(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6550198
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】SiC膜構造体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20190711BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/68 N
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-36720(P2019-36720)
(22)【出願日】2019年2月28日
【審査請求日】2019年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596122696
【氏名又は名称】株式会社アドマップ
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】川本 聡
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−289537(JP,A)
【文献】
特開平05−090184(JP,A)
【文献】
特開2008−034729(JP,A)
【文献】
特開平06−188306(JP,A)
【文献】
特開昭57−007923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/00−21/02、21/04−21/16、
21/205、21/31、21/365、21/469、
21/67−21/683、21/86、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長型の成膜法により基材の外周にSiC膜を形成し、前記基材を除去することでSiC膜による立体形状を得るSiC膜構造体であって、
SiC膜により構成された立体形状を有すると共に、前記基材を除去するための開口部を備えた本体と、
前記開口部を覆う蓋体と、
少なくとも前記本体と前記蓋体の外縁部との接触箇所を覆って両者を接合しているSiCコート層と、を備えたことを特徴とするSiC膜構造体。
【請求項2】
前記蓋体をSiC膜により構成したことを特徴とする請求項1に記載のSiC膜構造体。
【請求項3】
前記蓋体は、前記開口部に嵌合するボス部と、前記ボス部の外周に張り出して前記開口部を覆うフランジ部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のSiC膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC成膜技術に係り、特にSiC膜により構成された立体的な構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
耐環境性に優れ、化学的安定性が高いことより、特に半導体素子製造の分野において、半導体製造時におけるウェハボートやチューブ、およびダミーウェハといった超高温下で利用される治具や製品として、SiCにより構成されている膜単体により構成された構造体が需要を高めている。
【0003】
こうしたSiC膜により構成される構造体(以下、SiC膜構造体と称す)は、平面形状のみならず、立体的な形状の物も製造することができる。その具体的な製造方法としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されているSiC膜構造体の製造方法は、まず、カーボン(グラファイト)等により構成された基材を製作する。次に、基材の表面に、CVD(chemicalvapor deposition:化学気相成長)法を介してSiC膜を形成する。
【0004】
次に、成膜された素材を高温酸化雰囲気中で加熱することで、基材を焼き抜きする。このような処理により基材除去を行うことで、機械加工では基材の除去が困難な複雑な立体形状を持つ構造体であっても、基材除去を行うことができ、SiC膜構造体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−158666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにして形成されるSiC膜構造体のうち、立体的な形状を持つものは、基材表面に部分的に、あるいは全面にSiC膜を形成し、基材の除去を行う必要がある。しかし、基材を除去するためには、基材の一部を露出させる酸化穴を設ける必要があり、SiC膜構造体は、完全な封止構造とすることができない。
【0007】
製品として構成されるSiC膜構造体に、こうした酸化穴が残存していると、洗浄時などに薬液などの水分が内部に入り込み、乾燥が困難となる箇所を生じさせる場合がある。
そこで本発明では、上記問題を解決し、封止構造とすることのできるSiC膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るSiC膜構造体は、気相成長型の成膜法により基材の外周にSiC膜を形成し、前記基材を除去することでSiC膜による立体形状を得るSiC膜構造体であって、SiC膜により構成された立体形状を有すると共に、前記基材を除去するための開口部を備えた本体と、前記開口部を覆う蓋体と、少なくとも前記本体と前記蓋体の外縁部との接触箇所を覆って両者を接合しているSiCコート層と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有するSiC膜構造体では、前記蓋体をSiC膜により構成することが望ましい。このような特徴を有することによれば、SiC膜構造体をSiC単体により構成することができる。また、本体と蓋体との熱膨張率を一致させることができるため、温度変化に伴う歪を生じさせる虞が無い。
【0010】
さらに、上記のような特徴を有するSiC膜構造体において前記蓋体は、前記開口部に嵌合するボス部と、前記ボス部の外周に張り出して前記開口部を覆うフランジ部とを有するようにすると良い。このような特徴を有することによれば、構造体が微小なものであったとしても、蓋体の位置決めと開口部の封止を容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記のような特徴を有するSiC膜構造体によれば、立体形状を有する本体に開口部を残すことの無い封止構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るSiC膜構造体の構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るSiC膜構造体の製造方法を説明するための図である。
【
図3】SiC膜構造体を構成する上での第1の変形例を示す図である。
【
図4】SiC膜構造体を構成する上での第2の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のSiC膜構造体に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上での好適な形態の一部であり、発明特定事項を備える範囲において、構成の一部を変更したとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0014】
[構成]
本実施形態に係るSiC膜構造体10は、
図1に示すように、本体12と蓋体14、およびSiCコート層16を基本として構成されている。本体12は、立体形状を成す中空部材であり、少なくとも一部に開口部12aを備えている。開口部12aは、中空部12bに連通するように設けられている。なお、本体12は、SiC(炭化ケイ素)膜により構成されている。
【0015】
蓋体14は、本体12に形成された開口部12aを封止するための要素である。
図1に示す例では、ボス部14aとフランジ部14bとから構成されている。ボス部14aは、本体12に形成されている開口部12aに嵌合し、位置決めを成す要素であり、フランジ部14bは、ボス部14aの一方の端部側においてボス部14aの外周に張り出して、開口部12aを覆う役割を担う要素である。フランジ部14bを設けることにより、ボス部14aが本体12の内部に脱落する虞が無い。このため、ボス部14aと開口部12aとのクリアランスが多少大きくなった場合であっても支障は無く、精度を高めるための加工等も必要が無い。
【0016】
蓋体14の構成部材については、特に限定するものでは無いが、温度、薬品等に対する耐性、すなわち耐環境特性の高い部材を用いることが望ましい。なお、本実施形態では、SiCにより蓋体14を構成することとする。このような構成とすることで、SiC膜構造体10をSiC膜単体構造とすることができるからである。蓋体14を本体12と同じ部材により構成することで、高温、あるいは低温環境下においても、熱膨張率の違いによる歪等を生じさせる虞が無い。
【0017】
SiCコート層16は、本体12と蓋体14とを接合する役割を担う要素である。このため、SiCコート層16は、少なくとも、本体12と、蓋体14の外縁部との接触箇所を覆うように形成されている。
図1に示す形態では、SiCコート層16は、蓋体14におけるフランジ部14bの形成面を覆うと共に、フランジ部14bの外周に位置する本体12を覆うように形成されている。
【0018】
上記のような構成のSiC膜構造体10によれば、SiC膜により構成された立体形状を有する構造体でありながら、完全に密閉された封止構造とすることができる。これにより、SiC膜構造体10を洗浄等する場合においても、内部に薬液等が入り込み、洗浄や乾燥が困難になるといった事態が生じない。
【0019】
[製造方法]
次に、
図2を参照して、本実施形態に係るSiC膜構造体10の製造方法について説明する。まず、
図2(A)に示すように、立体形状を有する基材50を形成する。基材50の形状については特に限定するものではない。なお、
図2(A)に示す例では、説明を容易化するために直方体型として示している。基材50の構成部材としては、グラファイトやシリコン等、加熱や薬品により、比較的容易に除去することのできる材質とすることが望ましい。本実施形態においては、基材50の構成部材として、グラファイトを採用することとしている。高温酸化雰囲気中における加熱により、焼失させることが可能だからである。なお、基材50には、少なくとも一部に、開口部12aを構成するためのマスキング52を施すようにする。
【0020】
次に、
図2(B)に示すように、気相成長型の成膜法により、基材50の表面に本体12を構成するSiC膜を成膜する。なお、気相成長型の成膜法とは、例えばCVD法によるもとすれば良いが、これに限定するものではなく、真空蒸着型のPVD(PhysicalVapor Deposition:物理気相成長)法や、MBE(MolecularBeam Epitaxy:分子線エピタキシー)法などであっても良い。SiC膜の膜厚は、特に限定するものでは無いが、基材50を除去した際、立体構造物として自立可能な強度を有する程度の膜厚を備える必要はある。
【0021】
基材50の外周にSiC膜を形成した後、
図2(C)に示すように、マスキング52を除去して基材50の一部を露出させる。その後、成膜された基材50を高温酸化雰囲気で加熱することで、基材50の除去を行う。本実施形態のように、基材50をグラファイトで構成している場合、基材50は二酸化炭素として消失することとなる。
【0022】
基材50を除去した後、
図2(D)に示すように、本体12に形成された開口部12aに蓋体14を配置する。なお、蓋体14は、本体12を形成する工程と別の工程で、前後、あるいは平行して作成すれば良い。
【0023】
蓋体14を開口部12aに配置した後、
図2(E)に示すように、蓋体14のフランジ部14bの外周に僅かに本体12を露出させるようにして、本体12の外周にマスキング54を施す。マスキング54を施した後、マスキングの開口部に位置する蓋体と、本体の露出部を覆うようにして、SiCを成膜し、SiCコート層を形成する。SiCコート層の形成工程については、
図2(B)における成膜工程と同様にすれば良い。なお、
図2(D)から
図2(E)の工程については、大気中での実施とすることもできるが、真空雰囲気中での実施としても良い。その他、炉内において、内部気体を不活性ガスなどに置換した上で蓋体14の封止を行うようにしても良い。なお、無人環境において本体12における内部気体の脱気や置換を行う場合には、開口部12aと蓋体14との間にスペーサ(不図示)などを介在させて作業を行うようにすれば良い。スペーサの構成材料をシリコンなど、加熱により焼失する素材とすることで、脱気、置換後、成膜工程にて、スペーサが消失することとなる。このため、脱気または置換のために形成された隙間が消失し、開口部12aが密閉されることとなる。
【0024】
SiCコート層による本体12と蓋体14の接合封止が完了した後、
図2(F)に示すように、マスキング54を取り除くことで、SiC膜構造体10が完成する。
【0025】
[変形例]
上記実施形態では、本体12の開口部12aを蓋体14により封止する際、SiCコート層16は、蓋体14の全体を覆うように形成していた。しかしながら、SiCコート層16は、本体12と蓋体14の外縁部との接触箇所を覆う構成とすれば良い。すなわち、
図3に示すように、蓋体14の中心付近にはSiCコート層16を設けることなく、外周上にSiCコート層16を配するようにしても良い。このような構成とした場合でも、本体12の開口部12aを封止する構成に変わりないからである。
【0026】
また、上記実施形態では、蓋体14は、ボス部14aとフランジ部14bとにより構成し、ボス部14aを開口部12aに嵌合することで、蓋体14の位置決めを図る旨説明した。しかしながら蓋体14は、本体12の開口部12aを封止することができれば良い。このため、
図4に示すように、蓋体14を平板により構成しても良い。開口部12aを覆う事ができれば、蓋体14としての機能を奏することができるからである。
【符号の説明】
【0027】
10………SiC膜構造体、12………本体、12a………開口部、12b………中空部、14………蓋体、14a………ボス部、14b………フランジ部、16………SiCコート層、50………基材、52………マスキング、54………マスキング。
【要約】
【課題】封止構造とすることのできるSiC膜構造体を提供する。
【解決手段】気相成長型の成膜法により基材50の外周にSiC膜を形成し、基材50を除去することでSiC膜による立体形状を得るSiC膜構造体10であって、SiC膜により構成された立体形状を有すると共に、基材50を除去するための開口部12aを備えた本体12と、開口部12aを覆う蓋体14と、少なくとも本体12と蓋体14の外縁部との接触箇所を覆って両者を接合しているSiCコート層16と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1