【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の光学フィルタの構成を示した図である。実施例1の光学フィルタは、屈折率1.45のSiO
2 からなる低屈折率層1と、屈折率2.4のTiO
2 からなる高屈折率層2を交互に積層した誘電体多層膜からなる。そして誘電体多層膜は、ホスト領域10と、そのホスト領域10の両面に接して設けられた反射防止領域11、12とによって構成されている。ホスト領域10は、設計波長λ(=600nm、周波数500THz)の光が、設計入射角度θd(=6°)以下であれば偏光方向に依らず透過し、それ以外の入射角度では反射する、いわゆる角度フィルタとして機能するように設定されている。また、反射防止領域11、12は、ホスト領域10と外部(空気)との間での反射を防止する層である。
【0022】
以下、ホスト領域10および反射防止領域11、12の各構成の詳細を説明する。なお、説明の簡便のため、
図1に示すように座標系を設定する。x軸方向はホスト領域10の厚さ方向(誘電体多層膜の面に垂直な方向)に取り、y軸方向はホスト領域10の厚さ方向に垂直であって光の入射面を成す方向(つまりxy平面が光の入射面となるよう)に取り、z軸方向は光の入射面に垂直な方向に取る。
【0023】
[ホスト領域10の構成]
ホスト領域10は、低屈折率層1の厚さが90nm、高屈折率層2の厚さが214nmに設定されている。ホスト領域10と反射防止領域11、12の界面は、高屈折率層2の厚さの中間位置(高屈折率層2中であって、高屈折率層2の厚さの1/2となる位置の面)に設定されている。その理由は後述する。また、ホスト領域10の積層数は、ホスト領域10と反射防止領域11の界面となっている2つの高屈折率層2を含めて、89層である。
【0024】
なお、ホスト領域10の積層数、すなわちホスト領域10全体の厚さは、任意の値とすることができる。所望の反射特性に応じて、積層数を設定すればよい。角度を変化させたときの反射特性において、積層数が多いほど透過領域と反射領域の境が急峻になり、積層数が少ないほど境がゆるやかになる傾向がある。
【0025】
ホスト領域10の低屈折率層1および高屈折率層2の厚さは、以下のように設定したものである。y軸方向の波数の成分と角周波数との関係を示す分散特性において、設計波長λとなる角周波数のラインが、波数のy軸方向成分が0のときに伝搬帯域の下端を通過するように、高屈折率層および低屈折率層の屈折率および厚さを設定する。ここで伝搬帯域は、バンドギャップにより隔てられて複数に分離しているが、それらの伝搬帯域のうち、角周波数の小さい方から数えて3番目の伝搬帯域の下端を通過するようにする。そして、その伝搬帯域の下端のラインと、設計波長λとなる角周波数のラインの交点が、設計入射角度θd(透過角度の上限)に対応する位置となるように設定する。
【0026】
このようにホスト領域10を設計すれば、設計波長λとなる角周波数のラインは、設計入射角度θd以下となる範囲において、伝搬帯域を通過する。そのため、ホスト領域10は、設計波長λにおいて、入射角度が設定入射角度θd以下の光を透過し、設定入射角度θdよりも大きな光を反射する角度フィルタとして機能する。
【0027】
図2(a)、(b)および
図3(a)、(b)は、ホスト領域10の低屈折率層1と高屈折率層2の積層数を無限大として算出したホスト領域10の分散特性を示したグラフである。
図2(b)、
図3(b)は、
図2(a)、
図3(a)における設計波長λ付近をそれぞれ拡大して示した図である。
図2(a)、(b)は、y軸方向の波数k
y と角周波数の関係を示し、
図3(a)、(b)は、x軸方向の波数k
x と角周波数の関係を示している。また、
図2、3において、横軸は2π/a
h で規格化された波数k
x 、k
y の値であり、縦軸は(2πc)/a
h で規格化された角周波数の値である。a
h は、ホスト領域10の単位周期当たりの厚さ、つまり低屈折率層1と高屈折率層2の厚さの合計であり、a
h =304nmである。また、
図2(a)、(b)において、横軸が正の領域はs偏光、負の領域はp偏光を表している。また、
図2(a)、(b)において、ライトラインを点線で示しており、ライトラインは光の入射角度が90°の場合に対応している。また、
図2(a)、(b)において、伝搬帯域は網かけした領域であり、それ以外の領域はバンドギャップである。
【0028】
図2、3のように、伝搬帯域はバンドギャップによって隔てられて複数に分離している。設計波長λに対応する角周波数fdのラインは、これら複数の伝搬帯域のうち、角周波数が小さい方から数えて3番目の伝搬帯域の下端を通過している。この3番目の伝搬帯域の下端のラインと角周波数fdのラインの交点と、原点とを結ぶ点線で示した直線のラインが、設計入射角度θdに対応している。
図2(b)のように、3番目の伝搬帯域の下端のラインは、波数k
y が0となる付近において下に凸な曲線となっている。そのため、角周波数fdのラインは、設計入射角度θd以下の範囲において3番目の伝搬帯域を通過している。また、角周波数fdのラインは、s偏光においては、設計入射角度θdよりも大きい範囲すべてがバンドギャップを通過している。これは、設計波長λのs偏光の光がホスト領域10に入射する場合に、入射角度が設計入射角度θd以下であれば透過し、設計入射角度θdよりも大きければ反射することを意味している。
【0029】
一方、p偏光においては、設計入射角度θdよりも大きい範囲の大部分はバンドギャップを通過しているが、入射角度が90°となる近傍(70〜90°)では、2番目の伝搬帯域を通過している。これは、設計波長λのp偏光の光がホスト領域10に入射する場合に、入射角度が設計入射角度θd以下であれば透過し、設計入射角度θdよりも大きく70°以下であければ反射し、70°より大きく90°以下であれば透過することを意味している。このように、p偏光については入射角度が90°付近で透過するが、このような大きな角度で入射する光は、実際の光学フィルタ使用上は特に問題とならない場合が多く、入射角度が設計入射角度θd以下であれば透過し、設計入射角度θdよりも大きければ反射する角度フィルタとしての使用に問題はない。また、p偏光についても、s偏光と同様に、設計入射角度θdよりも大きいすべての範囲において、反射するように設定することは可能である。
【0030】
なお、実施例1では、設計波長λのラインが3番目の伝搬帯域の下端を通過するようにしているが、3番目である必要はない。ただし、奇数番目の伝搬帯域の下端を通過するようにすることが望ましい。その理由は以下の通りである。偶数番目の伝搬帯域の下端は、
図3(a)、(b)を見るとわかるように、波数が大きくなって波長が小さくなるため、位相のずれは拡大される。そのため、ホスト領域10と反射防止領域11、12の整合性など光学フィルタの設計が難しくなる。一方、奇数番目の伝搬帯域の下端では、
図3(a)、(b)を見るとわかるように、波数が小さくなって波長は大きくなり、位相のずれは小さくなる。以上の理由から、設計波長λのラインが偶数番目の伝搬帯域の下端を通過するように設計するよりも、奇数番目の伝搬帯域の下端を通過するように設計する方が、光学フィルタの設計が容易となって望ましい。また、設計波長λのラインが4番目以上の伝搬帯域の下端を通過するようにホスト領域10を設定することは難しい。したがって、実施例1のように、設計波長λのラインが3番目の伝搬帯域の下端を通過するようにすることが最も望ましい。
【0031】
[反射防止領域11、12の構成]
反射防止領域11、12は、低屈折率層1の厚さが93nm、高屈折率層2の厚さが214nmに設定されている。つまり、高屈折率層2についてはホスト領域10の高屈折率層2と同じ厚さであり、低屈折率層1のみ厚さを変えている。ただし、外部(空気)と接する高屈折率層2のみ、他の高屈折率層2の厚さの1/2(107nm)としている。また、反射防止領域11、12のそれぞれの積層数は、反射防止領域11と反射防止領域12とでそれぞれ等しく、ホスト領域10と反射防止領域11、12の界面を含む高屈折率層2も含めてそれぞれ15層である。
【0032】
反射防止領域11、12は、ホスト領域10と外部(空気)との間の反射を防止するための層であるが、ホスト領域10のインピーダンスが高く、単純に従来の手法を用いるのでは整合を取りづらい。そこで、反射防止領域11、12の低屈折率層1および高屈折率層2の厚さ、積層数を次のようにして設定することで、ホスト領域10と外部との整合を取り、反射を防止している。
【0033】
図4は、ホスト領域10の低屈折率層1と高屈折率層2の積層数を無限大としたホスト領域10に、設計波長λの光が垂直入射(入射角度0°)した場合の、ホスト領域10のトランスバースインピーダンスZの値を示した図である。ここでトランスバースインピーダンスは、s偏光については、Ez/Hy、p偏光については、Ey/Hzにより定義する。Ey、Ezは、それぞれy軸方向、z軸方向の電界であり、Hy、Hzは、それぞれy軸方向、z軸方向の磁界を示す。y軸はホスト領域10の厚さ方向(x軸方向)に対して垂直で、かつ入射面に平行な方向、z軸はx軸とy軸に垂直な方向である(
図1参照)。
図4の横軸は、ホスト領域10の単位周期当たりの厚さa
h で規格化されたx座標であり、原点は低屈折率層1中であって、その低屈折率層1の厚さの1/2となる位置である。また、
図4中、界面Fは、高屈折率層2中であってその高屈折率層2の厚さの1/2となる位置、界面Hは、低屈折率層1と高屈折率層2の界面位置、界面Iは、低屈折率層1中であってその低屈折率層1の厚さの1/2となる位置である。また、
図4の縦軸は、真空のトランスバースインピーダンスZ0で規格化されたトランスバースインピーダンスである。
図4中、実線がトランスバースインピーダンスZの実部の値、点線が虚部の値である。
【0034】
図4のように、トランスバースインピーダンスZの実部と虚部の値は周期的に増減している。実部は界面F、Iにおいてピークを有し、他の位置はおよそ0となっている。また、界面F、G、Iにおいて、トランスバースインピーダンスZの虚部が0となっていることがわかる。トランスバースインピーダンスZの虚部が0でない値を持つということは、電界と磁界が直交していないことを意味し、そのような場合にホスト領域10と外部との間の整合を取ることは困難である。たとえば、低屈折率層1と高屈折率層2の界面HにおいてトランスバースインピーダンスZの虚部は0でない値を有するため、界面Hで整合を取ることは難しい。
【0035】
一方、トランスバースインピーダンスZの虚部が0となっている位置では、電界と磁界は直交しており、ホスト領域10と外部(空気)との整合において、従来の手法を用いることができる。つまり、ホスト領域10、反射防止領域11、12、空気の等価的なトランスバースインピーダンスをそれぞれZh、Zar、Zairとして、Zar=(Zh×Zair)
1/2 となるようにZarを設定すれば、ホスト領域10と外部との間の反射を最小とすることができる。ここで、等価的なトランスバースインピーダンスとは、誘電体多層膜を屈折率の一様な単層とみなしたときのトランスバースインピーダンスである。なお、空気のトランスバースインピーダンスは、s偏光ではZ0/cosθ、p偏光ではZ0×cosθ、θは入射角度、と記述され、Z0は自由空間インピーダンスで120πである。
【0036】
そこで、ホスト領域10と反射防止領域11、12との界面を、ホスト領域10のトランスバースインピーダンスZhの虚部が0となる界面Fとする。また、反射防止領域11、12の等価的なトランスバースインピーダンスが、Zar=(Zh×Zair)
1/2 によって算出したZarとなるように、低屈折率層1および高屈折率層2の厚さを設定する。また、ホスト領域10と反射防止領域11、12の界面FでのトランスバースインピーダンスZと、反射防止領域11、12と外部の界面でのトランスバースインピーダンスZを一致させるべく、反射防止領域11、12を構成する高屈折率層2のうち、外部と接する高屈折率層2の厚さのみ、他の高屈折率層2の厚さの1/2とする。以上のようにして反射防止領域11、12の低屈折率層1および高屈折率層2の厚さを設定することで、ホスト領域10と外部との間の整合を取ることができ、反射を低減させることができる。また、設計波長λのみならず、設計波長λよりも短波長側の広い波長範囲においても整合を取ることができる。
【0037】
なお、界面Fだけでなく、界面G、Iにおいてもホスト領域10のトランスバースインピーダンスZhの虚部が0となるので、界面G、Iをホスト領域10と反射防止領域11、12の界面として、上記と同様にして反射防止領域11、12の低屈折率層1および高屈折率層2の厚さを設定してもよい。ただし、ホスト領域10のトランスバースインピーダンスZhの実部の値は、界面Iよりも界面Fの方がZ0に近い値であり、整合を取りやすいため、実施例1のように界面Iではなく界面Fをホスト領域10と反射防止領域11、12の界面とすることが望ましい。また、低屈折率層1よりも高屈折率層2の方が厚いため、界面Fをホスト領域10と反射防止領域11、12の界面とする方が光学フィルタの作製上も容易であり望ましい。また、界面Gは、低屈折率層1、高屈折率層2の厚さや屈折率によって位置が変動するため、界面F、Iに比べて設計が難しくなる。
【0038】
また、実施例1の反射防止領域11、12は、低屈折率層1と高屈折率層2のうち、整合を取る界面Fを含まない低屈折率層1の厚さのみを変化させてZar=(Zh×Zair)
1/2 を満たすように設定しているが、高屈折率層2のみ、ないし低屈折率層1と高屈折率層2の両方の厚さを変えてもよい。ただし、低屈折率層1と高屈折率層2のうち、整合を取る界面を含まない方のみの厚さを変化させる方が設計が容易であり望ましい。
【0039】
反射防止領域11、12の積層数は、その全体の厚さが等価波長の1/4となるように設定する。ここで等価波長は、設計波長λを反射防止領域11、12の等価屈折率で割った値であり、等価屈折率は誘電体多層膜を屈折率の一様な単層とみなしたときの屈折率である。また、等価屈折率は、反射防止領域11の分散特性から算出する。
【0040】
なお、反射防止領域11、12の積層数は、その全体の厚さが等価波長の1/4の奇数倍でもよいが、反射防止領域11、12が厚くなり、製造コストが増大するなどの点から1/4とするのがよい。等価波長の1/4の奇数倍から多少ずれていてもよく、等価波長の1/4の奇数倍の0.8〜1.2倍の範囲であってもよい。また、これを満たす範囲で、ホスト領域10の一方の表面側の反射防止領域11と、他方の表面側の反射防止領域12とで、積層数を変えてもよい。
【0041】
以上のようにして反射防止領域11を設定することにより、ホスト領域10と外部(空気)との整合を取ることができ、反射を十分に低減することができる。また、設計波長λよりも短波長側の広い波長領域においても、反射を低減することができる。
【0042】
実際の光学フィルタの作製においては、ガラスなどの基板等の上に誘電体多層膜をスパッタ、蒸着、CVDなどの方法で形成して作製する場合もあるため、2つの反射防止領域11、12のうち一方は、ホスト領域10と基板との間での整合を取ることになる。この場合も、上記と同様にして反射防止領域11、12を設定することで、ホスト領域10と基板との整合を取って反射を低減することができる。
【0043】
次に、実施例1の光学フィルタの各種特性をグラフを用いて説明する。
【0044】
図5は、実施例1の光学フィルタについて、入射角度および周波数を変化させたときの反射特性を示したグラフである。この反射特性は転送行列法により算出したものである。横軸は入射角度、縦軸は周波数を示し、色の濃淡で透過率を示している。白が透過率0で、黒が透過率1、色が濃いほど透過率が高い。
【0045】
図5のように、設計波長λ(周波数500THz)において、ホスト領域10の伝搬帯域である入射角度0〜6°で高い透過率を示し、反射防止領域11、12によってホスト領域10と外部との整合が十分に取れていることがわかる。また、設計波長λよりも短波長側(500THzよりも高周波数側)においても、ホスト領域10の伝搬帯域内となる入射角度で高い透過率を示している。
【0046】
図6(a)は、実施例1の光学フィルタの設計波長λ(周波数500THz)における反射特性を示し、
図6(b)は、周波数515THzにおける反射特性を示したグラフである。横軸は入射角度(°)を示し、入射角度が正の場合をs偏光、負の場合をp偏光としている。縦軸は反射率を示している。
図6(a)、(b)の反射特性は、
図5と同様に転送行列法により算出したものである。
【0047】
図6(a)のように、設計波長λのs偏光の光については、入射角度が6°以下で反射率がほとんど0となっており、6°を超えると急激に反射率が1まで上昇する特性となっていることがわかる。また、設計波長λのp偏光の光については、入射角度が7°以下で反射率がほとんど0となっており、7°を超えると急激に反射率が1まで上昇する特性となっていることがわかる。つまり、実施例1の光学フィルタは、設計波長λにおいては、入射角度が6°以下であれば偏光方向に依らず透過し、入射角度が6°より大きいと反射する角度フィルタとして機能していることがわかる。なお、p偏光について入射角度が70°から90°の範囲において透過しているが、光学フィルタの実際の使用上、このような入射角度の大きな光は問題とならない場合が多く、また入射角度の大きな光も透過するように設計することは可能である。
【0048】
また、
図6(b)のように、設計波長λ(=600nm、周波数500THz)よりも短い波長582nm(周波数515THz)では、s偏光については入射角度が30°以下で反射率がほとんど0となっており、30°を超えると急激に反射率が1まで上昇する特性となっていることがわかる。また、p偏光については、入射角度が35°以下で反射率がほとんど0となっており、35°を超えると急激に反射率が1まで上昇する特性となっていることがわかる。つまり、実施例1の光学フィルタは、設計波長λよりも短波長である582nmにおいては、入射角度が30°以下であれば偏光方向に依らず透過し、入射角度が30°よりも大きいと反射する角度フィルタとして機能していることがわかる。
【0049】
このように、実際の設計波長λよりも短い波長で実施例1の光学フィルタを使用すれば、設計波長λでの透過角度よりも広い透過角度を有した角度フィルタとして機能させることが可能である。
【0050】
図7は、実施例1の光学フィルタについて、光が垂直入射する場合の周波数を変化させたときの反射特性を示したグラフである。
図7のように、設計波長λよりも短波長側においても、広い周波数領域で反射率をほとんど0とすることができる。
【0051】
図8は、光が垂直入射する場合のホスト領域10および反射防止領域11、12の等価的なトランスバースインピーダンスの周波数特性を示したグラフである。グラフ中、実線はホスト領域10の等価的なトランスバースインピーダンスZh、点線は反射防止領域11、12の等価的なトランスバースインピーダンスZarの2乗をZ0で割った値、Zar
2 /Z0を示している。なお、垂直入射の場合、Zair=Z0となる。
【0052】
図8のように、Zarは、Zar=(Zh×Zair)
1/2 を満たすように設定しているため、Zhを示す実線と、Z
2 ar/Z0を示す点線は、設計波長λ(周波数500THz)において交わっている。この交点よりも周波数が小さい範囲では、ZhとZ
2 ar/Z0は値が大きく異なっているが、交点よりも周波数が大きい範囲では、ZhとZ
2 ar/Z0は値がおよそ一致し、周波数が大きくなるにつれてZ0に近づく。その結果、
図7のように、設計波長λよりも短波長側において広い周波数領域で光を透過させることができる。
【0053】
以上、実施例1の光学フィルタによれば、設計波長λにおいて入射角度が設計入射角度θd以下の光を偏光方向に依らず透過し、設計入射角度θdより大きい光は反射させる角度フィルタの機能を、誘電体多層膜によって容易に実現することができる。
【0054】
[実施例1の光学フィルタの変形例]
実施例1の光学フィルタについて、各種変形例を説明する。
【0055】
実施例1では、設計波長λを600nmとしたが、任意の波長であってよく、可視光に限らず、近赤外線、遠赤外線、紫外線であってもよい。たとえば、波長8〜12μmの遠赤外線領域の所望の波長を設計波長λとすることができる。
【0056】
実施例1では、透過させる入射角度を6°以下に設定しているが、90°未満の任意の入射角度以下で透過するように設定することができる。
【0057】
実施例1では、低屈折率層1および高屈折率層2としてSiO
2 を用いたが、これらの材料に限定されるものではなく、従来光学フィルタの材料として用いられ、設計波長λにおいて透光性を有した任意の材料を用いることができる。また、実施例1では、ホスト領域10の低屈折率層1と反射防止領域11、12の低屈折率層1を同一材料としているが、異なる材料としてもよい。同じく、ホスト領域10の高屈折率層2と反射防止領域11、12の高屈折率層2の材料を異なる材料としてもよい。ただし同一材料とする方が光学フィルタの設計、作製が容易で望ましい。
【0058】
たとえば、設計波長λが可視光領域であれば、SiO
2 、Al
2 O
3 、ZrO
2 、TiO
2 、MgOなどの酸化物、SiN、BN、GaNなどの窒化物、SiONなどの酸窒化物、MgF
2 、CaF
2 、LiFなどのフッ化物などから屈折率の異なる任意の2種の材料を高屈折率層および低屈折率層として採用することができる。また、設計波長λが赤外線領域であれば、Si、Ge、SiGe、GeTe、AlSb、GaP、GaAsなども、高屈折率層ないし低屈折率層の材料として用いることができる。また、無機材料だけでなく有機材料を用いることもできる。