特許第6550998号(P6550998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6550998処理方法、動作指令生成装置、コンピュータプログラム及び処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6550998
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】処理方法、動作指令生成装置、コンピュータプログラム及び処理システム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/00 20060101AFI20190722BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20190722BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20190722BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C12Q1/00 Z
   C12M1/00 Z
   B25J13/00 Z
   G01N35/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-143352(P2015-143352)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-23024(P2017-23024A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 英治
(72)【発明者】
【氏名】山口 栄
(72)【発明者】
【氏名】宮内 幸平
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−009618(JP,A)
【文献】 特開2015−085490(JP,A)
【文献】 特開2002−322194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 〜 3/10
G01N 35/00 〜 37/00
G01N 1/00 〜 1/34
G01N 33/48 〜 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理を、処理対象に行う処理方法であって、
前記処理対象が内壁面に付着した容器を、前記処理対象に対する処理を行うロボットの備える1又は複数のロボットアームにより、遠心力により前記処理対象を移動させる装置である移動装置に搬送し、
前記移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させ、
前記所定の位置に移動された前記処理対象に対して、前記ロボットアームに把持されたピペットを用いた処理を行い、
前記所定の位置は、前記容器と前記容器の蓋をつなぐヒンジに対して定まる位置であり、
前記容器の内壁面上の前記所定の位置に前記処理対象を移動させる前に、前記移動装置における前記ヒンジの配置を、前記ロボットにより検出し、前記ヒンジの配置を前記ロボットアームにより調整する、
処理方法。
【請求項2】
前記処理は、前記ピペットに収容された液体を前記処理対象にかける処理である、
請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記移動装置における前記ヒンジの配置が定まるように、前記容器を前記ロボットアームにより前記移動装置に搬送する、
請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理対象又は前記処理対象が内壁面に付着した容器に対する処理をそれぞれ表し、処理順番が決定された複数の処理シンボルに基づいて、1又は複数のロボットアームで前記処理対象に対する処理を行うロボットを含む制御対象を制御するジョブの集合体である動作指令を生成する動作指令生成装置であって、
前記複数の処理シンボルのうち、前記処理対象に液体をかけるジョブを表す第1処理シンボルが存在する場合に、前記第1処理シンボルが表すジョブと、前記複数の処理シンボルのうち前記第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが表すジョブと、の間に、前記処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する挿入部を有し、
前記移動ジョブは、遠心力により前記処理対象を移動させる装置である移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させるジョブであり、
前記所定の位置は、前記容器と前記容器の蓋をつなぐヒンジに対して定まる位置であり、
前記生成される動作指令は、前記容器の内壁面上の前記所定の位置に前記処理対象を移動させる前に、前記移動装置における前記ヒンジの配置を、前記ロボットにより検出し、前記ヒンジの配置を前記ロボットアームにより調整するジョブを含む、
動作指令生成装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項4に記載の動作指令生成装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項6】
生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理対象又は前記処理対象が内壁面に付着した容器に対する処理をそれぞれ表し、処理順番が決定された複数の処理シンボルに基づいて、制御対象を制御するジョブの集合体である動作指令を生成する動作指令生成装置と、
1又は複数のロボットアームで前記処理対象に対する処理を行い、前記制御対象に含まれるロボットと、
前記動作指令に基づいて、前記制御対象を制御するロボット制御装置と、を有し、
前記動作指令生成装置は、
前記複数の処理シンボルのうち、前記処理対象に液体をかけるジョブを表す第1処理シンボルが存在する場合に、前記第1処理シンボルが表すジョブと、前記複数の処理シンボルのうち前記第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが表すジョブと、の間に、前記処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する挿入部を有し、
前記移動ジョブは、遠心力により前記処理対象を移動させる装置である移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させるジョブであり、
前記所定の位置は、前記容器と前記容器の蓋をつなぐヒンジに対して定まる位置であり、
前記生成される動作指令は、前記容器の内壁面上の前記所定の位置に前記処理対象を移動させる前に、前記移動装置における前記ヒンジの配置を、前記ロボットにより検出し、前記ヒンジの配置を前記ロボットアームにより調整するジョブを含む、
処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法、動作指令生成装置、コンピュータプログラム及び処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生化学、生物及び生命工学の分野おいて、再現性のある信頼性の高い結果を得るためには、一連の検査や培養、増幅といった処理対象に対してする操作(以降、これらを一まとめにして「実験」と称する。)の個々の作業手順を正確に実行することが必要である。このとき、個々の作業手順を対象の状態に応じて行わなければならない場合がある。
【0003】
作業手順を対象の状態に応じて行わなければならない場合とは、例えば、容器に収容された処理対象が容器の内壁面に付着するなどして不定の位置にあり、特定の薬液を処理対象上に正確にかけなければならない場合等である。一般に、これら対象の状態に応じた作業は、作業者の技量(いわゆる手技)に依存してなされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生化学、生物及び生命工学の分野において、処理対象が容器内の不定の位置にある場合にも、処理対象に対する処理の自動化が可能な処理方法、動作指令生成装置、コンピュータプログラム及び処理システムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の側面による処理方法は、生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理を、処理対象に行う処理方法であって、前記処理対象が内壁面に付着した容器を、前記処理対象に対する処理を行うロボットの備える1又は複数のロボットアームにより、移動装置に搬送し、前記移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させ、前記所定の位置に移動された前記処理対象に対して、前記ロボットアームに把持されたピペットを用いた処理を行う。
【0006】
また、本発明の別の側面による処理方法において、前記移動装置は、遠心力により、前記処理対象を移動させる装置であってもよい。
【0007】
また、本発明の別の側面による処理方法において、前記処理は、前記ピペットに収容された液体を前記処理対象にかける処理であってもよい。
【0008】
また、本発明の別の側面による処理方法において、前記所定の位置は、前記容器と前記容器の蓋をつなぐヒンジに対して定まる位置であってもよい。
【0009】
また、本発明の別の側面による処理方法において、前記移動装置における前記ヒンジの配置が定まるように、前記容器を前記ロボットアームにより前記移動装置に搬送してもよい。
【0010】
また、本発明の別の側面による処理方法において、前記移動装置における前記ヒンジの配置を、前記ロボットにより検出し、前記ヒンジの配置を前記ロボットアームにより調整してもよい。
【0011】
また、本発明の別の側面による動作指令生成装置は、生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理対象又は前記処理対象が内壁面に付着した容器に対する処理をそれぞれ表し、処理順番が決定された複数の処理シンボルに基づいて、1又は複数のロボットアームで前記処理対象に対する処理を行うロボットを含む制御対象を制御するジョブの集合体である動作指令を生成する動作指令生成装置であって、前記複数の処理シンボルのうち、前記処理対象に液体をかけるジョブを表す第1処理シンボルが存在する場合に、前記第1処理シンボルが表すジョブと、前記複数の処理シンボルのうち前記第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが表すジョブと、の間に、前記処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する挿入部を有し、前記移動ジョブは、移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させるジョブである。
【0012】
また、本発明の別の側面によるコンピュータプログラムは、コンピュータを、上述の動作指令生成装置として機能させる。
【0013】
また、本発明の別の側面による処理システムは、生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理対象又は前記処理対象が内壁面に付着した容器に対する処理をそれぞれ表し、処理順番が決定された複数の処理シンボルに基づいて、制御対象を制御するジョブの集合体である動作指令を生成する動作指令生成装置と、1又は複数のロボットアームで前記処理対象に対する処理を行い、前記制御対象に含まれるロボットと、前記動作指令に基づいて、前記制御対象を制御するロボット制御装置と、を有し、前記動作指令生成装置は、前記複数の処理シンボルのうち、前記処理対象に液体をかけるジョブを表す第1処理シンボルが存在する場合に、前記第1処理シンボルが表すジョブと、前記複数の処理シンボルのうち前記第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが表すジョブと、の間に、前記処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する挿入部を有し、前記移動ジョブは、移動装置により、前記処理対象を、前記容器の内壁面上の所定の位置に移動させるジョブである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る処理システムの物理的な構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る動作指令生成装置の物理的な構成を示す構成ブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る動作指令生成装置の機能ブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る動作指令生成装置の挿入部において行われる挿入判定処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る動作指令生成装置に取得されるプロトコルチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る処理システムにより行われる処理方法を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る処理システムに含まれるマイクロチューブを示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る処理システムに含まれる遠心機とマイクロチューブの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発明者の知見によれば、生化学、生物及び生命工学における実験では、処理対象が数μl程度である場合等、少量である場合には、処理対象がマイクロチューブ等の容器の内壁面上に付着して、その付着位置が実験毎に一定しない場合がある。そのような場合、実験を行う者は、処理対象に薬液等の液体をかける処理を行う際に、容器の内壁面に付着した少量な処理対象の位置を目視で確認して、ピペットを処理対象の上方に位置合わせして、処理対象に液体がかかるように調整するなど、高度な技量が要求される。
【0016】
このため、かかる処理をロボット等により自動化することはこれまで困難であった。これに対し、処理対象を撮像し、画像処理によりピペット先端の位置合わせを行うようなロボットシステムを構築することも考えられるが、システムコストが高額となるほか、画像処理による画像認識の確実性が問題となるなど、満足のいくものとはならないおそれがある。
【0017】
そこで、本発明の発明者は、より低コストかつ簡単な制御によって少量な処理対象にピペットを位置合わせすることができ、処理対象に対する処理を行える確実性を向上させることが可能な処理方法、動作指令生成装置、コンピュータプログラム及び処理システムを提供することについて鋭意研究開発を行い、新規かつ独創的な処理方法等を発明するに至った。以下、かかる処理方法等について、実施形態を例示して説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る処理システム200の物理的な構成を示す概略図である。処理システム200は、生化学、生物学及び生命工学のうち少なくとも1つの分野に属する処理対象又は処理対象が内壁面に付着した容器に対する処理をそれぞれ表し、処理順番が決定された複数の処理シンボルに基づいて、制御対象を制御するジョブの集合体である動作指令を生成する動作指令生成装置1を含む。ここで、複数の処理シンボルは、プロトコルを図示したプロトコルチャートに記載されるものであり、プロトコルの内容を視覚的に表現したシンボルである。プロトコルとは、生化学、生物及び生命工学の分野における、一連の検査や培養、増幅といった処理対象に対してする操作(実験)の作業手順や条件である。プロトコルは、実験について再現性のある結果を得、或いはその実験結果の検証を行う上で必要な情報である。動作指令生成装置1自体は、専用の機器であってもよいが、ここでは一般的なコンピュータを使用して実現されている。すなわち、市販のコンピュータにおいて、当該コンピュータを動作指令生成装置1として動作させるコンピュータプログラムを実行することによりかかるコンピュータを動作指令生成装置1として使用する。かかるコンピュータプログラムは、一般にアプリケーションソフトウェアの形で提供され、コンピュータにインストールされて使用される。当該アプリケーションソフトウェアは、CD−ROMやDVD−ROMその他のコンピュータ読み取り可能な適宜の情報記録媒体に記録されて提供されてよく、また、インターネット等の各種の情報通信ネットワークを通じて提供されてもよい。あるいは、情報通信ネットワークを通じて遠隔地にあるサーバによりその機能が提供される、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現されてもよい。
【0019】
処理システム200は、動作指令生成装置1により生成された動作指令に基づいて、制御対象を制御するロボット制御装置2を含む。ロボット制御装置2は、少なくともロボット3を制御対象とする。ロボット3は、多関節の双腕ロボットであり、ロボットアームにより、処理対象に対する処理を行う。ロボット3は、ロボットアームによりピペット4を把持し操作する等、図示しあるいは図示しない実験器具を操作することができる。また、ロボット3は、マイクロチューブ6をチューブラック5から作業場所であるメインラック7に移動させたり、ボルテックスミキサー8や遠心機9等へ移動させたりするなど、図示しあるいは図示しない各種容器を移動させることができる。
【0020】
本実施形態に係る処理システム200は、移動装置として遠心機9を含む。遠心機9は、一般に、遠心力を作用させ、比重や密度の差を利用して容器内の収容物を分離する装置であるが、ここでは、マイクロチューブ6を収容した状態で回転することで、遠心力を作用させ、マイクロチューブに収容された処理対象を特定の位置、すなわち回転外側の位置に移動させる装置として用いる。移動装置として遠心機9を採用することで、処理対象に直接触れることなく処理対象を移動することができる。そのため、処理対象に衝撃を加えたり、容器に異物を混入させたりして処理対象を変質させるおそれが少なく、実験を確実に実行することのできる処理システム200が得られる。なお、移動装置は、容器の内壁面に付着した処理対象を、容器の内壁面上の所定の位置に移動させるものであればどのような装置でもよい。例えば、処理対象が磁力や静電気力の作用を受けるものである場合、移動装置として磁力や静電気力により処理対象を移動させるものを採用してもよい。
【0021】
図1に示す例では、ボルテックスミキサー8と、遠心機9等が含まれるが、これらは実験を行う場合に用いられる器具の一例であり、これらの器具に加えて又は換えて、他の器具が含まれてもよい。例えば、処理システム200には、ペトリ皿を保管するラックや、マグネットラック等が含まれてもよい。また、本実施形態に係るロボット3は双腕ロボットであるが、処理システム200が有する1又は複数のロボットアームは、1台のロボットに備えられたものでなくてもよい。例えば、複数のロボットアームが別個独立に備えられて、ロボット制御装置2により協調して動作するように制御されてもよい。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る動作指令生成装置1の物理的な構成を示すブロック図である。図2に示した構成は、動作指令生成装置1として用いられる一般的なコンピュータを示しており、CPU(Central Processing Unit)1a、RAM(Random Access Memory)1b、外部記憶装置1c、GC(Graphics Controller)1d、入力デバイス1e及びI/O(Inpur/Output)1fがデータバス1gにより相互に電気信号のやり取りができるよう接続されている。ここで、外部記憶装置1cはHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の静的に情報を記録できる装置である。またGC1dからの信号はフラットパネルディスプレイ等の、使用者が視覚的に画像を認識するモニタ1hに出力され、画像として表示される。入力デバイス1eはキーボードやマウス、タッチパネル等の、ユーザが情報を入力するための機器であり、I/O1fは動作指令生成装置1が外部の機器と情報をやり取りするためのインタフェースである。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係る動作指令生成装置1の機能ブロック図である。なお、ここで示した機能ブロックは、動作指令生成装置1が有する機能に着目して示したものであり、必ずしも各機能ブロックに1対1に対応する物理的構成が存在しなければならないわけではない。いくらかの機能ブロックは動作指令生成装置1のCPU1a等の情報処理装置が特定のソフトウェアを実行することにより実現され、またいくらかの機能ブロックは動作指令生成装置1のRAM1b等の情報記憶装置に特定の記憶領域が割り当てられることにより実現されてよい。
【0024】
動作指令生成装置1は、ユーザからの各種の入力を受け付ける入力部10と、プロトコルを図示したプロトコルチャートを取得するプロトコルチャート取得部11とを有する。また、動作指令生成装置1は、入力部10により受けつけられた入力、及びプロトコルチャート取得部11により取得されたプロトコルチャートに基づいて動作指令を生成する動作指令生成部12を有する。さらに、動作指令生成装置1は、生成中及び生成された動作指令の電子データを記憶する動作指令記憶部17と、生成された動作指令をロボットが読み取り可能な形式の電子ファイルとして出力する動作指令出力部18と、動作指令記憶部17に記憶された動作指令の電子データを成形しモニタ1hに表示する動作指令表示部19とを有する。
【0025】
入力部10は、通常は図2に示した入力デバイス1eにより構成されるが、動作指令生成装置1がクラウドコンピューティングに用いられるアプリケーションサーバである場合には、遠隔地にある端末上でのユーザの操作情報が入力されるI/O1fが該当することになる。
【0026】
動作指令生成部12には動作指令を生成するための種々の機能ブロックが含まれる。詳細は後ほど動作指令の生成手順を説明する際に合わせて説明するが、本実施形態に係る動作指令生成部12は、プロトコルチャートに記載された複数の処理シンボルに基づいて、ロボット3を含む制御対象を制御するジョブを生成するジョブ生成部13を含む。また、動作指令生成部12は、移動装置によって処理対象を移動させる移動ジョブを適宜挿入する挿入部14を含む。挿入部14は、第1処理シンボル判定部14aと、第2処理シンボル特定部14bとを含む。挿入部14は、複数の処理シンボルのうち、処理対象に液体をかけるジョブを表す第1処理シンボルが存在する場合に、第1処理シンボルが表すジョブと、複数の処理シンボルのうち第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが表すジョブと、の間に、処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する。
【0027】
なお、本明細書において、動作指令とは、単一のジョブ又は複数のジョブが組み合わされたジョブの集合体であって、処理対象が収容される容器に対する一単位のものとして認識される処理を指示する指令をいうものとする。動作指令は、プロトコルチャートに表された個々のシンボルをロボットの単位動作であるジョブに変換し、変換されたジョブの実行順を加味しつつ統合することで生成される。
【0028】
図4は、本発明の実施形態に係る動作指令生成装置1の挿入部14において行われる挿入判定処理を示すフローチャートである。挿入部14は、プロトコルチャート取得部11によりプロトコルチャートが取得されると、処理対象は少量であるか否かを判定する(ST100)。ここで、処理対象が少量であるか否かは、例えば、扱われる処理対象の容量が10μl以下であるか否かによって判定してよい。また、ユーザによって閾値を設定できることとしてもよい。
【0029】
扱われる処理対象の容量が少量である場合、挿入部14の第1処理シンボル判定部14aによって、液体をかける処理を表す第1処理シンボルがプロトコルチャートに含まれるか否かが判定される(ST101)。第1処理シンボルとしては、「ADD」と表された液体の追加処理を示す処理シンボルが該当する。具体的には、次図において例を示して説明する。
【0030】
第1処理シンボルがプロトコルチャートに含まれている場合、挿入部14の第2処理シンボル特定部14bによって、第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルが特定される(ST102)。複数の処理シンボルの処理順番については、次図において例を示して説明する。
【0031】
挿入部14は、第2処理シンボルが特定された後、第1処理シンボルが表すジョブと、第2処理シンボルが表すジョブとの間に、処理対象を移動させる移動ジョブを挿入する(ST103)。以上で挿入部14による挿入判定処理は終了する。
【0032】
図5は、本発明の実施形態に係る動作指令生成装置1に取得されるプロトコルチャートの例である。同図に示すプロトコルチャートの例は、「Tube Rack」(チューブラック5)に収容された「Tube 1」(第1のマイクロチューブ)を表す初期シンボル100と、チューブラック5に収容された「Tube 2」(第2のマイクロチューブ)を表す初期シンボル100とを含む。初期シンボル100は、マイクロチューブ6を、チューブラック5から、作業場所であるメインラック7に搬送する処理を表す。初期シンボル100は、それぞれマイクロチューブをチューブラック5に戻すことを表す最終シンボル101に、順序線102によって接続される。複数の処理シンボルの処理順番は、順序線102によって決定される。同図に示すプロトコルチャートの例であれば、上から下に向かって処理順番が決定される。また、上下方向について等しい位置に配置された処理シンボルについては、左に配置された処理シンボルほど処理順番が先であり、右に配置された処理シンボルほど処理順番が後であると決定される。
【0033】
同図のプロトコルチャートの例は、第1のマイクロチューブについての順序線102から第2のマイクロチューブについての順序線102へ伸びる移送線104を含む。移送線104には、「TRANSFER」と表された移送シンボル103が伴う。移送シンボル103は、「5[μl]」と記載され、第1のマイクロチューブに収容された処理対象のうち5[μl]を第2のマイクロチューブに移送することを表す。挿入部14は、本例のプロトコルチャートにおいて、処理対象が5[μl]移送されることを読み取り、扱われる処理対象が少量であると判断する。
【0034】
本例のプロトコルチャートは、第2のマイクロチューブについての順序線102に接続するように表された追加線106を含む。追加線106には「ADD」と表された追加シンボル105が接続され、第2のマイクロチューブに「Solution A」を「20[μl]」追加することを表す。本例のプロトコルチャートの場合、Solution Aが加えられる前に、第2のマイクロチューブには、第1のマイクロチューブから処理対象が移送されている。処理対象は少量であり、ピペットを処理対象の上方に正確に位置合わせしなければ、「Solution A」が処理対象にかからず、意図した反応が得られない場合がある。
【0035】
第1処理シンボル判定部14aは、本例のプロトコルチャートに含まれる処理シンボルのうち、「ADD」と表された追加シンボル105を、処理対象に液体をかける処理を表す第1処理シンボルであると判定する。次に、第2処理シンボル特定部14bは、第1処理シンボルの1つ前の処理順番である第2処理シンボルを特定する。ここで、移送シンボル103は、第1処理シンボルである追加シンボル105の1つ前の処理順番であるから、第2処理シンボル特定部14bは、移送シンボル103が第2処理シンボルであると特定する。
【0036】
そして、本例のプロトコルチャートに含まれる処理シンボルが表すジョブがジョブ生成部13によって生成される際に、挿入部14は、移送シンボル103が表す処理対象の移送ジョブと、追加シンボル105が表す処理対象にSolution Aを20[μl]かけるジョブとの間に、処理対象を移動装置である遠心機9によって移動させる移動ジョブを挿入する。処理対象を移動させる位置は、マイクロチューブ6等の容器の内壁面上の所定の位置である。
【0037】
本実施形態に係る動作指令生成装置1によれば、少量の処理対象に液体をかけるジョブが行われる前に、処理対象を所定の位置に移動させる移動ジョブが自動で挿入される。そのため、ユーザがプロトコルチャートに明示的に移動ジョブを記載せずとも、処理対象が所定の位置に移動されて、ピペットによる処理対象に対する処理を確実に行えるようになる。
【0038】
図6は、本発明の実施形態に係る処理システム200により行われる処理方法を示すフローチャートである。同図に示す処理方法のフローチャートは、図5に示すプロトコルチャートの例から、動作指令生成装置1により生成された動作指令に基づいて、処理システム200が動作する場合に行われる処理方法の流れを示す。
【0039】
はじめに、ロボット3のロボットアームに把持されたピペット4によって、第1のマイクロチューブから処理対象を吸引するジョブが行われる(ST200)。なお、処理対象を吸引する前に、第1のマイクロチューブ及び第2のマイクロチューブを、作業場所であるメインラック7に移送するジョブが行われる。第1のマイクロチューブをメインラック7に移送するジョブは、「Tube 1」の初期シンボル100に対応しており、第2のマイクロチューブをメインラック7に移送するジョブは、「Tube 2」の初期シンボル100に対応している。
【0040】
次に、移送シンボル103に対応する移送ジョブが行われる。すなわち、ピペット4により吸引された処理対象を5[μl]第2のマイクロチューブに吐出するジョブが行われる(ST201)。前述したように、移送シンボル103は第2処理シンボルと特定されており、第1処理シンボルである追加シンボル105が表すジョブとの間に移動ジョブが挿入される。よって、処理対象を第1マイクロチューブから第2マイクロチューブへ移送する移送ジョブの次に移動ジョブが行われる。
【0041】
移動ジョブにおいては、はじめに、ロボット3のロボットアームにより第2のマイクロチューブが把持され、遠心機9へ搬送される(ST202)。ここで、搬送される第2のマイクロチューブは、処理対象が内壁面に付着した容器である。
【0042】
第2のマイクロチューブが遠心機9に配置されると、遠心機9による遠心処理が実行される(ST203)。遠心処理は、遠心力により、処理対象を、第2のマイクロチューブの内壁面上の所定の位置に移動させる処理である。
【0043】
その後、第2のマイクロチューブは、ロボットアームにより把持され、遠心機9から作業場所であるメインラック7に搬送される(ST204)。以上のST202〜ST204において行われる一連の処理が、移動ジョブにおいて行われる処理である。移動ジョブが行われることで、処理対象が、容器の内壁面上の所定の位置に移動される。本実施形態に係る処理方法によれば、移動ジョブが行われることで、処理対象が所定の位置に移動され、ピペットを当該所定の位置に位置合わせすることで、処理対象に対して確実に処理が行える。また、処理対象が付着する容器の内壁面上の位置は実験毎に不定であるが、移動ジョブを行うことで、付着位置が所定の位置に定まるため、画像認識等によって処理対象の位置を特定する必要がなく、処理システム200の構成が簡素となり、ロボット3の制御が簡単化し、処理対象に対する処理の自動化が容易となる。そのため、本実施形態に係る処理方法によれば、低コストで正確に実験を行うことができる。また、ロボット3による確実なピペット処理と併せて、再現性の高い実験を行うことができる。
【0044】
本実施形態に係る処理システム200では、処理対象を所定の位置に移動させる移動装置として遠心機9を採用する。遠心機9は、生化学、生物及び生命工学における実験において一般的に使用される機器であり、処理対象を移動させるためにのみ導入されるものではない。そのため、遠心機9を移動装置として用いることで、処理システム200に新たな機器を加える必要がなくなり、コストを低く抑えることができる。
【0045】
移動ジョブが行われた後、ロボット3のロボットアームに把持されたピペット4を所定の位置に位置合わせして、処理対象にSolution Aを20[μl]かける処理が行われる(ST205)。ピペット4に収容された液体を処理対象にかける処理は、ロボットアームに把持されたピペット4を用いた処理の一種である。ピペット4を用いた処理として、その他に、例えばピペット4によって少量の処理対象を吸引する処理がある。その場合であっても、事前に移動ジョブを実行して、処理対象を所定の位置に移動させることで、処理対象を確実に吸引することができるようになる。
【0046】
本実施形態に係る処理方法によれば、処理対象が容器の内壁面上の所定の位置に移動されるため、ピペットを処理毎に異なる位置に位置合わせする必要がなくなり、所定の位置に位置合わせすることで、処理対象に確実に液体をかけることができる。そのため、実験の精度、確実性が増し、ひいては実験の再現性が向上する。
【0047】
図7は、本発明の実施形態に係る処理システム200に含まれるマイクロチューブ6を示す図である。マイクロチューブ6は、収容部6aと、蓋6bと、ヒンジ6cとを含む。また、同図では、処理対象が移動される所定の位置6dの一例を図示している。収容部6aは、処理対象等を収容するマイクロチューブ6の本体部分である。蓋6bは、収容部6aの開口を塞ぐように嵌めこまれる部材で、収容部6aとヒンジ6cによって繋がれている。ヒンジ6cは、収容部6aと蓋6bを繋ぐ部材である。
【0048】
所定の位置6dは、収容部6aと蓋6bをつなぐヒンジ6cに対して定まる位置である。本例の所定の位置6dは、収容部6aの内壁面上に位置し、マイクロチューブ6を水平方向のヒンジ6c側から見た場合に、ヒンジ6cの鉛直下方向に位置する。また、マイクロチューブ6を上方から(蓋6b側から)見た場合、所定の位置6dは、収容部6aの内壁面上であってヒンジ6c側に位置する。
【0049】
本実施形態に係る処理方法によれば、外部から視認できるヒンジ6cを基準として、処理対象が移動される所定の位置6dを確認することができる。そのため、マイクロチューブ6が不透明である等、外部から内部を視認できない事情がある場合や、ユーザがロボット3による行われる実験を確認する場合に、処理対象が移動される所定の位置を容易に把握することができる。
【0050】
図8は、本発明の実施形態に係る処理システム200に含まれる遠心機9とマイクロチューブ6の位置関係を示す図である。同図は、マイクロチューブ6が配置された遠心機9の断面図であり、ロボット3によってマイクロチューブ6が遠心機9に配置された状態の例を示している。
【0051】
本実施形態に係る処理方法では、移動装置である遠心機9におけるヒンジ6cの配置が定まるように、容器であるマイクロチューブ6をロボットアームにより遠心機9に搬送する。ロボット3は、マイクロチューブ6を把持する際に、ヒンジ6cの方向が定まるように把持し、遠心機9におけるヒンジ6cの配置が定まるように、マイクロチューブ6を遠心機9にセットする。
【0052】
処理対象が移動される所定の位置6dは、遠心機9による遠心力と重力とが釣り合う位置となり、遠心機9の半径方向であって、遠心機9の中心軸から最も遠い位置となる。本例の場合、マイクロチューブ6は、ヒンジ6cが遠心機9の半径方向を向き、かつヒンジ6cが上側を向くように配置される。このようにマイクロチューブ6を配置する場合、所定の位置6dは、ヒンジ6c側の内壁面上に位置することとなる。
【0053】
本実施形態に係る処理方法によれば、マイクロチューブ6のヒンジ6cが一定の向きを向くように遠心機9にセットされ、処理対象が移動される位置を予め確認することができる。また、ヒンジ6cの向きを所望の向きに設定し、ロボット3による処理対象に対する処理が行い易いように、処理対象の移動先を変更することができる。
【0054】
遠心機9に配置されるマイクロチューブ6のヒンジ6cの向きが一定しない場合、所定の位置6dも一定しないこととなるため、本実施形態に係る処理方法では、移動装置である遠心機9におけるヒンジ6cの配置を、ロボット3により検出し、ヒンジ6cの配置をロボットアームにより調整する。ここで、ヒンジ6cの配置の検出は、ロボット3に備えられたレーザ検出器等の適宜のセンサによって行うことができる。あるいは、レーザ検出器等のセンサを遠心機9又はその近傍(例えば上方等)に固定的に設けておき、かかるセンサの検出結果に応じてロボット3がヒンジ6cの向きを調整するようにしてもよい。
【0055】
本実施形態に係る処理方法によれば、ヒンジ6cの配置を調整することで、遠心機9におけるマイクロチューブ6の配置が正され、処理対象が意図しない位置に移動することが防止される。そのため、処理対象をより確実に所定の位置に移動させることができ、実験の精度、確実性をより向上させることができる。
【0056】
以上説明した実施形態の構成は具体例として示したものであり、本明細書にて開示される発明をこれら具体例の構成そのものに限定することは意図されていない。当業者はこれら開示された実施形態に種々の変形、例えば、機能や操作方法の変更や追加等を加えてもよく、また、フローチャートに示した制御は、同等の機能を奏する他の制御に置き換えてもよい。本明細書にて開示される発明の技術的範囲は、そのようになされた変形をも含むものと理解すべきである。
【符号の説明】
【0057】
1 動作指令生成装置、1a CPU、1b RAM、1c 外部記憶装置、1d GC、1e 入力デバイス、1f I/O、1g データバス、1h モニタ、2 ロボット制御装置、3 ロボット、4 ピペット、5 チューブラック、6 マイクロチューブ、6a 収容部、6b 蓋、6c ヒンジ、6d 所定の位置、7 メインラック、8 ボルテックスミキサー、9 遠心機、10 入力部、11 プロトコルチャート取得部、12 動作指令生成部、13 ジョブ生成部、14 挿入部、14a 第1処理シンボル判定部、14b 第2処理シンボル特定部、17 動作指令記憶部、18 動作指令出力部、19 動作指令表示部、100 初期シンボル、101 最終シンボル、102 順序線、103 移送シンボル、104 移送線、105追加シンボル、106 追加線、200 処理システム。
図1
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