【実施例】
【0075】
試験方法
ガスクロマトグラフィー(GC)法
HP 7683インジェクタと、HP−5カラム(長さ30メートル及び内径320マイクロメートルの(5%フェニル)−メチルポリシロキサン(Agilent Technologies,Incorporated(Santa Clara,California)から入手可能)を備えた、商品名「AGILENT 6890N」で市販されているガスクロマトグラフを使用して、ガスクロマトグラフィーを行った。以下のパラメーターを使用した:1マイクロリットルアリコートの10%サンプル溶液(GCグレード・アセトン中)を注入した;分離流入モードを250℃、65.6kPa(9.52psi)及び111mL/分の総流入量で設定;65.6kPa(9.52psi)で設定されたカラム定圧モード;34センチメートル/秒で設定された速度;2.1mL/分のガス流量;検出器とインジェクタの温度は250℃;5分間の40℃での平衡状態後、上昇速度20℃/分で260℃までの温度シーケンス。
【0076】
熱重量分析(TGA)法
ナノ粒子エポキシ生成物の固体含有率を決定するために、生成物のおよそ20mgのサンプルを白金TGAパン内に配置した。パンをTGA(Q500、TA Instruments,Inc.(New Castle,DE))に装填し、空気パージガス中で30℃から900℃まで20℃/分の速度で高めた。
【0077】
シリカナノ粒子を含むサンプルの場合、850℃で残っているサンプルの重量(初期重量の百分率として)を不燃材料の重量パーセントとして取得し、シリカ固体である生成物の重量パーセントとして報告した。カルサイトナノ粒子を含むサンプルの場合、残重量は、900℃でカルサイトから有機物及び二酸化炭素の全部を揮発させた後、サンプル中に残っているCaOであると想定された。次いで、CaO残留物の重量パーセントを0.56で除算することにより、元のサンプル中のカルサイトの重量パーセントを計算した。
【0078】
粒径方法
ナノ粒子分散物をアセトンで約1%固体に希釈した。次いで、透過性が85%〜95%の推奨レベルの間になるまで、サンプルをアセトンで充填された測定セルに添加した。ナノ粒子の粒径は、商品名「HORIBA LA−950」でHoriba,Ltd.Corporation(Kyoto,Japan)から市販されている分析機を使用して、レーザー回折により測定した。計算のための光学モデルは、カルサイトに対して1.6000及び溶媒アセトンに対して1.3591の屈折率を使用した。平滑化のために第2の差動法が使用され、150回の反復に基づいた。
【0079】
比較例1(CE−1)
比較例1の圧力容器物品は、1.111重量部のEPON 828エポキシ樹脂(Hexion Specialty Chemicals,Inc.(Columbus,Ohio)から獲得)と、商品名「LINDRIDE 36Y」でLindau Chemicals Inc.(Columbia,South Carolina)から入手可能なもの等の、1.00重量部の、促進剤を有する液体無水物硬化剤と、をプラスチック容器内で組み合わせることにより形成された。2つの樹脂を、よく混合するまで、木製撹拌棒を用いて手で混合した(およそ1〜2分間)。この樹脂と硬化剤混合物とを使用して、CE−1のための3つの個々の圧力容器を形成した。
【0080】
実施例1(EX−1)
表面改質シリカナノ粒子を含有する樹脂系を含む繊維複合材料を、以下のように調製した。0.73重量部のNALCO 2327シリカ(Nalco Chemicals(Naperville,Illinois)製の水性分散物中41.1重量%のシリカ、ロットBP9J1622A4)を磁気撹拌棒と共にジャーに加えることにより、表面改質シリカ(SMS)ナノ粒子を調製した。ジャーを撹拌板上に乗せ、溶液を攪拌して2〜5cmの渦を形成した。次いで、1.00重量部のメトキシプロパノールを0.03674重量部のトリメトキシフェニルシラン(Gelest Inc.(Morrisville,Pennsylvania)、ロット番号1B−15944)と混合した。得られたメトキシプロパノール混合物を、磁気撹拌棒で攪拌しながら、シリカを含むジャーに徐々に注ぎ込んだ。ジャーを密閉し、80℃のバッチ炉に16時間入れた。「SMS−1」と同定された得られたサンプルは、16.9重量%のシリカを含んでいた。
【0081】
1.69重量部のシリカゾル(NALCO 2329K、水性分散物中40.7重量%、ロットBP9A1739A0)をオープンヘッドステンレス鋼混合容器に入れることにより、表面改質シリカナノ粒子を調製した。次いで、1.00重量部のメトキシプロパノールを撹拌しながらゆっくり加え、その後、混合物に0.0225重量部のトリメトキシフェニルシラン(Gelest Inc.、ロット1B−15944)をゆっくり加えた。混合物を空気圧駆動式インペラーで30分間攪拌した。
【0082】
PCT公開第WO2009/120846(A2)号に記載されているもの等の連続フロー熱水反応器を使用して、シリカナノ粒子を首尾よく表面官能化した。27リットルの反応器は、18.3メートルの外径(OD)1.27cm(内径(ID)1.09cm)のステンレス鋼管、それに続く12.2メートルのOD 0.95cm(ID 0.77cm)のステンレス鋼管、それに続く198.1メートルのID 1.27cmの高強度304ステンレス鋼編外装のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)滑腔内側管からなっていた。水熱反応器内の油温度を155℃に維持し、背圧調整器(TESCOM(Elk River,MN))をゲージ圧2.14MPaに維持した。隔壁ポンプ(LDC1 Ecoflow,American Lewa(Holliston,MA))を使用して、反応器を通した流速を760mL/分に制御し、35分間の滞留時間を得た。連続フロー熱水反応器からの流出液をHDPEドラム内に収集し、SMS−2と同定した。
【0083】
ナノ粒子エポキシ生成物の調製
以下の材料、0.92重量部のSMS−1、5.39重量部のSMS−2、1重量部のメトキシプロパノール、1.07重量部のエポキシ樹脂(EPON 828)、及び0.27重量部のシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)を撹拌しながら380リットルのケトルに加え、フィード混合物を形成して、よく混合した。ケトルを25℃で維持し、構成要素を最低14時間攪拌した。BLBシリーズの回転外部スプールギア(rotary external spur gear)とケミカルデューティギアポンプ(chemical duty gear pump)(BUSS FILMTRUDER,Zenith Pumps(Sanford,NC))とを使用して、国際特許出願第PCT/US10/35924号(2010年5月24に出願された「Process for Making Filled Resins」)に記載されているようなワイプトフィルム蒸発器(WFE)、即ち、1平方メートルのWFE逆流ポリマー加工機の上部入口へ混合物を計量した。WFEロータ(BUSS Filmtruder型)を25馬力、340rpmに設定した。2.5〜2.8kPaのレベルの真空を適用した。フィード混合物を、表1に示された条件に供した。約15分間操作した後で、生成流出液を、溶剤を含まない青白い流体液体材料として分離した。
【0084】
【表1】
【0085】
得られた、エポキシ樹脂中に分散された表面改質ナノ粒子を含有する樹脂系が冷却するにつれて、粘度が高まって粘着性の液体樹脂となり、これを熱重量分析(TGA)法及びガスクロマトグラフィー(GC)法により分析した。TGA結果は、樹脂系中のシリカ固体が52.2重量%であることを示した。GCによる残留溶媒の分析から、樹脂系中に0.05重量%未満のメトキシプロパノールが残っており、また検出可能な量の水がないことが分かった。
【0086】
希釈ナノ粒子エポキシ生成物の調製
22.56重量部の樹脂系を1.00重量部のエポキシ樹脂(EPON 828)及び0.25重量部のシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)と組み合わせることにより、樹脂系を希釈した。得られた、よく混合されたサンプルに関するTGA分析は、希釈ナノ粒子エポキシ生成物中のシリカ固体が49.5重量%であることを示した。
【0087】
圧力容器の形成に使用される樹脂と硬化剤との混合物の調製
2.24重量部の希釈ナノ粒子エポキシ生成物を、1.00重量部の、促進剤を有する液体無水物硬化剤(LINDRIDE 36Y)と共にプラスチックバケツ内に測定した。樹脂を、よく混合するまで、木製撹拌棒を用いて手で混合した(およそ3分間)。この樹脂系と硬化剤との混合物を使用して、実施例−1の3つの個々の圧力容器を形成した。
【0088】
実施例2(EX−2)
表面改質カルサイトナノ粒子を含有する樹脂系を含む繊維複合材料を、以下のように調製した。最初に、18,015グラムのカルサイト(SOCAL 31);9,608グラムのエポキシ樹脂(EPON 828);2,402グラムのシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107);1,352グラムのJASリガンド;及び5,500グラムのメチルエチルケトン(MEK)を、f−ブレードを備えたディスペンサー(BYK−Gardner(Columbia,MD,USA))を用いて予め混合した。取り扱いを容易にするために、JASを90℃に予熱して、その粘度を低下させた。
【0089】
JASリガンドの構造は、次の通りである。
【0090】
【化3】
【0091】
JASリガンドは、国際特許出願第PCT/US2009/068359号(2009年12月17日に出願された「Nanocalcite Composites」)にてLigand Vについて記載されているように調製されてもよい。
【0092】
次いで、ステンレス鋼チャンバ及び攪拌器を備えたLME−4水平ミル(NETZCH Fine Particle Technology(Exton,PA,USA))を用いて、Mollinex構成を使用して、プレミックスの粉砕を行った。密封流体として1−メトキシ−2−プロパノールを使用した。粉砕媒体は、0.5mmのイットリウム安定化ジルコニアであった。媒体負荷は、粉砕チャンバ容積の85%であった。上記で提供した組成物の2つのバッチを粉砕した。第1の組成物は、1時間45分粉砕し、第2の組成物は、2時間30分粉砕した。粉砕した両方のバッチは、粒径方法に従って測定して、265nmの同一の平均粒径と、単一の粒径分布ピークとを有した。
【0093】
次いで、粉砕した2つのバッチを、MEKの除去のために10ガロン(37.9L)のステンレス鋼ケトル内に負荷した。100℃の公称バッチ温度に到達するまで、5時間にわたってバッチ温度を徐々に上昇させた。真空のために吸引器を使用し、88kPaの公称真空を達成した。100℃の公称バッチ温度に到達した後、100℃の公称バッチ温度を維持しながら、真空源を吸引器から真空ポンプに15分間切り替えた。真空ポンプは、91kPaの公称真空を達成した。次いで、ケトル内の内容物を流し出した。
【0094】
次いで、上述したように調製したケトル内容物26,136グラムを、商品名「KANE ACE MX−257」でKaneka Texas Corporation(Pasadena,California)から市販されている樹脂中のコアシェルゴム粒子2,927グラム;シクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)755.1グラム;及びエポキシ樹脂(EPON 828)1,176.12グラムと組み合わせ、コウエルズブレード(cowels blade)を用いて均質になるまで混合した。最後に、このナノカルサイト配合樹脂2,721.6グラムを、促進剤を有する液体無水物硬化剤(LINDRIDE 36Y)1,143.1グラムと組み合わせた。
【0095】
圧力容器物品の調製
複合材料で包まれた圧力容器(COPV)を、HyPerComp Engineering,Inc.の設備(Brigham City,UT)にて、ENTEC Composite Machines(Salt Lake City,Utah)から市販されているプログラム可能な4軸のフィラメントワインダーを使用して製作した。繊維経路は、樹脂浴の前の6つのナイロンローラーからなり、樹脂浴の後に2つの棒鋼と2つのセラミック小穴とを有した。
【0096】
実施例1、実施例2、又は比較例1のエポキシ樹脂系中で飽和させた炭素繊維(TORAY T700SC−12000−50C、ロット# A2106M2,Toray Carbon Fibers America,Inc.(Decatur,AL))を、アルミニウムライナー(容量7.5L 6061 T6アルミニウム標準試験物品ライナー)の周囲に巻回することによって圧力容器を調製した。コーティングプロセスは、4つの繊維のトウをドラムを横切って通過させることからなり、ドラムは樹脂系のパンを通して回転する。過剰の樹脂系は、繊維と接触する前に、計量ブレード(metering blade)を使用してドラムから擦り落とされた。繊維は湿潤ドラムとの接触を介して樹脂系で飽和された状態となった後、フィラメントワインダー上に渡され、繊維はアルミニウムライナーに適用された。
【0097】
各容器は、6つのフープ層及び2つの螺旋層からなるパターンを用いて巻回された。巻回パターンの速度を、表2に列挙する。実施例2のフープ速度は、実施例1及び比較例1のフープ速度と比較して低減された。加えて、実施例1及び2の樹脂系の温度は、比較例1で使用された周囲条件(即ち、21〜24℃)に対して、27〜32℃に上昇された。これらの変更は、コーティングプロセス中、所望の樹脂/硬化剤系の移動を繊維に提供するために行われた。
【0098】
【表2】
【0099】
全容器は、以下のプロトコルに従って、単一の炉内で一緒に硬化された。63℃で3時間保ち、温度を約3℃/分で91℃に上昇させ、91℃で2時間保ち、温度を約3℃/分で85℃に低下させ、85℃で6時間保つ。各アルミニウムライナーの重量及び直径をフィラメント巻回プロセスの前に記録し、巻回及び硬化工程の後に再度、記録した。結果を表3に要約する。
【0100】
【表3】
【0101】
圧力容器試験
全容器を、同じ試験設定を使用して、同じ日に水圧破裂試験した。試験を続いて行う間、硬化圧力容器を水道水で満たし、10〜90分間置いた。高圧継手を使用して各圧力容器を個別に高圧水ポンプに接続し、機器を設定して(setup instrumented)、周波数100Hzで圧力を記録した。圧力が60〜90秒の時間内で40〜48MPa(6000〜7000psi)に上昇するように、圧力容器に水を加えた。
【0102】
破損直前に容器にかけられた最大圧力(圧力の劇的低下により示される)として、破裂圧力を報告した。Autodesk(San Rafael,California)から入手可能な「ALGOR FEA」ソフトウェア等の有限要素解析ソフトウェアを使用する非線形解析を用いて、容器に関する有限要素解析を行った。破裂試験の結果と総供給繊維強度の計算、及び変動係数を表4に報告する。示されるように、表面改質ナノ粒子を含む樹脂系は、平均供給繊維強度において対照サンプル繊維強度に対して劇的な7%の増大を提供した。
【0103】
【表4】
【0104】
「The effect of fiber volume fraction on filament wound composite pressure vessels」と題された論文(Composites:Part B 32(2001),pp.413〜429),Cohenら、には、破損までの繊維歪みのデータを使用して、繊維の体積分率を50%から65%に増大させることによって、どのように複合材料繊維強度の10%増大が達成され得るかを報告した。しかしながら、Cohenらは、そのような高い体積分率を用いた複合材料の製造は、取るに足らない問題ではないとも示した。
【0105】
対照的に、本発明者らは、水圧破裂試験における複合材料繊維強度の7%の増大は、繊維体積分率を増大させなくても達成できることを発見した。マトリックス特性を無視する従来の手法に反して、本発明者らは、複合材料繊維強度の有意な向上は、マトリックス樹脂中に表面改質ナノ粒子を組み込むことにより達成できることを発見した。
【0106】
比較例2(CE−2)
5つの容器を調製した。それらがフィラメント巻回され、2つの別個のバッチにて硬化されたことを除いて、比較例2の圧力容器物品を比較例1の方法と同一の方法で形成した。
【0107】
実施例3(EX−3)
表面改質シリカナノ粒子を含有する樹脂系を含む繊維複合材料を、以下のように調製した。1.69重量部のシリカゾル(NALCO 2329K、水性分散物中40.87重量%のシリカ、ロットBP0D1847A0)をオープンヘッドステンレス鋼混合シリカ容器に入れることにより、表面改質シリカナノ粒子を調製した。次いで、1.00重量部のメトキシプロパノールを撹拌しながらゆっくり加え、その後、混合物に0.0197重量部のトリメトキシフェニルシランをゆっくり加えた。混合物を空気圧駆動式インペラーで30分間攪拌した。
【0108】
SMS−2の作製に記載したものと同じ連続フロー熱水反応器及び反応条件を使用して、SMS−3を調製した。熱水反応器からの流出液を、SMS−3と同定した。
【0109】
0.73重量部のシリカゾル(NALCO 2327、水性分散物中41.1重量%のシリカ、ロットBP9J1622A4)をオープンヘッドステンレス鋼混合容器に入れることにより、表面改質シリカナノ粒子を調製した。次いで、1.00重量部のメトキシプロパノールを撹拌しながらゆっくり加え、その後、混合物に0.0237重量部のトリメトキシフェニルシランをゆっくり加えた。混合物を空気圧駆動式インペラーで30分間攪拌した。
【0110】
TESCOM背圧ゲージを2.21MPaのゲージ圧に維持し、滞留時間が35.5分間であったことを除いて、SMS−2の作製に記載したものと同じ連続フロー熱水反応器と反応条件とを使用して、SMS−4を調製した。熱水反応器からの流出液を、SMS−4と同定した。
【0111】
ナノ粒子エポキシ生成物を、以下の材料を撹拌しながら380リットルケトルに加えてフィード混合物を形成したことを除いて、EX−1と同じ方法で調製した。5.36重量部のSMS−3、0.88重量部のSMS−4、1重量部のメトキシプロパノール、1.24重量部のエポキシ樹脂(EPON 826)、及び0.31重量部のシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)。このフィード混合物を表5に示された条件に供した。
【0112】
【表5】
【0113】
得られた、エポキシ樹脂中に分散された表面改質ナノ粒子を含有する樹脂系が冷却するにつれて、粘度が高まって粘着性の液体樹脂となり、これをTGA及びGCにより分析した。TGAは、樹脂系中のシリカ固体が48.54重量%であることを示した。GCによる残留溶媒の分析から、樹脂系中に検出可能な量のメトキシプロパノールは存在せず、また検出可能な量の水が存在しないことが分かった。
【0114】
圧力容器を形成するための樹脂と硬化剤との混合物の調製。2.03重量部のナノ粒子エポキシ生成物を1.00重量部の、促進剤を有する液体無水物硬化剤(LINDRIDE 36Y)と共にプラスチックバケツ内へ測定した。樹脂を、よく混合するまで、木製撹拌棒を用いて手で混合した(およそ3〜5分間)。この樹脂系と硬化剤との混合物を使用して、実施例−3の2つの個々の圧力容器を形成した。
【0115】
EX−3の圧力容器の形成に使用した樹脂と硬化剤との混合物の温度を、37℃〜46℃に維持した。
【0116】
実施例4(EX−4)
ナノ粒子エポキシ生成物を、以下の材料を撹拌しながら380リットルケトルに加えてフィード混合物を形成したことを除いて、EX−1と同じ方法で調製した。5.36重量部のSMS−3、0.88重量部のSMS−4、1重量部のメトキシプロパノール、1.0重量部のエポキシ樹脂(EPON 826)、0.25重量部のシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)、及び0.30重量部のコアシェルゴム(KANEKA MX−257)。このフィード混合物を、表5に示された条件に供した。
【0117】
得られた、エポキシ樹脂中に分散された表面改質ナノ粒子を含有する樹脂系が冷却するにつれて、粘度が高まって粘着性の液体樹脂となり、これをTGA及びGCにより分析した。TGAは、樹脂系中のシリカ固体が48.73重量%であることを示した。GCによる残留溶媒の分析から、樹脂系中に検出可能な量のメトキシプロパノールは存在せず、また検出可能な量の水が存在しないことが分かった。
【0118】
圧力容器を形成するための樹脂と硬化剤との混合物の調製。2.22重量部のナノ粒子エポキシ生成物を1.00重量部の、促進剤を有する液体無水物硬化剤(LINDRIDE 36Y)と共にプラスチックバケツ内へ測定した。樹脂を、よく混合するまで、木製撹拌棒を用いて手で混合した(およそ3〜5分間)。この樹脂系と硬化剤との混合物を使用して、実施例−4の2つの個々の圧力容器を形成した。
【0119】
EX−4の圧力容器の形成に使用した樹脂と硬化剤との混合物の温度を、41℃〜51℃に維持した。
【0120】
CE−2、EX−3及びEX−4の圧力容器は、同じ機器を用いて、同じ繊維のロット(T700SC)、同じアルミニウムライナーのタイプを使用して同じ方法で調製され、CE−1並びにEX−1及びEX−2と同じ方法で硬化された。EX−3及びEX−4に明白に列挙した、異なる樹脂浴温度のみが例外であった。巻回パターン速度は、CE−2、EX−3及びEX−4に関して記録しなかった。各アルミニウムライナーの重量及び直径をフィラメント巻回プロセスの前に記録し、巻回及び硬化工程の後に再度、記録した。結果を表6に要約する。
【0121】
【表6】
【0122】
EX−3及びEX−4の容器の硬化後の重量及び直径は、CE−2の容器の硬化後の重量及び直径よりも大きかった。CE−1、CE−2、EX−1、EX−2、EX−3及びEX−4の全容器は、同じ機器上で、同じ繊維のロットを使用して同じフィラメント巻回パターンで形成されたため、それぞれ等しい重量の炭素繊維を含んでいた。EX−3及びEX−4の重量の増大(CE−2に対する)は、樹脂コーティング及び樹脂浴温度の最適化の不足による容器上の過剰な樹脂を原因とする。過剰な樹脂のほとんどは、硬化中に容器の外部に強制されたため(硬化容器の外部の樹脂に富んだ外観に注目して)、CE−2並びにEX−3及びEX−4容器の繊維体積は、樹脂重量の相違にも係わらずCE−2の容器とほぼ等しいと予想された。
【0123】
CE−2、EX−3及びEX−4の圧力容器の水圧破裂試験に先だって、空の容器を落下ダート(4.54kgの棒鋼、直径およそ5.1cm、半球形末端部を有する)からの衝撃に供し、落下ダートは静止容器の側壁の中央を打った。ダートの衝撃エネルギーは、落下前のダートの高さを操作することにより調節した。衝撃エネルギーは、ダートの質量を、ダートが解放された高さにより乗算して計算した。落下ダートが試験高さから解放された後、落下ダートは、最初の落下後、エネルギーが消費され、ダートが容器の側壁と接触して動かなくなるまで、容器の側壁を数回打つことが可能であった。ダートが衝突した損傷領域内で、複合材料圧力容器が容器の元の輪郭からくぼんだときに、複合材料圧力容器の損傷領域の永久ゆがみの深さ測定値を記録した。
【0124】
CE−2、EX−3及びEX−4の容器がダート衝撃に供された後、これらはCE−1、EX1及びEX−2に関して使用されたものと同じ方法により水圧破裂試験され、同じ有限要素解析方法が遂行された。衝撃による損傷の深さの結果及び水圧破裂試験の結果は、表7に含まれる。CE−1の水圧破裂結果を表7に含めて、水圧破裂試験に先だって衝撃損傷に供されなかった対照容器として比較した。
【0125】
【表7】
【0126】
* 対照サンプルの繊維強度の平均百分率は、365.8cmの衝撃落下後の物品の供給繊維強度(又は適用可能な場合、2つの物品の平均)を、2944MPa(427.0ksi)を示した対照試験容器(CE−2容器#5)の供給繊維強度で除算し、100で乗算することにより計算した。
【0127】
** 元の繊維強度の平均百分率は、物品の供給繊維強度(又は適用可能な場合、2つの物品の平均)を、供給繊維強度5018MPa(727.7ksi)を示した元の(衝撃なし)対照試験容器(CE−1容器#1〜3)の平均供給繊維強度で除算し、100で乗算することにより計算した。
【0128】
比較例3(CE−3)
4つの容器が調製され、それらが異なる複合材料パターンでフィラメント巻回されて、繰り返し(疲労)試験により適切な容器を提供した以外は、比較例1及び2と同一の方法で比較例3の圧力容器物品を形成した。CE−1及びCE−2の容器は、破裂試験のみが意図され、繰り返し(疲労)試験は意図されていなかった。CE−1、CE−2の容器とCE−3の容器との相違は、硬化後のライナー直径及び重量の増大(それぞれ表3、表6及び表8)、水圧破裂圧力、並びに水圧破裂等式からの供給繊維強度の増大により示される(表9)。CE−3容器の複合材料層の厚さは、CE−1及びCE−2の容器のおよそ2倍であった。表9に示すように、水圧破裂試験によるCE−3容器の供給繊維強度は、4268MPa(619.1ksi)であった一方、CE−1容器の場合、水圧破裂試験による平均繊維供給強度は、およそ5018MPa(727.7ksi)であった。圧力容器構成体に一般的なように、任意の特定の繊維の供給繊維強度は、容器上の複合材料層の厚さが増大するにつれて低下する。
【0129】
実施例5(EX−5)
表面改質シリカナノ粒子を含有する樹脂系を含む繊維複合材料を、以下のように調製した。1.69重量部のシリカゾル(NALCO 2329K、水性分散物中40.67重量%のシリカ、ロットBP0F1998A0)をオープンヘッドステンレス鋼混合シリカ容器に入れることにより、表面改質シリカナノ粒子を調製した。次いで、1.00重量部のメトキシプロパノールを撹拌しながらゆっくり加え、その後、混合物に0.0208重量部のトリメトキシフェニルシランをゆっくり加えた。混合物を空気圧駆動式インペラーで30分間攪拌した。
【0130】
SMS−2の作製に記載したものと同じ連続フロー熱水反応器及び反応条件を使用して、SMS−5を調製した。熱水反応器からの流出液を、SMS−5と同定した。
【0131】
ナノ粒子エポキシ生成物を、以下の材料を撹拌しながら380リットルケトルに加えてフィード混合物を形成したことを除いて、EX−1と同じ方法で調製した。5.36重量部のSMS−5、0.87重量部のSMS−4、1重量部のメトキシプロパノール、1.18重量部のエポキシ樹脂(EPON8 26)、及び0.30重量部のシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル(HELOXY 107)。このフィード混合物を、表5に示された条件に供した。
【0132】
得られた、エポキシ樹脂中に分散された表面改質ナノ粒子を含有する樹脂系が冷却するにつれて、粘度が高まって粘着性の液体樹脂となり、これをTGA及びGCにより分析した。TGA結果は、樹脂系中のシリカ固体が49.16重量%であることを示した。GCによる残留溶媒の分析から、樹脂系中に検出可能な量のメトキシプロパノールは存在せず、また検出可能な量の水が存在しないことが分かった。
【0133】
圧力容器を形成するための樹脂と硬化剤との混合物の調製
2.13重量部のナノ粒子エポキシ生成物を1.00重量部の、促進剤を有する液体無水物硬化剤(LINDRIDE 36Y)と共にプラスチックバケツ内へ測定した。樹脂を、よく混合するまで、木製撹拌棒を用いて手で混合した(およそ3〜5分間)。この樹脂系と硬化剤との混合物を使用して、実施例−5の3つの個々の圧力容器を形成した。
【0134】
3つのみの容器を調製し、繊維コーティング浴内の樹脂の温度を27℃〜32℃に維持した以外は、CE−3の圧力容器と同一の方法でEX−5の圧力容器を調製した。各アルミニウムライナーの重量及び直径をフィラメント巻回プロセスの前に記録し、巻回及び硬化工程の後に再度、記録した。CE−3及びEX−5の容器に関する結果を、表8に要約する。
【0135】
【表8】
【0136】
EX−5の容器の硬化後の重量及び直径は、CE−3の容器の硬化後の重量及び直径よりも大きかった。CE−3及びEX−5の容器は、同じ機器上で、同じ繊維のロットを使用して同じフィラメント巻回パターンで形成されたため、それぞれ等しい重量の炭素繊維を含んでいた。EX−5の重量の増大(CE−3に対する)は、樹脂コーティング及び樹脂浴温度の最適化の不足による容器上の過剰な樹脂を原因とする。過剰な樹脂のほとんどは、硬化中に容器の外部に強制されたため(硬化容器の外部の樹脂に富んだ外観に注目して)、CE−3及びEX−5容器の繊維体積は、樹脂重量の相違にも係わらず、ほぼ等しいと予想された。
【0137】
CE−3の硬化容器#1を、圧力増大速度を含む、CE−1、CE−2、及びEX−1〜EX−4に記載したものと同じ方法で水圧破裂評価にて試験したが、最終的な破裂圧力に到達するのに要した時間は、CE−3の高い破裂圧力に起因して、CE−1、CE−2、EX−1〜EX−4よりも長かった。表9は、CE−3及びCE−1の容器に関する破裂圧力の比較と、以前記載したCE−1並びにEX−1及びEX−2で使用した有限要素モデル解析により計算した供給繊維強度とを含む。
【0138】
【表9】
【0139】
CE−3の破裂圧力は、異なるフィラメント巻回パターンと、遙かに厚い複合材料層(繰り返し(疲労)試験に適切であった)とに起因して、CE−1の破裂圧力と比較して有意に増大した。しかしながら、とりわけ、同じ炭素繊維(同じ繊維のロット)、同じ樹脂、及び同じ硬化条件を使用したにも係わらず、CE−3の供給繊維強度は、CE−1の供給繊維強度よりも低かった。供給繊維強度の低下は、複合材料層の厚さの増大の結果であるとして工業界で容認されている。
【0140】
繰り返し試験
繰り返し(疲労)試験に意図されたCE−3の残りの3つのシリンダーとEX−5の3つのシリンダーとを、繰り返し試験に先だって自緊に供した。自緊は、繰り返し試験前の58.6MPa(8500psi)での2分間の保持と37.9MPa(5500psi)での1分間の水圧試験とからなっていた。繰り返しの試験では、重量比25/75のグリコールと水の液体溶液を使用して、10回繰り返し/分を超えない速度で、3.1MPa〜31.0MPa(4500psi)(以下)を容器に対して繰り返した。上位周期圧(upper cyclic)の圧力範囲90〜100パーセントにおける最小滞留時間は、1.2秒以上であった。マニフォルド設定を使用して容器を平行させて繰り返し試験し、したがって全容器は同じ繰り返し試験に晒された。各容器に関して、破損までの繰り返し数(上位周期圧の繰り返し)を破損位置と共に報告した。CE−3及びEX−5の全容器は、容器の側壁に破損を示した。
【0141】
CE−3及びEX−5に関する繰り返し(疲労)試験の結果の要約は、表10に含まれる。
【0142】
【表10】
【0143】
* これら2つの繰り返し試験は、10,000回の繰り返しで数日間停止した後、再開した。
【0144】
工業界で容認されている繰り返し(疲労)評価の変動係数は、20%である。CE−3及びEX−5の容器の両方は、20%未満の変動係数を示す。
【0145】
表10は、EX−5の容器の破損までの繰り返しの平均が、CE−3の容器と比較して55%増加したことを示す。これは、CE−3とEX−5とで容器設計が同じであり、マトリックス樹脂のみが異なっていたことを考慮すれば、容器の繰り返し寿命における非常に有意な増加である。より長い繰り返し寿命は、より小さい重量及びより長い寿命を有する圧力容器のために複合材料を再設計することを可能にする。
【0146】
本発明者らは、衝撃損傷後の非常に有意な複合材料繊維強度の向上が、表面改質ナノ粒子、及び(ある場合)コアシェルナノ粒子をマトリックス樹脂中に組み込むことにより達成できることを発見した。例えば、表面改質ナノ粒子をマトリックス樹脂中に組み込むことにより、表面改質ナノ粒子を有さない対照と比較した際、衝撃後の供給繊維強度の29.6%の向上が達成された。例えば、表面改質ナノ粒子及びコアシェル粒子をマトリックス樹脂中に組み込むことにより、表面改質ナノ粒子及びコアシェル粒子を有さない対照と比較した際、衝撃後の供給繊維強度の40.3%の向上が達成された。本発明者らは、表面改質ナノ粒子をマトリックス樹脂中に含めることによる、圧力容器の繰り返し寿命の非常に有意な向上も示した。
【0147】
一般に、本開示の圧力容器は、少なくとも2MPa、例えば、少なくとも5MPa、少なくとも10MPa、少なくとも20MPa、少なくとも30MPa、少なくとも40MPa、少なくとも50MPa、少なくとも60MPa、少なくとも70MPa、少なくとも80MPa、少なくとも90MPa、又は更にはそれ以上の絶対圧力における流体を収容するように設計されてもよい。本開示の圧力容器は、例えば、パイプ及び導管、貯蔵容器、並びに一時的な高圧に晒される構造体を含む圧力容器に関連した非常に様々な用途のいずれにも使用することができる。
【0148】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。
[1] 圧力容器であって、
流体で満たされることが可能な開放容積を周囲方向に囲む壁であって、前記開放容積に隣接した内面及び前記内面の反対側の外面と、第1の末端部と、第2の末端部と、軸線方向と、を含む、壁を含み、
前記壁が、繊維で含浸された樹脂系を含む複合材料層を含み、
前記樹脂系が、硬化性マトリックス樹脂と複数の表面改質ナノ粒子と、を含む、圧力容器。
[2] 少なくとも1つの複合材料層が、前記軸線方向に対して70度を超える角度で整合された繊維を含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[3] 少なくとも1つの複合材料層が、前記軸線方向に対して40度以下の角度で整合された繊維を含む、上記態様2に記載の圧力容器。
[4] 少なくとも1つの複合材料層が、前記軸線方向に対して40〜70度(上限及び下限を含む)の角度で整合された繊維を含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[5] 前記開放容積を更に囲む、前記第1の末端部に隣接して前記壁から延びる第1のキャップを更に含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[6] 前記圧力容器を包囲する周囲環境から前記開放容積を隔離する、前記第2の末端部に隣接して前記壁から延びる第2のキャップを更に含む、上記態様5に記載の圧力容器。
[7] 前記軸線方向に直交する、前記壁の断面が楕円形である、上記態様1に記載の圧力容器。
[8] 前記圧力容器が楕円体である、上記態様1に記載の圧力容器。
[9] 前記硬化性マトリックス樹脂がエポキシを含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[10] 前記表面改質ナノ粒子がコアを含み、前記コアが、少なくとも1つの金属酸化物と、前記コアの表面に共有結合した表面改質剤と、を含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[11] 前記表面改質ナノ粒子がコアを含み、前記コアがシリカを含む、上記態様10に記載の圧力容器。
[12] 前記表面改質ナノ粒子がコアを含み、前記コアが、カルサイトと、前記コアにイオン的に会合した表面改質剤と、を含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[13] 前記樹脂系が更にゴム強化剤を含む、上記態様1に記載の圧力容器。
[14] 前記壁が更にライナーを含み、前記ライナーが、前記開放空間及び外面に隣接した内面を有し、前記複合材料層が前記ライナーの前記外面に隣接している、上記態様1に記載の圧力容器。
[15] 前記ライナーが、金属及びポリマーの少なくとも1つを含む、上記態様14に記載の圧力容器。
[16] 前記開放容積が、少なくとも10MPaの絶対圧力における流体を収容する、上記態様1に記載の圧力容器。
[17] 前記開放容積が、少なくとも30MPaの絶対圧力における流体を収容する、上記態様1に記載の圧力容器。
[18] 前記開放容積が、少なくとも80MPaの絶対圧力における流体を収容する、上記態様1に記載の圧力容器。
[19] 前記ゴム強化剤がコアシェルゴムを含む、上記態様13に記載の圧力容器。