膀胱へ通す前に、ポリプロピレンの巾着縫合を尿道口付近に施した。50μL量注入し、動物(の頭側を)をわずかに反転させて巾着縫合を結紮する一方、1回の素早い動作でカテーテルを取り出した。2時間の注入が完了するまで、マウスを(1.5〜2%イソフルラン、2L/min O
2で)麻酔のままにした。巾着縫合を除去し、動物を回復させた。
【0249】
調製した投与用溶液は無色透明からわずかに琥珀色の溶液であった。ポリマー溶液の濃度は1%w/v又は10%w/vのいずれかであった。アミン含量の無いHPG−MePEGポリマー、及びHPG1モル当たり8〜10mol(低)及び37mol(高)のアミンを伴う2種のHPG−MePEG−NH2ポリマー類を用いた(HPGの名目上の分子量、65kg/molに基づく)。投与用濃度の結果を表16中に集約する。
【0250】
【表20】
【0251】
SEM用及び組織学用に、各マウスから膀胱を切除した。動物はすべて、投与後2時間目及び各組織回収前に、死亡及び病的状態に関して観察した。注入部位でのいくらか少量の血液を除いて、死亡又は病的状態の徴候を何ら認めなかった。
【0252】
SEM解析
PBSで組織を3回洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、次いで0.1Mカコジル酸緩衝液に移した。組織を、1%四酸化オスミウム中で1時間、室温で後固定し、次いで水を混合したエタノール中(混合物中のエタノールのパーセンテージを増大させていき、30%から始めて100%に増大させる)で脱水した。臨界点での脱水によりサンプルを乾燥し、次いで2回金−白金蒸着した(90度で1回及び45度でもう1回)。バイオイメージング施設において、サンプルをHitachi S4700走査型電子顕微鏡で検証した。各膀胱は低倍率で観察し、次いで全表面を再び、高倍率で検証した。様々な倍率で複数枚(9〜10画像)撮影した。
【0253】
【表21】
【0254】
PBSを2時間注入処理したマウス膀胱表面では、
図47中のマウス膀胱表面のSEM像で見られる通り、アンブレラ細胞層は無傷で、褶曲した外見を呈していた。10%(w/v)HPG−MePEG溶液を2時間注入して処理したマウス膀胱の表面では、2時間の注入時間直後は、アンブレラ細胞層は無傷であった。無傷アンブレラ細胞層はHPG−MePEG溶液注入後6時間及び24時間でも観察された(
図48)。
図48中に示す通り、細胞表面の外見は平面状であった。10%(w/v)HPG−MePEG−NH
2(10mol/mol)溶液を2時間注入して処理したマウス膀胱の表面では、2時間の注入時間直後は、アンブレラ細胞層は無傷であった(
図49)。10%(w/v)HPG−MePEG−NH
2(10mol/mol)溶液注入後6時間では、マウス膀胱表面で単一アンブレラ細胞の喪失が示され、上皮層下部が露出していた。同一の注入後24時間では、マウス膀胱表面でアンブレラ表層は無傷であった(
図49)。
図50中に示す通り、2時間の1%(w/v)HPG−MePEG−NH
2(37mol/mol)溶液注入処理したマウス膀胱表面では、2時間の注入時間直後は、アンブレラ細胞の完全喪失が示され、上皮層下部が露出していた。1%(w/v)HPG−MePEG−NH
2(37mol/mol)溶液注入後6時間では、依然として、マウス膀胱表面でかなりのアンブレラ細胞の喪失が示された。1%(w/v)HPG−MePEG−NH
2(37mol/mol)溶液注入後24時間では、マウス膀胱表面で表面の一部が無傷であった(
図50C上部)が、アンブレラ細胞は相当喪失していた(
図50C左下)。
図51中に示す通り、2時間の10%HPG−MePEG−NH
2(37mol/mol)溶液注入処理されたマウス膀胱表面では、2時間の注入時間直後は、アンブレラ細胞の完全喪失が示され、上皮層下部が露出していた。10%HPG−MePEG−NH
2(37mol/mol)溶液注入後6時間では、マウス膀胱表面でやはりアンブレラ細胞の完全喪失が示された。注入後24時間では、マウス膀胱表面でアンブレラ細胞層は無傷であったが、他で観察される
無傷層よりも表面細胞が小さく見え、外見があまり平面状でなかった(
図51)。アンブレラ細胞喪失に対する製剤の影響は、dHPGのアミン含量及びdHPGの濃度に依存することが観察された。
【0255】
組織学
密着結合、細胞剥離及び炎症細胞の浸潤における変化について、組織を評価した。組織学的解析結果を表18中に集約する。組織学的解析結果から理解できるように、dHPG製剤への曝露後、マウスの膀胱表面に炎症及び壊死の徴候を観察しなかった。
【0256】
【表22】
【0257】
尿の分析
動物を安楽死させた後、膀胱を露出させ、膀胱穿刺及び25Gニードルを通した回収によりその内容物を取り出した。尿を氷上に保存(しかし、凍結させない)し、評価のために輸送した。細胞の存在に関して、尿を分析した。数滴の尿を顕微鏡スライドガラス上に静置し、細胞の存在に関して、顕微鏡により観察した。存在するあらゆる細胞を血球計スライドにより計数した。2時間の注入直後、及び膀胱採取時(2、6、24時間)にマウスから採取した尿中の細胞数を
図52中に示す。
【0258】
血液分析
CO
2吸入の終了時に、臨終の際心穿刺により血液を採取し、おおよそ500〜700μLをEDTA microtainerチューブに入れた。各チューブを数回転倒させ、血液とEDTAとを確実に一様に混合して凝集を防止した。血液サンプルは、各時点についてすべてのサンプルを回収するまで氷上に保存し、次いで、処理して血漿を生成した。サンプルを2500rpm、4℃で15分間遠心することにより血漿を生成した(rpmはBeckman GH 3.8A rotor,RCF
avg 200xgに基づく)。血漿上清をピペットで吸い、ラベルしたバイアル中に入れ、−80℃で保存した。M
esoScale platform and standard assayキットを用い、TNFαレベルに関して血液を分析した。マウス血液中、様々な製剤による注入後2、6及び24時間での循環TNFαレベルを
図53中に示す。あらゆるサンプルでTNFαを検出しなかった。
【0259】
本発明の様々な実施形態を本明細書中に開示するが、当業者に共通する一般知識によって、本発明の範囲内で多くの適合化及び変更がなされ得る。当該変更としては、実質同一の方法で同一の結果を達成すべく、本発明の任意の態様を公知の同等物で置き換えることが挙げられる。数値範囲には、範囲を規定する数値が含まれる。単語「comprising」は、本明細書では任意のオープンエンドの用語として使用され、句「including,but not limited to」と実質的に同等であり、また単語「comprises」は同様の意味を有する。本明細書で使用する場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈により明らかに別途指示されない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「a thing」への言及は1以上の当該物を含む。
【0260】
本明細書において文献を引用することによって、当該文献が本発明の先行技術であると承認することはないし、当該文書の内容又は日付に関し、何ら承認を構成することもない。本明細書において引用された、任意の優先権文書及びすべての刊行物(特許及び特許出願が挙げられるが、限定されない)は、参照により、個々の刊行物が具体的に且つ個々に、本明細書中に参照により組み込まれたと、また全体が本明細書中に提示されたかのように、表示されたかのように本明細書中に組み込まれる。本発明は、本明細書中に前記した通りのもの、並びに実施例及び図面を参照したものと実質同一の実施形態及び変更をすべて含む。