特許第6550219号(P6550219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550219
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/18 20060101AFI20190711BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20190711BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20190711BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20190711BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B60B35/18 Z
   B60B35/14 U
   F16C19/18
   F16C19/52
   F16F15/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-160189(P2014-160189)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-37096(P2016-37096A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】重岡 和寿
(72)【発明者】
【氏名】須間 洋斗
(72)【発明者】
【氏名】西川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】関 誠
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079630(JP,A)
【文献】 特公平06−037915(JP,B2)
【文献】 特開平08−028627(JP,A)
【文献】 特表2000−509791(JP,A)
【文献】 特開2008−157413(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/014059(WO,A1)
【文献】 特表2002−519592(JP,A)
【文献】 特開2001−246903(JP,A)
【文献】 特開2006−306382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/18
B60B 35/14
F16C 19/18
F16C 19/52
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にナックルに取り付けられ、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた軸受部からなり、
前記内方部材の内周にトルク伝達用のセレーションが形成されていて、
前記外方部材のアウター側端部の外周面および前記外方部材の複列の外側転走面間の内径面および前記内方部材の外周面のいずれか一方の部位に、前記軸受部の固有振動数を変化させて当該軸受部の周辺部品との共振の発生を防止する減衰機構を設けたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記減衰機構が、金属製の重錘と、この重錘の外表面を被覆する弾性部材を備え、この弾性部材の両端部に取付部が形成され、その外径面に環状溝が形成されると共に、この環状溝に装着される金属製の締付バンドによって固定されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記弾性部材の嵌合面に芯金がインサート成形され、この芯金を介して前記減衰機構が圧入固定されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記減衰機構が前記内方部材の複列の内側転走面の軸方向中央部に固定されている請求項1乃至3いずれかに記載された車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記内輪に、前記内側転走面からシール嵌合部を介してインナー側に延びる円筒状の固定部が形成され、この固定部の外周面に前記減衰機構が固定されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記外方部材のアウター側の端部外周に円筒状の固定部が形成され、この固定部に前記減衰機構が固定されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記外方部材の複列の外側転走面間の内径面に前記減衰機構が固定されている請求項1または3に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置に関し、特に、振動伝達系路に減衰機構を備えた車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の乗り心地や車内騒音低減のため、タイヤホイールやブレーキディスクを取り付けるための車輪用軸受装置に防振機構を設ける構造、例えば、車輪を取り付けるハブ輪と内輪との間に筒状の制振材料を配置した構造等が提案されている。また、図7に示すように、複列転がり軸受50の内輪51、52と等速自在継手53の外側継手部材54との間に弾性部材55を介装し、等速自在継手53の制振をこの弾性部材55で減衰させて複列転がり軸受50に振動の伝達を抑制し、その振動から軸受のフレッティング摩耗を抑制して軸受寿命を向上させたもの(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。これらの制振材料は、熱可塑性樹脂やエラストマー等の高分子材料、あるいは高分子材料を通常の鋼板でサンドイッチにした制振鋼板で構成されている。
【0003】
然しながら、高分子材料からなる制振材料は、自動車のハブ輪に適用する際、高分子材料の制振吸収効果は数kHz以上の高周波域では顕著であるが、路面凹凸によるゴムタイヤの加振により生ずる200〜300Hzの共鳴ノイズに対しては、ゴム等の高分子材料で充分減衰できず、また、高負荷が作用するハブ輪においては、偏心荷重が繰り返し負荷された場合、あるいは長時間負荷された場合、耐久性に問題があると共に、偏心荷重による圧縮永久歪が助長され易い問題等がある。
【0004】
この種の問題を解決したものとして、図8に示すような車輪用軸受装置が知られている。この車輪用軸受装置56は、車軸57の先端部外周面に取付けられる筒状のハブ本体58と、このハブ本体58の外周面から径方向外方に突出するホイール取付部(車輪取付フランジ)59とを有するハブ60と、ハブ本体58の外周面に取付けられる軸受部61とを備えている。
【0005】
軸受部61は、車軸57およびハブ60と一体回転可能に取り付けられる内輪62と、この内輪62の径方向外方に配置された外輪63と、内輪62と外輪63との間に配置される複数のボール64とからなる。そして、外輪63が、自動車側に設けられた外輪取付部(ナックル)65に非回転となるように組み付けられる。
【0006】
ホイール取付部59に取り付けられる車輪66からの振動の、車軸57から外輪取付部65に至る伝達系路上に、合金材料固有の内部摩擦減衰機構に基づき振動を減衰させる制振合金材料からなる振動吸収部67が設けられている。この振動吸収部67は、ゴムやエラストマー等の高分子材料と異なり、1kHz以下の騒音乃至振動に対しても吸収効果が顕著で、車内騒音や振動の主体となる共鳴ノイズ等が効率的に減衰される。その結果、これらの振動が自動車の車内に該振動に由来した騒音や不快感が漏洩することが効果的に防止される。また、制振合金材料からなる振動吸収部67は、高分子材料系の振動吸収部よりも高強度であり耐久性に優れる。さらに、偏心荷重等が繰り返し加わった場合でも、高分子材料のような圧縮永久歪が蓄積され難い(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−246903号公報
【特許文献2】特開2006−306382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然しながら、こうした従来の車輪用軸受装置56では、振動を減衰させることはできるものの、固有振動数の変化による、例えば、等速自在継手53と軸受部61の共振を防ぐことができないため、車内に不快な音を発生させる恐れがある。また、従来特許では、複列転がり軸受50または車輪用軸受装置56に軸受予圧を与えているにもかかわらず、弾性部材55または振動吸収部67を等速自在継手53との間、もしくはナックル65の間に設けているため足回りの剛性を犠牲にしている。
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、車輪用軸受装置の剛性を確保したままで、軸受部の周辺部品との共振の発生を防止させ、振動吸収性能と耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、外周にナックルに取り付けられ、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、前記外方部材または内方部材の相手部材との嵌合部を除く部位に、周辺部品との共振防止手段を設けた。
【0011】
このように、外周にナックルに取り付けられ、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、外方部材または内方部材の相手部材との嵌合部を除く部位に、周辺部品との共振防止手段を設けたので、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させ、電気自動車のような走行用駆動源の音が低減した場合であっても、車内に対する異音を低減することができ、振動吸収性能と耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明のように、前記共振防止手段が、金属製の重錘と、この重錘の外表面を被覆する弾性部材を備え、この弾性部材の両端部に取付部が形成され、その外径面に環状溝が形成されると共に、この環状溝に装着される金属製の締付バンドによって固定されていても良い。
【0013】
また、請求項3に記載の発明のように、前記弾性部材の嵌合面に芯金がインサート成形され、この芯金を介して前記減衰機構が圧入固定されていても良い。
【0014】
また、請求項4に記載の発明のように、前記減衰機構が前記内方部材の複列の内側転走面の軸方向中央部に固定されていれば、特に、複列の転動体の軸方向のピッチ間距離が大きな車輪用軸受装置において、グリース封入量を低減させることができると共に、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑え、潤滑効率を向上させることができる。
【0015】
また、請求項5に記載の発明のように、前記内輪に、前記内側転走面からシール嵌合部を介してインナー側に延びる円筒状の固定部が形成され、この固定部の外周面に前記減衰機構が固定されていれば、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構の交換および調整も可能となる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明のように、前記外方部材のアウター側の端部外周に円筒状の固定部が形成され、この固定部に前記減衰機構が固定されていれば、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構の交換および調整も可能となる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明のように、前記外方部材の複列の外側転走面間の内径面に前記減衰機構が固定されていれば、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、グリース封入量を低減させることができ、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑えて潤滑効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車輪用軸受装置は、外周にナックルに取り付けられ、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、前記外方部材または内方部材の相手部材との嵌合部を除く部位に、周辺部品との共振防止手段を設けたので、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させ、電気自動車のような走行用駆動源の音が低減した場合であっても、車内に対する異音を低減することができ、振動吸収性能と耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
図2図1の減衰機構を示す拡大図である。
図3図2の変形例を示す拡大図である。
図4図1の車輪用軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
図5図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図である。
図6図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図である。
図7】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
図8】他の従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する他方の内側転走面が形成された内輪とからなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、前記内方部材の複列の内側転走面の軸方向中央部に減衰機構が設けられ、この減衰機構が、金属製の重錘と、この重錘の外表面を被覆する所定の肉厚からなる弾性部材を備えると共に、この弾性部材の両端部に取付部が形成され、この取付部に装着される金属製の締付バンドによって前記減衰機構が固定されている。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の減衰機構を示す拡大図、図3は、図2の変形例を示す拡大図、図4は、図1の車輪用軸受装置の変形例を示す縦断面図、図5は、図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図、図6は、図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0022】
図1に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体(ボール)4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0023】
ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。また、車輪取付フランジ6の周方向等配位置には車輪を締結するためのハブボルト6aが植設されている。一方、内輪2は、外周に他方(インナー側)の内側転走面2aが形成され、ハブ輪1の小径段部1bに所定のシメシロを介して圧入固定されている。
【0024】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面1aをはじめ、後述するシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部1bに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。一方、内輪2はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、転動体4はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで62〜67HRCの範囲に硬化処理されている。
【0025】
外方部材5は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。そして、これら両転走面5a、1aおよび5a、2a間に保持器7を介して複列の転動体4、4が転動自在に収容されている。
【0026】
外方部材5はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面5a、5aが高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。また、外方部材5と内方部材3との間に形成される環状空間の両端開口部にシール8、9が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に浸入するのを防止している。
【0027】
シール8、9のうちインナー側のシール9は、互いに対向配置され、固定側部材となる外方部材5のインナー側の端部内周に所定のシメシロを介して圧入された環状のシール板10と、回転側部材となる内輪2の外径に所定のシメシロを介して圧入されたスリンガ11とからなる、所謂パックシールで構成されている。
【0028】
また、アウター側のシール8は、外方部材5のアウター側の端部外周に圧入された芯金12と、この芯金12に接合されたシール部材13とからなる一体型のシールで構成されている。シール8の芯金12は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系)や防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系)等、防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、全体として円環状に形成されている。
【0029】
一方、シール部材13は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金12に一体に接合されている。このシール部材13は、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ13aと、このサイドリップ13aの内径側に同じく径方向外方に傾斜して延びるダストリップ13b、および軸受内方側(インナー側)に傾斜して延びるグリースリップ13cを一体に有している。
【0030】
車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bは断面が円弧状の曲面に形成され、この基部6bにサイドリップ13aとダストリップ13bが所定の軸方向シメシロをもって摺接されると共に、グリースリップ13cが所定の径方向シメシロを介して摺接されている。なお、シール部材13の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、転動体4にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、例えば、転動体4に円すいころを用いた複列の円すいころ軸受で構成されていても良い。また、ここでは、ハブ輪2の外周に直接内側転走面2aが形成された第3世代構造を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入固定された第1世代または第2世代構造であっても良い。
【0032】
ここで、内方部材3の複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部、具体的には、ハブ輪1の内側転走面1aから小径段部1bに至る外径面1dに減衰機構14が装着されている。この減衰機構14は、図2に拡大して示すように、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材16とで構成されている。この弾性部材16の両端部には取付部17、17が形成され、その外径面に環状溝17aが形成されている。そして、この環状溝17a、17aに金属製の締付バンド18が装着され、減衰機構14がハブ輪1の外径面1dに固定される。
【0033】
この減衰機構14をハブ輪1の外径面1dに固定することによって、減衰機構14の弾性部材16で振動の軸受部を介する伝達系路上の振動を減衰させることができると共に、減衰機構14の重錘15で、予め、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させ、振動吸収性能と耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0034】
また、この種の車輪用軸受装置のように、複列の転動体4の軸方向のピッチ間距離が大きな軸受においては、内部に充填する潤滑グリースの量が多くなってコストアップとなるだけでなく、グリースの撹拌抵抗によって軸受が昇温する恐れがあると共に、実際に軸受の潤滑に寄与できるグリースが複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部に滞留し、潤滑効率が低下する恐れがあるが、この実施形態のように、複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部に減衰機構14を装着することにより、グリース封入量を低減させることができると共に、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑え、潤滑効率を向上させることができる。
【0035】
なお、ここでは、重錘15に鉄系の円環状の金属を用いたものを例示したが、これに限らず、比重の高い金属ならば良く、例えば、亜鉛、銅、鉛、ニッケル等の非鉄金属であっても良い。そして、円環状に変えて周方向に複数個配置されても良い。また、弾性部材16として、合成ゴム以外にも、例えば、PA(ポリアミド)66等の熱可塑性合成樹脂であっても良い。
【0036】
図3に、図2に示した減衰機構14の変形例を示す。なお、前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
図3に示す減衰機構19は、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材20とで構成されている。この弾性部材20の嵌合面(ここでは、内周面)には芯金21が弾性部材20と一体にインサート成形されている。そして、芯金21部が、例えば、ハブ輪1の外径面1dに圧入固定される。
【0038】
芯金21は、フェライト系ステンレス鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、ハブ輪1の外径面1dに所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部21aと、この嵌合部21aの端部から径方向内方に延びる立板部21bとを有している。芯金21をこのような形状にすることにより、薄肉の素材を使用しても充分な強度・剛性を確保することができ、圧入時の作業性および圧入後の固定力を高めることができる。
【0039】
また、この減衰機構19をハブ輪1の外径面1dに圧入固定することによって、前述した締付バンド18で固定するよりも組立作業を簡素化することができると共に、前述した実施形態と同様、減衰機構19の弾性部材20で振動の軸受部を介する伝達系路上の振動を減衰させることができると共に、減衰機構19の重錘15で、予め、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させることができる。
【0040】
図4に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(図1)の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と内方部材と減衰機構の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
図4に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪22と、このハブ輪22に圧入された内輪23とからなる内方部材24と、この内方部材24に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0042】
ハブ輪22は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部22aが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。一方、内輪23は、外周に他方(インナー側)の内側転走面2aが形成され、この内側転走面2aからシール9の嵌合部を介してインナー側に延びる円筒状の固定部23aが形成されている。そして、ハブ輪22の小径段部22aに所定のシメシロを介して圧入固定されている。
【0043】
ハブ輪22はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面1aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部22aに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。一方、内輪23はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0044】
ここで、回転輪側となる内方部材24のインナー側の端部、具体的には、内輪23の固定部23aの外周面に減衰機構19が圧入固定されている。この減衰機構19を内輪23に固定することにより、前述した実施形態に比べ、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構19の交換および調整も可能となる。
【0045】
図5に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(図1)の他の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と外方部材の形状が一部異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0046】
図5に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材25とを備えている。
【0047】
外方部材25は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。そして、外方部材25のアウター側の端部外周に円筒状の固定部25aが旋削加工によって形成されている。
【0048】
ここで、外方部材25におけるナックルとの嵌合面の反対側、具体的には、外方部材25の固定部25a外周面に減衰機構14が圧入固定されている。この減衰機構14を固定輪側となる外方部材25に固定することにより、前述した実施形態(図1)に比べ、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構14の交換および調整も可能となる。
【0049】
図6に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(図1)の他の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と減衰機構の固定位置が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0050】
図6に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0051】
ここで、外方部材5の複列の外側転走面5a、5aの軸方向中央部、具体的には、外方部材5の複列の外側転走面5a、5a間の内径面5cに減衰機構19’が圧入固定されている。この減衰機構19’は、図3に示した減衰機構19と、基本的には弾性部材20にインサート成形される芯金21’の方向が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
減衰機構19’は、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材20とで構成され、この弾性部材20の嵌合面(ここでは、外周面)に芯金21’が弾性部材20と一体にインサート成形されている。そして、芯金21’部が、外方部材5の内径面5cに圧入固定されている。
【0053】
この減衰機構19’を固定輪側となる外方部材5に固定することにより、前述した実施形態(図1)に比べ、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、前述した実施形態と同様、グリース封入量を低減させることができると共に、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑え、潤滑効率を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る車輪用軸受装置は、外周に車体取付フランジを一体に有する外方部材と、一端部に車輪取付フランジを一体に有するハブ輪を有する内方部材と備え、複列の転動体の軸方向のピッチ間距離が比較的に大きな車輪用軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1、22 ハブ輪
1a、2a 内側転走面
1b、22a 小径段部
1c セレーション
1d ハブ輪の外径面
2、23 内輪
3、24 内方部材
4 転動体
5、25 外方部材
5a 外側転走面
5b 車体取付フランジ
5c 外方部材の内径面
6 車輪取付フランジ
6a ハブボルト
6b 車輪取付フランジのインナー側の基部
7 保持器
8 アウター側のシール
9 インナー側のシール
10 シール板
11 スリンガ
12、21、21’ 芯金
13 シール部材
13a サイドリップ
13b ダストリップ
13c グリースリップ
14、19、19’ 減衰機構
15 重錘
16、20 弾性部材
17 取付部
17a 環状溝
18 締付バンド
21a 嵌合部
21b 立板部
23a 内輪の固定部
25a 外方部材の固定部
50 複列転がり軸受
51、52、62 内輪
53 等速自在継手
54 外側継手部材
55 弾性部材
56 車輪用軸受装置
57 車軸
58 ハブ本体
59 ホイール取付部
60 ハブ
61 軸受部
63 外輪
64 ボール
65 外輪取付部
66 車輪
67 振動吸収部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8