特許第6550139号(P6550139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6550139植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550139
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/154 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   A23B7/154
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-543602(P2017-543602)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2016078967
(87)【国際公開番号】WO2017057654
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-196880(P2015-196880)
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】阿蘇 雄
(72)【発明者】
【氏名】林 孝三郎
(72)【発明者】
【氏名】山南 隆徳
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−125704(JP,A)
【文献】 特表2008−504041(JP,A)
【文献】 特開平07−289163(JP,A)
【文献】 特開平11−243853(JP,A)
【文献】 特表2005−507233(JP,A)
【文献】 特開2015−000018(JP,A)
【文献】 特開2002−034448(JP,A)
【文献】 特開平03−277230(JP,A)
【文献】 特開昭62−143635(JP,A)
【文献】 特開2002−053448(JP,A)
【文献】 特開平8−133945(JP,A)
【文献】 Postharvest Biology and Technology,2015年 6月19日,Vol.109,p.45-56
【文献】 Indian Journal of Chemical Technology,1998年,Vol.5,p.393-396
【文献】 Drying Technology,2002年,Vol.20, No.3,p.719-726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−7/16
A23L 3/00−3/3598
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルコサミン、及びその誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類であって、トロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を有効成分として含有し、
剥皮前の外皮を有する青果物における少なくとも前記外皮に付与されて用いられる、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤。
【請求項2】
微生物由来のグルコサミン、及びその誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を有効成分として含有し、
剥皮前の外皮を有する青果物における少なくとも前記外皮に付与されて用いられる、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤。
【請求項3】
前記グルコサミン類として、トロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を含有する請求項に記載の抑制剤。
【請求項4】
さらに、有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の抑制剤。
【請求項5】
前記物理的・化学的刺激による変色が、植物に対して付与される有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤に起因する化学的刺激による変色を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の抑制剤、及び液状媒体を含有する、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
花卉、果実、及び野菜などの植物は、収穫してから良好な品質を保持できる期間が比較的短い。これらの植物に変色などの外観から確認される品質劣化が生じると、その植物の商品価値が低下する事態を招く。特に、植物の収穫地(産地)から消費者への販売地までの輸送が長期間に亘る植物である場合、品質劣化は重要な問題となる。
【0003】
従来から、植物の鮮度保持や日持(保存性)向上に関しては、様々な技術が開発されている。その技術の一つとして、植物への添加により、日持(保存性)を向上させるための組成物などがあり、例えば酢酸などの有機酸類が日持向上剤として用いられている。例えば、特許文献1には、約0.2〜約3重量%のキトサンもしくは修飾キトサンと、約0.1〜1.0重量%の有機酸と、約0.02〜0.1重量%の界面活性剤との水溶液を含む生鮮産物の保存のためのコーティング組成物が提案されている。また、例えば、特許文献2には、キトサン、水及び酢酸などの酸を混合してキトサン溶液を調製し、これを果物や野菜の表面に付着させることを特徴とする方法で、キトサンの保水性を利用した、果物や野菜の鮮度保持方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−504041号公報
【特許文献2】特開平4−281739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、果実及び野菜などの植物の日持(保存性)を向上させるための酢酸などの有機酸類を含有する保存剤組成物について鋭意研究を重ねていたところ、植物に保存剤組成物が付与されると、それに含有される有機酸類に起因して、植物に部分的に日焼け又は色抜けのような斑点状の変色が生じる場合があることが判明した。このような化学的刺激による変色に加えて、植物、特に、果実及び野菜などの青果物は、収穫、出荷、貯蔵、包装、梱包、及び輸送などの際に物理的刺激を受けることが多く、その物理的刺激による傷みからも変色を生じる。
【0006】
本発明は、本発明者らが得た後述の新規知見に基づき、植物に対する物理的・化学的刺激による変色を抑制することが可能な変色抑制剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の植物の化学的刺激による変色を抑制する手段について、鋭意研究した結果、意外にも、キトサン及びグルコサミンなどのグルコサミン類に、植物の化学的刺激による変色を抑制する効果があることを見出した。本発明者らはさらに検証した結果、グルコサミン類には、植物が受ける物理的刺激による変色を抑制する効果もあることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、キチン、キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を有効成分として含有する、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物に対する物理的・化学的刺激による変色を抑制することが可能な変色抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制液を用いて処理したパイナップルの処理日から7日後(収穫日から8日後)の状態を撮影した図面代用写真である。
図2A図2Aは、未処理のパイナップルの収穫日から8日後の状態を撮影した、図1と比較される図面代用写真である。
図2B図2Bは、図2Aの一部分を拡大した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<抑制剤>
本発明の一実施形態に係る植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤(以下、単に「抑制剤」と記すことがある。)は、植物に対し、物理的・化学的刺激による変色を抑制するために用いられるもの(植物の物理的・化学的刺激による変色抑制用剤)である。この抑制剤は、キチン、キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を有効成分として含有する。
【0013】
本明細書において、「植物の物理的・化学的刺激による変色」とは、植物が物理的刺激及び/又は化学的刺激を受けることによって生じる変色をいう。植物が受ける物理的刺激としては、例えば、収穫、出荷、貯蔵、包装、梱包、及び輸送などの際に、その植物同士がぶつかったり、ヒト、地面、及び箱などにぶつかったりすることなどの植物が受ける刺激を挙げることができる。植物が受ける化学的刺激としては、例えば、後述する日持向上剤、保存料、殺菌・漂白料、及び防カビ剤などの薬剤が植物に付与されることによって、植物が受ける刺激を挙げることができる。また、化学的刺激として、植物自身が作り出す、エチレンなどの植物ホルモンにより、植物が受ける刺激を挙げることができる。
【0014】
植物、特に果実及び野菜などの青果物における物理的刺激を受けた部分又はその刺激による損傷部分は、細胞が破壊されることによる植物内の酵素の働きや、果実の軟化及び果皮の劣化などによる内部液滲出部に菌等が付着、生育することによって、変色を生じると考えられる。収穫された植物は、本来の生長力を失うため、傷んだ部分の組織を修復する働きが弱くなり、その部分から変色が拡大していく傾向にあると考えられる。
【0015】
本実施形態の抑制剤は、後記実施例に示すように、グルコサミン類が、植物の物理的・化学的刺激による変色を抑制する作用を有するため、安全な成分を用いて、植物における物理的・化学的刺激を受けた部分からの変色の発生やその変色の拡大を抑制することが可能である。
【0016】
抑制剤は、植物の物理的・化学的刺激による変色抑制の有効成分として、キチン、キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を含有する。抑制剤には、これらのグルコサミン類の1種が単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよく、2種以上の混合物が含有されていてもよい。
【0017】
キチンは、カニ及びエビなどの甲殻類、昆虫などの外骨格、イカ及び貝類などの有機骨格、並びにキノコ類及びカビ類などの細胞壁に含まれる多糖の一種である。キトサンは、キチンをアルカリ処理などによる脱アセチル化反応により得られる多糖の一種である。
【0018】
キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩は、キチン又はキトサンを、オゾンで酸化分解、酸若しくはアルカリで加水分解、又は酵素で加水分解などして得ることができる。
【0019】
本明細書において、キチンオリゴ糖(オリゴN−アセチルグルコサミン)とは、キチン分解物であり、キチンが分解してなる重合度2以上のオリゴ糖を意味し、キチンオリゴ糖には、キチンの軽度分解物も含まれる。また、キトサンオリゴ糖(オリゴグルコサミン)とは、キトサン分解物であり、キトサンが分解してなる重合度2以上のオリゴ糖を意味し、キトサンオリゴ糖には、キトサンの軽度分解物も含まれる。キチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖は、重量平均分子量が、300〜3000のものが好ましく、300〜2000のものがより好ましく、300〜1000のものがさらに好ましい。本明細書において、前記キチンの軽度分解物及びキトサンの軽度分解物はいずれも重量平均分子量が3000を超えるものである。グルコサミンは、アミノ糖の一種であり、モノマーである。
【0020】
グルコサミン類における誘導体としては、例えば、N−アセチルグルコサミン及びN−メチル−L−グルコサミンなどのグルコサミン誘導体、キチン・キトサンのO−アルキル化誘導体、キトサンのアミド誘導体・イミド誘導体、キチン・キトサンの硫酸エステル・リン酸エステル、並びにキトサン四級アンモニウム塩などのカチオン化キトサンなどを挙げることができる。
【0021】
キチン・キトサンのO−アルキル化誘導体の具体例としては、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、及びグリセリルキトサンなどを挙げることができる。キトサンのアミド誘導体・イミド誘導体の具体例としては、N−アセチルキトサン、サクシニルキトサン、サクシニルカルボキシメチルキトサン、及びフタロイルキトサンなどを挙げることができる。キチン・キトサンの硫酸エステル・リン酸エステルの具体例としては、キチンサルフェート、キチンフォスフェート、キトサンサルフェート、及びキトサンフォスフェートなどを挙げることができる。
【0022】
グルコサミン類における塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩などを挙げることができる。グルコサミン類における塩の具体例としては、グルコサミン塩酸塩、グルコサミン硫酸塩、グルコサミンリン酸塩、キトサン塩酸塩、キトサン酢酸塩、キトサン乳酸塩、及びキトサンアジピン酸塩などを挙げることができる。
【0023】
グルコサミン類として、トロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を用いることが好ましい。トロポミオシンは、分子量約3万3千のサブユニットからなる甲殻類中の筋肉タンパク質であり、現在、小エビの主なアレルゲンであることが確認されている。また、ロブスター及びカニにおける分子のクローニング実験により、このタンパク質が甲殻類の共通のアレルゲンであると見なされている。トロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を用いることで、ヒトに対してアレルギーを引き起こす可能性が低いか、又はその可能性がない抑制剤とすることが可能である。したがって、グルコサミン類としてトロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を有効成分として含有する抑制剤は、植物として、青果物(果物及び野菜)などの食用の植物により好適である。
【0024】
なお、本明細書において、「トロポミオシン」とは、トロポミオシン自体に加えて、トロポミオシンの一部であるペプチドをも含むものとする。また、グルコサミン類におけるトロポミオシン(及びそのペプチド)の含有量は、特開2006−177936号公報に記載のキトサン中のトロポミオシン測定方法を参考にして、イムノアッセイ方法、より好適には、ELISA方法で測定することができる。後記実施例で使用したグルコサミン類のトロポミオシン含有量は、特開2006−177936号公報に記載の測定方法に準じて、グルコサミン類を有機酸の水溶液に溶解した状態で、ELISA方法で測定した。この測定方法にて測定されるトロポミオシン含有量が50ppm以下に制限されているグルコサミン類がより好ましく、検出限界以下に制限されているグルコサミン類がさらに好ましい。
【0025】
グルコサミン類のうち、キチン又はキトサンの分解物である、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩が好ましく、グルコサミン及びその誘導体並びにそれらの塩がより好ましい。本発明者らは、後記実施例などの実験結果の検証から、グルコサミン類のうち分子量の低いものの方が、植物に入り込みやすく、植物がそれを感知することでファイトアレキシンを生成するものと考えられ、この植物自身の抵抗力によって、植物の物理的・化学的刺激による変色を抑制する作用がより働きやすくなると考えている。
【0026】
ここで、前述の特許文献1に開示された生鮮産物の保存のためのコーティング組成物では、保存性向上の役割は有機酸が担っており、生鮮産物の表面に皮膜を形成するために、酸溶液に可溶で水に不溶なキトサンが酸溶液の形態として用いられている。また、前述の特許文献2に開示された技術でも、果物や野菜の表面に被膜を形成するため、酸溶液の形態としてキトサンが用いられ、かつ、この特許文献2に開示の技術では、キトサンの保水性を利用して鮮度保持を図っている。これらの特許文献1及び2に開示された技術では、キトサンは酸類と併用することが前提であり、皮膜形成や保水性のために使用されることから、分子量の比較的高いキトサンが用いられる。そのため、これまで当業者は、特許文献1及び2の開示内容を考慮しても、グルコサミン類に、植物の物理的・化学的刺激による変色を抑制する作用を有することを見出すことができなかったと考えられる。
【0027】
上述の分子量が比較的低いグルコミン類の方が好ましいことから、グルコサミン類として、キチン又はキトサンを用いる場合には、キチン又はキトサンの重量平均分子量は150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましく、50万以下であることがさらに好ましい。本明細書において、前記重量平均分子量は、プルランを標準物質として用いた、GPC又はHPLCにより測定されるプルラン換算の値である。
【0028】
グルコサミン類として、微生物由来のグルコサミンを用いることがさらに好ましく、このうち、トウモロコシなどの植物を微生物により発酵させて作る植物由来のグルコサミンがより好ましい。微生物由来のグルコサミンは、エビ及びカニなどの甲殻類に由来するアレルギー物質がないという利点がある。したがって、グルコサミン類として微生物由来のグルコサミンを有効成分として含有する抑制剤は、植物として、青果物(果物及び野菜)などの食用の植物により好適である。微生物由来のグルコサミンは、大腸菌又は酵母などの遺伝子組換え微生物を用いてグルコサミンを発酵生産する方法や、グルコサミンの生産能を有する糸状菌を用いて液体培養することにより、グルコサミンを培地中に高生産させ、かつ効率よく分離する方法により得ることができる。さらに好ましい微生物由来のグルコサミンとしては、クエン酸発酵に使用された微生物由来のグルコサミンであり、このグルコサミンは、クエン酸発酵の際に使用された糸状菌などの微生物菌体、特にその余剰菌体の細胞壁に含まれるキチン質を分解・精製することにより得ることができる(例えば特表2005−507233号公報参照)。好適な微生物菌体(真菌)としては、アスペルギルス属、ペニシリウム属、及びムコール属などの糸状菌を挙げることができる。より好ましい真菌としては、クロコウジカビ(黒麹菌、Aspergillus niger)、アスペルギルステレウス(Aspergillus terreus)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)などのアスペルギルス属に属する微生物菌体を挙げることができる。これらの微生物菌体の発酵に使用される培地としては、デンプンなどの糖を含む培地が好適であり、トウモロコシデンプンなどの植物からの糖を含む培地がより好適である。後記実施例で示すように、グルコサミン類の中でも特に、トウモロコシなどの植物由来のグルコサミンでその植物のクエン酸発酵に使用された微生物由来のグルコサミンが、処理対象も植物であることからか、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制効果が非常に高く、好ましい。なお、上述の微生物由来のグルコサミンには、その塩も含まれる。
【0029】
甲殻類に由来するアレルギー物質がないという観点からは、担子菌である椎茸、エノキ、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ、及びシメジなどの子実体及び菌糸体などに由来するキトサンや、真菌の菌糸体又は酵母の細胞壁に由来するキトサン(以下、「細胞壁由来のキトサン」と記載することがある。)も好ましいといえる。細胞壁由来のキトサンは、真菌の菌糸体又は酵母の細胞壁から抽出されたキチンをアルカリ溶液と接触させてアルカリ不溶性画分を得た後、そのアルカリ不溶性画分を懸濁し、その懸濁画分を酸性溶液に接触させることで、得ることができる。アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、及び水酸化アンモニウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。酸性溶液としては、例えば塩酸、酢酸、及びギ酸などの酸水溶液を用いることができる。上述の細胞壁としては、クロコウジカビ(Aspergillus niger)からの細胞壁がより好ましく、クロコウジカビ培養物がクエン酸を得るために使用される培養プロセスの副産物からの細胞壁がさらに好ましい。このような細胞壁由来のキトサンは、上述の通り、細胞壁から抽出されるキチンの分解物であり、一般的な甲殻類由来のキトサンに比べて低分子量である。細胞壁由来のキトサンは、重量平均分子量が100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましく、30000以下であることがさらに好ましい。なお、細胞壁由来のキトサンの調製方法は、特表2005−529191号公報において、低分子量キトサンを調整することができる方法として開示されている。
【0030】
グルコサミン類には、市販品を用いることができる。キトサンの市販品としては、例えば、商品名「ダイキトサン」(大日精化工業社製)などを挙げることができる。グルコサミンの市販品としては、例えば、商品名「ナチュラルグルコサミンG」(焼津水産化学工業社製)、及び商品名「コーヨーグルコサミン」(甲陽ケミカル社製)などを挙げることができる。微生物由来のグルコサミンの市販品としては、例えば、商品名「発酵グルコサミンG」及び「発酵グルコサミンK」(協和発酵バイオ社製)などを挙げることができる。N−アセチルグルコサミンの市販品としては、例えば、商品名「マリンスウィートYSK」(焼津水産化学工業社製)、及び商品名「コーヨーN−アセチルグルコサミンPG」(甲陽ケミカル社製)などを挙げることができる。キチンオリゴ糖の市販品としては、例えば、商品名「NA−COS−Y」(焼津水産化学工業社製)、及び商品名「オリゴ−N−アセチルグルコサミン」(甲陽ケミカル社製)などを挙げることができる。キトサンオリゴ糖の市販品としては、例えば、商品名「COS−YS」(焼津水産化学工業社製)などを挙げることができる。細胞壁由来のキトサンの市販品としては、商品名「KiOmedine−CsU」、「KiOnutrime−CsG」及び「KitoGreen」(いずれもKitoZyme社製)などを挙げることができる。
【0031】
本実施形態の抑制剤は、さらに有機酸及びその塩(以下、「有機酸類」と記すことがある。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤を含有することが好ましい。抑制剤が、日持向上剤を含有することで、植物の物理的・化学的刺激による変色を抑制する効果に加えて、植物の日持向上効果を得ることが可能となる。
【0032】
前述の通り、有機酸及びその塩は、植物の日持(保存性)を向上させることに有効となり得るものであるが、本発明者らの検討により、植物に日持向上剤を付与すると、植物に部分的に日焼け又は色抜けのような斑点状の変色(本明細書において、「ドライスポット」と称することがある。)が生じる場合があることが判明した。このような、植物に対して付与される有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤に起因する化学的刺激による変色を、本実施形態の抑制剤によって抑制することができる。この変色の抑制効果は、日持向上剤が抑制剤に含有される場合にも、抑制剤とは別途として植物に付与される場合にも、有効に発揮される。本実施形態の抑制剤は、日持向上剤とは別体として用いることができる。例えば、日持向上剤が付与された植物に、抑制剤を付与することができる。また、例えば、抑制剤が付与された植物に、日持(保存性)を向上させるために、日持向上剤を付与することもできる。
【0033】
有機酸類としては、食品添加物として使用可能なものを用いることができる。有機酸類として、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、プロピオン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、及びそれらの塩などを挙げることができる。好適な塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びカルシウム塩などの金属塩を挙げることができる。より安全に植物の日持(保存性)を向上させる観点から、有機酸類として、酢酸、クエン酸、乳酸、及びそれらの塩が好ましく、酢酸、酢酸ナトリウム、及び酢酸カルシウムがより好ましい。有機酸及びその塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本実施形態の抑制剤は、植物の表面に付着して艶を出すために、さらに展着剤を含有することができる。抑制剤に展着剤を含有させることにより、抑制剤による植物の艶出し効果を得ることができ、別途コーティング処理を行う作業を省略することが可能となる。展着剤としては、食品添加物として使用可能なものを用いることができる。展着剤として、例えば、セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デンプンリン酸エステル、ペクチン、ゼラチン、マンナン、及び寒天などを挙げることができる。これらの展着剤の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本実施形態の抑制剤は、植物の品質を保持するために、又は日持を向上させるために、プロピレングリコールなどの品質保持剤を含有することができる。また、抑制剤は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、従来から使用されている食品添加物における保存料、殺菌・漂白料、及び防カビ剤などが含有されていてもよい。
【0036】
本実施形態の抑制剤は、該抑制剤中に含有される各成分を混和させるために、さらに乳化剤(界面活性剤)を含有することができる。好適な乳化剤としては、食品添加物として食品に使用可能な乳化剤を用いることができる。その乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、及びレシチンなどのノニオン系乳化剤、並びにアシル化乳酸などのアニオン系乳化剤などを挙げることができる。刺激性が低いこと、及び環境への影響が少ないことなどから、ノニオン系乳化剤が好ましい。これらの乳化剤の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、抑制剤が水を含有する液状のものである場合、乳化剤は、水と良好に混和するか溶解するものが好ましく、この観点から、乳化剤のHLBは、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましい。このHLBの数値は、グリフィン法により求めることができ、その上限は20である。
【0037】
抑制剤は、常法に従い、例えば、液状、粉末状、ペースト状、ジェル状、及び錠剤状などの任意の形態とすることができる。これらの形態のうち、液状、ペースト状、又はジェル状の形態であることが好ましく、液状であることがより好ましい。この場合、抑制剤は、液状媒体を含有することがさらに好ましい。抑制剤が液状媒体を含有した液状(溶液状又は分散液状)の形態であることにより、その抑制剤をさらに液状媒体で希釈した液体(抑制液)を容易に得ることができ、その抑制液にて噴霧や塗布、浸漬などの手法により、植物を容易に処理することができる。液状媒体としては、安全性の観点などから、水、アルコール(好適にはエタノール)、又はそれらの混合液を用いることが好ましい。
【0038】
抑制剤は、いずれの形態であっても、グルコサミン類などの成分の濃度を高めた高濃度の抑制剤として、使用時に水などの液状媒体で希釈されて用いられる、希釈用の抑制剤(抑制液を調製するための抑制剤)とすることが、使い勝手の良い点で好ましい。この観点から好適な液状の抑制剤の場合、前述した各成分の含有量は、次に述べる範囲であることが好ましい。
【0039】
抑制剤中の前述のグルコサミン類の含有量は、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜15質量%である。
抑制剤が前述の有機酸類を含有する場合、その抑制剤中の有機酸類の含有量は、1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。
抑制剤が前述の展着剤を含有する場合、その抑制剤中の展着剤の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
抑制剤が前述の液状媒体を含有する場合、その抑制剤中の液状媒体の含有量は、抑制剤の全質量中、40〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜80質量%、さらに好ましくは40〜75質量%である。
なお、上記各成分の含有量は、抑制剤中にその成分の2種以上が含有されている場合、その成分の2種以上の合計の含有量である。
【0040】
上述したように、抑制剤は、使用時において、植物を処理しやすいように、液状に調製されて、抑制液として用いられることが好ましい。例えば、抑制剤が前述の各成分を高濃度に含有する、液状、又はペースト状若しくはジェル状の半固体状の形態である場合、その抑制剤を液状媒体で希釈して抑制液として用いることができる。また、例えば、抑制剤が粉末状及び錠剤状などの固体状の形態である場合も、その抑制剤を、液状媒体(溶媒)で溶かした溶液状の抑制液として、又は液状媒体(分散媒体)で分散させた分散液状の抑制液として用いることができる。
【0041】
<抑制液>
本発明の一実施形態に係る植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制液(以下、単に「抑制液」と記すことがある。)は、前述の抑制剤、及び液状媒体を含有する。抑制剤は、上述の通り、液状媒体を含有することができ、また、液状でもよいものであるため、抑制液は、液状の抑制剤でもよく、抑制剤が使用時に水などの液状媒体で希釈されたものでもよい。本明細書では、必須成分として、前述のグルコサミン類のうちの少なくとも1種、及び液状媒体を含有し、かつ、植物にそのまま使用可能な液状の抑制剤を、便宜状、抑制液と称する。したがって、抑制液は、抑制剤を調製した後、さらに液状媒体で希釈して製造することができ、また、希釈の作業を経ることなく製造することもできる。
【0042】
本実施形態の抑制液は、キチン、キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を有効成分として含有する。抑制液中のグルコサミン類の含有量は、グルコサミン類による変色抑制効果の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。抑制液中のグルコサミン類の含有量の上限は特に制限されないが、経済的観点から、10質量%以下が好ましい。なお、抑制液がグルコサミン類のうち2種以上を含有する場合、前記グルコサミン類の含有量は、それらの合計の含有量である。
【0043】
抑制液が前述の有機酸類を含有する場合、その抑制液中の有機酸類の含有量は、植物の日持(保存性)を向上させる観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、グルコサミン類による変色抑制効果を確保する観点、及び青果物などの食用の植物に用いる際の風味の観点から、抑制液中の有機酸類の含有量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。なお、抑制液が有機酸類のうち2種以上を含有する場合、前記有機酸類の含有量は、それらの合計の含有量である。
【0044】
抑制液が前述の展着剤を含有する場合、抑制液中の展着剤の含有量は、植物に対して展着剤による艶出し効果が得られるように、0.1〜5質量%が好ましく、0.2〜5質量%がより好ましく、0.5〜5質量%がさらに好ましい。なお、抑制液が2種以上の展着剤を含有する場合、前記展着剤の含有量は、それらの合計の含有量である。
【0045】
なお、抑制液中の液状媒体の含有量は、特に限定されず、抑制液中の液状媒体を含む各成分の合計含有量が100質量%となる残量とすることができる。また、抑制液は、前述の抑制剤と同様に、前述の乳化剤、保存料、殺菌・漂白料、及び防カビ剤などが含有されていてもよい。
【0046】
本実施形態の抑制液の使用方法は、特に限定されず、抑制液を処理対象である植物に接触させて用いることができる。植物に抑制液を接触させる手法としては、植物に応じて、適宜選択することができる。例えば、抑制液に植物を浸漬する方法や、抑制液を植物に塗布又は噴霧する方法などを挙げることができる。好ましい方法の一例として、収穫後の植物(より好ましくは外果皮又は外皮のある状態の青果物)に、抑制液を噴霧する方法を挙げることができる。噴霧による手法をとることで、抑制液を植物の外表面の略全体に被覆し易くなり、それにより、植物の物理的・化学的刺激による変色を全体的に抑制することが可能となる。
【0047】
植物に対する抑制液の使用量は、特に限定されず、処理対象の植物の種類などに応じて、適宜決定することができる。例えば、植物の全体にまんべんなく塗布され、かつ、液だれしない程度の量にて抑制液を使用することができる。植物の物理的・化学的刺激による変色を効果的に抑制する観点から、植物の単位表面積当たりの抑制液の乾燥質量で、0.05mg/cm2以上が好ましく、0.1mg/cm2以上がより好ましく、0.2mg/cm2以上がさらに好ましい。また、抑制液の使用量の上限は、経済的観点などから、10mg/cm2以下が好ましい。なお、抑制液の前記使用量は一例であり、処理対象である植物の種類、大きさ及び質量などに応じて、適宜調整することができる。
【0048】
上述の抑制剤及び抑制液は、植物が受ける物理的・化学的刺激による変色を抑制するために用いられる。この変色抑制の有効成分として、グルコサミン類が含有されているため、人体に対する安全性の高い成分で変色を抑制する効果を得ることが可能である。そのため、本実施形態の抑制剤及び抑制液は、好適には、青果物などの食用の植物に好適に用いられる。
【0049】
また、抑制剤及び抑制液は、花卉類、山菜類、果実類、及び野菜類などの植物に利用でき、収穫前及び収穫後のいずれの植物においても利用することができる。好ましくは、植物が収穫された後から消費者にわたるまでの間の収穫後の植物に用いられ、より好ましくは収穫後の青果物(果実又は野菜)に用いられる。抑制剤及び抑制液は、日持向上剤に起因する化学的刺激による変色の抑制に有効であることから、収穫後の外皮を有する青果物で、外皮のある状態(剥皮前)の青果物における少なくとも外皮に付与されることがさらに好ましい。抑制剤及び抑制液が、剥皮前の青果物における少なくとも外皮に付与されることで、外皮におけるドライスポットの発生を抑制することができ、商品価値を高めることが可能である。抑制剤及び抑制液が用いられる対象となる青果物の好適な具体例としては、リンゴ、ナシ、ブドウ、バナナ、マンゴー、メロン、オレンジ、ミカン、レモン、ライム、パイナップル、パパイア、キウイ、アボカド、イチゴ、トマト、ナス、キュウリ、キャベツ、白菜、ホウレンソウ、ブロッコリー、コマツナ、レタス、及びニラなどを挙げることができる。
【0050】
以上詳述した本実施形態の抑制剤及び抑制液は、グルコサミン類のうちの少なくとも1種を含有するため、植物が受ける物理的・化学的刺激による変色を抑制することが可能である。例えば、収穫、出荷、貯蔵、包装、梱包、及び輸送などの際に植物が受けた物理的刺激により、植物に傷がつき、抑制剤(抑制液)を用いない場合はその傷から変色が生じるが、抑制剤(抑制液)の使用によって、その変色の拡大を抑制することが可能である。また、植物への日持向上剤の付与など化学的刺激により、抑制剤(抑制液)を用いない場合は植物に部分的に日焼け又は色抜けのような斑点状の変色が生じるおそれがあるが、抑制剤(抑制液)の使用によって、その変色の発生を抑制することが可能である。したがって、収穫地(産地)から消費者への販売地までの輸送が長期間(例えば5日以上)に亘る植物(例えば輸出入植物)に、本実施形態の抑制剤及び抑制液をより好適に利用することができる。
【0051】
なお、上述の通り、本発明の一実施形態に係る植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤及び抑制液は、以下の構成をとることが可能である。
[1]キチン、キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、グルコサミン、及びそれらの誘導体、並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のグルコサミン類を有効成分として含有する、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤。
[2]前記グルコサミン類として、トロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されているグルコサミン類を含有する前記[1]に記載の抑制剤。
[3]前記グルコサミン類として、微生物由来のグルコサミンを含有する前記[1]又は[2]に記載の抑制剤。
[4]さらに、有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤を含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の抑制剤。
[5]前記物理的・化学的刺激による変色が、植物に対して付与される有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の日持向上剤に起因する化学的刺激による変色を含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載の抑制剤。
[6]前記植物が、外皮を有する青果物であり、剥皮前の前記青果物における少なくとも前記外皮に付与される前記[1]〜[5]のいずれかに記載の抑制剤。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の抑制剤、及び液状媒体を含有する、植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制液。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0053】
<試験例A:グルコサミン類の変色抑制作用確認試験>
[抑制剤の調製]
(調製例1)
微生物由来(植物のクエン酸発酵に使用された微生物由来)のグルコサミン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「発酵グルコサミンK」、協和発酵バイオ社製、以下の「微生物由来のグルコサミン」も同じである。):1%、及び水:99%を混合し、実施例1で使用する溶液状の抑制剤(原液)1を調製した。
(調製例2)
エビ殻・カニ殻由来のグルコサミン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「コーヨーグルコサミン」、甲陽ケミカル社製):1%、及び水:99%を混合し、実施例2で使用する溶液状の抑制剤(原液)2を調製した。
(調製例3)
N−アセチルグルコサミン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「コーヨーN−アセチルグルコサミンPG」、甲陽ケミカル社製):1%、及び水:99%を混合し、実施例3で使用する溶液状の抑制剤(原液)3を調製した。
(調製例4)
キチンオリゴ糖(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「オリゴ−N−アセチルグルコサミン」、甲陽ケミカル社製):1%、及び水:99%を混合し、参考例4で使用する溶液状の抑制剤(原液)4を調製した。
(調製例5)
キトサンオリゴ糖(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「COS−YS」、焼津水産化学工業社製):1%、及び水:99%を混合し、参考例5で使用する溶液状の抑制剤(原液)5を調製した。
(調製例6)
キトサン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、重量平均分子量:20万〜30万、商品名「ダイキトサンFP」、大日精化工業社製):1%、及び水:99%を混合し、参考例6で使用する溶液状の抑制剤(原液)6を調製した。
(調製例7)
キトサン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、重量平均分子量:100万〜150万、商品名「ダイキトサンH」、大日精化工業社製):0.5%、酢酸:0.5%、及び水:99%を混合し、参考例7で使用する分散液状の抑制剤(原液)7を調製した。なお、調製例7では、キトサンを溶かすために酢酸を使用し、かつキトサンの使用量を減らした。
(調製例8)
細胞壁由来のキトサン(トロポミオシン含有量:検出限界以下、商品名「KitoGreen」、KitoZyme社製):1%、酢酸:1%、及び水:98%を混合し、参考例8で使用する溶液状の抑制剤(原液)8を調製した。
【0054】
(実施例1〜3及び参考例4〜8)
[抑制液の調製]
上記調製例1〜8で調製した抑制剤(原液)1〜8のそれぞれに対して、さらに、全体の質量が10倍となる量の水を加えて、各抑制剤(原液)を希釈し、それぞれ、実施例1〜3及び参考例4〜8で使用する抑制液1〜8を調製した。
【0055】
[物理的・化学的刺激による変色に関する評価]
植物としてパイナップル(フィリピン共和国産)を用い、抑制液として、実施例1では抑制液1、実施例2では抑制液2、実施例3では抑制液3、参考例4では抑制液4、参考例5では抑制液5、参考例6では抑制液6、参考例7では抑制液7、参考例8では抑制液8を用いた。評価に用いたパイナップルは冠芽を切り落とした状態とし、そのパイナップルの外周面におけるほぼ中央付近の外皮上に物理的刺激として、キリで芯の軸方向に沿った長さ50mm、深さ10mmの傷を設け、物理的刺激を付与した位置とはほぼ反対側の位置の外皮上に化学的刺激として酢酸を10滴付与した。このようにして、物理的刺激及び化学的刺激を付与したパイナップルを、対照として18個、実施例1〜3及び参考例4〜8のそれぞれについて18個ずつ用意した。実施例1〜3及び参考例4〜8では、それぞれ、抑制液1〜8を18個のパイナップルのほぼ全体に噴霧した。抑制液の噴霧としては、手動の霧吹きを用いて、各抑制液をパイナップル全体にまんべんなく噴霧した後、過剰な液については、エアーをあてて液だれしないようにした。
各抑制液を噴霧したパイナップル及び対照のパイナップルを、温度6℃、湿度85〜95%RHの恒温槽に7日間貯蔵した後、目視観察により、物理的刺激及び化学的刺激のそれぞれによる変色の状況を以下の基準にしたがって評価した。
AAA・・・18個のパイナップルのすべてにおいて、当該刺激箇所での変色がほとんど確認されないか、わずかな変色が確認された。
AA・・・18個のうちの15個以上のパイナップルにおいて、当該刺激箇所での変色がほとんど確認されないか、わずかな変色程度が確認され、1〜3個に、当該刺激箇所での変色が確認された。
A・・・18個のうちの9〜14個のパイナップルにおいて、当該刺激箇所での変色がほとんど確認されないか、わずかな変色程度が確認され、4〜9個に、当該刺激箇所での変色が確認された。
B・・・18個のうちの半数以上のパイナップルにおいて、当該刺激箇所での変色が確認された。
C・・・18個のうちの半数以上のパイナップルにおいて、当該刺激箇所での変色が確認され、当該刺激箇所よりも明らかに大きな部分での変色が確認された。
【0056】
以上の実施例1〜3及び参考例4〜8で使用した抑制液の組成と評価結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、グルコサミン類には、植物の物理的・化学的刺激による変色を抑制する作用を有することが確認された。さらに、試験例Aにおける実施例1〜3及び参考例4〜6のグルコサミン類の使用量(抑制液中での含有量)を0.01%、1.0%に変更し、グルコサミン類の使用量が上記試験例Aよりも多い場合は物理的・化学的刺激の程度を大きくし、グルコサミン類の使用量が上記試験例Aよりも少ない場合は当該刺激の程度を小さくするなど、当該刺激の程度を調整して試験例Aと同様の試験を行った結果、試験例Aの評価結果と同様の傾向となることが確認された。
【0059】
<試験例B:変色抑制及び保存性向上の効果確認試験>
[抑制剤の調製]
(調製例9)
酢酸:20%、微生物由来のグルコサミン:1%を、水に混合溶解し、溶液状の抑制剤(原液)9を調製した。
(調製例10)
クエン酸:20%、微生物由来のグルコサミン:1%を、水に混合溶解し、溶液状の抑制剤(原液)10を調製した。
(調製例11)
乳酸:20%、微生物由来のグルコサミン:1%を、水に混合溶解し、溶液状の抑制剤(原液)11を調製した。
【0060】
(実施例9〜12及び比較例1)
[抑制液の調製]
上記調製例9〜11で調製した抑制剤(原液)9〜11のそれぞれに対して、さらに、全体の質量が10倍となる量の水を加えて、各抑制剤(原液)を希釈し、それぞれ、実施例9〜11で使用する抑制液9〜11を調製した。
【0061】
実施例9〜12においても、上記試験例Aの評価で用いたパイナップルと同様にして、物理的刺激及び化学的刺激を付与したパイナップルを用いた。また、抑制液として、実施例9では抑制液9、実施例10では抑制液10、実施例11では抑制液11を用いた。
実施例12では、上記実施例1で使用した抑制液1を用い、これとは別途、さらに、日持向上剤溶液(酢酸:2%、プロピレングリコール:1.2%、ポリソルベート:0.17%、パラベン:0.03%、水:残量)を用い、上述の噴霧方法にて、パイナップルのほぼ全体に日持向上剤溶液を付与した後、抑制液1を付与した。
比較例1では、上記日持向上剤溶液を用いて、上述の噴霧方法にて、パイナップルのほぼ全体に日持向上剤溶液を付与した。
【0062】
試験例Bにおいては、上記試験例Aにおける変色に関する評価と同様の手法にて、物理的・化学的刺激による変色に関する評価を行うとともに、以下の基準にしたがって保存性の評価を行った。なお、試験例Bにおいては、変色抑制の評価及び保存性向上の効果ともに、処理したパイナップル及び対照(未処理)のパイナップルを、温度6℃、湿度85〜95%RHの恒温槽に貯蔵し、1週間後及び2週間後の状況を目視観察にて評価した。
AA・・・18個のパイナップルの全てにおいて、腐敗及びカビは確認されなかった。
A・・・18個のパイナップルのうちの半数以上において、腐敗及びカビのいずれの発生も確認されなかったが、半数未満において、腐敗及びカビのいずれかの発生がわずかに確認された。
B・・・18個のパイナップルのうちの半数以上において、腐敗及びカビの少なくともいずれかの発生が数か所程度確認された。
C・・・18個のパイナップルのうちの半数以上において、腐敗及びカビの少なくともいずれかの発生が多く確認された。
【0063】
以上の実施例9〜12で使用した抑制液及び比較例1で使用した日持向上剤溶液の組成と評価結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
試験例Bの結果から、グルコサミン類及び有機酸類を含有する抑制剤(抑制液)は、物理的・化学的刺激による変色を抑制することが可能であるとともに、日持(保存性)を向上させることが可能であることが確認された。また、実施例12の結果から、グルコサミン類を含有する抑制剤(抑制液)と、有機酸類を含有する日持向上剤溶液とを別個に用いても、物理的・化学的刺激による変色を抑制することが可能であるとともに、日持(保存性)を向上させることが可能であることが確認された。さらに、本試験例Bにおけるグルコサミン類の使用量(抑制液中での含有量)を0.01%、1.0%に変更し、グルコサミン類の使用量が上記試験例Bよりも多い場合は物理的・化学的刺激の程度を大きくし、グルコサミン類の使用量が上記試験例Bよりも少ない場合は当該刺激の程度を小さくするなど、当該刺激の程度を調整して試験例Bと同様の試験を行った結果、試験例Bの評価結果と同様の傾向となることが確認された。
【0066】
<試験例C:実使用を想定した試験>
フィリピン共和国にて収穫された36個のパイナップルについて、収穫日の翌日に18個のパイナップルのそれぞれに対して、実施例9で用いた抑制液9を上述の試験例Aと同様の手法にて噴霧して処理し、残りの18個のパイナップルは未処理とした。これら18個ずつ計36個のパイナップルを収穫日の翌日に船舶にて7日間かけて日本国に輸送した。日本国に到着後、抑制液で処理したパイナップル及び未処理のパイナップルの各状態を撮影した図面代用写真を図1、並びに図2A及びBに示す。図1に示すように、抑制液で処理したパイナップルについてはいずれも大きく目立った変色は確認されなかった。一方、図2A及びBに示すように、未処理のパイナップルについては部分的に日焼け又は色抜けのような斑点状の変色(図2Bの符号C1参照)、及び黒ずんだ変色(図2Bの符号C2参照)が確認された。
【0067】
以上の試験例A〜Cの結果から、グルコサミン類は、植物(パイナップル)の物理的・化学的刺激による変色を抑制する作用を有することが確認され、グルコサミン類を有効成分として含有する変色抑制剤(変色抑制液)の使用によって、植物の物理的・化学的刺激による変色の発生及びその変色の拡大を抑制することが可能であることが確認された。したがって、本発明の抑制剤(抑制液)の使用によって、植物の商品価値を高めることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る植物の物理的・化学的刺激による変色の抑制剤及び抑制液は、花卉類、山菜類、果実類、及び野菜類などの植物に広く利用することができ、これらの植物が受ける物理的・化学的刺激による変色の発生及びその変色の拡大を抑制することに有用である。
図1
図2A
図2B