【実施例】
【0044】
以下では、
図3および
図4を参照しながら、ROI定義の不確かさを本治療計画プロセスに組み込む方法に関する3つの実施例についてより詳細に説明する。
【0045】
実施例1:別々の領域
疾患を含む確率p
1、...、p
nを有する領域R
1、...、R
nを含むROIを検討する。j<iの場合に領域R
jで臨床的目標を満たす前に領域R
iで臨床的目標を満たす利点はないという意味で、i>1の各領域R
iは全てがj<iの領域R
jに依存している。
【0046】
図3の標的T1では、これらの領域はR
1、R
2およびR
3であり、ここでは、R
1は100%の疾患を含む確率を有する領域であり、R
2は60%の疾患を含む確率を有する領域であり、R
3は20%の疾患を含む確率を有する領域である。従って、p
1=1、p
2=0.6およびp
3=0.2である。領域間の依存は、標的T1に対して臨床的目標があれば、最初に領域R
1において、次いで領域R
1∪R
2において、そして次いで領域R
1∪R
2∪R
3においてその目標を満たす努力をすべきであることを意味している。これは、その目標が標的T1に50Gyの線量を照射することであれば、領域R
1∪R
2が50Gyを受けない限り領域R
3に50Gyを照射する利点はなく、領域R
1が50Gyを受けない限り領域R
2に50Gyを照射する利点がないこと意味している。当業者には明らかなように、他の実施形態では、異なる領域を相互に独立したしたものとみなすことができる。
【0047】
依存的領域R
1、...、R
nを有する所与のROIにおける臨床的目標(例えば標的領域に対する最小線量)を満たす確率は、以下に従って計算することができる。
領域R
1、R
1∪R
2、R
1∪R
2∪R
3、...、
【数3】
を順番に検討する。臨床的目標がこれらの全てに対して満たされる場合、臨床的目標を満たす確率は1である。そうでなければ、「j」を、臨床的目標が満たされない、すなわち領域
【数4】
において臨床的目標が満たされないこれらの領域のうちの最初の1つの指数を意味するものとする。この領域において疾患が存在する確率は、その成分の最小の確率すなわちmin{p
1、...、p
j}=p
jであり、ここでは、当該領域が確率の減少順に並べられているため等式となっている。従って、臨床的目標が満たされない確率はp
jとなる。
【0048】
従って、一例として
図3を参照すると、臨床的目標が標的T1の領域R
1において満たされるが、領域R
1∪R
2において満たされない(従って、領域R
1∪R
2∪R
3でも満たされない)ものと仮定する。故に、R
1∪R
2は臨床的目標が満たされない最初の領域であり、これは標的T1に対して臨床的目標が満たされない確率がp
2=0.6であることを意味する。さらに、全ての標的T1、T2およびT3は、
図3に示すように全てが相互に独立している。一例として、臨床的目標が標的T2に対して満たされないが、標的T3に対して満たされるとものと仮定する。故に、標的T2の臨床的目標が満たされない確率は0.1であり(標的T2に疾患が存在する確率は10%であるため)、標的T3の臨床的目標が満たされない確率は0である。故に、全ての腫瘍を治癒させる総確率は(1−0.6)×(1−0.1)×(1−0)=0.36である。
【0049】
同様に、
図3の領域Oなどの様々なOARのためにその目標を満たす確率を計算することができる。
【0050】
次いで、最適化により、これらの確率に関して最も良好に行う計画を見出さなければならない。例えば、全ての確率の積(すなわち全ての臨床的目標を満たす確率)を最大化するために努力することができる。あるいは、1つ以上の確率に制約を課すことができ、いくつかの他の目標(例えば、最大線量、モニタ単位(MU)数などに関する治療目的など)を最適化することができる。
【0051】
上記のように最適化を用いる場合、トレードオフはそれぞれの領域の不確かさ尺度ならびに異なる領域の線量照射/温存を達成するコストによって決まる。一例として、
図3を参照すると、標的領域T1の領域R
1ならびに標的領域T3において臨床的目標を満たす(上に例示されているように標的の臨床的目標を満たす確率「0.36」が得られる)と共に、OAR「O」の領域R
4およびR
5の両方に対して臨床的目標を満たすことができる(すなわち、OARの臨床的目標を満たす確率「1」が得られる)ものと仮定する。これにより全ての臨床的目標を満たす確率「0.36×1=0.36」が得られる。ここで、OARの臨床的目標が領域R
4内で満たされるが領域R
5内で満たされない(OAR臨床的目標を満たす確率「1−0.4=0.6」が得られる)場合、領域R
1および標的T3だけでなく領域R
2内でも標的臨床的目標を満たすことができる(標的臨床的目標を満たす確率「(1−0.2)×(1−0.1)×(1−0)=0.72」が得られる)ものと仮定する。これにより全ての臨床的目標を満たす確率「0.72×0.6=0.432」が得られる。
【0052】
従って、線量が領域R
1、R
2およびT3に対して処方されるが領域R
3およびT2に対して処方されない治療計画を用いて全ての臨床的目標を満たす確率を最大化させるが、これは、リスク臓器「O」を温存するという点で非常に高価になるという理由から、標的領域R
3およびT2に対して線量を計画することは有利でないということを示している。
【0053】
全ての利用可能な不確かさ情報を考慮することにより、治療計画システムは、より良好な治療計画が得られ、例えば、正常組織を損なうことなく総腫瘍照射を達成する最も高い可能な確率が得られる、特定の状況で最も有利なトレードオフを特定する。
【0054】
実施例2:連続的かつ非階層的領域
その中の各点が区間(0,1]において疾患を含む所定の確率を有する標的領域Rを検討する。最適化の目的は疾患を治癒させる確率を最大化することである。
【0055】
ボクセルごとに分離可能な目標(例えば、各ボクセルに対する線量は60Gy超にすべきであるという目標)のために、疾患を有する全てのボクセルにおいてその目標を満たす(疾患を有する全てのボクセルに60Gy超の線量を照射する)確率を以下のように計算することができる。
【数5】
(式中、Iはその目標が満たされない領域Rに属する全てのボクセル(60Gy未満の線量を有するR内のボクセル)のセットであり、p
iはボクセルiが疾患を含む確率である)。セットIが空の場合、確率は1である。
【0056】
最適化の目標は、この確率を最大化する線量を照射することであり、これは、セットI内のボクセルが疾患を含む可能な限り低い確率が存在するような方法で線量を照射する場合と同じである。
【0057】
繋がった標的体積を治療することが望ましい場合もある。これは、治療される標的体積が常に繋がった体積であるような治療される体積の形状に対する制約の導入により達成することができる。
【0058】
図4Aは、標的の定義の不確かさを反映した、疾患が存在することが知られている内側領域41および外側の「不確かな」領域42を含む標的体積の2D画像表示を示す。従って、領域42は、上記実施例と同様に、例えば専門家によって定められる近似輪郭に一致することができる。内側領域41の内側のボクセルは100%の疾患を含む確率を有するものとみなし、領域41および42の外側のボクセルは0%の疾患を含む確率を有するものとみなす。従って、外側領域42内の各ボクセルは0〜1の範囲の疾患を含む確率を有する。ボクセルに対する確率は、外側領域42内のボクセルの位置によって決まってもよい。例えば、その確率は線形に、あるいは内側領域41の表面に対する法線43に沿って外側領域42の内側境界にあるボクセルにおける「1」から外側領域42の外側境界にあるボクセルにおける「0」まで、指数関数的に減少することができる。外側領域42内の変化する確率を多くの他の方法で、例えば専門家によってなされる推測に従って定めることができることは明らかである。例えば、異なるように連続的に変化する確率を有する複数の領域を定めることができる。
【0059】
上記方法において方程式(3)を用いて、治療される標的体積を最大化する。
図4Bは、そのような方法を用いることにより得られた例示的な標的体積44を示す。図から分かるように、治療される体積は、若干の不規則性を有する可能性がある。しかし、実施例1に関して上に記載した同様の理由で、標的の中心により近い隣接する領域を治療しない場合に離れた領域を治療することは通常は有益ではないため、標的体積の形状に対して制約を課すと有利であり得る。
【0060】
実施例3:分離不可能な目標
上記のとおり、各ボクセルが区間(0、1]において疾患を含む所定の確率を有する領域R(その領域が標的に関する場合)を検討し、あるいは、その領域がOARに関する場合は領域特有のある他の組織の種類を検討する。以下では、領域Rは標的領域に関するものとして例示されている。従って、ボクセルに割り当てられた確率は、真の標的体積がボクセルを含む確率を反映しており、従って、その確率は疾患を含むことが知られている領域内のボクセルにおける100%から、疾患を含まないことが知られている領域内のボクセルにおける0%まで減少する。全ての可能な標的体積および、これらのそれぞれについて、それが真の標的体積である対応する確率(これらはボクセルへの離散化によりゼロ以外である)を検討する。100%の確率を有するボクセルはこれらの標的体積の全てに含まれている。計画があれば、「S」を臨床的目標が満たされる標的体積全体にわたる指数セットとし、かつ「p
i」を標的体積「iはSの要素である」が真の標的体積である確率とする。故に、最適化の目標は、真の標的体積における臨床的目標を満たす確率を最大化することであり、これは
【数6】
を最大化することを意味する。
【0061】
これは、真の標的体積を含むことが可能な限りほぼ確実である標的体積セットを指数付けする領域「S」が得られる線量分布を見つけることによって達成される。この手法は、ボクセルごとに分離不可能な目標を用いる場合、例えばDVHに基づく最適化関数(すなわちX%のROIが少なくともYのGyを受けることを要求する目標)を用いる場合に適用可能である。
【0062】
上記全ての実施形態はROI定義の不確かさを本治療計画プロセスに組み込む方法の単なる例であり、当業者には明らかなように多くの他の方法が想定される。
【0063】
上述のように、ROI定義の不確かさを様々な異なる方法で定めることができる。例えば、これも上に説明したように、手作業による領域分割または自動領域分割手順の間または後に、例えば専門家ユーザ(例えば腫瘍学者)によって小領域および対応する不確かさ尺度を手作業で定義、修正および/または承認することができる。例えば、異なる程度の不確かさ(例えば異なる輪郭幅)を示す輪郭セグメントを定めるためのツールを含む任意の好適なユーザインタフェースを用いて、当該領域および/または対応する不確かさ尺度を画像内に直接定義することができる。
【0064】
当該ユーザは、例えば輪郭セグメントの各側における信頼区間を定める不確かさの数値尺度を特定の輪郭の一部に割り当てることもできる。例えば専門家によって割り当てられる様々な種類の不確かさ数値尺度を場合により画像情報と組み合わせて、上に記載し、かつ
図3に示す小領域に対応する複数の小領域を画定するため、あるいは上に記載し、かつ
図4Aに例示する特定の領域内の連続的に変化する不確かさを定めるために使用することができる。
【0065】
図3に示す近似輪郭領域を、治療計画のためのより良好な基礎を提供するために、異なる割り当てられた確率を有するより小さい小領域のさらにより大きなセットに分けることができる(但し、本治療計画プロセスの計算負荷をより高めてしまう)。領域の数および対応する割り当てられた確率を、所定の判断基準に従って自動的に決定することができる。例えば、固定された所定数の小領域を使用することができ、あるいは小領域の数を近似輪郭セグメントの拡大(例えば幅)によって決めてもよい。次いで、特定のボクセルの不確かさ尺度を、所定の判断基準ならびにボクセルから近似輪郭の内側および外側境界までの相対距離によって決める。あるいは、画像強度データの分析に基づく方法などの、小領域および対応する不確かさ尺度を定めるための他の方法を用いてもよい。例えば、画定された輪郭の全ての部分にそれぞれの輪郭部分に近い領域におけるコントラストに基づく不確かさ尺度を割り当てることができる。従って、低コントラスト領域内の輪郭セグメントには比較的より大きな不確かさが自動的に割り当てられる。そのような自動的に割り当てられた不確かさ尺度は、専門家によって評価および承認されるか、あるいは必要であれば修正されると有利である。
【0066】
不確かさ尺度は、例えばROIに関する要素の異なる大きさ、色、透明度などを用いる様々な方法で画像内に視覚化してもよい。例えば指定された領域が疾患を含むか否かに関する不確かさ情報は、測定値(例えば、生検またはPETスキャンなどに基づく)、コンピューターシミュレーション、他の患者からの統計データから、あるいは任意の他の方法で決定することもできる。
【0067】
本発明に係る方法は、セットアップの不確かさを考慮するための確率的アプローチに基づく方法などの、よりロバストな治療計画を作成するために以前に使用したあらゆる任意の方法と組み合わせることができる。さらに、安全性マージンを用いて拡大された領域などの任意の領域に対して本発明の方法を用いることができる。生じ得るセットアップの不確かさまたは治療中の標的の動きを補償するために、通常は標的体積にマージンを付ける(「計画標的体積」(PTV)を作製する)。例えば、特定の不確かさ尺度を臨床的標的体積(CTV)の領域に割り当て、かつCTVに均一なマージンを付けてPTVを定義する場合、同じ不確かさ尺度をPTVの対応する領域に割り当て、かつ上記治療計画プロセスで使用することができる。
図5は、CTV53の近似輪郭セグメント52がPTVの対応する近似輪郭セグメント54に転写される場合のそのようなPTV51を示す。
【0068】
図6は本発明に係るコンピュータシステム61の例を概略的に示す。本システムは、メモリ63に接続された処理装置62を備える。さらに、本システムは、表示装置64(例えば定義されたROIおよび対応する不確かさ尺度を有する患者画像、グラフィカルユーザインタフェース、および治療計画に関連する他の情報を表示する)、データ入力装置65(例えば、キーボード、マウスまたはデータ入力に適した任意の他の装置)ならびにデータ読み取り/書き込み装置66(例えば、光学式ドライブ、USBインタフェース、またはデータの読み取り/書き込みに適した任意の他の装置)を備えていてもよい。処理装置62は、1つ以上の中央処理装置(CPU)または、例えば1つ以上のグラフィックス処理装置(GPU)に基づく任意の種類のパラレル処理装置システムなどの任意の種類の処理装置であってもよい。メモリ63は、例えばハードドライブなどの情報を格納および検索するのに適した任意の種類の揮発性もしくは不揮発性メモリであってもよい。メモリ63は、コンピュータプログラム67をそこに格納している。コンピュータプログラム67は、コンピュータ可読命令を処理装置62に転送し、かつそれにより実行することができる、不確かさに基づく最適化を行うためのコンピュータ可読命令を含む。処理装置62によって実行されると、コンピュータ可読命令は、ROIの定義における不確かさに基づいて治療計画を決定するために
図1に示す方法を行う。決定された治療計画は、患者画像、ROI、不確かさ尺度および任意の他の治療計画関連情報と共にメモリ63に格納することができる。コンピュータプログラム67をメモリ63にロードし、かつ/または異なる計算システムに転送することができるように、コンピュータプログラム67も非一時的コンピュータ可読媒体68、例えば、USBドライブ、CD−ROMなどの光学データキャリアまたは任意の他の好適な携帯可能な情報格納装置に格納することができる。
図6を参照して説明したシステムは単なる例であり、本発明に係るコンピュータシステムは必ずしも例示されている構成要素を全て備えているわけではなく、かつ/または図示されていない他の構成要素を備えていてもよい。
【0069】
多くの例示的な実施形態を参照しながら本発明について説明してきた。当然のことながら、これらの実施形態は本発明の原理および用途の単なる例示である。従って、当然のことながら、例示的な実施形態に対して数多くの修飾をなすことができ、かつ添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく他の構成を考案することができる。