(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記セラミックスナノ粒子集合体からなる層の厚さは片面5μm以上であり、前記セラミックスナノ粒子集合体からなる層と前記ポリオレフィン系多孔性膜とを含む全体の厚さは45μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
[構造]
本発明に係る二次電池用セパレータは、ポリオレフィン系多孔性膜と、ポリオレフィン系多孔性膜の少なくとも一方の表面に積層された、セルロースナノファイバーに複数のセラミックスナノ粒子が直線的に連続して担持されてなるセラミックスナノ粒子集合体からなる層とを含んでなる。
【0022】
セラミックスナノ粒子集合体(以下、「ナノアレイ」とも称する。)は、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)に複数のセラミックスナノ粒子が直線的に連続して担持してなる、特異な形状を呈する。ナノアレイとは、一方のナノスケールの構造体に、他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を意味する。
【0023】
本発明におけるナノアレイは、例えば平均繊維径が50nm以下のCNF、すなわち一方のナノスケールの構造体に、例えば平均粒径が30nm以下の複数のセラミックスナノ粒子、すなわち他方のナノスケールの構造体が直線的に連続して担持してなる、特異な形状を呈する。ここで、「平均粒子径」とは、電子顕微鏡による観察において、数十個の粒子の粒子径(長軸の長さ)の測定値の平均値を指す。
【0024】
上記ナノアレイは、セラミックスナノ粒子がCNFに直線的に連続して担持してなるため、凝集抑制を目的としてセラミックスナノ粒子に表面修飾を施したり、分散剤を使用する必要がなく、さらに適度な分散状態を保持していることから、簡便にポリオレフィン系多孔性膜の表面に薄層(薄膜)として積層することができる。また、セラミックスナノ粒子は強固にCNFに担持しているため、ナノアレイが分解してセラミックスナノ粒子が単一の独立粒子として振る舞うことはない。
【0025】
上記ナノアレイは、CNFの表面がセラミックスの不均質核生成の核生成部位となり、セラミックスナノ粒子が極細のCNFを囲い込むように結晶成長しつつ、同様に結晶成長中の隣接するナノ粒子と接するまで結晶成長を継続することによって、ナノ粒子が不要に凝集することなく、整然と連なりながらCNFに連続して堅固に担持されて、特異な形状が形成されてなるものと考えられる。
【0026】
ナノアレイからなる積層部(セラミックスナノ粒子集合体からなる層)は、基材となるポリオレフィン系多孔性膜の少なくとも一方の表面を被覆していればよいが、両面を被覆している方がさらに好ましい。両面を被覆することでカールの問題がなくなってハンドリング性が良好となるだけでなく、高温時の寸法安定性も大幅に改善され、二次電池の耐久性も向上できる。
【0027】
(セルロースナノファイバー:CNF)
ナノアレイを構成するCNFとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、水への良好な分散性も有している。
【0028】
CNFの平均繊維径は、例えば50nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。
【0029】
CNFの平均長さは、ポリオレフィン系多孔性膜の表面への積層を効率的に行う観点、及びバインダーとしてポリオレフィン系多孔性膜の表面に有効に積層する観点から、好ましくは1μm〜500μmであり、より好ましくは5μm〜200μmであり、さらに好ましくは10μm〜100μmである。
【0030】
上記CNFを用いた10質量%濃度のCNFスラリーの25℃における粘度は、好ましくは30000mPa・s〜200000mPa・sであり、より好ましくは40000mPa・s〜150000mPa・sであり、さらに好ましくは45000mPa・s〜120000mPa・sである。
【0031】
(セラミックスナノ粒子)
ナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子としては、少なくとも1種の金属元素を含み、かつナノサイズの粒子を形成することが可能であって、電気絶縁性を有しているものであればよく、特に限定されない。かかるセラミックスナノ粒子としては、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、及びそれらの複合化物等の粒子が挙げられ、なかでも、加熱された際に吸熱反応である脱水反応が生じて電池の温度上昇を抑制する効果を有する水酸化物又は含水酸化物が好ましい。
【0032】
セラミックスナノ粒子の構成材料として、具体的には、SiO
2、TiO
2、ZnO
2、SnO
2、Al
2O
3、MnO、MnO
2、NiO、Eu
2O
3、Y
2O
3、Nb
2O
3、Nb
2O
5、InO、ZnO、Fe
2O
3、Fe
3O
4、Co
3O
4、ZrO
2、CeO
2、VO
2、V
2O
5、AlOOH(ベーマイト)、Y
3Al
5O
12、BaTiO
3、In
2O
3−SnO
2、MgO−Al
2O
3−SiO
2、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−TiO
2、SiO
2−ZrO
2、TiO
2−ZrO
2、SiO
2−Al
2O
3−ZrO
2、Al(OH)
3、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、Ni(OH)
2、Mn(OH)
2、Fe(OH)
2、Zn(OH)
2、H
3BO
3、Cr
2O
3・nH
2O、CaO・SiO
2・nH
2O、CaO・Al
2O
3・nH
2O、CaCO
3、MgCO
3、BaCO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、AlPO
4、Ca
3(PO
4)
2等が挙げられる。これらの中では、AlOOH、Al(OH)
3、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、Ni(OH)
2、H
3BO
3、Cr
2O
3・nH
2O、CaO・SiO
2・nH
2O、CaO・Al
2O
3・nH
2Oが好ましく、脱水温度の低いAl(OH)
3、Mg(OH)
2、又は化学的安定性の高いAlOOHがより好ましい。
【0033】
さらに、Al(OH)
3、Mg(OH)
2、及びAlOOHは、非水系二次電池内に存在するフッ酸から正極を保護し、二次電池の耐久性を改善する効果がある、という観点からも好ましい。すなわち、非水系二次電池においては、フッ酸は正極活物質を侵し耐久性を低下させる原因となるが、AlOOHはフッ酸を吸着・共沈させる機能がある。このため、AlOOHを含有するセパレータを使用すれば、電解液中のフッ酸濃度を低いレベルに維持することが可能となり、二次電池の耐久性を改善することが可能となる。
【0034】
ナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子は、微結晶粒子からなる。具体的には、かかるセラミックスナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは20nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常3nm以上である。このように、セラミックスナノ粒子は非常に微小な粒子であり、上記の平均繊維径の非常に細いCNFと相俟って、軸径の非常に細いナノアレイを構成することができる。このため、かかるナノアレイがポリオレフィン系多孔性膜の表面に積層しても、得られる本発明の二次電池用セパレータを薄膜とすることが可能となる。
【0035】
セラミックスナノ粒子の晶癖(結晶の外形)としては、板状、針状、六面体、柱状等が挙げられる。なかでも、CNFとの担持が強固である観点、及びポリオレフィン系多孔性膜へ積層する際に必要となるバインダー量を低減する観点から、CNFの軸長方向に伸延した六面体粒子が好ましい。
【0036】
なお、上記ナノアレイは、粒子径や形状が均一なセラミックスナノ粒子の集合体であることが好ましいが、粒子径や形状が異なるセラミックスナノ粒子の集合体であってもよく、また化学組成が異なる2種以上のセラミックスナノ粒子の集合体であってもよい。
【0037】
(ポリオレフィン系多孔性膜)
本発明の二次電池用セパレータを構成するポリオレフィン系多孔性膜は、ポリオレフィンからなり、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能となった膜である。ポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテン、これらの組合せ等が挙げられる。特に好ましいのはポリエチレンであるが、このポリエチレンとしては高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。
【0038】
ポリオレフィン系多孔性膜は、空孔率が20%〜60%のものが好ましい。空孔率が20%未満の場合、二次電池用セパレータとした際の膜抵抗が高くなりすぎて二次電池の出力を低下させるため好ましくない。また、空孔率が60%を超える場合、シャットダウン特性の低下が顕著となり好ましくない。
【0039】
ポリオレフィン系多孔性膜の、JIS P 8117「紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法」に規定される透気度は、単位厚み当たりで10秒/100cc・μm以上が好ましい。単位厚み当たりの透気度が10秒/100cc・μmよりも低い場合、ナノアレイからなる積層部(セラミックスナノ粒子集合体からなる層)とポリオレフィン系多孔性膜との界面において、ポリオレフィン系多孔性膜の目詰まりが発生して膜抵抗が顕著に増加したり、シャットダウン特性の顕著な低下を招いたりするおそれがあるため好ましくない。
【0040】
本発明の二次電池用セパレータにおいて、ポリオレフィン系多孔性膜の膜厚は10μm以上であることが好ましい。ポリオレフィン系多孔性薄膜フィルムの膜厚が10μmより薄いと、引張強度や突刺強度といった機械的強度が足りず好ましくない。
【0041】
(二次電池用セパレータ)
本発明の二次電池用セパレータの膜厚、すなわち、セラミックスナノ粒子集合体からなる層とポリオレフィン系多孔性膜とを含む全体の厚さは、45μm以下が好ましく、さらに40μm以下が好ましい。セパレータの膜厚が45μmを超える場合、これを適用した二次電池の出力特性が低下するため好ましくない。
【0042】
すなわち、ポリオレフィン系多孔性膜に積層されるセラミックスナノ粒子集合体からなる層の厚さは、35μm以下が好ましく、さらに30μm以下が好ましい。より具体的には、セラミックスナノ粒子集合体からなる層がポリオレフィン系多孔性膜の片面に積層される場合、かかるセラミックスナノ粒子集合体からなる層の厚さは、好ましくは5μm〜35μm、より好ましくは5μm〜25μmであり、また、セラミックスナノ粒子集合体からなる層がポリオレフィン系多孔性膜の両面に積層される場合、かかるセラミックスナノ粒子集合体からなる層の厚さは、好ましくは5μm〜17.5μm、より好ましくは5μm〜10μmである。
【0043】
本発明の二次電池用セパレータは、105℃で30分間加熱した場合の熱収縮率が、10%以下であるのが好ましい。前記加熱条件下で熱収縮率が10%を超える場合は、微小短絡で生じる発熱によりセパレータの破膜面積が広がり、大電流が流れるおそれがある。
【0044】
二次電池用セパレータの熱収縮率の測定に際しては、以下の方法を採用することができる。
【0045】
二次電池用セパレータをφ17mmに打ち抜き、直径をノギスにより10点計測して、その平均値から加熱処理前の面積を算出する。次いで、かかるセパレータ断片を105℃の恒温槽中に実質的に張力を掛けない状態で30分間静置した後、室温(例えば25℃)まで冷却後、直径をノギスにより10点計測して、その平均値から加熱処理後の面積を算出する。そして、二次電池用セパレータの熱収縮率は、下記式(1)で算出される。この熱収縮率の測定を、同時に作成した異なる5片の二次電池用セパレータに行い、その平均値を求めて熱収縮率とした。
熱収縮率={(加熱前の二次電池用セパレータの面積)−(加熱後の二次電池用セパレータの面積)}/(加熱前の二次電池用セパレータの面積)*100% ・・・ (1)
【0046】
本発明の二次電池用セパレータにおいて、膜抵抗は5Ω・cm
2以下が好ましく、4Ω・cm
2以下がより好ましい。ここで膜抵抗とは、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1)に、LiPF
6を1M溶解した電解液を用い、20℃で測定された交流インピーダンス法による値である。膜抵抗が5Ω・cm
2よりも大きい場合、二次電池とした場合に良好なレート特性及びサイクル特性を得ることが困難になる。
【0047】
本発明の二次電池用セパレータの突刺強度は、300g以上が好ましく、より好ましくは400g以上である。ここで突刺強度とは、二次電池用セパレータにニードル針(直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針)を突刺速度100mm/分の条件で貫通させた時の、最大突刺荷重である。
【0048】
なお、上記二次電池用セパレータを適用する二次電池は、正極、負極、電解液、及びセパレータを必須構成とするものであれば、特に限定されない。
【0049】
[製造方法]
本発明に係る二次電池用セパレータは、次の、工程(I)〜(III):
(I)少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)前記工程(I)で得られたスラリーを、水熱反応に付してセルロースナノファイバーに担持されたセラミックスナノ粒子集合体を得る工程、及び、
(III)前記工程(II)で得られた、セルロースナノファイバーに担持されたセラミックスナノ粒子集合体を、ポリオレフィン系多孔性膜の少なくとも一方の表面に積層する工程
を含む製造方法によって、得ることができる。
【0050】
この製造方法を用いることで、簡易な方法により、有用な二次電池用セパレータが形成される。
【0051】
(工程(I))
工程(I)は、少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程である。工程(I)では、先ず、少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物、水、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを得る。
【0052】
セラミックス原料化合物としては、具体的には、例えば、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、ケイ素化合物又はホウ素化合物等の金属化合物が挙げられる。なかでも、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等を好適に使用することができる。
【0053】
これらセラミックス原料化合物及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを調製する際、水を用いる。かかる水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の観点から、セラミックス原料化合物の金属元素1モルに対して10モル〜300モルが好ましく、さらに50モル〜200モルが好ましい。また、スラリーA中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーA中の水100質量部に対し、好ましくは0.1質量部〜20質量部であり、より好ましくは0.1質量部〜10質量部である。
【0054】
また、セラミックス原料化合物とセルロースナノファイバーとの混合比率は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、セラミックス原料化合物が0.1質量部〜10000質量部であり、より好ましくは1質量部〜1000質量部であり、特に好ましくは5質量部〜200質量部である。セルロースナノファイバーに対する、セラミックス原料化合物の混合量が極めて多くなると、次工程(II)における水熱反応においてナノアレイ化されない余剰の金属成分同士が結合し、大径の結晶となってナノアレイ中の夾雑物となる。このような夾雑物を含むナノアレイを、次々工程(III)においてポリオレフィン系多孔性膜の表面に積層して二次電池用セパレータを形成した場合、かかる夾雑物が電気抵抗となって放電特性が低下したり、夾雑物の周囲に孔径の大きな細孔が生じて短絡を生じる可能性がある。
【0055】
工程(I)では、次に、上記スラリーAにアルカリ溶液を添加してスラリーBとし、中和反応によって、スラリーB中に溶解又は分散している金属成分を金属水酸化物にする。アルカリ溶液を添加するには、25℃におけるスラリーBのpHが10〜14に保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。かかるアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができ、そのなかでも、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いるのが好ましい。
【0056】
スラリーBは、金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を進行させるのが好ましい。中和反応中におけるスラリーBの温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10℃〜60℃である。また、スラリーBの撹拌時間は、5分〜120分が好ましく、30分〜60分がより好ましい。
【0057】
(工程(II))
工程(II)は、得られたスラリーBを、水熱反応に付して、ナノアレイ(セラミックスナノ粒子集合体からなる層)を得る工程である。
【0058】
水熱反応中の温度は、100℃以上であるのが好ましく、さらにセルロースナノファイバーの熱分解を抑制する観点から、190℃以下であるのがより好ましい。また、前記温度は、130℃〜180℃がさらに好ましく、140℃〜160℃が特に好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、190℃以下で行う場合、この時の圧力は1.2MPa以下であるのが好ましく、100℃〜190℃で水和反応を行う場合、0.1MPa〜1.2MPaであるのが好ましく、130℃〜180℃では0.3MPa〜0.9MPaであるのが好ましく、140℃〜160℃では0.3MPa〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5時間〜24時間が好ましく、さらに0.5時間〜15時間が好ましい。水熱反応時間が24時間を超える場合、ナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子が過剰に大径化するおそれがある。
【0059】
得られる水熱反応生成物は、セルロースナノファイバーと金属酸化物、又はセルロースナノファイバーと結晶水を有する金属酸化物からなるナノアレイであり、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することによりこれを単離できる。かかるナノアレイを水で洗浄する際、ナノアレイ1質量部に対し、水を5質量部〜100質量部用いるのが好ましい。
【0060】
洗浄後、得られたナノアレイに含まれる水分を除去するために、必要に応じて乾燥処理が施される。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥、温風乾燥が用いられ、凍結乾燥又は温風乾燥が好ましい。温風乾燥を行う場合、温風の温度は、セルロースナノファイバーの熱分解を抑制する観点から、50℃〜230℃であればよく、70℃〜200℃が好ましい。また、乾燥に要する処理時間は温度に応じて適宜設定される。
【0061】
また、ナノアレイの凝集を低減できる観点から、ナノアレイの洗浄後、乾燥を行わず、リパルプすることによって所望の濃度のナノアレイを含有するスラリーを調製してもよい。次の工程(III)で行われる、ポリオレフィン系多孔性膜の表面への積層時のハンドリングの観点から、スラリー中のナノアレイの濃度は、好ましくは1質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%であり、さらに好ましくは10質量%〜30質量%である。
【0062】
なお、セルロースナノファイバーの分散性を高めることで、高い分散性を有するナノアレイを得る観点から、工程(I)においてセルロースナノファイバーのスラリーを予め水熱処理した後、工程(II)においてセラミックス原料化合物のスラリーを添加して、さらなる(2回目の)水熱反応に付すことによって、ナノアレイを得てもよい。
【0063】
(工程(III))
工程(III)は、工程(II)によって得られたナノアレイをポリオレフィン系多孔性膜の少なくとも一方の表面に積層する工程である。
【0064】
前述のとおり、ナノアレイはバインダー効果も有するため、この工程(III)では、ナノアレイ又はナノアレイスラリーを、水と有機溶媒(例えばエタノール、エチレングリコール)からなる溶媒中に撹拌、混合してなるナノアレイスラリーCを用いて、ポリオレフィン系多孔性膜の表面にナノアレイを積層すればよい。
【0065】
なお、上記ナノアレイスラリーCに、バインダーを混合しても良い。バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。このバインダーの使用により、より強固に、ポリオレフィン系多孔性膜の表面にナノアレイを積層することができる。この際、ナノアレイスラリーCに混合するバインダーの混合量は、かかるスラリーC中のナノアレイ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜5質量部であり、より好ましくは0.5質量部〜2質量部である。
【0066】
ポリオレフィン系多孔性膜の表面へのナノアレイの積層方法には、ナイフコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイヤーバーコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなどの汎用の塗工方式が利用できる。また、ポリオレフィン系多孔性膜の両面にナノアレイを積層する方法としては、2本の対峙したマイヤーバー、リバースロール、ダイなどの間にポリオレフィン系多孔性膜を通し、両面同時にナノアレイスラリーCを塗工する方法が好適である。なお、ポリオレフィン系多孔性膜の両面にナノアレイを積層する場合、単に、ナノアレイスラリーCにポリオレフィン系多孔性膜を浸漬させてもよい。
【0067】
塗工処理後のナノアレイスラリーCの乾燥方法は、特に片面塗工品における乾燥時のカールを防止する観点から、40℃以下の温度での真空乾燥、恒温乾燥、温風乾燥が好ましく、中でも真空乾燥がより好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例に示す各二次電池用セパレータの膜厚は、膜厚計(Mitutoyo社製、ID−C112XB)による測定値である。
【0069】
[製造例1:ベーマイト(AlOOH)からなるナノアレイ]
硫酸アルミニウムAl
2(SO
4)
3・16H
2O 3.15g、セルロースナノファイバー 3.89g(ダイセルファインケム社製、KY100G、含水量90質量%)、及び水 55mLを60分間混合してスラリーA1を作製した。得られたスラリーA1に、10質量%濃度のNaOH水溶液 12.0gを添加し、5分間混合してスラリーB1を作製した。
【0070】
スラリーB1をオートクレーブに投入し、140℃、0.36MPaで1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄して、ベーマイト(AlOOH)のナノアレイ(ベーマイトの平均粒径:9nm)のケーキC1(含水率:37%)を得た。上記ケーキC1を80℃で温風乾燥して得られた、ベーマイトからなるナノアレイのTEM観察像(日本電子株式会社製、JEM−ARM200F)を
図1に示す。
【0071】
[製造例2:ベーマイト粒子]
セルロースナノファイバーを使用しない以外、製造例1と同様にして、ベーマイト(平均粒径:9nm)のゾルC2(含水率:23%)を得た。
【0072】
[実施例1:ベーマイトからなるナノアレイをポリエチレンセパレータの片面に薄く積層した二次電池用セパレータ]
エタノールと水を質量比2:1で混合した溶媒50mLに、製造例1で得られたケーキC1 2.8gを混合したスラリーを、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌して、固形分量が2.5質量%のスラリーD1を得た。
【0073】
厚さ20μmの市販のポリエチレンセパレータ(ダブルスコープ社製、COD−20−B)の片面に、スラリーD1をロールコーターで塗工した後、40℃での真空乾燥を行い、層厚8μmのベーマイトからなるナノアレイが片面に積層された二次電池用セパレータE1(全体厚み:28μm)を得た。
【0074】
[実施例2:ベーマイトからなるナノアレイをポリエチレンセパレータの片面に厚く積層した二次電池用セパレータ]
ロールコーターを調整してポリエチレンセパレータの片面に塗工するスラリーD1の厚みを変更した以外、実施例1と同様にして、層厚24μmのベーマイトからなるナノアレイが片面に積層された二次電池用セパレータE2(全体厚み:44μm)を得た。
【0075】
[実施例3:ベーマイトからなるナノアレイをポリエチレンセパレータの両面に積層した二次電池用セパレータ]
実施例1で得られた二次電池用セパレータE1の、ナノアレイが積層されていない側の面に、実施例1と同様にしてベーマイトからなるナノアレイを積層して、層厚8μmのベーマイトからなるナノアレイが両面に積層された二次電池用セパレータE3(全体厚み:36μm)を得た。
【0076】
[比較例1:ベーマイト粒子をポリエチレンセパレータの両面に積層した二次電池用セパレータ]
エタノールと水を質量比2:1で混合した溶媒50mLに、製造例2で得られたベーマイトのゾルC2 2.5gを混合したスラリーを、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌して、固形分量が2.5質量%のスラリーD2を得た。
【0077】
厚さ20μmの市販のポリエチレンセパレータ(COD−20−B)の片面に、スラリーD2をロールコーターで塗工した後、40℃での真空乾燥を行い、ベーマイト粒子が片面に積層されたセパレータを得た後、ベーマイト粒子が積層されていない側の面にも同様の手順でベーマイト粒子を積層させて、層厚6.5μmのベーマイト粒子が両面に積層された二次電池用セパレータF1(全体厚み:33μm)を得た。
【0078】
[比較例2:ベーマイト粒子とCNFをポリエチレンセパレータの両面に積層した二次電池用セパレータ]
エタノールと水を質量比2:1で混合した溶媒50mLに、製造例2で得られたベーマイトのゾルC2 1.7gと、セルロースナノファイバー(CNF) 3.89g(KY−100G)とを混合したスラリーを、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌して、固形分量が2.5質量%のスラリーD3を得た。
【0079】
厚さ20μmの市販のポリエチレンセパレータ(COD−20−B)の片面に、スラリーD3をロールコーターで塗工した後、40℃での真空乾燥を行い、ベーマイト粒子とCNFが片面に積層されたセパレータを得た後、ベーマイト粒子とCNFが積層されていない側の面にも同様の手順でベーマイト粒子とCNFを積層させて、層厚7.5μmのベーマイト粒子とCNFの混合層が両面に積層された二次電池用セパレータF2(全体厚み:35μm)を得た。
【0080】
[比較例3:ベーマイトからなるナノアレイをポリエチレンセパレータの片面に極めて厚く積層した二次電池用セパレータ]
ロールコーターを調整してポリエチレンセパレータの片面に塗工するスラリーD1の厚みを変更した以外、実施例1と同様にして、層厚39μmのベーマイトからなるナノアレイが片面に積層された二次電池用セパレータF3(全体厚み:59μm)を得た。
【0081】
[参考例1:ポリオレフィン系多孔性膜のみからなる二次電池用セパレータ]
参考例の二次電池用セパレータF4として、市販のポリエチレンセパレータ(ダブル・スコープ社製、COD−20−B)を採用した(膜厚20μm)。
【0082】
≪熱収縮率の評価≫
全ての実施例、比較例及び参考例の二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)について、105℃で30分間加熱した場合の熱収縮率を、前記方法及び前記式(1)から求めた。得られた結果を表1に示す。
【0083】
≪膜抵抗の測定≫
全ての実施例、比較例及び参考例の二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)について、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒に、LiPF
6を1M溶解した電解液を用い、20℃で測定された交流インピーダンス法による膜抵抗を測定した。
【0084】
具体的には、リードタブが装着された2cm×2cmのアルミ箔2枚の間に、3cm×3cmの二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)をアルミ箔が短絡しないように挟み込んだ後、二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)に上記電解液を含浸させたものを、タブが外に出るようにしてアルミラミネートパックに減圧封入して試験用セルを得た。
【0085】
アルミ箔間のセパレータの枚数が2枚及び3枚の類似の試験用セルを同様に作製した後、これらセルを20℃の恒温槽中に入れ、振幅10mV、周波数100kHzの交流インピーダンス法で抵抗を測定した。セパレータの枚数に対する抵抗値のプロットを線形近似して得られた傾きに、電極面積(4cm
2)を乗じて、セパレータ1枚当たりの膜抵抗(Ω・cm
2)を求めた。
【0086】
得られた結果を表1に示す。
【0087】
≪突刺強度の測定≫
全ての実施例、比較例及び参考例の二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)について、突刺強度を突刺強度試験機(イマダ社製、ZTS)で測定した。
【0088】
得られた結果を表1に示す。
【0089】
≪二次電池における充放電特性の評価≫
全ての実施例、比較例及び参考例の二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)をセパレータとする、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
具体的には、まず、水熱法で製造したオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム(LiMn
0.7Fe
0.3PO
4)に、水30ml及びCNF(ダイセルファインケム製、セリッシュFD200L、含水量20質量%)を添加し、その後ボールミルにて粉砕・混合した後、窒素雰囲気下で、700℃、1時間焼成して正極活物質を得た。次いで、この正極活物質、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。次いで、塗工機を用いて、正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0091】
負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1モル/Lの濃度で溶解したものを用いた。
【0092】
セパレータには、全ての実施例、比較例及び参考例の二次電池用セパレータ(E1〜E3、F1〜F4)を用いた。
【0093】
これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR−2032)を得た。
【0094】
得られた二次電池を用いて定電流密度での充放電特性を評価した。具体的には、気温30℃環境において放電容量測定装置(北斗電工社製、HJ−1001SD8)を用いて行った。このときの充電条件は、電流0.2CA(17mA/g)、電圧4.5Vの定電流充電とし、放電条件は、電流3CA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。
【0095】
得られた結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1より、実施例1〜3により得られた二次電池用セパレータ(E1〜E3)は熱収縮率、膜抵抗が小さく、高い突刺強度を示すことが分かる。また、これらの各二次電池用セパレータ(E1〜E3)を含む二次電池は、充放電特性に優れていることが分かる。
【解決手段】本発明に係る二次電池用セパレータは、ポリオレフィン系多孔性膜と、ポリオレフィン系多孔性膜の少なくとも一方の表面に積層された、セルロースナノファイバーに複数のセラミックスナノ粒子が直線的に連続して担持されてなるセラミックスナノ粒子集合体からなる層とを含む。