【実施例1】
【0018】
以下、本発明について、実施するための形態を図面にしたがって説明する。
【0019】
図1は、本発明の姿勢保持装置100の全体の斜視図である。姿勢保持装置100は、支持板110と、支持板110に接続されるスライド機構部120と、スライド機構部120に接続される継手130と、を左右一対に備える。さらに、左右一対の継手130に接続され、中央にパッド140を有するフレーム150を備える。
【0020】
図2は、平板300を車椅子Wの座部の下に取り付けることによって、姿勢保持装置100を車椅子Wに適用した使用例の側面図である。本実施例においては、支持板110は脚金具200に接続され、脚金具200が平板300に固定される。本実施例は、車椅子Wの使用者Pにとって好適な構成である。なお、姿勢保持装置100は、脚金具200および平板300を用いて車椅子Wに取り付ける用途に限られるものではない。姿勢保持装置100は、通常の椅子に取り付けても良い。一例として、支持板110を、通常の椅子の脚部に取り外し容易な態様で取り付けることがあげられる。
【0021】
姿勢保持装置100は、使用者Pの胸部にパッド140が当接する構成であり、使用者Pの前傾動作および座位復帰動作を補助して連動する。具体的には、復帰機構を有するスライド機構部120の摺動によって、継手130、パッド140、およびフレーム150が、一体として、パッド140が胸部に当接する使用者Pの前傾動作および座位復帰動作に連動する。
【0022】
図2が示すとおり、支持板110の長手方向は、車椅子Wの座部に対して垂直である。このとき、スライド機構部120は、支持板110との接続部から継手130との接続部にかけて、上方に傾きを有する。傾きの角度は、水平方向に対して12度であることが好ましいが、限定されるものではない。12度という角度は、頸髄損傷者による座位から前傾姿勢に移行するときの胸部の軌道、および前傾姿勢から座位移行するときの胸部の軌道を実験により求め、各軌道を直線で近似すると12度となることを基にしている。
【0023】
スライド機構部120を水平方向に対して12度の角度をもって支持板110に接続することで、姿勢保持装置100の負荷を軽減することができる。姿勢保持装置100の負荷を軽減するために、脚金具200および平板300の使用の有無に関わらず、通常、支持板110は、その長手方向が使用者Pの座部に対して垂直になるように設置するべきである。
【0024】
本実施例においては、支持板110は、L型金具210を介して脚金具200に接続されているが、脚金具200は、ロックを解除することによって、L型金具210との接続部が直角に傾倒可能とする構造である。そのため、支持板110、スライド機構部120、継手130、パッド140およびフレーム150が、一体として、傾倒可能である。
【0025】
図3は、姿勢保持装置100の傾倒状態を表す側面図である。脚金具200は、テーブル脚部の折りたたみのために用いられる金具が好適であり、本実施例においては、タキゲン製造株式会社のテーブル金具「B−1847」を適用しているが、これに限定されるものではない。
【0026】
本実施例において、車椅子Wおよび姿勢保持装置100の使用者Pは、姿勢保持装置100が傾倒した状態で、側方から車椅子Wに移乗され、それから姿勢保持装置100を元の位置に戻すことで、
図2の姿勢保持装置100の初期状態に至る。
本構成によって、姿勢保持装置100は、使用者Pの着座を妨げることがなく、着座の後の装着も容易である。
【0027】
スライド機構部120は、継手130を介して、中央にパッド140を有するフレーム150と接続される。継手130は、使用者Pの前傾方向に可動することが好ましく、本実施例においては、ダブルクレンザックを用いるが、これに限定されるものではない。ダブルクレンザックを用いることによって、容易に初期状態の調節および可動範囲の調整をすることができる。また、継手130は、フレーム150との接続に際して接続位置を調節できることが好ましく、本実施例においては、ねじ穴131および緊締具132を備える。接続位置を調整できることによって、パッド140を使用者の体格にあわせて配置することが可能となる。具体的には、姿勢保持装置100の使用者Pの身長が高い場合は、上方のねじ穴131を用いて緊締具132によって継手130とフレーム150とを接続する。反対に、姿勢保持装置100の使用者Pの身長が低い場合は、下方のねじ穴131を用いて緊締具132によって継手130とフレーム150とを接続する。継手130は、通常、その長手方向が使用者Pの座部に対して垂直になるように、スライド機構部120と接続する。
【0028】
図4は、パッド140の拡大図であり、フレーム150との接続状態を示している。パッド140は、使用者Pが前傾姿勢となるときに、使用者Pの胸骨に当接する。胸骨は丈夫であり、痛みも感じにくい部位であるため、使用者Pの前傾姿勢を支持することに適している。パッド140は、フレーム150に丸棒151および小型スライドレール152を介して接続され、上下動および回転が可能である。具体的には、パッド140は、丸棒151を軸として回転が可能であり、さらに小型スライドレール152によって上下動が可能である。小型スライドレール152は、図示しないバネを備える。パッド140は、使用者が前傾姿勢となっても、継手130およびフレーム150の傾倒に追随して、上下動および回転をしながら当接し、胸部から離れたときに、バネによって初期位置に戻る。
本構成によって、姿勢保持装置100は、使用者Pの前傾および座位復帰動作にパッド140が追随するため、スライド機構部120が直線移動をする機構であっても、使用者Pの胸部における前傾時と復帰時の軌道の差を許容することができる。
【0029】
姿勢保持装置100の装着時において、支持板110、スライド機構部120および継手130は、使用者Pの側方に左右一対に位置する。また、フレーム150は、継手130との接続部から、脇の下を経由し、人体の胸部の形状に沿って湾曲し、胸部の正面に至る構造である。フレーム150は、ジュエット型の体幹装具の上部を援用することができる。パッド140は、使用者Pが前傾するときに胸部に当接する部分であるものの、常時接触していなくてもよい。姿勢保持装置100は、装着時においては、使用者Pの身体に全く接触しない構成であってもよく、接触する部分があったとしても、使用者Pの身体にかかる負担はごく軽微である。
本構成によって、姿勢保持装置100は、座位において使用者Pの身体への接触を最小限にとどめ、圧迫や褥瘡発症等といった皮膚への負担を軽減することができる。
【0030】
図5は、継手130およびフレーム150の動作状態を表す側面図である。継手130のダブルクレンザックは、初期状態を、ダブルクレンザックの内部のスプリングによって調節することができる。使用者Pが前傾姿勢となると、パッド140は胸骨に押され、フレーム150が前方に移動しようとする。フレーム150は、継手130のダブルクレンザックの可動範囲内で傾倒するが、可動範囲を超えると、スライド機構部120に沿って前傾方向にスライドする。ダブルクレンザックの前傾方向の可動範囲は、約20度とすることが好ましい。
【0031】
図6は、スライド機構部120の拡大図である。スライド機構部120は、支持板110に接続する内側接続板121と、内側接続板121の外面に接続するスライドレール122と、スライドレール122の外面を直線的に摺動するブロック123と、ブロック123の外面に接続する外側接続板124と、を備える。外側接続板124は、継手130と接続する。内側接続板121は、端部にフック125が装着され、外側接続板124は、端部にアイプレート126が装着され、フック125は、先端が外側接続板124のスリット127から突出し、フック125と、アイプレート126は、バネ128によって連結する。
【0032】
スライドレール122、フック125、アイプレート126、およびバネ128は、一般的な市販品を使用することができるが、限定されるものではなく、以下はいずれも一例である。本実施例においては、スライドレール122は、株式会社ミスミの「SELBWZ12−200」を使用する。また、フック125は、スガツネ工業株式会社の「FC−50」を使用する。また、アイプレート126は、株式会社ハイロジックの「CH−551」を使用する。また、バネ128は、株式会社昌和バネ製作所の「HS200シリーズ」を使用する。
【0033】
使用者Pの前傾によってフレーム150が前方に移動するとき、フレーム150は、継手130を介して外側接続板124に接続しているため、外側接続板124は、スライドレール122の外面を直線的に摺動するブロック123とともに直線的に移動する。同時に、外側接続板124に装着されているアイプレート126も、前方に移動する。このとき、アイプレート126は、連結しているバネ128を引っ張る。バネ128と他方で連結し、先端が外側接続板124のスリット127から突出するフック125の位置は、支持板110に接続する内側接続板121に装着されているため、フレーム150の移動にかかわらず、変動しない。使用者の前傾姿勢によって蓄勢されたバネ128は、パッド140を介して、使用者Pの姿勢を元の座位に復帰させようとする弾性エネルギーを有する。この弾性エネルギーは、使用者Pの前傾姿勢を保持する効果もある。
【0034】
適切な弾性エネルギーを得るために、バネ128には適切な強度が求められる。バネ128の選定に必要なバネ定数は、バネの変位による荷重の釣り合いから、下記の式1が成り立つ。
【数1】
式1中、mは使用者Pの頭部および体幹部の重量、gは重力加速度、θは使用者Pの前傾姿勢の角度、kはバネ定数、xは釣り合った時点のバネの変位であり、角度は度数法による。左辺の第1項は、バネ128が姿勢保持装置100の左右に2個連結されているため、0.5倍とする。ここで、変位xは、スリット127の長さで釣り合うことを前提とする。一例として、スリット127が120mmである場合において、使用者Pが35度の前傾姿勢となったときに、バネ128が変位xの最大値であるスリット127の長さまで伸びて、頭部および体幹部の重量が22.4kgである使用者Pの前傾姿勢が釣り合う場合のばね定数kは、0.525N/mmである。
【0035】
本実施例においては、スライド機構部120の復帰機構の反発力は、バネ128の弾性によって発揮されるが、適切な反発力を発揮することが可能であれば、バネ128の弾性に限定されるものではない。例えば、自動制御可能である油圧シリンダーによって、適切な反発力を発揮する復帰機構であってもよい。また、使用者Pへの衝撃を和らげるために、バネとダンパーを併用することも可能である。
また、支持板110、スライド機構部の内側接続板121および外側接続板124と継手130はそれぞれ分離した部品として説明したが、一体成形によっても構成することができる。
本構成によって、姿勢保持装置100は、使用者Pの安定した前傾姿勢の保持および前傾姿勢からの復帰を補助し、転倒の防止に寄与し、両手を使った作業を容易にできることを可能とする。