特許第6550046号(P6550046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レイサーチ ラボラトリーズ エービーの特許一覧

特許6550046不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム
<>
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000008
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000009
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000010
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000011
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000012
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000013
  • 特許6550046-不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550046
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】不確かさに基づく放射線療法治療計画のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   A61N5/10 P
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-525950(P2016-525950)
(86)(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公表番号】特表2017-514532(P2017-514532A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】SE2014051147
(87)【国際公開番号】WO2015080647
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年8月29日
(31)【優先権主張番号】13194947.1
(32)【優先日】2013年11月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516119715
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハーデマーク,ビョルン
【審査官】 吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−514115(JP,A)
【文献】 特表2009−533782(JP,A)
【文献】 特開2006−043235(JP,A)
【文献】 特開2002−186678(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/012768(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0234626(US,A1)
【文献】 特表2011−512999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の内部画像に基づいて前記対象のために放射線治療計画を作成する方法であって、メモリ(63)内に格納されたコンピュータプログラム(67)に基づいて、以下の工程を処理装置(62)が実行する方法であって、前記方法は:
− 対象の画像を検索する工程(11)と、
− 前記画像内の関心領域に関する少なくとも1つの不確かさ尺度を検索する工程であって、前記少なくとも1つの不確かさ尺度は前記関心領域の定義に関する不確かさの程度を反映していることを特徴とする工程(12)と、
− 前記関心領域または前記関心領域の一部を治療するか否かを決定すること含む、少なくとも部分的に前記少なくとも1つの不確かさ尺度に基づいて放射線治療計画を作成する工程(13)と、を包含し、
前記不確かさ尺度とは前記関心領域内の組織の特性に関する不確かさを指すことを特徴とし、かつ前記関心領域内の組織の特性は腫瘍細胞の存在または不存在に関するものであることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記不確かさ尺度とは、前記関心領域内の組織が放射線を受けた場合の生物学的反応に関する不確かさであることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不確かさ尺度は、
− 専門家の入力、
− 画像データ、
− 測定値、
− 統計データ、
− シミュレーション
のうちの1つ以上に基づいていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記放射線治療計画は、第1の関心領域、前記第1の関心領域に対して定められた第1の治療目的もしくは制約ならびに前記第1の治療目的もしくは制約に少なくとも部分的に相反する第2の治療目的もしくは制約に関連する不確かさ尺度に少なくとも部分的に基づいて作成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記放射線治療計画を作成する工程は、前記第1の関心領域を含む1つ以上の関心領域に対して定められた1つ以上の臨床的目標を満たす確率の最大化を含み、かつ前記確率は少なくとも部分的に前記不確かさ尺度によって決まることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の治療目的もしくは制約は前記第1の関心領域に対して定められた1つ以上の臨床的目標を満たす確率に対する治療目的もしくは制約であり、前記確率は少なくとも部分的に前記不確かさ尺度によって決まり、かつ前記放射線治療計画を作成する工程は、前記第2の治療目的の最適化をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータで実行されると、前記コンピュータに請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を実行させるコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項8】
コンピュータ可読命令を含む前記コンピュータプログラム(67)をそこに格納する前記メモリ(63)に接続された前記処理装置(62)であって、前記コンピュータ可読命令を実行することにより請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成された前記処理装置(62)を備えるコンピュータシステム(61)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線療法の分野に関し、特に放射線療法治療計画に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、放射線療法での目標は、周囲の正常組織を可能な限り残しながら標的(例えば腫瘍)に十分に高い線量を照射することにある。特に、標的に近い敏感な器官に対する線量を最小限に抑えることが重要である。例えば治療計画システム(TPS)を用いて作成される治療計画は、これらの治療目標を達成するために各放射線療法セッションをどのように行うべきかを定める。より具体的には、逆方向治療計画では、所望の線量に最も近く一致する対象の体内における線量分布を作成する治療パラメータセットを見つけるために最適化アルゴリズムが用いられる。
【0003】
放射線療法治療計画は3次元CT画像などの医用画像に基づいている。治療計画の基礎として利用するために、これらの画像を領域分割しなければならない。画像の領域分割とは、画像内の異なる内部構造または他の関心領域(ROI)を定義または再構築するプロセスを指す。これらは、例えば画像内で識別可能な特定の内臓であってもよい。領域分割されたROIは、治療計画システムのユーザのために表示可能にし、かつ場合によっては操作も可能にするために、3次元画像内にソリッドオブジェクトまたは半透明オブジェクトとして表されることが多い。
【0004】
放射線治療計画の分野では、関心領域は、例えば標的体積またはリスク臓器(OAR)であり得る。CTスライス内に輪郭を描くためのツールなどの各種ツールを用いてROIを画像内に手作業で描写し、領域分割してもよい。あるいは、自動もしくは半自動化方法を使用することができる。例えば、そのような方法は既に領域分割された構造を含む構造モデルまたはアトラスを用いることができ、それらを新しいまだ領域分割されていない医用画像に転写し、患者の幾何学形状に一致させるために自動的に適合させる。次いで、そのような自動的に領域分割された構造は手作業で評価および承認されるか修正される。
【0005】
高品質な治療計画を得るためには、正確に領域分割されたROIが極めて重要である。それにも関わらず、描写されたROIの輪郭はその領域の真の位置に一致する程度に関して若干の不確かさが常に存在する。この不確かさの程度はROIの輪郭の異なる部分では異なることがある。例えば、低コントラスト領域(すなわち周囲組織の密度がROIの密度と同様である領域)に位置しているROIの輪郭のある部分の真の位置は、高コントラストにより画像内でROI境界を周囲組織と容易に区別できる部分と比較してより不確かな場合がある。
【0006】
輪郭の不確かさに加えて、指定された領域が実際に疾患を含むか否かの不確かさ、または領域内の組織の生物学的反応に関する不確かさなどの、関心領域の定義に関する他の不確かさを腫瘍学者によって特定することがある。
【0007】
腫瘍および他の構造の定義において観察者の間に大きなばらつきがあるため、1人の腫瘍学者によって定義される領域の体積および他の特性は、別の腫瘍学者によって定義されるものと著しく異なることがある。これらの差は必ずしも腫瘍学者の能力または経験のレベルが異なることが原因ではなく、例えば、不十分な画像品質(すなわち画像品質が低いとROIの正確な定義は不可能である)などの他の因子によるものが多い。
【0008】
臓器の位置および動き、患者のセットアップ誤差などに関する不確かさは、従来からROIにマージンを付けることで対処されている。その結果、治療計画は拡大された体積に基づくことになり、標的の適切な線量照射および/またはリスク臓器の十分な温存が保証される。しかし、これは必要以上に高い線量が健康な組織に照射される治療計画に繋がる恐れのある粗野な方法である。放射線療法治療計画の最適化の間に患者のセットアップおよび臓器の動きに関する不確かさを考慮するための確率的アプローチに基づくより高度な方法も提案されている。通常そのような方法では、例えば標的体積の異なる動きによって定義される複数のある程度確実なシナリオの検討を行う。
【0009】
しかし、治療計画中に適切な方法で考慮されない不確かさに関する多くのパラメータがなお存在する。
【0010】
本発明の目的は、上記欠点を克服するか少なくとも軽減することにあり、特に、より最適な治療計画を作成することができる治療計画システムを提供することにある。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様によれば、対象の内部画像に基づいて前記対象のために放射線治療計画を作成する方法であって、コンピュータで実行され、かつ
− 対象の画像を検索する工程と、
− 前記画像内の関心領域に関する少なくとも1つの不確かさ尺度を検索する工程であって、前記少なくとも1つの不確かさ尺度は前記関心領域の定義に関する不確かさの程度を反映していることを特徴とする工程と、
− 前記関心領域または前記関心領域の一部を治療するか否かを決定すること含む、少なくとも部分的に前記少なくとも1つの不確かさ尺度に基づいて放射線治療計画を作成する工程と、
を含む方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、コンピュータプログラム製品が提供される。好ましくは、本コンピュータプログラム製品は、コンピュータで実行されると、コンピュータに放射線治療計画を作成するための方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、コンピュータシステムが提供される。好ましくは、本コンピュータシステムは、放射線治療計画を作成するためのコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムをそこに格納する少なくとも1つのメモリに接続された処理装置であって、コンピュータ可読命令を実行するように構成された処理装置を含む。
【0014】
従って、本発明は、ROI定義の不確かさに関する情報を治療計画プロセスに組み込むことにより上に定義した目標を達成する。これにより、関連するROI定義の不確かさを考慮して全ての必要なトレードオフを評価することができるため、本治療計画システムはより最適な治療計画を決定することができる。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、不確かさ尺度とは、関心領域の輪郭または輪郭の一部の位置に関する不確かさを指す。従って、かなりの大きさになり得ることが多いROI描写に関する不確かさを、本治療計画の最適化方法に組み込む。不確かさ尺度は、関心領域の通常の輪郭幅に対してより大きな幅を有する輪郭または輪郭の一部によって定義することができる。そのため、不確かさ尺度は、好適なツールを用いて容易に定義することができ、かつ/または画像内に明確に視覚化することができる。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、不確かさ尺度とは、前記関心領域内の組織の特性に関する不確かさを指す。従って、放射線治療にとって重要な組織の特性に関する不確かさを、本治療計画の最適化方法に組み込む。そのような特性は、例えば当該領域内の組織の種類に関するものであってもよい。いくつかの実施形態によれば、当該組織の特性は、腫瘍細胞の存在または不存在に関する。そのため、より最適な治療計画を決定するために、ある領域に存在している疾患の確率(すなわちリスク)を利用することができる。いくつかの実施形態によれば、当該組織の特性は生物学的反応に関する。そのため、生物学的反応における不確かさ、すなわち腫瘍細胞の存在または治療による放射線が原因で生じる特定の患者悪影響(またはその欠如)の確率を推定(またはいくつのかの他の方法で特定)し、本治療計画プロセスで利用することができる。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、放射線治療計画を作成する工程は、関心領域または関心領域の一部を治療するか否かを決定すること含む。従って、治療計画は、ある標的領域または標的領域の一部のどこを全く治療しないかを決定することができる。これは、様々な領域特有の不確かさ(例えば疾患の存在および/または期待される生物学的反応に関する不確かさ)を治療計画システムへの入力として使用し、かつ許容不可能な放射線に誘発されるある特定の悪影響のリスクが特定の標的領域または標的領域の一部を治療しないことに伴うリスクをどこで超えるかの決定の結果であってもよい。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、不確かさ尺度は、専門家の入力、画像データ、測定値、統計データおよびシミュレーションのうちの1つ以上に基づいている。従って、不確かさは必ずしも専門家によって推定および入力される必要はなく、他の方法で決定することができる。しかし、自動的に決定される不確かさ尺度は一般に、治療計画プロセスでの使用前に専門家によって評価および承認される。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、第1の関心領域、第1の関心領域に関して定義された第1の治療目的もしくは制約、および第1の治療目的もしくは制約に少なくとも部分的に相反する第2の治療目的もしくは制約に関する不確かさ尺度に少なくとも部分的に基づいて、放射線治療計画を作成する。そのため、治療計画は相反する治療目標間の妥協に基づいており、そこでは治療目標のうちの少なくとも1つに関連する領域の定義に関する指定された不確かさが考慮される。従って、領域定義の不確かさを考慮し、かつ相反する治療目標を考慮してトレードオフを評価する。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、放射線治療計画を作成する工程は、関心領域のために定められた1つ以上の臨床的目標を満たす確率を最大化する工程を含み、前記確率は少なくとも部分的に不確かさ尺度によって決まる。放射線治療のための臨床的目標は通常、臨床医、例えば腫瘍学者によって定められる。これらの目標を満たす確率を最大化することを目指す治療計画プロセスを用いることにより、任意に定義された不確かさ尺度を効率的に本プロセスに組み込み、その結果、腫瘍学者によって処方された全ての目標を満たすのに可能な限り高い確率を有する治療計画が得られる。代わりまたは追加として、1つ以上のROIに関するいくつかの臨床的目標を満たす確率に対して制約を課すことができる。従って、本治療計画プロセスでは、これらの制約に従って他の治療目的を代わりに最適化することができる。例えば、特定の目標を満たすある最小の許容可能な確率(ここでは、確率は定義されたROI定義の不確かさによって決まる)を定める制約を用いた場合、本治療計画システムは、他の治療目的に関して考え得る限りで最良の治療計画であるが最小の許容可能な確率に対して予め定められた制約をなお満たす治療計画を決定することができる。
【0021】
本発明のさらなる態様は、その詳細な説明および添付の図面を考察することにより明らかになるであろう。これらは単に好ましい実施形態を例示するためのものであって、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る方法のフローチャートである。
図2】標的輪郭の一部に対して不確かさ尺度が定義されている標的領域の概略図である。
図3】各領域の定義の不確かさを示す、不確かさ尺度が定められている3つの別個の標的領域およびリスク臓器領域の概略図である。
図4A】疾患の存在について連続的に変化する確率を有する領域として定められている不確かさ尺度を有する標的領域を概略的に示す。
図4B】定義された不確かさに基づいて治療計画中に決定される治療領域を概略的に示す。
図5】対応するPTVに転写されたCTVについて定義された不確かさ尺度を概略的に示す。
図6】本発明の例示的な実施形態に係るコンピュータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図2図5には、診断用患者画像の2次元断面(すなわちCTスキャンの単一スライスの表示)が示されている。これは単に例示のためのものであって本発明の理解を容易にするためのものであり、通常、診断用画像は対象の3次元表示を定義する多くのスライスを含むことを強調しておく。従って、図に示されている関心領域は、患者の3D画像において定義されている体積の断面図とみなすことができる。患者の3D表示は、線量の計算のために複数のボクセルに離散化することができる。
【0024】
図1は、本発明に係る方法の異なる工程を示すフローチャートである。
【0025】
工程11では、対象の内部画像(すなわち体の内面を示す画像)を検索する。これはコンピュータ断層撮影(CT)スキャンからの3次元画像であってもよいが、例えば磁気共鳴画像法(MRI)などの他の画像診断法または画像診断法の組み合わせも可能である。
【0026】
工程12では、画像内の関心領域の定義に関するいくつかの態様に関する少なくとも1つの不確かさ尺度を検索する。例えば、不確かさ尺度は、疾患の存在、生物学的反応またはROI輪郭の位置に関するものであってもよい。一例として、不確かさ尺度は可能な輪郭位置の範囲を定めることができる。不確かさ尺度は、例えば描写プロセス中に例えば腫瘍学者が手作業で予め定めてもよく、かつ/または逆方向治療計画プロセス中のフィードバックとして入力してもよい。
【0027】
工程13では、不確かさ尺度のうちの1つ以上を考慮して治療計画を作成する。以下に記載するように、不確かさ尺度に加えて線量または生物学に基づく治療目的もしくは制約などの治療計画を最適化するための複数の他のパラメータを用いる治療計画システムを用いて、治療計画を作成する。
【0028】
光子、プロトンまたは電子を含む任意の種類の画像診断法を用いる任意の種類の放射線治療装置での使用のために治療計画を最適化することができる。治療計画は、強度変調放射線治療(IMRT)計画または、例えば3次元原体照射(3DCRT)計画または強度変調回転照射(VMAT)計画などの任意の他の放射線治療計画であってもよい。
【0029】
逆方向治療計画における一般的な手法は、多くの場合、特定の計画制約に従って、全ての最適化関数からなる目的関数を最小化(最大化)することである。目的関数は全ての最適化関数fの加重和、すなわち
【数1】
(式中、最適化関数の重み「w」は、1つの最適化関数値における減少が場合により相反する別の治療目標に関する第2の最適化関数値における増加と相殺される割合に対応する)であってもよい。ROI内の異なるボクセルの線量目的の相対的重要性を反映するボクセル特有の重みを使用することができる。
【0030】
ボクセル「j」を含むROIに関する最適化関数「f」の単純な例は、
【数2】
である。線量「d」は最適化によって決定される治療パラメータの関数である。相対体積を掛けて基準線量の二乗で割ることによる正規化は、目的重みを無視して、体積および基準線量レベルとは無関係に全てのROIを等しく重要であるとみなすという効果を有する。(2)に定義されている最適化関数を用いて、基準線量に対する過少量および過剰量の両方に等しくペナルティを課す。これは単なる一例であり、この関数の代わりに、あるいはこれに追加して、多くの他の最適化関数を用いることができる。そのような関数の例は、最小もしくは最大線量最適化関数、最小もしくは最大線量−体積ヒストグラム(DVH)に基づく最適化関数、または放射線生物学に基づく最適化関数である。
【0031】
目的関数を最適化して治療計画に到達させる場合、様々な異なる最適化技術を用いてもよい。例えば、逐次二次計画アルゴリズムに基づく方法などの勾配法または焼きなまし法などの発見的方法を使用することができる。最適化は、その後の機械パラメータへの変換を必要とするフルエンスに基づくもの、または機械パラメータが直接最適化される直接機械パラメータ最適化(DMPO)に基づくもの、あるいはそれらの両方の組み合わせであってもよい。最適化を用いる従来の逆方向治療計画は当該技術分野でよく知られているため、本明細書ではさらに詳細に説明しない。
【0032】
不確かさ尺度の本治療計画プロセスへの組み込みは、様々な異なる方法で行うことができ、最初に図3および図4を参照しながらこれについて以下に説明する。図1に示す本発明の方法を用いて最適化される治療計画は、異なる領域に関連する不確かさ尺度とこれらの領域を照射(または温存)するためのコストの両方(すなわち必要なトレードオフの程度)によって決まる。
【0033】
図2は、標的輪郭21を有する標的体積Tの2D表示を示す。不確かさ尺度は標的輪郭21の特定の部分に割り当てられており、この場合、内側境界23および外側境界24を有する拡大された「近似」輪郭22が得られる。そのような近似輪郭は、標的境界の真の位置は不確かであるが、(少なくとも高い確率で)近似輪郭22によって覆われている領域内のどこかにあることを示している。従って、近似輪郭は標的の定義の不確かさを反映している。近似輪郭22の幅などの特性は描写手順の間にユーザ、例えば腫瘍学者が定めることができ、あるいは他の方法で、例えば以下にさらに説明するように画像情報に基づいて自動的に定めることができる。
【0034】
近似輪郭22の内側境界23は標的輪郭の残りの部分21と1つにまとめられている場合、可能な最も小さい標的領域を画定する。それに応じて、近似輪郭22の外側境界24は標的輪郭の残りの部分21と1つにまとめられている場合、可能な最も大きな標的領域を画定する。疾患が当該領域全体に存在する可能性があるため、達成可能であれば線量をより大きな標的領域に照射すべきである。しかし、許容不可能な方法でリスク臓器への線量を増加させない限りより大きな標的領域を照射できないのであれば、標的領域の範囲を妥協しなければならないこともある。従って、近似輪郭22によって画定される領域は、最初に標的範囲において必要な犠牲を払わなければならない場所を示す。例えば、近似輪郭によって画定される領域の内側半分のみを照射することができれば、標的の真の輪郭が位置する場所によっては、全ての疾患を治癒させる見込みは(低いが)まだある。
【0035】
従って、不確かさに関する情報すなわち近似輪郭の拡大を最適化のための入力として使用することにより、以前は治療計画システムに利用可能ではなかったさらなる情報に基づいて治療計画を決定することができる。
【0036】
図3は、標的領域T1、T2、T3およびリスク臓器「O」を含む対象の2D画像表示を示す。標的領域T1はこの例では臨床的標的体積(CTV)を表し、ここでは輪郭の一部の正確な位置は不確かである。不確かさの程度は図2に示す標的に対する方法と同じ方法で、すなわちその中のどこかに真の標的境界が位置する内側輪郭境界33および外側輪郭境界34を有する幅広い近似輪郭32を用いて定められる。CTV輪郭のある部分の位置に関して不確かさの程度を定める不確かさ尺度は、CTV境界に近い領域における疾患の存在に関する不確かさ、すなわち特定の領域またはボクセルが疾患を含む確率とみなすことができる。T1の内側輪郭境界33によって画定される最も小さい可能なCTV標的を非常に高い(すなわち100%に近い)腫瘍細胞存在確率を有する領域Rとみなし、標的T1の外側輪郭境界34の外側領域を非常に低い(すなわち0%に近い)腫瘍細胞存在確率を有する領域とみなせば、腫瘍存在確率は近似輪郭領域32内で0〜1に変化するものとみなすことができる。従って、近似輪郭領域32内の各ボクセルに、近似輪郭境界に対するボクセル位置に従って特定の疾患存在確率を与えることができる。近似輪郭領域を所定量の領域に分けることができ、そこでは近似輪郭の内側境界33および外側境界34までの距離に従って各領域に特定の疾患存在確率が割り当てられる。図3に示す実施形態によれば、標的T1の近似輪郭領域は2つの領域R、Rに分けられており、そこでは内側領域Rおよび外側領域Rにそれぞれ60%および20%の疾患存在確率が割り当てられている。近似輪郭を異なる疾患存在確率を有する別々の領域としてモデル化することにより、以下にさらに説明するように、不確かさ情報を治療計画の最適化に容易に組み込むことができる。
【0037】
関心領域の定義に関する不確かさ尺度は、例えば組織の種類に関する不確かさなどの当該領域内の組織の特性および/または生物学的反応に関する不確かさに基づき、領域に直接割り当てることができる。例えば、疾患(例えば腫瘍細胞)の存在の確率は、転移が疑われる領域(すなわち疾患の可能性はあるが確認されていない領域)などの特定の領域に割り当てることができる。代わりまたは追加として、期待される生物学的反応における不確かさに基づく確率を領域に割り当ててもよい。例えば、そのような確率は、疾患を含む標的領域について定める場合、疾患により生じるある指定された患者悪影響の推定されるリスクであってもよく、例えば治療しなければ患者が生存しないリスクであってもよい。それに応じて、リスク臓器について定める場合、生物学的反応に関する不確かさは、指定された量の放射線量を受けた結果生じるある特定の悪影響の推定されるリスクに関するものであってもよい。
【0038】
組織の特性に関する不確かさ尺度は、腫瘍学者による推測などの専門家の所見あるいは、例えば生検もしくはPETスキャンに基づく測定値またはコンピューターシミュレーションおよび/または他の患者からの統計データなどに基づいていてもよい。
【0039】
図3では、特定の腫瘍存在確率が標的領域T2およびT3に割り当てられており、この場合これらは転移が存在し得る領域を表す。この例によれば、図に示されているように、標的領域T2は10%の疾患存在確率を有し、標的領域T3は30%の疾患存在確率を有し、それらの確率は例えば腫瘍学者によって推定される。従って、図に示されている確率は、それぞれの領域内の少なくとも1つボクセルが疾患を含む確率を表す。他の例示的な一実施形態では、領域T2およびT3において疾患の存在が確認されていると仮定し、領域T2およびT3の不確かさ尺度は期待される生物学的反応に基づいていてもよい。従って、そのような一実施形態によれば、領域T2およびT3に対して定められる確率は、当該領域が治療されなければ患者が生存できないなどのある望ましくない患者への影響の確率であってもよい。従って、一例として、領域T2に対して定められている不確かさ尺度は、領域T2が治療されない場合であっても90%の患者が生存する確率に対応する。
【0040】
図3に関する以下の例では、領域T2およびT3に対して定められている確率は疾患の存在の確率として表されているが、当然のことながら、これらの種類の確率はちょうど同じように上記生物学的反応に関する(すなわち腫瘍細胞の存在または不存在を特に考慮していない)不確かさを反映していてもよい。
【0041】
また、リスク臓器「O」の輪郭は、比較的より幅広い近似輪郭セグメント35によって画定された実際の位置が不確かである部分を有する。標的T1の不確かな領域における腫瘍存在の確率を考慮するのと同様に、リスク臓器「O」の近似輪郭35は、実際にリスク臓器特有の組織細胞を含むボクセルの確率を反映している。従って、リスク臓器「O」の近似輪郭領域35内のボクセルにはボクセルが実際にOAR組織を含む確率が割り当てられている。図3に示す単純化された例では、単一の一定の確率(40%)を用いて不確かさがモデル化されているため、1つの領域Rは100%の確率を有し、別の領域Rは40%の確率を有する。
【0042】
この例における不確かさ尺度は、疾患の存在またはOAR組織の存在の確率の形態で治療計画システムへの入力として使用する。領域特有の確率を組み込む明らかな方法の1つは、最適化においてより「確かな」領域内のボクセルに対してより高い重みが与えられるように、最適化アルゴリズムで使用される対応する領域またはボクセルセット特有の重要度重みを定めることである。しかし、そのような手法は一般に適していない。例えば、標的領域を考慮すると、そのような目的関数に基づいて最適化される治療計画では、線量レベルは低いがなお不確かな領域の全ての部分に線量が照射される。腫瘍制御を達成するために疾患を含む全ての部分がある量の線量を受けなければならないため、これは一般に満足が得られる結果ではない。すなわち、臨床的目標を満たすことができる標的の全ての部分を処方線量で照射しなければならない。従って、疾患の存在に関して不確かさが存在し、かつ他の重要な治療目的を妨害しない限り臨床的目標を満たすことができない標的の部分に対しては、むしろ線量を全く照射すべきではない。従って、不確かさ情報を組み込むための他の一般により有利な方法について以下に記載する。
【0043】
単純な例としては、異なる指定された不確かさ尺度を含む領域の異なる組み合わせが別々のシナリオで検討される複数の異なる治療計画を決定することができる。例えば、標的内の照射される領域に関する不確かさ尺度、および例えばリスク臓器温存に関する様々な他の相反する最適化目的もしくは制約の実現を考慮したそれぞれの領域における標的目的(例えば処方最小線量に関する目的)の実現に基づいて、異なる治療計画候補を評価することができる。従って、一例として、リスク臓器に対する指定された線量寛容レベルを超えることなく腫瘍制御を達成する最も高い確率が得られる計画(不確かさ尺度に基づいて決定される計画)が自動的に選択される。
【実施例】
【0044】
以下では、図3および図4を参照しながら、ROI定義の不確かさを本治療計画プロセスに組み込む方法に関する3つの実施例についてより詳細に説明する。
【0045】
実施例1:別々の領域
疾患を含む確率p、...、pを有する領域R、...、Rを含むROIを検討する。j<iの場合に領域Rで臨床的目標を満たす前に領域Rで臨床的目標を満たす利点はないという意味で、i>1の各領域Rは全てがj<iの領域Rに依存している。
【0046】
図3の標的T1では、これらの領域はR、RおよびRであり、ここでは、Rは100%の疾患を含む確率を有する領域であり、Rは60%の疾患を含む確率を有する領域であり、Rは20%の疾患を含む確率を有する領域である。従って、p=1、p=0.6およびp=0.2である。領域間の依存は、標的T1に対して臨床的目標があれば、最初に領域Rにおいて、次いで領域R∪Rにおいて、そして次いで領域R∪R∪Rにおいてその目標を満たす努力をすべきであることを意味している。これは、その目標が標的T1に50Gyの線量を照射することであれば、領域R∪Rが50Gyを受けない限り領域Rに50Gyを照射する利点はなく、領域Rが50Gyを受けない限り領域Rに50Gyを照射する利点がないこと意味している。当業者には明らかなように、他の実施形態では、異なる領域を相互に独立したしたものとみなすことができる。
【0047】
依存的領域R、...、Rを有する所与のROIにおける臨床的目標(例えば標的領域に対する最小線量)を満たす確率は、以下に従って計算することができる。
領域R、R∪R、R∪R∪R、...、
【数3】
を順番に検討する。臨床的目標がこれらの全てに対して満たされる場合、臨床的目標を満たす確率は1である。そうでなければ、「j」を、臨床的目標が満たされない、すなわち領域
【数4】
において臨床的目標が満たされないこれらの領域のうちの最初の1つの指数を意味するものとする。この領域において疾患が存在する確率は、その成分の最小の確率すなわちmin{p、...、p}=pであり、ここでは、当該領域が確率の減少順に並べられているため等式となっている。従って、臨床的目標が満たされない確率はpとなる。
【0048】
従って、一例として図3を参照すると、臨床的目標が標的T1の領域Rにおいて満たされるが、領域R∪Rにおいて満たされない(従って、領域R∪R∪Rでも満たされない)ものと仮定する。故に、R∪Rは臨床的目標が満たされない最初の領域であり、これは標的T1に対して臨床的目標が満たされない確率がp=0.6であることを意味する。さらに、全ての標的T1、T2およびT3は、図3に示すように全てが相互に独立している。一例として、臨床的目標が標的T2に対して満たされないが、標的T3に対して満たされるとものと仮定する。故に、標的T2の臨床的目標が満たされない確率は0.1であり(標的T2に疾患が存在する確率は10%であるため)、標的T3の臨床的目標が満たされない確率は0である。故に、全ての腫瘍を治癒させる総確率は(1−0.6)×(1−0.1)×(1−0)=0.36である。
【0049】
同様に、図3の領域Oなどの様々なOARのためにその目標を満たす確率を計算することができる。
【0050】
次いで、最適化により、これらの確率に関して最も良好に行う計画を見出さなければならない。例えば、全ての確率の積(すなわち全ての臨床的目標を満たす確率)を最大化するために努力することができる。あるいは、1つ以上の確率に制約を課すことができ、いくつかの他の目標(例えば、最大線量、モニタ単位(MU)数などに関する治療目的など)を最適化することができる。
【0051】
上記のように最適化を用いる場合、トレードオフはそれぞれの領域の不確かさ尺度ならびに異なる領域の線量照射/温存を達成するコストによって決まる。一例として、図3を参照すると、標的領域T1の領域Rならびに標的領域T3において臨床的目標を満たす(上に例示されているように標的の臨床的目標を満たす確率「0.36」が得られる)と共に、OAR「O」の領域RおよびRの両方に対して臨床的目標を満たすことができる(すなわち、OARの臨床的目標を満たす確率「1」が得られる)ものと仮定する。これにより全ての臨床的目標を満たす確率「0.36×1=0.36」が得られる。ここで、OARの臨床的目標が領域R内で満たされるが領域R内で満たされない(OAR臨床的目標を満たす確率「1−0.4=0.6」が得られる)場合、領域Rおよび標的T3だけでなく領域R内でも標的臨床的目標を満たすことができる(標的臨床的目標を満たす確率「(1−0.2)×(1−0.1)×(1−0)=0.72」が得られる)ものと仮定する。これにより全ての臨床的目標を満たす確率「0.72×0.6=0.432」が得られる。
【0052】
従って、線量が領域R、RおよびT3に対して処方されるが領域RおよびT2に対して処方されない治療計画を用いて全ての臨床的目標を満たす確率を最大化させるが、これは、リスク臓器「O」を温存するという点で非常に高価になるという理由から、標的領域RおよびT2に対して線量を計画することは有利でないということを示している。
【0053】
全ての利用可能な不確かさ情報を考慮することにより、治療計画システムは、より良好な治療計画が得られ、例えば、正常組織を損なうことなく総腫瘍照射を達成する最も高い可能な確率が得られる、特定の状況で最も有利なトレードオフを特定する。
【0054】
実施例2:連続的かつ非階層的領域
その中の各点が区間(0,1]において疾患を含む所定の確率を有する標的領域Rを検討する。最適化の目的は疾患を治癒させる確率を最大化することである。
【0055】
ボクセルごとに分離可能な目標(例えば、各ボクセルに対する線量は60Gy超にすべきであるという目標)のために、疾患を有する全てのボクセルにおいてその目標を満たす(疾患を有する全てのボクセルに60Gy超の線量を照射する)確率を以下のように計算することができる。
【数5】
(式中、Iはその目標が満たされない領域Rに属する全てのボクセル(60Gy未満の線量を有するR内のボクセル)のセットであり、pはボクセルiが疾患を含む確率である)。セットIが空の場合、確率は1である。
【0056】
最適化の目標は、この確率を最大化する線量を照射することであり、これは、セットI内のボクセルが疾患を含む可能な限り低い確率が存在するような方法で線量を照射する場合と同じである。
【0057】
繋がった標的体積を治療することが望ましい場合もある。これは、治療される標的体積が常に繋がった体積であるような治療される体積の形状に対する制約の導入により達成することができる。
【0058】
図4Aは、標的の定義の不確かさを反映した、疾患が存在することが知られている内側領域41および外側の「不確かな」領域42を含む標的体積の2D画像表示を示す。従って、領域42は、上記実施例と同様に、例えば専門家によって定められる近似輪郭に一致することができる。内側領域41の内側のボクセルは100%の疾患を含む確率を有するものとみなし、領域41および42の外側のボクセルは0%の疾患を含む確率を有するものとみなす。従って、外側領域42内の各ボクセルは0〜1の範囲の疾患を含む確率を有する。ボクセルに対する確率は、外側領域42内のボクセルの位置によって決まってもよい。例えば、その確率は線形に、あるいは内側領域41の表面に対する法線43に沿って外側領域42の内側境界にあるボクセルにおける「1」から外側領域42の外側境界にあるボクセルにおける「0」まで、指数関数的に減少することができる。外側領域42内の変化する確率を多くの他の方法で、例えば専門家によってなされる推測に従って定めることができることは明らかである。例えば、異なるように連続的に変化する確率を有する複数の領域を定めることができる。
【0059】
上記方法において方程式(3)を用いて、治療される標的体積を最大化する。図4Bは、そのような方法を用いることにより得られた例示的な標的体積44を示す。図から分かるように、治療される体積は、若干の不規則性を有する可能性がある。しかし、実施例1に関して上に記載した同様の理由で、標的の中心により近い隣接する領域を治療しない場合に離れた領域を治療することは通常は有益ではないため、標的体積の形状に対して制約を課すと有利であり得る。
【0060】
実施例3:分離不可能な目標
上記のとおり、各ボクセルが区間(0、1]において疾患を含む所定の確率を有する領域R(その領域が標的に関する場合)を検討し、あるいは、その領域がOARに関する場合は領域特有のある他の組織の種類を検討する。以下では、領域Rは標的領域に関するものとして例示されている。従って、ボクセルに割り当てられた確率は、真の標的体積がボクセルを含む確率を反映しており、従って、その確率は疾患を含むことが知られている領域内のボクセルにおける100%から、疾患を含まないことが知られている領域内のボクセルにおける0%まで減少する。全ての可能な標的体積および、これらのそれぞれについて、それが真の標的体積である対応する確率(これらはボクセルへの離散化によりゼロ以外である)を検討する。100%の確率を有するボクセルはこれらの標的体積の全てに含まれている。計画があれば、「S」を臨床的目標が満たされる標的体積全体にわたる指数セットとし、かつ「p」を標的体積「iはSの要素である」が真の標的体積である確率とする。故に、最適化の目標は、真の標的体積における臨床的目標を満たす確率を最大化することであり、これは
【数6】
を最大化することを意味する。
【0061】
これは、真の標的体積を含むことが可能な限りほぼ確実である標的体積セットを指数付けする領域「S」が得られる線量分布を見つけることによって達成される。この手法は、ボクセルごとに分離不可能な目標を用いる場合、例えばDVHに基づく最適化関数(すなわちX%のROIが少なくともYのGyを受けることを要求する目標)を用いる場合に適用可能である。
【0062】
上記全ての実施形態はROI定義の不確かさを本治療計画プロセスに組み込む方法の単なる例であり、当業者には明らかなように多くの他の方法が想定される。
【0063】
上述のように、ROI定義の不確かさを様々な異なる方法で定めることができる。例えば、これも上に説明したように、手作業による領域分割または自動領域分割手順の間または後に、例えば専門家ユーザ(例えば腫瘍学者)によって小領域および対応する不確かさ尺度を手作業で定義、修正および/または承認することができる。例えば、異なる程度の不確かさ(例えば異なる輪郭幅)を示す輪郭セグメントを定めるためのツールを含む任意の好適なユーザインタフェースを用いて、当該領域および/または対応する不確かさ尺度を画像内に直接定義することができる。
【0064】
当該ユーザは、例えば輪郭セグメントの各側における信頼区間を定める不確かさの数値尺度を特定の輪郭の一部に割り当てることもできる。例えば専門家によって割り当てられる様々な種類の不確かさ数値尺度を場合により画像情報と組み合わせて、上に記載し、かつ図3に示す小領域に対応する複数の小領域を画定するため、あるいは上に記載し、かつ図4Aに例示する特定の領域内の連続的に変化する不確かさを定めるために使用することができる。
【0065】
図3に示す近似輪郭領域を、治療計画のためのより良好な基礎を提供するために、異なる割り当てられた確率を有するより小さい小領域のさらにより大きなセットに分けることができる(但し、本治療計画プロセスの計算負荷をより高めてしまう)。領域の数および対応する割り当てられた確率を、所定の判断基準に従って自動的に決定することができる。例えば、固定された所定数の小領域を使用することができ、あるいは小領域の数を近似輪郭セグメントの拡大(例えば幅)によって決めてもよい。次いで、特定のボクセルの不確かさ尺度を、所定の判断基準ならびにボクセルから近似輪郭の内側および外側境界までの相対距離によって決める。あるいは、画像強度データの分析に基づく方法などの、小領域および対応する不確かさ尺度を定めるための他の方法を用いてもよい。例えば、画定された輪郭の全ての部分にそれぞれの輪郭部分に近い領域におけるコントラストに基づく不確かさ尺度を割り当てることができる。従って、低コントラスト領域内の輪郭セグメントには比較的より大きな不確かさが自動的に割り当てられる。そのような自動的に割り当てられた不確かさ尺度は、専門家によって評価および承認されるか、あるいは必要であれば修正されると有利である。
【0066】
不確かさ尺度は、例えばROIに関する要素の異なる大きさ、色、透明度などを用いる様々な方法で画像内に視覚化してもよい。例えば指定された領域が疾患を含むか否かに関する不確かさ情報は、測定値(例えば、生検またはPETスキャンなどに基づく)、コンピューターシミュレーション、他の患者からの統計データから、あるいは任意の他の方法で決定することもできる。
【0067】
本発明に係る方法は、セットアップの不確かさを考慮するための確率的アプローチに基づく方法などの、よりロバストな治療計画を作成するために以前に使用したあらゆる任意の方法と組み合わせることができる。さらに、安全性マージンを用いて拡大された領域などの任意の領域に対して本発明の方法を用いることができる。生じ得るセットアップの不確かさまたは治療中の標的の動きを補償するために、通常は標的体積にマージンを付ける(「計画標的体積」(PTV)を作製する)。例えば、特定の不確かさ尺度を臨床的標的体積(CTV)の領域に割り当て、かつCTVに均一なマージンを付けてPTVを定義する場合、同じ不確かさ尺度をPTVの対応する領域に割り当て、かつ上記治療計画プロセスで使用することができる。図5は、CTV53の近似輪郭セグメント52がPTVの対応する近似輪郭セグメント54に転写される場合のそのようなPTV51を示す。
【0068】
図6は本発明に係るコンピュータシステム61の例を概略的に示す。本システムは、メモリ63に接続された処理装置62を備える。さらに、本システムは、表示装置64(例えば定義されたROIおよび対応する不確かさ尺度を有する患者画像、グラフィカルユーザインタフェース、および治療計画に関連する他の情報を表示する)、データ入力装置65(例えば、キーボード、マウスまたはデータ入力に適した任意の他の装置)ならびにデータ読み取り/書き込み装置66(例えば、光学式ドライブ、USBインタフェース、またはデータの読み取り/書き込みに適した任意の他の装置)を備えていてもよい。処理装置62は、1つ以上の中央処理装置(CPU)または、例えば1つ以上のグラフィックス処理装置(GPU)に基づく任意の種類のパラレル処理装置システムなどの任意の種類の処理装置であってもよい。メモリ63は、例えばハードドライブなどの情報を格納および検索するのに適した任意の種類の揮発性もしくは不揮発性メモリであってもよい。メモリ63は、コンピュータプログラム67をそこに格納している。コンピュータプログラム67は、コンピュータ可読命令を処理装置62に転送し、かつそれにより実行することができる、不確かさに基づく最適化を行うためのコンピュータ可読命令を含む。処理装置62によって実行されると、コンピュータ可読命令は、ROIの定義における不確かさに基づいて治療計画を決定するために図1に示す方法を行う。決定された治療計画は、患者画像、ROI、不確かさ尺度および任意の他の治療計画関連情報と共にメモリ63に格納することができる。コンピュータプログラム67をメモリ63にロードし、かつ/または異なる計算システムに転送することができるように、コンピュータプログラム67も非一時的コンピュータ可読媒体68、例えば、USBドライブ、CD−ROMなどの光学データキャリアまたは任意の他の好適な携帯可能な情報格納装置に格納することができる。図6を参照して説明したシステムは単なる例であり、本発明に係るコンピュータシステムは必ずしも例示されている構成要素を全て備えているわけではなく、かつ/または図示されていない他の構成要素を備えていてもよい。
【0069】
多くの例示的な実施形態を参照しながら本発明について説明してきた。当然のことながら、これらの実施形態は本発明の原理および用途の単なる例示である。従って、当然のことながら、例示的な実施形態に対して数多くの修飾をなすことができ、かつ添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく他の構成を考案することができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6