【実施例】
【0009】
[A]部品装着機の構成
実施例の部品装着荷重推定システムおよび部品装着荷重推定方法が適用される部品装着機は、
図1に示す部品装着システムに組み込まれており、そのシステムは、システムベース10と、そのシステムベース10に並んで配置された2つの部品装着機12とを含んで構成される。
【0010】
部品装着機12は、ベース14と、そのベース14上に配設されたフレーム16とによって構成される本体を備えている。ベース14上の前後方向における中央部には、前後2レーンにおいて基板を左右に搬送するために、1対のコンベア装置18が並んで配設され、前方部には、それぞれが部品供給装置として機能する複数の部品フィーダ20が左右方向に並んで配設されている。また、フレーム16には、部品装着装置22が支持されている。部品装着装置22は、部品保持デバイスである吸着ノズルを有する装着ヘッド24と、その装着ヘッド24を前後左右および上下に移動させるヘッド移動装置26とを含んで構成されている。
【0011】
図2をも参照して解るように、各コンベア装置18は、それぞれのレーンに対して、前後に対向するように立設されてそれぞれがコンベアベルト29(
図1では図示を省略)を周回可能に支持する1対の支持板28と、その1対の支持板28の間に配設されて下方から基板を持ち上げるための昇降台30とを備えている。1対のコンベアベルト29によって、基板Sは左右方向に搬送される。昇降台30には、バックアップピン31(
図1では図示を省略)が設定箇所に立設して取付けられており、部品装着作業に際し、設定された位置にまで搬送されてきた基板Sは、昇降台30が上昇させられることによって、バックアップピン31を介して持ち上げられ、1対の支持板28の各々の上端に係止された状態で固定される。つまり、コンベア装置18は、部品装着作業の際に基板Sを固定して保持する基板保持装置として機能するものとされている。
【0012】
部品装着作業は、ヘッド移動装置26によって、装着ヘッド24が、部品フィーダ20とコンベア装置18によって固定された基板Sとの間を移動させられつつ行われる。詳しく言えば、装着ヘッド24は、当該装着ヘッド24の下端部に取付けられた吸着ノズル32(
図1では図示を省略)において、部品フィーダ20から供給される部品Cを保持し、その保持した部品をコンベア装置18によって固定された基板S上に載置する。
図2では、部品Cを保持した装着ヘッド24が、コンベア装置18によって固定保持された基板Sの上方の所定位置に位置しており、その位置において吸着ノズル32を下降させることによって、その保持した部品Cが、基板Sの上面における所定の装着位置Pにおいて、その基板Sに装着されるのである。なお、部品装着作業におけるコンベア装置18,部品フィーダ20,部品装着装置22等の制御は、操作パネルが一体化された制御装置34によって行われる。
【0013】
[B]装着荷重推定システムおよび装着荷重推定方法
i)装着の際に部品に加わる荷重の管理の必要性
上記のような部品装着機による部品の基板への装着の際には、部品に荷重が加わることになる。一般的に、部品は、基板の表面に塗布されたクリームはんだの上に載置されることから、適切な押付荷重が加わることが望ましい。その一方で、荷重が大きすぎると、つまり、過大な衝撃となるような荷重が加わると、装着の際に部品にダメージを与えてしまうことにもなりかねない。したがって、部品の基板への装着の際にその部品に加わる荷重を適切に管理することが望ましく、そのためにも、部品に加わる荷重を把握することが望まれるのである。
【0014】
ii)装着荷重推定システムにおける荷重推定セクションの構成
部品に加わる荷重を推定するために用いられる実施例の装着荷重推定システムは、
図3にブロック図で示すシステムであり、荷重を推定するための部分である荷重推定セクション42は、基板に貼着されるようにして取付けられる歪センサ44と、コンピュータを主体とする荷重推定装置46とを含んで構成されている。
【0015】
図2から解るように、歪センサ44は、コンベア装置18に保持された基板Sの裏側、すなわち、部品Cが装着される面とは反対側の面において、設定箇所P0に取り付けられ、その設定箇所P0における基板Sの歪、詳しく言えば、基板Sの表面である基板平面に沿った方向の歪を検出するようにされている。なお、歪センサ44は、いわゆる歪ゲージと呼ぶことができるものである。
【0016】
荷重推定装置46は、歪センサ44による検出信号に基づいて設定箇所P0の上記歪を取得する歪取得部48と、後述の関係データを格納する関係データ格納部50と、取得された歪と関係データとに基づいて、装着位置Pに装着された部品Cに加わる荷重を推定する荷重推定部52とを含んで構成されている。
【0017】
iii)関係データ
関係データは、装着位置Pに部品が装着された際にその部品に加わる荷重と、その荷重が伝達された結果としての設定箇所P0における基板Sの歪との関係を示すデータである。実施例の装着荷重推定システムでは、関係データ格納部50に、伝達関数として格納されている。「伝達関数」とは、ある程度の衝撃的な荷重が装着位置Pに作用した際の設定箇所P0における歪の時間的変化を示す情報を持つ関数である。ちなみに、伝達関数はラプラス変換された量であり、厳密には、伝達関数をラプラス逆変換して時間的変化を表す関数となる。
【0018】
まず、静的荷重が作用するケースを考える。例えば、大きさが1の静的荷重が装着位置Pに作用したときの設定箇所P0の歪の値をy
0とした場合、検出された設定箇所P0の歪がZy
0であったときには、基板が線形弾性範囲で変形するものと仮定すれば、装着位置PにはZの大きさの荷重が作用することが解る。
【0019】
しかしながら、基板への装着において部品に作用する荷重は、ある程度の衝撃的荷重であると考えるべきであり、そのような荷重が作用するケースでは、設定箇所P0における歪の時間的変化を考える必要がある。例えば、
図4(a)に示すように、大きさ1のインパルス荷重(極めて短い時間に作用する荷重であり、数学的に厳密にいうとデルタ関数である)が装着位置Pに作用した場合、
図4(b)に示すような歪の時間的変化y(t)が検出される。一方で、
図4(c)に示すように、装着位置Pにおいて、ある時間的変化をする荷重F(t)が作用したとき、設定箇所P0では、
図4(d)に示すような歪の時間的変化Y(t)が検出される。
【0020】
荷重F(t)を、
図4(c)に示すように、インパルス荷重の集合(重ね合わせ)F
n(n=1,2,3,・・・)で表すとすると、設定箇所P0における歪についても、
図4(d)示すように、インパルス荷重が作用したときの歪の時間的変化y(t)として表すことができる。したがって、上記歪の時間的変化Y(t)を、y(t)の重ね合わせとして考えれば、それらに応じたインパルス荷重を求めることができるので、それらを合わせれば、装着位置Pに作用した上記荷重F(t)、詳しくは、荷重の時間的変化を求めることができるのである。ラプラス変換を利用しつつ、そのような伝達関数を使用することにより、設定箇所P0における歪の時間的変化Y(t)から、装着位置Pに作用した荷重F(t)を容易に求めることができるのである。ちなみに、その理論に従うことによって、歪の時間的変化と荷重の時間的変化の関係式は、以下のように表すことが可能である。
F(s)=G(s)・Y(s) G(s):伝達関数,s:ラプラス演算子
【0021】
関係データ格納部50には、関係データとして、上述した伝達関数が格納されており、荷重推定部52は、その伝達関数に基づいて、歪センサ44による検出信号に基づいて取得された設定箇所P0の歪(厳密に言えば、歪の時間的変化)から、装着位置Pに装着された部品に加わる荷重を推定するのである。なお、実際の部品装着作業では、相当数の部品が、相当数の装着位置Pにそれぞれ載置されるため、関係データ格納部50には、複数の装着位置Pの各々ごとの伝達関数が格納されており、荷重推定装置46では、複数の伝達関数の中から、装着位置Pに対応する伝達関数が選択され、その選択された伝達関数に基づいて、その装着位置Pにおいて部品に作用する荷重が推定されるようにされている。
【0022】
なお、本実施例の装着荷重推定システムの荷重推定セクション42を用いた装着荷重推定プロセスは、実施例の荷重推定方法の一部であり、(A) コンベア装置18によって保持された基板のある装着位置Pに部品を装着する部品装着工程と、(B) その部品装着工程における部品の装着時に、基板の設定箇所P0におけるその基板の基板平面に沿った方向の歪を検出する歪検出工程と、(C) その歪検出工程において検出された設定箇所P0における歪と上記関係データとに基づいて、装着位置Pに装着される部品に加わる荷重を推定する荷重推定工程とを含むものとされているのである。
【0023】
iv)装着荷重推定システムにおける関係データ作成セクションの構成
本実施例の装着荷重推定システムにおいて、上記関係データ、つまり、上記伝達関数の作成は、
図3に示す関係データ作成セクション54を用いて行われる。その関係データ作成セクション54は、
図3に示すように、基板保持装置56と、荷重付加装置58と、荷重付加装置58によって付加される荷重を検出するための荷重センサ60と、基板に貼着されるようにして取り付けられる歪センサ62と、コンピュータを主体とする関係データ作成装置64とを含んで構成される。
【0024】
基板保持装置56は、
図5に示すように、実際に部品が装着される基板Sと同じ基板S(実際に部品が装着される基板Sそのものではなく同種,同型式,同諸元の基板という意味である)を、実際に部品装着機12のコンベア装置18によって保持される条件と同じ条件で保持するように構成されている。詳しく言えば、基板Sは、同じ位置において同じ径のバックアップピン66によって支持され、両端部が、コンベア装置18のものと同様の1対の支持板68の各々の上端に係止された状態で固定される。なお、ここでいう「同じ条件」とは、装着位置Pに加わる荷重が伝達された結果としての設定箇所P0における歪が実質的に同じとなるような条件であればよく、必ずしも完全に同一の支持状態が実現されることまでもが要求されるわけではない。
【0025】
荷重付加装置58は、所定の重量を持つロッド70を、基板Sの装着位置Pに、真っ直ぐに落下させるようにして衝突させるように構成されている。荷重センサ60は、ロッド70の外周に貼着されるようにして取り付けられ、そのロッド70の軸線方向の歪を検出するように構成されている。つまり、荷重センサ60は、荷重ゲージと呼ぶこともできるものであり、基板Sの装着位置Pにロッド70が落下したときの基板Sに加わる荷重の時間的変化を検出すべく、ロッド70の軸線方向の歪の時間的変化を検出するようにされている。一方、歪センサ62は、上述の基板Sの設定箇所P0に、荷重推定のプロセスにおいて使用されている歪センサ44と同型式のものであり、そのプロセスにおいて基板Sに取り付けられたのと同様の状態に、貼着されるようにして取り付けられる。
【0026】
図3から解るように、関係データ作成装置64は、歪センサ62による検出信号に基づいて設定箇所P0の上記歪(厳密には、歪の時間的変化)を取得する歪取得部72と、荷重センサ60による検出信号に基づいて装着位置Pにおいて基板Sに加わる荷重(厳密には、荷重の時間的変化)を取得する荷重取得部74と、歪取得部72によって取得された歪およ荷重取得部74によって取得された荷重とに基づき、上述の理論に従って伝達関数を関係データとして作成する関係データ作成部76とを含んで構成されている。
【0027】
なお、本実施例の装着荷重推定システムの関係データ作成セクションを用いた関係データ作成プロセスは、実施例の荷重推定方法の一部であり、(A) コンベア装置18による保持の条件と同じ条件で、部品が装着される基板と同じ基板を、基板保持装置56によって保持させる基板保持工程と、(B) その保持された基板に、荷重付加装置58によって、装着位置Pにおいて荷重を加える荷重付加工程と、(C) 荷重付加工程において装着位置Pに加えられた荷重を検出する荷重検出工程と、(D) 荷重付加工程において荷重が加えられた時に、その基板の設定箇所P0における基板平面に沿った方向の歪を検出する別の歪検出工程と、(E) 荷重検出工程において検出された装着位置Pにおける荷重と、別の歪検出工程において検出された設定箇所P0における歪とに基づいて、伝達関数を上記関係データとして作成する関係データ作成工程とを含むものとされているのである。
【0028】
ちなみに、関係データ作成装置64によって、作成された関係データは、
図3に示すように、記憶媒体を介して、若しくは、通信によって、荷重推定装置46の関係データ格納部50に格納され、上記装着荷重推定プロセスにおいて利用される。なお、関係データ作成プロセスにおいて、複数の装着位置Pに対して、それらの各々ごとに、伝達関数、つまり、関係データを作成してもよい。
【0029】
v)実施例の装着荷重推定システムおよび実施例の装着荷重推定方法の利点
実施例の装着荷重推定システムおよび実施例の装着荷重推定方法によれば、装着位置とは違う箇所となる設定箇所の歪を測定することによって、装着位置に装着される部品に加わる荷重が推定される。さらに言えば、複数の装着位置に部品が装着されるような場合であっても、例えば、それら複数の装着位置ごとに上記関係データを作成することにより、基板の特定の1箇所の歪を検出するだけで、それら複数の装着位置の各々に装着される部品に加わる衝撃を、簡便に推定することが可能となる。また、嵩高な荷重センサ上に直に部品を装着するのと違い、実際の基板に装着する際に部品に加わる荷重を、正確に推定することが可能であり、複数の装着位置の各々における荷重を推定する場合であっても、1つの荷重センサを移動させたり、複数の荷重センサを配置することなく、それら複数の装着位置の各々における荷重を簡便に推定することが可能となる。
【0030】
なお、上記実施例では、バックアップピン31が基板の中央部に配置されていない状態で基板が保持されているが、バックアップピン31が基板の中央部に配置されていても、伝達関数を用いれば、設定箇所P0を適宜選定することによって、装着位置Pに装着される部品に加わる荷重を正確に測定することが可能である。
【0031】
vi)装着荷重推定システムおよび装着荷重推定方法のバリエーション
上記実施例では、関係データとして、伝達関数を採用したが、伝達関数に代えて、例えば、装着位置Pにおける荷重と設定箇所P0における歪との対応付けをしたマップデータのようなものを採用することも可能である。また、それぞれに、関係データが存在する複数の装着位置Pの間に装着される部品に加わる荷重を推定する場合には、例えば、それら複数の装着位置Pにおいて推定される荷重を用いた線形補完処理を行うことによって、その場合においても部品に加わる荷重を適切に推定することが可能である。さらに、設定箇所P0を複数設定し、それら複数の設定箇所P0の各々における歪に基づいて、装着位置Pに装着される部品に加わる荷重を推定するようにしてもよい。
【0032】
歪センサ44、62によって検出される設定箇所P0における歪は、基板平面に沿った一方向の歪であっても、また、基板平面に沿った互いに交差する複数方向における歪であってもよい。また、上記実施例では、歪センサ44と歪センサ62は、互いに同型式で、互いに異なるものを採用していたが、装着荷重推定プロセスと関係データ作成プロセスとの両方において、1つの歪センサを共用することも可能である。
【0033】
上記実施例の装着荷重推定システムでは、荷重推定セクションと関係データ作成セクションとは、別のコンピュータによって構成される荷重推定装置46,関係データ作成装置64によって、それぞれ構成されている。それら荷重推定装置46,関係データ作成装置64を、1つのコンピュータによって一体化することも可能である。
【0034】
上記実施例では、ロッド70を落下させる方式の荷重付加装置58を採用していたが、実際の部品装着機と同じような動作によって、基板に荷重を作用させるような荷重付加装置を採用することも可能である。