(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の上下面に粘着層を介して貼合され、前記上下面側に平滑面をそれぞれ形成し、前記固体高分子電解質膜の中央に少なくとも1つの開口部を有する第1の多層構成プラスチックフィルムおよび前記開口部に設けられる第2の多層構成プラスチックフィルムと、を有する電解質膜基材から、前記第2の多層構成プラスチックフィルムを除去し、
前記第2の多層構成プラスチックフィルムを除去した後、前記電解質膜基材を加熱しながら、前記固体高分子電解質膜の前記第2の多層構成プラスチックフィルムが貼合されていた領域に触媒インクを塗布し、前記触媒インクの揮発成分を除去することで触媒層を形成することを特徴とする膜−電極接合体の製造方法。
前記粘着層の25℃における剥離力を0.02N/25mm以上、70℃以上100℃以下における剥離力が0.2N/25mm以上3.0N/25mm未満とすることを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体の製造方法。
前記電解質膜基材から前記第2の多層構成プラスチックフィルムを除去した後、前記触媒層を形成する処理を連続して行うことを特徴とする請求項1または2に記載の膜−電極接合体の製造方法。
前記電解質膜基材から前記第2の多層構成プラスチックフィルムを除去した後、前記触媒層を形成する処理を連続して行わないことを特徴とする請求項1または2に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる膜−電極接合体の製造方法としては、所望の形状を有する触媒層が付与された転写基材と固体高分子電解質膜とをホットプレスや熱ラミネートロールなどで熱圧着した後、転写基材の基材のみを剥離する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、膜−電極接合体の製造方法として、熱ラミネートロールを用いる方法およびホットプレスを用いる方法が開示されている。特許文献1に記載の熱ラミネートロールを用いる方法では、長尺の固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の両面側に配され、所望の形状を有する触媒層が付与された転写基材と、を接触させ、一対の熱ラミネートロールで熱圧着することによって、固体高分子電解質膜と触媒層とを一体的に接合する。その後、転写基材から基材のみを一対の剥離ロールを用いて触媒層から剥離する。
また、特許文献1に記載のホットプレスを用いる方法では、ホットプレスを用いて固体高分子電解質膜に触媒層担持基材上に担持された触媒層を転写する。特許文献1に記載の2つの手法を比べると、熱ラミネートロールを用いて転写する方法の方では、固体高分子電解質膜への触媒層の転写が連続的に行えるため、ホットプレスを用いて転写する方法に比べ製造速度を向上させることができる。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の熱ラミネートロールまたはホットプレスを用いた熱圧着による転写方法では、固体高分子電解質膜および触媒層に含まれる高分子をともにガラス転移温度付近の高温まで加熱する。これにより、層間の密着が高まることから、触媒層担持基材から固体高分子電解質膜への転写が可能となる。また、熱転写の際には、触媒層担持基材および固体高分子電解質膜を高温下で加圧する必要がある。熱圧着を行う際、固体高分子電解質膜および触媒層に含まれる高分子をガラス転移温度に近い高温まで加熱する必要あるが、この際、熱及び圧力によって触媒層担持基材に熱ジワが発生する問題がある。熱ジワが生じた場合、触媒層への転写性が低下し、得られる膜−電極接合体の発電性能が低下する恐れがある。また、固体高分子電解質膜自身も高温下で加圧されるため、平面性が低下する可能性がある。固体高分子電解質膜の平面性が低下すると、ガスケットやセパレータなどを積層する際に、シワや隙間が発生し、発電性能が低下する恐れがある。
【0004】
また、特許文献2には、膜−電極接合体の製造方法として、枠状のマスク付ガスケットを固体高分子電解質膜に貼合した後、マスクを介して触媒層を形成する方法が開示されている。しかし、特許文献2に記載の方法では、枠状のマスクを貼合するため、枠の内側の角部に歪みやシワが発生しやすい。角部に生じた歪みやシワは、触媒インクを塗布した際にインクが染み込みインクロスを引き起こす原因となるだけでなく、得られる膜−電極接合体でのシワや平面性の低下の原因となる。さらに、特許文献2に記載の方法では、マスクの開口部において固体高分子電解質膜の一部が晒されるため、マスク部との剛性の差や湿度起因による膨潤・収縮によって固体高分子電解質膜の寸法変化が生じ、シワ等の原因となる。また、固体高分子電解質膜が寸法変化すると、インクの均一塗布が難しくなる。更に、特許文献2に記載の方法では、ロール・ツー・ロール(roll to roll)での製造方法に適用する場合、マスクの開口部に形成される段差により、固体高分子電解質膜にマスク形状の巻き跡が発生し、インク塗布時に均一に塗布することができない。このため、膜−電極接合体に線状ムラが発生することがある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に記す実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
図1は、本発明の一実施形態に係る膜−電極接合体4の製造方法を説明するための概略図である。まず、本実施形態に係る膜−電極接合体4の製造方法では、
図1(A)に示すように、電解質膜基材1を、平滑に保持した状態で加熱部2に積載する。電解質膜基材1は、固体高分子電解質膜10と、第1の多層構成プラスチックフィルム11と、第2の多層構成プラスチックフィルム12とからなり、固体高分子電解質膜10の上下面に、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12が不図示の粘着層を介して貼合されることで形成される。なお、第1の多層構成プラスチックフィルム11は、固体高分子電解質膜10の上下面にそれぞれ設けられ、固体高分子電解質膜10の各面の中央には少なくとも1つの開口部111が形成される。第2の多層構成プラスチックフィルム12は、第1の多層構成プラスチックフィルム11の少なくとも1つの開口部111に嵌合して、固体高分子電解質膜10の上下面にそれぞれ設けられる。さらに、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12は、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12で形成される電解質膜基材1の上下面側がそれぞれ平滑となるように設けられる。さらに、電解質膜基材1の上下面は、第1の多層構成プラスチックフィルム11と第2の多層構成プラスチックフィルム12とが隙間なく、重ならずに設けられるため、不連続な平面が形成される。
【0011】
次いで、
図1(B)に示すように、電解質膜基材1より上面の第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去する。これにより、電解質膜基材1の上面は、第1の多層構成プラスチックフィルム11により形成された開口部111が露出した状態となる。
さらに、
図1(C)に示すように、電解質膜基材1を加熱部2で加熱しながら、不図示の塗布装置にて液状の触媒インク3を、少なくとも固体高分子電解質膜10の第2の多層構成プラスチックフィルム12が貼合されていた領域に、露出した開口部111を介して塗布する。そして、
図1(D)に示すように、加熱部20の熱により揮発成分を除去することで、電解質膜基材1の上面に触媒層31を形成する。
【0012】
その後、
図1(E)に示すように、電解質膜基材1の表裏を逆転させ、電解質膜基材1の下面が
図1(E)の紙面に対して上下方向の上側となるように配し、電解質膜基材1を平滑に保持した状態で加熱部2に積載する。
次いで、
図1(F)に示すように、電解質膜基材1の下面に貼合された第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去する。この際、第2の多層構成プラスチックフィルム12の除去は、
図1(B)での処理と同様に行われる。
さらに、
図1(G)に示すように、塗布装置にて液状の触媒インク3を、
図1(C)での処理と同様に、電解質膜基材1の下面側に塗布する。そして、
図1(H)に示すように、加熱部2の熱により揮発成分を除去することで触媒層31を付与することにより、両面に触媒層を有する膜−電極接合体4を得ることができる。
【0013】
なお、上記実施形態において、固体高分子電解質膜10は、湿潤状態で良好なプロトン導電性を示す高分子材料である。第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12は、粘着層を有するフィルムである。触媒インク3は、白金や白金と他の金属との合金等からなる触媒を担持した粉末カーボンと、樹脂とにより形成され、乾燥することで固化し触媒層31を形成する。
以下、固体高分子電解質膜10、触媒層31、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12を構成する材料の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0014】
固体高分子電解質膜10を構成する高分子材料としては、具体的には、炭化水素系高分子電解質、フッ素系高分子電解質を用いることができる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン製Nafion(登録商標)、旭硝子製Flemion(登録商標)、旭化成製Aciplex(登録商標)、ゴア製GoreSelect(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系電解質膜は、フッ素系高分子電解質に比べ、溶剤に対する染み込み、膨潤が少ないため、触媒インクを固体電解質膜に塗布するのにより好ましい。固体高分子電解質膜10の厚みは、5μm以上300μm以下程度に形成される。
【0015】
触媒層31を構成する樹脂としては、前記高分子材料と同様のものを用いることができる。また、触媒層31を構成する触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素のほか、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属若しくは白金とこれらの合金、又はこれらの酸化物、複合酸化物などを用いることができる。その中でも、白金または白金合金がより好ましい。また、触媒の粒径は、大きすぎると触媒の活性が低下し、小さすぎると触媒の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下が好ましい。また、触媒層31を構成する粉末カーボンとしては、微粒子状で導電性を有し、触媒に侵さないものであれば特に限定されない。具体的には、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを用いることができる。粉末カーボンの粒径は、触媒より小さい10nm以上100nm以下程度が好適に用いられる。
また、上記実施形態において、触媒層31は、上述の材料を溶媒及び水に分散させて調合した触媒インク3を固体高分子電解質膜10上に塗布し乾燥させることで得られる。触媒インク3に用いる溶媒は材料を好適に分散させるために、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類を用いていれば良い。また、触媒インク3には、水よりも低沸点の溶媒の乾燥が容易な溶媒を用いる方が好ましい。
【0016】
さらに、上記実施形態において、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基材層は、加熱部2での加熱温度以上のガラス転移温度を有していれば特に限定されない。第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基材層には、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基材層には、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。なお、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基材層は、ガスケットとして膜−電極接合体になるため、ガスバリヤ性、耐熱性を考慮した場合、ポリエチレンナフタレートであることが特に好ましい。
さらに、上記実施形態において、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系などの粘着剤であればよい。なお、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の粘着層は、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基材層ならびに固体高分子電解質膜10との密着性と、加熱部2に対する耐熱性とを考慮するとアクリル系であることがより好ましい。
【0017】
さらに、上記実施形態において、固体高分子電解質膜10の表面を覆う寸法の連続した多層構成プラスチックフィルムに、開口部111に相当する寸法の少なくとも1つの切り込みを入れることで、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12が形成されることが好ましい。その後、この第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12と、固体高分子電解質膜10とを貼合することで電解質膜基材1が得られる。なお、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基となる連続した多層構成プラスチックフィルムと固体高分子電解質膜10とを貼合した後、多層構成プラスチックフィルムに切り込みを入れることで、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12が形成されてもよい。これにより、第1の多層構成プラスチックフィルム11と第2の多層構成プラスチックフィルム12との重なりや隙間の発生を抑制することができる。また、触媒インク3の塗布直前まで、固体高分子電解質膜10が直接空気に触れることがないため、吸湿による寸法変化を抑制できる。また、第1の多層構成プラスチックフィルム11と第2の多層構成プラスチックフィルム12とには重なりや隙間がないため、電解質膜基材1をロール状に巻いても、固体高分子電解質膜10に巻き跡が発生することがなく、大量に同じ品質で作製するのに適したロール・ツー・ロールで作製することが可能となる。
【0018】
さらに、上記実施形態において、加熱部2による加熱温度は、触媒インク3に含まれる溶媒の沸点程度であればよく、70℃以上100℃以下であればよい。また、加熱部2は、平板状またはロール状の形状を有し、吸着または張力によって電解質膜基材1を平滑に設けることができるように構成されることが好ましい。
さらに、上記実施形態において、電解質膜基材1上に触媒層31を形成する塗布装置は、触媒インク3を塗布することで、均一な厚みの触媒層31を形成することができればよく、ダイコーター方式、ロールコーター方式等の方式を用いることができる。
【0019】
さらに、固体高分子電解質膜10と第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の粘着層との密着性は、25℃における剥離力が0.02N/25mm以上であることが好ましい。剥離力を上記の数値範囲とすることで、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12が固体高分子電解質膜10から、不用意に剥がれることを防止することができる。また、加熱部2上で第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去するため、70℃以上100℃以下における固体高分子電解質膜10と第2の多層構成プラスチックフィルム12との剥離力が3.0N/25mm未満であることが好ましい。これにより、固体高分子電解質膜10への糊残りなく、固体高分子電解質膜10から第2の多層構成プラスチックフィルム12を剥離することができ、固体高分子電解質膜10を汚染することがない。さらに、70℃以上100℃以下における固体高分子電解質膜10と第1の多層構成プラスチックフィルム11との剥離力は、0.2N/25mm以上であることが好ましい。これにより、第2の多層構成プラスチックフィルム12が除去された第1の多層構成プラスチックフィルム11の粘着層への塗布した触媒インク3の染み込みを防止することができ、膜−電極接合体4になったときに、ガスケットとなる第1の多層構成プラスチックフィルム11部分からのガスリークを抑制することが可能である。さらに、触媒インク3の染み込みが防止されることにより、触媒の使用ロスの回避が可能となる。ガスリークが発生すると固体高分子電解質膜10が破膜し、発電性能が低下してしまうため、好ましくない。
【0020】
さらに、上述の一連の工程による膜−電極接合体4の製造方法は、製造効率を考慮すると全工程が連続して行われることが好ましいが、触媒層31の塗布工程における歩留まりを考慮すると全工程が不連続に行われても良い。また、上記実施形態では、上面の第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去した後、上面に触媒層31を形成し、さらに下面についても同様な処理を行う構成としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、上面および下面の第2の多層構成プラスチックフィルム12をそれぞれ除去した後、上面および下面に触媒層31をそれぞれ形成する手順で処理が行われてもよい。
【0021】
(1)本発明の一実施形態に係る膜−電極接合体4の製造方法は、固体高分子電解質膜10と、固体高分子電解質膜10の上下面に粘着層を介して貼合され、上下面側に平滑面を形成し、固体高分子電解質膜10の中央に少なくとも1つの開口部111を有する第1の多層構成プラスチックフィルム11および開口部111に設けられる第2の多層構成プラスチックフィルム12と、を有する電解質膜基材1から、第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去し、第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去した後、電解質膜基材1を加熱しながら、固体高分子電解質膜10の第2の多層構成プラスチックフィルム12が貼合されていた領域に触媒インク3を塗布し、触媒インク3の揮発成分を除去することで触媒層31を形成する。
【0022】
上記構成によれば、ガラス転移温度付近での熱圧着が必要な工程を用いないため、熱ジワ、平面性に優れた高品質の膜−電極接合体4を製造することができる。加えて、固体高分子電解質膜10の対向する平面に、平面を形成する第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12を貼合することで、固体高分子電解質膜10の寸法変化が抑えられ、シワの発生を防止することができ、平面性に優れた膜−電極接合体4を製造することができる。また、ロール・ツー・ロール方式で固体高分子電解質膜10を使用しても不要な巻き跡の発生を抑制することができる。ここで、膜−電極接合体4を用いた燃料電池では、各電極に反応ガスを供給し、且つ電気化学反応により生成する水分や余剰のガスを排出するためのセパレータが、膜−電極接合体4に積層されることでセルが形成される。このとき、シワが無く平面性の良好な膜−電極接合体4を用いることにより、セパレータと膜−電極接合体4との間に隙間を生じさせることなくセルを形成することができるため、発電性能に優れた燃料電池を提供することができる。
【0023】
(2)粘着層の25℃における剥離力を0.02N/25mm以上、70℃以上100℃以下における剥離力が0.2N/25mm以上3.0N/25mm未満とする。
上記構成によれば、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12が固体高分子電解質膜10から、不用意に剥がれることを防止することができる。また、固体高分子電解質膜10への糊残りなく、固体高分子電解質膜10から第2の多層構成プラスチックフィルム12を剥離することができ、第2の多層構成プラスチックフィルム12が除去された第1の多層構成プラスチックフィルム11の粘着層への塗布した触媒インク3の染み込みを防止することができる。
【0024】
(3)電解質膜基材から第2の多層構成プラスチックフィルムを除去した後、連続して触媒層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の膜−電極接合体製造方法。
上記構成によれば、製造効率を向上させることができる。
(4)電解質膜基材から第2の多層構成プラスチックフィルムを除去した後、膜−電極接合体製造方法は、全工程が不連続であることを特徴とする請求項2に記載の膜−電極接合体製造方法。
上記構成によれば、触媒層31の塗布工程における歩留まりを向上させることができる。
(5)また、本発明の一実施形態に係る膜−電極接合体4は、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の膜−電極接合体製造方法により製造される。
【0025】
以下、本発明を実施例1,2について具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
実施例1では、ロール・ツー・ロール方式を用いて、膜−電極接合体4を上記実施形態と同様に製造し、その平面性等をした。
まず、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12の基となる、連続した多層構成プラスチックフィルムの基材として、ポリエチレンナフタレート(帝人デュポンフィルム製テオネックスQ51、厚み25μm)を用い、この連続した多層構成プラスチックフィルムの表面にアクリル系の粘着層(厚み10μm)を形成した。次いで、粘着層が形成された多層構成プラスチックフィルムを、セパレータでラミネートすることでフィルムを得た。さらに、得られたフィルムに、5cm×5cmの正方形形状の打抜き加工によりポリエチレンナフタレート側から粘着層まで切り込みを入れ、ポリエチレンナフタレート面に表面保護フィルム(サンエー化研製サニテクトPAC−3−60T)を貼合することで、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12を得た。更に、ロール・ツー・ロール方式で、第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12のセパレータを剥離し、固体高分子電解質膜10である炭化水素系フィルム(厚み11μm)の両面に位置合わせしてそれぞれ貼合し、両面の表面保護フィルムを剥離することにより、電解質膜基材1のロールを得た。このとき、固体高分子電解質膜10と第1および第2の多層構成プラスチックフィルム11,12との25℃における剥離力が0.07N/25mm、80℃における剥離力が1.0N/25mmとなるように粘着層を調整した。その後、得られたロール形態の電解質膜基材1を切り出し、加熱部2として80℃の吸着ステージ上で加熱した後、電解質膜基材1の上面の第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去した。次いで、電解質膜基材1の上面の第2の多層構成プラスチックフィルム12が貼合されていた領域に、フッ素系高分子電解質膜分散溶液(旭化成イーマテリアルズ製SS700C/20)、白金触媒(田中貴金属製TEC10F50E−HT)、1−プロパノールおよび水からなる触媒インク3をダイコーターにて塗布し、10分間乾燥することで電解質膜基材1の上面に触媒層31を付与した。次いで、この電解質膜基材1を80℃の吸着ステージ上で表裏逆転して、電解質膜基材1の下面の第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去した後、上面と同様にして触媒インク3を塗布・乾燥することで、両面に触媒層31が付与された膜−電極接合体4を得た。
【0027】
実施例1では、平面性等の評価として、触媒インク3を塗布する前の固体高分子電解質膜10の外観(巻き跡、多層構成プラスチックの形状の歪み、浮きの有無)と、得られた膜−電極接合体4の外観(巻き跡による線状ムラの有無、平面性、触媒インク3の染み込みの有無)を確認した。
また、実施例1の比較として、第2の多層構成プラスチックフィルム12を有しない電解質膜基材を作成し、この電解質膜基材を用いて膜−電極接合体を作成し、実施例1と同様の評価を行った(比較例1)。比較例1では、まず、実施例1と同様に連続した多層構成プラスチックフィルムの基材上に粘着層を形成し、これらをセパレータでラミネートすることでフィルムを得た。次いで、得られたフィルムを打抜き加工により貫通させ、第2の多層構成プラスチックフィルム12に相当する部分を除去することで、第1の多層構成プラスチックフィルム11を得た。さらに、第1の多層構成プラスチックフィルム11のセパレータを剥離し、固体高分子電解質膜10の両面に位置合わせしてそれぞれ貼合することで、第2の多層構成プラスチックフィルム12を有しない電解質膜基材のロールを得た。その後、この電解質膜基材のロールを用いて、実施例1と同様の方法で、電解質膜基材の両面に触媒層31を形成することで膜−電極接合体を得た。
【0028】
表1に、実施例1および比較例1における評価結果を示す。表1に示すように、実施例1では、固体高分子電解質膜10と多層構成プラスチックフィルムとを貼合する際に、第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去することなく、加熱部2にて除去することで、触媒インク3塗布前の固体高分子電解質膜10の露出部に巻き跡が発生しないことが確認された。また、実施例1では、巻き跡が発生しなかったことから、第1の多層構成プラスチックフィルム11の形状の歪みや固体高分子電解質膜10からの浮きがないことも確認した。さらに、実施例1では、触媒インク3塗布後においても、巻き跡による線状ムラや、触媒インク3の染み込みがなく、平面性が確保されることを確認した。一方、比較例1では、第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去することで、固体高分子電解質膜10に巻き跡が線状に発生することが確認された。このため、比較例1でのみ、巻き跡に起因する線状ムラが発生することが確認された。また、比較例1では、5cm×5cmの正方形の形状の開口部の角部においてシワ、歪み及び浮きが発生し、触媒インク3の塗布後に触媒インク3の染み込みが発生し、さらに、膜−電極接合体における触媒層31に発生したシワによって平面性の低下が確認された。
【0029】
【表1】
【実施例2】
【0030】
次に、実施例2では、粘着層の剥離力による平面性等への影響を調査した。実施例2では、実施例1と同じ固体高分子電解質膜10、触媒インク3、および多層構成プラスチックフィルムの基材を用い、粘着層だけを変更し、固体高分子電解質膜10と多層構成プラスチックフィルムとの剥離力を調整することで、実施例1と同様の方法で膜−電極接合体4を作製した。さらに、加熱部2である吸着ステージ上で第2の多層構成プラスチックフィルム12を除去したときの固体高分子電解質膜10上への糊残りの有無と、膜−電極接合体4の第1の多層構成プラスチックフィルム11の浮きによる平面性、触媒インク3の粘着層への染み込みの有無を評価した。なお、実施例2では、25℃における剥離力が0.02N/25mm以上、且つ70℃以上100℃以下における剥離力が0.2N/25mm以上3.0N/25mm未満となる条件として、実施例2−1〜2−3の3条件について評価を行った。また、比較例として、25℃または70℃における剥離力の条件のうち少なくとも一方の条件が、上記範囲を超える比較例2−1〜2−3の3条件についても同様に評価を行った。
【0031】
表2に、実施例2および比較例2における剥離力の条件および評価結果を示す。評価の結果、25℃での剥離力が0.02N/25mm未満であると、電解質膜基材1を切り出したときに剥がれが生じることが確認された。また、表2に示すように、80℃での剥離力が0.2N/25mm未満では、不連続な平面部を除去したときに際に浮きが発生し、インクの染み込みが発生するだけでなく、シワにより平面性が低下することが確認された(比較例2−1,2−3)。さらに、80℃での剥離力が3.0N/25mm以上であると、不連続な平面部を除去したときに、固体高分子電解質膜上に糊残りが発生してしまうことがわかった(比較例2−2)。
【0032】
【表2】