【文献】
Neurourol. Urodyn.,2007年,Vol.26,pp.440-450
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「TRPV4」とは、「Transient receptor potential cation channel subfamily V member 4」を意味する。そしてこのTRPV4は、ヒトにおいて
TRPV4遺伝子によってコードされているタンパク質である。
TRPV4は、膀胱内側の膀胱上皮細胞に存在する。尿が溜まって膀胱上皮細胞が伸展した場合、TRPVチャネルを介して細胞内にカルシウムが取り込まれ、これによってATPが細胞表面から放出され、膀胱の膨らみが神経に伝達される。したがって、TRPV4の活性を阻害することにより、過活動膀胱を予防又は改善することができる。
【0012】
ここで、「TRPV4活性の阻害」とは、受容体であるTRPV4の活性を抑制することを指す。具体的には、TRPV4刺激物質がTRPV4に結合することによって発現する活性、例えばイオン流束の調節能(例えば、細胞外から細胞内へのカルシウムイオン、ナトリウムイオンなどの陽イオンの輸送能など)、膜電位の調節能(例えば、電流の発生能など)を抑制又は阻害することを意味する。
また本明細書における「過活動膀胱」とは尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常頻尿や切迫性尿失禁を伴うものを指す。
【0013】
本明細書において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止若しくは遅延、又は個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
また、本明細書において「改善」とは、疾患、症状若しくは状態の好転、疾患、症状若しくは状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患、症状若しくは状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
さらに本明細書において「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0014】
本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、下記構造式のピペリン(1-[5-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-1-オキソ-2,4-ペンタジエニル]ピペリジン)を有効成分とする。また、ピペリンを適用することで、TRPV4活性を阻害すること、及び過活動膀胱を予防又は改善することができる。
【0016】
本発明で用いる前記化合物は、市販品であってもよいし、常法に基づき製造することもできる(例えば、G.Raman et al.,Ind.Eng.Chem.Res.,2002,vol.41,p.2966-2976参照)。なお前記化合物には、幾何異性体、光学異性体、立体異性体などの異性体が存在する。ここで、本発明で用いる化合物は前記構造式の化合物に限定するものではなく、これらの化合物の異性体も包含する。さらに、本発明で用いる化合物は、いずれかの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。
【0017】
後述の実施例で実証するように、ピペリンは、TRPV4活性を阻害する。具体的には、TRPV4刺激物質(TRPV4作動薬、アゴニスト)の存在下で、
TRPV4遺伝子による形質転換細胞(TRPV4発現細胞)とピペリンとを接触させた場合、TRPV4刺激物質による細胞内の陽イオン量の流入を抑制するという、TRPV4活性を阻害する作用を有する。したがってピペリンは、TRPV4活性の阻害に有用である。
【0018】
本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤の形態は適宜選択することができる。例えば、前記有効成分単体を本発明のTRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防又は改善剤として用いてもよい。あるいは、前記有効成分と、薬学的に許容される担体とを含む本発明のTRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防又は改善剤を医薬組成物として使用してもよい。あるいは、本発明のTRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防又は改善剤を化粧料組成物に含有させてもよい。
【0019】
医薬組成物を調製する場合は、通常、前記有効成分と好ましくは薬学的に許容される担体を含む製剤として調製する。薬学的に許容される担体とは、一般的に、前記有効成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体又は液体の、増量剤、希釈剤又はカプセル化材料等をいい、例えば、水、エタノール、ポリオール類(例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、及びポリエチレングリコール等)、適切なそれらの混合物、植物性油などの溶媒又は分散媒体などが挙げられる。
【0020】
医薬組成物は、経口により、非経口により、例えば、口腔内に、皮膚に、皮下に、粘膜に、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、膣内に、肺に、脳内に、眼に、又は鼻腔内に投与される。経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ペレット剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤及び吸入剤などが挙げられる。非経口投与製剤としては、坐剤、保持型浣腸剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、ペッサリー剤、注射剤、口腔洗浄剤、並びに軟膏、クリーム剤、ローション、ゲル剤、制御放出パッチ剤及び貼付剤などの皮膚外用剤などが挙げられる。医薬組成物は、徐放性皮下インプラントの形態で、又は標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソーム及びミクロスフェア)の形態で、非経口で投与してもよい。
【0021】
医薬組成物はさらに医薬分野において慣用の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤などがあり、必要に応じて使用できる。長時間作用できるように徐放化するためには、既知の遅延剤等でコーティングすることもできる。賦形剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、軽質無水ケイ酸、ゼラチン、結晶セルロース、ソルビトール、タルク、デキストリン、デンプン、乳糖、白糖、ブドウ糖、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム等が使用できる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、カゼインナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、精製水、ゼラチン、デンプン、トラガント、乳糖等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類等が挙げられる。抗酸化剤としては、トコフェロール、没食子酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸等が挙げられる。必要に応じてその他の添加剤や薬剤、例えば制酸剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト等)、胃粘膜保護剤(合成ケイ酸アルミニウム、スクラルファート、銅クロロフィリンナトリウム等)を加えてもよい。
【0022】
化粧料組成物を調製する場合、その形態は適宜選択することができ、溶液、乳液、粉末、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ゲル、タブレット等の固形、エアゾール、ミスト、カプセル及びシート等任意の形態とすることができる。また、化粧料組成物の製品形態も任意であり、例えば、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、乳液、クリーム及びサンスクリーン等のスキンケア化粧料、ファンデーション、化粧下地、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、アイブロー、頬紅及びネイルエナメル等のメイクアップ化粧料、ヘアシャンプー、ヘアリンス、整髪料、染毛料及び育毛剤等の毛髪化粧料、石鹸、ボディソープ、デオドラント化粧料及び浴用剤等のボディ洗浄料、歯磨剤及び洗口剤等の口腔化粧料、香水等の芳香化粧料等が挙げられる。また、この化粧料は、日本の薬事法上、化粧品及び医薬部外品のどちらに属しても良い。
【0023】
化粧料組成物は、化粧品、医薬部外品及び医薬品等に慣用される他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて配合し、常法により製造することができる。
その他の化粧料組成物に配合可能な成分としては、例えば、防腐剤(エチルパラベン、ブチルパラベン等)、消炎剤(例えば、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等)、美白剤(例えば、アスコルビン酸及びその誘導体、胎盤抽出物、ユキノシタ抽出物、アルブチン等)、各種抽出物(例えば、オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻等)、賦活剤(例えば、ローヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等)、血行促進剤(例えば、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等)、抗脂漏剤(例えば、硫黄、チアントール等)、抗炎症剤(例えば、トラネキサム酸、チオタウリン、ヒポタウリン等)及び殺菌剤(例えば、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、チモール類、塩化ベンザルコニウム等)等が挙げられる。
【0024】
前記医薬組成物及び化粧料組成物は、口腔用組成物、外用組成物、内服組成物などの形態で適用することができる。
【0025】
本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、食料、飲料、飼料、ペットフードに添加したり配合して使用することができる。あるいは、TRPV4活性の阻害により治療、予防又は改善しうる疾患又は状態の治療、予防又は改善等をコンセプトとしてその旨を表示した飲食品、すなわち、健康食品、機能性食品、病者用食品及び特定保健用食品などに添加したり配合して使用することができる。前記の、健康食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品は、具体的には、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。製剤形態の食品は、医薬製剤と同様に製造することができ、前記有効成分と、食品として許容できる担体、例えば適当な賦形剤(例えば、でん粉、加工でん粉、乳糖、ブドウ糖、水等)等とを混合した後、慣用の手段を用いて製造することができる。さらに、スープ類、ジュース類、乳飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、ゼリー状飲料、スポーツ飲料、ダイエット飲料などの液状食品組成物、プリン、ヨーグルトなどの半固形食品組成物、パン類、うどんなどの麺類、クッキー、チョコレート、キャンディ、ガム、せんべいなどの菓子類、ふりかけ、バター、ジャムなどのスプレッド類等に、本発明のTRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防又は改善剤を添加したり配合して、食品組成物を製造することができる。
【0026】
本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤における前記有効成分の含有量は適宜決定できる。
例えば、本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤の総量中、前記有効成分の含有量は0.00001質量%以上が好ましく、0.0001質量%以上がより好ましく、2質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.00001〜2質量%が好ましく、0.0001〜0.2質量%がより好ましい。
【0027】
本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤の投与又は摂取対象は、好ましくは温血脊椎動物であり、より好ましくは哺乳動物である。本明細書において哺乳動物は、例えば、ヒト、並びにサル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、ヒトへの投与に好適である。
【0028】
本発明に用いる前記化合物、並びに本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、過活動膀胱の予防又は改善を所望する対象者に好ましく適用することができる。また、本発明に用いる前記化合物、並びに本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、過活動膀胱が惹起された条件下で好ましく適用することができる。さらに、本発明に用いる前記化合物、並びに本発明のTRPV4活性阻害剤、及び過活動膀胱の予防又は改善剤は、経口投与するのが好ましい。
【0029】
本発明のTRPV4活性阻害方法、及び過活動膀胱の予防又は改善方法において、投与又は摂取することで適用する前記有効成分の有効量は、個体の状態、体重、性別、年齢、素材の活性、投与又は摂取経路、投与又は摂取スケジュール、製剤形態又はその他の要因により適宜決定することができる。例えば、前記有効成分の有効量は、1日あたり、体重1kgあたり、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは0.5mg以上、好ましくは20mg以下、より好ましくは5mg以下、又は好ましくは0.1〜20mg、より好ましくは0.5〜5mgである。なお前記有効成分は、1日1回〜数回に分け、又は任意の期間及び間隔で摂取・投与され得る。
また、前記有効成分の投与又は摂取は、全身への投与又は摂取でもよいし、局所への投与又は摂取でもよい。
【0030】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のTRPV4活性阻害剤、過活動膀胱の予防又は改善剤、使用、及び方法を開示する。
【0031】
<1>ピペリンを有効成分とする、TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤。
【0032】
<2>前記TRPV4が、ヒト由来のTRPV4である、前記<1>項に記載のTRPV4活性阻害剤。
<3>TRPV4活性を阻害することで過活動膀胱を予防又は改善する、前記<1>項に記載の過活動膀胱の予防若しくは改善剤。
<4>前記TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤の総量中、前記有効成分の含有量が、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上であり、2質量%以下、好ましくは0.2質量%以下である、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のTRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤。
【0033】
<5>TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤としての、ピペリンの使用。
<6>TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤の製造のための、ピペリンの使用。
<7>ピペリンを、TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤として使用する方法。
<8>ピペリンを適用する、TRPV4活性阻害方法、又は過活動膀胱の予防若しくは改善方法。
<9>前記TRPV4が、ヒト由来のTRPV4である、前記<5>〜<8>のいずれか1項に記載の使用又は方法。
<10>TRPV4活性を阻害することで過活動膀胱を予防又は改善する、前記<5>〜<9>のいずれか1項に記載の使用又は方法。
<11>ピペリンを過活動膀胱の予防又は改善を所望するヒトに適用する、前記<7>〜<10>のいずれか1項に記載の方法。
<12>過活動膀胱が惹起された条件下で適用する、前記<7>〜<11>のいずれか1項に記載の方法。
<13>前記TRPV4活性阻害剤、又は過活動膀胱の予防若しくは改善剤の総量中、ピペリンの含有量が、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上であり、2質量%以下、好ましくは0.2質量%以下である、前記<5>〜<12>のいずれか1項に記載の使用又は方法。
【0034】
<14>TRPV4活性阻害方法、又は過活動膀胱の予防若しくは改善方法のために用いる、ピペリン。
<15>TRPV4活性阻害薬、又は過活動膀胱の予防若しくは改善薬の製造のための、ピペリンの使用。
<16>TRPV4活性の阻害、又は過活動膀胱の予防若しくは改善の非治療的な処置方法のために用いる、ピペリンの使用。
<17>前記TRPV4が、ヒト由来のTRPV4である、前記<14>〜<16>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<18>TRPV4活性を阻害することで過活動膀胱を予防又は改善する、前記<14>〜<17>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<19>ピペリンを過活動膀胱の予防又は改善を所望するヒトに適用する、前記<14>〜<18>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<20>ピペリンを過活動膀胱が惹起された条件下で適用する、前記<14>〜<19>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<21>ピペリンを医薬組成物又は化粧料組成物の形態で適用する、前記<14>〜<20>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<22>ピペリンを食品、飲料、又は飼料の形態で適用する、前記<14>〜<20>のいずれか1項に記載の化合物又は使用。
<23>ピペリンの含有量が、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上であり、2質量%以下、好ましくは0.2質量%以下である、前記<14>〜<22>のいずれか1項に記載の使用。
【0035】
<24>ピペリンを有効量適用する、非治療的なTRPV4活性阻害方法、又は非治療的な過活動膀胱の予防若しくは改善方法。
<25>前記TRPV4が、ヒト由来のTRPV4である、前記<24>項に記載の方法。
<26>TRPV4活性を阻害することで過活動膀胱を予防又は改善する、前記<24>又は<25>項に記載の方法。
<27>ピペリンを過活動膀胱の予防又は改善を所望するヒトに適用する、前記<24>〜<26>のいずれか1項に記載の方法。
<28>過活動膀胱が惹起された条件下で適用する、前記<24>〜<27>のいずれか1項に記載の方法。
<29>ピペリンの有効量が、1日あたり、体重1kgあたり、0.1mg以上、好ましくは0.5mg以上、であり、20mg以下、好ましくは5mg以下、である、前記<24>〜<28>のいずれか1項に記載の方法。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
試験例1 ヒト
TRPV4遺伝子発現ベクターの作製
ヒト十二指腸由来細胞(Hutu-80細胞、American Type Culture Collectionより購入)から抽出したtotalRNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にして、公開されているヒト
TRPV4遺伝子配列を参考に合成した、下記に示す塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、下記の条件下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0038】
<プライマーセット>
フォワードプライマー;5’-CACCATGGCGGATTCCAGCGAAGGCCC-3’(配列番号1)
リバースプライマー;5’-CTAGAGCGGGGCGTCATCAGTCC-3’(配列番号2)
【0039】
<PCR条件>
a)PCR溶液組成
cDNA(Template) 15μL
5×PrimeStar GXL Buffer 10μL
dNTPs mixture(2.5mM) 4μL
PrimeStar GXL DNA Polymerase(タカラバイオ) 1μL
Forward Primer(10μM) 1μL
Reverse Primer(10μM) 1μL
Water 18μL
b)温度とサイクル条件
95℃ 2min
↓
98℃ 10sec 33cycles
70℃ 2min
【0040】
得られたPCR産物をHigh Pure PCR Product Purification Kit(商品名、ロッシュ社製)用いて精製した。精製したPCR産物と、pcDNA3.1 Directional TOPO Expression Kit(商品名、インビトロジェン社製)を用いて、ヒト
TRPV4遺伝子発現ベクターを作製した。
【0041】
試験例2 ヒトTRPV4発現細胞の作製
10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培地(インビトロジェン社製)を用いて、HEK293細胞(American Type Culture Collectionより購入)の培養を行った。HEK293細胞をT-25細胞培養用フラスコに2×10
5cells/Flaskで播種した。培養3日後、試験例1で作製したヒト
TRPV4遺伝子発現ベクター(3μg)をTransIT-293(Mirus社製)を用いて細胞にトランスフェクションし1日培養した。これとは別に、対照としてLacZ発現ベクター(3μg)をTransIT-293(Mirus)を用いて細胞にトランスフェクションし1日培養した。Detachin(Genlantis社製)で細胞をはがし、96well Optical bottom plate(Nunc社製)に10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培地で1.66×10
4cells/90μL/wellの細胞密度で播き、さらに1日培養した。
【0042】
実施例1 細胞内Ca
2+流入活性の測定
細胞内Ca
2+流入活性の測定はCalcium Kit II-fluo 4(商品名、DOJINDO社製)を用いて行った。Fluo4-AMを含有したLoading bufferを試験例2で作製した細胞に90μL/well添加し、37℃で1時間インキュベートした。その後、37℃で蛍光プレートリーダーFDSS3000(商品名、浜松ホトニクス社製)を用いて蛍光強度(励起波長:488nm、蛍光波長:524nm)を2秒毎に測定した。測定開始30秒後にTRPV4作動薬であるGSK1016790A(Sigma社製、10nM(終濃度1nM))と、TRPV4特異的阻害薬であるHC067047(Sigma社製、100μM(終濃度10μM))、及び下記に示す検体溶液(終濃度の10倍濃度)を20μL/well添加し、300秒まで2秒毎に蛍光強度変化を測定した。
【0043】
<検体>
GSK1016790A(Sigma社製、TRPV4作動薬)及びHC067047(Sigma社製、TRPV4特異的阻害薬)をジメチルスルオキシド(DMSO、DOJINDO社製)で溶解し、使用した。
ピペリン(Sigma社製)を溶媒(エタノール特級、和光純薬工業社製)で溶解し、使用した。
比較例として用いたナツメグ(
Myristica fragrans)抽出物:ナツメグリキッドSP-77543(三栄源エフエフアイ社製)を用いた。
【0044】
検体のTRPV4活性率(%)は次式により算出した。
TRPV4活性化率(%)=(F0−FmeanC2)/(FmeanC1−FmeanC2)×100
FmeanC1:GSK1016790A(終濃度10μM)を添加したウェルの蛍光強度の平均値
FmeanC2:DMSOのみを添加したウェルの蛍光強度の平均値
F0:検体を添加したウェルの蛍光強度
【0045】
<検定方法・結果>
TRPV4活性は測定開始後50〜100秒で評価し、TRPV4作動薬であるGSK1016790A(終濃度1nM)を添加した場合のTRPV4活性化率を100%とし、コントロールであるDMSOを添加した場合のTRPV4活性化率を0%とした。
その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
ピペリンを添加した場合の、TRPV4作動薬であるGSK1016790Aに対する活性化率をDunnetにより検定した。その結果、表1に示すように、ピペリン濃度がいずれの場合であっても、TRPV4作動薬存在下でTRPV4活性を有意に阻害した(p<0.01)。
一方、アルカロイドを含有するとの報告がされているナツメグ抽出物(Journal of Pain Research,2013,vol.6,p.611-615)を適用しても、TRPV4活性は阻害されなかった。
【0048】
以上のように、ピペリンを適用することにより、TRPV4活性が有意に阻害される。これは、ピペリンが、TRPV4活性の阻害に有効であることを示している。さらに、TRPV4活性を阻害する作用を有するピペリンは、過活動膀胱の予防又は改善に有効であることを示している。