(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550854
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】トルク表示部材、およびねじ部材
(51)【国際特許分類】
F16B 31/02 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
F16B31/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-71593(P2015-71593)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191423(P2016-191423A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻原 一朗
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−018562(JP,U)
【文献】
特開2001−173624(JP,A)
【文献】
実開平04−119619(JP,U)
【文献】
実開平06−068901(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲温度に対応して表面の明度が変化する区画領域を有し、
前記周囲温度に対応した、ねじ部材の適正締め付けトルクが、前記区画領域に記載されており、
前記区画領域は、二以上の区画領域から構成されており、
前記二以上の区画領域は、異なる周囲温度に対応して明度が変化し、
かつ、一の区画領域の明度が高くなる温度に対応した、ねじ部材の一の適正締め付けトルクが、前記一の区画領域に記載されている、
ことを特徴とするねじ部材のトルク表示部材。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク表示部材が、
おねじ部端面に設けられている、
ことを特徴とするねじ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク表示部材、およびねじ部材に関する。さらに詳しくは、周囲温度に対応したねじ部材の適正締め付けトルクが記載されているトルク表示部材、およびこのトルク表示部材が、おねじ部端面に設けられているねじ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
走行車両に対するホイールの固定や、クレーン車などの作業車両の旋回台の固定等は、トルクレンチ等の締め付け工具を用いたトルク法や角度法(回転角法)により適切に軸力が管理されている必要がある。例えば走行車両のホイールにおいて、この軸力が適切に管理されていない場合、例えば締め付けトルクが小さすぎて、生じる軸力が小さすぎる場合は、ホイールが固定されずに、走行車両の振動の原因となる。これをそのまま放置するとホイール自体が脱落する場合もある。締め付けトルクが大きすぎる場合も、ホイールを固定するボルト等が塑性変形を起こし、生じる軸力が小さくなり、締め付けトルクが小さすぎる場合と同様、ホイールが固定されなくなる。
【0003】
ボルトの軸力を管理する方法は、トルク法と呼ばれる方法が一般的である。これはボルトの軸力の代用として、ナットやボルトの締め付けトルクを管理する方法で、トルクレンチなどを使用して行われる。特許文献1には、トルク管理をすることができる、自動車のホイール取り付けねじの着脱用のレンチが開示されている。
【0004】
ここで、走行車両などは世界のいたるところで活用されており、暑いところでは砂漠の昼間に使用されたり、寒いところでは冬の高緯度帯で使用されたりしている。このような周囲温度の多様性に影響されることなく、走行車両のホイールの固定はねじ部材により適切に行われる必要がある。上記状況に対して、本願の発明者は、走行車両の周囲温度に依存して、ボルトの軸力と、締め付けトルクとの間の関係が変化することを突き止めた。すなわちねじ部材の軸力と、ねじ部材の締め付けトルクとは、比例関係にあり、この比例定数がねじ部品の周囲温度により変化する。一定のボルトの軸力を得るためには、周囲温度が高い場合は付加するトルクを小さくし、温度が低い場合は付加するトルクを高くする必要がある。すなわち、周囲温度を考慮せずに、あらかじめ定められた目標トルクで締め付けることにより軸力を管理する従来の方法では、周囲温度が大きく変わるとねじ部材の軸力は適切に管理できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−1189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、作業者が、周囲温度に対応した適正締め付けトルクを容易に知ることができ、これによりねじ部材の締め付けトルクを容易に管理することができるトルク表示部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のトルク表示部材は、周囲温度に対応して表面の明度が変化する区画領域を有し、周囲温度に対応した、ねじ部材の締め付けトルクが、区画領域に記載されて
おり、区画領域は、二以上の区画領域から構成されており、二以上の区画領域は、異なる周囲温度に対応して表面の明度が変化し、かつ、一の区画領域の表面の明度を高くする温度に対応した、ねじ部材の一の適正締め付けトルクが、前記一の区画領域に記載されていることを特徴とする。
第
2発明のねじ部材は、第1発
明のトルク表示部材が、おねじ部端面に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、周囲温度に対応して表面の明度が変化する区画領域を有し、周囲温度に対応した、ねじ部材の適正締め付けトルクが、区画領域に記載されていることにより、ねじ部材を締め付けようとする作業者が、明度が変化した区画領域を見ると、周囲温度に対応した適正締め付けトルクを読み取ることができ、周囲温度に対応した適正締め付けトルクで、ねじ部材を締め付けることができる。
加えて、区画領域は、二以上の区画領域から構成されており、二以上の区画領域は、異なる周囲温度に対応して表面の明度が変化し、かつ一の区画領域の表面の明度が高くなる温度に対応した、ねじ部材の一の適正締め付けトルクが、一の区画領域に記載されていることにより、ねじ部材を締め付ける作業者が広範囲の周囲温度を容易に把握できる。
第
2発明によれば、第1発
明のトルク表示部材が、おねじ部端部に設けられていることにより、そのおねじ部端部を含むねじ部材を作業者が締め付ける際に、そのねじ部材の適正締め付けトルクを容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るねじ部材の正面図である。
【
図2】ねじ部材の軸力と、締め付けトルクとの関係を示したグラフである。
【
図3】本発明の実施形態に係るねじ部材が使用されている作業車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。本発明に係るねじ部材2のトルク表示部材5は、周囲温度に対応して表面の明度が変化する区画領域を有し、前記周囲温度に対応した、ねじ部材2の適正締め付けトルクが、前記区画領域に記載されている。
【0011】
(本発明の技術原理)
軸力管理が必要なねじ部材については、ねじ部材の弾性域の上限近辺に適正軸力が定められ、それに基づいて適正締め付けトルクが定められている。これはねじ部材が数か月後または数年後に緩められ、締め付け対象物を交換等することを想定すると共に、ねじ部材による締め付けの能力が最大限に引き出されるようにするためである。この軸力管理が必要なねじ部材を用いた、締め付け対象物の固定は、トルクレンチ等の締め付け工具を用いた締め付け法により管理されることが多い。ねじ部材に対する適正締め付けトルクは、個体間のばらつきを考慮し、ねじ部材の大きさと強度により算出された目標軸力に基づいて決定され、作業者はこの決定されたトルクによりトルクレンチを調整したうえで、ねじ部材により締め付け対象物を締め付ける。ここで「JIS B 1083 5 ねじ締付けの基礎」に記載されている、ねじ部材の弾性域締め付けにおける締め付けトルクとねじ部材の軸力(締め付け力)との関係を示す。
【0013】
ここで、T:締め付けトルク、T
th:ねじ部トルク、T
b:座面トルク、K:トルク定数、F:軸力、d:ねじの呼び径である。T:締め付けトルクはねじ部材を締め付ける作業者が付加させるトルクである。T
th:ねじ部トルクは、ねじ部材を締め付けるのに必要なトルクである。T
b:座面トルクは、ねじ部材が締め付けられる際に座面に発生するトルクである。そして、ねじ部トルクT
th、座面トルクT
bは以下のように表される。
【0015】
ここで、P:ねじのピッチ、μ
th:ねじ面の摩擦係数、d
2:ねじの有効径の基準寸法、μ
b:座面の摩擦係数、D
b:座面の摩擦に対する直径である。
そして数2と数3を数1に代入すると、トルク定数Kは以下のように表わされる。
【0017】
本願の発明者は、ねじ部材が置かれている周囲温度により、ねじ部材への締め付けトルクと、そのねじ部材に発生する軸力との間の関係が変化していることを突き止めた。その結果を
図2に示す。
図2は、ねじ部材の軸力と締め付けトルクとの関係を、周囲温度を変更して示したグラフである。グラフの横軸はねじ部材に付加している締め付けトルク、縦軸はねじ部材に発生している軸力を示している。このグラフから、ねじ部材の締め付けトルクTとねじ部材に発生する軸力Fとは、比例関係にあり、周囲温度によりこの比例関係の比例定数が変化する。すなわち、予定されたねじ部材の軸力を得るためには、周囲温度が通常の環境(例えば30℃)よりも高い場合(例えば70℃)は、締め付けトルクは小さい値となり、低い場合(例えば−10℃)は、締め付けトルクは大きい値となる。これは、上記のT
thのμ
thが、周囲温度により変化することによりT
thの値が変化し、その結果としてねじ部材の軸力と締め付けトルクとの関係が変化するためと考えられる。
【0018】
よって、ねじ部材の適正軸力を得るためには、周囲温度が高い場合は付加するトルクを小さくし、温度が低い場合は付加するトルクを高くする必要がある。周囲温度を考慮せずに、所定のトルクで締め付けることにより軸力を管理する従来の方法では、周囲温度が大きく変わるとねじ部材の軸力を適切に管理できていなかった。
【0019】
本実施形態に係るねじ部材2のトルク表示部材5について
図1に基づいて説明する。本実施形態に係るトルク表示部材5は、サーモテープと呼ばれるテープ状の部材であり、温度にあわせて表面の色が変化するようにした示温材である。このトルク表示部材5は、ねじ部材2を構成するボルト4の端面に設けることが可能な大きさであり、円形をしている。
【0020】
図1で示すように、トルク表示部材5は、4つの区画領域5a〜5dから構成されており、それぞれの領域が、周囲温度に対応して、明度が変化するように作成されている。例えば、区画領域5aは、測定機器等の調整が行われる温度領域、すなわち周囲温度が20〜50℃である場合に、明度が変化して、表面の色彩である赤色が明るく表示される。この周囲温度のとき、区画領域5b〜5dは明度が変化しない。区画領域5bは、周囲温度が50〜80℃である場合に、明度が変化して、表面の色彩である赤色が明るく表示され、他の区画領域は明度が変化しない。区画領域5cは、周囲温度が−10〜20℃である場合に、明度が変化して、表面の色彩である赤色が明るく表示され、他の区画領域は明度が変化しない。区画領域5dは、−40〜−10℃である場合に、明度が変化して表面の色彩である赤色が明るく表示され、他の区画領域は明度が変化しない。そして、それぞれの区画領域には、そのねじ部材2の大きさ(M22、M24・・)や、強度(10.9、12.9・・)に対応した、適正トルクが記載されている。例えば本実施形態の区画領域5aには周囲温度20〜50℃に対応した適正トルクが、610Nmと記載されており、区画領域5b〜5dについても、その区画領域5b〜5dの表面が明るくなる温度に対応した、適正トルクが記載されている。
【0021】
ここで「明度が変化する」とは、色相や再度が変化して作業者にとって認識しやすくなることを含む。
【0022】
周囲温度に対応して表面の明度が変化する区画領域を有し、周囲温度に対応した、ねじ部材2の適正締め付けトルクが、区画領域に記載されていることにより、ねじ部材2を締め付けようとする作業者が、明度が変化し、明度が高くなった区画領域を見ると、周囲温度に対応した適正締め付けトルクを読み取ることができ、周囲温度に対応した適正締め付けトルクで、ねじ部材2を締め付けることができる。
【0023】
区画領域は、二以上の区画領域から構成されており、二以上の区画領域は、異なる周囲温度に対応して表面の明度が高くなり、かつ一の区画領域の表面の明度を高くする温度に対応した、ねじ部材の一の適正締め付けトルクが、一の区画領域に記載されていることにより、ねじ部材を締め付ける作業者が広範囲の周囲温度を容易に把握できる。
【0024】
なお、本実施形態では、4つの区画領域について、すべて同じ赤色としたが、これに限定されるものではない。例えば4つの区画領域についてそれぞれ異なる色彩とすることも可能である。
【0025】
また、本実施形態では、区画領域を4つに分割したが、これに限定されるものではない。2つや3つに分割することも可能であるし、また5つや6つに分割することも可能である。
【0026】
トルク表示部材5は、ねじ部材2を締め付ける際の、一般的に非動作側であるボルト3の端面に設けたが、これに限定されるものではなく、ナット4の端面にも設けることができる。
【0027】
トルク表示部材5として、テープ状のもので構成したが、例えば温度表示をするための塗料を塗っても問題ない。
【0028】
本実施形態に係るトルク表示部材5を備えた作業車両20として移動式クレーンの構造を
図3により説明する。作業車両20である移動式クレーンは、公知の走行車体21に走行のための原動機や複数の車輪22が備えられる他、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガ24が設けられている。走行車体21の上面には旋回台30が搭載され、旋回台30は、旋回モータにより水平面内で360°旋回できる。
【0029】
旋回台30には伸縮ブーム40が起伏自在に取り付けられている。伸縮ブーム40は、基端側の主ブームと、この主ブームにテレスコープ式に嵌挿した複数段の副ブームからなる。各副ブームの伸縮動作は、この伸縮ブーム40内に設けられた伸縮シリンダで行われる。
【0030】
伸縮ブーム40の基端部は旋回台30に枢支され、伸縮ブーム40と旋回台30との間には起伏シリンダが取付けられている。この起伏シリンダを伸長させると伸縮ブーム40が起立し、起伏シリンダを収縮させると伸縮ブーム40が倒伏する。
【0031】
伸縮ブーム40の先端に形成されているブームヘッドからは、フック34を備えたワイヤロープが吊り下げられ、そのワイヤロープは伸縮ブーム40に沿って伸縮ブーム40の根本に導かれてウィンチに巻き取られている。ウィンチには、ホイストモータが設けられており、ホイストモータの駆動によりウィンチを回転させて、ワイヤロープの巻き取り、繰り出しを行うことで、フック34を昇降させることができる。このように、伸縮ブーム40の伸縮、起伏、フック34の昇降を組み合わせることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0032】
図4には、作業車両20の車輪22の正面図を示す。この作業車両20の車輪22のタイヤ部材10のハブへの固定や、旋回台30の固定は、軸力管理が必要なねじ部材2であり、ねじ部材2の弾性域の上限近辺に適正軸力が定められ、それに基づいて適正締め付けトルクが定められている。そしてこのねじ部材2のボルト4の端面にトルク表示部材5が設けられている。
【0033】
トルク表示部材5が、おねじ部端部に設けられていることにより、そのおねじ部端部を含むねじ部材2を作業者が締め付ける際に、そのねじ部材2の適正締め付けトルクを容易に把握することができる。
【0034】
本実施形態のトルク表示部材5が設けられたねじ部材2の締め付け方法について、作業車両20にタイヤ部材10を取り付ける場合を説明する。作業者は、ねじ部材のねじ部分にあるダストなどを除去したあと、ねじ部分にオイルを塗布す
る。オイルの銘柄等により締め付けトルクに対して、ねじ部材2に発生する軸力が異なることがあるので、注意が必要である。そして作業者は、ねじ部材2のボルト3の端面にあるトルク表示部材5を見て、その周囲温度での適正トルクを把握し、トルクレンチを調整し、そのトルクレンチにより、ねじ部材2を締め付ける。ねじ部材2により締結される締め付け対象物が、作業車両20のタイヤ部材10であるので、作業者は、あらかじめ定められた順序で、複数のねじ部材2を締め付けて、タイヤ部材10を作業車両20のハブに固定する。
【符号の説明】
【0035】
2 ねじ部材
3 ナット
4 ボルト
5 トルク表示部材
5a〜5d 区画領域
10 タイヤ部材
20 作業車両
21 走行車体
22 車輪
24 アウトリガ
30 旋回台
34 フック
40 伸縮ブーム