(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の幅方向に並設された一対の車両用シートの一方であって隣の車両用シート側の側部に収納用形態で収納されるエアバッグを備え、前記車両の側壁部に対し側方から加わる衝撃に応じてガス発生器から供給される膨張用ガスにより、前記エアバッグを、両車両用シート間で前上方へ向けて、前記車両用シートのヘッドレストよりも上方まで展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、
前記エアバッグ内の下部には、ガス分流路が設けられており、
前記ガス分流路は、前記ガス発生器からの膨張用ガスを上方へ導く上流路と、前記上流路よりも多くの膨張用ガスを前方へ導く前流路とを備え、
前記エアバッグは、膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられて前記収納用形態よりも大きな寸法を有する非膨張展開形態と前記収納用形態との間で、前記ガス分流路及び前記ガス発生器を有する後下膨張部と、前記後下膨張部の前上側に隣接する前上膨張部とを備える中間形態を採り、
前記前上膨張部は、前記中間形態において膨張用ガスの流れ方向に沿って並んだ状態で配置された3以上の屈曲部を有し、
前記中間形態では、全ての屈曲部は、前記後下膨張部よりも隣の車両用シート側に配置されるとともに、ロール状をなすように、隣の屈曲部に対し屈曲した状態で配置され、
最上流の屈曲部は、他の屈曲部より前記後下膨張部側に配置されるとともに、その上端部において前記後下膨張部の上端部に繋がっているファーサイドエアバッグ装置。
前記後下膨張部内であって前記下区画部よりも後方には、前記ガス発生器の少なくともガス噴出部を取り囲んだ状態で上下方向へ延び、かつ上端部及び下端部にそれぞれ開口を有するインナチューブが配置されており、
前記インナチューブにおける前記下端部の開口は、前記上端部の開口よりも大きな開口面積を有しており、
前記前流路、前記上流路及び前記インナチューブにより前記ガス分流路が形成されている請求項3に記載のファーサイドエアバッグ装置。
請求項1〜4のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置を製造するにあたり、前記非膨張展開形態の前記エアバッグを折り畳んで前記収納用形態にするエアバッグの折り畳み方法であって、
前記非膨張展開形態の前記エアバッグを折り畳んで前記中間形態にする工程が含まれ、その工程は、
前記前上膨張部を前記後下膨張部との境界部分を支点として、同後下膨張部に対し、隣の車両用シート側へ折り返す第1の折り工程と、
前記第1の折り工程を実施する前又は後に行なわれる工程であり、前記前上膨張部を、その前上膨張部を構成する複数の屈曲部が、前記膨張用ガスの流れ方向の最上流のものが最も前記後下膨張部側に位置するようにロール状に折り畳む第2の折り工程と
を備えるエアバッグの折り畳み方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のファーサイドエアバッグ装置では、膨張用ガスが供給されたエアバッグは、展開が進むにつれて、同エアバッグ及びガス発生器の収納された側の車両用シートに着座している乗員に近づくように前上方へ向けて展開及び膨張するか、隣の車両用シートに着座している乗員に近づくように前上方へ向けて展開及び膨張する。そのため、エアバッグが展開途中でどちらかの乗員の腕もしくは肩に引っ掛かり、その後の展開及び膨張を妨げられるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両用シートに着座している乗員にエアバッグが引っ掛かって展開及び膨張を妨げられるのを抑制することのできるファーサイドエアバッグ装置及びエアバッグの折り畳み方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するファーサイドエアバッグ装置は、車両の幅方向に並設された一対の車両用シートの一方であって隣の車両用シート側の側部に収納用形態で収納されるエアバッグを備え、前記車両の側壁部に対し側方から加わる衝撃に応じてガス発生器から供給される膨張用ガスにより、前記エアバッグを、両車両用シート間で前上方へ向けて、前記車両用シートのヘッドレストよりも上方まで展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、前記エアバッグ内の下部には
、ガス分流路が設けられており、
前記ガス分流路は、前記ガス発生器からの膨張用ガスを上方へ導く上流路と、前記上流路よりも多くの膨張用ガスを前方へ導く前流路とを備え、前記エアバッグは、膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられて前記収納用形態よりも大きな寸法を有する非膨張展開形態
と前記収納用形態との間で、前記ガス分流路及び前記ガス発生器を有する後下膨張部と、前記後下膨張部の前上側に隣接
する前上膨張部とを備える
中間形態を採り、前記前上膨張部は、前記
中間形態において膨張用ガスの流れ方向に沿って
並んだ状態で配置され
た3以上の屈曲部を
有し、前
記中間形態では、全ての屈曲部は、前記後下膨張部よりも隣の車両用シート側に配置されるとともに
、ロール状をなすように、隣の屈曲部に対し屈曲した状態で配置され、最上流の屈曲部は、
他の屈曲部より前記後下膨張部側に配置されるとともに、その上端部において前記後下膨張部の上端部に繋がっている。
【0008】
上記の構成によれば、車両の側壁部に対し側方から衝撃が加わってガス発生器から膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスは収納用形態のエアバッグの後下膨張部に供給される。供給された膨張用ガスは、ガス分流路により、上方よりも前方へ多く分流されて前上膨張部に供給される。こうして流れる膨張用ガスにより、後下膨張部及び前上膨張部の順にエアバッグが、隣り合う一対の車両用シート間で前上方へ向けて、ヘッドレストよりも上方まで展開及び膨張する。衝撃の加わった側壁部から遠い側の車両用シートに着座している乗員の上半身は、その側壁部側へ倒れ込もうとするが、上記エアバッグによって受け止められ、衝撃から保護される。
【0009】
ところで、上記前上膨張部の展開及び膨張に際しては、膨張用ガスが後下膨張部から前上膨張部における最上流の屈曲部に供給されることで、同最上流の屈曲部が、残りの屈曲部を伴いながら、後下膨張部との連結部分である上端部を支点として、隣の車両用シート側へ回動しようとする。すなわち、最上流の屈曲部は、エアバッグの収納された側の車両用シートに着座している乗員を避けるように、隣の車両用シートに着座している乗員の前上方へ向けて展開する。
【0010】
最上流の屈曲部が後下膨張部の略前上方まで回動すると、残りの複数の屈曲部のそれぞれが、上流側に隣接する屈曲部との連結部分を支点として、エアバッグの収納された車両用シート側へ回動しようとする。すなわち、残りの屈曲部は、隣の車両用シートに着座している乗員を避けるように、エアバッグの収納された側の車両用シートに着座している乗員の前上方へ向けて展開する。
【0011】
従って、前上膨張部が、展開途中に、隣り合う車両用シートに着座している乗員に過度に近づくことが抑制される。エアバッグは、いずれの乗員に対しても引っ掛からずに適正に展開及び膨張することが可能となる。
【0012】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記幅方向に配置された一対の布部を備え、前記前上膨張部内において、同前上膨張部の上端部から下方へ離間し、かつ
同前上膨張部
の下端部から上方へ離間した箇所には、両布部に架け渡された状態で上区画部が設けられていることが好ましい。
【0013】
ここで、仮に両布部間に区画部が架け渡されて、エアバッグが区画部よりも後側に位置し、かつガス発生器からの膨張用ガスが供給される後膨張部と、区画部よりも前側に位置し、かつ後膨張部を経た後に膨張用ガスが供給される前膨張部とに区画されていると、エアバッグの展開及び膨張の初期に後膨張部の内圧が前膨張部の内圧よりも高くなる。衝撃の加わった側壁部側へ倒れ込もうとする乗員は、内圧の高い後膨張部によって受け止められる。
【0014】
しかし、上記の条件を満たす箇所に上区画部が設けられると、前上膨張部では、膨張用ガスの一部は、同前上膨張部の上端部と上区画部との間を流れる。また、膨張用ガスの一部は、上区画部と、前上膨張部の
下端部との間を流れる。そのため、前上膨張部では、上区画部の前側でも後側でも内圧が、上記後膨張部の内圧よりも低くなる。衝撃の加わった側壁部側へ倒れ込もうとする乗員は、広く、しかも内圧の低い前上膨張部によって受け止められる。
【0015】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記幅方向に配置された一対の布部を備え、前記後下膨張部内では、下区画部が両布部間に架け渡されており、前記後下膨張部内の前記下区画部の後上方には、前記ガス分流路の一部を構成し、かつ前記ガス発生器からの膨張用ガスを上方へ導く
前記上流路が設けられ、前記後下膨張部内の前記下区画部の前下方には、前記ガス分流路の一部を構成し、かつ前記上流路よりも多くの膨張用ガスを前方へ導く
前記前流路が設けられていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、車両の側壁部に対し側方から衝撃が加わってガス発生器から膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスの一部は、後下膨張部内の下区画部の後上方に設けられた上流路を通って前上膨張部に供給される。また、膨張用ガスの一部は、後下膨張部内の下区画部の前下方に設けられた前流路を通って前上膨張部に供給される。前流路では、上流路よりも多くの膨張用ガスが流れる。こうした膨張用ガスの分流により、エアバッグ、特に前上膨張部の前方への展開が上方への展開よりも促進される。従って、車両用シートに収納された状態のエアバッグの上方に障害物があっても、エアバッグが展開及び膨張する過程で障害物を強く押すことが抑制される。
【0017】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記後下膨張部内であって前記下区画部よりも後方には、前記ガス発生器の少なくともガス噴出部を取り囲んだ状態で上下方向へ延び、かつ上端部及び下端部にそれぞれ開口を有するインナチューブが配置されており、前記インナチューブにおける前記下端部の開口は、前記上端部の開口よりも大きな開口面積を有しており、前記前流路、前記上流路及び前記インナチューブにより前記ガス分流路が形成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、ガス発生器から膨張用ガスが噴出されると、この膨張用ガスは、インナチューブの壁面に沿って流れることで、上方へ向かうものと下方へ向かうものとに分配される。上方へ分配された膨張用ガスは、インナチューブの上端部の開口から流出する。下方へ分配された膨張用ガスは、インナチューブの下端部の開口から、上記上端部の開口からよりも多く流出する。前流路に対しては、上流路に対するよりも多くの量の膨張用ガスが供給される。
【0019】
そのため、前流路から前上膨張部に対しては、上流路から前上膨張部に対するよりも多くの量の膨張用ガスが供給されることとなり、エアバッグの上方への展開及び膨張よりも前方への展開及び膨張が促進される。
【0020】
上記課題を解決するエアバッグの折り畳み方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置を製造するにあたり、前記非膨張展開形態の前記エアバッグを折り畳んで前記収納用形態にするエアバッグの折り畳み方法であって、前記非膨張展開形態の前記エアバッグを折り畳んで前記中間形態にする工程が含まれ、その工程は、前記前上膨張部を前記後下膨張部との境界部分を支点として、同後下膨張部に対し、隣の車両用シート側へ折り返す第1の折り工程と、前記第1の折り工程を実施する前又は後に行なわれる工程であり、前記前上膨張部を、その前上膨張部を構成する複数の屈曲部が、前記膨張用ガスの流れ方向の
最上流のものが
最も前記後下膨張部側に位置するようにロール状に折り畳む第2の折り工程とを備える。
【0021】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置を製造するにあたっては、非膨張展開形態のエアバッグに対し、第1の折り工程及び第2の折り工程が行なわれることで、同エアバッグが中間形態にされる。
【0022】
第1の折り工程では、前上膨張部が後下膨張部との境界部分を支点として、同後下膨張部に対し、隣の車両用シート側へ折り返される。
第2の折り工程では、前上膨張部を構成する全ての屈曲部が、膨張用ガスの流れ方向の下流のものほど内側に位置するように、その前上膨張部がロール状に折り畳まれる。
【0023】
なお、第1の折り工程と第2の折り工程との実施順の先後は問われない。
これらの第1の折り工程と第2の折り工程とが行なわれることで、エアバッグが中間形態にされたときには、全ての屈曲部が、後下膨張部よりも隣の車両用シート側において、下流のものほど内側に位置するロール状をなすように、隣の屈曲部に対し屈曲した状態で配置される。しかも、最上流の屈曲部が、その上端部において後下膨張部の上端部に繋がった状態となる。
【0024】
上記エアバッグの折り畳み方法において、前記中間形態の前記エアバッグを折り畳んで前記収納用形態にする工程がさらに含まれ、その工程は、前記第1の折り工程及び前記第2の折り工程が行なわれた後の前記前上膨張部と、前記後下膨張部のうち前記ガス発生器よりも前上方の領域とを、それぞれ同ガス発生器に向けて蛇腹状に折り畳む第3の折り工程を備えることが好ましい。
【0025】
第3の折り工程では、第1の折り工程及び第2の折り工程が行なわれた後の前上膨張部と、後下膨張部のうちガス発生器よりも前上方の領域とが、同ガス発生器に向けて蛇腹状に折り畳まれる。この第3の折り工程が行なわれることで、エアバッグは、前後方向の寸法が、同第3の折り工程が行なわれる前よりも小さな収納用形態にされる。
【0026】
上記エアバッグの折り畳み方法において、前記第1の折り工程及び前記第2の折り工程の実施前に行なわれる工程がさらに含まれ、その工程は、前記エアバッグの後端部が前部の内側に位置するように、同エアバッグを折り畳む内折り工程を備えることが好ましい。
【0027】
上記の内折り工程が行なわれることで、エアバッグの後端部が前部の内側に配置される。そのため、収納用形態のエアバッグが展開及び膨張する際には、同エアバッグのうち、内側に配置されている部分(後端部)が、後方へ向かって流れる膨張用ガスの圧力を受けて、後方へ向けて真っ直ぐ押し出される。従って、エアバッグの後端部が内折りとは異なる折り畳み方、例えば蛇腹折りされた場合よりも素早く後方へ展開及び膨張される。
【発明の効果】
【0028】
上記ファーサイドエアバッグ装置及びエアバッグの折り畳み方法によれば、車両用シートに着座している乗員にエアバッグが引っ掛かって展開及び膨張を妨げられるのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、ファーサイドエアバッグ装置及びエアバッグの折り畳み方法の一実施形態について、
図1〜
図18を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の幅方向(車幅方向)であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、車幅方向を規定するために、乗員を基準として側壁部に近い側を「側壁部側」といい、車室の中央部に近い側を「車室中央側」という場合がある。さらに、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が着座しているものとする。
【0031】
図1に示すように、車両10の車幅方向の両側部は、ドア、ピラー等からなる側壁部11,12によって構成されている。車両10の室内(車室内)には、一対の車両用シート13,14が、車幅方向に並べられた状態で配置されている。側壁部11に近い側の車両用シート13は運転席として機能するものであり、ここに乗員(運転者)P1が着座する。側壁部12に近い側の車両用シート14は助手席として機能するものであり、ここに乗員P2が着座する。車室内における両車両用シート13,14の間には、センターコンソールボックス15が配置されている。車両用シート13,14は互いに同様の構成を有している。そのため、ここでは一方の車両用シート(運転席)13についてのみ説明し、車両用シート(助手席)14については説明を省略する。
【0032】
図2及び
図4に示すように、車両用シート13は、シートクッション16と、そのシートクッション16の後側から起立し、かつ傾斜角度を調整可能に構成されたシートバック17と、シートバック17の上に配置されたヘッドレスト18とを備えている。
【0033】
車両用シート13であって、隣の車両用シート14側(車室中央側)の側部には、ファーサイドエアバッグ装置の主要部を構成するエアバッグモジュールABMが設けられている。なお、隣の車両用シート(助手席)14には、こうしたエアバッグモジュールABMは設けられていない。
【0034】
次に、車両用シート13の上記側部の内部構造について説明する。
シートバック17の内部には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、
図4に示すように、シートバック17の上記側部内に配置されている。シートフレーム部の上記部分を、以下、「サイドフレーム部21」ということにする。
【0035】
サイドフレーム部21は、金属板を曲げ加工等することによって、前後方向及び上下方向に延びる板状に形成されている。サイドフレーム部21の後部には、ブラケット22が固定されている。ブラケット22において互いに上下方向に離間した複数箇所(2箇所)には、ボルト孔(図示略)が前後方向に貫通されている。
【0036】
サイドフレーム部21を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド24が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード25が配置されている。なお、シートパッド24は表皮によって被覆されているが、
図4ではその表皮の図示が省略されている。
【0037】
シートパッド24内において、サイドフレーム部21よりも隣の車両用シート14側(車室中央側)の近傍には収納部26が設けられており、ここに上記エアバッグモジュールABMが組み込まれている。
【0038】
収納部26の前部の角部からは、斜め前方に向けてスリット27が延びている。シートパッド24の前側の角部24cとスリット27とによって挟まれた箇所(
図4において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、エアバッグ40によって破断される破断予定部28を構成している。
【0039】
エアバッグモジュールABMは、ガス発生器30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
<ガス発生器30>
ガス発生器30は、インフレータ31と、そのインフレータ31を覆うリテーナ32とを備えている。ここでは、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31は、その上端部にガス噴出部31aを有している。また、インフレータ31の下端部には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0040】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0041】
一方、リテーナ32は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、インフレータ31をエアバッグ40等と一緒にブラケット22に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32の互いに上下方向へ離間した複数箇所(2箇所)には、これをブラケット22に取付けるための部材として、それぞれ後方へ延びるボルト33が固定されている。なお、ガス発生器30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
【0042】
<エアバッグ40>
図5は、エアバッグ40が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた形態(以下「非膨張展開形態」という)のエアバッグモジュールABMを示している。また、
図10は、エアバッグ40をはじめとする、エアバッグモジュールABMの一部の構成部材をそれぞれ展開させた状態で示している。さらに、
図6は、エアバッグモジュールABMの内部構造を示すべく、
図5のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断された状態を示している。
【0043】
図5、
図6及び
図10に示すようにエアバッグ40は、1枚の布片(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線41に沿って前方へ二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、側壁部11側に位置するものを布部42といい、車室中央側に位置するものを布部43というものとする。
【0044】
なお、本実施形態では、折り線41がエアバッグ40の後端部に位置するように布片が二つ折りされているが、折り線41が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように布片が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線41に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ40は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、全周にわたって結合させることにより形成される。さらに、布部42,43の少なくとも一方は、2枚以上の布片によって構成されてもよい。
【0045】
エアバッグ40においては、各布部42,43の外形形状が、折り線41を対称軸として互いに線対称の関係にある。エアバッグ40の配設位置や、高さ方向における寸法は、そのエアバッグ40が展開及び膨張したときに下端がセンターコンソールボックス15の上端よりも下方に位置し、かつ上端が車両用シート13のヘッドレスト18よりも上方に位置するように設定されている(
図2参照)。
【0046】
各布部42,43としては、強度が高く、伸びにくく、しかも可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0047】
両布部42,43の上記結合は、それらの周縁部に沿って設けられた周縁結合部44においてなされている。周縁結合部44は、両布部42,43の周縁部のうち、後端部(折り線41の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する各種結合部63〜65,73〜75,85についても同様である。
【0048】
上記縫製に関し、
図5、
図6、
図11(a)、
図12(a)、
図13(a)、
図14(a)、
図15(a)及び
図16では、3つの線種によって縫製部分が表現されている。1つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線であり、これは、縫糸を側方から見た状態を示している(
図5における周縁結合部44、結合部64,74等参照)。2番目の線種は、一定長さ(一般的な破線よりも長い長さ)の細線を断続的に並べて表現した線であり、これは、例えば布片の奥に位置していて直接は見えない(隠れている)縫糸の状態を示している(
図5における結合部65,75,85参照)。3番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線であり、これは、縫製部分を通る面における縫糸の断面を示している(
図6における周縁結合部44、結合部65,75,85参照)。
【0049】
なお、周縁結合部44は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、上記各種結合部63〜65,73〜75,85についても同様である。
【0050】
両布部42,43の間であって、周縁結合部44及び折り線41によって囲まれた空間は、膨張用ガスによって展開及び膨張させられる膨張部となっている。膨張部は、その膨張部の後下部に位置する後下膨張部45と、その後下膨張部45に対し前上側に隣接する前上膨張部51とからなる。本実施形態では、非膨張展開形態のエアバッグ40は、後述する中間形態を経て収納用形態にされる際に、
図12(a),(b)に示すように、結合部73(74)と結合部63(64)との間に設定される折り線94に沿って折り返される。非膨張展開形態のエアバッグ40において折り線94よりも後下方の領域が後下膨張部45とされ、折り線94よりも前上方の領域が前上膨張部51とされる。
【0051】
図5、
図6及び
図10に示すようにエアバッグ40には、折り線41に直交する方向へ延びるスリット46(
図10参照)が形成されている。各布部42,43においてスリット46よりも下側の部分は、他の部分の内側へ折り曲げた状態で入り込ませられた内折り部47となっている(
図9参照)。内折り部47の下端部は、上記周縁結合部44によって両布部42,43の他の部分に対し、共縫いにより結合されている。また、内折り部47の形成に伴いスリット46が開かれて、ガス発生器30の挿入口48が形成されている。
【0052】
また、エアバッグ40の折り線41上であって、スリット46の上方となる複数箇所(2箇所)には、ガス発生器30のボルト33を挿通させるためのボルト孔49(
図8、
図10参照)があけられている。
【0053】
エアバッグ40において、上記周縁結合部44から離間し、かつ互いに離間した2箇所には、それぞれエアバッグ40の車幅方向の膨張厚みを規制する厚み規制部として、同エアバッグ40を複数の領域に区画する下区画部60及び上区画部70が設けられている。下区画部60及び上区画部70は、いずれも一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
【0054】
図6、
図8及び
図10に示すように、下区画部60は、後下膨張部45内においてガス発生器30の前上方に配置されている。この下区画部60は、エアバッグ40と同様の素材からなる一対の布部61,62によって構成されている。両布部61,62は、エアバッグ40が非膨張展開形態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。この状態では、両布部61,62は、上下方向における中間部分が前上方へ膨らむように湾曲している。
【0055】
側壁部11側の布部61は、これに隣接する布部42に対し、結合部63によって結合されている。同様に、車室中央側の布部62は、これに隣接する布部43に対し、結合部64によって結合されている。両布部61,62は、両結合部63,64から離間した箇所に設けられた結合部65によって相互に結合されている。こうした結合態様により、下区画部60は、後下膨張部45において両布部42,43の間に架け渡されている。そして、下区画部60は、両布部61,62が緊張状態になることで、エアバッグ40における下区画部60の近傍部分の車幅方向の膨張厚みを規制する。
【0056】
後下膨張部45内の下区画部60の後上方には、ガス発生器30からの膨張用ガスの一部を上方へ導く上流路66が設けられている。また、後下膨張部45内の下区画部60の前下方には、ガス発生器30からの膨張用ガスの一部を前方へ導く前流路67が設けられている。
【0057】
図6、
図7及び
図10に示すように、上区画部70は、前上膨張部51内において、同前上膨張部51の上端部から下方へ離間し、かつ後下膨張部45との境界部分から上方へ離間した箇所に配置されている。上区画部70は、エアバッグ40と同様の素材からなる一対の布部71,72によって構成されている。両布部71,72は、略矩形状をなしており、エアバッグ40が非膨張展開形態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。
【0058】
側壁部11側の布部71は、これに隣接する布部42に対し、結合部73によって結合されている。同様に、車室中央側の布部72は、隣接する布部43に対し、結合部74によって結合されている。両布部71,72は、両結合部73,74から後方へ離間した箇所に設けられた結合部75によって相互に結合されている。こうした結合態様により、上区画部70は、前上膨張部51において両布部42,43の間に架け渡されている。そして、上区画部70は、両布部71,72が緊張状態になることで、エアバッグ40における上区画部70の近傍部分の車幅方向の膨張厚みを規制する。
【0059】
図6、
図8及び
図10に示すように、後下膨張部45内であって上記下区画部60よりも後方には、ガス発生器30の少なくともガス噴出部31aを取り囲んだ状態で上下方向へ延びるインナチューブ80が配置されている。
【0060】
インナチューブ80の形成のために、エアバッグ40と同様の素材を用い、下側ほど幅が増大する台形状に形成された1枚の布片81が用いられている。布片81の下端部は、後下膨張部45の下端部(周縁結合部44)から上方へ離間している。ここでは、布片81の下端部の上下位置は、エアバッグ40における挿入口48と略同じ高さに設定されている。また、布片81の上端部は、後下膨張部45の上端部(周縁結合部44)から下方へ離間している。
【0061】
布片81は、その車幅方向の中央部に設定した折り線82に沿って前方へ二つ折りして車幅方向に重ね合わされている。ここでは、インナチューブ80の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、側壁部11側に位置するものを布部83といい、車室中央側に位置するものを布部84というものとする。
【0062】
一対の布部83,84の前端部は、前端縁に沿って延びるように設けられた結合部85によって相互に結合されている。上述したように、インナチューブ80として台形状の布片81が用いられている。このことから、布部83,84の前端縁に沿って形成された結合部85は、エアバッグ40が非膨張展開形態にあるとき、インナチューブ80の後端縁(折り線82)との間隔が下側ほど大きくなるように、同後端縁(折り線82)に対し傾斜する。従って、インナチューブ80は、ガス発生器30から膨張用ガスが供給されると、下端部から上端部に向けて細くなる筒状に膨張する。
【0063】
上記のように、両布部83,84の下端部は相互に結合されていない。この結合されていない箇所は、インナチューブ80の下端部の開口86を構成している。また、両布部83,84の上端部は相互に結合されていない。この結合されていない箇所は、インナチューブ80の上端部の開口87を構成している。下側の開口86は、上側の開口87よりも大きな開口面積を有している。
【0064】
そして、後下膨張部45内にそれぞれ位置する上記前流路67、上流路66及びインナチューブ80によって、ガス発生器30からの膨張用ガスを上方よりも前方へ多く分流するガス分流路79が構成されている。
【0065】
インナチューブ80の折り線82上の複数箇所(2箇所)には、ガス発生器30のボルト33を挿通させるためのボルト孔88があけられている(
図8、
図10参照)。
インナチューブ80は、ボルト孔88を、エアバッグ40のボルト孔49に合致させられた状態で、縫合等の結合手段(図示略)によって同エアバッグ40に結合されている。
【0066】
なお、インナチューブ80は、折り線82が自身の前端部に位置するように二つ折りされてもよい。この場合には、インナチューブ80における一対の布部83,84は、それらの後端部において相互に結合されることになるが、上記周縁結合部44によって布部42,43の後端部に共縫いされてもよい。また、インナチューブ80は、布部83,84が折り線82に沿って分離されたものであってもよい。
【0067】
そして、
図8、
図10及び
図12(a)に示すように、ガス発生器30が略上下方向へ延びる姿勢にされたうえで、同ガス発生器30の下部を除く多くの部分が、略下方から挿入口48を通じて、エアバッグ40の後端部内であって、インナチューブ80内に挿入されている。さらに、
図8に示すように、ボルト33がボルト孔88,49に挿通されることにより、同ガス発生器30がインナチューブ80及びエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。
【0068】
ところで、ガス発生器30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールABMは、非膨張展開形態のエアバッグ40(
図5参照)が折り畳まれることにより、
図17(a),(b)に示すように、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールABMを、シートバック17の側部における限られた大きさの収納部26に対し、収納に適したものとするためである。
【0069】
図5に示す非膨張展開形態のエアバッグ40は、
図11〜
図16に示す折り畳み方法が適用されることにより、
図17(a),(b)に示す収納用形態にされる。この折り畳み方法は、内折り工程、第1の折り工程、第2の折り工程及び第3の折り工程を備えている。これらの工程のうち、第1の折り工程及び第2の折り工程は、非膨張展開形態のエアバッグ40を折り畳んで中間形態にするために行なわれる。第3の折り工程は、中間形態のエアバッグ40を折り畳んで収納用形態にするために行なわれる。次に、各工程について説明する。
【0070】
<内折り工程>
内折り工程では、
図11(a),(b)に示す非膨張展開形態のエアバッグ40における各布部42,43のそれぞれの後端部に、前側ほど高くなるように傾斜する折り線91が、前上膨張部51及び後下膨張部45に跨って設定される。
【0071】
図11(a),(b)において矢印で示すように、各布部42,43において折り線91よりも後側の部分92が、同折り線91よりも前側の部分93の内側に位置するように、折り線91に沿って折り返す折り(中折り、内折り等とも呼ばれる)が行なわれる。この内折り工程が行なわれることにより、
図11(b)において二点鎖線で示すように、上記後側の部分92が前側の部分93に対し車幅方向に重なった状態となる。これに伴い、
図12(a)に示すように、エアバッグ40の前後方向の寸法が、上記内折り工程が行なわれる前よりも若干小さくなる。
【0072】
<第1の折り工程>
続いて、
図12(a),(b)に示すように、上記内折り工程が行なわれたエアバッグ40において、上記折り線91に対し略直交し、かつ互いに略上下方向へ離間する3本の折り線94,95,96が設定される。エアバッグ40において、一番下の折り線94と、上記折り線41とによって囲まれた領域が、上記後下膨張部45である。また、エアバッグ40において、一番下の折り線94よりも上側の領域が上記前上膨張部51である。
【0073】
前上膨張部51において、一番下の折り線94と、中央の折り線95との間の領域は、最上流の屈曲部52を構成している。前上膨張部51において、一番上の折り線96よりも上側の領域は、最下流の屈曲部54を構成している。前上膨張部51において、中央の折り線95と一番上の折り線96との間の領域は、中間の屈曲部53を構成している。
【0074】
このように、エアバッグ40の互いに離間した3箇所に折り線94〜96が設定されることで、前上膨張部51に、屈曲部52,53,54が、膨張用ガスの流れ方向(略上下方向)に沿って並んだ状態で設定される。
【0075】
そして、前上膨張部51の後下膨張部45との境界部分(折り線94)を支点として、同前上膨張部51を同後下膨張部45に対し、隣の車両用シート側(車室中央側)へ折り返される。この折り返しにより、
図13(a),(b)に示すように、最上流の屈曲部52は、後下膨張部45に対し車室中央側に重ねられた状態となる。最上流の屈曲部52は、その上端部において後下膨張部45の上端部に繋がっている。
【0076】
上記第1の折り工程が行なわれることで、エアバッグ40の上下方向の寸法が、上記内折り工程が行なわれた直後の同方向の寸法よりも小さくなる。
<第2の折り工程>
第2の折り工程は、第1の折り工程を実施する前又は後に行なわれる工程である。第2の折り工程では、前上膨張部51を、3つの屈曲部52〜54が、膨張用ガスの流れ方向の下流のものほど内側に位置するようにロール状に折り畳むことが行なわれる。
【0077】
より詳しくは、
図14(a),(b)に示すように、最下流の屈曲部54が中間の屈曲部53との境界部分の折り線96を支点として、隣の車両用シート14側(車室中央側)へ折り返される。この折り返しにより、最下流の屈曲部54は、中間の屈曲部53に対し車室中央側に重ねられた状態となる。
【0078】
図15(a),(b)に示すように、上記のように最下流の屈曲部54が重ねられた中間の屈曲部53がその屈曲部54と一緒に、最上流の屈曲部52との境界部分の折り線95を支点として、車室中央側へ折り返される。この折り返しにより、屈曲部53,54が最上流の屈曲部52に対し車室中央側に重ねられた状態となる。表現を変えると、最下流の屈曲部54が、最上流の屈曲部52と中間の屈曲部53との間に入り込んで重ねられた状態となる。
【0079】
上記第1の折り工程及び第2の折り工程が行なわれることで、前上膨張部51において膨張用ガスの流れ方向に沿って配置された3つの全ての屈曲部52〜54は、後下膨張部45よりも隣の車両用シート14側(車室中央側)において、下流のものほど内側に位置するロール状をなすように、隣の屈曲部52,53に対し屈曲した状態となる。
【0080】
このときのエアバッグの形態を、非膨張展開形態と収納用形態との間の形態という意味で、「中間形態」というものとする。中間形態では、前上膨張部51の上下方向の寸法が、上記第1の折り工程が行なわれた直後の同方向の寸法よりも小さくなる。
【0081】
<第3の折り工程>
図16に示すように、第3の折り工程では、第1の折り工程及び第2の折り工程が行なわれた後の前上膨張部51と、後下膨張部45のうちガス発生器30よりも前上方の領域とに対し、上記折り線94〜96に対し略平行であって、互いに略上下方向へ離間した複数の折り線97が設定される。隣り合う折り線97の間隔は、上述した隣り合う折り線94,95の間隔や隣り合う折り線95,96の間隔よりも狭い。これらの折り線97において、前上膨張部51と、後下膨張部45の上記領域とが、一定幅ずつ交互に折り方向を変えながら、ガス発生器30に向けて蛇腹状に折り畳まれる。この蛇腹折りにより、エアバッグ40は、中間形態のエアバッグ40よりも上下方向及び前後方向の各寸法の小さな、
図17(a),(b)に示す収納用形態になる。
【0082】
その後、エアバッグ40は、結束テープ(図示略)等の保持手段によって収納用形態に保持される。
図4に示すように、エアバッグ40が収納用形態にされたエアバッグモジュールABMは、車両用シート13におけるシートバック17の収納部26に収納されている。そして、ガス発生器30から延びて、インナチューブ80及びエアバッグ40の各ボルト孔88,49に挿通されたボルト33(
図8参照)が、ブラケット22のボルト孔に対し前方から挿通され、これらのボルト33に対し、後方からナット34が締付けられている。この締付けにより、ガス発生器30が、エアバッグ40及びインナチューブ80と一緒にブラケット22に固定されることで、ガス発生器30はブラケット22を介してサイドフレーム部21に固定されている。
【0083】
なお、ガス発生器30は、上述したボルト33及びナット34とは異なる部材によってブラケット22に取付けられてもよい。また、リテーナ32が用いられることなくインフレータ31がブラケット22に直接取付けられてもよい。
【0084】
ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールABMのほかに、
図2に示す衝撃センサ101及び制御装置102を備えている。衝撃センサ101は加速度センサ等からなり、側壁部12等に設けられており、同側壁部12等に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置102は、衝撃センサ101の検出信号に基づきガス発生器30(インフレータ31)の作動を制御する。
【0085】
さらに、車両用シート13には、側壁部11に側方から衝撃に加わった場合に、その側壁部11と車両用シート13との間でエアバッグを展開及び膨張させて乗員P1を拘束し、衝撃から保護するタイプのサイドエアバッグ装置(ニアサイドエアバッグ装置とも呼ばれる、図示略)が設けられている。また、車両用シート14の側壁部12側の側部にも、上記と同様のニアサイドエアバッグ装置が設けられている。
【0086】
また、車室内には、車両用シート13,14に着座している乗員P1,P2を同車両用シート13,14に拘束するためのシートベルト装置(図示略)が設けられている。
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。
【0087】
側壁部12に対し側方から所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ101によって検出されないときには、制御装置102からガス発生器30(インフレータ31)に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ40は、収納用形態で収納部26に収納され続ける(
図4参照)。
【0088】
図1に示すように、側壁部12に対し側突等による衝撃が外側方から加わると、衝撃の加わった側壁部12から遠い側(運転席側)の乗員P1の上半身が、慣性により側壁部12側へ倒れ込もうとする。
【0089】
また、側壁部12に所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ101によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置102からガス発生器30(インフレータ31)に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ31のガス噴出部31aから膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスはまず収納用形態のエアバッグ40の後下膨張部45に供給される。
【0090】
図6において矢印で示すように、この膨張用ガスは、インナチューブ80の壁面に沿って流れることで、上方へ向かうものと下方へ向かうものとに分配される。上方へ分配された膨張用ガスは、インナチューブ80の上端部の開口87から、後上方へ流出する。下方へ分配された膨張用ガスは、インナチューブ80の下端部の開口86から前下方へ流出する。開口86が開口87よりも大きいことから、インナチューブ80よりも前下方に対しては、後上方に対するよりも多くの量の膨張用ガスが流出される。
【0091】
ここで、ガス発生器30のガス噴出部31aから噴出された膨張用ガスのうち前方へ向かうものは、インナチューブ80の前端縁(結合部85)に当たって、上方へ向かうものと下方へ向かうものとに分配される。本実施形態では、インナチューブ80の前端縁(結合部85)が、後端縁(折り線82)との間隔が下側ほど大きくなるように、同後端縁(折り線82)に対し傾斜している。
【0092】
膨張用ガスは、後上方へ向かう場合には、前下方へ向かう場合よりも大きな抵抗を受ける。そのため、ガス噴出部31aから噴出された膨張用ガスのうち前方へ向かうものは、インナチューブ80の前端縁(結合部85)に当たった後、後上方へ向かうものよりも多く、前下方へ向かう。その結果、インナチューブ80の下端部の開口86が、上端部の開口87よりも大きいことと相俟って、開口86からは開口87からよりも多くの膨張用ガスが流出される。
【0093】
そして、下側の開口86に繋がっている前流路67に対しては、上側の開口87に繋がっている上流路66に対するよりも、多くの量の膨張用ガスが供給される。
後下膨張部45における膨張用ガスの一部は、上流路66を通って、上方へ流出される。また、後下膨張部45における膨張用ガスの一部は、前流路67を通って、上記上方よりも多く前方へ流出される。このように、後下膨張部45に供給された膨張用ガスは、ガス分流路79により、上方よりも前方へ多く分流されて前上膨張部51に供給される。
【0094】
一方で、エアバッグ40において、下区画部60及び上区画部70によって区画されたエアバッグ40の各部では、膨張用ガスが供給されることで圧力(内圧)が上昇し、
図12〜
図16を参照して説明した折り畳み方とは逆の順序で、エアバッグ40が展開及び膨張する。
【0095】
この際、
図16に示すように、蛇腹折りによって折り畳まれていた後下膨張部45及び前上膨張部51の折りが解消されて、エアバッグ40が前上方へ向けて展開及び膨張する。
【0096】
なお、上記展開及び膨張の途中で、エアバッグ40は、
図4における収納部26の近くでシートパッド24を押圧し、破断予定部28においてシートパッド24を破断させる。エアバッグ40は、一部(ガス発生器30の近傍部分)を収納部26内に残した状態で、同収納部26から前上方へ出る。
図2及び
図3に示すように、エアバッグ40は、隣り合う車両用シート13,14間で、前上方へ向けて、ヘッドレスト18よりも上方まで展開及び膨張する。
【0097】
エアバッグ40の下部は乗員P1の腰部PP(シートバック17の下方部)の側方に位置し、同エアバッグ40の上端は、同乗員P1の頭部PHよりも高い箇所に位置する。エアバッグ40の下端は、車両用シート13に着座している乗員P1とセンターコンソールボックス15との間に位置する。
【0098】
衝撃の加わった側壁部12から遠い側の車両用シート13に着座している乗員P1の上半身(頭部PHを含む)は、その側壁部12側へ倒れ込もうとするが、上記エアバッグ40によって受け止められ、衝撃から保護される。
【0099】
ここで、両布部間に、上下方向の全領域にわたって延びる区画部が架け渡されているエアバッグを比較対象とする。この比較対象では、エアバッグが区画部によって、区画部よりも後側に位置し、かつガス発生器からの膨張用ガスが供給される後膨張部と、区画部よりも前側に位置し、かつ後膨張部を通過した後に膨張用ガスが供給される前膨張部とに区画されているものとする。ただし、区画部には、後膨張部と前膨張部とを連通させる連通部が設けられている。この比較対象では、ガス発生器からの膨張用ガスは、後膨張部に供給された後に、連通部を通って前膨張部に供給される。そのため、エアバッグの展開及び膨張の初期に後膨張部の内圧が前膨張部の内圧よりも高くなる。衝撃の加わった側壁部側へ倒れ込もうとする乗員は、内圧の高い後膨張部によって受け止められる。
【0100】
しかし、前上膨張部51内において、同前上膨張部51の上端部から下方へ離間し、かつ後下膨張部45との境界部分から上方へ離間した箇所に上区画部70が設けられた本実施形態では、膨張用ガスの一部は、前上膨張部51の上端部と上区画部70との間を流れる。また、膨張用ガスの一部は、上区画部70と、前上膨張部51の後下膨張部45との境界部分(下区画部60)との間を流れる。そのため、前上膨張部51では、上区画部70の前側でも後側でも同程度に展開及び膨張し、内圧が、上記比較対象の後膨張部の内圧よりも低くなる。
【0101】
また、上述したように、膨張用ガスがガス分流路79を流れることで、同膨張用ガスが上方よりも前方へ多く分流される。こうした膨張用ガスの分流により、エアバッグ40、特に前上膨張部51の前方への展開が上方への展開よりも促進される。
【0102】
さらに、上記のように後下膨張部45及び前上膨張部51がそれぞれ展開及び膨張する過程で、エアバッグ40のうち、内側に配置されている部分92が、後方へ向かって流れる膨張用ガスの圧力を受けて、後方へ向けて真っ直ぐ押し出される。
【0103】
ところで、
図18(a)〜(e)は、エアバッグ40の展開及び膨張の過程で前上膨張部51が展開及び膨張する際の各屈曲部52〜54の動作を概念的に示している。
図18(a)に示すように、膨張用ガスは、後下膨張部45を経た後に前上膨張部51における最上流の屈曲部52に供給される。
図18(b)に示すように、最上流の屈曲部52は、残りの屈曲部53,54を伴いながら、後下膨張部45との連結部分である上端部(折り線94)を支点として、車室中央側へ回動しようとする。すなわち、最上流の屈曲部52は、エアバッグ40の収納された側(側壁部11側)の車両用シート13に着座している乗員P1を避けるように、隣(車室中央側)の車両用シート14に着座している乗員P2の前上方へ向けて展開する。
【0104】
図18(c)に示すように、最上流の屈曲部52が後下膨張部45の前方近傍まで回動すると、
図18(d)及び
図18(e)に示すように、残りの複数の屈曲部53,54のそれぞれが、上流側の屈曲部52,53との連結部分(折り線95,96)を支点として、側壁部11側へ回動しようとする。すなわち、残りの屈曲部53,54は、隣(車室中央側)の車両用シート14に着座している乗員P2を避けるように、エアバッグ40の収納された側(側壁部11側)の車両用シート13に着座している乗員P1の前上方へ向けて展開する。
【0105】
このように、前上膨張部51の展開に際し、残りの各屈曲部53,54は最上流の屈曲部52とは逆方向へ回動する。従って、前上膨張部51が、展開途中に、隣り合う車両用シート13,14に着座しているいずれかの乗員P1,P2に過度に近づくことが抑制される。
【0106】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ40が非膨張展開形態と収納用形態との間の中間形態にされたとき、前上膨張部51における全ての屈曲部52〜54が、後下膨張部45よりも隣の車両用シート14側(車室中央側)において、下流のものほど内側に位置するロール状をなすように、隣の屈曲部52,53に対し屈曲した状態で配置される。さらに、最上流の屈曲部52が、その上端部において後下膨張部45の上端部に繋がっている(
図14(a),(b)、
図15(a),(b))。
【0107】
そのため、前上膨張部51が、展開途中に、隣り合う車両用シート13,14に着座している乗員P1,P2に引っ掛かって展開及び膨張を妨げられるのを抑制することができる。
【0108】
(2)前上膨張部51内において、同前上膨張部51の上端部から下方へ離間し、かつ後下膨張部45との境界部分から上方へ離間した箇所には、両布部42,43に架け渡された状態で上区画部70が設けられている(
図6、
図7)。
【0109】
そのため、衝撃の加わった側壁部12側へ倒れ込もうとする乗員P1を、広く、しかも内圧の低い前上膨張部51の全体によって受け止めることができる。
(3)後下膨張部45の両布部42,43間に下区画部60が架け渡されている。後下膨張部45内の下区画部60の後上方に上流路66が設けられ、後下膨張部45内の下区画部60の前下方に、上流路66よりも多くの膨張用ガスを前方へ導く前流路67が設けられている(
図6、
図8)。
【0110】
そのため、前上膨張部51の前方への展開を上方への展開よりも促進することができる。従って、車両用シート13に収納された状態のエアバッグ40の上方に障害物があっても、エアバッグ40が展開及び膨張する過程で障害物を強く押すのを抑制することができる。
【0111】
(4)後下膨張部45内に、上下両端部にそれぞれ開口87,86を有するインナチューブ80を配置し、このインナチューブ80と上記上流路66及び前流路67とによってガス分流路79を形成している(
図6、
図8)。
【0112】
そのため、前流路67から前上膨張部51に対しては、上流路66から前上膨張部51に対するよりも多くの量の膨張用ガスを流出させることができ、エアバッグ40の上方への展開及び膨張よりも前方への展開及び膨張を促進することができる。
【0113】
(5)非膨張展開形態のエアバッグ40を折り畳んで中間形態にする工程として、第1の折り工程と第2の折り工程とを行なう。第1の折り工程では、前上膨張部51を後下膨張部45との境界部分(折り線94)を支点として、同後下膨張部45に対し、隣の車両用シート14側(車室中央側)へ折り返す(
図12(a),(b)、
図13(a),(b))。第2の折り工程では、前上膨張部51を、複数の屈曲部52〜54が、膨張用ガスの流れ方向の下流のものほど内側に位置するようにロール状に折り畳む(
図14(a),(b)、
図15(a),(b))。
【0114】
そのため、エアバッグ40が中間形態(
図15(a),(b))にされたとき、同エアバッグ40を上記(1)の条件を満たす形状にすることができる。
(6)中間形態のエアバッグ40を折り畳んで収納用形態にする工程として、第3の折り工程を行なう。第3の折り工程では、前上膨張部51と、後下膨張部45のうちガス発生器30よりも前上方の領域とを、それぞれ同ガス発生器30に向けて蛇腹状に折り畳む(
図16)。
【0115】
そのため、エアバッグ40を、その前後方向及び上下方向の寸法が、第3の折り工程が行なわれる前よりも小さな、収納に適した収納用形態(
図17(a),(b))にすることができる。
【0116】
(7)第1の折り工程及び第2の折り工程に先駆けて行なわれる工程として、エアバッグ40の後端部が前部の内側に位置するように、同エアバッグ40を折り畳む内折り工程が行なわれる(
図11(a),(b)、
図12(a))。
【0117】
そのため、エアバッグ40の後端部が他の折り態様、例えば蛇腹折りされた場合よりも素早く、しかも無駄な動作をすることなく後方へ展開及び膨張させることができる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
【0118】
・前上膨張部51は、4以上の屈曲部によって構成されてもよい。
図19は、前上膨張部51が4つの屈曲部52,53,54,55によって構成された例を示している。この場合にも、4つの屈曲部52〜55は、下流のものほど内側に位置するロール状をなすように、隣の屈曲部52〜54に対し屈曲した状態で配置される。
【0119】
・エアバッグ40は、隣り合う車両用シート13,14の一方であって、隣の車両用シート14,13に近い側の側部であることを条件に、ブラケット22とは異なる部材に固定されてもよい。
【0120】
例えば、ガス発生器30として、ボルト33が、リテーナ32から後方に代えて車幅方方向へ延びるものが用いられる。ボルト33がインナチューブ80及びエアバッグ40に挿通され、この状態でボルト33がサイドフレーム部21に締結されてもよい。
【0121】
・インナチューブ80は、ガス噴出部31aを含め、ガス発生器30の全体(ボルト33を除く)を取り囲んだ状態で上下方向に延びるものであってもよい。
・インナチューブ80は、後下膨張部45の上端部まで延びるものであってもよい。この場合には、インナチューブ80の上端の近くに上側の開口87が設けられる。
【0122】
また、インナチューブ80は、後下膨張部45の下端部まで延びるものであってもよい。この場合には、インナチューブ80の下端の近くに下側の開口86が設けられる。
・上記実施形態とは異なり、インナチューブ80を設けずに、後下膨張部45内にガス発生器30を直接収容する構成を採用することもできる。この場合には、前流路67及び上流路66によってガス分流路79が構成されることになる。そして、ガス発生器30からの膨張用ガスを上方よりも前方へ多く分流するために、前流路67の流路面積が上流路66の流路面積よりも大きくなる位置に下区画部60が配置される。
【0123】
・エアバッグ40は、上記実施形態のようにその略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0124】
・非膨張展開形態のエアバッグ40を中間形態にするために、内折り工程が行なわれたエアバッグ40に対し、上記実施形態とは逆に、第2の折り工程及び第1の折り工程がこの順で行なわれてもよい。
【0125】
・エアバッグ40の折り畳み方法における複数の工程のうち、内折り工程が省略されてもよい。
・上記ファーサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。