(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る油圧調整機構を説明する。
【0011】
図1に示すディーゼルエンジン1(内燃機関の一例、以下単にエンジン1という)は、クランク軸2と、ロッカーアーム軸3と、カム軸4と、オイル循環機構5を備えている。
【0012】
クランク軸2は、ピストンPSの往復運動を回転力に変える回転軸であり、クランクピン11とクランクアーム12を備えるクランクスロー13が、ピストンPS及びコネクティングロッドCRの組に対応して設けられている。クランクピン11には、コネクティングロッドCRの大端部が回転可能な状態で取り付けられている。クランク軸2の内部には、クランクジャーナル14からクランクアーム12を通ってクランクピン11に至る給油路15が設けられている。この給油路15には、オイル循環機構5が備えるサブギャラリー36からオイルが供給される。
【0013】
ロッカーアーム軸3は、ロッカーアーム21を揺動可能に支持する部材であり、本実施形態では、内部にオイル流路22が設けられている。このオイル流路22には、オイル循環機構5からオイルが供給される。オイル流路22に供給されたオイルはカム軸4に供給される。カム軸4は、ロッカーアーム21を揺動させるためのカム23が設けられた部材であり、クランク軸2の回転に従って回転する。
【0014】
オイル循環機構5は、オイル溜POCに貯留されたオイルを、クランク軸2やロッカーアーム軸3に供給するものであり、油こし31と、オイルポンプ32と、オイルフィルタ33と、バイパス弁34と、給油管35と、サブギャラリー36と、オイル排出部37を備えている。そして、油こし31からクランク軸2(クランクジャーナル14)やロッカーアーム軸3(オイル流路22)に至る一連の流路が、オイル循環機構5が備えるオイル供給路である。
【0015】
油こし31は、オイル供給路におけるオイル流れ方向の最上流に配置されており、オイルの吸い込み時において、オイル溜POCに存在する固形成分がオイル供給路の内部に入らないようにこし取る。オイルポンプ32は、油こし31よりもオイル流れ方向の下流側に配置されており、オイル溜POCのオイルをクランク軸2やロッカーアーム軸3に供給する際の動力となる。このオイルポンプ32は、クランク軸2と連動して動作し、クランク軸2の回転数の上昇に応じてオイルの吐出量を上昇させる。
【0016】
オイルフィルタ33は、オイルポンプ32よりもオイル流れ方向の下流側に配置されており、オイルポンプ32によって吸い込まれたオイルに含まれる微細な固形物を濾別し、濾別後のオイルを下流側に排出する。バイパス弁34は、オイル流路におけるオイルフィルタ33よりも上流側と下流側を結ぶバイパス路に設けられ、オイルフィルタ33を流れるオイルに不足が生じる際に開弁して不足分のオイルを補う。
【0017】
給油管35は、クランク軸2に供給されるオイルが流れる管である。この給油管35からは複数のサブギャラリー36が枝分かれしている。また、給油管35からは、オイル排出部37が備えるオイル連通路41も枝分かれしている。サブギャラリー36は、例えばシリンダブロックに設けられており、給油管35とクランクジャーナル14との間を連通する。
【0018】
オイル排出部37は、クランク軸2の回転が伝達され、クランク軸2の回転数に応じた量のオイルをエンジン1の内部に排出することで、オイル供給路内のオイルを必要圧力に調整する。なお、オイル排出部37については、後で詳しく説明する。
【0019】
このオイル循環機構5では、オイルポンプ32の動作により、オイル溜POCに貯留されたオイルが油こし31を通じて吸い込まれる。吸い込まれたオイルは、オイルフィルタ33やバイパス弁34を通過した後に、カム軸4や給油管35に供給される。カム軸4に供給されたオイルは、ロッカーアーム21とカムの摩擦抵抗の低減に用いられる。一方、給油管35に供給されたオイルは、サブギャラリー36及び給油路15を流れ、クランクピン11とコネクティングロッドCRの摩擦抵抗の低減に用いられる。摩擦抵抗の低減に用いられたオイルやオイル排出部37から排出されたオイルは、オイル溜POCに貯留されて循環使用される。
【0020】
次に、オイル排出部37について詳細に説明する。
図1に示すように、オイル排出部37は、オイル供給路におけるオイルポンプ32の配置位置よりもオイル流れ方向の下流側に連通されており、クランク軸2の回転数の上昇に応じてオイルの排出量を増加させる。このオイル排出部37は、オイル連通路41、回転部材42、収納凹部43、及び、回転伝達機構44を備える。
【0021】
オイル連通路41は、給油管35と収納凹部43を連通しており、給油管35のオイルを収納凹部43へ供給する。オイル連通路41は、例えば
図3(A)に示すように、シリンダブロックCBに孔を空けることで設けられる。なお、給油管35は、オイルポンプ32よりもオイル流れ方向の下流側に配置されている。このため、オイル連通路41は、オイルポンプ32の配置位置よりも下流側でオイル供給路に連通している。
【0022】
回転部材42は、クランク軸2の回転数に比例した回転数で回転されると共に、収納凹部43に供給されたオイルを回転数に応じた量で排出する。
図2(A)に示すように、回転部材42は、回転軸51と、回転軸51の一端に設けられる従動ギア52と、回転軸51の他端に設けられる頭部53を備えている。
図3(A)に示すように、回転軸51は、シリンダブロックCBに設けられた軸受け54に回転可能な状態で取り付けられている。従動ギア52は、シリンダブロックCBよりも外側に突出されており、その外周面には回転伝達機構44が備える駆動ベルト44bが噛み合っている。本実施形態において、従動ギア52は、回転軸51に対して着脱自在であって、止めねじ(不図示)などによって固定される。
【0023】
図2(A)に示すように、頭部53は基板54と円筒壁55を備えており、回転軸51と共に回転される。基板54は、円形板状をしており、回転軸51の他端に接合されている。円筒壁55は、基端が基板54の外周縁に接合されている。従って、基板54とは反対側となる頭部53の先端は開放されている。この頭部53には、回転部材42の回転数の上昇に応じてオイルが通過する隙間の大きさを増加させる排出機構56が設けられている。この排出機構56については、後で説明する。
【0024】
図3(A)に示すように、収納凹部43は、回転部材42の頭部53が収納される凹部であり、回転軸51用の軸受け54と一連に設けられている。収納凹部43の内周面には、円筒状金属で作製された軸受け部材45が嵌合されている。軸受け部材45の内径は、回転部材42が備える頭部53(円筒壁55)の外径よりも僅かに大きい。そして、頭部53と軸受け部材45とは同心円状に配置されているので、頭部53の外周面と軸受け部材45の内周面との間には、所定の隙間Sが全周に亘って形成される。軸受け部材45におけるオイル連通路41と対向する位置には、厚さ方向を貫通する油孔45aが設けられている。この油孔45aにより、オイル連通路41から供給されたオイルは頭部53と軸受け部材45の隙間Sに流入し、この隙間Sを満たす。
【0025】
図1に示すように、回転伝達機構44は、クランク軸2に設けられた駆動ギア44aと、この駆動ギア44aと回転部材42の従動ギア52の間に掛け渡される駆動ベルト44bを備えている。クランク軸2が回転すると駆動ギア44aが回転する。駆動ベルト44bによって駆動ギア44aの回転は従動ギア52に伝達される。このため、回転部材42は、クランク軸2の回転に従って回転される。そして、回転部材42の回転数は、クランク軸2の回転数と、駆動ギア44aと従動ギア52のギア比に応じて定められる。
【0026】
次に排出機構56について説明する。
図2(B)に示すように、排出機構56は、第1排出機構61と、この第1排出機構61から周方向に180度回転した位置に設けられる第2排出機構71を備えている。
【0027】
第1排出機構61は、第1開口62と、第1開閉部材63と、第1コイルバネ64を備えている。第1開口62は、円筒壁55の壁厚方向を貫通する矩形状開口である。第1開閉部材63は、第1回動軸65を中心に回動可能に配置され、第1開口62を開閉可能に塞ぐ部材である。第1開閉部材63は、第1回動軸65に嵌合される第1軸受け63aと、第1軸受け63aに接合される第1開閉アーム63bと、第1開閉アーム63bの一端に接合され、第1開口62に嵌合される第1嵌合部63cと、第1開閉アーム63bの他端に接合される第1錘63dを備えている。第1コイルバネ64は、第1錘63dと支持軸57との間に掛け渡され、収縮力によって第1錘63dを支持軸57側に付勢する。本実施形態において支持軸57は、基板54における回転中心に立設されている。
【0028】
回転部材42の静止時において、第1錘63dは、第1コイルバネ64によって支持軸57側に付勢される。これにより、第1開閉部材63は第1回動軸65を中心に回動し、第1嵌合部63cが第1開口62を塞ぐ方向に付勢される。回転部材42が回転し、第1錘63dに対して第1コイルバネ64の圧縮力よりも強い遠心力が作用すると、第1錘63dは第1コイルバネ64の圧縮力に抗して外周方向に移動する。これにより、第1嵌合部63cが内周方向へ移動し、第1開口62との間にオイルが通過する隙間が形成される。この隙間の面積は、第1錘63dに作用する遠心力が強くなるほど増加される。
【0029】
第2排出機構71は、第2開口72と、第2開閉部材73と、第2コイルバネ74を備えている。第2開口72は、円筒壁55の壁厚方向を貫通する矩形状開口である。第2開閉部材73は、第2回動軸75を中心に回動可能に配置され、第2開口72を開閉可能に塞ぐ部材である。第2開閉部材73は、第2回動軸75に嵌合される第2軸受け73aと、第2軸受け73aに接合される第2開閉アーム73bと、第2開閉アーム73bの一端に接合され、第2開口72に嵌合される第2嵌合部73cと、第2開閉アーム73bの他端に接合される第2錘73dを備えている。第2コイルバネ74は、第2錘73dと支持軸57との間に掛け渡され、収縮力によって第2錘73dを支持軸57側に付勢する。
【0030】
回転部材42の静止時において、第2錘73dは、第2コイルバネ74によって支持軸57側に付勢される。これにより、第2開閉部材73は第2回動軸75を中心に回動し、第2嵌合部73cが第2開口72を塞ぐ方向に付勢される。回転部材42が回転し、第2錘73dに対して第2コイルバネ74の圧縮力よりも強い遠心力が作用すると、第2錘73dは第2コイルバネ74の圧縮力に抗して外周方向に移動する。これにより、第2嵌合部73cが内周方向へ移動し、第2開口72との間にオイルが通過する隙間が形成される。この隙間の面積は、第2錘73dに作用する遠心力が強くなるほど増加される。
【0031】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0032】
エンジン1の停止時ではクランク軸2が静止しているので、オイル排出部37が備える回転部材42も静止状態になる。
図3(A),(B)に示すように、回転部材42の静止状態において、第1排出機構61は、第1コイルバネ64によって第1錘63dが支持軸57側に付勢され、第1嵌合部63cが第1開口62を塞ぐ方向に付勢される。同様に、第2排出機構71も、第2コイルバネ74によって第2錘73dが支持軸57側に付勢され、第2嵌合部73cが第2開口72を塞ぐ方向に付勢される。また、オイルポンプ32は停止しているが、オイル連通路41はオイルで満たされている。このため、油孔45aを通じて流入したオイルが、回転部材42の頭部53と軸受け部材45の隙間Sを満たしている。
【0033】
エンジン1が始動され、アイドリングなどの低速回転時には、回転部材42も低速で回転される。この低速回転時において、第1錘63dや第2錘73dに作用する遠心力は、第1コイルバネ64や第2コイルバネ74による付勢力よりも小さい。このため、エンジン1の停止時と同様に、第1嵌合部63cが第1開口62を塞ぐ方向に付勢され、第2嵌合部73cが第2開口72を塞ぐ方向に付勢される。クランク軸2の回転に伴ってオイルポンプ32がオイルを送出し、オイルの圧力が上昇する。ここで、回転部材42の頭部53と軸受け部材45の隙間Sは極めて狭いことから、オイルはこの隙間Sに留まる。従って、オイルポンプ32から送出されたオイルは、クランク軸2やロッカーアーム軸3に供給され、オイル排出部37からは排出されない。
【0034】
クランク軸2の回転数が上昇すると、回転部材42の回転数も上昇される。回転数の上昇に伴い、第1錘63dや第2錘73dに作用する遠心力も強くなる。
図4(A),(B)に示すように、第1錘63dや第2錘73dに作用する遠心力が第1コイルバネ64や第2コイルバネ74の圧縮力よりも高くなると、第1錘63d及び第2錘73dはそれぞれ外周方向に移動する。これにより、第1嵌合部63c及び第2嵌合部73cが内周方向へ移動するので、第1嵌合部63cと第1開口62の間、及び、第2嵌合部73cと第2開口72との間には、それぞれ隙間X1,X2が形成される。
【0035】
オイルポンプ32の動作によってオイルの圧力が上昇しているので、オイル連通路41のオイルは、第1嵌合部63cと第1開口62の隙間X1、及び、第2嵌合部73cと第2開口72の隙間X2を通じて頭部53の内側空間に流入し、頭部53の先端からエンジン1の内部に排出される。このように、オイル連通路41や回転部材42を通じてオイルを排出することで、オイルポンプ32よりも下流側のオイルの圧力を下げることができる。これにより、オイル圧力の適正化を図ることができる。
【0036】
クランク軸2の回転数がさらに上昇すると、第1開口62側の隙間X1、及び、第2開口72側の隙間X2が拡大される。これに伴い、回転部材42(オイル排出部37)を通じて排出されるオイルの量も増える。このため、オイル圧力の過度な上昇を抑制でき、クランク軸の回転数に適したオイル圧力に調整できる。例えば、
図5に符号OP1で示すように、クランク軸2の回転数に比例したオイル圧力に調整できる。加えて、駆動ギア44aと従動ギア52のギア比を変更することにより、符号OP2,OP3で示すように、クランク軸2の回転数とオイル圧力の関係を容易に調整できる。
【0037】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
【0038】
オイル排出部37の構成に関し、前述の実施形態では、回転部材42の頭部53に円筒壁55を設け、第1開口62と第2開口72をそれぞれ、第1開閉部材63と第2開閉部材73で開閉させていたが、この構成に限定されるものではない。回転部材42の回転に応じてオイル連通路41から排出されるオイルの量を調整できれば他の構成であってもよい。
【0039】
また、オイル排出部37の配設場所に関し、前述の実施形態では、エンジン1の外壁近傍に設けられていたが、オイルポンプ32よりもオイル流れ方向の下流側に連通されていれば、他の場所であってもよい。なお、オイルを排出することにより、オイル圧力を調整する観点から、シリンダブロックCB内に設けることが好ましい。
【0040】
回転伝達機構44に関し、クランク軸2の回転を回転部材42に伝達できれば他の構成であってもよい。例えば、複数枚の平歯車を組み合わせてもよいし、チェーンとスプロケットの組み合わせであってもよい。
【0041】
内燃機関に関し、前述の実施形態では、ディーゼルエンジン1を例示したが、オイル供給路を通じてオイルを供給するものであれば、本発明を適用できる。