(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源から変速機への駆動力伝達経路を2系統に切替可能な第1クラッチ及び第2クラッチを有するデュアルクラッチ装置における前記第1クラッチを断接のための第1油圧室に対する作動油の供給制御、前記第2クラッチの断接を行うための第2油圧室に対する作動油の供給制御、及び前記第1クラッチの第1クラッチプレートの周囲の第1空間及び前記第2クラッチの第2クラッチプレートの周囲の第2空間への作動油の供給制御を行う作動油制御装置であって、
所定のライン圧の作動油を前記第1油圧室に調整して供給する第1リニアソレノイドバルブと、
前記ライン圧の作動油を第2油圧室に調整して供給する第2リニアソレノイドバルブと、
前記第1リニアソレノイドバルブから前記第1油圧室に供給される作動油の圧力と、前記第2リニアソレノイドバルブから前記第2油圧室に供給される作動油の圧力との内の高い圧力の作動油を出力するシャトル弁と、
入力される制御信号に基づいて、前記シャトル弁から出力された作動油を、後段に出力するか否かを切替る切替弁と、
前記切替弁から出力された作動油の圧力に基づいて、前記第1空間及び前記第2空間に供給する作動油の量を調整する作動油量調整バルブと、
を有する作動油制御装置。
前記作動油量調整バルブは、前記切替弁から出力された前記作動油の圧力が所定の範囲内にある場合において、前記作動油の圧力が高いほど、前記第1空間及び前記第2空間に供給する作動油の量を増加させるように調整する
請求項1に記載の作動油制御装置。
前記潤滑制御手段は、前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートの内の締結対象のクラッチプレートの温度が所定の温度以下である又は所定の温度以下であると推定できる場合に、前記作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を前記切替弁に出力する
請求項3に記載の作動油制御装置。
前記潤滑制御手段は、所定の情報に基づいて、前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートの内の締結対象のクラッチプレートの温度を推定し、推定した前記クラッチプレートの温度が所定温度以下である場合に、前記作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を出力する
請求項4に記載の作動油制御装置。
前記潤滑制御手段は、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチについて、クラッチ断状態から全締結状態にした後、クラッチプレートの温度が所定の温度以下となるまでの所定の時点からの経過時間の基準値を予め記憶しておき、前記所定の時点から前記経過時間の基準値が経過した場合に、前記締結対象のクラッチプレートの温度が所定の温度以下であると推定して、前記作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を出力する
請求項4に記載の作動油制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デュアルクラッチ装置においては、クラッチを断から接に移行する間には、クラッチが滑りながら係合している状態(半クラッチ状態)が継続することとなるので、大量の摩擦熱が発生する。このため、クラッチプレートを冷却等するために作動油の潤滑量を増加させる必要がある。
【0008】
例えば、クラッチプレートを冷却する作動油の量をリニアソレノイドバルブを用いて調整するようにする場合には、コントロールユニットを用いて、2つのクラッチの状態に応じてリニアソレノイドバルブを制御する必要がある。
【0009】
この場合には、リニアソレノイドバルブを備えなければならないとともに、コントロールユニットにより、2つのクラッチの状態を把握してリニアソレノイドバルブを制御する処理を実行しなければならず、コストが高いという問題がある。
【0010】
また、クラッチプレートを冷却する面では、作動油量を増加させることは好ましいが、作動油量を長時間にわたって増加させると、オイルポンプを動作させるために多くの動力が必要となるので、エネルギーの損失が多くなってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、2つのクラッチの各クラッチプレートの周囲の空間に、簡易な構成で適切な量の作動油を供給できるとともに、エネルギーの損失を低減することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明の一観点に係る作動油制御装置は、駆動源から変速機への駆動力伝達経路を2系統に切替可能な第1クラッチ及び第2クラッチを有するデュアルクラッチ装置における第1クラッチを断接のための第1油圧室に対する作動油の供給制御、第2クラッチの断接を行うための第2油圧室に対する作動油の供給制御、及び第1クラッチの第1クラッチプレートの周囲の第1空間及び第2クラッチの第2クラッチプレートの周囲の第2空間への作動油の供給制御を行う作動油制御装置であって、所定のライン圧の作動油を第1油圧室に調整して供給する第1リニアソレノイドバルブと、ライン圧の作動油を第2油圧室に調整して供給する第2リニアソレノイドバルブと、第1リニアソレノイドバルブから第1油圧室に供給される作動油の圧力と、第2リニアソレノイドバルブから第2油圧室に供給される作動油の圧力との内の高い圧力の作動油を出力するシャトル弁と、入力される制御信号に基づいて、シャトル弁から出力された作動油を、後段に出力するか否かを切替る切替弁と、切替弁から出力された作動油の圧力に基づいて、第1空間及び第2空間に供給する作動油の量を調整する作動油量調整バルブと、を有する。
【0013】
上記作動油制御装置において、作動油量調整バルブは、切替弁から出力された作動油の圧力が所定の範囲内にある場合において、作動油の圧力が高いほど、第1空間及び第2空間に供給する作動油の量を増加させるように調整してもよい。
【0014】
また、上記作動油制御装置において、切替弁に、作動油を後段に出力するか否かを指示する制御信号を出力する潤滑制御手段を更に有するようにしてもよい。
【0015】
また、上記作動油制御装置において、潤滑制御手段は、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの内の締結対象のクラッチプレートの温度が所定の温度以下である又は所定の温度以下であると推定できる場合に、作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を切替弁に出力するようにしてもよい。
【0016】
また、上記作動油制御装置において、潤滑制御手段は、所定の情報に基づいて、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの内の締結対象のクラッチプレートの温度を推定し、推定したクラッチプレートの温度が所定の温度以下である場合に、作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を出力するようにしてもよい。
【0017】
また、上記作動油制御装置において、潤滑制御手段は、第1クラッチ及び第2クラッチについて、クラッチ断状態から全締結状態にした後、クラッチプレートの温度が所定の温度以下となるまでの所定の時点からの経過時間の基準値を予め記憶しておき、所定の時点から経過時間の基準値が経過した場合に、締結対象のクラッチプレートの温度が所定の温度以下であると推定して、作動油を後段に出力しないように制御する制御信号を出力するようにしてもよい。
【0018】
また、上記作動油制御装置において、所定の時点は、締結対象のクラッチが全締結状態であることが担保される時点であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つのクラッチの各クラッチプレートの周囲の空間に、簡易な構成で適切な量の作動油を供給することができるとともに、エネルギーの損失を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る作動油制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るデュアルクラッチ装置を備えるデュアルクラッチ式変速機を示す模式的な構成図である。
【0023】
デュアルクラッチ式変速機1は、駆動源であるエンジン10の出力軸11に接続されている。
【0024】
デュアルクラッチ式変速機1は、第1及び第2クラッチ21,22を有するデュアルクラッチ装置20と、変速機構30とを備えている。
【0025】
第1クラッチ21は、例えば、湿式多板クラッチであって、エンジン10の出力軸11と一体回転するクラッチハブ23と、変速機構30の第1入力軸31と一体回転する第1クラッチドラム24と、複数枚の第1クラッチプレート25と、複数枚の第1クラッチプレート25の周囲の第1空間21Aと、第1クラッチプレート25を圧接する第1ピストン26と、第1油圧室26Aとを備えている。
【0026】
第1クラッチ21は、第1油圧室26Aに供給される作動油圧によって第1ピストン26が出力側(
図1の右方向)にストローク移動すると、第1クラッチプレート25が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、第1油圧室26Aの作動油圧が解放されると、第1ピストン26が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(
図1の左方向)にストローク移動されて、第1クラッチ21は動力伝達を遮断する切断状態となる。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第1クラッチドラム24とが異なる回転数で回転しつつ、第1クラッチプレート25を介してトルクが伝達される状態を第1クラッチ21の半クラッチ状態と称し、クラッチハブ23と第1クラッチドラム24とが同一回転数で回転しつつ、第1クラッチプレート25を介してトルクが伝達される状態を第1クラッチ24のクラッチ接状態、又は全締結状態と称する。第1空間21Aには、第1クラッチプレート25に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。
【0027】
第2クラッチ22は、例えば、湿式多板クラッチであって、クラッチハブ23と、変速機構30の第2入力軸32と一体回転する第2クラッチドラム27と、複数枚の第2クラッチプレート28と、複数枚の第2クラッチプレート28の周囲の第2空間22Aと、第2クラッチプレート28を圧接する第2ピストン29と、第2油圧室29Aとを備えている。
【0028】
第2クラッチ22は、第2油圧室29Aに供給される作動油圧によって第2ピストン29が出力側(
図1の右方向)にストローク移動すると、第2クラッチプレート28が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、作動油圧が解放されると、第2ピストン29が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(
図1の左方向)にストローク移動されて、第2クラッチ22はトルク伝達を遮断する切断状態となる。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第2クラッチドラム27とが異なる回転数で回転しつつ、第2クラッチプレート28を介してトルクが伝達される状態を第2クラッチ22の半クラッチ状態と称し、クラッチハブ23と第2クラッチドラム27とが同一の回転数で回転しつつ、第2クラッチプレート28を介してトルクが伝達される状態を第2クラッチ22のクラッチ接状態、又は全締結状態と称する。第2空間22Aには、第2クラッチプレート28に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。本実施形態では、第1空間21Aと第2空間22Aとは連通しており、作動油は、まず第1空間21Aを通り、その後、第2空間22Aを通り、排出される。
【0029】
変速機構30は、入力側に配置された副変速部40と、出力側に配置された主変速部50とを備えて構成されている。また、変速機構30は、副変速部40に設けられた第1入力軸31及び第2入力軸32と、主変速部50に設けられた出力軸33と、これらの軸31〜33と平行に配置された副軸34とを備えている。第1入力軸31は、第2入力軸32を軸方向に貫通する中空軸内に相対回転自在に挿入されている。出力軸33の出力端には、何れも図示しない車両駆動輪に差動装置等を介して連結されたプロペラシャフトが接続されている。
【0030】
副変速部40には、第1スプリッタギヤ対41と、第2スプリッタギヤ対42とが設けられている。第1スプリッタギヤ対41は、第1入力軸31に固定された第1入力主ギヤ43と、副軸34に固定されて第1入力主ギヤ43と常時歯噛する第1入力副ギヤ44とを備えている。第2スプリッタギヤ対42は、第2入力軸32に固定された第2入力主ギヤ45と、副軸34に固定されて第2入力主ギヤ45と常時歯噛する第2入力副ギヤ46とを備えている。
【0031】
主変速部50には、複数の出力ギヤ対51と、複数のシンクロ機構55とが設けられている。出力ギヤ対51は、副軸34に固定された出力副ギヤ52と、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に出力副ギヤ52と常時歯噛する出力主ギヤ53とを備えている。シンクロ機構55は、公知の構造であって、何れも図示しないドグクラッチ等を備えて構成されている。シンクロ機構55の作動は、後述するコントロールユニット90によって制御されており、図示しないアクセル開度センサにより検出されるアクセル開度、図示しない速度センサにより検出される速度等に応じて、出力軸33と出力主ギヤ53とを選択的に係合状態(ギヤイン)又は非係合状態(ニュートラル状態)に切り替えるようになっている。なお、出力ギヤ対51やシンクロ機構55の個数、配列パターン等は図示例に限定されものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0032】
次に、第1油圧室26A、第2油圧室29A、第1空間21A、及び第2空間22Aに作動油を供給する作動油制御装置について説明する。
【0033】
図2は、本発明の一実施形態に係る作動油制御装置の構成図である。
【0034】
作動油制御装置60は、油タンク61と、フィルタ62と、オイルポンプ63と、リリーフ弁64と、第1リニアソレノイドバルブ65と、第2リニアソレノイドバルブ66と、第1油圧室26Aと、第2油圧室29Aと、シャトル弁67と、作動油量調整バルブの一例としての切替弁68と、オイルクーラー69と、第1空間21Aと、第2空間22Aと、配管70〜86,88と、切替弁87と、コントロールユニット90と、を有する。なお、
図2中には、複数の油タンク61を示しているが、それらは、同一の油タンクであっても、別の油タンクであってもよい。
【0035】
油タンク61は、作動油を貯留する。フィルタ62は、油タンク61からオイルポンプ63に供給される作動油中の金属粉等の不純物を除去する。オイルポンプ63は、配管70により、油タンク61からフィルタ62を介して作動油を吸引して下流側の配管71に供給する。本実施形態では、オイルポンプ63は、例えば、エンジン10の動力によって駆動される。
【0036】
配管71は、配管72〜75等に分岐されている。配管72には、リリーフ弁64が接続されている。リリーフ弁64は、配管72内の作動油の圧力(油圧)が想定している所定のライン圧よりも高くなった場合に作動油を上流側の配管76に還流させる。したがって、配管72〜75内の油圧を所定のライン圧に維持することができる。
【0037】
配管73は、下流側において、配管(最小量配管)84と、配管(最大量配管)85とに分岐される。配管84の作動油が通過する流路の断面積(流路断面積)は、第1空間21A及び第2空間22Aに供給すべき最小量の作動油が通過可能な断面積となっている。配管85の作動油が通過する流路の断面積(流路断面積)は、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する最大量の作動油が通過可能な断面積となっている。
【0038】
配管84及び配管85の下流側には、切替弁68が接続されている。切替弁68には、配管(潤滑用配管)86が接続されている。切替弁68は、配管84と配管86とを連通させる状態と、配管85と配管86とを連通させる状態を切替可能となっている。切替弁68の図示しないスプールの一端側には、スプールを配管84と配管86とを連通させる状態となる方向に付勢するスプリング68sが接続され、スプールの他端側には、スプールを配管85と配管86とを連通させる状態となる方向に押圧するパイロット圧(制御油圧)が供給される配管88が接続されている。
【0039】
このような構成により、切替弁68は、配管88からのパイロット圧が所定の第1圧力より小さい場合には、配管84と配管86とを連通させる状態となり、配管84を流れる最小量の作動油を配管86に流す一方、配管88からのパイロット圧が第1圧力以上となると、配管85と配管86とを連通させる状態となり、パイロット圧が第1圧力以上、且つ第1圧力よりも大きい第2圧力以下の範囲では、配管86に流れる作動油の量が、配管85を流れる最大量の範囲内でパイロット圧に応じて増加し、配管88からのパイロット圧が第2圧力より大きくなると、配管85を流れる最大量の作動油を配管86に流す。なお、第1圧力及び第2圧力は、切替弁68の構成(例えば、スプリング68sのばね定数等)により調整することができる。例えば、第2圧力をパイロット圧の取り得る最大圧以上とするようにしてもよく、この場合には、パイロット圧が第1圧力以上においては、パイロット圧が増加すれば、出力される作動油量が増加するようにすることができる。
【0040】
配管86の下流側には、オイルクーラー69を介して、第1空間21A,第2空間22Aが接続されている。オイルクーラー69は、配管86を流れてきた作動油を冷却する。第1空間21A,第2空間22Aでは、作業油は、クラッチプレート25,28の周囲を流れて、クラッチプレート25,28に発生している熱を吸収する。第1空間21A,第2空間22Aを流れた作動油は、油タンク61に排出される。
【0041】
配管74の下流側には、第1リニアソレノイドバルブ65が接続されている。第1リニアソレノイドバルブ65は、配管77に接続されている。第1リニアソレノイドバルブ65は、後述する変速制御部91からの制御信号に基づいて、配管74から配管77に流れる、すなわち、主に第1油圧室26Aに供給される作動油の量を調整して、第1油圧室26Aの圧力を調整する。
【0042】
配管77は、配管79と配管81とに分岐される。配管79は、第1油圧室26Aに接続されている。第1油圧室26Aにおける作動油の圧力に応じて第1ピストン26がストローク移動する。第1油圧室26Aの作動油の圧力が高くなるほど、第1クラッチ21の接続状態が強くなり、作動油の圧力が所定の圧力以上となると、第1クラッチ21は完全に締結された状態(クラッチ接)となる。このため、第1油圧室26Aの作動油の圧力が高いほど、半クラッチ状態である、又は半クラッチ状態を経てクラッチ接状態となったことを意味しているので、摩擦熱が多く発生している可能性があると判断できる。
【0043】
配管81は、シャトル弁67の一方のポートに接続されている。配管81に流れる作動油の圧力は、第1油圧室26Aの作動油の圧力及び配管77を流れる作動油の圧力に相当する、すなわち、ほぼ同じ圧力である。
【0044】
配管75の下流側には、第2リニアソレノイドバルブ66が接続されている。第2リニアソレノイドバルブ66は、配管78に接続されている。第2リニアソレノイドバルブ66は、後述する変速制御部91からの制御信号に基づいて、配管75から配管78に流れる、すなわち、主に第2油圧室29Aに供給される作動油の量を調整する。
【0045】
配管78は、配管80と配管82とに分岐される。配管80は、第2油圧室29Aに接続されている。第2油圧室29Aにおける作動油の圧力に応じて第2ピストン29がストローク移動する。ここで、第2油圧室29Aの作動油の圧力が高くなるほど、第2クラッチ22の接続状態が強くなり、作動油の圧力が所定の圧力以上となると、第2クラッチ22は完全に締結された状態(クラッチ接)となる。このため、第2油圧室29Aの作動油の圧力が高いほど、半クラッチ状態である、又は半クラッチ状態を経てクラッチ接となったことを意味しているので、摩擦熱が多く発生している可能性があると判断できる。
【0046】
配管82は、シャトル弁67の他方のポートに接続されている。配管82に流れる作動油の圧力は、第2油圧室29Aの圧力及び配管78を流れる作動油の圧力に相当する、すなわち、ほぼ同じ圧力である。
【0047】
シャトル弁67には、上述したように、一方のポートに配管81が接続され、他方のポートに配管82が接続される。また、シャトル弁67には、出力用のポートに切替弁87へ作動油を供給するための配管83が接続されている。シャトル弁67は、配管81を流れる作動油と配管82を流れる作動油との内の圧力が高い方の作動油を配管83に出力する。なお、配管81,82の作動油の圧力変動を抑えるために、配管83の流路断面積は、配管81,82の流路断面積よりも小さくなっている。
【0048】
シャトル弁67によると、配管81を流れる作動油の圧力(第1油圧室26Aの内部圧力に相当)、配管82を流れる作動油の圧力(第2油圧室29Aの内部圧力に相当)との内の圧力が高い方の作動油を配管83により切替弁87に出力することができる。
【0049】
配管83の下流側には、切替弁87が接続されている。切替弁87の出力側には、切替弁68に繋がる配管88が接続されている。切替弁87は、例えば、電磁切替弁であり、後述する潤滑制御部92の制御信号に従って、配管83を配管88と連通させた状態と、配管83と配管88とを遮断させた状態との間で切替え可能となっている。本実施形態では、切替弁87は、制御信号がオンである場合には、配管83を配管88と連通させる状態として配管83を流れる作動油をそのまま後段の配管88に出力する一方、制御信号がオフである場合には、配管83と配管88とを遮断させて、配管88に作動油が流れないようにする。
【0050】
この結果、切替弁87への制御信号がオンの場合には、切替弁68には配管88により、第1油圧室26A及び第2油圧室29Aの内の高い方の圧力、すなわち、摩擦熱が多い可能性があるクラッチ側の油圧室の圧力がパイロット圧として供給されるので、切替弁68は、摩擦熱が多い可能性があるクラッチ側の油圧室の圧力に応じて、第1空間21A、第2空間22Aに供給する作動油の量を調整する。このため、第1空間21A及び第2空間22Aに、摩擦熱が多い可能性のあるクラッチプレート(25又は28)の摩擦熱の排出に適した量の作動油を供給することができる。
【0051】
一方、切替弁87への制御信号がオフの場合には、切替弁68には、配管88により、作動油が供給されないので、切替弁68は、第1空間21A、第2空間22Aに最小量の作動油を供給する。このように切替弁87への制御信号がオフの場合には、切替弁68を介して供給する作動油量を抑えることができるので、作動油をライン圧に維持するオイルポンプ63を作動させるために必要な動力を低減することができ、エネルギーの損失を低減することができる。
【0052】
コントロールユニット90は、エンジン10、デュアルクラッチ装置20、変速機構30等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、コントロールユニット90には、各種センサ類のセンサ値が入力される。
【0053】
また、コントロールユニット90は、変速制御部91と、潤滑制御手段の一例としての潤滑制御部92とを一部の機能要素として有する。これら機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるコントロールユニット90に含まれるものとして説明するが、別体のハードウェアに設けることもできる。
【0054】
変速制御部91は、図示しないアクセル開度センサからアクセル開度や、車速センサからの車速等の情報に基づいて、接続するクラッチを変更する変速が必要か否かを判定する。また、変速制御部91は、接続するクラッチを変更する変速が必要であると判定した場合には、接状態となっている一方のクラッチ(21又は22)に作動油を供給するリニアソレノイドバルブ(65又は66)に対して、油圧室(26A又は29A)への作動油の供給を停止させる制御信号を送信して、クラッチを断状態に制御する一方、断状態となっている他方のクラッチに作動油を供給するリニアソレノイドバルブに対して、油圧室への作動油の供給を開始させて増加させる制御信号を送信し、クラッチを接状態に制御する。
【0055】
潤滑制御部92は、切替弁87への制御信号を出力する。潤滑制御部92は、接続するクラッチを変更する変速が必要であると判定した場合には、切替弁87に制御信号をオンとして出力する。また、潤滑制御部92は、締結対象のクラッチのクラッチプレートの温度が所定の温度(例えば、油タンク61の作動油の温度)以下である又は所定の温度以下であると推定できる場合には、それ以降に作動油の量を多くして供給することによる冷却効果があまりないことを意味しているので、作動油を切替弁87の後段に出力しないように、切替弁87に制御信号をオフとして出力する。したがって、冷却効果があまりない場合に、切替弁68による作動油の供給量を低減することができ、無駄なエネルギーの損失を低減することができる。
【0056】
ここで、締結対象のクラッチのクラッチプレートの温度は、例えば、クラッチプレートの温度を測定するセンサを備えるようにし、そのセンサの値(情報)により把握するようにしてもよい。
【0057】
また、締結対象のクラッチのクラッチプレートの温度は、例えば、実験を行うことにより、或る変数(例えば、クラッチの締結開始からの時間、クラッチプレートの周囲の作動油の温度等)に対するクラッチプレートの温度を推定するアルゴリズムを用意しておき、そのアルゴリズムを用いて推定するようにしてもよい。
【0058】
また、締結対象のクラッチのクラッチプレートの温度が所定の温度以下であると推定できる場合としては、例えば、切替弁87をオンにした状態で、クラッチの締結を開始してから、全締結状態となってクラッチプレートの温度が所定の温度以下となるまでの時間を実験で測定し、クラッチの締結を開始した後の所定の時点からクラッチプレートの温度が所定の温度以下となるまでの経過時間を基準時間(冷却基準時間)として予め把握しておき、潤滑制御部92が所定の時点を検知してから、冷却基準時間が経過した場合としてもよい。なお、クラッチの締結を開始した後の所定の時点としては、クラッチが全締結状態であることが担保されている時点、例えば、油圧室指示圧力が想定している最大圧となった時点としてもよい。
【0059】
次に、作動油制御装置60の動作について説明する。
【0060】
ここでは、変速制御部91が、接続するクラッチを変更する変速が必要であると判定した場合における動作について説明する。なお、以下には、第1クラッチ21から第2クラッチ22への接続を変更する変速が必要であると判定した場合を例に説明するが、第2クラッチ22から第1クラッチ21への接続を変更する変速が必要である場合も同様である。
【0061】
変速制御部91は、接状態となっている第1クラッチ21に作動油を供給している第1リニアソレノイドバルブ65に対して、第1油圧室26Aへの作動油の供給を停止させる制御信号を送信する。これにより、第1リニアソレノイドバルブ65は、配管74と配管77との連通状態を解除して、第1油圧室26Aへの作動油の供給を停止する。この場合には、第1油圧室26A内の作動油は、配管77、第1リニアソレノイドバルブ65を介して油タンク61に排出され、第1油圧室26A、配管81内の作動油の圧力は低下し、第1クラッチ21は、クラッチ断状態となる。
【0062】
次いで、変速制御部91は、出力軸33と出力主ギヤ53とを選択的に係合状態(ギヤイン)又は非係合状態(ニュートラル状態)に切り替える必要がある変速であれば、シンクロ機構55の作動を制御する。
【0063】
次いで、変速制御部91は、断状態となっている第2クラッチ22に作動油を供給する第2リニアソレノイドバルブ66に対して、第2油圧室29Aへの作動油の供給を開始且つ増加させる制御信号を送信する。これにより、第2リニアソレノイドバルブ66は、配管75と配管78との連通を開始して、第2油圧室29Aへの作動油の供給を開始する。この後、第2油圧室29A内の作動油の圧力、配管82の作動油の圧力は徐々に増加し、第2クラッチ22は、半クラッチ状態を経てクラッチ接状態となる。これにより、変速が完了する。
【0064】
上記動作と並行して、潤滑制御部92は、切替弁87に制御信号をオンにして出力する。これにより、切替弁87は、配管83を配管88と連通させる状態として配管83を流れる作動油をそのまま後段の配管88に出力するようになる。シャトル弁67は、第1油圧室26Aの油圧(配管81の油圧)と、第2油圧室29Aの油圧(配管82の油圧)との内の高い圧力となっている側の作動油を配管83に供給する。切替弁87では、配管83の作動油をそのまま配管88に出力する。切替弁68は、配管88から入力される作動油の油圧に応じて、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油の量を調整して出力する。
【0065】
例えば、第2リニアソレノイドバルブ66が、配管75と配管78との連通を開始して、第2油圧室29Aへの作動油の供給を開始した場合には、第2油圧室29A内の作動油の圧力、配管82の作動油の圧力は徐々に増加し、第2クラッチ22は、半クラッチ状態を経てクラッチ接状態となるので、摩擦熱を多く発生させることとなる。この場合には、シャトル弁67は、圧力が徐々に増加している配管82の作動油を、配管83に出力するようになるので、切替弁68は、最大量の範囲内で作動油の量を増加させて第1空間21A及び第2空間22Aに供給する。このため、摩擦熱が多く発生する第2クラッチ22の第2クラッチプレート28の周囲の第2空間22Aを多くの作動油が流れることとなるので、第2クラッチプレート28の摩擦熱を効果的に排出することができる。
【0066】
次に、切替弁87への制御信号をオフにするタイミング、及び切替弁87の制御信号をオフにする効果について説明する。
【0067】
図3(a)は、本発明の一実施形態に係る油圧室に対する指示圧力の変化を示す図であり、(b)は、クラッチプレートの温度変化を示す図であり、(c)は、切替弁のオン・オフの状態を示す図である。
【0068】
変速制御部91は、締結対象のクラッチ(21又は22)を締結させる場合には、締結側のクラッチの油圧室(26A又は29A)の圧力が、
図3(a)に示す指示圧力となるように、油圧室に供給する作動油を調整するリニアソレノイドバルブ(65又は66)に対して制御信号を出力する。具体的には、変速制御部91は、リニアソレノイドバルブ(65又は66)による作動油の供給を開始させて(時点T0)、クラッチを半クラッチ状態とし、油圧室の圧力を徐々に上昇させて半クラッチ状態から全締結状態とする(時点T1)。次いで、変速制御部91は、全締結状態において油圧室の圧力を想定している最大圧まで上昇させ(時点T2)、その後、変速制御部91は、油圧室の圧力を維持させる。
【0069】
変速制御部91による制御が行われている場合には、締結対象のクラッチのクラッチプレートの温度は、
図3(b)に示すように、時点T0から半クラッチ状態が継続する時点T1までは、クラッチプレート同士の摩擦熱が多く発生するので、徐々に高くなっていく。時点T1において、クラッチが全締結状態となると(時点T1)、クラッチプレート同士が一体して回転することとなるので、クラッチプレート間の摩擦熱の発生が収まるので、クラッチプレートの周囲に供給されている大量の作動油により、クラッチプレートの温度が低下していく(時点T1〜時点T3)。
【0070】
潤滑制御部92は、例えば、推定しているクラッチプレートの温度が、所定の温度(油タンク61の作動油の温度)と一致した場合(
図3(b)の条件1)又は油圧室の圧力が想定している最大圧になった時点T2から、冷却基準時間が経過した場合(
図3(b)の条件2)には、クラッチプレートの温度が十分に冷却されていると推定できるので、切替弁87への制御信号をオフに切換えて出力する。これにより、切替弁87は、配管83と配管88とを遮断させて、配管88に作動油が流れないようにする。この結果、切替弁68は、第1空間21A、第2空間22Aに最小量の作動油を供給する。このように、クラッチプレートの冷却がそれほど必要でない場合に、切替弁68を介して供給する作動油量を抑えることができるので、作動油をライン圧に維持するオイルポンプ63の作動に必要な動力を低減することができ、エネルギーの損失を低減することができる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係る作動油制御装置60によると、シャトル弁67により、第1油圧室26Aの内部圧力(配管81を流れる作動油の圧力)と、第2油圧室29Aの内部圧力(配管82を流れる作動油の圧力)との内の圧力が高い方の作動油をパイロット圧として切替弁68に出力し、切替弁68により、シャトル弁67から出力された作動油の圧力に応じて、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油の量を調整するようにしたので、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油を調整するためにリニアソレノイドバルブを備える必要がなく、また、コントロールユニット90においては、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油を調整するための特別な処理を行う必要もなく、第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油の量を適切な量に調整することができる。
【0072】
更に、シャトル弁67の後段に切替弁87を備えるようにして、クラッチプレートの冷却が比較的必要でない場合に、切替弁68にシャトル弁67から出力された作動油が供給されないようにして、切替弁68を介して第1空間21A及び第2空間22Aに供給する作動油の量を最小量に抑えるようにしているので、作動油をライン圧に維持するオイルポンプ63の作動に必要な動力を低減することができ、エネルギーの損失を低減することができる。
【0073】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態では、第1空間21Aと、第2空間22Aとが連通している例を示していたが、本発明はこれに限られず、第1空間21Aと、第2空間22Aとが連通していなくてもよく、この場合には、第1空間21A及び第2空間22Aのそれぞれに対して、供給する作動油を調整する構成群(例えば、配管73、配管84、配管85、切替弁68、配管86、オイルクーラー69等)を備えるようにすればよい。