(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定対象の電磁放射線を散乱する散乱体として機能する散乱体検出器と、前記電磁放射線を吸収する吸収体として機能する吸収体検出器とを備え、前記散乱体検出器と前記吸収体検出器のそれぞれが、半導体基板と前記半導体基板の第1主面上に行列に並んで配置された複数の画素電極とを含み、前記散乱体検出器と前記吸収体検出器のそれぞれの前記複数の画素電極が、隣接する2つの画素電極の中心の距離が前記電磁放射線のコンプトン散乱で発生する反跳電子の平均自由工程よりも小さくなるように配置された放射線測定装置を用いた放射線測定方法であって、
前記散乱体検出器のいずれかでコンプトン散乱が発生し、前記散乱体検出器のいずれかにおけるコンプトン散乱で発生した反跳電子がコンプトン散乱が発生した前記散乱体検出器の内部において前記半導体基板の面内方向の成分を有するような方向に跳ね飛ばされ、前記コンプトン散乱によって散乱された光子が前記吸収体検出器のいずれかにおいて吸収される光電吸収が発生するイベントを前記散乱体検出器と前記吸収体検出器とから得られる信号に基づいて抽出するステップと、
抽出された前記イベントのそれぞれについて、前記反跳電子が跳ね飛ばされる反跳方向に基づいて前記電磁放射線の入射方向を特定するステップ
とを具備し、
前記散乱体検出器は、更に、前記半導体基板の前記第1主面に対向する第2主面上に配置された複数の裏面電極を備えており、
前記散乱体検出器の前記複数の裏面電極のそれぞれは、前記散乱体検出器の前記複数の画素電極の複数に対向するように配置され、
前記散乱体検出器それぞれにおいて、前記複数の裏面電極の数が前記複数の画素電極の数よりも少なく、
前記イベントを前記散乱体検出器と前記吸収体検出器とから得られる信号に基づいて抽出するステップが、
前記散乱体検出器の前記複数の画素電極から読み出された第1アナログ信号から画素電極測定データを生成するステップと、
前記画素電極測定データを一時保存領域に一時的に保存するステップと、
前記散乱体検出器の前記複数の裏面電極から読み出された第2アナログ信号から裏面電極測定データを生成するステップと、
前記画素電極測定データのうち前記裏面電極測定データに応じて選択された選択画素電極測定データを前記一時保存領域から読み出すステップ
とを具備し、
前記イベントの抽出と前記電磁放射線の入射方向の特定とが、前記一時保存領域から読み出された前記選択画素電極測定データに基づいて行われる
放射線測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下の説明において、同一又は類似する構成要素は、同一又は対応する参照符号を用いて参照されることに留意されたい。
【0029】
(第1の実施形態)
図4は、本発明の第1の実施形態におけるコンプトンカメラ20の装置構成を示すブロック図である。
図4に示されているように、本実施形態のコンプトンカメラ20は、積層された複数の検出器モジュール11A、11Bと、演算装置12と、表示装置13とを備えている。
【0030】
検出器モジュール11Aは、散乱体として機能する半導体検出器を備えたモジュールであり、検出器モジュール11Bは、吸収体として機能する半導体検出器を備えたモジュールである。以下において、散乱体として機能する半導体検出器は、散乱体検出器10Aといい、吸収体として機能する半導体検出器は、吸収体検出器10Bということがある。また、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bを総称して半導体検出器10ということがある。検出器モジュール11Aは、測定しようとする電磁放射線(例えば、ガンマ線やX線)の入射側に位置しており、検出器モジュール11Bは、検出器モジュール11Aの後方に位置している。
【0031】
演算装置12は、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bから読み出されたアナログ信号から得られる測定データに対してデータ処理を行い、線源の空間的分布を算出する。演算装置12は、記憶装置12aを有しており、測定データその他のデータ処理に必要なデータを記憶装置12aに記憶する。表示装置13は、コンプトンカメラ20のユーザインタフェースとして用いられる。表示装置13は、例えば、演算装置12によって算出された線源の空間的分布を表示するために用いられる。
【0032】
図5は、散乱体検出器10Aを備える検出器モジュール11Aの構成を示すブロック図である。なお、吸収体検出器10Bを備える検出器モジュール11Bは、散乱体検出器10Aが吸収体検出器10Bに置換されていることを除き、検出器モジュール11Aと同様の構成を有している。
図5に図示されているように、検出器モジュール11Aは、散乱体検出器10Aに加え、信号処理IC(integrated circuit)21と、インターフェース22とを備えている。
【0033】
図6〜
図8は、本発明の一実施形態における散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの構成を概念的に示す図である。ここで、
図6は、半導体検出器10の構成を示す上面図であり、
図7は、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの構成を示す下面図である。また、
図8は、A−A断面(
図6、
図7参照)における散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの構成を示す断面図である。なお、以下では、XYZ直交座標系を用いて説明を行い、方向をXYZ直交座標系の座標軸の方向として示すことがある。
【0034】
図6〜
図8に図示されているように、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bのそれぞれは、半導体基板1を備えている。半導体基板1は、例えば、CdTeやシリコンのような半導体で形成される。ここで、散乱体検出器10Aでは、コンプトン散乱を起こしやすくなるように、半導体基板1が原子番号の小さい材料(例えば、シリコン)で形成される。一方、吸収体検出器10Bでは、半導体基板1が、原子番号が大きい材料(例えば、CdTe)で形成される。なお、本実施形態では、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの構成は、半導体基板1の材料が異なる点以外、同一である。
【0035】
半導体基板1の表側主面1aには、複数の画素電極2が形成されており、裏側主面1bには、裏面電極3が形成されている。ここで、表側主面1a、裏側主面1bは、半導体基板1の有する面のうち、面積が最も大きい2つの面であり、互いに対向している。本実施形態では、表側主面1a、裏側主面1bは、XZ平面に平行である。
【0036】
図6に図示されているように、画素電極2は、行列に並んで配置されており、いわゆる「ピクセル型」検出器を構成している。本実施形態では、画素電極2のそれぞれは、矩形、より具体的には正方形の平面形状を有している。裏面電極3は、該複数の画素電極2に対向するように設けられている。半導体基板1の、各画素電極2と裏面電極3とで挟まれた部分のそれぞれは、画素を構成している。各画素において発生した電荷の量に対応するアナログ信号が各画素電極2から得られる。なお、
図6〜
図8には、単一の裏面電極3が半導体基板1の裏側主面1bに接合されている構成が図示されているが、後に詳細に議論されるように、複数の裏面電極3が形成される構成も可能である。
【0037】
図5に戻り、信号処理IC21は、散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bの各画素電極2から読み出したアナログ信号を処理する信号処理部として動作する。信号処理IC21は、各フレーム期間において散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bの全ての画素電極2からアナログ信号を同時に読み出す。「フレーム期間」とは、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの全ての画素電極2からアナログ信号が一度読み出される期間である。各フレーム期間の長さが、各画素電極2からアナログ信号を読み出す周期となる。信号処理IC21は、更に、画素電極2から読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って該アナログ信号の信号レベルを示す測定データを生成する。散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bの各画素電極2から読み出されたアナログ信号から得られた測定データを、以下、「画素電極測定データ」ということがある。各信号処理IC21は、散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データ(より厳密には、散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bの画素電極2から読み出されたアナログ信号から生成された画素電極測定データ)を、インターフェース22を介して演算装置12に送信する。信号処理IC21は、更に、散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bの裏面電極3を所望の電位に駆動する機能も有している。
【0038】
インターフェース22は、信号処理IC21と演算装置12との間でデータのやり取りを行う機能を有している。詳細には、インターフェース22は、信号処理IC21から演算装置12に画素電極測定データを転送し、また、信号処理IC21を制御する制御データを演算装置12から信号処理IC21に転送する。
【0039】
本実施形態のコンプトンカメラ20では、コンプトン散乱で発生する反跳電子の反跳方向、即ち、反跳電子が跳ね飛ばされる方向を用いて電磁放射線(例えば、ガンマ線及びX線)の入射方向を特定し、線源の空間的分布を算出するように構成される。より具体的には、本実施形態のコンプトンカメラ20では、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、散乱体検出器10Aのいずれかでコンプトン散乱が発生し、該コンプトン散乱で発生した反跳電子が、コンプトン散乱が発生した散乱体検出器10Aの内部において半導体基板1の面内方向の成分を有するような方向に跳ね飛ばされ、コンプトン散乱によって散乱された光子が吸収体検出器10Bのいずれかにおいて吸収される光電吸収が発生するイベントが抽出される。このようなイベントについて、反跳電子の反跳方向を用いて電磁放射線の入射方向が特定され、更に、線源の空間的分布が算出される。
【0040】
反跳電子の反跳方向を用いて電磁放射線の入射方向の絞り込みを行う手法を採用する場合、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bの空間分解能を向上させることが求められる。反跳電子の反跳方向を特定するために求められる空間分解能を実現するために、本実施形態では、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bの画素電極2のピッチ、即ち、隣接する画素電極2の中心の間の距離が、測定しようとする電磁放射線のコンプトン散乱で発生する反跳電子の平均自由工程に応じて調節される。
図6では、画素電極2のピッチが記号d
PIXELとして図示されている。ここで、「画素電極2の中心」とは、平面形状における重心を意味しており、画素電極2が矩形(又は正方形)である場合には、対角線の交点と一致する。
【0041】
詳細には、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bそれぞれの画素電極2は、画素電極2のピッチが、反跳電子の平均自由工程よりも小さくなるように配置される。画素電極2のピッチは、反跳電子の平均自由工程よりも十分小さいことが好ましく、より具体的には、反跳電子の平均自由工程の1/5以下、より好適には、1/10以下であることが好ましい。ここで、反跳電子の平均自由工程は、入射する電磁放射線(例えば、ガンマ線又はX線)のエネルギーによって定まるパラメータである。0.3〜2.0MeVのエネルギーのガンマ線の測定を行う場合、反跳電子の平均自由工程は、100μm〜数百μmであり、画素電極2のピッチは、20μm以下であることが好ましく、特に、10〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0042】
続いて、本実施形態のコンプトンカメラ20の動作について説明する。
図9は、本実施形態のコンプトンカメラ20において線源の空間的分布を算出する手順を示すフローチャートである。
【0043】
ステップS01:
各検出器モジュール11A、11Bにより、電磁放射線が入射したフレーム期間の画素電極測定データが逐次に取得され、演算装置12の記憶装置12aに格納される。詳細には、下記のようにして画素電極測定データが取得される。
【0044】
各検出器モジュール11A、11Bの信号処理IC21は、各フレーム期間において散乱体検出器10A又は各吸収体検出器10Bの各画素電極2からアナログ信号を読み出し、読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って画素電極測定データを生成する。信号処理IC21は、生成した画素電極測定データをインターフェース22を介して演算装置12に転送する。信号処理IC21から演算装置12に送られた画素電極測定データは、演算装置12の記憶装置12aに格納される。
【0045】
ステップS02:
散乱体検出器10Aを搭載する検出器モジュール11Aから得られた画素電極測定データから、コンプトン散乱により発生した反跳電子の飛跡が特定される。例えば、
図10に図示されているように、画素電極測定データから、反跳電子が、あるフレーム期間において、ある散乱体検出器10Aの連続して位置する画素、例えば、
図10では画素電極2a、2b、2cで形成される画素を通過したことを検出することができる。この場合、散乱体検出器10Aの内部における反跳電子の飛跡が、画素電極2aから画素電極2cに到達する飛跡であると特定することができる。また、画素電極測定データから、あるフレーム期間における、ある散乱体検出器10Aの内部での反跳電子の飛跡が、単一の画素の内部で完結している(例えば、反跳電子が当該画素から散乱体検出器10Aの外部に飛び出した場合が該当する)ことを検出することもできる。
【0046】
ステップS03:
演算装置12の記憶装置12aに格納されている画素電極測定データから、コンプトンコーンの再構成、即ち、電磁放射線の入射方向の特定が行われるべきイベントが抽出される。より詳細には、ステップS03では、
(1)ある散乱体検出器10Aにおいて電磁放射線の光子のコンプトン散乱が発生し、その後、該コンプトン散乱で散乱された光子がある吸収体検出器10Bに光電吸収によって吸収され、且つ、
(2)該コンプトン散乱で発生した反跳電子の反跳方向が、該散乱体検出器10Aの内部において半導体基板1の面内方向の成分を有するような方向であるイベント
が抽出される。このようなイベントの抽出には、ステップS02で算出された反跳電子の飛跡が参照される。例えば、反跳電子の飛跡が、複数の連続して位置する複数の画素を通過していれば、反跳電子の反跳方向が半導体基板1の面内方向の成分を有するような方向であると特定することができる。
【0047】
ステップS03におけるイベントの抽出においてステップS02において算出された反跳電子の飛跡を参照することは、画素電極測定データのイベントへの対応付けの容易化の観点でも好ましい。現在、一般的な電磁放射線(ガンマ線、X線等)の測定手法では、測定データのイベントへの対応付けに困難性が存在する。特に、電磁放射線の強度が非常に強い環境では、複数の電磁放射線が同時に入射する事態が発生し得るので、測定データのイベントへの対応付けの問題は一層に深刻化する。このため、一般的な電磁放射線の測定手法では、電磁放射線の入射を検出する毎に電磁放射線の測定が停止される。即ち、電磁放射線の入射を検出するとトリガが発生され、測定データの収集が一時的に停止される。その後、測定データを読み出してデータ処理が行われ、更に、データ処理の処理系をリセットした後で測定データの収集が再開される。このような手順では、デッドタイム(電磁放射線を測定できない時間)が発生し、電磁放射線の測定の効率が低下する。
【0048】
一方、本願発明では、反跳電子の飛跡の情報を用いることにより、同一イベントに対応する画素電極測定データの特定を容易に行うことができる。このため、画素電極測定データを連続的に取得しながら電磁放射線の測定を行うことができる。
【0049】
加えて、反跳電子の飛跡を参照することは、中性子の入射が多い環境、例えば、宇宙空間においてコンプトンカメラ20を用いる場合におけるノイズ低減に有用である。中性子が散乱体検出器10A又は吸収体検出器10Bに入射した場合、入射した中性子は、半導体基板1を構成する材料の原子核により弾性散乱されるので、反跳電子は発生しない。よって、反跳電子の飛跡が存在しないイベントを除外することでノイズを低減することができる。
【0050】
ステップS04:
ステップS03において抽出されたイベントについて、コンプトンコーンの再構成、即ち、電磁放射線の入射方向の特定が行われる。コンプトンコーンの再構成は、演算装置12の記憶装置12aに格納されている画素電極測定データに基づいて行われる。まず、抽出された各イベントにおける、当該散乱体検出器10Aにおいてコンプトン散乱が発生した位置X1、該コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1、当該吸収体検出器10Bにおいて光電吸収が発生した位置X2、及び、光電吸収によって吸収された光子のエネルギーE
2が算出される。
【0051】
更に、抽出された各イベントについて、該コンプトン散乱における電磁放射線の散乱角θが算出される。電磁放射線の散乱角θの算出は、上記の式(1)、(2)、又は、式(1)、(2)と等価な式に基づいて行われる。
【0052】
このようにして得られたコンプトン散乱が発生した位置X1、該コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1、光電吸収が発生した位置X2、光電吸収によって吸収された光子のエネルギーE
2、及び、電磁放射線の散乱角θから、各イベントについて第1のコンプトンコーンを再構成することができる。
【0053】
更に、抽出された各イベントについて、当該散乱体検出器10Aの内部における反跳電子の反跳方向に基づいて第2のコンプトンコーンが再構成される。ここで、反跳電子の反跳方向は、ステップS02で算出された反跳電子の飛跡から得ることができる。演算装置12は、各イベントについて再構成された第1のコンプトンコーン及び第2のコンプトンコーンから、電磁放射線の入射方向を円弧として特定する。演算装置12は、このようにして特定した電磁放射線の入射方向に関する情報を含む入射方向データを生成し、演算装置12の記憶装置12aに格納する。
【0054】
ステップS05:
演算装置12は、ステップS04において得られた入射方向データに基づいて線源の空間的分布を算出し、更に、線源の空間的分布を示す線源分布画像を生成する。演算装置12は、生成した線源分布画像を、演算装置12のユーザインタフェースに対するユーザによる操作に応じて、表示装置13に表示する。
【0055】
以上に説明されているように、本実施形態のコンプトンカメラ20では、コンプトン散乱で発生する反跳電子の飛跡が算出され、反跳電子の反跳方向を用いて電磁放射線の入射方向が特定される。上述のように、反跳電子の反跳方向を用いて電磁放射線の入射方向を特定することで、電磁放射線の入射方向の範囲の絞り込みを行うことができる。
【0056】
ここで、本実施形態のコンプトンカメラ20では、散乱体検出器10Aのいずれかでコンプトン散乱が発生し、該コンプトン散乱で発生した反跳電子が、コンプトン散乱が発生した散乱体検出器10Aの内部において半導体基板1の面内方向の成分を有するような方向に跳ね飛ばされ、コンプトン散乱によって散乱された光子が吸収体検出器10Bのいずれかにおいて吸収される光電吸収が発生するイベントが抽出される。このようなイベントを抽出し、該イベントに対応する画素電極測定データについてデータ処理を行うことにより、電磁放射線の入射方向を特定することができる。
【0057】
加えて、本実施形態のコンプトンカメラ20では、反跳電子の反跳方向の特定を可能にするために、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bの画素電極2のピッチ、即ち、隣接する画素電極2の中心の間の距離が、測定しようとする電磁放射線のコンプトン散乱で発生する反跳電子の平均自由工程に応じて選択される。これにより、反跳電子の反跳方向の特定に必要な空間分解能を、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bにおいて実現することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
第1の実施形態のコンプトンカメラ20では、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bとして行列に配置された画素電極2を備えるピクセル型検出器が使用される。ピクセル型検出器を使用することの一つの問題点は、画素電極2の数を増大させると、演算装置12が処理すべきデータの量が増大してしまうことである。ピクセル型検出器を用いて電磁放射線の検出を行う場合、各画素電極から得られたデータを処理する必要がある。しかしながら、画素電極の数が増大すると、処理すべきデータの量が増大してしまう。
【0059】
特に、第1の実施形態のコンプトンカメラ20では、反跳電子の飛跡(反跳電子の反跳方向)を特定するために、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bの空間分解能を高くする必要があり、このためには、画素電極2の数を増大させる必要がある。処理すべきデータの量の増大に対応するためには、高い能力の演算装置12を用いる必要があるが、これは、コストを不所望に増大させる。第2の実施形態では、各散乱体検出器10A及び/又は各吸収体検出器10Bの画素電極2の数の増大に伴うデータ量の増大の問題に対応するための構成が提示される。
【0060】
より具体的には、第2の実施形態では、各散乱体検出器10Aの構成が変更される。
図11〜
図14は、第2の実施形態における各散乱体検出器10Aの構成を概念的に示す図である。ここで、
図11は、第2の実施形態における各散乱体検出器10Aの構成を示す斜視図であり、
図12は、各散乱体検出器10Aの構成を示す上面図である。また、
図13は、各散乱体検出器10Aの構成を示す下面図であり、更に、
図14は、
図12、13のB−B断面における断面構成を示す断面図である。なお、以下の説明では、方向をXYZ直交座標系の座標軸の方向として示すことがある。
【0061】
第2の実施形態の散乱体検出器10Aの構成は、第1の実施形態とほぼ同様であるが、
図11〜
図13に図示されているように、半導体基板1の裏側主面1bに複数の裏面電極3が形成されている点で相違する。第1の実施形態の散乱体検出器10Aでは、裏側主面1bに単一の裏面電極3しか設けられていないことに留意されたい。なお、第1の実施形態と同様に、画素電極2は、行列に並んで配置されている。
【0062】
より具体的には、第2の実施形態の散乱体検出器10Aでは、裏面電極3が、X軸方向(第1方向)に延伸するストライプ型の電極として構成されており、Y軸方向(第1方向に垂直な第2方向)に並んで配置されている。裏面電極3のそれぞれは、複数の画素電極2に対向するように設けられており、本実施形態では、裏面電極3のそれぞれは、X軸方向に一列に並んだ複数の画素電極2に対向するように配置される。裏面電極3のそれぞれが複数の画素電極2に対向する配置では、裏面電極3の数が画素電極2の数よりも小さいことに留意されたい。また、
図11〜
図14に図示された本実施形態の構成では、画素電極2のそれぞれが、複数の裏面電極3のうちの一の裏面電極3に対向し、他の裏面電極3には対向しないように配置されている。半導体基板1の、各画素電極2と、それに対応する裏面電極3とで挟まれた部分のそれぞれは、画素を構成している。各画素において発生した電荷の量に対応するアナログ信号が各画素電極2から得られる。
【0063】
このような構成の散乱体検出器10Aでは、裏面電極3から得られる信号から、いずれかの画素に放射線が入射したことを検知することができ、画素電極2から得られた画素電極測定データのうち散乱体検出器10Aに電磁放射線が入射した時点における画素電極測定データを選択することができる。詳細には、ある画素に電磁放射線が入射した場合、当該画素において電荷が発生し、当該画素の画素電極2と、該画素電極2に対向する裏面電極3とに信号が発生する。裏面電極3に発生した信号から、当該裏面電極3に対向する複数の画素電極2の画素のいずれかに電磁放射線が入射したことを検出することができる。ここで、裏面電極3の数は画素電極2の数よりも少ないから、裏面電極3に発生した信号を処理するための演算負荷は小さくでき、また、裏面電極3から信号を得るためのトリガーの生成も容易であることに留意されたい。そして、裏面電極3から得られる信号に基づいて散乱体検出器10Aの画素電極2から得られた画素電極測定データのうち電磁放射線が入射した時点に対応する画素電極測定データを選択し、選択された画素電極測定データを分析して放射線の検出を行うことにより、処理すべき画素電極測定データの量を低減することができる。
【0064】
図11〜
図14に図示された構成では、ストライプ型の裏面電極3を有する構成が図示されているが、裏面電極3のそれぞれが、複数の画素電極2に対向するように配置され、裏面電極3の数が画素電極2の数よりも少ないような配置であれば、裏面電極3の配置は様々に変更され得る。
【0065】
図15、
図16は、裏面電極3の配置が異なる散乱体検出器10Aの構成を図示している。ここで、
図15は、散乱体検出器10Aの構成を示す下面図であり、
図16は、
図15に図示されたC−C断面における散乱体検出器10Aの構成を示す断面図である。
【0066】
図15、
図16に図示された構成では、裏面電極3が、行列に(
図15の例では、3行3列に)配置されている。ここで、裏面電極3のそれぞれは、4行4列に配置された画素電極2に対向するように配置されている。ただし、画素電極2のそれぞれが、複数の裏面電極3のうちの一の裏面電極3に対向し、他の裏面電極3には対向しないように配置されていることに留意されたい。
【0067】
このような構成でも、裏面電極3から得られる信号を用いることで、全ての画素電極2から得られた画素電極測定データのうち、散乱体検出器10Aに電磁放射線が入射した位置及びその近傍の画素電極2から得られた画素電極測定データを選択することができる。ただし、
図11〜
図14に図示されているような、ストライプ型の裏面電極3を用いる構成は、裏面電極3から信号を得るための実装が容易であるため、ストライプ型の裏面電極3を用いる構成が好ましい。
【0068】
図17は、上述された散乱体検出器10Aを用いる第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aの構成の一例を示すブロック図である。第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aの構成は、第1の実施形態のコンプトンカメラ20の構成と類似している。第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aも、第1の実施形態のコンプトンカメラ20と同様に、複数の検出器モジュール11A、11Bと、演算装置12と、表示装置13とを備えている。ただし、第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aでは、散乱体検出器10Aの構成の変更に伴い、散乱体検出器10Aを搭載する検出器モジュール11Aの構成が変更され、更に、データ転送装置14が設けられる。後述されるように、データ転送装置14は、散乱体検出器10Aの画素電極2から得られた画素電極測定データを一時的に格納すると共に、格納した画素電極測定データのうち、有効な画素電極測定データ(即ち、線源の空間的分布を算出するために用いられる画素電極測定データ)を選択的に演算装置12に転送する機能を有している。
【0069】
図18は、第2の実施形態における、散乱体検出器10Aを備える検出器モジュール11A及び吸収体検出器10Bを備える検出器モジュール11Bの構成、及び、データ転送装置14の構成を示すブロック図である。
【0070】
第2の実施形態の検出器モジュール11Aは、信号処理IC21、23と、インターフェース22、24とを備えている。信号処理IC21は、散乱体検出器10Aの各画素電極2から読み出したアナログ信号を処理する信号処理部として機能する。詳細には、信号処理IC21は、各フレーム期間において散乱体検出器10Aの全ての画素電極2からアナログ信号を同時に読み出し、更に、読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って該アナログ信号の信号レベルを示す画素電極測定データを生成する。信号処理IC21は、生成した画素電極測定データを、インターフェース22を介してデータ転送装置14に送信する。
【0071】
一方、信号処理IC23は、散乱体検出器10Aの各裏面電極3から読み出したアナログ信号を処理する信号処理部として機能する。詳細には、信号処理IC23は、各裏面電極3から読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行い、該アナログ信号の信号レベルを示す測定データを生成する。各裏面電極3から読み出されたアナログ信号から得られた測定データを、以下、「裏面電極測定データ」ということがある。信号処理IC23は、生成した裏面電極測定データを、インターフェース24を介してデータ転送装置14に送信する。後述されるように、各検出器モジュール11Aで得られた裏面電極測定データは、データ転送装置14において、演算装置12に最終的に転送される画素電極測定データを選択するために用いられる。
【0072】
なお、以下においては、吸収体検出器10B及び検出器モジュール11Bの構成は、第1の実施形態と同様である(即ち、吸収体検出器10Bが単一の裏面電極3を有している)として説明するが、吸収体検出器10Bが散乱体検出器10Aと同様に複数の裏面電極3を有する構成も可能である(このような変形例については後述する)。
【0073】
データ転送装置14は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データ及び裏面電極測定データ、並びに、各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データを、演算装置12に転送する機能を有している。ここで、データ転送装置14は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データのうち、電磁放射線の測定に必要な画素電極測定データ(例えば、電磁放射線が入射した時点に対応する画素電極測定データ)を選択して演算装置12に転送するように構成されている。この選択は、各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データに基づいて行われる。選択された画素電極測定データのみが演算装置12に送られることにより、演算装置12が処理すべき画素電極測定データの量を低減することができる。
【0074】
詳細には、データ転送装置14は、データ処理部15と、メモリ16と、データ処理部17と、インターフェース18とを備えている。データ処理部15、メモリ16、データ処理部17、インターフェース18は、それぞれが個別の集積回路(IC)として実装されてもよい。また、データ処理部15、メモリ16、データ処理部17、インターフェース18のうちの複数がモノリシックに集積化された集積回路が用いられてもよい。
【0075】
データ処理部15は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データを対応する検出器モジュール11Aから受け取り、メモリ16に保存する。このとき、データ処理部15は、画素電極測定データの生成に同期した時刻情報(即ち、画素電極測定データが生成された時刻に同期した内容の時刻情報)を生成し、生成した時刻情報を該画素電極測定データと共にメモリ16に保存する。本実施形態では、データ処理部15が画素電極測定データを検出器モジュール11Aから受け取った時刻を示す時刻情報が、該画素電極測定データと共にメモリ16に保存される。メモリ16は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データ及び該画素電極測定データに対応する時刻情報を一時的に保存するための一時保存領域16aを提供する。
【0076】
データ処理部17は、各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データと、各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データとを処理する。詳細には、データ処理部17は、各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データの生成に同期した時刻情報(即ち、該裏面電極測定データが生成された時刻に同期した内容の時刻情報)を生成すると共に、各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データの生成に同期した時刻情報(即ち、該画素電極測定データが生成された時刻に同期した内容の時刻情報)を生成する。本実施形態では、散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データに対応する時刻情報は、データ処理部17が各散乱体検出器10Aから裏面電極測定データを受け取った時刻を示すように生成され、吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データに対応する時刻情報は、データ処理部17が各吸収体検出器10Bから画素電極測定データを受け取った時刻を示すように生成される。更に、データ処理部17は、各フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを、演算装置12に転送すべきか否かを判断する。この判断は、各散乱体検出器10Aから得られる裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データに基づいて行われる。転送すると判断した場合、データ処理部17は、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送する。この転送において、データ処理部17は、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データと共に、それらに対応する時刻情報を演算装置12に転送する。演算装置12に転送された画素電極測定データ、裏面電極測定データ及びそれらに対応する時刻情報は、記憶装置12aに保存され、電磁放射線の入射方向の特定及び線源の空間的分布の算出に用いられる。
【0077】
より具体的には、データ処理部17は、あるフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データが、所定の条件(以下では、「データ取得条件」ということがある。)を満たしている場合、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ、当該フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ、並びにそれらに対応する時刻情報を演算装置12に転送する。ここで、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データは、時刻情報と共にメモリ16の一時保存領域16aに格納されていることに留意されたい。データ処理部17は、該時刻情報を参照して、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データのうちデータ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データ及び対応する時刻情報を選択して一時保存領域16aから読み出し、一時保存領域16aから読み出した画素電極測定データ及び時刻情報を演算装置12に送信する。演算装置12への画素電極測定データ、裏面電極測定データ及び時刻情報の転送は、インターフェース18を介して行われる。
【0078】
例えば、あるフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、当該フレーム期間において散乱体検出器10A、吸収体検出器10Bのいずれかに電磁放射線が入射したと判断される場合に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送してもよい。このとき、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データについては、データ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データが時刻情報を参照しながら選択され、選択された画素電極測定データが演算装置12に転送される。他の例としては、あるフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、一の散乱体検出器10A及び一の吸収体検出器10Bに電磁放射線が入射したと判断される場合に(一の散乱体検出器10Aでコンプトン散乱が発生し、一の吸収体検出器10Bで光電吸収が発生した場合が想定されている)、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送してもよい。この場合も同様に、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データについては、データ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データが時刻情報を参照しながら選択され、選択された画素電極測定データが一時保存領域16aから読み出されて演算装置12に転送される。
【0079】
演算装置12は、データ転送装置14から転送された画素電極測定データと裏面電極測定データとに対してデータ処理を行い、線源の空間的分布を算出する。例えば、演算装置12は、あるフレーム期間において散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データ、及び該フレーム期間において吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、コンプトン散乱が発生した位置X1、該コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1、反跳電子の飛跡(即ち、反跳方向)、光電吸収が発生した位置X2、光電吸収によって吸収された光子のエネルギーE
2、及び、電磁放射線の散乱角θを算出する。演算装置12は、更に、これらの情報から電磁放射線の入射方向及び線源の空間的分布を算出する。このとき、演算装置12は、該散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データを参照することにより、コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1の算出精度を向上させてもよい。
【0080】
図19は、検出器モジュール11Aにおける散乱体検出器10Aの実装の一例を示す断面図である。一実施形態では、検出器モジュール11Aは、プリント配線基板25を備えている。散乱体検出器10A及び信号処理IC23は、プリント配線基板25の上に形成された配線に接合される。詳細には、散乱体検出器10Aは、プリント配線基板25の上に形成された配線26の上に接合される。ここで、配線26は、散乱体検出器10Aの裏面電極3と信号処理IC23とを電気的に接続するための配線である。即ち、散乱体検出器10Aの裏面電極3が、配線26に接合される。一方、信号処理IC23は、配線26、27の上に接合される。ここで、配線27は、信号処理IC23とインターフェース22とを電気的に接続する配線である。
【0081】
一方、散乱体検出器10Aの画素電極2と信号処理IC21とは、フリップチップ接続によって接続される。詳細には、信号処理IC21は、パッド21aを備えており、該パッド21aのそれぞれにはバンプ28が接合される。該バンプ28が、散乱体検出器10Aの画素電極2に接続される。各画素電極2に生成されたアナログ信号は、バンプ28を介して信号処理IC21のパッド21aに読み出される。本実施形態のコンプトンカメラ20Aでは、このような構成により、複数の画素電極2が信号処理IC21に並列に接続される。複数の画素電極2が信号処理IC21に並列に接続されることは、時間分解能の向上に有効である。
【0082】
なお、
図19には、インターフェース22、24は図示されていないが、インターフェース22、24もプリント配線基板25の上に実装されてもよい。
【0083】
続いて、本実施形態のコンプトンカメラ20Aの動作について説明する。本実施形態のコンプトンカメラ20Aにおいて線源の空間的分布を算出する手順は、概ね、第1の実施形態のコンプトンカメラ20と同様である(
図9参照)。測定データ(画素電極測定データ及び裏面電極測定データ)が取得され(ステップS01)、更に、反跳電子の飛跡が算出される(ステップS02)。ステップS02で算出された反跳電子の飛跡を用いてイベントが抽出され(ステップS03)、抽出されたイベントについて、コンプトンコーンの再構成、即ち、電磁放射線の入射方向が特定される(ステップS04)。更に、特定された電磁放射線の入射方向を用いて線源の空間的分布が算出され、線源の空間的分布を示す線源分布画像の生成及び表示が行われる(ステップS05)。
【0084】
ただし、第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aでは、測定データの取得(ステップS01)において、各フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データが所定のデータ取得条件を満たしている場合に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ、各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ、それらに対応する時刻情報が演算装置12に転送される点において、第1の実施形態のコンプトンカメラ20と相違する。このような動作により、第2の実施形態では、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データのうち必要なデータが選択的に演算装置12に転送され、これにより、演算装置12で処理すべき画素電極測定データの量を低減することができる。
【0085】
図20は、本実施形態における測定データの取得の動作を示すタイミングチャートである。
図20には、第(N−1)乃至第(N+1)フレーム期間における動作が図示されている。
【0086】
各検出器モジュール11Aの信号処理IC21は、各フレーム期間において散乱体検出器10Aの各画素電極2からアナログ信号を読み出し、読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って画素電極測定データを生成する。上述のように、画素電極測定データは、各画素電極2から読み出されたアナログ信号の信号レベルを示すデータである。このようにして散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データは、データ転送装置14のデータ処理部15に転送され、更に、メモリ16の一時保存領域16aに格納される。このとき、散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データと共に、該画素電極測定データに対応する時刻情報(該画素電極測定データの生成に同期した時刻情報)が、メモリ16の一時保存領域16aに格納される。
【0087】
一方、各検出器モジュール11Aの信号処理IC23は、各フレーム期間において吸収体検出器10Bの各裏面電極3からアナログ信号を読み出し、読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って裏面電極測定データを生成する。このようにして散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データは、データ転送装置14のデータ処理部17に転送される。
【0088】
更に、各検出器モジュール11Bの信号処理IC21は、各フレーム期間において吸収体検出器10Bの各画素電極2からアナログ信号を読み出し、読み出したアナログ信号に対してアナログ−デジタル変換を行って画素電極測定データを生成する。このようにして吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データは、データ転送装置14のデータ処理部17に転送される。
【0089】
図20においては、第kフレーム期間に得られた画素電極測定データ(より厳密には、第kフレーム期間において散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bの各画素電極2から読み出されたアナログ信号から生成された画素電極測定データ)が、記号D
PIXEL(k)で示されている。また、第kフレーム期間に得られた裏面電極測定データ(より厳密には、第kフレーム期間において散乱体検出器10Aの各裏面電極3から読み出されたアナログ信号から生成された裏面電極測定データ)が、記号D
R(k)で示されている。
【0090】
データ処理部17は、各フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データが、所定のデータ取得条件を満たしている場合、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データ及び対応する時刻情報をメモリ16から読み出し、更に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ、当該フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ、並びに、それらに対応する時刻情報を演算装置12に転送する。
【0091】
例えば、あるフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、当該フレーム期間において散乱体検出器10A、吸収体検出器10Bのいずれかに電磁放射線が入射したと判断される場合に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送してもよい。他の例としては、あるフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データから、一の散乱体検出器10A及び一の吸収体検出器10Bに電磁放射線が入射したと判断される場合に(一の散乱体検出器10Aでコンプトン散乱が発生し、一の吸収体検出器10Bで光電吸収が発生した場合が想定されている)、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに各フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送してもよい。データ処理部17から演算装置12に送られた画素電極測定データ及び裏面電極測定データは、演算装置12の記憶装置12aに格納される。
【0092】
例えば、
図20に図示されているように、第Nフレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データ及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データが、所定のデータ取得条件を満たしていると判断された(例えば、散乱体検出器10A、吸収体検出器10Bのいずれかに電磁放射線が入射したと判断された)とする。この場合、データ処理部17は、第Nフレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データD
PIXEL(N)及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データD
R(N)、及び、それらに対応する時刻情報を演算装置12に転送する。このとき、各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データD
PIXEL(N)については、データ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データが時刻情報を参照しながら選択され、選択された画素電極測定データ及び対応する時刻情報が一時保存領域16aから読み出されて演算装置12に転送される。
【0093】
図20の動作では、第Nフレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データD
PIXEL(N)及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データD
R(N)が、次のフレーム期間(第(N+1)フレーム期間)において演算装置12に転送されている。ただし、第Nフレーム期間において得られた画素電極測定データ及び裏面電極測定データの演算装置12への転送のタイミングは、電磁放射線の入射の検出以後であれば、適宜に選択され得ることに留意されたい。
【0094】
演算装置12は、記憶装置12aに格納された画素電極測定データ、裏面電極測定データ及びそれらに対応する時刻情報とに基づいて、上述されている、反跳電子の飛跡の算出(ステップS02)、イベントの抽出(ステップS03)、コンプトンコーンの再構成(ステップS04)、及び、線源分布画像の生成と表示(ステップS05)を行う。ここで、ステップS04のコンプトンコーンの再構成においては、演算装置12は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データと共に、当該散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データを用いることで、コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1の算出精度を向上させてもよい。
【0095】
以上に説明された動作によれば、散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データのうち必要なデータを選択的に演算装置12に転送することができる。不必要な画素電極測定データは演算装置12に転送されず、したがって、演算装置12が処理すべきデータの量を低減させることができる。このような利点は、特に、散乱体検出器10Aに設けられた画素電極2の数が多い場合に顕著である。
【0096】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、散乱体検出器10Aが、
図11〜
図16に図示されているような複数の裏面電極3を有する構造に構成されていたが、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bでは、吸収体検出器10Bについても複数の裏面電極3を有する上述の構造が採用される。
【0097】
図21は、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bの構成の一例のブロック図である。第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bの構成は、第2の実施形態のコンプトンカメラ20Aの構成と類似している。ただし、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bでは、吸収体検出器10Bの構成の変更に伴い、吸収体検出器10Bを搭載する検出器モジュール11Bの構成が、散乱体検出器10Aを搭載する検出器モジュール11Aと同様の構成に変更される。
【0098】
図22は、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bにおける検出器モジュール11A、11Bの構成、並びに、データ転送装置14の構成を示すブロック図である。検出器モジュール11Aは、第3の実施形態においても第2の実施形態と同様に、散乱体検出器10Aと、信号処理IC21、23と、インターフェース22、24とを備えている。同様に、検出器モジュール11Bは、吸収体検出器10Bと、信号処理IC21、23と、インターフェース22、24とを備えている。検出器モジュール11Bの構成は、散乱体検出器10Aが吸収体検出器10Bに置換されている点を除き、検出器モジュール11Aと同様である。
【0099】
ただし、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bでは、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データが、いずれも、データ処理部15に転送され、メモリ16の一時保存領域16aに保存される一方で、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データが、いずれも、データ処理部17に転送される。データ処理部17は、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データを処理する。
【0100】
詳細には、データ処理部17は、各フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ及び裏面電極画像データ、並びに、それらに対応する時刻情報を、演算装置12に転送すべきか否かを判断する。本実施形態では、この判断は、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる裏面電極測定データに基づいて行われる。演算装置12に転送された画素電極測定データ及び裏面電極測定データそれらに対応する時刻情報と共に記憶装置12aに保存され、電磁放射線の入射方向の特定及び線源の空間的分布の算出に用いられる。
【0101】
より具体的には、データ処理部17は、あるフレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データが、所定のデータ取得条件を満たしている場合、当該フレーム期間において各散乱体検出器10Aから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ並びに当該フレーム期間において各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データを演算装置12に転送する。ここで、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データは、時刻情報と共にメモリ16の一時保存領域16aに格納されていることに留意されたい。データ処理部17は、該時刻情報を参照して、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データのうちデータ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データを選択して一時保存領域16aから読み出し、一時保存領域16aから読み出した画素電極測定データを演算装置12に送信する。演算装置12への画素電極測定データ及び裏面電極測定データの転送は、インターフェース18を介して行われる。
【0102】
続いて、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bの動作について説明する。本実施形態のコンプトンカメラ20Aにおいて線源の空間的分布を算出する手順は、概ね、第1及び第2の実施形態のコンプトンカメラ20、20Aと同様である(
図9参照)。測定データ(画素電極測定データ及び裏面電極測定データ)が取得され(ステップS01)、更に、反跳電子の飛跡が算出される(ステップS02)。ステップS02で算出された反跳電子の飛跡を用いてイベントが抽出され(ステップS03)、抽出されたイベントについて、コンプトンコーンの再構成、即ち、電磁放射線の入射方向が特定される(ステップS04)。更に、特定された電磁放射線の入射方向を用いて線源の空間的分布が算出され、線源の空間的分布を示す線源分布画像の生成及び表示が行われる(ステップS05)。
【0103】
ただし、第3の実施形態のコンプトンカメラ20Bでは、測定データの取得(ステップS01)において、各フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データが所定のデータ取得条件を満たしている場合に当該フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データが演算装置12に転送される点において、第2の実施形態のコンプトンカメラ20と相違する。このような動作により、第3の実施形態では、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データのうち必要なデータが選択的に演算装置12に転送されることにより、演算装置12で処理すべき画素電極測定データの量を第2の実施形態よりも一層に低減することができる。
【0104】
データ処理部17は、各フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データが所定のデータ取得条件を満たしている場合、当該フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データをメモリ16から読み出し、更に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データ、並びに、それらに対応する時刻情報を演算装置12に転送する。ここで、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データは、時刻情報と共にメモリ16の一時保存領域16aに格納されていることに留意されたい。データ処理部17は、該時刻情報を参照して、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データのうちデータ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データを選択して一時保存領域16aから読み出し、一時保存領域16aから読み出した画素電極測定データを演算装置12に送信する。
【0105】
例えば、あるフレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データから、当該フレーム期間において散乱体検出器10A、吸収体検出器10Bのいずれかに電磁放射線が入射したと判断される場合に、当該フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データを演算装置12に転送してもよい。このとき、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データについては、データ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データが時刻情報を参照しながら選択され、選択された画素電極測定データが演算装置12に転送される。他の例としては、あるフレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データから、一の散乱体検出器10A及び一の吸収体検出器10Bに電磁放射線が入射したと判断される場合に(一の散乱体検出器10Aでコンプトン散乱が発生し、一の吸収体検出器10Bで光電吸収が発生した場合が想定されている)、当該フレーム期間において各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データ及び裏面電極測定データを演算装置12に転送してもよい。データ処理部17から演算装置12に送られた画素電極測定データ及び裏面電極測定データは、演算装置12の記憶装置12aに格納される。この場合も同様に、各散乱体検出器10A及び各吸収体検出器10Bから得られる画素電極測定データについては、データ取得条件を満たしているフレーム期間に対応する画素電極測定データが時刻情報を参照しながら選択され、選択された画素電極測定データが演算装置12に転送される。
【0106】
演算装置12は、記憶装置12aに格納された画素電極測定データと裏面電極測定データとに基づいて、上述されている、反跳電子の飛跡の算出(ステップS02)、イベントの抽出(ステップS03)、コンプトンコーンの再構成(ステップS04)、及び、線源分布画像の生成と表示(ステップS05)を行う。ここで、ステップS04のコンプトンコーンの再構成においては、演算装置12は、各散乱体検出器10Aから得られた画素電極測定データと共に、当該散乱体検出器10Aから得られた裏面電極測定データを用いることで、コンプトン散乱で反跳電子が得たエネルギーE
1の算出精度を向上させてもよい。加えて、演算装置12は、各吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データと共に、当該吸収体検出器10Bから得られた裏面電極測定データを用いることで、光電吸収によって吸収された光子のエネルギーE
2の算出精度を向上させてもよい。
【0107】
以上に説明された動作によれば、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bから得られた画素電極測定データのうち必要なデータを選択的に演算装置12に転送することができる。不必要な画素電極測定データは演算装置12に転送されず、したがって、演算装置12が処理すべきデータの量を低減させることができる。このような利点は、特に、散乱体検出器10A及び吸収体検出器10Bに設けられた画素電極2の数が多い場合に顕著である。
【0108】
以上には、本発明の実施形態が様々に記載されているが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。本発明が、様々な変更と共に実施され得ることは、当業者には自明的であろう。