【文献】
野村聡,半導体シリコンセンサーを用いたpHイメージング顕微鏡による固体表面分析,Bunseki Kagaku,2009年,Vol.58, No.7,595-601,URL=https://doi.org/10.2116/bunsekiKagaku.58.595
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体の上面に絶縁膜を堆積した構造のセンサ本体上に電解質ゲルフィルムを設置し、前記半導体と前記電解質ゲルフィルム間にバイアス電圧を印加した状態で、前記半導体の下面に光を照射することにより、電解質ゲルフィルム中のpH分布を測定する化学イメージングセンサに用いる電解質ゲルフィルムであって、
ゲル化剤にスメクタイトを用いることを特徴とする電解質ゲルフィルム。
【背景技術】
【0002】
従来より、サンプルを含有した電解質中におけるpH等の化学的情報を、2次元的な空間分布として画像化することを可能にした、化学イメージングセンサが開発されている。
【0003】
化学イメージングセンサは、Light-Addressable Potentiometric Sensor (LAPS)の動作原理に基づくもので、半導体の上面に絶縁膜を堆積した構造のセンサ本体上に電解質を設置して電解質−絶縁膜−半導体構造を形成し、この構造における半導体と電解質間にバイアス電圧を印加した状態で、半導体の下面に光を照射する。光を照射すると半導体内に生じる交流光電流は、その光電流−バイアス電圧特性が、絶縁膜と接する電解質中のプロトン量に依存してバイアス電圧方向にシフトすることから、このシフト量を利用して電解質中のpHを測定する。
【0004】
このような半導体内に生じる交流光電流は、光を照射した領域の近傍でのみ発生することから、前述のシフト量から測定されるpHも当然ながら、光を照射した領域の近傍に対応する電解質の絶縁膜と接する面の局所領域の情報である。そこで、半導体の下面全域を光走査して局所領域ごとのpHを測定し、これをグレースケール等で表示することにより、電解質の絶縁膜と接する面全体のpH分布を画像化するものである。
【0005】
ところで、上記の化学イメージングセンサを採用して固体サンプルの表面化学分析を行う際には、非特許文献1に開示されているように、電解液にゲル化剤を添加して電解質のゲルフィルムを形成し、その上面に固体サンプルを設置する方法が知られている。この方法は、測定対象の固体サンプルと電解質のゲルフィルムを接触させると、固体サンプルの表面状態を反映したpH分布が電解質のゲルフィルム内に形成されることを利用したものである。電解質のゲルフィルムは、層厚を薄くできるため、その内方に固体サンプルの表面状態を反映したpH分布を精度よく形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1のゲルフィルムは、ゲル化剤として有機物である寒天を採用したものである。このため、例えば、固体サンプルとして金属を採用し、その酸化過程を長期間にわたり把握しようとしても、微生物等の影響を受けてゲルフィルムに腐食等の劣化が生じるため、pH分布の経時変化を長期にわたり精度よく測定することができない。
【0008】
また、寒天は電解液の温度やpHによっては固化しない性質を有しており、例えば、酸化過程を促進させるべく酸化剤を添加すると、固化することなく有機物分解していまい、そもそもゲルフィルムを形成することができない場合が生じる。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、長期にわたる測定に使用しても劣化することがなく、化学変化を促進する材料を添加しても分解することがない、電解質ゲルフィルムおよび電解質ゲルフィルムを用いた化学イメージングセンサによるpH分布の経時変化測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため本発明の電解質ゲルフィルムは、半導体の上面に絶縁膜を堆積した構造のセンサ本体上に電解質ゲルフィルムを設置し、前記半導体と前記電解質ゲルフィルム間にバイアス電圧を印加した状態で、前記半導体の下面に光を照射することにより、電解質ゲルフィルム中のpH分布を測定する化学イメージングセンサに用いる電解質ゲルフィルムであって、ゲル化剤にスメクタイトを用いることを特徴とする。
【0011】
上記の電解質ゲルフィルムによれば、スメクタイトが無機系化合物であるから、微生物等の影響を受けて分解や腐敗等の劣化を生じることがなく、また、寒天と比較して高い保水性を有することから、乾燥条件下においてもゲル状態を維持できるため、長期にわたり安定して精度よく、電解質ゲルフィルム内にpH分布を形成することが可能となる。
【0012】
本発明の電解質ゲルフィルムは、酸化剤が添加されることを特徴とする。
【0013】
上記の電解質ゲルフィルムによれば、スメクタイトが、化学変化を促進する酸化剤や還元剤と接触しても分解しないため、酸化剤を添加することにより、電解質ゲルフィルム上で固体サンプルを強制的に酸化させる促進酸化試験を実施できる。これにより、固体サンプルの酸化反応を把握するための試験期間を大幅に短縮することが可能になるとともに、固体サンプルの酸化反応の様子を、電解質ゲルフィルム内に形成されるpH分布の経時的変化から把握することが可能となる。
【0014】
本発明の電解質ゲルフィルムは、前記スメクタイトが合成サポナイトであることを特徴とする。
【0015】
上記の電解質ゲルフィルムによれば、合成サポナイトは不純物を含有していないことから、透明性に富むとともに高いチクソトロピー性を有するため、高品質で安定したゲル状態を得ることが可能となる。
【0016】
本発明の化学イメージングセンサによるpH分布の経時変化測定方法は、固体サンプルを前記電解質ゲルフィルムに接触させ、該電解質ゲルフィルム内に形成されるpH分布を経時的に測定することを特徴とする。
【0017】
上記の化学イメージングセンサによるpH分布の経時変化測定方法によれば、電解質ゲルフィルムが、耐劣化性と高い保水性を有するため、いずれの試験環境下にあっても、固体サンプルの表面状態を反映したpHの2次元的な空間分布に係る経時変化を長期にわたり安定して計測することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化学イメージングセンサに用いる電解質ゲルフィルムのゲル化剤にスメクタイトを採用するから、長期にわたる経時変化測定試験を行っても電解質ゲルフィルムに腐敗等の劣化を生じることがなく、化学変化を促進する材料を添加してもゲルを形成維持できるため、いずれの測定条件に対しても電解質ゲルフィルム内にpH分布を安定して精度よく形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の化学イメージングセンサ2に用いる電解質ゲルフィルム1を、
図1〜
図2を参照して詳述する。
【0021】
電解質ゲルフィルム1は、
図1に示すように、固体サンプル5を接触させることにより、その内方に固体サンプル5の表面状態を反映したpH分布が形成されるものであり、電解液12にゲル化剤11を添加することにより作成される。
【0022】
本発明ではゲル化剤11として、粘土を構成する代表的な天然鉱物の一群であり、無機系化合物として広く知られているスメクタイトを採用している。スメクタイトは、水を吸着すると非常に高い保水性と粘性を示す膨潤性粘土であり、粒子径が小さいため分散してゲルを形成する。
【0023】
ゲル化剤11にスメクタイトを採用して電解質ゲルフィルム1を作製すると、スメクタイトが無機系化合物であるため、長期間保管しても微生物の影響を受けて分解や腐敗等の劣化を生じることがない。また、酸化剤や還元剤のような化学変化を促進させる薬剤を添加しても分解することなく、ゲルを形成維持することができる。さらには、寒天と比較して高い保水性を有するため、乾燥条件下においてもゲル状態を長期にわたり維持することができる。
【0024】
このように、耐劣化性と高保水性を電解質ゲルフィルム1にもたらすスメクタイトには、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等が含まれるが、なかでも層状化合物であるサポナイトをゲル化剤11として採用すると、透明性及び高いチクソトロピー性が得られる。しかし、天然に産出されるサポナイトには、不純物が多く含有するとともに化学組成も一定でないことから、本実施の形態では、ゲル化剤11に合成サポナイトを採用し、より透明で安定した電解質ゲルフィルム1を作製することとした。
【0025】
合成サポナイトをゲル化剤11に採用して電解質ゲルフィルム1を作製するための作製方法としては、まず、
図2(a)に示すように、電解液12とゲル化剤11とを混ぜ合わせて撹拌し電解質ゲル14を作製する。
【0026】
電解液12は、いずれの材料を用いてもよいが、本実施の形態ではイオン交換水を用いている。また、電解質ゲル14を作製する際には、ゲル化剤11がダマにならないよう、電解液12に対してゲル化剤11を少量づつ添加しながら数時間かけて撹拌を行い、例えば24時間程度撹拌するとより均質な電解質ゲル14を得ることができる。撹拌に用いる攪拌機4としては、せん断力の大きい攪拌機であればいずれを使用してもよい。
【0027】
このようにして得られた電解質ゲル14は、
図2(b)で示すように、化学イメージングセンサ2におけるセンサ本体21の上面に設けられたホルダ22の内方に充填されることにより、電解質ゲルフィルム1を形成する。
【0028】
なお、電解質ゲルフィルム1はゲル濃度が濃いほど、pH分布の広がりが遅くなることが知られている。そこで、本実施の形態では発明者の知見から、ゲル化剤11の添加量を電解液12の質量に対して4質量%とし、ゲル濃度を調整している。電解液12に対するゲル化剤11の添加量は、必ずしも上記の数値に限定されるものではなく、電解液12や固体サンプル5の性状等に応じて適宜決定すればよい。
【0029】
上述するように、合成サポナイトをゲル化剤11に採用して形成された電解質ゲルフィルム1は、高いチクソトロピー性を有することから層厚を薄くできるため、上面に固体サンプル5を設置するもしくは埋め込むことにより、電解質ゲルフィルム1の内方に精度よく固体サンプル5の表面状態を反映したpH分布を形成することが可能となる。また、高い透明性を有することから、固体サンプル5を設置した際の目視性がよく、pH分布の計測と併せて固体サンプル5設置後の目視観察を行うことも可能である。
【0030】
また、電解質ゲルフィルム1は耐劣化性と高保水性を有するため、長期にわたり安定して電解質ゲルフィルム1内にpH分布を形成することできる。このため、例えば、固定サンプル5に金属を用いて電解質ゲルフィルム1上に設置し、電解質ゲルフィルム1内に形成されるpH分布を経時的に計測して固定サンプル5における酸化反応を把握するような、長期にわたる経時変化測定試験を実施することが可能となる。
【0031】
さらに、電解質ゲルフィルム1は化学変化を促進する酸化剤や還元剤と接触してもゲルを形成維持できることから、例えば、酸化剤を添加することにより、電解質ゲルフィルム1上で固体サンプル5を強制的に酸化させる促進酸化試験を実施することができる。こうすると、先に述べた固体サンプル5における酸化反応を把握するような長期にわたる経時変化測定試験を、短期間で実施することが可能となる。
【0032】
次に、上記の電解質ゲルフィルム1を用いた、化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法を以下に詳述するが、これに先立ち、化学イメージングセンサ2の概略を、
図1および
図3を参照して簡略に説明する。
【0033】
化学イメージングセンサ2は、電解質中のpH分布を測定する際に使用される半導体化学センサであり、
図1に示すように、半導体(Si)211上に絶縁体(SiO
2/Si
3N
4)212を積層したセンサ本体21と、センサ本体21の上面に設置される電解質ゲルフィルム1の側面を保護するホルダ22と、電解質ゲルフィルム1の上面を保護する多孔性のフィルタ23とを備える。
【0034】
ホルダ22の上部には、電解質よりなるリザーブ液241をフィルタ23と接するように充填したリザーバー24が設置され、リザーブ液241中に参照電極25が配置されるとともに、半導体(Si)211の下面に対極26が設置されている。また、半導体(Si)211の近傍には、半導体(Si)211の下面にレーザー光271を照射するための半導体レーザー27と、レーザー光271が半導体(Si)211の下面全域を移動しながら照射するよう、レーザー光271を
図3に示すように移動させるためのxyステージ28が設置されている。
【0035】
上述した構成の化学イメージングセンサ2は、半導体(Si)211と電解質ゲルフィルム1間にバイアス電圧を印加しつつ、半導体(Si)211の下面全域を網羅するよう、レーザー光271を
図3で示すように移動させながら順に照射することにより、半導体(Si)211の下面におけるレーザー光271が照射された局所領域6各々の交流光電流を測定する。なお、ここで用いるバイアス電圧とは、半導体(Si)211に対する参照電極25の電位をいう。
【0036】
局所領域6ごとで測定された交流光電流は、位置座標と共にパソコン等の端末装置3に記録されるとともにpHに変換され、電解ゲルフィルム1内におけるpHの2次元的な空間分布としてグレースケールやカラースケールで画像表示される。
【0037】
なお、pHは、交流光電流のバイアス電圧特性が、電解質ゲルフィルム1中のpHに依存してバイアス電圧方向にシフトすることを利用して測定されるものである。
また、本実施の形態では、リザーブ液241を充填したリザーバー24を設け、リザーブ液241中に参照電極25を配置する構成の化学イメージングセンサ2を用いたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、参照電極25を電解質ゲルフィルム1に直接配置する構成のものを用いてもよい。
【0038】
上記の化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法を、
図1〜
図6を参照して詳述する。
【0039】
本実施の形態では、黄鉄鉱にpH調整した過酸化水素水を接触させることで黄鉄鉱の表面を強制的に酸化させ、酸化反応に伴う黄鉄鉱を中心とする周辺領域のpH分布の経時変化を測定する場合を例にとり、説明する。
【0040】
具体的には、電解質ゲルフィルム1にpH調整した酸化剤13を予め含有させておき、この電解質ゲルフィルム1に固体サンプル5を埋め込む。これにより、固体サンプル5の表面を強制的に酸化させるとともに、酸化反応に伴って電解質ゲルフィルム1内に形成される固体サンプル5の表面状態を反映したpH分布の経時変化を測定する。よって、固定サンプル5には黄鉄鉱を採用し、酸化剤13にはpH調整した過酸化水素水を採用する。
【0041】
まず、
図2(a)で示したように、電解液12に対してゲル化剤11を少量づつ添加しながら撹拌を行い、電解質ゲル14を作製する。
一方で、30%濃度の過酸化水素水に1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH7.0に調整した酸化剤13を作製する。
また、固体サンプル5である黄鉄鉱は、乾燥させた後にふるい分けし粒径2mm程度に粒度調整しておく。
【0042】
作製した電解質ゲル14に対して、
図4(a)に示すように上記の酸化剤13を添加して再度撹拌し、過酸化水素水濃度が2%の電解質ゲル14を作製する。なお、電解質ゲル14は、電解液12と酸化剤13とを足しあわせた液質量に対して、ゲル化剤11が4質量%となるように作成する。
【0043】
この後、
図4(b)に示すように、化学イメージングセンサ2のセンサ本体21上にホルダ22をセットし、該ホルダ22の内方に
図4(a)にて作成した電解質ゲル14を充填して電解質ゲルフィルム1を形成する。このとき、センサ本体21と電解質ゲルフィルム1との間には、空隙ができないよう密着させる。
【0044】
次に、固体サンプル5を設置しない状態で、
図1に示すように、フィルタ23、リザーバー24、参照電極25等をセットし、バイアス電圧を印加するとともに、半導体(Si)211の下面にレーザー光271を照射して、半導体(Si)211の下面におけるレーザー光271が照射された局所領域6各々の交流光電流を測定する。
【0045】
これにより局所領域6各々でI−V曲線が得られるから、各々のI−V曲線から任意に固定したバイアス電圧の交流光電流値を検出し、これを局所領域6各々の基準電流値として設定する。
【0046】
上記の測定が終了した後、
図4(c)に示すように、固体サンプル5を電解質ゲルフィルム1内の中央部に埋め込み、再度フィルタ23、リザーバー24及び参照電極25等をセットする。そして、バイアス電圧を印加するとともに、半導体(Si)211の下面にレーザー光271を照射して、半導体(Si)211の下面におけるレーザー光271が照射された局所領域6各々の交流光電流を測定する。
【0047】
先にも述べたたが、I−V曲線は
図5で示すように、電解質ゲルフィルム1内のpHに依存してバイアス電圧方向にシフトすることが知られている。そして、固体サンプル5が埋め込まれた電解質ゲルフィルム1内は、固体サンプル5の表面状態に応じてプロトンが放出されるから、電解質ゲルフィルム1のみの状態とは異なるpH分布が形成される。したがって、局所領域6各々で得られるI−V曲線は、電解質ゲルフィルム1のみの状態で得たI−V曲線と比較して、pHの変化量に応じてバイアス電圧方向にシフトする。
【0048】
そこで、局所領域6各々において、固体サンプル5を埋めた電解質ゲルフィルム1のI−V曲線から先に設定した基準電流値に対応するバイアス電圧値を検出し、このバイアス電圧値と先に固定したバイアス電圧値との差から、電解質ゲルフィルム1のみのI−V曲線に対する、固体サンプル5を埋めた電解質ゲルフィルム1のI−V曲線のバイアス電圧のシフト量を算定する。そして、このシフト量をpHあたりの起電力の理論値(59mv/pH)で除することにより、局所領域6各々のpHの変化量を算出する。
【0049】
上記の測定を一定時間ごとに繰り返し、経過時間ごとで電解質ゲルフィルム1のみの状態で得たpH分布に対するpHの変化量を測定し、
図6で示すようにグレースケールにて画像表示することにより、電解質ゲルフィルム1内におけるpH分布の経時変化を可視化する。
【0050】
なお、測定の時間間隔はいずれでもよいが、本実施の形態では、xyステージ28を介してこのレーザー光271を移動させ、半導体(Si)211の下面全域に対して光走査を行うのに要する時間が20分であることから、20分ピッチで連続的に測定を行っている。
【0051】
図6は、色が薄くなるにつれてpH値の変化量が増加し、酸性傾向にあることを示している。なお、
図6(a)〜(d)各々の画像範囲は、固定サンプル5を中心とした電解質ゲルフィルムの約10mm×10mmの範囲であり、固定サンプル5の粒径は先にも述べたように2mmである。
【0052】
試験開始から20分後の
図6(a)では、pH分布に変化が見られないものの、100分後の
図6(b)では、固体サンプル5が配置されている電解質ゲルフィルム1の中央部分でpH分布が変化しており、酸化が進んでいる様子がわかる。200分後の
図6(c)では、固体サンプル5を中心とした周辺領域にまでpH分布の変化が広がり、360分後の
図6(d)では、pH分布が変化している範囲が、さらに広がっている様子がわかる。
【0053】
このように、本発明の化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法によると、固体サンプル5の表面を酸化させることにより、固体サンプル5の表面状態に応じたpH値の経時変化を測定できるだけでなく、酸化が進行することで固体サンプル5の表面から放出されたプロトンが電解質ゲルフィルム1中を二次元的に拡散する様子をpH分布の経時変化として測定することができる。つまり、固体サンプル5の酸化が進行することに伴う、周辺領域への経時的な影響を評価することも可能となる。
【0054】
なお、黄鉄鉱のような自然由来の重金属等を含有する岩石・土壌の酸性化の程度を把握する試験としては、いわゆる酸性化可能性試験が知られている。しかし、この試験方法は、pH調整した過酸化水素水中に黄鉄鉱を投入した溶液のpHを測定するのみであるから、本発明の化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法を利用した試験のように、pH分布の経時変化を測定できないことは言うまでもない。
【0055】
また、酸化剤13として過酸化水素水を用いる試験は反応性が高いため、上述の酸性化可能性試験では、その作業に危険を伴う場合が多い。しかし、本発明の化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法によると、反応させる試料が少量であるため、試験の危険性を最小限に抑制することが可能となる。
【0056】
上記のとおり本発明は、電解質ゲルフィルム1のゲル化剤11にスメクタイト、好ましくは合成サポナイトを採用するから、長期にわたるpH分布の経時変化測定試験を行っても、電解質ゲルフィルム1に腐敗等の劣化を生じることがなく、化学変化を促進する材料を添加してもゲルを形成維持できるため、いずれの測定条件に対しても電解質ゲルフィルム1内にpH分布を安定して精度よく形成することが可能となる。
【0057】
本発明の電解質ゲルフィルム1および電解質ゲルフィルム1を用いた化学イメージングセンサ2によるpH分布の経時変化測定方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0058】
例えば、本実施の形態では、半導体レーザー27を用いて半導体(Si)211の下面にレーザー光271を照射したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、LEDを用いて半導体(Si)211の下面にLED光を照射してもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、固体サンプル5の表面化学分析を行う場合を例にとり説明したが、サンプル自身が電解液12の場合であってもゲル化剤11にスメクタイト、好ましくは合成サポナイトを採用できることは、言うまでもない。