(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る鉛蓄電池用負極は、負極合剤と、負極合剤を担持する表面を有する負極格子とを含み、負極合剤は、鉛を含む負極活物質と、カーボンブラックとを含む。ただし、負極合剤に含まれるカーボンブラックの量は、負極活物質100質量部に対し、0.05質量部以上、2質量部以下であり、負極格子の負極合剤を担持する表面の少なくとも一部の表面粗さRz(以下、合剤担持表面のRzともいう)は、70μm以上である。負極活物質が所定量のカーボンブラックを含むとともに、合剤担持表面のRzを70μm以上にすることで、3相界面における反応抵抗が低減し、3相界面でのサルフェーションの進行が抑制され、寿命特性が顕著に向上する。
【0012】
負極格子の負極合剤を担持する表面が一定以上に粗面化され、かつ負極合剤中に必要十分量のカーボンブラックが分散されていることで、カーボンブラックが負極格子の微小な凹凸もしくはピットに入り込みやすくなり、アンカー効果が発現するものと考えられる。これにより、負極格子界面におけるカーボンブラックの接触面積が大幅に増加し、中途充電状態における反応抵抗が顕著に低減するものと考えられる。
【0013】
負極の導電性を向上させる観点からは、負極合剤中に分散させるカーボンブラック量は多いほど望ましいと考えられる。ところが、合剤担持表面のRzが70μm以上である場合、カーボンブラック量は、負極活物質100質量部に対して2質量部以下で十分である。カーボンブラック量が、負極活物質100質量部に対し、2質量部を超えると、却って寿命特性の向上幅が小さくなる。また、負極の水素発生過電圧が低下し、電解液の分解が促進される傾向がある。
【0014】
カーボンブラックによるアンカー効果を十分に高める観点から、カーボンブラックの量は、負極活物質100質量部に対し、0.05質量部以上であることが望ましく、0.1質量部以上であることがより望ましく、0.3質量部以上であることが更に望ましい。また、寿命特性の向上幅を大きくする観点からは、1質量部以下であることが望ましく、0.9質量部以下であることがより望ましく、0.5質量部以下であることが更に望ましい。以上より、負極合剤に含まれるカーボンブラック量の特に好ましい範囲は、負極活物質100質量部に対し、例えば0.1質量部〜0.9質量部もしくは0.1質量部〜0.5質量部である。
【0015】
合剤担持表面のRzは、70μm以上であればよいが、80μm以上であることが望ましく、100μm以上であることがより望ましく、150μm以上であることが更に望ましい。ただし、表面粗さが大きくなり過ぎると、負極格子の機械的強度が低下することがある。よって、合剤担持表面のRzは300μm以下であることが望ましく、200μm以下であることがより好ましい。以上より、合剤担持表面のRzの特に好ましい範囲は、例えば70μm〜300μmもしくは80μm〜200μmである。
【0016】
負極格子は、負極合剤を担持する表面の少なくとも一部の表面粗さRzが70μm以上となるように粗面化されていればよい。例えば、硫酸濃度の高い電解液に浸漬され得る領域を選択的に粗面化してもよい。液面から遠くなるほど、電解液の硫酸濃度が高くなり、サルフェーションが進行しやすいため、負極格子の液面から遠くに配置される領域だけを選択的に粗面化してもよい。ただし、負極合剤を担持する表面の一部だけを粗面化する場合でも、負極合剤を担持する表面の30%以上、更には50%以上の表面粗さRzを70μm以上にすることが好ましい。
【0017】
負極格子が、負極合剤を有さない露出部を有し、露出部が負極棚と接続するための耳を有する場合、耳から遠い領域だけを粗面化してもよい。具体的には、負極格子の負極合剤を担持する表面を、耳寄りの第1領域と、それ以外の第2領域とに二分割するとき、第1領域における表面粗さRzの平均値(Rz1)を、第2領域における表面粗さRzの平均値(Rz2)より小さくしてもよい。このとき、第1領域と第2領域との境界は、鉛蓄電池における液面と平行になるように設定すればよい。また、境界は、第1領域に担持されている負極合剤量と第2領域に担持されている負極合剤量とが同じになるように設定すればよい。
【0018】
表面粗さの平均値Rz1は、例えば、第1領域をそれぞれ表面粗さR1(i)(iは1からnの整数)を有するn個の等面積の領域に分割するとき、下記式(1)で表される。同様に、表面粗さの平均値Rz2は、例えば、第2領域をそれぞれ表面粗さR2(i)(iは1からnの整数)を有するn個の等面積の領域に分割するとき、下記式(2)で表される。ΣR1(i)は、第1領域を構成するn個の領域の表面粗さの和であり、ΣR2(i)は、第2領域を構成するn個の領域の表面粗さの和である。なお、平均値Rz1およびRz2を算出するとき、nは3以上であることが望ましい。また、R1(i)およびR2(i)は、分割された各領域の中心付近で測定すればよい。
Rz1=(ΣR1(i))/n ・・・(1)
Rz2=(ΣR2(i))/n ・・・(2)
【0019】
負極の局所的な劣化を抑制し、負極全体の反応性をできるだけ均一に維持する観点からは、Rz2/Rz1が1.4以上であることが望ましく、1.6以上であることがより望ましい。
【0020】
負極格子の形態は、特に限定されず、鋳造格子を用いてもよい。ただし、生産性に優れる点で、鉛合金シートをエキスパンド加工して得られるエキスパンド格子を用いることが好ましい。加工法は、特に限定されず、ロータリ式エキスパンド加工を採用してもよく、レシプロ式エキスパンド加工を採用してもよい。
【0021】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一部切り欠き斜視図である。鉛蓄電池1は、極板群11と、図示しない電解液とを含み、これらは電槽12に収容されている。電槽12は、隔壁13により複数のセル室14に仕切られており、各セル室14には極板群11が1つずつ収納され、電解液も収容されている。極板群11は、複数枚の正極2および負極3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。
【0022】
電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の正極2の耳22を並列接続する正極棚6が、正極接続体8に接続されている。一方、複数の負極3の耳32を並列接続する負極棚5には、負極柱7が接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、正極棚6に正極柱が接続され、負極棚5に負極接続体が接続される。正極接続体8は、隔壁13に設けられた透孔を介して隣接するセル室14内の極板群11の負極棚5に連設された負極接続体と接続される。これにより、隣接するセル室14内の極板群11同士が直列に接続されている。
【0023】
各セル室14内において、正極棚6、負極棚5および極板群11の全体は、電解液に浸漬されている。電槽12の開口部には、正極端子16および負極端子17が設けられた蓋15が装着されている。蓋15に設けられた注液口には、電池内部で発生したガスを電池外に排出するための排気栓18が装着されている。
【0024】
(正極)
図2は、正極2の正面図である。正極2は、正極格子21と、正極格子21に担持された正極合剤24とを含む。正極格子21は、正極合剤24を保持するエキスパンド網目25と、エキスパンド網目25の上端部に設けられた枠骨23と、枠骨23に連接された耳22とを具備するエキスパンド格子である。正極2は、耳22を介して、正極棚6に接続され、正極棚6は、正極接続体8または正極柱と接続される。
【0025】
正極格子21は、後述の負極格子31と同様に、鉛合金シートをエキスパンド加工することにより得られる。正極格子21を構成する鉛合金は、カルシウム(Ca)および錫(Sn)を含むことが好ましい。鉛合金におけるカルシウム含有量は、例えば0.01〜0.1質量%である。鉛合金における錫含有量は、例えば0.05〜3質量%である。カルシウムは、主に鉛合金の機械的強度を向上させ、錫は、主に鉛合金の耐食性を向上させる。なお、鉛合金シートは、組成の異なる複数の鉛合金層を有してもよい。
【0026】
正極活物質としては、酸化鉛(PbO
2)が使用される。正極合剤は、正極活物質の他に、必要に応じて公知の添加剤を含んでもよい。
【0027】
正極2は、正極格子に、正極合剤と分散媒とを含むペーストを充填または塗布し、更に化成処理することにより作製される。ペーストの分散媒には、硫酸および/または水などを用いることができる。
【0028】
(負極)
図3は、負極3の正面図である。負極3は、負極格子31と、負極格子31に担持された負極合剤34とを含む。負極格子31は、エキスパンド網目35と、エキスパンド網目35の上端部に設けられた枠骨33と、枠骨33に連接された耳32とを具備するエキスパンド格子である。負極3は、耳32を介して、負極棚5に接続され、負極棚5は、負極柱7または負極接続体と接続される。負極合剤34は、エキスパンド網目35に担持される。枠骨33および耳32は、負極格子の露出部である。
【0029】
負極格子31は、鉛合金シートをエキスパンド加工することにより得られる。鉛合金シートは、例えば、鉛合金の溶湯を連続スラブ鋳造して得られる鉛合金スラブを圧延することにより得られる。
【0030】
鉛合金スラブは、例えば、鉛合金の溶湯をホイール型の回転鋳型に供給し、鋳型とともに回転移動するスチールベルトと鋳型との間で溶湯を急冷することで製造される。鉛合金スラブの厚みは、例えば5〜20mm程度である。鉛合金スラブは、引き続き、多段圧延により圧延され、鉛合金シートとして回収される。鉛合金シートの厚みは、例えば0.5mm〜1.5mm程度である。
【0031】
次に、鉛合金シートをエキスパンド加工することで、負極格子(エキスパンド格子)が形成される。エキスパンド加工では、鉛合金シートに互いに平行な多数のスリットが千鳥状に入れられ、その後、切れ目が拡張される。これにより、鉛合金シートがメッシュ状に加工される。
【0032】
次に、負極格子のうち、負極合剤を担持する領域(すなわちエキスパンド網目35)の表面に粗面化が施される。通常、エキスパンド格子は、複数回の圧延が施された鉛合金シートを加工することで製造されるため、表面が平滑である。よって、エキスパンド加工の前または後で、エキスパンド網目35に対して、積極的に粗面化が行われる。
【0033】
粗面化の方法は、特に限定されない。例えば、ブラスト法、ロールブラッシング法、メッキ法、エッチング法、などが挙げられる。これらの中では、ブラスト法およびロールブラッシング法が、低コストで実施でき、生産性に優れる点で好ましい。ブラスト法は、粉末状の研磨材をエキスパンド網目に高速度で吹き付け、エキスパンド網目の骨格の表面を磨耗させることで粗面化する方法である。ロールブラッシング法は、回転するワイヤーブラシをエキスパンド網目に押し付け、骨格の表面にすじ溝を形成して粗面化する方法である。
【0034】
エキスパンド網目35は、その少なくとも一部の表面粗さRzが70μm以上となるように粗面化されていればよい。すなわち、粗面化は、エキスパンド網目35の骨格全体の表面に対して行ってもよく、骨格の一部の表面に選択的に行ってもよい。これにより、粗面化の手間を省略し、製造コストを低減することができる。
【0035】
負極全体の反応性を均一に維持する観点からは、硫酸濃度の高い電解液と接触することが予定される領域だけに、選択的に粗面化を行うことが好ましい。例えば、
図3に示すように、略矩形の負極格子のエキスパンド網目35の表面(すなわち負極合剤を担持する表面)を、耳寄りの第1領域R1と、それ以外の第2領域R2とに二分割するとき、第1領域R1における表面粗さRzの平均値Rz1を、第2領域R2における表面粗さRzの平均値Rz2より小さくしてもよい。
【0036】
図3において、破線L2は、第1領域R1の最も耳32寄りの端部を示し、破線L3は、第1領域R1と第2領域R2との境界を示している。破線L1は、完成した鉛蓄電池内における電解液の液面を示している。破線L3は破線L1と平行である。
【0037】
図3に示すように、第2領域R2の耳32から最も遠い一部領域2A(
図3の斜線を付した領域)だけを粗面化してもよい。このとき、第1領域R1における表面粗さRzの平均値Rz1は、必然的に、第2領域R2における表面粗さRzの平均値Rz2より小さくなる。
【0038】
負極格子31を構成する鉛合金は、カルシウム(Ca)および錫(Sn)を含むことが好ましい。鉛合金におけるカルシウム含有量は、例えば0.01〜0.1質量%である。鉛合金における錫含有量は、例えば0.1〜2.0質量%である。カルシウムは、主に鉛合金の機械的強度を向上させ、錫は、耐食性を向上させる。なお、鉛合金シートは、組成の異なる複数の鉛合金層を有してもよい。
【0039】
負極活物質としては、鉛が使用される。鉛は微量の合金成分を含んでもよい。このとき、負極合剤は、鉛100質量部に対し、カーボンブラックを0.05質量部以上含み、0.1質量部以上含むことが望ましく、0.3質量部以上含むことが更に望ましい。ただし、カーボンブラックの量は、鉛100質量部に対し、1質量部以下が望ましく、0.9質量部以下がより望ましく、0.5質量部以下が更に望ましい。
【0040】
負極合剤を調製する際には、粉末状の鉛を原料に用いることができ、原料は酸化鉛を含んでもよい。負極合剤は、負極活物質とカーボンブラックの他に、防縮剤(リグニンなど)および/または結着剤(ポリマーなど)を含んでもよい。負極合剤は、必要に応じて、他の公知の添加剤を含んでもよい。
【0041】
カーボンブラックは、粉末状の負極活物質と混合するだけでもよく、負極活物質である鉛または鉛合金にカーボンブラックを練り込んで、鉛または鉛合金のマトリクス中にカーボンブラックを分散させてもよい。
【0042】
カーボンブラックの平均の一次粒子径は、10nm〜100nmであることが望ましい。このような一次粒子により形成される凝集体は、表面粗さRzが70μm以上の負極格子の微小な凹凸もしくはピットに入り込みやすいためである。カーボンブラックの種類は、特に限定されないが、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラックなどを用いることができる。
【0043】
負極3は、負極格子に、負極合剤と分散媒とを含むペーストを充填または塗布し、更に化成処理することにより作製される。ペーストの分散媒には、硫酸および/または水などを用いることができる。
【0044】
化成処理は、例えば、鉛蓄電池の電槽内で、硫酸水溶液を含む電解液中に、いずれも化成前の正極2および負極3を浸漬させた状態で、これらを充電することにより行われる。
【0045】
(セパレータ)
セパレータとしては、微多孔膜または繊維シート(またはマット)などが例示できる。微多孔膜または繊維シートを構成するポリマー材料としては、耐酸性を有するものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンなどが例示できる。繊維シートは、ポリマー繊維および/またはガラス繊維などの無機繊維で形成してもよい。セパレータは、必要に応じてフィラーおよび/またはカーボンなどの添加剤を含んでもよい。
【0046】
(電解液)
電解液は、硫酸水溶液を含む。電解液の密度は、例えば1.1〜1.35g/cm
3であり、1.2〜1.35g/cm
3であることが好ましく、1.25〜1.3g/cm
3であることがさらに好ましい。なお、本明細書中、電解液の密度とは、20℃における密度であり、満充電状態の電池における電解液の密度が上記範囲であることが望ましい。
【0047】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
(1)正極の作製
図2に示すような正極2を以下の手順で作製した。
原料粉末(鉛と鉛酸化物との混合物)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm
3)とを質量比100:15:5で混合することにより、正極合剤を含むペーストを得た。
【0048】
連続スラブ鋳造、多段圧延およびエキスパンド加工により、鉛合金の正極格子を作製した。鉛合金の錫含有量は1.6質量%、カルシウム含有量は0.05質量%とした。
【0049】
エキスパンド加工は、レシプロ方式で行い、鉛合金シートの所定の箇所に、複数の平行なスリットを千鳥状に形成するとともにスリットを展開してエキスパンド網目25を形成し、正極格子21を得た。なお、鉛合金シートの一部にはエキスパンド加工を施さず、正極格子21の耳22および枠骨23を形成した。
【0050】
エキスパンド網目25に正極合剤を含むペーストを充填し、熟成乾燥させることにより、正極格子21に正極合剤24が保持された未化成の正極2(縦:115mm、横:137.5mm)を得た。
【0051】
(2)負極の作製
図3に示すような負極3を以下の手順で作製した。
原料粉末(鉛)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm
3)と、リグニンと、硫酸バリウムと、カーボンブラックを、質量比100:12:7:1:0.1:0.5の割合で混合することにより、負極合剤を含むペーストを得た。負極活物質100質量部に対するカーボンブラック量は0.5質量部とした。カーボンブラックには、一次粒子径30nmのオイルファーネスブラックを使用した。
【0052】
正極格子と同様の方法で、耳32、枠骨33およびエキスパンド網目35を有する鉛合金の負極格子31を作製した。鉛合金の錫含有量は1.16質量%、カルシウム含有量は0.05質量%とした。
【0053】
次に、負極格子31のエキスパンド網目35の全体に対し、ロールブラッシング法で粗面化を行い、エキスパンド網目35の表面粗さを80μmに調整した。なお、粗面化を行う前のエキスパンド網目35の表面粗さRzは50μmであった。
【0054】
粗面化された負極格子31のエキスパンド網目に負極合剤を含むペーストを充填し、上記と同様の方法により、負極格子31に負極合剤34が担持された未化成の負極3(縦:115mm、横137.5mm)を得た。
【0055】
(3)鉛蓄電池のテストセルの作製
上記(1)および(2)で作製した正極2枚および負極1枚を、それぞれ縦60mm×横40mmのサイズにカットし、1枚の負極を、セパレータ(ポリエチレン製の微多孔膜、厚さ0.2mm、幅44mm)を介して、2枚の正極で挟んで極板群を形成した。このとき、セパレータ4を2つ折りにした間に負極を挟み込むように配置した。
【0056】
得られた極板群を両面からアクリル樹脂製の板で挟んで固定した。次いで、負極および2枚の正極のそれぞれに鉛製リードを溶接し、負極端子および正極端子を形成した。その後、極板群をアクリル樹脂製の容器に入れ、比重1.20g/cm
3の硫酸水溶液を所定量注入し、化成を行った。
【0057】
化成に使用したセル内の硫酸水溶液を除去し、新たに比重1.28g/cm
3の硫酸水溶液を、正極合剤および負極合剤が完全に浸漬されるまで注入した。このようにして、テストセル(1.25Ah、2V)を作製した。
【0058】
[評価]
(ISS搭載車用電池の寿命特性)
以下の条件で、化成後のテストセルのSOCを調整した。
放電:定電流(0.2C)、30分
休止:1時間
温度:25℃
【0059】
次に、アイドリングストップ寿命試験(SBA S0101)をベースにして、負極の劣化を加速する下記条件で充放電サイクルを繰り返した。そして、放電開始後60秒目までに、電圧が1.0Vに低下する時点のサイクル数を寿命回数として求めた。
充電:定電流(2.2C)−定電圧(2.4V、最大電流2.2C)、0.03時間
放電:定電流(1.0C)、0.03時間
温度:25℃
【0060】
(電解液の減液率)
SOC調整後のテストセル質量と、充放電サイクルが寿命回数に達した時点のテストセル質量とを測定し、これらの差から電解液の減少量を算出した。次に、減液率として、初期の電解液量に対する減少量の割合を百分率で求めた。
【0061】
《実施例2》
研磨材として平均粒径100μmのアルミナ粒子を用いるブラスト法でエキスパンド網目35の全体に対して粗面化を行ったことと、エキスパンド網目35の表面粗さRzを100μmに調整したこと以外、実施例1と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0062】
《実施例3》
エキスパンド網目35の表面粗さRzを150μmに調整したこと以外、実施例2と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0063】
《実施例4》
エキスパンド網目35の表面粗さRzを200μmに調整したこと以外、実施例2と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0064】
《実施例5》
エキスパンド網目35を耳寄りの第1領域R1と、それ以外の第2領域R2とに二分割し、第2領域R2の全体の表面粗さRzを200μmに調整し、第1領域R1には粗面化を行わなかったこと以外、実施例2と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。なお、エキスパンド網目の粗面化に要した時間と研磨材の使用量は、いずれも実施例4の約半分であった。
【0065】
《実施例6》
負極活物質100質量部に対するカーボンブラックの量を0.3質量部としたこと以外、実施例4と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0066】
《実施例7》
負極活物質100質量部に対するカーボンブラックの量を1質量部としたこと以外、実施例4と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0067】
《実施例8》
負極活物質100質量部に対するカーボンブラックの量を0.1質量部としたこと以外、実施例1と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0068】
《比較例1》
エキスパンド網目35の粗面化を行わず、かつ負極合剤にカーボンブラックを添加しなかったこと以外、実施例1と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0069】
《比較例2》
エキスパンド網目35の粗面化を行わなかったこと以外、実施例1と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0070】
《比較例3》
負極合剤にカーボンブラックを添加しなかったこと以外、実施例4と同様にテストセルを作製し、同様に評価した。
【0071】
上記結果を表1に示す。寿命向上率は、比較例1の寿命回数に対する増加回数の割合を百分率で示す。
【0072】
【表1】
CB量:負極活物質100質量部に対するカーボンブラック量
【0073】
比較例1、2を対比すると、負極格子を粗面化せず、負極合剤にカーボンブラックを添加した場合でも、寿命が11%程度向上することがわかる。また、比較例1、3を対比すると、負極格子を十分に粗面化した場合、負極合剤にカーボンブラックを添加しなくても、寿命が10%程度向上することがわかる。
【0074】
一方、実施例1では、粗面化の程度が比較例3に比べて弱いにもかかわらず、比較例2、3でそれぞれ得られた効果の加算値を上回る寿命向上効果が得られている。また、比較例3と同様に十分に負極格子を粗面化した実施例4では、顕著な相乗効果が確認できる。
【0075】
ただし、カーボンブラック量が多くなると、減液率は許容できる範囲であるものの、却って寿命の向上幅が小さくなる傾向が見られる。よって、カーボンブラック量は、負極活物質100質量部あたり、1質量部以下、特には0.5質量部以下が望ましい。