特許第6550176号(P6550176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6550176時計構成要素の表面の処理方法およびその方法によって得られる時計構成要素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550176
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】時計構成要素の表面の処理方法およびその方法によって得られる時計構成要素
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   G04B17/06 Z
【請求項の数】32
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-131997(P2018-131997)
(22)【出願日】2018年7月12日
(62)【分割の表示】特願2015-519249(P2015-519249)の分割
【原出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-173425(P2018-173425A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年7月12日
(31)【優先権主張番号】12175240.6
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トベナス ボロン, スザナ デル カルメン
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0135974(US,A1)
【文献】 独国実用新案第202010018420(DE,U1)
【文献】 特表2013−525743(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02337221(EP,A1)
【文献】 特開2000−321371(JP,A)
【文献】 特開2004−143577(JP,A)
【文献】 特開2005−076085(JP,A)
【文献】 特開2010−084233(JP,A)
【文献】 特開2011−208275(JP,A)
【文献】 特表2012−532328(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/003756(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の酸化物、第1の窒化物または第1の炭化物の第1の層(41)を被着する第1のステップと、
第2の酸化物、第2の窒化物または第2の炭化物の第2の層(51)を被着する第2のステップと、
を含む時計構成要素(10)、特にヒゲゼンマイの母材(1)の表面(2)の処理方法であって、前記母材は、NbZr型の合金製、シリコン製、SiOで覆われたシリコン製、またはFeNiCr型の合金製であり、
前記第1の層及びまたは前記第2の層は、ALD堆積型の手法によって被着されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
時計構成要素(10)、特にヒゲゼンマイの母材(1)の表面(2)の処理方法であって、第1の酸化物の第1の層(41)を被着する第1のステップと、第2の酸化物の第2の層(51)を被着する第2のステップのいずれも含むフェーズを1または複数有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の酸化物、
前記第2の酸化物、および/または
第1の層と第2の層の形を取る前記第1の酸化物と前記第2の酸化物の全体、
がマイナスの熱弾性係数を有すること
を特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
一方は前記母材と、他方は前記層の少なくとも1つとが互いに逆符号の熱弾性係数を有することを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
前記第1の酸化物がZrO、TiO、HfO、ZnO、または好ましくはAlであることを特徴とする、請求項から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の酸化物が前記第1の酸化物と異なり、Al、ZrO、HfO、ZnO、または好ましくはTiOであることを特徴とする、請求項から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
前記時計構成要素の前記母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、前記第の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
前記時計構成要素の前記母材がシリコン製もしくはSiOで覆われたシリコン製である場合は、前記第の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間であること、
を特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
前記時計構成要素の前記母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、前記第2の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
前記時計構成要素の前記母材がシリコン製もしくはSiOで覆われたシリコン製である場合は、前記第2の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間であること、
を特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の窒化物がAlTiCN、AlNまたはTiNであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の窒化物が前記第1の窒化物と異なり、AlTiCN、AlNまたはTiNであることを特徴とする、請求項1または9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の層および/または前記第2の層がナノメートル級の厚さを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のステップと前記第2のステップをそれぞれが含む複数のフェーズ、特に2つ、3つまたは4つのフェーズを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のステップおよび/または前記第2のステップが100°Cから280°Cの間、とりわけ100°Cから200°Cの間で行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法
【請求項14】
前記層がそれぞれ前記時計構成要素の前記母材を余すところなく覆うことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる時計構成要素(10)、とりわけヒゲゼンマイ
【請求項16】
請求項15に記載の時計構成要素を備えるムーブメント
【請求項17】
請求項16に記載のムーブメントまたは請求項15に記載の時計構成要素を備える時計、特に携帯時計
【請求項18】
NbZr型の合金製、シリコン製、SiOで覆われたシリコン製、またはFeNiCr型の合金製である母材(1)と、
第1の酸化物、第1の窒化物または第1の炭化物の第1の層(41)、および
第2の酸化物、第2の窒化物または第2の炭化物の第2の層(51)
を含む被膜(3)と、
を備え、
前記第1の層およびまたは前記第2の層がALD堆積型の手法によって被着されることを特徴とする時計構成要素、特にヒゲゼンマイ
【請求項19】
母材(1)と、第1の酸化物の第1の層(41)および第2の酸化物の第2の層(51)を含む被膜(3)とを備えることを特徴とする、請求項18に記載の時計構成要素、特にヒゲゼンマイ
【請求項20】
前記第1の酸化物、
前記第2の酸化物、および/または
第1の層と第2の層の形を取る前記第1の酸化物と前記第2の酸化物の全体、
がマイナスの熱弾性係数を有することを特徴とする、請求項19に記載の構成要素。
【請求項21】
一方、前記母材と、他方、前記層の少なくとも1つとが互いに逆符号の熱弾性係数を有することを特徴とする、請求項19または20に記載の構成要素。
【請求項22】
前記第1の酸化物がZrO、TiO、HfO、ZnO、または好ましくはAlであることを特徴とする、請求項19から21のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項23】
前記第2の酸化物が前記第1の酸化物と異なり、Al、ZrO、HfO、ZnO、または好ましくはTiOであることを特徴とする、請求項19から22のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項24】
前記第1の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
前記時計構成要素の前記母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、前記第1の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
前記時計構成要素の前記母材がシリコン製、SiOで覆われたシリコン製である場合は、前記第1の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間であること、
を特徴とする、請求項19から23のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項25】
前記第2の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
前記時計構成要素の前記母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、前記第2の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
前記時計構成要素の前記母材がシリコン製もしくはSiOで覆われたシリコン製である場合は、前記第2の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間であることを特徴とする、請求項19から24のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項26】
前記第1の窒化物がAlTiCN、AlNまたはTiNであることを特徴とする、請求項18に記載の構成要素。
【請求項27】
前記第2の窒化物が前記第1の窒化物と異なり、AlTiCN、AlNまたはTiNであることを特徴とする、請求項18または26に記載の構成要素
【請求項28】
前記第1の層および/または前記第2の層がナノメートル級の厚さを有することを特徴とする、請求項18から27のいずれか一項に記載の構成要素
【請求項29】
前記被膜が、第1の層、特に第1の酸化物の第1の層と、第2の層、特に第2の酸化物の第2の層とをそれぞれが含む複数の重畳、特に2重、3重または4重の重畳を有することを特徴とする、請求項18から28のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項30】
前記層がそれぞれ前記時計構成要素の前記母材を余すところなく覆うことを特徴とする、請求項18から29のいずれか一項に記載の構成要素。
【請求項31】
請求項18から30のいずれか一項に記載の時計構成要素を備えるムーブメント。
【請求項32】
請求項31に記載のムーブメントまたは請求項18から30に記載の時計構成要素を備える時計、特に携帯時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計構成要素の表面の処理方法に関し、特にヒゲゼンマイ、とりわけ自己補償型ヒゲに関する。本発明はまた、その方法によって得られる時計構成要素、特にヒゲゼンマイにも関する。本発明は特に当該時計構成要素そのものに関する。本発明は最後に、その時計構成要素を備える時計ムーブメントまたは時計、特に携帯時計に関する。
【背景技術】
【0002】
テンプ型振動体の振動数が経時的に偏移する現象の存在は時計業界ではよく知られている。たとえば、製造されたままの状態の強磁性体合金製のヒゲを備える振動体はその振動数が次第に増えていき、1年後には歩度の変化が10秒/日程度にまで達する可能性がある。この偏移を小さくするため、ベーキング処理と呼ばれる熱処理を行うのが普通で、それによって当初数年間の歩度の偏移を、衝撃など、携帯時計の携帯者を原因とする他の外乱を考えれば許容できるものである1秒/日未満に抑えることができる。
【0003】
同じ偏移現象は、常磁性体合金製、特に、特許文献1に記載されているようなNbZr合金製のヒゲの場合にも認められる。しかし、常磁性体合金製のヒゲの場合は、強磁性体合金製のヒゲの場合とは異なり、同様のベーキング処理を行っても、歩度の偏移を1年後で約5秒/日以下まで抑えることはできない。特許文献1で提案されている解決策は、ヒゲの表面の合金酸化物層を特に陽極酸化によって増大させるというものである。この方法は、低温で、ヒゲの結晶構造を変化させることなく、完璧な再現性を持つ厚さを(したがって色も)有する酸化物層を形成できるという利点を持つ。しかし、陽極酸化法には幾つかの不都合な点がある。実際、この方法は液相で行われるもので、電極とヒゲの間に電気接触を確立する必要があり、これをNivarox合金製またはシリコン製のヒゲのような他のタイプのヒゲに移し替えることができないのは明らかで、かつヒゲ玉および/またはヒゲ持を組み立てたヒゲに対して行うことは困難である。
【0004】
特許文献2では、本発明とは全く異なる問題、すなわち温度が変化したときのテンプ型振動体または共振体の振動数の安定性の問題を解決する目的でヒゲに被膜を与えることが想定されており、そのためにはヒゲの熱弾性係数を精度よく管理できることが必要となる。特に想定されているのは、シリコン製芯材に対する二酸化シリコン層と二酸化ゲルマニウム層からなる被膜である。芯材と被膜はそのためにそれぞれ逆符号の熱弾性係数を有する。被膜はプラスの熱弾性係数を有する。一方で、この文献には、そうした被膜を得るための方法または技法に関する情報は何も示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1039352号公報
【特許文献2】スイス特許出願公開第702353号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第0886195号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1258786号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第1422436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の欠点を是正し、従来技術の既知の方法を改善することができる時計構成要素の表面の処理方法を提供することにある。とりわけ、本発明は、時計構成要素の性能の改善、特にヒゲゼンマイの性能の向上、とりわけそのようなゼンマイを備えたテンプ型振動体の経時的な振動数安定性の向上を可能にする表面処理方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1によって本発明による処理方法が定義される。
【0008】
請求項から14によって様々な実行形態が定義される。
【0009】
請求項15によって本発明による時計構成要素が定義される。
【0010】
請求項16によって本発明による時計ムーブメントが定義される。
【0011】
請求項17によって本発明による時計が定義される。
【0012】
請求項18によって本発明による時計構成要素が定義される。
【0013】
請求項19から30によって構成要素の様々な実施形態が定義される。
【0014】
請求項31によって本発明による時計ムーブメントが定義される。
【0015】
請求項32によって本発明による時計が定義される。
【0016】
添付の図面は、本発明による方法の様々な実行形態と本発明による時計構成要素の様々な実施形態とを例として示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実行形態を用いて得られる時計構成要素の部分断面図である。
図2】本発明の対象である方法によって処理したヒゲと、従来技術の方法によって処理したヒゲをそれぞれ備える2つのロットのムーブメントについて、時計ムーブメントの平均歩度の経時的な変化を示したチャートである。
図3】NbZr合金製基板に複数の酸化物層を被着することによって得られる色パレットを表したチャートである。
図4】NbZr合金製基板に複数の同じ厚さの酸化物層を被着することによって得られる色パレットを表したチャートである。
図5】NbZr合金製基板に複数の酸化物層を被着することによって得られる色パレットを表したチャートである。
図6】FeNiCr合金製基板に複数の酸化物層を被着することによって得られる色パレットを表したチャートである。
図7】酸化シリコン層を被膜したシリコン製基板に複数の酸化物層を被着することによって得られる色パレットを表したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
表面処理方法の第1の実行形態では、時計構成要素10(図1に示したもの)の母材1(または基板)の表面2の処理、とりわけヒゲゼンマイの母材の表面の処理を行う。時計構成要素の母材はNbZr合金製であることができる。
【0019】
第1のステップで第1の酸化物、たとえば酸化物Alである第1の層41を被着し、次いで第2のステップで第2の酸化物、たとえば酸化物TiOである第2の層51を被着する。
【0020】
好ましくは、それぞれが第1のステップと第2のステップを含む複数のフェーズ、特に2つ、3つまたは4つのフェーズを順に繰り返す。第1の実行形態では、連続する3つのフェーズを用いる。
【0021】
この実行形態を用いることで、多重層構造の、すなわち酸化物Alと酸化物TiOが交互配置される複数の層41、51、42、52、43、53からなる被膜3が得られる。この被膜を図1に示す。この被膜は時計構成要素の表面を余すところなく覆うことが好ましい。たとえば各層11nmの厚さでヒゲゼンマイに塗布されたこの被膜は、そのヒゲゼンマイが一部をなす振動体の歩度安定性に優れた結果をもたらす。この被膜は、濃青色と認識されるという特徴も有する。
【0022】
こうした被膜を実現するためには、好ましくはALD(Atomic Layer Deposition(原子層堆積))堆積法が使用される。処理する1つまたは複数のゼンマイ1を金属製支持体(たとえばステンレス製またはアルミニウム製)の上に、または被着に必要な温度(最高200°C)に耐えるとともに真空内作業にふさわしいプラスチック製支持体の上に置く。そうしたプラスチック製支持体は、たとえばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製またはPPS(ポリフェニレンサルファイド)製である。次いで、その1つまたは複数のヒゲを保持した支持体をALD反応炉内に収める。
【0023】
装入後の反応炉内部が被着温度に達したところで、その1つまたは複数のヒゲを化学前駆体に交互に曝露する。被着は、好ましくは窒素分子Nの定常流、たとえば約20sccm(標準体積立方センチメートル毎分)の定常流のもとで、かつ/またはたとえば約20Paの圧力下で行う。第1のステップでは、基板、すなわち特にヒゲを、トリメチルアルミニウム(TMA)と水(HO)の蒸気に順次または交互に曝露して、Al酸化物層がたとえば曝露サイクル1回につき0.11nmの厚さで(部分層の連続によって)形成されるようにする。次いで第2のステップでは、ヒゲを、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(TDMAT)と水(HO)の蒸気に順次または交互に曝露して、TiO酸化物層が曝露サイクル1回につき0.045nmの被着速度で(部分層の連続によって)形成されるようにする。
【0024】
前駆物質または気体流がない状態でチャンバ内が到達する基本圧力は、真空チャンバおよびポンプの仕様次第であることができ、たとえば0.1Torr(<20Pa)以下、好ましくは0.01Torr(<2Pa)未満であることができる。
【0025】
たとえば、窒素分子流の存在下で到達するチャンバ内の圧力は典型的には20Paであり、10Paから50Paまでが作業範囲である。圧力は、被着チャンバ、被覆する構成要素の種類および面積次第で変わることができる。
【0026】
図1に示すような被着は、100、120、140、200および280°Cで行われたものである。歩度の安定性という観点からは、100°Cから280°Cまでの間で行われた被着は、歩度の適切な安定化を可能にしており、満足できるものとなっている。280°Cという温度は高く、使用する化学前駆体を劣化させるリスクがある。そのため、100°Cから200°Cの間の被着温度が折衷としてほどよい。
【0027】
そこで、第1の層と第2の層を被着するために、ALD(Atomic Layer Depositionの略)堆積法、すなわち、多様な基板上にナノメートル級の厚さの層および多重層を得ることができる特殊な薄層被着法を利用する。物理気相蒸着(PVD)または化学気相蒸着(CVD)技術とは異なり、層形成は、被着チャンバ内に順次別々に導入される(少なくとも)2つの化学前駆体の間の反応によって基板の表面に直接行われる。この被着チャンバ、すなわちALD反応炉は、20Pa未満、より好ましくは2Pa未満の基本圧力を達成することができる(当該技術の専門家が一般に利用する設備では、圧力は好ましくは0.01Torr以下である)。
【0028】
したがって、被着の「サイクル」1回には、所与の時間にわたって所与の流量(これは、一般に気体の導入時間またはパルス時間と、それ自体は温度によって制御される気体の蒸気圧とによって制御される)で行われる気体の形での第1の前駆物質のチャンバ内への導入が含まれる。アルミナAlを形成するには、この第1の前駆物質はたとえば、一般に窒素分子である搬送気体によって搬送されるTMA(トリメチルアルミニウム)である。第1の前駆物質のごく一部が基板(およびチャンバの内壁)の表面に被着されて、被覆する表面にある−OH末端と化学反応する一方、残りの部分は真空ポンプによって排出される。
【0029】
次いで第2の前駆物質、たとえば水蒸気の形の水が導入され、表面に吸着された第1の前駆物質と反応してアルミナを形成する。1回の被着サイクルで形成される層の厚さは被着する物質によって異なるが、Alの場合、典型的には0.11nmである。さらに、所与の材料について所望の厚さの層が得られるまでサイクルを繰り返す。
【0030】
前駆物質の種類、とりわけ第1の前駆物質の種類を変えて多重層を作り出す。TDMAT(テトラキス(ジメチルアミド)チタン)を第1の前駆物質とし、水を第2の前駆物質としてそれに組み合わせることにより、TiOを典型的にはサイクル1回につき0.044nmずつ得る。他の前駆物質を用いることにより、ZrO、HfO、ZnOなど、他の酸化物を得ることができる。
【0031】
自然酸化物層などの酸化物層は一般に表面に−OH末端を有しており、それによって被着を促進する。あるいは、被着前に表面を酸化しておくか、または前駆物質の導入順序を逆転させることができる。チャンバ内に導入される前駆物質の分量は被着チャンバの特徴、被覆する部品の種類および面積によって異なる。連続的であってもなくてもよい窒素分子流のもとで到達する圧力は典型的には20Pa、設置された作業範囲は一般に10Paから50Paであるが、これもまた被着チャンバによって変わってくる。
【0032】
ALD堆積法はこうして、きわめて薄く、限りなく均一で、完璧に制御されたサブナノメートルスケールの厚さのセラミックス層(酸化物、窒化物および炭化物)を被着することができる。それにより、他の薄層被着技法では被覆が困難と思われる、幾何形状的に不規則で極度に複雑な三次元表面を被覆することができる。
【0033】
驚くべきことに、ALD法による被着によって作り出される層によって得られるヒゲゼンマイ上の被膜は、支持体と接するヒゲの部分にも存在することが確認された。また、それらの部分における品質(厚さおよび色の均一性)は直接曝露されていたヒゲの部分の品質と変わるものではない。このことは、支持体の製作および処理方法の利用を大いに容易にするものであると同時に、処理または被覆を行う構成要素に対して行う必要のある操作を最小化するものである。仮にそうでなかったならば、被覆する表面と支持体とが一切接触しないようにしなければならなかったところである。そのため、本方法を用いる際の制約は、明らかに増大していたに違いない。
【0034】
本処理方法を用いた後に、フォーミングガスの存在下であれ、窒素分子の存在下であれ、たとえば150または200°Cで熱処理を行ってもヒゲの歩度の安定性が低下することはないことに留意されたい。
【0035】
図2は、2つのロットのムーブメントについて、時計ムーブメントの平均歩度の経時的な変化を示している。2つのロットのムーブメントはNbZr合金製のヒゲを備えている。第1のロットは陽極酸化を行ったヒゲであって、たとえば特許文献1の方法で処理したものを有する。これらのムーブメントの歩度の変化は「ANOD」の符号を与えた曲線によって表されている。第2のロットは、本処理方法の第1の実行形態に従って処理したヒゲを有する。これらのムーブメントの歩度の変化は「ALD」の符号を与えた曲線によって表されている。作動開始から最初の何日間かの間に1日1秒未満のわずかな偏移があるのがわかる。その後、歩度はテスト期間を通して全くもって安定している。本発明による処理を行ったヒゲで得られた結果は、特許文献1に従って陽極酸化処理したヒゲで得られたものに全く引けを取らないものである。
【0036】
本方法の様々な実行形態において、第1の層および/または第2の層はナノメートル級の厚さ、すなわち数ナノメートル、たとえば100nm未満、とりわけ60nm未満、さらにとりわけ20nm未満の厚さを有することができる。たとえば、第1の層の厚さは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であり、かつ/または第2の層の厚さは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間である。
【0037】
本方法の様々な実行形態において、被膜3の全厚は好ましくは10から300nmの間で、より好ましくは10nmから150nmの間で、さらにより好ましくは10nmから80nmの間で選んで、被着の効率を保証できるように、また構成要素および/または被着物の性質が低下しないようにする。
【0038】
最大厚さは、被着の際に基板−被膜界面に生じた残留応力による被膜のひび割れリスクが最小化されるように定める。引張り/圧縮および曲げの機械的応力を受ける時計のヒゲのような構成要素では、この点は重要である。また、被着する被膜が薄ければ薄いほど、ヒゲの機械的性質の変化も小さくてすむ。
【0039】
本方法によってNbZr合金製の基板に被着した様々な多重層被膜について、層の厚さを変えながら様々なテストを行った。結果は下表のとおりである。
【0040】
【表1】
【0041】
ここからわかるのは、優れた歩度安定性を得る上で酸化物層の厚さはさほど重要ではないということであり、そのため、どのような色を望むかに応じてその厚さを選ぶこともできる。そのため、どの層構造を用いるかによって、青色、薄紫色、赤紫色、オレンジ色、黄土色、灰緑色のそれぞれの色の層(図3および図4参照)を容易に得ることができる。この先で述べるように、使用する材料を変えることで、それ以外の色も作り出すことができる。
【0042】
図3は、NbZr合金製の母材または基板を備える時計構成要素に対して、交互配置される6層の酸化物層の重畳を含む被膜を作り出すことができる本方法を用いる際に、Al酸化物の第1の層の第1の厚さとTiO酸化物の第2の層の第2の厚さを選ぶことによって得られる色パレットを示したものである。Al層はいずれも同じ厚さθ(Al)を有する。TiO層はいずれも同じ厚さθ(TiO)を有する。この図は、後出の図と同様、標準イルミナントD65によって与えられるスペクトル分布を持つ光源によって法線方向の入射角で照明したサンプルによって反射される光度のスペクトル分布をデジタル計算することによって得られたものである。さらにこのスペクトル分布は、サンプルの外観を表現するため、Lなど、所与の色空間に分解された。
【0043】
図4は、NbZr合金製の母材または基板を備える時計構成要素に対して、交互配置される6層の酸化物層の重畳を含む被膜を作り出すことができる本方法を用いる際に、Al酸化物の第1の層とTiO酸化物の第2の層に同じ厚さを選ぶことによって得られる色パレットを示したものである。いずれのAl層およびいずれのTiO層も同じ厚さθを有する。
【0044】
それぞれの層の厚さは、原則として(被膜の外見的な色に関して以外には)目に見える技術的効果を生じることなく、層と層の間で変えることも、材料と材料の間で変えることもできる。nを3から5までの数としてn×二層(Al|TiO層)からなるタイプの青色の被膜を得ることを望む場合、最適化を進めていくと、n=3でそれぞれの層の厚さが11nmという、上述の解決策に近い解決策にたどり着く。また、それぞれの層の厚さを8.5nmまたは9nmに減らしながら、図4でわかるように近い色のままに保つこともできる。その一方で、被膜が形成されることにより、ヒゲの見かけの熱弾性係数が低くなり(図2の「ALD」の符号を与えたヒゲの場合で約5ppm/°Cで、これはテンプ型振動体の熱係数がおよそ0.2秒/日/°Cの低下に相当する)、トルクが大きくなる形でヒゲの弾性の性質が変わることも考慮に入れなければならない。こうした違いについては、ヒゲの形状の計算の際や、ヒゲの製作時に行われる様々な処理の際に考慮に入れて、本発明の対象である方法を用いた被膜の被着後に所望の熱弾性係数およびトルクが得られるようにする必要がある。
【0045】
単層、とりわけAl層またはTiO層で幾つかのテストを行った。それによって得られた歩度の安定性は、ほとんどの場合、満足できるものではなかった。単層よりも多重層構造を用いることの方がはるかに望ましいが、これは、多重層構造では、妥当な層厚で優れた歩度の安定性が得られるためである。
【0046】
時計ヒゲの良好な歩度の安定性を得るためには、(Al|TiO)以外の材料の組合せも企図することができる。
【0047】
そのため、6層以上の多重層被膜の最適化を目的として、他の金属酸化物、とりわけZrO酸化物の利用、および/または異なる酸化物の層の組合せを行うことができる。そこで、n×二層(Al|ZrO)型(図5参照)、n×二層(TiO|ZrO)型、さらには、Al、ZrO、TiO、HfO、ZnOのうちの2つ以上の材料を組み合わせた他の形の被膜を利用することを企図することができる。
【0048】
図5は、NbZr合金製の母材または基板を備える時計構成要素に対して、交互配置される6層の酸化物層の重畳を含む被膜を作り出すことができる本方法を用いる際に、Al酸化物の第1の層の第1の厚さとZrO酸化物の第2の層の第2の厚さを選ぶことによって得られる色パレットを示したものである。Al層はいずれも同じ厚さθ(Al)を有する。ZrO層はいずれも同じ厚さθ(ZrO)を有する。
【0049】
多重層被着の場合、それぞれの層の厚さに変化がある場合であっても、ターゲットに近い青色を得ることが可能であることも見て取れる。このことは、各層の厚さを精度よく制御することができるALD法の能力や、ALD法の再現性の高さに加え、本方法の頑強さを保証するものである。
【0050】
特許文献3、特許文献1および特許文献4は、時計ヒゲ、特に自己補償型ヒゲの製作に適した性質、すなわち適切な熱弾性係数の値を有する複数の常磁性体合金に言及している。挙げられているのは、重量比5%から25%のZrと少なくとも重量比500ppmのドープ剤(少なくとも部分的に酸素からなるもの)とを含むNb−Zr常磁性体合金であり、またはNb、Ta、Vを主体とする常磁性体合金であり、さらには、少なくともNb、V、Taのグループの1つの元素およびTi、Zr、Hfのグループの1つの元素を主体とする合金であって、たとえばHfの割合の少ない(特に2ないし4原子%)Nb−Hf合金であるとされている。そこで、表面処理の本方法の別の実行形態では、本方法は、Nb−Zr型の合金製、Nb、TaもしくはVを主体とする合金製、または少なくともNb、V、Taのグループの1つの元素およびTi、Zr、Hfのグループの1つの元素を主体とする合金であって、たとえばHfの割合の少ない(特に2ないし4原子%)Nb−Hf合金製の基板に対して適用される。
【0051】
ヒゲの製作には、鉄、ニッケルまたはコバルトを主体とした強磁性体合金がよく使われる(たとえばFeNiCr型の「Nivarox」合金)。この種のヒゲに対して被着テストを行ったが、厚さ11nmの層による[(Al|TiO]型の6層の被膜構造で、被着およびそれによって得られる歩度の安定性は全くもって満足すべきものである。その場合、層に生じる色は薄青であったが、図6に示すように、望めば最適化することができる。図6は、FeNiCr合金製の母材または基板を備える時計構成要素に対して、交互配置される6層の酸化物層の重畳を含む被膜を作り出すことができる本方法を用いる際に、Al酸化物の第1の層の第1の厚さとTiO酸化物の第2の層の第2の厚さを選ぶことによって得られる色パレットを示したものである。Al層はいずれも同じ厚さθ(Al)を有する。TiO層はいずれも同じ厚さθ(TiO)を有する。当然のことながら、層ごとに異なる層厚で被着することを企図することも可能である。そこで、本表面処理方法の別の実行形態では、本方法はFeNiCr型の合金製基板に対して適用される。
【0052】
特許文献5は、外周に酸化シリコンSiOを被着して熱補償を行うシリコンSi製の時計ヒゲの製作について記している。シリコンを覆うSiO酸化物層は約3μmの厚さを持つことができる。(Al|TiO型の被着など、ALD堆積法を用いることは、良好な歩度の経時的安定性を得ることも可能にする。またこの場合も、図7に示すように、各層の厚さおよび材料によって色の調整を行うことができる。図7は、酸化シリコン層を被覆したSi製の母材または基板を備える時計構成要素に対して、交互配置される4層の酸化物層の重畳を含む被膜を作り出すことができる本方法を用いる際に、Al酸化物の第1の層の第1の厚さとTiO酸化物の第2の層の第2の厚さを選ぶことによって得られる色パレットを示したものである。Al層はいずれも同じ厚さθ(Al)を有する。TiO層はいずれも同じ厚さθ(TiO)を有する。こうして、45nmのAlと50nmのTiOが交互配置される層によって満足すべき層が得られた。当然のことながら、層ごとに異なる層厚で被着することを企図することも可能である。そこで、本表面処理方法のもう1つの実行形態では、本方法は、シリコン製または酸化シリコンを被覆したシリコン製の基板に対して適用される。
【0053】
それぞれの実施形態において、それぞれの酸化物層は異なる厚さを有することができ、とりわけ、同じ種類のそれぞれの酸化物層が異なる厚さを有することができる。
【0054】
本発明による表面処理法には以下のような幾つもの利点がある。
− 時計ヒゲ、特にNb−Zrのような常磁性体合金製やSiのような反磁性体材料製のヒゲの歩度の偏移を安定化させることができる。
− 被着または被覆は低温で行われ、ヒゲの結晶構造に影響を与えない。
− 被着する層の厚さの所望の値への調節を、この上なく簡便に、きわめて高い再現性をもって行うことができる。
− それぞれの層の厚さが、したがってそれによって被覆されるヒゲの色が非常に均一である。
− それぞれが時計構成要素の母材を、支持体と接するその表面レベルに至るまで余すところなく均一に覆う層を作り出すことができる。
【0055】
本明細書を通して、「ヒゲ」とは、ヒゲゼンマイだけ、またはヒゲゼンマイとそのクランプ(bride)および/またはヒゲ玉をいう。
【0056】
本発明の枠組みのもと、NbZr合金の陽極酸化に代わってNbZr製のヒゲの経時的歩度偏移を小さくすることができる手段を見つけ出すために、ALD法によって被着される複数のタイプの被膜が作り出された。本発明の対象である被着方法を用いて時計ヒゲの表面に酸化物被膜を被着することで、陽極酸化に匹敵するか、さらには陽極酸化を上回る結果を得ることが可能である。
【0057】
本発明はまた、この方法によって得られる時計構成要素、特にヒゲゼンマイにも関する。
【0058】
したがって、本発明はそれ自体としてのその構成要素に関する。
【0059】
構成要素には、第1の酸化物の第1の層4および第2の酸化物の第2の層51を含む母材10および被膜3が含まれる。
【0060】
第1の層および/または第2の層は、ナノメートル級の厚さ、すなわち100nm未満の厚さを有することができる。
【0061】
第1の層および/または第2の層はALD堆積型の手法によって被着することができる。
【0062】
第1の酸化物はZrO、TiO、HfOまたはZnO、好ましくはAlであることができる。その他の酸化物も同様に使用することができる。
【0063】
第1の酸化物を使用するとき、第2の酸化物は第1の酸化物と異なるものであることができ、Al、ZrO、HfO、ZnO、好ましくはTiOであることができる。
【0064】
時計構成要素の母材は、NbZr型の合金製、シリコン製、SiOで覆われたシリコン製、またはFeNiCr型の合金製であることができる。しかし、時計構成要素の母材はこれらの材料だけに限られるものではなく、ダイヤモンドや石英など、その他の適当な材料であることもできる。
【0065】
時計構成要素の母材は、Nb、TaまたはVを主体とする合金製であることができる。
【0066】
被膜は、第1の層と第2の層をそれぞれが含む複数の重畳、特に2重、3重または4重の重畳を有することができる。
【0067】
構成要素は次のようなものであることができる。すなわち、
− 第1の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
− 時計構成要素の母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、第1の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
− 時計構成要素の母材がシリコン製またはSiOで覆われたシリコン製である場合は、第1の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間である。
【0068】
構成要素は次のようなものであることができる。すなわち、
− 第2の層の厚さが2nmから60nmの間、好ましくは2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、
− 時計構成要素の母材がNbZr型の合金製またはFeNiCr型の合金製である場合は、第2の層の厚さが2nmから15nmの間、好ましくは3nmから12nmの間であるか、または、
− 時計構成要素の母材がシリコン製もしくはSiOで覆われたシリコン製である場合は、第2の層の厚さが3nmから60nmの間、好ましくは20nmから60nmの間、好ましくは40nmから60nmの間である。
【0069】
層はそれぞれ時計構成要素の母材を余すところなく覆うことができる。
【0070】
第1の層と第2の層は化学的に異なる種類のものである。
【0071】
第1の酸化物、第2の酸化物、および/または第1の層と第2の層の形を取る第1の酸化物と第2の酸化物の全体は、有利にはマイナスの熱弾性係数を有する。
【0072】
そのため、一方、母材と、他方、層の少なくとも1つとは互いに逆符号の熱弾性係数を有する。
【0073】
たとえば、本発明による層を備えるNbZr製のヒゲは、追加の層を持たない同一製造ロットのヒゲよりも低い熱弾性係数を示す(テンプ型振動体の熱係数の差で−0.2秒/日/°C)。同様に、本発明による層を備えるSi/SiO製のヒゲの熱弾性係数は、追加の層を持たない同一製造ロットのヒゲよりもかなり顕著に低い(テンプ型振動体の熱係数の差で−0.9秒/日/°C)。いずれの場合も、このようになるためには、第1の酸化物および/または第2の酸化物の熱弾性係数が相当にマイナスであり、たとえばシリコンと同符号であることなどが前提となる。第1の酸化物と第2の酸化物の熱弾性係数が同じであると仮定した場合、その熱弾性係数は−500ppm/°C前後であると推定することができる。そこで、ヒゲの形状の計算の際およびヒゲの製作時に行われる様々な処理の際にはそれぞれの層の材料および厚さを考慮に入れて、優れた振動数特性および熱補償特性を有するテンプ型振動体または共振体の実現に適したヒゲの熱弾性係数およびトルクが得られるようにする必要がある。
【0074】
一変形実施形態では、第1の層41は第1の窒化物から製作され、かつ/または第2の層51は第2の窒化物から製作される。その結果、第1の層および第2の層はいずれも酸化物もしくは窒化物であるか、それぞれ酸化物および窒化物であるか、またはそれぞれ窒化物および酸化物であることができる。
【0075】
第1の窒化物はAlTiCN、AlNまたはTiNであることができるが、それ以外の窒化物も同様に使用することができる。
【0076】
第1の窒化物を使用する場合、第2の窒化物は第1の窒化物とは異なるものであり、AlTiCN、AlNまたはTiNであることができる。
【0077】
別の変形実施形態では、第1の層41は第1の炭化物から製作され、かつ/または第2の層51は第2の炭化物から製作される。その結果、第1の層および第2の層は酸化物、窒化物または炭化物であることができる。したがって、第1の層および第2の層は以下のものであることができる。
− 酸化物、
− 窒化物、
− 炭化物、
− それぞれ酸化物および窒化物、
− それぞれ窒化物および酸化物、
− それぞれ酸化物および炭化物、
− それぞれ炭化物および酸化物、
− それぞれ窒化物および炭化物、または
− それぞれ炭化物および窒化物。
【0078】
第1の炭化物または第2の炭化物はたとえばAlTiCNであることができる。
【0079】
論理的または技術的に両立しえない場合を除き、上記の構成要素のすべての特徴は互いに組み合わせることができる。
【0080】
本発明はさらに、上に定義するような時計構成要素を備えるムーブメントに関する。
【0081】
本発明はまた、上に定義するようなムーブメントまたは上に定義するような時計構成要素を備える時計、特に携帯時計に関する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7