特許第6551072号(P6551072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551072
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】MEMSスイッチ及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01H 57/00 20060101AFI20190722BHJP
   H01H 59/00 20060101ALI20190722BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   H01H57/00 A
   H01H59/00
   B81B3/00
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-173151(P2015-173151)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-50178(P2017-50178A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 承太郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 謙二
(72)【発明者】
【氏名】青柳 岳
(72)【発明者】
【氏名】小山内 勝則
(72)【発明者】
【氏名】井上 亨
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−108836(JP,A)
【文献】 特開2010−177143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 51/00 〜 59/00
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1可撓性部材と、
前記第1可撓性部材に設けられた第1信号線と、
前記第1可撓性部材に設けられ、前記第1信号線に隣接する第1グランド電極と、
前記第1可撓性部材に対してギャップを介して隣接した第2可撓性部材と、
前記第2可撓性部材に設けられた第2信号線と、
前記第2可撓性部材に設けられ、前記第2信号線に隣接する第2グランド電極と、
を備え、
少なくとも前記第1可撓性部材を変形させる第1駆動素子と、
前記第1信号線及び前記第2信号線のいずれか一方に固定され、前記第1可撓性部材の変形に伴って、前記第1信号線と前記第2信号線との間の接続を行う接触端子と、
を備えることを特徴とするMEMSスイッチ。
【請求項2】
前記第1可撓性部材上には、前記第1信号線及び前記第1グランド電極が設けられ、
前記第2可撓性部材上には、前記第2信号線及び前記第2グランド電極が設けられ、
前記第2グランド電極は、第1のギャップを介して、前記第1信号線に隣接するまで延びており、前記第1信号線は、前記第1グランド電極と前記第2グランド電極とにより挟まれように位置することで、第1のコプレーナ導波路を構成し、
前記第1グランド電極は、第2のギャップを介して、前記第2信号線に隣接するまで延びており、前記第2信号線は、前記第2グランド電極と前記第1グランド電極とにより挟まれように位置することで、第2のコプレーナ導波路を構成している、
ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスイッチ。
【請求項3】
前記第1可撓性部材と、前記第2可撓性部材とは、平面視において、点対称に配置されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のMEMSスイッチ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のMEMSスイッチと、
信号入力素子と、
前記信号入力素子に前記MEMSスイッチを介して接続された信号処理素子と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSスイッチ及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からスイッチング装置として電気式微小機械装置(Micro Electromechanical System:MEMS)を用いたものが知られている。このようなスイッチング装置では、圧電素子又は静電素子からなる駆動素子と、駆動素子によって変形する可撓性部材からなるビーム(梁)と、ビームに取り付けられた接触端子を用いて、信号線間の接続及び切断を行っている。
【0003】
MEMSスイッチは、RF信号等の高周波信号の接続に用いることができる。代表的なビームと駆動素子の組み合わせ部品(以下、可動部)おいては、ビームの先端に接触端子(電極)が設けられている。ビームは筐体内に収容され、筐体にはビーム先端の接触端子に対向する位置に、接続先の電極が設けられている。ビームが振動することにより、ビーム先端の電極と、筐体の電極とが接触(接続)と開放(切断)とを繰り返す。RF用MEMSスイッチは、この動作によりRF信号の伝達を制御する。
【0004】
MEMSスイッチは、微小な変位により接触と解放を繰り返すことにより、スイッチとして機能を果たすが、可動部は膜の持つ応力や温度変化による熱応力により、筐体との接点の相対位置が変化する可能性がある。この問題を回避する手段として対向する可動部上に信号線を設置する手法(特許文献1及び特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許8552621号
【特許文献2】米国特許8604670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献の手法ではRF信号線を接触させる問題は回避できるが、膜応力や熱応力による反りの変動を許容しているために、RF信号線と、その近傍に設置されたグランド電極との相対位置は変化し、それにより特性インピーダンスも変化し、結果としてRF信号の伝送性能が変化する。このために、製品間のバラつきや、温度特性の劣化が生じる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高品質な信号伝達をすることが可能なMEMSスイッチ及びこれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、第1のMEMSスイッチは、第1可撓性部材と、前記第1可撓性部材に設けられた第1信号線と、前記第1可撓性部材に設けられ、前記第1信号線に隣接する第1グランド電極と、前記第1可撓性部材に対してギャップを介して隣接した第2可撓性部材と、前記第2可撓性部材に設けられた第2信号線と、前記第2可撓性部材に設けられ、前記第2信号線に隣接する第2グランド電極と、を備え、少なくとも前記第1可撓性部材を変形させる第1駆動素子と、前記第1信号線及び前記第2信号線のいずれか一方に固定され、前記第1可撓性部材の変形に伴って、前記第1信号線と前記第2信号線との間の接続を行う接触端子とを備えていることを特徴とする。
【0009】
このMEMSスイッチによれば、第1信号線と第1グランド電極は、同一の第1可撓性部材に設けられているので、第1駆動素子によって第1可撓性部材を変位させても、相対位置が変化せず、第1信号線の特性インピーダンスの変化を抑制できる。同様に、第2信号線と第2グランド電極は、同一の第2可撓性部材に設けられているので、第2駆動素子によって第2可撓性部材を変位させても、相対位置が変化せず、第2信号線の特性インピーダンスの変化を抑制できる。
【0010】
また、第1可撓性部材と第2可撓性部材は、いずれも信号線とグランド電極を備えているため、物理的な特性が一致しやすく、したがって、温度変化に伴う構成要素の特性やスイッチング用の接触端子の位置の変化を相殺して軽減することが可能である。したがって、MEMSスイッチは、温度変化及び撓みに対して、高い耐性を有することとなり、高品質な信号伝達をすることができる。
【0011】
また、第2のMEMSスイッチにおいては、前記第1可撓性部材上には、前記第1信号線及び前記第1グランド電極が設けられ、前記第2可撓性部材上には、前記第2信号線及び前記第2グランド電極が設けられ、前記第2グランド電極は、第1のギャップを介して、前記第1信号線に隣接するまで延びており、前記第1信号線は、前記第1グランド電極と前記第2グランド電極とにより挟まれように位置することで、第1のコプレーナ導波路を構成し、前記第1グランド電極は、第2のギャップを介して、前記第2信号線に隣接するまで延びており、前記第2信号線は、前記第2グランド電極と前記第1グランド電極とにより挟まれように位置することで、第2のコプレーナ導波路を構成している。
また、第3のMEMSスイッチにおいては、第1可撓性部材と、前記第2可撓性部材とは、平面視において、点対称に配置されていることを特徴とする。
【0012】
これらの可撓性部材が点対称に配置されている場合、その変位動作も点対称になるため、これらの可撓性部材の温度変位量と撓み動作が同じようになる。したがって、温度変化と撓み動作の相違に伴う接触端子による接触位置のバラつきを相殺して軽減し、信号伝達品質の劣化を抑制することができる。
【0013】
第4のMEMSスイッチは、上述のMEMSスイッチと、信号入力素子と、前記信号入力素子に前記MEMSスイッチを介して接続された信号処理素子と、を備えることを特徴とする電子機器。この電子機器は、MEMSスイッチが高品質な信号伝達を行うため、誤動作が少ないなどの高性能な動作をすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このMEMSスイッチによれば、高品質な信号伝達をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】MEMSスイッチの概略構成を説明するブロック図である。
図2】圧電駆動素子の構成について説明する概略断面図である。
図3】MEMSスイッチにおける接点部材の機能について説明する概略断面図である。
図4】第1実施形態のMEMSスイッチの斜視図である。
図5図4に示したMEMSスイッチの縦断面構成を示す図である。
図6図5に示したMEMSスイッチにおける基板の平面図である。
図7図6に示したMEMSスイッチを改良した基板の平面図である。
図8図7に示したMEMSスイッチを改良した基板の平面図である。
図9図7に示したMEMSスイッチを変形した基板の平面図である。
図10図8に示したMEMSスイッチを変形した基板の平面図である。
図11】本実施形態に係るMEMSスイッチが適用される電子機器の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、MEMSスイッチ100の概略構成を示す図である。
【0018】
MEMSスイッチ100は、所謂高周波スイッチ(RFスイッチ)の1つであり、圧電又は静電アクチュエータによって機械的にスイッチングを行う装置である。
【0019】
図1に示すように、MEMSスイッチ100は、第1駆動部SP1と、第1信号線14と、接触端子15と、第1グランド(第1GND)16と、第2駆動部SP2と、第2信号線24と、第2グランド(第2GND)26と、を含んで構成される。第1駆動部SP1は、第1駆動素子11(圧電駆動素子)と、第1駆動回路12と、第1ビーム13(梁)とを含んで構成される。また、第2駆動部SP2は、第2駆動素子21と、第2駆動回路22と、第2ビーム23(梁)とを含んで構成される。また、MEMSスイッチ100を構成する上述の要素は、例えば筐体等の固定部材PKによって覆われた状態とされる。
【0020】
第1信号線14及び第2信号線24はそれぞれCu等の導体から構成される。また、接触端子15は、例えばAu等の導体から構成される。MEMSスイッチ100では、外部からの入力信号を第1信号線14及び第2信号線24を介して導き、第2信号線24から出力信号として外部へ出力する。第1信号線14と第2信号線24との間は、接触端子15により接続及び切断が切り換えられる。
【0021】
接触端子15が、第1信号線14に固定されている場合は、接触端子15が第2信号線24に対して接触することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続(ON)され、接触端子15が第2信号線24から離間することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に切断(OFF)される。接触端子15は、第1信号線14ではなく、第2信号線24に固定することもできる。
【0022】
接触端子15が、第1信号線14及び第2信号線24の双方から離間している構造の場合、接触端子15の移動によって、接触端子15が第1信号線14及び第2信号線24の双方に対して接触することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続(ON)され、接触端子15が第1信号線14及び第2信号線24から離間することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に切断(OFF)される。
【0023】
なお、第1信号線14と第1GND16とは、電磁気学的な影響が生じる程度に近接配置されており、所定の特性インピーダンスを有する高周波線路が形成される。また、第2信号線24と第2GND26とは、電磁気学的な影響が生じる程度に近接配置されており、所定の特性インピーダンスを有する高周波用の高周波線路が形成される。第1GND16と、第2GND26とは、電気的に接続されており、同電位に固定されていることが好ましい。これらのグランドは、第1信号線14と第2信号線24と共に高周波線路、例えばコプレーナ導波路(CPW:Coplanar Waveguide)を構成する。なお、第1信号線14と第1GND16との間には容量C1が介在し、第2信号線24と第2GND26との間には容量C2が介在する。
【0024】
接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えは、第1信号線14、接触端子15及び第2信号線24のうちの一部の物理的な移動によって行われる。第1駆動部SP1は、第1駆動素子11によって、第1ビーム13を変形させ、第1信号線14に接触端子15が固定されている場合には、これら双方を移動させ、第1信号線14に接触端子15が固定されていな場合には、接触端子15を移動させる機能を有している。
【0025】
第2駆動部SP2は、第2駆動素子21によって、第2ビーム23を変形させることができるので、第2ビーム23に固定された第2信号線24は、必要に応じて、接触端子15の方向へ移動したり、離間することができる。なお、第2ビーム23を変形する必要が無い場合には、第2駆動素子21には第2駆動回路22から駆動信号は与えられず、第2ビーム23の変形が不要である場合は、第2駆動回路22は無くてもよい。
【0026】
第1駆動部SP1では、制御回路CONTからの信号に基づいて第1駆動回路12からの電圧印加により、第1駆動素子11が変形する。第1ビーム13(第1可撓性部材13)は、可撓性を有する部材により構成され第1駆動素子11の変形に伴って変形する。
【0027】
同様に、第2駆動部SP2では、制御回路CONTからの信号に基づいて第2駆動回路22からの電圧印加により、第2駆動素子21が変形する。第2ビーム23(第2可撓性部材23)は、可撓性を有する部材により構成され第2駆動素子21の変形に伴って変形する。
【0028】
図2は、圧電駆動素子の構成について説明する概略断面図である。
【0029】
以下では、XYZ三次元直交座標系を設定する。図1に示した第1ビーム13の厚み方向をZ軸方向とし、長手方向をX軸方向として、Z軸及びX軸の双方に垂直な幅方向をY軸方向とする。
【0030】
図2に示すように、第1駆動部SP1の第1駆動素子11は、Pt等の下部電極層11a、圧電体材料層11b、及びPtなどの上部電極層11cをZ方向に積層配置した構成を有する。この第1駆動素子11の下部電極層11aと上部電極層11cとの間に所定の電圧を印加することにより、圧電体材料層11bの厚さが増加し、面内寸法が減少する(面内方向では縮む)。圧電体の分極と、同一の方向に正の直流電圧を印加すると圧電素子は伸び、逆に負の直流電圧をかけると縮む。したがって、電圧の向き制御することで、圧電素子の面内方向の伸縮を制御することができる。
【0031】
第1駆動素子11が、圧電素子である場合の材料について、補足説明する。
【0032】
圧電体の材料としては、電気機械結合係数が大きく、伝搬損失およびパワーフロー角が小さく、遅延時間温度係数が小さい材料が好ましい。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO)などが好適である。各層の形成には、従来公知の成膜方法を適宜用いることができ、例えば、蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長(CVD)法、プラズマアシスト気相成膜(PCVD)法、めっき等を用いることができる。その他、圧電体の材料としては、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)、窒化アルミ(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、ビスマス鉄酸化物(例えば、BiFeO)、チタン酸鉛(PbTiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)等を用いることができる。
【0033】
第1駆動素子11の寸法について説明する。
【0034】
第1駆動素子11のX軸方向の寸法は200μm(50〜500μm)、Y軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Z軸方向の寸法は2μm(0.3〜3μm)である。なお、括弧内は、好適範囲を示している。この場合、第1駆動素子11の形態的なバランスが、小型化された圧電型MEMSスイッチに要求される駆動素子の微小変位(サブミクロンから数ミクロン)を制御しやすいものとなるという効果がある。
【0035】
第2駆動部SP2の第2駆動素子21についても、第1駆動素子11と同様に、下部電極層21a、圧電体材料層21b、及び上部電極層21cを含んで構成される。また、第2駆動素子21の構造、材料及び作用効果は、第1駆動素子11の場合と同一である。さらに、第2駆動素子21のXY平面内の形状は、第2ビーム23のXY平面内の形状と同一であり、これらが固着しているため、第2駆動素子21の変形の通りに、第2ビーム23は変形する。
【0036】
図3は、第1ビーム13及び第2ビーム23の周辺構造を説明する概略構造図である。
【0037】
本実施形態に係るMEMSスイッチ100では、第1ビーム13及び第2ビーム23はそれぞれX軸方向に延びる平板状の可撓性部材であり、長手方向がX軸方向に沿って整列し、同一のXY平面内に配置されている。第1ビーム13の−X方向の一端側及び第2ビーム23の+X方向の一端側がそれぞれ固定部材PKに対して固定されていて、第1ビーム13及び第2ビーム23において、互いに対向する先端部分は、自由端とされている。すなわち、第1ビーム13及び第2ビーム23は所謂片持ち梁構造を有する。
【0038】
第1ビーム13には第1信号線14が取り付けられていると共に、第2ビーム23には第2信号線24が取り付けられている。第1信号線14及び第2信号線24は、それぞれ第1ビーム13及び第2ビーム23の延在方向(X軸方向)に沿って配置されている。また、第1ビーム13における自由端側の端部には接触端子15が取り付けられる。接触端子15は、第1信号線14と接続している。接触端子15は、第1ビーム13から接続する本体部15a(接触端子本体)と、本体部15aから突出する接点部15bとを含んで構成される。接点部15bは、本体部15aにおいて、第2信号線24と対向する位置に設けられる。接触端子15は導体により構成されて、第1駆動素子11及び第2駆動素子21が駆動していない状態では、本体部15aにおいて第1信号線14に対して接続する側の端部とは逆側の端部に設けられ、第2信号線24側へ突出する接点部15bが第2信号線24に対して離間した状態に配置される。なお、接触端子15の接点部15bは、接触端子15の本体部15aと同一の材料であってもよいし、本体部15aとは別の材料であってもよい。
【0039】
第1駆動素子11は、第1ビーム13と固着しているため、第1駆動素子11の変形の通りに、第1ビーム13は変形する。また、第2駆動素子21は、第2ビーム23と固着しているため、第2駆動素子21の変形の通りに、第2ビーム23は変形する。
【0040】
第1駆動素子11に対して電圧を印加することによって、第1駆動素子11が電圧に連動して変形すると、第1ビーム13が変形し、接点部15bが、例えば、下方へ移動する。同様に、必要に応じて、第2駆動素子21に対して、電圧を印加することによって、第2駆動素子21が電圧に連動して変形すると、第2ビーム23が変形する。第1ビーム13の変形および/または第2駆動素子21による第2ビーム23の変形により、接点部15bが第2ビーム上の第2信号線24と接触する。これにより、接触端子15を介して第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続される。なお、第1駆動素子11と第2駆動素子21に逆方向の駆動電圧を印加すれば、互いに逆方向に湾曲して移動するため、個々の素子においては、接触に必要なストロークを小さくすることもできる。
【0041】
なお、接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えができる構成であれば、第1駆動部SP1及び第2駆動部SP2の構成は特に限定されない。例えば、第1駆動部SP1及び第2駆動部SP2の一方は駆動回路を備えず、駆動素子の圧電駆動によってビームが移動しない(すなわち、固定部材PKに対して固定される)構成であってもよい。この場合であっても、一方側のビームの変形によって、第1信号線14、第2信号線24、及び接触端子15の位置関係を変更することによって、接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えを実現することができる。
【0042】
第1ビーム13及び第2ビーム23の材料について、補足説明する。
【0043】
第1ビーム13及び第2ビーム23の材料は特に限定はされないが、歪応力曲線において線形性を示す材料、すなわち弾性を有する材料が好ましい。例えば、Fe−Ni−Cr合金、Cu−Sn−P合金などの金属間化合物や、単結晶Si等を適宜用いることができる。なかでも単結晶Siは、歪応力曲線において広い線形領域を有するため、特に好適に用いることができる。第1ビーム13及び第2ビーム23の材質は、上述のように、可撓性を有する材料から適宜選択することができるが、上述の材料の他に、SiNx(窒化シリコン)、Al(アルミナ)、TiNx(窒化チタン)、SiO(酸化ケイ素)、AlN(窒化アルミ)、多結晶Si、アモルファスシリコン、ダイアモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等を用いることができる。
【0044】
第1ビーム13及び第2ビーム23の寸法について説明する。
【0045】
第1ビーム13のX軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Y軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Z軸方向の寸法は3μm(0.5〜5μm)である。なお、括弧内は、好適範囲を示している。この場合、第1ビーム13の形態的なバランスが、小型化された圧電型MEMSスイッチに要求されるビームの微小変位(サブミクロンから数ミクロン)を制御しやすいものとなるという効果がある。また、第1ビーム13のXY平面内の形状は、偏向可能な可動領域(固定部材PKに固定された部分よりも先端側の領域)に関しては、概ね長方形であるが、この可動領域の形状としては、例えば、半円形、フォーク状形状、三角形が考えられる。
【0046】
図4は、第1実施形態のMEMSスイッチの斜視図である。
【0047】
上述の固定部材PKは、対向する凹部を有する第1部材PK(1)と第2部材PK(2)からなる筐体パッケージである。上述のビーム13及びビーム23は、これを含む基板13Kの一部であり、基板13Kの周辺領域は、第1部材PK(1)と第2部材PK(2)によって挟まれている。
【0048】
入力信号INを入力側の電極パッドB3を介して、MEMSスイッチ100に入力すると、内部の接触端子によって第1信号線と第2信号線が導通している場合は、出力側の電極パッドB1から出力信号OUTが出力される。MEMSスイッチ100の内部の接触端子の位置によって、第1信号線と第2信号線が切断されている場合には、入力信号INは、出力側の電極パッドB1からは取り出されない。
【0049】
上述の第1GND16に電気的に接続された第1電極パッドBGND1、第2GND26に電気的に接続された第2電極パッドBGND2は、互いに接続用の電極パターンEP1によって電気的に接続され、これらのグランド電極は同電位に設定されている。なお、接続用の電極パターンEP1は、パッケージの外表面上に設けることとしたが、これはパッケージの内部に設けてよい。
【0050】
図5は、図4に示したMEMSスイッチの縦断面構成(V−V矢印断面)を示す図である。
【0051】
第1駆動素子11は、第1ビーム13の下面に固着されており、第2駆動素子21は、第2ビーム23の下面に固着されている。
【0052】
第1駆動素子11には、第1駆動回路12によって、駆動電圧が与えられる。具体的には、第1駆動素子11の下部電極層11aと上部電極層11cとの間に所定の電圧が印加される。接触端子15は、第1信号線14に固定されており、電気的に接続されている。所定の電圧の印加により、第1ビーム13がXZ平面内において撓み、接触端子15が上下方向に移動し、接触端子15が第2信号線24に接触した場合には、第1信号線14と第2信号線24とが電気的に接続される。
【0053】
なお、第1駆動素子11の上部電極層11cは、第1部材PK(1)に設けられた貫通孔を介して、バンプ又は電極パッド(図示せず)に電気的に接続されている。
【0054】
第2駆動素子21には、第2駆動回路22によって、駆動電圧を与えてもよい。具体的には、第2駆動素子21の下部電極層21aと上部電極層21cとの間に所定の電圧を印加してもよい。この所定の電圧の印加により、第2ビーム23がXZ平面内において撓み、第2信号線24の先端部分が、接触端子15の方向へ移動した場合には、接触端子15と第2信号線24とが接触し、第1信号線14と第2信号線24とが電気的に接続される。
【0055】
なお、第2駆動素子21の上部電極層21cは、第1部材PK(1)に設けられた貫通孔を介して、バンプ又は電極パッド(図示せず)に電気的に接続されている。
【0056】
図6は、図5に示したMEMSスイッチにおける基板の平面図(VI−VI矢印方向に見た平面図)である。
【0057】
第1ビーム13及び第2ビーム23は、これらを含む基板13Kの一部であり、基板13Kの2点鎖線Pの外側領域(周辺領域)は、上述の第1部材PK(1)と第2部材PK(2)によって挟まれている。
【0058】
第1ビーム13上には、第1信号線14が設けられ、第2ビーム23上には、第2信号線24が設けられているが、それぞれの信号線は、先端部に向かうほど、幅が細くなっている。第1ビーム13と第2ビーム23の先端部間には、ギャップとなる空間GAPが介在しており、この空間GAPを横断するように、接触端子15が延びている。
【0059】
第1ビーム13上に固定されたグランド電極である第1GND16は、第1グランド電極パッドBGND1に電気的に接続され、第2ビーム23上に固定されたグランド電極である第2GND26は、第2グランド電極パッドBGND2に電気的に接続されている。
【0060】
第1GND16の平面形状は、扇形であり、第2GND26の平面形状も、同一形状の扇形であり、ビーム先端部間の空間GAPの重心を中心として、これらは点対称に配置されている。したがって、第1GND16の外側の円弧の含む仮想的な円の軌道上に、第2GND26の外側の円弧が重なる。この仮想的な円の内側の領域が、基板13Kにおいて実効的に撓むビームの領域であり、この領域内の厚みは、領域外の厚みよりも薄くしてもよい。
【0061】
また、第1ビーム13と第2ビーム23も、ビーム先端部間の空間GAPの重心を中心として、これらは点対称に配置されている。同様に、第1信号線14と第2信号線24も、ビーム先端部間の空間GAPの重心を中心として、これらは点対称に配置されている。
【0062】
上述の空間GAPのY軸方向の両端部からは、XY平面内において、これに連続するギャップとしての空間GAP1及び空間GAP2が、互いに逆方向に延びている。一方の空間GAP1は、第1信号線14の一方の側面と平行に延びており、また、扇型の第2GND26の径方向の辺とも平行に延びており、これらの側面と辺によって挟まれている。他方の空間GAP2は、第2信号線24の一方の側面と平行に延びており、また、扇型の第1GND16の径方向の辺とも平行に延びており、これらの側面と辺によって挟まれている。
【0063】
このMEMSスイッチ100においては、第1ビーム13と、第1ビーム13に設けられた第1信号線14と、第1ビーム13に設けられ、第1信号線14に隣接する第1グランド電極(第1GND16)と、第1ビーム13に対してギャップ(GAP、GAP1,GAP2)を介して隣接した第2ビーム23と、第2ビーム23に設けられた第2信号線24と、第2ビーム23に設けられ、第2信号線24に隣接する第2グランド電極(第2GND26)と、を備えている。
【0064】
そして、このスイッチは、少なくとも第1ビーム13を変形させる第1駆動素子を備えており、接触端子15は、第1信号線14及び第2信号線24のいずれか一方に固定され、第1ビーム13の変形に伴って、第1信号線14と第2信号線24との間の接続を行っている。
【0065】
このMEMSスイッチ100によれば、第1信号線14と第1GND16は、同一の第1ビーム13に設けられているので、第1駆動素子によって第1ビーム13を変位させても、相対位置が変化せず、第1信号線14の特性インピーダンスの変化を抑制できる。
【0066】
同様に、第2信号線24と第2GND26は、同一の第2ビーム23に設けられているので、第2駆動素子によって第2ビーム23を変位させても、相対位置が変化せず、第2信号線24の特性インピーダンスの変化を抑制できる。
【0067】
また、第1ビーム13と第2ビーム23は、いずれも信号線とグランド電極を備えているため、物理的な特性が一致しやすく、したがって、温度変化に伴う構成要素の特性やスイッチング用の接触端子15の位置の変化を相殺して軽減することが可能である。したがって、MEMSスイッチ100は、温度変化及びビームの撓みに対して、高い耐性を有することとなり、高品質な信号伝達をすることができる。
なお、コプレーナ導波路構造に関して、上述のMEMSスイッチにおいては、図6に示すように、第1ビーム13上には、第1信号線14及び第1GND16(グランド電極)が設けられ、第2ビーム23上には、第2信号線24及び第2GND26(グランド電極)が設けられ、第2GND26は、第1の隙間W1を介して、第1信号線14に隣接するまで延びており、第1信号線14は、第1GND16と第2GND26とにより挟まれように位置することで、第1のコプレーナ導波路を構成し、第1GND16は、第2の隙間W2を介して、第2信号線24に隣接するまで延びており、第2信号線24は、第2GND26と第1GND16とにより挟まれように位置することで、第2のコプレーナ導波路を構成している。
【0068】
また、このMEMSスイッチ100においては、第1ビーム13と、第2ビーム23とは、平面視において、点対称に配置されている。これらのビームが点対称に配置されている場合、その変位動作も点対称になるため、これらのビームの温度変位量と撓み動作が同じようになる。したがって、温度変化と撓み動作の相違に伴う接触端子15による接触位置のバラつきを抑制し、信号伝達品質の劣化を抑制することができる。
【0069】
図7および図8は、図6に示したMEMSスイッチを改良した基板の平面図である。
【0070】
図6では、圧電素子からなる第1駆動素子11及び第2駆動素子21は、第1GND16及び第2GND26と、第1信号線14および第2信号線24との下部に存在している。本例では、それぞれ、Z軸方向から見た場合、第1GND16及び第2GND26に重なる位置に配置される。したがって、第1駆動素子11及び第2駆動素子21の形状も、第1GND16及び第2GND26に対して、若干のマージン領域を除いて一致し、扇形を形成している。
【0071】
この領域に駆動素子を固定した場合いおいても、バイメタル効果によって、駆動電圧の印加時においては、第1ビーム13及び第2ビーム23は撓むことになり、上記と同様い動作するが、信号線とは重なる位置にないため、信号線への影響が少ないという利点がある。図8の例では、第1駆動素子11及び第2駆動素子21の信号線(14、24)側の外縁が、第1GND16及び第2GND26の信号線(14、24)側の外縁よりも各信号線から遠くに位置し、各GND内部に設けられている。このため、図7の場合よりも、駆動素子の信号線への影響をさらに低減できるという利点がある。
【0072】
図9および図10は、図7および図8に示したMEMSスイッチを変形した基板の平面図である。
【0073】
この例では、グランド電極の一番外周の辺と重なる仮想的な形状を、円形ではなく、正六角形としたものである。この場合、単独のグランド電極形状は、第1GND16及び第2GND26共に、それぞれ五角形となる。その他の構造及び作用効果は、上述のものと同一である。
【0074】
なお、上記のMEMSスイッチ100は、例えば、図11に示す電子機器に適用することができる。
【0075】
図11は、本実施形態に係るMEMSスイッチが適用される電子機器の一例の概略構成図である。
【0076】
図11に示す電子機器200は、無線通信を行う電子機器であり、ハウジングHに収容された複数のMEMSスイッチ100と、複数のMEMSスイッチ100に対してそれぞれ直列に接続されたフィルタ102と、アンテナ103と、スイッチ104と、処理回路105と、入力装置106と、ディスプレイ107と、制御回路CONTと、を含んで構成される。
【0077】
アンテナ103からは、変調された高周波信号(RF信号)が入力される。電子機器200では、制御回路CONTからの制御によって複数のMEMSスイッチ100におけるON/OFFが切り替えられる。例えば、アンテナに含まれる複数の周波数帯域の信号から、単一の周波数帯域の信号を選択することができる。アンテナ103により受信された入力信号は、必要に応じて、アンプで増幅された後、ON状態が選択されたMEMSスイッチ100、及び、当該MEMSスイッチ100に接続されたフィルタ102を通り、スイッチ104を経て処理回路105に入力し、処理回路105において入力信号に係る処理が行われる。それぞれのフィルタ102は、通過帯域の異なる周波数フィルタであり、選択された周波数の信号が、処理回路105に入力されることとなる。
【0078】
処理回路105は、変調されていた入力信号を復調し、復調された信号から、文字又は画像情報を抽出し、制御回路CONTは、処理回路105から得られた文字又は画像情報をディスプレイ107上に表示することができる。なお、アンテナ103への入力信号は、映像信号又は音声信号とすることもできる。
【0079】
また、入力装置106からユーザにより入力される情報が、制御回路CONTに対して送られて制御回路CONTによる複数のMEMSスイッチ100の制御に反映されると共に、処理回路105による処理の結果等が制御回路CONTを介して、ディスプレイ107に対して出力されて、ユーザに通知される。なお、電子機器は、携帯電子機器とすることができる。
【0080】
本実施形態に係るMEMSスイッチ100は、上述したように、第1駆動素子11及び第2駆動素子21の圧電駆動により、接点部15bと第2信号線24との接触及び離間が繰り返されることにより、第2信号線24と接触端子15との接続及び切断が繰り返される。
【0081】
上記MEMSスイッチを用いた電子機器は、MEMSスイッチ100と、アンテナ103と、アンテナ103にMEMSスイッチ100を介して接続された周波数フィルタ102とを備えている。この電子機器は、MEMSスイッチが高品質な信号伝達を行うため、誤動作が少ないなどの高性能な動作をすることができる。なお、アンテナ103は、MEMSスイッチ100への信号入力を行う信号入力素子であり、周波数フィルタ102はMEMSスイッチ100からの出力信号を処理する信号処理素子である。信号入力素子としては、例えば、実験システムにおける信号発生器を適用することもできるし、信号処理素子としては、周波数逓倍器やAD変換器などを適用することも可能である。
【0082】
上述のMEMSスイッチにおいて、ビームが容易に変形し、スイッチングをスムーズに行うことができるためには、ビームを薄層化する必要がある。CVDやスパッタ等の薄膜成膜工程で薄膜を作成するほかに、薄層化処理には、バックグラインド処理(裏面研削処理)が挙げられるが、かかる処理には、グラインド(研削)の他、ポリッシュ(研磨)やエッチングなどの方法が考えられる。
【0083】
上述の構造によれば、MEMS自体の変形(スイッチング、製造時反り、熱応力反り)によらず、安定したCPW形成が可能で、RF性能の高性能化、安定化(バラつき減少)が可能である。また、複数のスイッチを並べることができるため、マルチチャンネル化を行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のMEMSスイッチは、RF−MEMSスイッチに利用でき、電子機器に組み込むことができる。
【符号の説明】
【0085】
15…接触端子(接点)、13…第1ビーム、14…第1信号線、16…第1GND、23…第2ビーム、24…第2信号線、26…第2GND。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11