(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態に係る車両用軸受の軌道輪は、金属で形成された金属軌道部と、前記金属軌道部に取り付けられ、炭素繊維強化樹脂で形成される樹脂部とを備える。前記金属軌道部は、軌道面を有する。前記樹脂部は、前記軌道輪の軸方向に延びる第1部分と、前記軌道輪の径方向に延びる第2部分とを有する。前記第1部分は、前記金属軌道部の前記軌道輪の径方向における表面の少なくとも一部を覆う。前記第2部分は、前記金属軌道部の前記軌道輪の軸方向における表面の少なくとも一部を覆う。前記第1部分と前記第2部分は、同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される(第1の構成)。
【0011】
第1の構成によれば、軌道輪が、金属軌道部と炭素繊維強化樹脂で形成される樹脂部を含む。このため、軌道輪を軽量化することができる。また、樹脂部において、金属軌道部の径方向の表面を覆う第1部分と、金属軌道部の軸方向の表面を覆う第2部分が、同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される。すなわち、金属軌道部の径方向の表面と軸方向の表面の両方に渡って同じ炭素繊維強化樹脂の層が配置される。これにより、炭素繊維強化樹脂の層は、金属軌道部に対してすべりにくくなる。すなわち、炭素繊維強化樹脂の層をずらす方向に働くせん断応力に対する強度を確保できる。ひいては、炭素繊維強化樹脂を含む軌道輪全体の強度を確保しやすくなる。
【0012】
前記第1部分は、前記金属軌道部の前記軌道輪の軸方向における一方の端部から他方の端部まで延びて形成され、前記第2部分は、前記第1部分の軸方向の両端から前記径方向に延びて前記金属軌道部の前記一方の端部及び前記他方の端部の前記軸方向の表面を覆うように設けられてもよい(第2の構成)。
【0013】
第2の構成によれば、金属軌道部の軸方向における両端の表面を第2部分が覆い、両端の第2部分は、第1部分につながっている。すなわち、金属軌道部を、径方向から覆って、かつ、軸方向において両側から挟むように炭素繊維強化樹脂が配置される。これにより、樹脂部は、金属軌道部に対して軸方向にずれにくくなる。そのため、軸方向の荷重に対する軌道輪の強度をより向上させることができる。
【0014】
前記樹脂部は、前記第2部分に接して径方向に延びる第3部分を有してもよい(第3の構成)。
【0015】
第3の構成によれば、第3部分によって、樹脂部が金属軌道部に対して軸方向にずれるのを止める強度を向上させることができる。
【0016】
前記樹脂部は、径方向に延びるフランジを有し、前記第3部分は、前記フランジの少なくとも一部を形成する構成とすることができる(第4の構成)。
【0017】
第4の構成によれば、フランジを形成する第3部分の一部が、金属軌道部の軸方向の表面に軸方向に対向する。そのため、フランジが金属軌道部に対して軸方向にずれにくくなる。
【0018】
前記樹脂部は、前記第1部分の上において軸方向に延びて形成される第4部分と、前記第4部分から径方向に延びてフランジの少なくとも一部を形成する第5部分とを有してもよい(第5の構成)。
【0019】
第5の構成によれば、金属軌道部に対して固定強度が確保された第1部分上に形成される第4部分から径方向に延びる第5部分により、フランジの少なくとも一部が形成される。そのため、フランジの金属軌道部に対する固定強度をより向上させることができる。
【0020】
前記第1部分では、前記炭素繊維強化樹脂の炭素繊維が前記軌道輪の径方向に垂直な方向に配置され、前記第2部分では、前記炭素繊維強化樹脂の炭素繊維が前記軌道輪の軸方向に垂直な方向に配置される構成であってもよい(第6の構成)。
【0021】
第6の構成によれば、径方向に垂直な方向の炭素繊維を含む第1部分を金属軌道部の径方向の表面に対向する位置に配置し、軸方向に垂直な方向の炭素繊維を含む第2部分を金属軌道部の軸方向の表面に対向する位置に配置することができる。そのため、径方向の荷重及び軸方向の荷重の双方に対する炭素繊維強化樹脂の強度をより向上させることができる。
【0022】
前記第1部分及び前記第2部分は、前記金属軌道部の表面に密着していてもよい。これにより、金属軌道部と樹脂部との固定強度をより向上させることができる。
【0023】
実施の形態に係る軌道輪の製造方法は、軌道面を有し金属で形成された金属軌道部と、前記金属軌道部に取り付けられ、炭素繊維強化樹脂で形成される樹脂部とを備える軌道輪の製造方法に関する。この製造方法は、前記金属軌道部の前記軌道輪の径方向における表面の少なくとも一部と前記金属軌道部の前記軌道輪の軸方向における表面の少なくとも一部とを覆う炭素繊維強化樹脂の層を積層して第1積層体を形成する工程と、前記金属軌道部の前記径方向の表面と前記第1積層体を挟んで対向する位置及び前記金属軌道部の前記軸方向の表面と前記第1積層体を挟んで対向する位置に第1の型を配置する工程と、前記第1の型が配置された前記第1積層体を加圧して成型する第1加圧工程と、前記第1加圧工程の後に、前記第1の型を除去する工程と、前記第1の型が除去された第1積層体に、炭素繊維強化樹脂の層を積層して第2積層体を形成する工程と、前記第2積層体に第2の型を配置する工程と、前記第2の型が配置された前記第2積層体を加圧して成型する第2加圧工程と、前記第2加圧工程の後に、前記第2の型を除去する工程とを有する。
【0024】
上記製造方向によれば、第1積層体に第1の型を配置して加圧することにより、金属軌道部の径方向における表面及び軸方向における表面の双方を覆う炭素繊維強化樹脂の層を、金属軌道部に取り付けることができる。これにより、径方向及び軸方向における金属軌道部に対する炭素繊維強化樹脂(第1積層体)の固定強度を確保することができる。金属軌道部に取り付けられた第1積層体に第2積層体及び第2の型を配置して加圧することにより、第1積層体を基礎として第2積層体を形成することができる。その結果、第2積層体の炭素繊維強化樹脂の固定強度も確保することができる。このように、第1積層体の第1加圧工程と、第2積層体の第2加圧工程を設けることで、炭素繊維強化樹脂の強度を確保することができる。
【0025】
前記第1の型は、前記軌道輪の軸方向に垂直な面であって前記第1部分と重なる面又は、前記軌道輪の径方向に垂直な面であって前記第2部分と重なる面で分割されている態様とすることができる。このように分割された第1の型を配置して第1積層体を加圧することで、第1積層体の金属軌道部の径方向における表面を覆う部分と軸方向における表面を覆う部分の双方に対して力がかかり易くなる。すなわち、第1の型から第1積層体に対して、軸方向の力及び径方向の力がかかり易くなる。そのため、炭素繊維強化樹脂の部分を形成するのに十分な圧力をかけることが容易になる。
【0026】
<実施形態>
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
【0027】
[実施形態1]
(全体構成)
図1は、実施形態1に係る車両用軸受10の軸中心線Xを通る平面における断面図である。
図1に示す軸受10において、Aは車両への取付状態において車体に近い方すなわち車幅方向内側の端、Bは車両への取付状態において車体から遠い方すなわち車幅方向外側の端である。以後、軸受10において、車体により近い位置を軸方向の内方、車体からより遠い位置を軸方向の外方と称する場合がある。
【0028】
図1に示すように、軸受10は、外輪1と、内方部材2と、複数の転動体3,4とを備える。外輪1及び内方部材2は、軸受10の軌道輪である。
図1に示す例では、外輪1は、固定輪であり、内方部材2は、外輪の内周側に設けられる回転軸(回転輪)である。転動体3,4は、外輪1と内方部材2との間に回転可能な状態で配置される。
【0029】
(外輪の構成例)
外輪1は、金属で形成された金属軌道部13と、炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)で形成された樹脂部11とを備える。金属軌道部13及び樹脂部11は、いずれも、筒状をなす。樹脂部11は、金属軌道部13の外周面を覆うように設けられる。樹脂部11は、金属軌道部13に対して固定されている。樹脂部11は、フランジ12を有する。フランジ12は、樹脂部11の外周面から外輪1の径方向外方に突出している。フランジ12には、懸架装置(図示略)が取り付けられる。
【0030】
樹脂部11は、金属軌道部13の外周面に取り付けられる。すなわち、樹脂部11の径方向内方には、金属軌道部13が配置される。樹脂部11に、金属軌道部13が挿入されている。樹脂部11の内周面の少なくとも一部は、金属軌道部13の外周面に接している。樹脂部11は、金属軌道部13と同軸に配置される。金属軌道部13の内周面には、転動体3,4と接する軌道面13a,13bが設けられる。
【0031】
樹脂部11は、第1部分111と第2部分112を含む。第1部分111は、金属軌道部13の径方向における表面13eすなわち外周面13eを覆う。第2部分112は、金属軌道部13の軸方向における表面13c,13dの一部を覆う。第2部分112が設けられる表面13c,13dは、外周面13eから続く面であり、外周面13eとは平行でない面である。第1部分111は、金属軌道部13の外周面13eに密着し軸方向に延びる。第2部分112は、金属軌道部13の軸方向の表面13c,13dに密着し径方向に延びる。第1部分111と第2部分112は、同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される。すなわち、第1部分111を形成する炭素繊維強化樹脂のシートは、第2部分112を形成する炭素繊維強化樹脂のシートと同じである。第1部分111と第2部分112とは連続している。
【0032】
第1部分111と第2部分112とが同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される構成としては、例えば、第1部分111の炭素繊維の少なくとも一部が第2部分112の炭素繊維とつながっている構成とすることができる。具体的には、第1部分111の少なくとも一部を構成する炭素繊維強化樹脂の層が、第2部分112の炭素繊維強化樹脂の層とつながっている構成とすることができる。すなわち、第1部分111と第2部分112の双方に渡って配置される炭素繊維強化樹脂のシートが少なくとも1つ存在するよう構成することができる。
【0033】
図2は、
図1に示す外輪1の拡大断面図である。
図2において、樹脂部11の内部の線は、炭素繊維強化樹脂の層を表している。なお、
図2に示す樹脂部11の層構成は一例であり、炭素繊維強化樹脂の層の数及び形状は、
図2に示す例に限られない。
【0034】
図2に示す例では、樹脂部11の第1部分111は、金属軌道部13の軸方向における一方の端部から他方の端部まで延びて形成される。すなわち、金属軌道部13の外周面13eの軸方向の一方の端部から他方の端部までを覆うように、第1部分111が設けられる。第2部分112は、第1部分111の軸方向における両端から径方向に延びて形成される。すなわち第1部分111を形成する炭素繊維強化樹脂の層の両端部が折れ曲がって径方向に延びる部分が、第2部分112となる。第2部分112は、金属軌道部13の一方の端部の軸方向の表面13c及び、他方の端部の軸方向の表面13dをそれぞれ覆うように設けられる。
【0035】
第1部分111では、径方向に複数の炭素繊維強化樹脂のシートが積層されている。第1部分111では、各炭素繊維強化樹脂のシートの炭素繊維は、径方向に垂直な方向に配置されている。第2部分112は、第1部分の炭素繊維強化樹脂のシートの端部を金属軌道部13の表面に沿って径方向に折り曲げた部分となっている。第2部分112では、軸方向に複数の炭素繊維強化樹脂のシートが積層されている。第2部分112では、各炭素繊維強化樹脂のシートの炭素繊維は、軸方向に垂直な方向に配置されている。
【0036】
樹脂部11は、第1部分111の一方の端部(軸方向内方の端部)から延びる第2部分112に接する第3部分113を有する。第3部分113は、径方向に延びて形成される。第3部分113の径方向内方の端部付近における軸方向に垂直な面は、第2部分112の軸方向に垂直な面に接している。第3部分113は、フランジ12の一部を形成する。第3部分113では、軸方向に複数の炭素繊維強化樹脂のシートが積層されている。第3部分113では、各炭素繊維強化樹脂のシートの炭素繊維は、軸方向に垂直な方向に配置されている。すなわち、第2部分112と第3部分113は、炭素繊維強化樹脂の層の積層方向が同じである。
【0037】
第1部分111の外周面に、軸方向に延びる第4部分114が設けられる。第4部分114は、第1部分111の上に、径方向に積層される複数の炭素繊維強化樹脂のシートを含む。第4部分114は、径方向に延びる第5部分115と連続している。第5部分115は、フランジ12の一部を形成している。第4部分114と第5部分115は、連続した同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される。第5部分115では、軸方向に複数の炭素繊維強化樹脂のシートが積層される。
【0038】
第5部分115と第3部分113との間には、径方向に延びる第6部分116が設けられる。第6部分116は、フランジ12の一部を形成している。第6部分116は、軸方向に積層される複数の炭素繊維強化樹脂のシートを含む。第6部分116により、フランジ12の軸方向の厚みを増すことができる。
【0039】
フランジ12は、さらに、第3部分113に接し径方向へ延びる第8部分118を含む。第8部分118は、第3部分113の軸方向外方の面に接している。第8部分118は、軸方向に積層される複数の炭素繊維強化樹脂のシートを含む。第8部分118の径方向内方の端から軸方向外方へ向かって第7部分117が延びている。第7部分117と第8部分118は、連続した同じ炭素繊維強化繊維の層で形成される。
【0040】
第7部分117では、径方向に複数の炭素繊維強化樹脂の層が積層される。第7部分117の径方向内方の面には、径方向に積層された炭素繊維強化樹脂の層で形成される第10部分120が設けられる。第10部分120は、第3部分113の一部と接している。第7部分117及び第10部分120によって、軸方向外方へ突出する突出部が形成される。
【0041】
樹脂部11の軸方向内方の端部には、第2部分112に接して軸方向へ延びる第9部分119が設けられる。第9部分119は、径方向に積層される複数の炭素繊維強化樹脂の層を含む。第9部分119の外周面には、第4部分114が延びて形成される。この第4部分114と第9部分119によって、軸方向内方へ突出する突出部が形成される。
【0042】
上記の樹脂部11を形成する炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維によって樹脂を強化した複合材料である。母材となる樹脂としては、例えば、エポキシ、フェノール、ポリイミド等の熱硬化性樹脂又は、ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記炭素繊維強化樹脂の層は、例えば、炭素繊維プリプレグを用いて形成することができる。炭素繊維プリプレグは、炭素繊維に樹脂を含浸させてシート状に形成したものである。炭素繊維プリプレグは、例えば、炭素繊維を一方向に向くように平面状に配置したものを樹脂で結束したものとすることができる。又は、炭素繊維プリプレグは、炭素繊維を平面状に網組して樹脂で結束したものであってもよい。
【0044】
図1及び
図2においては図示していないが、フランジ12は、複数の締結孔を有してもよい。各締結孔には、懸架装置(図示略)等をフランジ12に取り付けるため、ボルト等の締結部材が挿入される。
(内方部材の構成例)
【0045】
図1に示す例では、内方部材2は、鋼等の金属で構成される。
図1に示す内方部材2は、ハブ輪22と内輪21と含む。ハブ輪22は、軌道面214を有する軌道部211と、フランジ222とを備える。フランジ222には、ディスクホイール(図示略)やブレーキディスク(図示略)等が取り付けられる。
【0046】
ハブ輪22は、外輪1に挿入されている。より具体的には、ハブ輪22は、外輪1の金属軌道部13の径方向内方に配置されている。ハブ輪22は、金属軌道部13と同軸に配置される。
【0047】
ハブ輪22の軌道部211は、中実状をなし、軸受10の軸方向に延びる。内輪21は、ハブ輪22の外周面に固定されている。内輪21は、ハブ輪22の軸方向の内方端部に配置される。内輪21は、軸受10の軸を中心とする環状をなす。内輪21は、ハブ輪22の軌道部211と同軸に配置される。
【0048】
内輪21の外周面及びハブ輪22の軌道部211の外周面には、それぞれ、軌道面213,214が設けられている。軌道面213,214は、それぞれ、軸受10の軸を中心とする環状をなす。軌道面213は、軸受10の軸方向において、軌道面214よりも内方に配置される。軌道面213,214は、それぞれ、外輪1の金属軌道部13が有する軌道面13a,13bと対向する。
【0049】
フランジ222は、軌道部211の外周面から軌道部211の径方向外方に突出している。フランジ222は、軸受10の軸方向において、外輪1のフランジ12よりも外方に位置している。フランジ222は、複数の締結孔223を有する。各締結孔223には、ディスクホイール(図示略)やブレーキディスク(図示略)等をフランジ222に取り付けるため、ボルト等の締結部材が挿入される。
【0050】
複数の転動体3,4は、外輪1と内方部材2との間に配置される。より具体的には、複数の転動体3は、外輪1の金属軌道部13が有する軌道面13aと、内輪21が有する軌道面213との間に配置される。複数の転動体4は、外輪1の金属軌道部13が有する軌道面13bと、ハブ輪22の軌道部211が有する軌道面214との間に配置されている。
【0051】
図1及び
図2に示す外輪1は、上記のとおり、金属軌道部13と、樹脂部11とを含む。樹脂部11により、外輪1を軽量化することができる。一方、軌道面13a,13bを有する金属軌道部13は金属で構成されている。このため、軌道面13a,13bに要求される耐高面圧及び耐摩耗性を確保することもできる。
【0052】
図1及び
図2に示す構成において、樹脂部11の第1部分111と第2部分112は、連続する炭素繊維強化樹脂のシートで形成される。すなわち、金属軌道部13に密着する炭素繊維強化樹脂の層が、金属軌道部13の端面13c,13dに沿って折り曲げられる。折り曲げられた部分すなわち第2部分112は、金属軌道部13の端面13c,13dに対向するよう配置される。この構成により、例えば、軸受10がアキシアル荷重を受けても、樹脂部11と金属軌道部13がずれにくくなる。すなわち、樹脂部11の強度が向上する。
【0053】
また、
図1及び
図2に示す例では、第1部分111は、金属軌道部13の軸方向の両端をそれぞれ覆う第2部分112とつながっている。これにより、軸方向内方及び外方のいずれの向きの荷重に対しても、樹脂部11の強度を確保することができる。
【0054】
また、第2部分112では炭素繊維が軸方向に垂直であり、第1部分111では、炭素繊維が径方向に垂直である。この構成では、第2部分112は、炭素繊維に垂直な方向にアキシアル荷重に受けることになる。ここで、第1部分111と第2部分112の炭素繊維の少なくとも一部はつながっている。そのため、アキシアル荷重に対して樹脂部11の金属軌道部13からの抜け止めの強度が向上する。
【0055】
(変形例1)
図3は、
図2に示す外輪1の変形例を示す断面図である。
図3に示す構成は、
図2に示す構成から第3部分113を除いた構成となっている。
図3に示す例では、フランジ12は、軸方向の一方の側に配置された第8部分118と、軸方向の他方の側に配置された第5部分115と、これらの間に配置された第6部分116とで形成される。第8部分118、第5部分115、及び第6部分116は、いずれも径方向に延びて形成される。具体的には、第8部分118、第5部分115、及び第6部分116は、軸方向に垂直な方向を向いた炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂のシートが、軸方向に積層されて形成される。
【0056】
第8部分118は、フランジ12の一方の側から軸方向に延びる第7部分117と連続している。第5部分115は、フランジ12の他方の側から軸方向に延びる第4部分114と連続している。第6部分116は、軸方向に延びる炭素繊維の層とはつながっていない。第4部分114及び第7部分117の内周面の一部は、第1部分111に接している。
【0057】
このように、第3部分113がない構成であっても、第1部分111及び第2部分112により、樹脂部11の強度を向上させることができる。
【0058】
(変形例2)
図4は、
図2に示す外輪の他の変形例を示す断面図である。
図4に示す例では、第2部分112に接して径方向へ延びる第3部分113c,113dが、軸方向に延びる部分120a,114,119aと連続する構成となっている。
【0059】
軸方向の一方の側で第2部分112に接する第3部分113cは、径方向に延びてフランジ12の一部を形成する。また、第3部分113cは、径方向内方の端部において、第2部分112と反対側で第10部分120aと連なっている。具体的には、第3部分113cにおいて、径方向に延びる炭素繊維強化樹脂のシートは、径方向内方の端で折れ曲がって軸方向に延びる。この軸方向に延びる炭素繊維強化樹脂のシートは、第10部分120aを形成する。第3部分113cと第10部分120aは、連続した同じ炭素繊維強化樹脂のシートで形成される。第3部分113cと連なる第10部分120aの外周面には、径方向に積層された複数の炭素繊維強化樹脂の層による拡大第10部分120bが設けられる。
【0060】
軸方向の他方の側で第2部分112と接する第3部分113dは、第1部分111に設けられ軸方向に延びる第4部分114及び、軸方向の内方へ突出する第9部分119aと連続する構成となっている。すなわち、第1部分111の外周面に設けられる第4部分114の炭素繊維強化樹脂のシートが他方の端部において、第2部分112に沿って折れ曲がる。折れ曲がった部分は、径方向に延びて第3部分113dを形成する。第3部分113dは、径方向内方の端部において、さらに折れ曲がって軸方向に延びる第9部分119aを形成する。第3部分113dと連なる第9部分119aの外周面には、径方向に積層された複数の炭素繊維強化樹脂の層による拡大第9部分119bが設けられる。
【0061】
図4に示すように、第1部分111及び第2部分112の外周面を覆う連続した炭素繊維強化樹脂のシートを積層することで、樹脂部11の強度をさらに向上させることができる。
【0062】
なお、
図2及び
図4に示す例では、軸方向外方の第2部分112に第3部分113,113cが接する構成である。第3部分113,113cの位置はこれに限られず、軸方向外方の第2部分112又は軸方向内方の第2部分112の少なくともいずれかに、第3部分113,113cが接する構成とすることができる。
【0063】
(外輪の製造方法)
以下、外輪1の製造方法について説明する。
図5A〜
図5Jは、
図1及び
図2に示す外輪1の製造工程の一例を説明するための図である。
図5Aに示すように、まず、鋼等の金属製且つ筒状(環状)の金属軌道部13を準備する。次に、
図5Bに示すように、金属軌道部13の外周面上に、複数の炭素繊維強化樹脂のシート(第1積層体の例)を積層する。ここでは、一例として、炭素繊維強化樹脂のシートとして、炭素繊維プリプレグを積層する場合について説明する。各炭素繊維プリプレグは、炭素繊維を含む樹脂の層である。各炭素繊維プリプレグにおいて、炭素繊維は各層の面内方向に延びて形成される。
【0064】
図5Bに示す例では、まず、一枚の炭素繊維プリプレグが、金属軌道部13の径方向の表面すなわち外周面13e及び軸方向の表面13c,13dを覆う位置に配置される。この炭素繊維プリプレグは、外周面13eでは、炭素繊維が径方向に垂直な方向を向くように配置される。金属軌道部13の軸方向の端部において、炭素繊維プリプレグは、垂直に折り曲げられ、折り曲げられた炭素繊維プリグレグの面が金属軌道部13の軸方向に垂直な面13c,13dと平行になる状態で固定される。これにより、炭素繊維プリプレグは、外周面13eに対向する部分及び軸方向の表面13c,13dに対向する部分で連続した構成とすることができる。
【0065】
この炭素繊維プリプレグに、複数の炭素繊維プリプレグが重ねて貼り付けられる。これにより、金属軌道部13の外周面13e及び軸方向の表面13c,13dを覆う炭素繊維プリプレグが積層される。炭素繊維プリプレグの金属軌道部13の径方向に積層される部分は、第1部分111に対応する。軸方向に積層される部分は、第2部分112に対応する。
【0066】
次に、
図5Cに示すように、積層された炭素繊維プリプレグの表面に、第1部分111及び第2部分112の形状に応じた型17a〜17d(第1の型の例)を配置する。型17a〜17dは、炭素繊維プリプレグの積層体の表面の少なくとも一部に接するように配置される。例えば、炭素繊維プリプレグの積層体の表面のうち、面精度(設計上の理想的な面に対する精度)が求められる面に型を接するように配置することができる。型から炭素繊維プリプレグへ力を加えることで、炭素繊維プリプレグの積層体を所望の形状に成型することができる。
【0067】
図5Cに示す例では、第1部分111及び第2部分112を形成する炭素繊維プリプレグの表面のうち、金属軌道部13に接していない面に型17a〜17dが接するように配置される。型17a〜17dは、複数の部分に分割されている。
図5Cに示す例では、型17a〜17dは、外輪1の径方向に垂直な面であって第2部分112の一部と重なる面P11及び、外輪1の軸方向に垂直な面であって第1部分111の一部と重なる面P10で分割されている。
【0068】
具体的には、型17bと型17c、軸方向に垂直な面P10によって分割されている。このように、軸方向における一方の側(外方)の第2部分112に接する型17bと、他方の側(内方)の第2部分112に接する型17cとをそれぞれ独立して設けることで、両側の第2部分112に対して独立して力を加えることができる。そのため、両側の第2部分112に対して、例えば、軸方向の圧力を十分に加えることが容易になる。これにより、加圧後の第1部分111の径方向の表面111aの面精度(例えば、円筒度、真円度又は表面粗さ等)及び第2部分112の軸方向の面112bの面精度(例えば、表面粗さ等)を高めることができる。
【0069】
また、型17bと型17aは、径方向に垂直な面P11によって分割されている。型17cと型17dも、面P11によって分割されている。これにより、第1部分111の径方向外方の面111aを押す型17b,17cと、第2部分112の径方向内方の面112aを受ける型17a,17dをそれぞれ独立して設けることができる。そのため、第1部分111及び第2部分112に対して、径方向の圧力を十分に加えることが容易になる。これにより、加圧後の第1部分111の面111a及び第2部分112の面112aの面精度を高めることができる。
【0070】
図5Cに示す例において、型17b,17cは、軸受10の軸心Xを含む平面で分割されている構成とすることができる。すなわち、型17b,17cは、周方向に分割することができる。これにより、加圧後の第1部分111及び第2部分112の面精度を高めることができる。例えば、第1部分111の径方向外方の面111aに設けられる型17b,17cを、軸心Xを含む平面で分割することで、径方向外方から内方への圧力が炭素繊維プリプレグに対して加わりやすくなる。
【0071】
次に、
図5Dに示すように、型17a〜17dが配置された炭素繊維プリプレグの積層体にバキュームバック33を装着する。金属軌道部13、積層された炭素繊維プリプレグ及び型17a〜17dが、バキュームバック33に密封される。次に、これらの金属軌道部13、積層された炭素繊維プリプレグ及び型17a〜17dを含むバキュームバック33内を真空引きする。
【0072】
図5Eに示すように、真空引きされたバキュームバック33に対して、例えば、オートクレーブで、加圧及び加熱する(第1加圧工程の一例)。ここでは、バキュームバック33の外側に圧力がかけられ、加熱される。これにより、炭素繊維プリプレグの積層体を硬化させ第1部分111及び第2部分112を成型することができる。また、第1部分111及び第2部分112の炭素繊維強化樹脂を一体的に形成することができる。さらに、第1部分111の金属軌道部13に対する密着度を上げることができる。第1部分111及び第2部分112は、金属軌道部13に対して固定される。
【0073】
ここで、軸方向に垂直な面P10及び径方向に垂直な面P11で分割された型17a〜17dを配置して炭素繊維プリプレグの積層体を加圧することで、金属軌道部13の外周面13eを覆う部分と軸方向における表面13c,13dを覆う部分の双方に対して力がかかり易くなる。すなわち、型17a〜17dから積層体に対して、軸方向の力及び径方向の力がかかり易くなる。そのため、炭素繊維強化樹脂の部分を形成するのに十分な圧力をかけることが容易になる。
【0074】
このようにして、形成された第1部分111及び第2部分112を覆うように、さらに炭素繊維プリプレグが積層される(後述)。本例では、上述のように、第1部分111及び第2部分112にさらに炭素繊維プリプレグを積層する工程の前に、第1部分111及び第2部分112を成型する型17a〜17dを配置して加圧が行われる。そのため、第1部分111及び第2部分112の強度をより確実に確保することができる。
【0075】
加圧後、バキュームバック33及び型17a〜17dを取り除く。その結果、
図5Fに示す形状の外輪1の中間体が得られる。すなわち、金属軌道部13に、第1部分111及び第2部分112が密着して固定される。
【0076】
次に、
図5Gに示すように、第1部分111及び第2部分112を覆うように、炭素繊維プリプレグ(第2の積層体の一例)を積層する。ここでは、炭素繊維プリプレグによりフランジ12に対応する部分も形成する。ここで、樹脂部11の外形に対応する炭素繊維プリプレグの積層体が形成される。
【0077】
ここで、一例として、
図2に示すような樹脂部11を形成する場合の炭素繊維プリプレグの積層例を説明する。まず、第1部分111の径方向外方の面111aに、第4部分114を形成するための炭素繊維プリプレグを積層する。この炭素繊維プリプレグを途中で垂直に折り曲げ、軸方向に垂直な面を形成する。この軸方向に垂直な面は、第5部分115に対応する面となる。
【0078】
第5部分115に対応する炭素繊維プリプレグに対して、軸方向に、炭素繊維プリプレグを積層することによって、第6部分116及び第3部分133に対応する炭素繊維プリプレグを形成することができる。
【0079】
第3部分133に対応する炭素繊維プリプレグに対して、第8部分118に対応する軸方向に垂直な面を持つ炭素繊維プリプレグを貼り付け、途中で垂直に折り曲げ、軸方向に垂直な面を形成する。この軸方向に垂直な面は、第7部分117に対応する。
【0080】
また、第4部分114に対応する炭素繊維プリプレグは、第2部分112よりも軸方向内方に突出するように設けられる。この炭素繊維プリプレグの第2部分112よりも軸方向内方に突出する部分の径方向内方の面に、第9部分119に対応する炭素繊維プリプレグが積層される。
【0081】
次に、
図5Hに示すように、積層された炭素繊維プリプレグの表面に、樹脂部11の形状に応じた型7a〜7g(第2の型の例)を配置する。型は、炭素繊維プリプレグの積層体の表面の少なくとも一部に接するように配置される。例えば、炭素繊維プリプレグの積層体の表面のうち、面精度が求められる面に型を接するように配置することができる。型で炭素繊維プリプレグを押すことで、炭素繊維プリプレグの積層体を所望の形状に成型することができる。
【0082】
図5Hに示す例では、樹脂部11を形成する炭素繊維プリプレグの表面のうち、金属軌道部13に接していない面に型7a〜7gが接するように配置される。型7a〜7gは、複数の部分に分割されている。
図5Hに示す例では、型7a〜7gは、外輪1の径方向に垂直な面P3,P4,P5,P6及び外輪1の軸方向に垂直な面P1,P2で分割されている。面P3,P4,P5,P6は、樹脂部11の軸方向に延びる軸方向部分11aの一部と重なる面である。面P1,P2は、フランジ12の一部と重なる面である。
【0083】
具体的には、型7a,7g,7fは、外輪1の径方向に垂直な面P5,P6で分割されている。面P5は、軸方向部分11aの径方向に垂直な1つの表面11a1を含む面である。すなわち、面P5は、表面11a1と同一面である。面P5の表面11a1から軸方向に延びた部分で型が分割される。面P6は、表面11a1と反対側の径方向に垂直な軸方向部分11aの表面11a2を含む面である。面P6は、表面11a2と同一面である。面P6の表面11a2から軸方向に延びた部分で型が分割される。
【0084】
これにより、軸方向部分11aの径方向に垂直な1つの表面11a1を押す型7a、軸方向部分11aの軸方向に垂直な表面を押す型7g、及び、軸方向部分11aの径方向に垂直な他の表面11a2を受ける型7fをそれぞれ独立して設けることができる。後の加圧工程では、分割された型7a,7g,7fにより、軸方向部分11aの様々な面に対して型から圧力を適切にかけることができる。そのため、加圧後の軸方向部分11aの表面11a1,11a2の面精度(例えば、円筒度、真円度又は表面粗さ等)を高めることができる。
【0085】
型7c,7d,7eは、型7a,7g,7fと同様に、外輪1の径方向に垂直な面P3,P4で分割されている。
【0086】
型7a,7b,7cは、外輪1の軸方向に垂直な面P1,P2で分割されている。面P1は、フランジ12の軸方向に垂直な1つの表面12a1を含む平面である。すなわち、面P1は、表面12a1と同一面である。面P1の表面12a1から径方向に延びた部分で型が分割される。面P2は、表面12a1の反対側の軸方向に垂直なフランジ12の表面12b1を含む平面である。すなわち、面P2は、表面12b1と同一面である。面P2の表面12b1から径方向に延びた部分で型が分割される。
【0087】
これにより、フランジ12の軸方向に垂直な1つの表面12a1を押す型7a、フランジ12の径方向に垂直な表面を押す型7b、及び、フランジ12の軸方向に垂直な他の表面12b1を押す型7cをそれぞれ独立して設けることができる。加圧工程では、分割された型7a,7b,7cにより、フランジ12の様々な面に対して型から圧力を適切にかけることができる。そのため、フランジ12の表面12a1,12b1の面精度(例えば、軸心Xに対する直角度又は表面粗さ等)を高めることができる。
【0088】
上記例で、表面と同一面である面には、厳密に同一の面である場合の他、表面と平行な面でほぼ同一とみなせる程度に表面から離れている面も含む。
【0089】
また、
図5Hに示す例では、軸受10の軸心Xを含む平面で、型7a,7b,7cが分割されている。すなわち、型7a,7b,7cは、周方向に分割されている。これにより、型を炭素繊維プリプレグ7a,7b,7cに配置するのを容易にすることができる。また、周方向に分割されているために、型7a,7b,7cは、加圧により径方向及び軸方向に移動することができる。そのため、型7a,7b,7cから炭素繊維プリプレグへ径方向の圧力がかかりやすい構造にすることができる。
【0090】
型7d,7e,7f,7gは、周方向に分割されず、円筒状に形成される。すなわち、型7d,7e,7f,7gは、周方向に一体的に連なって形成される。これにより、加圧時において、型7f,7eの外周面は径方向に移動せず、第1部分11aの内周面11a2を支持することができる。
【0091】
次に、
図5Iに示すように、型7a〜7gが配置された炭素繊維プリプレグの積層体にバキュームバック33を装着する。金属軌道部13、第1部分111、第2部分112及び積層された炭素繊維プリプレグ及び型7a〜7gが、バキュームバック33に密封される。これらの金属軌道部13、第1部分111、第2部分112及び積層された炭素繊維プリプレグ及び型7a〜7gを含むバキュームバック33内を真空引きする。
【0092】
図5Jに示すように、真空引きされたバキュームバック33に対して、例えば、オートクレーブで、加圧及び加熱する。バキュームバックの真空引きに伴い、圧力がかかった型7a,7b,7cが、径方向及び軸方向に移動することにより、型7a,7b,7cが炭素繊維強化樹脂各部の表面を押す。その結果、炭素繊維強化樹脂の各部が成型される。
【0093】
これにより、炭素繊維プリプレグの積層体を硬化させ第1部分111及び第2部分112を含む樹脂部11を成型することができる。ここでは、金属軌道部13に対して固定された第1部分111及び第2部分112に対して、さらに炭素繊維プリプレグの積層体が追加的に形成される。そのため、樹脂部11の強度を確保することができる。
【0094】
加圧後、バキュームバック33及び型7a〜7gを取り除く。その結果、例えば、
図1及び
図2に示す形状の外輪1が得られる。
【0095】
(実施形態2)
実施形態1では、軌道輪としての外輪が、炭素繊維強化樹脂で形成された第1部分及び第2部分を有する場合について説明した。これに対して、軌道輪としての内方部材が炭素繊維強化樹脂で形成された第1部分及び第2部分を有する構成とすることができる。
【0096】
図6は、実施形態2に係る車両用軸受20の軸心Xを通る面における断面図である。
図6に示す軸受20において、Aは車両への取付状態において車体に近い方すなわち車幅方向内側の端、Bは車両への取付状態において車体から遠い方すなわち車幅方向外側の端である。以後、軸受20において、車体により近い位置を軸方向の内方、車体からより遠い位置を軸方向の外方と称する場合がある。
【0097】
図6に示すように、軸受20は、外輪1と、内方部材6と、複数の転動体3,4とを備える。外輪1及び内方部材6は、軸受20の軌道輪である。内方部材6は、軌道面213を有する内輪21と、軌道面214を有するハブ輪22とを含む。内輪21は、ハブ輪22の外周に設けられる。内輪21は、軸受20の軸を中心とする環状をなす。ハブ輪22は、筒状をなす。ハブ輪22は、軌道面214を有する金属軌道部24と、金属軌道部24に取り付けられた樹脂部23を備える。樹脂部23は、金属軌道部24に対して固定されている。樹脂部23の一部は、ハブ輪22の外周面から径方向外方に突出するフランジ222を形成する。
【0098】
図6に示す軸受20は、ハブ輪22が、金属で形成された金属軌道部24と、炭素繊維強化樹脂で形成された樹脂部23を含む点で実施形態1と異なっている。これにより、軽量化を図ることができる。
【0099】
金属軌道部24の外周面には、転動体4と接する軌道面214が設けられる。また、金属軌道部24の外周面の一部は内輪21と接している。
【0100】
樹脂部23は、第1部分231と第2部分232とを有する。第1部分231は、金属軌道部24の径方向における表面24aすなわち内周面24aの一部を覆う。第2部分232は、金属軌道部24の軸方向の表面24bを覆う。第1部分231は、金属軌道部24の内周面24aに接して軸方向に延びる。第2部分232は、金属軌道部24の軸方向の表面24bに接して径方向に延びる。
【0101】
第2部分232は径方向に延びてフランジ222を形成する。第1部分231と第2部分232は連続している。第1部分231と第2部分232とが連続する構成の具体例は、上記実施形態1の第1部分111と第2部分112の構成と同様にすることができる。例えば、第1部分231に含まれる炭素繊維と第2部分232に含まれる炭素繊維は、少なくとも一部において連続している構成とすることができる。
【0102】
図6に示す例では、炭素繊維強化繊維のシートの一例である炭素繊維プリプレグを積層して第1部分231及び第2部分232が形成される。例えば、炭素繊維プリプレグを金属軌道部24の表面24a,24bに沿って折り曲げて、内方部材6の軸方向に垂直な面と、径方向に垂直な面を含む状態としたものを積層することができる。これにより、第1部分231及び第2部分232を互いに連続した状態で形成することができる。
【0103】
樹脂部23において、金属軌道部24の内周に形成される軸方向へ延びる炭素繊維強化樹脂は、軸方向の端部で直角に折れ曲がって径方向に延びてフランジ222の端部に達している。このように、金属軌道部24に接して軸方向に延びる第1部分231と、径方向へ延びて、フランジ222を形成する第2部分232とを一体的に形成することで、フランジ222の強度を確保することができる。また、アキシアル荷重がかかった場合、樹脂部23が、金属軌道部24に対してずれにくくすることができる。
【0104】
図6に示す例では、第2部分232には、軸方向外方へ突出する突出部233が設けられる。突出部233は、軸心Xを中心とする環状をなす。突出部233は、径方向に延びて形成される第2部分232の炭素繊維プリプレグの一部が直角に折れ曲がって軸方向に延びた部分によって形成することができる。すなわち、突出部233の炭素繊維強化樹脂と、第2部分232の炭素繊維強化樹脂の一部は連続している構成とすることができる。これにより、突出部233の強度を確保することができる。
【0105】
また、
図6に示す例では、フランジ222が炭素繊維強化樹脂で形成される。炭素繊維強化樹脂で形成されたフランジ222は、錆びない。そのため、錆びによりフランジ222とブレーキディスク又はディスクホイール等の装着物とが固着することを防止できる。フランジ222は、金属軌道部216の内周面に接して軸方向に延びる第1部分231と同じ炭素繊維強化樹脂の層で形成される第2部分232を含む。これにより、フランジ22のアキシアル荷重に対する強度を確保することができる。
【0106】
ここで、第1部分231がない構成では、フランジ222の強度を確保するために、例えば、フランジ222を形成する炭素繊維強化樹脂の厚みを増加したり、炭素繊維強化樹脂を固定するためのナットを設けたりする必要が生じ得る。これに対して、
図6に示すように、互いに連続する第1部分231及び第2部分232を設けることで、構成要素を増加しなくても、強度を確保することができる。そのため、ハブユニットの軽量化及び小型化を図りつつ強度を確保することが可能になる。
【0107】
また、
図6に示す例では、フランジ222が炭素繊維強化樹脂で形成される。炭素繊維強化樹脂で形成されたフランジ222は、錆びない。そのため、錆びによりフランジ222とブレーキディスク又はディスクホイール等の装着物とが固着することを防止できる。フランジ222は、金属軌道部216の内周面に接して軸方向に延びる第1部分231と連続する第2部分232により形成される。そのため、フランジ222の強度を確保することができる。
【0108】
内方部材6の第1部分231及び第2部分232は、炭素繊維プリプレグの積層体の表面に、第1部分231及び第2部分232の形状に応じた型を配置し、加圧及び加熱することで形成することができる。加圧及び加熱の工程は、実施形態1と同様に行うことができる。加圧後に、型を除去して、第1部分231を金属軌道部24に圧入することで、ハブ輪22を形成することができる。
【0109】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0110】
例えば、上記実施形態において、内方部材2のハブ輪22を中空の筒状に形成することもできる。
【0111】
上記実施形態1では、第2部分112は、金属軌道部13の軸方向の両側の端面にそれぞれ設けられる。これに対して、金属軌道部13の軸方向の両端のうちいずれかの一方の面のみに第2部分112が設けられる構成であってもよい。
【0112】
上記実施形態1、2では、第1部分111が設けられる金属軌道部13,24の径方向の表面は、金属軌道部13,24の外周面13e又は内周面24aとなっている。これらの外周面13e及び内周面24aは、径方向に垂直な面すなわち円環面とすることができる。この場合、金属軌道部13,24の外周面13又は内周面24aは、円環面の一部において、径方向に垂直でない部分を含んでもよい。また、第2部分112,232が設けられる金属軌道部13,24の軸方向における面13c,13d,24bは、軸方向に垂直な面に限られない。
【0113】
また、上記実施形態1、2では、軸受の径方向外方に配置される外輪1が固定軌道輪であり、径方向内方に配置される内方部材2、6が回転軌道輪となっている。これに対して、外輪1を回転軌道輪とし、内方部材2、6を固定軌道輪とすることもできる。
【0114】
上記製造工程では、第1の型17a〜17dは、軸方向に垂直な面P10及び径方向に垂直な面P11で分割されている。これに対して、軸方向に垂直な面P10又は径方向に垂直な面P11のいずれか一方の面のみで型を分割してもよい。
【0115】
なお、上記実施形態において、型を分割する面P1〜P6,P10,P11は仮想の面である。面で型を分割するといった場合には、その面が、分割された型の一方と他方の境界面となる。例えば、その面には、分割された型の一方と他方との隙間または、一方又は他方のいずれかの面が配置される。
【0116】
なお、型を分割する面P1〜P6,P10又はP11(以下、面P1等と称する)と分割された型の境界面が、若干ずれている場合や、境界面の一部が面P1等から離れている場合も、面P1等で分割されたものとみなすことができる。例えば、型を分割する面の一例として、全体として面状であり、一部において凹凸又は曲面を含む面も、型を分割する面に含まれ得る。
【0117】
また、上記実施形態には、軌道輪の軸方向に垂直な面で型を分割する構成が含まれるが、この面は、厳密に軸方向に垂直な面でなくてもよい。例えば、軌道輪の軸方向に対して上記効果が得られる程度の若干の角度を有する面で型を分割する場合も、軌道輪の軸方向に垂直な面で型を分割するものとみなすことができる。同様に、軌道輪の径方向に対して上記効果が得られる程度の若干の角度を有する面で型を分割する場合も、軌道輪の径方向に垂直な面で型を分割するものとみなすことができる。
【0118】
上記例では、オートクレーブを用いて、炭素繊維プリプレグの積層体に圧力をかけることにより、軌道輪の部材として必要な強度及び形状が実現される。加圧は、オートクレームに限られず、例えば、熱プレスにより加圧することもできる。