【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の減衰機構を示す拡大図、
図3は、
図2の変形例を示す拡大図、
図4は、
図1の車輪用軸受装置の変形例を示す縦断面図、
図5は、
図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図、
図6は、
図1の車輪用軸受装置の他の変形例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0022】
図1に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体(ボール)4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0023】
ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。また、車輪取付フランジ6の周方向等配位置には車輪を締結するためのハブボルト6aが植設されている。一方、内輪2は、外周に他方(インナー側)の内側転走面2aが形成され、ハブ輪1の小径段部1bに所定のシメシロを介して圧入固定されている。
【0024】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面1aをはじめ、後述するシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部1bに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。一方、内輪2はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、転動体4はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで62〜67HRCの範囲に硬化処理されている。
【0025】
外方部材5は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。そして、これら両転走面5a、1aおよび5a、2a間に保持器7を介して複列の転動体4、4が転動自在に収容されている。
【0026】
外方部材5はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面5a、5aが高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。また、外方部材5と内方部材3との間に形成される環状空間の両端開口部にシール8、9が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に浸入するのを防止している。
【0027】
シール8、9のうちインナー側のシール9は、互いに対向配置され、固定側部材となる外方部材5のインナー側の端部内周に所定のシメシロを介して圧入された環状のシール板10と、回転側部材となる内輪2の外径に所定のシメシロを介して圧入されたスリンガ11とからなる、所謂パックシールで構成されている。
【0028】
また、アウター側のシール8は、外方部材5のアウター側の端部外周に圧入された芯金12と、この芯金12に接合されたシール部材13とからなる一体型のシールで構成されている。シール8の芯金12は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系)や防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系)等、防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成され、全体として円環状に形成されている。
【0029】
一方、シール部材13は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金12に一体に接合されている。このシール部材13は、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ13aと、このサイドリップ13aの内径側に同じく径方向外方に傾斜して延びるダストリップ13b、および軸受内方側(インナー側)に傾斜して延びるグリースリップ13cを一体に有している。
【0030】
車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bは断面が円弧状の曲面に形成され、この基部6bにサイドリップ13aとダストリップ13bが所定の軸方向シメシロをもって摺接されると共に、グリースリップ13cが所定の径方向シメシロを介して摺接されている。なお、シール部材13の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、転動体4にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、例えば、転動体4に円すいころを用いた複列の円すいころ軸受で構成されていても良い。また、ここでは、ハブ輪2の外周に直接内側転走面2aが形成された第3世代構造を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入固定された第1世代または第2世代構造であっても良い。
【0032】
ここで、内方部材3の複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部、具体的には、ハブ輪1の内側転走面1aから小径段部1bに至る外径面1dに減衰機構14が装着されている。この減衰機構14は、
図2に拡大して示すように、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材16とで構成されている。この弾性部材16の両端部には取付部17、17が形成され、その外径面に環状溝17aが形成されている。そして、この環状溝17a、17aに金属製の締付バンド18が装着され、減衰機構14がハブ輪1の外径面1dに固定される。
【0033】
この減衰機構14をハブ輪1の外径面1dに固定することによって、減衰機構14の弾性部材16で振動の軸受部を介する伝達系路上の振動を減衰させることができると共に、減衰機構14の重錘15で、予め、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させ、振動吸収性能と耐久性に優れた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0034】
また、この種の車輪用軸受装置のように、複列の転動体4の軸方向のピッチ間距離が大きな軸受においては、内部に充填する潤滑グリースの量が多くなってコストアップとなるだけでなく、グリースの撹拌抵抗によって軸受が昇温する恐れがあると共に、実際に軸受の潤滑に寄与できるグリースが複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部に滞留し、潤滑効率が低下する恐れがあるが、この実施形態のように、複列の内側転走面1a、2aの軸方向中央部に減衰機構14を装着することにより、グリース封入量を低減させることができると共に、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑え、潤滑効率を向上させることができる。
【0035】
なお、ここでは、重錘15に鉄系の円環状の金属を用いたものを例示したが、これに限らず、比重の高い金属ならば良く、例えば、亜鉛、銅、鉛、ニッケル等の非鉄金属であっても良い。そして、円環状に変えて周方向に複数個配置されても良い。また、弾性部材16として、合成ゴム以外にも、例えば、PA(ポリアミド)66等の熱可塑性合成樹脂であっても良い。
【0036】
図3に、
図2に示した減衰機構14の変形例を示す。なお、前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
図3に示す減衰機構19は、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材20とで構成されている。この弾性部材20の嵌合面(ここでは、内周面)には芯金21が弾性部材20と一体にインサート成形されている。そして、芯金21部が、例えば、ハブ輪1の外径面1dに圧入固定される。
【0038】
芯金21は、フェライト系ステンレス鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、ハブ輪1の外径面1dに所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部21aと、この嵌合部21aの端部から径方向内方に延びる立板部21bとを有している。芯金21をこのような形状にすることにより、薄肉の素材を使用しても充分な強度・剛性を確保することができ、圧入時の作業性および圧入後の固定力を高めることができる。
【0039】
また、この減衰機構19をハブ輪1の外径面1dに圧入固定することによって、前述した締付バンド18で固定するよりも組立作業を簡素化することができると共に、前述した実施形態と同様、減衰機構19の弾性部材20で振動の軸受部を介する伝達系路上の振動を減衰させることができると共に、減衰機構19の重錘15で、予め、軸受部と、その周辺部品との共振点を考慮し、軸受部の固有振動数を変化させて周辺部品との共振の発生を防止させることができる。
【0040】
図4に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(
図1)の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と内方部材と減衰機構の構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
図4に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪22と、このハブ輪22に圧入された内輪23とからなる内方部材24と、この内方部材24に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0042】
ハブ輪22は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部22aが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。一方、内輪23は、外周に他方(インナー側)の内側転走面2aが形成され、この内側転走面2aからシール9の嵌合部を介してインナー側に延びる円筒状の固定部23aが形成されている。そして、ハブ輪22の小径段部22aに所定のシメシロを介して圧入固定されている。
【0043】
ハブ輪22はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面1aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部22aに亙って高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面が硬化処理されている。一方、内輪23はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0044】
ここで、回転輪側となる内方部材24のインナー側の端部、具体的には、内輪23の固定部23aの外周面に減衰機構19が圧入固定されている。この減衰機構19を内輪23に固定することにより、前述した実施形態に比べ、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構19の交換および調整も可能となる。
【0045】
図5に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(
図1)の他の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と外方部材の形状が一部異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0046】
図5に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材25とを備えている。
【0047】
外方部材25は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。そして、外方部材25のアウター側の端部外周に円筒状の固定部25aが旋削加工によって形成されている。
【0048】
ここで、外方部材25におけるナックルとの嵌合面の反対側、具体的には、外方部材25の固定部25a外周面に減衰機構14が圧入固定されている。この減衰機構14を固定輪側となる外方部材25に固定することにより、前述した実施形態(
図1)に比べ、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、減衰機構14の交換および調整も可能となる。
【0049】
図6に示す車輪用軸受装置は、前述した実施形態(
図1)の他の変形例である。なお、この実施形態は、基本的には前述した実施形態と減衰機構の固定位置が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0050】
図6に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0051】
ここで、外方部材5の複列の外側転走面5a、5aの軸方向中央部、具体的には、外方部材5の複列の外側転走面5a、5a間の内径面5cに減衰機構19’が圧入固定されている。この減衰機構19’は、
図3に示した減衰機構19と、基本的には弾性部材20にインサート成形される芯金21’の方向が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同一機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
減衰機構19’は、鉄系の金属からなる円環状の重錘15と、この重錘15の外表面を所定の肉厚にて被覆するNBR等の合成ゴムからなる弾性部材20とで構成され、この弾性部材20の嵌合面(ここでは、外周面)に芯金21’が弾性部材20と一体にインサート成形されている。そして、芯金21’部が、外方部材5の内径面5cに圧入固定されている。
【0053】
この減衰機構19’を固定輪側となる外方部材5に固定することにより、前述した実施形態(
図1)に比べ、遠心力による膨らみを考慮して固定力を強固にする必要がなく、組立作業を簡素化できると共に、前述した実施形態と同様、グリース封入量を低減させることができると共に、軸受中央部にグリースが滞留するのを抑え、潤滑効率を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。