(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、本発明における成分の限定理由を説明する。
本発明のフェライトコアは主成分としてのFe量をFe
2O
3換算で51.5〜54.5mol%とする。なお、以下では、Fe量をFe
2O
3換算で、との表記を単に、Fe
2O
3量等と表記する。Fe
2O
3量が51.5mol%未満だと、100℃における飽和磁歪は低減されるが飽和磁束密度が小さくなってしまう。一方、Fe
2O
3量が54.5mol%を超えると100℃における飽和磁歪が大きくなってしまう。したがって、本発明ではFe
2O
3量を51.5〜54.5mol%とする。好ましい量は51.5〜53.5mol%である。
【0014】
ZnO量も飽和磁束密度及び飽和磁歪に影響を与える。ZnO量が6.5mol%より少ないと飽和磁歪が大きくなってしまう。ZnOが12.5mol%を超えると100℃における飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明ではZnO量を6.5〜12.5mol%とする。本発明のフェライトコアは主成分として、上記以外に不可避的不純物を除いて残部がMnOから構成される。
【0015】
次に本発明における副成分について説明する。
本発明のフェライトコアは、副成分として、Li量をLi
2CO
3換算で50〜4000ppmとする。Li
2CO
3は磁歪を抑制するのに有効であり、その効果を得るために主成分に対して50ppm以上添加する。但し、添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明ではLi
2CO
3量を4000ppm以下とする。好ましい量は1000〜2500ppmである。
【0016】
本発明のフェライトコアは、副成分として、Ti量をTiO
2換算で100〜8000ppmとする。TiO
2は4価のTiイオンとしてスピネル格子中のFeと置換して磁歪を低減できる。その効果を得るためには主成分に対し100ppm以上添加する。但し、添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなる。したがって本発明ではTiO
2量を8000ppm以下とする。好ましい量は500〜5000ppmである。
【0017】
本発明のフェライトコアは、副成分として、Co量をCoO換算で500〜4000ppmとする。CoOは磁歪を抑制するのに有効であり、その効果を得るために主成分に対して500ppm以上添加する。但し、その添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明では、CoO量を4000ppm以下とする。好ましいCoO量は500〜3000ppmである。
【0018】
また、Li、Ti、Coは同時に添加することでその効果はさらに高まる。LiやCoはスピネル結晶中のBサイトに固溶することで磁歪抑制効果が得られる。しかし、これらを単体で添加すると、BサイトだけではなくAサイトにも固溶してしまい、添加量に対して十分な効果が得られない。しかし、Tiを同時に添加することでLiやCoがBサイトに固溶しやすくなり単体で添加するよりも大きい磁歪抑制効果を得ることができると考えられる。
【0019】
本発明のフェライトコアは、上述した組成を適宜選択することにより100℃における飽和磁束密度が380mT以上と高く、且つ、100℃における飽和磁歪を低減し駆動時の音鳴きを抑えることができる。
【0020】
本発明では次のように副成分を制限することでコア損失を抑えることができる。
本発明のフェライトコアは、副成分として、SiO
2を50〜300ppm及びCaCO
3を200〜3000ppmの範囲内で含むことができる。Si及びCaは、結晶粒界に偏析して高抵抗層を形成して低損失に寄与するとともに焼結助剤として焼結密度を向上する効果を有する。SiがSiO
2換算で50ppm未満、あるいはCaがCaCO
3換算で200ppm未満だと上記効果を十分に得ることができない。また、SiがSiO
2換算で300ppm、あるいはCaがCaCO
3換算で3000ppmを超えると、異常粒成長によるコア損失の劣化が大きくなる。SiO
2は50〜150ppm及びCaCO
3は500〜2000ppmとすることが好ましく、さらにSiO
2は75〜125ppm及びCaCO
3は800〜1600ppmとすることが好ましい。
【0021】
本発明のフェライトコアは、副成分として、Nb
2O
5を50〜750ppm及びTa
2O
5を50〜1500ppmの範囲内で含むことができる。Nb及びTaは粒界抵抗を高める働きがある成分である。NbがNb
2O
5換算で50ppm未満、あるいはTaがTa
2O
5を換算で50ppm未満では改善効果がない。また、NbがNb
2O
5換算で750ppmを超え、あるいはTaがTa
2O
5換算で1500ppmを超えると異常粒成長によりコア損失が大きくなるため、Nb
2O
5を50〜750ppm及びTa
2O
5を50〜1500ppmの範囲に限定した。含有量が多くなると異常粒成長を起こすためNb
2O
5を100〜300ppm及びTa
2O
5を100〜600ppmの範囲で含有させるのが好ましい。
【0022】
本発明のフェライトコアは、副成分として、V
2O
5を50〜1000ppmの範囲内で含むことができる。Vは粒界抵抗を高める働きがある成分である。VがV
2O
5を換算で50ppm未満では改善効果がない。また、VがV
2O
5換算で1000ppmを超えると異常粒成長によりコア損失が大きくなるため、V
2O
5を50〜1000ppmの範囲に限定した。含有量が多くなると異常粒成長を起こすためV
2O
5を100〜500ppmの範囲で含有させるのが好ましい。
【0023】
本発明のフェライトコアは、副成分として、SnO
2を500〜13000ppm含むことができる。SnO
2は、一部粒界に存在し焼結後の冷却過程で粒界再酸化を助長して損失を低下させる成分である。SnO
2は4価のイオンとしてスピネル格子の原子とも置換してボトム温度を低下させる働きもある。しかしながら、添加量が多すぎると異常粒成長を引き起こして損失が高くなるため、SnO
2は500〜13000ppm、の範囲で含有させる。好ましくは、SnO
2を1000〜8000ppmの範囲で含有させる。なお、これらの成分は必ずしも酸化物の形で添加する必要はなく、たとえば、炭酸塩の形で混合してもかまわない。
【0024】
本発明のフェライトコアは、上述した組成を適宜選択することにより100℃における損失を抑えることができる。
【0025】
次に、本発明によるフェライトコアにとって好適な製造方法を説明する。
主成分の原料としては、酸化物又は加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いる。具体的には、Fe
2O
3粉末、Mn
3O
4粉末及びZnO粉末等を用いることができる。各原料粉末の平均粒径は0.1〜3μmの範囲で適宜選択すればよい。主成分の原料粉末を湿式混合した後、仮焼きを行う。仮焼きの温度は800〜1100℃の範囲内での所定温度とすればよい。仮焼きの安定時間は0.5〜5時間の範囲で適宜選択すればよい。仮焼き後、仮焼き材を例えば、平均粒径0.5〜3μm程度まで粉砕する。なお、本発明では、上述の主成分の原料に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を主成分の原料としてもよい。例えば、塩化鉄、塩化マンガンを含有する水溶液を酸化培焼することによりFe、Mnを含む複合酸化物の粉末が得られる。この粉末とZnO粉末を混合して主成分原料としてもよい。このような場合には、仮焼きは不要である。
【0026】
仮焼き後に副成分を添加する。仮焼き後の添加には、仮焼き材に副成分の原料を添加して上記粉砕を行ってもよいし、仮焼き材の粉砕後に副成分の原料を添加、混合することができる。ただし、Li
2CO
3、TiO
2、CoOについては、主成分の原料とともに仮焼きに供することもできる。
副成分の原料として、酸化物又は加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いることもできる。具体的には、Li
2CO
3粉末、Co
3O
4粉末、TiO
2粉末、SiO
2粉末、CaCO
3粉末、Nb
2O
5粉末、Ta
2O
5粉末、SnO
2粉末等を用いることができる。
【0027】
主成分及び副成分からなる混合粉末は、後の成型工程を円滑に実行するために顆粒に造粒される。造粒は例えばスプレードライヤを用いて行うことができる。混合粉末に適当な結合材、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加し、これをスプレードライヤで噴霧、乾燥する。得られる顆粒の粒径は80〜300μm程度とすることが好ましい。
【0028】
得られた顆粒は、例えば所定形状の金型を有するプレスを用いて所望の形状に成型され、この成型体は焼成工程に供される。
焼成工程においては、焼成温度と焼成雰囲気を制御する必要がある。焼成温度は1250〜1500℃の範囲から適宜選択することができるが、本発明のフェライトコアの効果を十分引き出すには、1300〜1400℃の範囲で焼成することが好ましい。焼成雰囲気は、窒素と酸素の混合雰囲気において、酸素分圧を適宜調整すればよい。
【0029】
焼成された本発明によるフェライトコアは、93%以上、さらに好ましくは95%以上の相対密度を得ることができる。
本発明により得られたフェライトコアはトランスに用いることが可能であり、本発明により得られたトランスは、スイッチング電源装置に用いることが可能である。
【0030】
図1(a)は、本実施形態に係るE字型フェライトコア(磁心)を示す斜視図である。
図1(a)に示すように、E字型のフェライトコア10は、E型コアなどと呼ばれ、トランスなどに使用される。フェライトコア10のようなE型コアが採用されたトランスとしては、
図1(b)に示すような、内部に2つのE型コアが対向配置されたものが知られている。
【0031】
図2は、スイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
【0032】
図2に示すスイッチング電源装置200は、直流入力電圧V
inを直流出力電圧V
outに変換するための装置(DC/DCコンバーター)であり、直流出力電圧V
inに含まれるノイズ成分を除去する入力フィルタ201と、入力フィルタ201の出力を交流に変換するスイッチング回路202と、スイッチング回路202の出力を変圧するトランス203と、トランス203の出力を直流に変換する整流回路204と、整流回路の出力を平滑化する平滑回路205とを備えている。このような構成を有するスイッチング電源装置200において、トランス203のコアとして本発明によるコアを用いれば、トランス203にて発生する音鳴きを抑制できることから、スイッチング電源装置200の騒音問題を解決することができる。
【0033】
図2に示したスイッチング電源装置200は、特に自動車用のスイッチング電源装置として利用することが好適である。
【0034】
図3は、スイッチング電源装置200を備えた自動車の主要部分を概略的に示すブロック図である。
【0035】
図3に示すように、スイッチング電源装置200を自動車用に用いた場合、スイッチング電源装置200は、高圧バッテリー210と電気機器220及び低圧バッテリー230との間に設けられ、高圧バッテリー210より供給される約144Vや約288Vの高電圧を約14Vに降圧してこれを電気機器220に供給するとともに、低圧バッテリー230を充電する役割を果たす。電気機器220としては、自動車に備えられるエアコンやオーディオ等が挙げられる。
【0036】
高圧バッテリー210への充電は、発電装置240より供給される電力によって行われる。また、高圧バッテリー210の出力はモータ250にも供給され、モータ250は、高圧バッテリー210より供給される高電圧(約144Vや約288V)に基づいて駆動系260を駆動する。尚、燃料電池車においては燃料電池本体が発電装置240となり、ハイブリッド車においてはモータ250が発電装置240を兼ねることになる。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
主成分の原料としてFe
2O
3粉末、Mn
3O
4粉末及びZnO粉末、副成分の原料としてLi
2CO
3粉末、TiO
2粉末、Co
3O
4粉末、SiO
2粉末、CaCO
3粉末、Nb
2O
5粉末、V
2O
5粉末、Ta
2O
5粉末及びSnO
2粉末を用いた。主成分の組成、副成分の組成を表1〜3に示す。また、表1、2は表に示した材料の他にSiO
2を100ppm、CaCO
3を1000ppm、Nb
2O
5を200ppmを添加した。これらの粉末を湿式混合した後、大気中、900℃で3時間仮焼きした。
得られた混合物にバインダを加え、顆粒化した後、成型してトロイダル形状の成型体、I型形状の成型体、及び、E型形状の成型体を得た。得られた成型体を酸素分圧制御下において、温度1300℃(安定部5時間、安定部酸素分圧2%)で焼成することにより、トロイダル形状のフェライトコア(外径20mm、内径10mm、厚さ5mm)、I字型形状のフェライトコア(長さ70mm、幅8mm、厚さ8mm)及びE字型形状のフェライトコア(長さ40mm、高さ15mm、幅5mm)を得た。
【0039】
次に本発明の測定方法について説明する。
100℃における磁歪の測定は共和電業製の歪ゲージ(KFG:汎用箔ひずみゲージ)を用いて行った。I型のフェライトコアの中心部側面に歪ゲージを貼り付けた。Iコアを励磁して歪量が変化しなくなった時点における歪量の変化率の絶対値を飽和磁歪λsとした。なお、以下ではIコアを励磁して歪量が変化しなくなった時点における歪量の変化率の絶対値を飽和磁歪またはλsと表記する。
【0040】
100℃における音鳴きはE型コア各組成を簡易無響箱内に設置して行った。測定はコアと騒音計のマイク先端部を30mm離れた位置に設置して行った。音圧レベルは小野測器製の騒音計(LA−5570)を用いて測定した。データはA特性変換後のオーバーオール値(OA値)を示す。A特性は、人間の聴感に基づいた音圧レベルを表す量として周波数の重みをつけた値である。OA値は、周波数分析された各音圧レベルの合計である。OA値は一般的に使用するうえで適切な値である45dB以下とした。
【0041】
100℃における飽和磁束密度Bsはトロイダル形状のコアを、メトロン技研製直流磁化特性試験装置(SK−110)により、励磁磁界1194A/mの条件下で測定した。飽和磁束密度Bsは電源用トランスに使用するのに必要な380mT以上とした。
【0042】
100℃におけるコア損失Pcvはトロイダル形状のフェライトコアを用いて、1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下でIWATSU製BHアナライザー(SY−8217)により測定した。
【表1】
【表2】
【表3】
【0043】
以上の測定結果より、以下のことが判る。
表中の「−」はその材料を添加していないことを示している。
【0044】
(表1)
Fe
2O
3量が51.5mol%未満(比較例1、2参照)だと100℃における飽和磁束密度Bs(以下、100℃における、は省略)が380mTより小さくなってしまう。また、Fe
2O
3量が54.5mol%を超える(比較例7、8参照)と飽和磁歪が1.5×10
−6より大きくなりOA値が45dBより大きくなってしまう。
また、ZnO量が6.5mol%未満(比較例3、5参照)では飽和磁歪が1.5×10
−6より大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、ZnO量が12.5mol%を超える(比較例4、6参照)と飽和磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
【0045】
(表2)
副成分であるLi
2CO
3の量が50ppmより少ない(比較例9参照)と飽和磁歪が大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、Li
2CO
3量が4000ppmを超える(比較例10参照)と飽和磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
副成分であるTiO
2の量が100ppmより少ない(比較例11参照)と飽和磁歪が1.5×10
−6より大きくなってしまい、OA値も45dBより大きくなってしまう。また、TiO
2量が8000ppmを超える(比較例12参照)と磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
副成分であるCoOの量が500ppmより少ない(比較例13参照)と飽和磁歪が1.5×10
−6より大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、CoO量が4000ppmを超える(比較例14参照)と飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
【0046】
以上に対して、Fe
2O
3量が51.5〜54.5mol%、ZnO量が6.5〜12.5mol%、残部MnOの主成分に対して、副成分としてLi
2CO
3量を50〜4000ppm、TiO
2量を100〜8000ppm及びCoOを500〜4000ppmを含む場合に、100℃における飽和磁歪が1.5×10
−6以下、OA値が45dB以下、飽和磁束密度Bsが380mT以上という特性を得ることができる。
【0047】
(表3)
他の副成分については以下の通りである。
SiO
2及びCaCO
3は、前述の通り、結晶粒界に偏析して高抵抗層を形成して低損失に寄与するとともに焼結助剤として焼結密度を向上する効果を有するが、表3に示すように、コア損失Pcvに影響を及ぼす。つまり、SiO
2及びCaCO
3を添加することにより、コア損失Pcvを低減することができるが、表3に示すように、添加しすぎるとコア損失が悪くなる(実施例20〜27参照)。そこで、SiO
2及びCaCO
3を添加する場合には、SiO
2を50〜300ppm、CaCO
3を200〜3000ppmとする。
また、Nb
2O
5及びTa
2O
5を添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例28〜
30、32及び33、参考例31及び34参照)。しかし、SiO
2及びCaCO
3の場合と同様に添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はNb
2O
5を50〜750ppm以下、Ta
2O
5を50〜1500ppm以下とする。
また、V
2O
5を添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例35〜37参照)。しかし、SiO
2及びCaCO
3の場合と同様に添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はV
2O
5を50〜1000ppm以下とする。
また、SnO
2を添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例38〜40参照)。しかし、SiO
2をCaCO
3の場合と同様に添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はSnO
2を500〜13000ppm以下とする。