特許第6550101号(P6550101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEテクノリサーチ株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000002
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000003
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000004
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000005
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000006
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000007
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000008
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000009
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000010
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000011
  • 特許6550101-膜厚測定方法及び膜厚測定装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550101
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】膜厚測定方法及び膜厚測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   G01B11/06 G
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-136898(P2017-136898)
(22)【出願日】2017年7月13日
(65)【公開番号】特開2019-20183(P2019-20183A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2018年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 奈雄登
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 裕勝
(72)【発明者】
【氏名】岩本 勝哉
【審査官】 國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−230515(JP,A)
【文献】 特表2000−516712(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0237537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の揮発性の光透過性膜を基材上に配置し、前記光透過性膜が蒸発し終えるまで前記光透過性膜に光源から光を照射するステップと、
前記光透過性膜の反射光を受光素子により正反射方向で受光し、前記光透過性膜が蒸発し終えるまでの前記反射光の信号強度の時系列信号であって前記信号強度が増減する反射光強度信号を取得して記憶装置に保存するステップと、
前記光源の分光強度と前記受光素子の分光感度と前記光透過性膜の光学定数とから、前記光透過性膜に前記光源から光を照射することにより得られる前記反射光の信号強度を推測し、前記光透過性膜の膜厚が変化するに伴い前記反射光の信号強度の推測値が増減する推測信号を取得するステップと、
前記反射光強度信号の信号波形において、前記光透過性膜が蒸発し終えた時点を基点として所望の時点までのピーク数をもとに前記所望の時点が存在する時間範囲を特定するステップと、
前記推測信号の信号波形において前記膜厚が零の時点と、前記反射光強度信号の信号波形における前記基点とが一致するように、前記推測信号の信号波形と前記反射光強度信号の信号波形とを対応付け、前記推測信号の信号波形におけるピーク数をもとに、前記推測信号の信号波形において前記時間範囲に対応する膜厚範囲を特定するステップと、
前記所望の時点における前記反射光の信号強度を取得し、前記膜厚範囲に含まれる膜厚に対応する前記反射光の信号強度の推測値のうち、前記所望の時点における前記反射光の信号強度と一致する推測値に対応する膜厚を、前記所望の時点における前記光透過性膜の膜厚として設定するステップと、
を備えることを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
前記受光素子を複数備えて二次元エリアセンサを構成することを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記光源は、前記光透過性膜の二次元エリアからなる測定領域全体を照射する面照明であることを特徴とする請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記基材の表面が平面ではないとき、得られた膜厚を、前記基材の表面の形状に合わせて補正するステップを備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
基材上に配置された、測定対象の揮発性の光透過性膜に前記光透過性膜が蒸発し終えるまで光を照射する光源と、
前記光透過性膜の反射光を正反射方向で受光する受光素子と、
前記受光素子から出力される前記反射光の信号強度の、前記光透過性膜が蒸発し終えるまでの時系列信号であって、前記信号強度が増減する反射光強度信号が格納される記憶装置と、
前記光源の分光強度と前記受光素子の分光感度と前記光透過性膜の光学定数とから、前記光透過性膜に前記光源から光照射を行うことにより得られる前記反射光の信号強度を推測し、前記光透過性膜の膜厚が変化するに伴い前記反射光の信号強度の推測値が増減する推測信号を取得する推測信号取得部と、
前記反射光強度信号の信号波形において、前記光透過性膜が蒸発し終えた時点を基点として所望の時点までのピーク数をもとに前記所望の時点が存在する時間範囲を特定する時間範囲特定部と、
前記推測信号の信号波形において前記膜厚が零の時点と、前記反射光強度信号の信号波形における前記基点とが一致するように、前記推測信号の信号波形と前記反射光強度信号の信号波形とを対応付け、前記推測信号の信号波形におけるピーク数をもとに、前記推測信号の信号波形において前記時間範囲に対応する膜厚範囲を特定する膜厚範囲特定部と、
前記膜厚範囲に含まれる膜厚に対応する前記反射光の信号強度の推測値のうち、前記所望の時点における前記反射光の信号強度と一致する推測値に対応する膜厚を、前記所望の時点における前記光透過性膜の膜厚として設定する膜厚設定部と、を備えることを特徴とする膜厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定方法及び膜厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材面上に存在する膜の膜厚を測定する方法として、分光器を用いて光干渉法によって膜厚を算出する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)や、特定の波長の光を照射し、その反射光の強度を測定して膜厚を算出する方法、また、白色光を照射し、その反射光を特定の波長の光だけを通すフィルタを介して強度を測定し、強度に基づき膜厚を算出する方法等が提案されている。
【0003】
また、膜厚が薄い場合、波長の長い光の強度変化は膜厚変化に対して小さいため、紫外線などの波長の短い光を使用して測定する方法も提案されている。
さらに、二次元領域の膜厚の分布を測定する場合、点測定が可能な膜厚測定器を照明装置との撮像角を維持しながら移動させて二次元データとする方法、また、線状領域の分光データが採取可能な分光器をスキャンする方法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−314612号公報
【特許文献2】特開2012−189406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば基材面上に存在する液体からなる膜の膜厚が100nmよりも薄い場合には、可視光領域の分光反射率の変動が小さいことから、膜厚の測定精度が低下する可能性がある。この膜厚の測定精度の低下を抑制するために、紫外光領域の分光器を使用する等の対策を行うと、装置が複雑になったり、装置が高価になったりするという問題がある。
【0006】
また、分光器を使用せずに特定の波長の光を照射するか、又は受光素子にバンドパスフィルタを装着する等して干渉による反射光の強度の変化を測定する方法では、膜厚の変化を検出することはできるものの、その変化が増加であるのか減少であるのかを識別できないため、膜厚値に換算するためには、算出可能な膜厚を、膜厚の変化と反射強度の変化とが一様である範囲に限定する必要がある。
【0007】
さらに、点測定の分光干渉膜厚計を移動させて二次元分布を測定する方法や、線状領域の分光データを同時に採取することの可能な分光器をスキャンして二次元分布を測定する方法にあっては、短時間で膜厚が変動する場合や、同一位置の膜厚分布を繰り返し測定する場合などには時間的制約がある等といった問題がある。
本発明は、上記未解決の問題に着目してなされたものであり、簡易な構成で、比較的薄い膜厚であっても高精度に膜厚を検出することの可能な膜厚測定方法及び膜厚測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、測定対象の揮発性の光透過性膜を基材上に配置し、光透過性膜が蒸発し終えるまで光透過性膜に光源から光を照射するステップと、光透過性膜の反射光を受光素子により正反射方向で受光し、光透過性膜が蒸発し終えるまでの反射光の信号強度の時系列信号であって信号強度が増減する反射光強度信号を取得して記憶装置に保存するステップと、光源の分光強度と受光素子の分光感度と光透過性膜の光学定数とから、光透過性膜に光源から光を照射することにより得られる反射光の信号強度を推測し、光透過性膜の膜厚が変化するに伴い反射光の信号強度の推測値が増減する推測信号を取得するステップと、反射光強度信号の信号波形において、光透過性膜が蒸発し終えた時点を基点として所望の時点までのピーク数をもとに所望の時点が存在する時間範囲を特定するステップと、推測信号の信号波形において膜厚が零の時点と、反射光強度信号の信号波形における基点とが一致するように、推測信号の信号波形と反射光強度信号の信号波形とを対応付け、推測信号の信号波形におけるピーク数をもとに、推測信号の信号波形において時間範囲に対応する膜厚範囲を特定するステップと、所望の時点における反射光の信号強度を取得し、膜厚範囲に含まれる膜厚に対応する反射光の信号強度の推測値のうち、所望の時点における反射光の信号強度と一致する推測値に対応する膜厚を、所望の時点における光透過性膜の膜厚として設定するステップと、を備える膜厚測定方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、基材上に配置された、測定対象の揮発性の光透過性膜に光透過性膜が蒸発し終えるまで光を照射する光源と、光透過性膜の反射光を正反射方向で受光する受光素子と、受光素子から出力される反射光の信号強度の、光透過性膜が蒸発し終えるまでの時系列信号であって、信号強度が増減する反射光強度信号が格納される記憶装置と、光源の分光強度と受光素子の分光感度と光透過性膜の光学定数とから、光透過性膜に光源から光照射を行うことにより得られる反射光の信号強度を推測し、光透過性膜の膜厚が変化するに伴い反射光の信号強度の推測値が増減する推測信号を取得する推測信号取得部と、反射光強度信号の信号波形において、光透過性膜が蒸発し終えた時点を基点として所望の時点までのピーク数をもとに所望の時点が存在する時間範囲を特定する時間範囲特定部と、推測信号の信号波形において膜厚が零の時点と、反射光強度信号の信号波形における基点とが一致するように、推測信号の信号波形と反射光強度信号の信号波形とを対応付け、推測信号の信号波形におけるピーク数をもとに、推測信号の信号波形において時間範囲に対応する膜厚範囲を特定する膜厚範囲特定部と、膜厚範囲に含まれる膜厚に対応する反射光の信号強度の推測値のうち、所望の時点における反射光の信号強度と一致する推測値に対応する膜厚を、所望の時点における光透過性膜の膜厚として設定する膜厚設定部と、を備える膜厚測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、簡易な構成で、比較的薄い膜厚であっても高精度に膜厚を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】薄膜の反射光の干渉を模式的に示す図である。
図2図1に示す干渉による分光スペクトルの一例である。
図3】光源の分光強度の一例を示す特性図である。
図4】受光素子の分光感度の一例を示す特性図である。
図5】膜厚と反射率との対応を示す特性図である。
図6】蒸発により膜厚変動が生じるときの反射率の変動状況の一例である。
図7】蒸発により膜厚変動が生じるときの膜厚の演算結果の一例である。
図8】本発明の一実施形態における膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
図9】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】平面とこの平面に接する球体との間に存在する液体の反射率の変動状況の一例である。
図11】平面とこの平面に接する球体との間に存在する液体の膜厚の演算結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
なお、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかである。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
本発明の一実施形態に係る膜厚測定方法は、表面で光が拡散しない屈折率nの基材の上に存在する、屈折率n、膜厚d、の光透過性膜に、屈折率nの入射媒質からθの角度で光が入射したときの反射率Rf(fはs:s偏光成分、又はp:p偏光成分)を求め、光源として用いた波長範囲を絞った照明の分光強度と実測値又はメーカによるカタログスペックによる受光素子の分光感度とから、膜厚と反射率との関係を算出し、実測した反射率から膜厚を求めるものである。
【0014】
まず、薄膜の干渉について説明する。図1に薄膜の干渉の模式図を示す。
図1に示すように、基材1上に形成された薄膜(光透過性膜)2に対して角度θで光が入射すると、入射媒質、薄膜2及び基材1それぞれの、光の偏光成分s波及びp波に対する屈折率は次式(1)〜(6)と表すことができる。なお、入射媒質の偏光成分s波に対する屈折率をη0S、偏光成分p波に対する屈折率をη0P、薄膜2の偏光成分s波に対する屈折率をη、偏光成分p波に対する屈折率をη、基材1の偏光成分s波に対する屈折率をηmS、偏光成分p波に対する屈折率をηmPとする。また、薄膜2の光の屈折角をθ、基材1の光の出射角をθとする。
η0S=n×cosθ ……(1)
η0P=n/cosθ ……(2)
η=n×cosθ ……(3)
η=n/cosθ ……(4)
ηmS=n×cosθ ……(5)
ηmP=n/cosθ ……(6)
【0015】
また、各屈折率と入射角との間は次式(7)で示すスネルの法則が成り立つことから、式(8)及び(9)を導くことができる。
×sinθ=n×sinθ=n×sinθ ……(7)
cosθ=(1−sinθ)1/2={1−(n/n×sinθ}1/2
……(8)
cosθ=(1−sinθ1/2={1−(n/n×sinθ1/

……(9)
【0016】
また、薄膜2の光学膜厚は、n×d×cosθで表すことができるため、光が薄膜2を1
回通過したときには、次式(10)で表す位相変化δが生じる。
δ=(2π/λ)×n×d×cosθ ……(10)
光の偏光成分s波及びp波の各界面におけるフレネル反射係数は、次式(11)〜(14)で表すことができる。なお、薄膜2の表面でのs波の偏光成分のフレネル反射係数をρ0S、薄膜2と基材1との界面でのs波の偏光成分のフレネル反射係数をρ1S、薄膜2の表面でのp波の偏光成分のフレネル反射係数をρ0P、薄膜2と基材1との界面でのp波の偏光成分のフレネル反射係数をρ1Pとする。
ρ0S=(η0S−η)/(η0S+η) ……(11)
ρ1S=(η−ηmS)/(η+ηmS) ……(12)
ρ0P=(η0P−η)/(η0P+η) ……(13)
ρ1P=(η−ηmP)/(η+ηmP) ……(14)
【0017】
多重反射を考慮した全体のフレネル反射係数ρf(fはs又はp)は次式(15)となり、反射率Rf(fはs又はp)は式(16)となる。
ρ=(ρ0f+ρ1f−i2δ)/(1−ρ0f×ρ1f−i2δ) ……(15)

=(ρ0f+ρ1f+2ρ0fρ1fcos2δ)/{1+(ρ0fρ1f)+2ρ0fρ1fcos2δ}
……(16)
【0018】
式(16)から求めた分光スペクトルを図2に示す。図2において横軸は波長、縦軸は反射率である。また、特性d1は薄膜2の膜厚が100nm、特性d2は薄膜2の膜厚が250nm、特性d3は薄膜2の膜厚が500nmである場合の特性を示す。
図2に示す分光スペクトルと、図3に示す、薄膜2に入射される光の光源の分光強度I(λ)と、図4に示す、薄膜2の反射光を撮影する受光素子の分光感度S(λ)とから、図5に示す、薄膜2の膜厚と反射率との関係を求めることができる。
【0019】
なお、図3において、横軸は波長、縦軸は光源の分光強度Iである。図4において、横軸は波長、縦軸は受光素子の分光感度Sである。図5において、横軸は膜厚、縦軸は反射率である。薄膜2の屈折率nは1.33、薄膜2への光の入射角θは8°とした。また、特性λ1は、薄膜2への入射光の波長が450nmである場合、特性λ2は、波長が530nmである場合、特性λ3は、波長が650nmである場合の反射率を示す。
【0020】
ここで、薄膜2が例えば水等、蒸発する物質で形成されている場合、時間の経過と共に膜厚は薄くなる。つまり、蒸発し終えるまでの過程の薄膜2の反射率を計測すると、図6に示すように、膜厚の変動に伴って反射率は増減することになる。そして、薄膜2が蒸発し終えたとき、つまり薄膜2の膜厚が零であるとき反射率は最大となる。図6において、横軸は経過時間、縦軸は反射率である。時間の経過と共に蒸発により膜厚が単調に減少し、膜厚の変動に伴って反射率が振動している。そして、時点t1で膜厚が零になったとき反射率は山側のピークとなり、これ以後反射率はこのときのピーク値を維持する。
反射率がピーク値を維持する状態となった時点はすなわち薄膜2の膜厚が零となった時点である。
【0021】
薄膜2の膜厚と反射率とは、理論上、図5に示すように、膜厚が零から増加するにつれて反射率は減少し、その後増減を繰り返す特性を有している。一方、図6は、薄膜2が蒸発し終えるまでの反射率の変化の実測値である。図6において、膜厚が零となる時点t1から時点t0に遡るということは、膜厚が零から増加することと同等であり、反射率は、膜厚が零の時点t1から遡る(膜厚が零から増加する)に伴い図5と同等の特性で変化することになる。つまり、時点t0のときの薄膜2の膜厚をdXとし、反射率をrXとすると、図6において、時点t1から時点t0まで遡ったときの反射率の変化を表す信号波形は、図5において、膜厚が零の時点から膜厚がdXとなるまでの反射率の変化を表す信号波形と同等の波形形状となる。すなわち、図6に示す反射率の信号波形上における時点t0の位置と、図5に示す反射率の信号波形上における膜厚dXの位置とは、略一致することになる。したがって、図5に示す反射率の信号波形において、図6に示す反射率の信号波形上における時点t0の位置と一致する地点の膜厚が、図6に示す反射率の信号波形上における時点t0の膜厚dXであるとみなすことができる。なお、図5に示す反射率の信号波形において、反射率の演算周期等により、図6に示す反射率の信号波形の時点t0の位置と一致する地点の膜厚を得ることができない場合には、例えば、反射率の信号波形を補完し、アナログ信号からなる反射率の信号波形を得て、この信号波形から時点t0の位置と一致する地点の膜厚を取得するようにしてもよい。または、デジタル信号からなる反射率の信号波形において、時点t0の位置に最も近い地点の膜厚を取得するようにしてもよい。
【0022】
図6において、時点t1、つまり膜厚が零の時点を基点として考えると、時点t0は、時点t1から、反射率の谷及び山の順にピークを遡って五番目のピークと六番目のピークとの間(時間範囲)にある。これを図5において膜厚が零の地点を基準として照らし合わせると、図6で特定した時間範囲は、膜厚が零の地点から、反射率の谷及び山の順にピークを進み、五番目のピークと六番目のピークとの間の範囲(図5中の膜厚範囲E1)に対応する。図5の膜厚範囲E1において、反射率がrX(例えば、0.030程度)である地点の膜厚は490nm程度となるため、この膜厚が、図6の時点t0のときの膜厚dXとなる。つまり、時点t0における薄膜2の膜厚dXを、この薄膜2の膜厚が零となるまでの反射率の変化状況から、推定することができたことになる。
【0023】
図7は、以上の方法により図6に示す反射率の変動にしたがって膜厚を演算した場合の、膜厚変動を示したものである。図6において、横軸は経過時間、縦軸は膜厚である。薄膜2の膜厚は、薄膜2の蒸発に伴って減少し、時点t1で薄膜2が蒸発し終えたときに零になることが確認された。
図8は、本発明の一実施形態に係る膜厚測定方法を用いて膜厚測定を行う膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【0024】
膜厚測定装置10は、測定対象の薄膜2が形成された基材としてのガラス11面に単色光を面照射するLEDディスプレイ等の光源12と、モノクロエリアカメラ等の二次元エリアセンサである撮像装置13と、制御装置14と、を備える。光源12及び撮像装置13は、測定中、これらの相対位置がずれないように配置される。また、光源12による反射光を除く光が撮像装置13に入射されないように、遮光するための例えば遮光カーテン15を備える。
【0025】
なお、薄膜2は、水膜等、光透過性及び揮発性を有する膜であればよい。
また、基材としてガラス11を適用する場合に限るものではない。表面で光が拡散するすりガラス等ではなく、表面で光が拡散しない、ガラスや鏡、樹脂等といった鏡面反射する面を有する部材であればよい。
光源12は、薄膜2の測定領域の大きさに応じて、撮像装置13から見て測定領域の正反射領域を全て視野内に含むことができるようになっている。
【0026】
光源12の波長は、図6に示す反射光強度信号として、十分な反射率の増減特性を得ることの可能な波長に設定すればよい。光源12の波長が比較的長いと、十分な増減特性を取得しにくく、波長が短いほど分解能が向上し良好な増減特性を取得することができる。
光源12としては、例えば、紫色や青色のLED光源やレーザ光源を適用することができる。例えば、薄膜2の膜厚が100nm程度よりも薄くなったときの反射率の変化が大きい500nm程度よりも短い波長に最大強度があり、照射波長領域の狭い可視光線の照明を利用することによって、薄膜2の膜厚が100nm程度よりも薄い場合の膜厚の測定精度を向上させることができる。
【0027】
撮像装置13は、ガラス11面に対して光源12の正反射方向に設置する。
制御装置14は、入力装置14a、表示装置14b、記憶装置14cを備える。制御装置14は、光源12及び撮像装置13の作動制御を行うと共に、光源12で薄膜2を照射することにより生じる反射光を撮像装置13で撮影した撮像画像を入力して記憶装置14cに記憶し、記憶装置14cに記憶した撮像画像に基づき薄膜2の膜厚を推定する。また、記憶装置14cには、図5に示す膜厚と反射率との対応を表す推測信号が記憶されている。この推測信号は、測定対象の薄膜2のモデルについて求めた図2に示す分光スペクトルと、図3に示す光源12の分光強度特性と、図4に示す撮像装置13の受光素子の分光感度特性と、をもとに予め推測する(推測信号取得部)。
【0028】
次に、本発明の動作を、図9に示す制御装置14の処理手順の一例を示すフローチャートを用いて説明する。
オペレータは、まず、制御装置14において入力装置14aを操作すること等により、膜厚の測定開始を指示する。
制御装置14では、膜厚の測定開始が指示されると、光源12及び撮像装置13を駆動制御し(ステップS1)、光源12により薄膜2の測定対象領域に単色光を面照射すると共に、撮像装置13により測定対象領域の正反射領域全体を例えば定周期で撮影する。
【0029】
制御装置14は、撮像装置13で撮影した撮像データを順次読み込み、記憶装置14cに格納する処理を開始する(ステップS2)。
オペレータは、撮像装置13による撮像が開始され、撮像データの読み込みが開始された後、ガラス11面上に測定対象の薄膜2を作成する。
そして、例えば薄膜2が蒸発し終えた時点で、オペレータが膜厚の測定終了を指示すると、制御装置14では、光源12及び撮像装置13の駆動を停止する(ステップS3)。
【0030】
これにより、記憶装置14cには、薄膜2が形成されていない状態のガラス11面の画像から、薄膜2が形成された後、薄膜2が蒸発し、薄膜2が蒸発し終えて薄膜2が存在しない状態のガラス11面の画像までが、撮像データとして格納される。
制御装置14では、記憶装置14cに格納した撮像データについて、画素毎に、図6に示すような撮影開始からの経過時間に対する反射率の変化を表す反射光強度信号を検出し、撮影開始時点t0における反射率rXと、膜厚が零となった時点、つまり図6において反射率が変化しなくなった時点t1を基準とする、信号波形上における時点t0の存在位置、つまり時間範囲を特定する(ステップS4、時間範囲特定部)。具体的には時点t1を基準として、時点t0までの間に存在する、信号波形上の谷及び山のピーク数を求め、時点t1を基点として、求めたピーク数番目に相当するピークと、この次のピークとの間を、時間範囲として特定する。
【0031】
続いて、記憶装置14cに格納している図5に示す膜厚と反射率との対応を表す特性線と、ステップS4で特定した時点t0の時間範囲とを対応付け、図5に示す特性線の信号波形上における時点t0が存在すると予測される膜厚範囲E1を特定する(ステップS5、膜厚範囲特定部)。
続いて、膜厚範囲E1の中から、反射率rXに対応する膜厚を検出し、これを時点t0における膜厚dXとして特定する(ステップS6、膜厚設定部)。
【0032】
そして、各画素の膜厚を表示装置14bに表示する(ステップS7)。例えば、膜厚に応じて表示色を変えること等により、薄膜2の測定領域の膜厚を表示し処理を終了する。
このように、薄膜2が蒸発し終えるまでの薄膜2の反射率の変化状況を検出し、この変化状況と、予め検出した膜厚−反射率特性とに基づき、膜厚を検出するようにしたため、簡易な構成で容易に膜厚を検出することができる。
【0033】
また、反射率がわかれば膜厚を得ることができるため、例えば、反射率を高周期で検出することによって膜厚の変化を高周期で取得することができる。
また、薄膜2の膜厚の測定対象領域全体を撮影することにより、測定対象領域全体の膜厚を同時に得ることができるため、測定対象領域全体について面単位で、同一時点における膜厚を検出することができる。
【0034】
また、反射率を検出することができれば膜厚を得ることができるため、例えば100nm以下など、比較的膜厚が小さい場合であっても、精度よく膜厚を検出することができる。そのため、従来の分光干渉法を用いた膜厚の検出方法では、得ることが難しかった50nmよりも薄い膜厚についても検出することができる。そのため、ワイパで形成される水膜等といった、膜厚が薄く短時間で蒸発するような膜の測定に好適である。
また、上記実施形態では、面照射可能な光源12としてLEDディスプレイを用いた場合について説明したが、これに限るものではなく、単一波長のLED面照射装置又はスクリーン全面にLED照明を照射することにより、面照射を行うようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態においては、薄膜2の測定領域の膜厚を面単位で検出する場合について説明したが、これに限るものではなく薄膜2上の一画素の膜厚を検出することも可能である。
また、上記実施形態においては、測定対象の薄膜2の反射率の変化状況の収集処理と、膜厚の演算処理とを同一の制御装置14において実行する場合について説明したがこれに限るものではなく、記憶装置14cに格納された測定対象の薄膜2の反射率の変化状況を表すデータをもとに、他の処理装置において膜厚演算を行うようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態においては、基材1が平面である場合について説明したが、これに限るものではなく、基材1が曲面であっても適用することができ、この場合には、撮像装置13から見た基材1の表面の測定領域全体において正反射方向全体に光源または照明を照射するスクリーンを設ければよい。
また、基材1が平面でない場合には、基材1が平面であると仮定して算出した膜厚値に、補正演算を施すことにより、膜厚の真値を検出するようにしてもよい。この補正演算は、例えば以下のように行えばよい。
【0037】
この補正演算は、前記(10)式を基にして行う。基材1が平面でない場合の、基材1の平面からの傾きをΔθとする。また、補正演算を施すことにより得られる膜厚の真値をd′とする。基材1が平面である場合の位相変化δと、基材1が曲面である場合の位相変化δとは同一となるため、前記(10)式から次式(17)を導くことができる。
δ=(2π/λ)×n×d′×cos(θ+Δθ)
=(2π/λ)×n×d×cosθ ……(17)
式(17)を変形すると、次式(18)と表すことができる。
d′=d×cosθ/cos(θ+Δθ) ……(18)
つまり、(18)式から、測定点の傾きΔθを用いることにより膜厚dを補正することができる。
【0038】
また、上記実施形態において、薄膜2を面照射した場合、膜厚の対象領域内の位置毎に、光源12から入射される光の入射角が異なる。そのため、光源12による照射位置毎に、その位置における入射角を用いて図5に示す反射率の信号波形を演算するようにしてもよい。
また、本発明の一実施形態に係る膜厚測定方法を用いて、二つの物体間に存在する液体の膜厚を測定することができる。
【0039】
例えば、平面に球体が接触している場合等、二つの物体が接触している箇所は膜厚がゼロであり、この二つの物体が接触している箇所から離れるにつれて二つの物体間の距離が増加して空隙が大きくなる場合を想定する。上記実施形態で説明した水等の液体が蒸発する場合と照らし合わせると、液体が蒸発し終えた状態は、膜厚がゼロである状態、つまり、二つの物体が接触している接触位置に相当し、液体が蒸発して膜厚が変化することは、二つの物体間の距離が変化すること、すなわち、二つの物体が接触せず、二つの物体間の空隙の大きさが変化することに対応する。例えば、平面に球体が接触している場合等では、接触点を起点として接触点から離れていくほど空隙の厚さはほぼ一様に増加することになる。このような空隙に対して、本発明の一実施形態に係る膜厚測定方法を適用すると、各位置での空隙の厚さを計測することができる。先に説明した図6及び図7において、横軸を経過時間ではなく、二つの物体が接触する位置からの空間位置に置き換えた、反射率(図10)と膜厚(図11)とにより、二つの物体間に存在する液体の膜厚が変化する現象を説明することができる。
【0040】
図10及び図11において、p1は二つの物体が接触した膜厚ゼロになる位置を示し、p0は膜厚ゼロとなる位置p1から離れた距離を示す。
なお、ここでは、二つの物体間に存在する液体の膜厚を測定する場合について説明したが、同様の手順で平面に接触する球体と平面との間の間隙を測定することもできる。
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0041】
10 膜厚測定装置
11 ガラス
12 光源
13 撮像装置
14 制御装置
15 遮光カーテン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11