(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551207
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】タイヤ摩耗性能予測方法及びタイヤのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20190722BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20190722BHJP
G06F 17/50 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
B60C19/00 H
G06F17/50 680Z
G06F17/50 612A
G06F17/50 612G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-244405(P2015-244405)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-110976(P2017-110976A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰太
【審査官】
本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−053142(JP,A)
【文献】
特開2001−001723(JP,A)
【文献】
特開2014−228963(JP,A)
【文献】
特開2012−063949(JP,A)
【文献】
特開平11−201875(JP,A)
【文献】
特開平11−326144(JP,A)
【文献】
米国特許第06199026(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
G01N 3/56
G06F 17/50
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接地する走行用のタイヤを備えた車両が、前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法であって、
前記車両に前記前後加速度が単独で作用しているときの前記タイヤの前後方向摩耗エネルギーE1及び左右方向摩耗エネルギーE2を計算する工程と、
前記車両に前記横加速度が単独で作用しているときの前記タイヤの前後方向摩耗エネルギーE3及び左右方向摩耗エネルギーE4を計算する工程と、
上記工程で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、下記式(1)とに基づいて前記複合走行時の前記タイヤの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、
前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含むことを特徴とするタイヤ摩耗性能予測方法。
E=a×E1+b×E2+c×E3+d×E4 … (1)
但し、a、b、c及びdは、それぞれ予め設定された係数である。
【請求項2】
前記係数a、b、c及びdの少なくとも1つは、加速時と減速時とで異なる値が設定される請求項1に記載のタイヤ摩耗性能予測方法。
【請求項3】
前記係数a、b、c及びdは、前記車両毎に個別に設定される請求項1又は2に記載のタイヤ摩耗性能予測方法。
【請求項4】
前記係数a、b、c及びdは、前記タイヤ毎に個別に設定される請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ摩耗性能予測方法。
【請求項5】
前記係数a、b、c及びdは、それぞれ0以上1以下の範囲で設定されている請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ摩耗性能予測方法。
【請求項6】
タイヤに前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行させる複合走行時のタイヤ摩耗性能を、コンピュータを用いて予測するためのタイヤのシミュレーション方法であって、
前記コンピュータに、前記タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルに前記前後加速度を単独で作用させる駆動条件及び制動条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記駆動条件及び前記制動条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE1と左右方向摩耗エネルギーE2とを計算する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルに前記横加速度を単独で作用させる旋回条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記旋回条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE3と左右方向摩耗エネルギーE4とを計算する工程と、
前記コンピュータが、上記工程で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、下記式(1)とに基づいて前記複合走行時の前記タイヤモデルの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、
前記コンピュータが、前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含むことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
E=a×E1+b×E2+c×E3+d×E4 … (1)
但し、a、b、c及びdは、それぞれ予め設定された係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの摩耗性能を、より正確に予測することができるタイヤ摩耗性能予測方法及びタイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの摩耗性能を予測するための方法が、種々提案されている。例えば、下記特許文献1では、模擬路面上でタイヤを転動させて、タイヤ摩耗を試験するタイヤ摩耗試験方法が提案されている。
【0003】
この特許文献1のタイヤ摩耗試験方法では、実車走行により計測された加速度から、前後方向加速度及び横方向加速度の頻度分布を算出するとともに、前後方向加速度又は横方向加速度が単独で作用しているときのタイヤの外的条件を取得し、この頻度分布と外的条件とに基づいて、タイヤの摩耗性能を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−139708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のタイヤ摩耗試験方法は、前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗を、前後方向加速度及び横方向加速度が線型に累積するという技術思想に基づいて頻度分布から予測しており、実際の複合走行時のタイヤ摩耗と異なった状況で評価されるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤの前後方向摩耗エネルギー及び左右方向摩耗エネルギーを計算し、各エネルギーに係数を掛けて加算することを基本として、タイヤの摩耗性能を、より正確に予測することができるタイヤ摩耗性能予測方法及びタイヤのシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明は、路面に接地する走行用のタイヤを備えた車両が、前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法であって、前記車両に前記前後加速度が単独で作用しているときの前記タイヤの前後方向摩耗エネルギーE1及び左右方向摩耗エネルギーE2を計算する工程と、前記車両に前記横加速度が単独で作用しているときの前記タイヤの前後方向摩耗エネルギーE3及び左右方向摩耗エネルギーE4を計算する工程と、上記工程で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、下記式(1)とに基づいて前記複合走行時の前記タイヤの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含むことを特徴とする。
E=a×E1+b×E2+c×E3+d×E4 … (1)
但し、a、b、c及びdは、それぞれ予め設定された係数である。
【0008】
第1発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法において、前記係数a、b、c及びdの少なくとも1つは、加速時と減速時とで異なる値が設定されるのが望ましい。
【0009】
第1発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法において、前記係数a、b、c及びdは、前記車両毎に個別に設定されるのが望ましい。
【0010】
第1発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法において、前記係数a、b、c及びdは、前記タイヤ毎に個別に設定されるのが望ましい。
【0011】
第1発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法において、前記係数a、b、c及びdは、それぞれ0以上1以下の範囲で設定されているのが望ましい。
【0012】
本発明の第2発明は、タイヤに前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行させる複合走行時のタイヤ摩耗性能を、コンピュータを用いて予測するためのタイヤのシミュレーション方法であって、前記コンピュータに、前記タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデルを入力する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルに前記前後加速度を単独で作用させる駆動条件及び制動条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記駆動条件及び前記制動条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE1と左右方向摩耗エネルギーE2とを計算する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルに前記横加速度を単独で作用させる旋回条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記旋回条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE3と左右方向摩耗エネルギーE4とを計算する工程と、前記コンピュータが、上記工程で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、下記式(1)とに基づいて前記複合走行時の前記タイヤモデルの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、前記コンピュータが、前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含むことを特徴とする。
E=a×E1+b×E2+c×E3+d×E4 … (1)
但し、a、b、c及びdは、それぞれ予め設定された係数である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤ摩耗性能予測方法は、車両に前後加速度が単独で作用しているときのタイヤの前後方向摩耗エネルギーE1及び左右方向摩耗エネルギーE2を計算する工程と、前記車両に横加速度が単独で作用しているときの前記タイヤの前後方向摩耗エネルギーE3及び左右方向摩耗エネルギーE4を計算する工程とを含んでいる。このようなタイヤ摩耗性能予測方法は、前後加速度が単独で作用しているとき及び横加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。
【0014】
本発明のタイヤ摩耗性能予測方法は、各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、式(1)とに基づいて複合走行時の前記タイヤの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含んでいる。このようなタイヤ摩耗性能予測方法は、車両毎又はタイヤ毎に適切な係数を選択することができ、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測することができる。
【0015】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、コンピュータが、タイヤモデルに前後加速度を単独で作用させる駆動条件及び制動条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記駆動条件及び前記制動条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE1と左右方向摩耗エネルギーE2とを計算する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルに横加速度を単独で作用させる旋回条件で前記タイヤモデルを走行させて、前記旋回条件における前記タイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE3と左右方向摩耗エネルギーE4とを計算する工程とを含んでいる。このようなタイヤのシミュレーション方法は、前後加速度が単独で作用させる条件及び横加速度が単独で作用させる条件でのタイヤモデルの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。
【0016】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、コンピュータが、各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、式(1)とに基づいて複合走行時の前記タイヤモデルの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する工程と、前記コンピュータが、前記複合摩耗エネルギーEに基づいて、前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する工程とを含んでいる。このようなタイヤのシミュレーション方法は、車両毎又はタイヤ毎に適切な係数を選択することができ、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態のタイヤ摩耗性能予測方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の第2実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】実摩耗量と実施例及び比較例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明の第1実施形態のタイヤ摩耗性能予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)は、路面に接地する走行用のタイヤを備えた車両が、前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法である。
【0019】
図1は、第1実施形態の予測方法を示すフローチャートである。
図1に示されるように、第1実施形態の予測方法では、まず、車両に前後加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーを計算する第1工程M1が行われる。第1工程M1では、摩耗エネルギーとして、前後方向摩耗エネルギーE1及び左右方向摩耗エネルギーE2が計算される。すなわち、第1工程M1において、車両に前後加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーは、前後方向と左右方向との各成分に分解されて計算される。このような第1工程M1は、前後加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。なお、これらのタイヤの摩耗エネルギーは、例えば、複数の周方向溝で区分されるリブ毎の平均摩耗エネルギーとして計算されるのが望ましい。
【0020】
第1工程M1では、例えば、車両が直進状態で加速又は減速するときの、タイヤの前後方向せん断力H1(t)と前後方向すべり量L1(t)とが単位時間t毎に求められる。前後方向摩耗エネルギーE1は、例えば、各前後方向せん断力H1(t)と各前後方向すべり量L1(t)との積の総和として、下記式(2)に基づいて計算される。
E1=Σ{H1(t)×L1(t)} … (2)
【0021】
第1工程M1では、さらに、車両が直進状態で加速又は減速するときの、タイヤの左右方向せん断力H2(t)と左右方向すべり量L2(t)とが単位時間t毎に求められる。左右方向摩耗エネルギーE2は、例えば、各左右方向せん断力H2(t)と各左右方向すべり量L2(t)との積の総和として、下記式(3)に基づいて計算される。
E2=Σ{H2(t)×L2(t)} … (3)
【0022】
第1実施形態の予測方法では、次に、車両に横加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーを計算する第2工程M2が行われる。第2工程M2では、摩耗エネルギーとして、前後方向摩耗エネルギーE3及び左右方向摩耗エネルギーE4が計算される。すなわち、第2工程M2においても、車両に横加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーは、前後方向と左右方向との各成分に分解されて計算される。このような第2工程M2は、横加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。なお、これらのタイヤの摩耗エネルギーは、例えば、複数の周方向溝で区分されるリブ毎の平均摩耗エネルギーとして計算されるのが望ましい。
【0023】
第2工程M2では、例えば、車両が加速及び減速することなく旋回するときの、タイヤの前後方向せん断力H3(t)と前後方向すべり量L3(t)とが単位時間t毎に求められる。前後方向摩耗エネルギーE3は、例えば、各前後方向せん断力H3(t)と各前後方向すべり量L3(t)との積の総和として、下記式(4)に基づいて計算される。
E3=Σ{H3(t)×L3(t)} … (4)
【0024】
第2工程M2では、さらに、車両が加速及び減速することなく旋回するときの、タイヤの左右方向せん断力H4(t)と左右方向すべり量L4(t)とが単位時間t毎に求められる。左右方向摩耗エネルギーE4は、例えば、各左右方向せん断力H4(t)と各左右方向すべり量L4(t)との積の総和として、下記式(5)に基づいて計算される。
E4=Σ{H4(t)×L4(t)} … (5)
【0025】
第1実施形態の予測方法では、次に、第1工程M1及び第2工程M2で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4に基づいて複合走行時のタイヤの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する第3工程M3が行われる。複合摩耗エネルギーEは、各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、それぞれ予め設定された係数a、b、c及びdとの積の総和として、下記式(1)に基づいて計算される。
E=a×E1+b×E2+c×E3+d×E4 … (1)
【0026】
ここで、各係数a、b、c及びdは、0以上1以下の範囲で設定されるのが望ましい。また、各係数a、b、c及びdの少なくとも1つは、1未満であるのがさらに望ましい。このような係数a、b、c及びdは、複合摩耗エネルギーEが、実際の複合走行時のタイヤ摩耗に対して過大に評価されることを抑制し得る。
【0027】
各係数a、b、c及びdは、例えば、車両毎に個別に設定され得る。すなわち、車両の特性に応じて、各係数a、b、c及びdは適宜調整され得る。また、各係数a、b、c及びdは、例えば、タイヤ毎に個別に設定され得る。すなわち、同じタイヤであっても、前輪か後輪か、また、駆動輪か従動輪かに応じて、各係数a、b、c及びdは適宜調整され得る。このため、第1実施形態の予測方法は、車両毎又はタイヤ毎に適切な係数a、b、c及びdを選択することができ、その結果、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測することができる。
【0028】
また、各係数a、b、c及びdの少なくとも1つは、加速時と減速時とで異なる値が設定されるのが望ましい。このため、第1実施形態の予測方法は、加速しながら旋回する走行モードと、減速しながら旋回する旋回モードとのそれぞれの特性に適した係数a、b、c及びdが設定することができ、その結果、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測することができる。
【0029】
各係数a、b、c及びdは、例えば、実験的に繰り返し計算することで設定され得る。このとき、例えば、係数b及びcを、共に0とすることで、係数a及びdの設定を短時間で行なうことができる。
【0030】
第1実施形態の予測方法では、次に、複合摩耗エネルギーEに基づいて、複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する第4工程M4が行われる。第4工程M4では、例えば、タイヤ摩耗性能として、タイヤ摩耗量Dが計算される。タイヤ摩耗量Dは、例えば、複合摩耗エネルギーEとトレッド部の材料の摩耗係数Kとの積として、下記式(6)に基づいて計算される。
D=K×E … (6)
【0031】
次に、本発明の第2実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)が説明される。第2実施形態のシミュレーション方法は、タイヤの摩耗性能を、コンピュータを用いて再現し、第1実施形態の予測方法に基づき予測するための方法である。
【0032】
図2は、第2実施形態のシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
図2に示されるように、第2実施形態のシミュレーション方法では、まず、コンピュータに、トレッド部を含むタイヤモデルを入力する入力工程S1が実行される。
【0033】
入力工程S1では、タイヤに関する情報に基づいて、タイヤを数値解析法により取り扱い可能な有限個の小さな要素F(i)に離散化している。これにより、トレッド部を含むタイヤが3次元的にモデル化されたタイヤモデルが設定される。なお、数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できる。
【0034】
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は6面体ソリッド要素等が用いられる。各要素F(i)には、複数個の節点P(j)が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点P(j)の番号、節点P(j)の座標値及び材料特性(例えば、密度、ヤング率及び減衰係数等)等の数値データが定義される。
【0035】
第2実施形態のシミュレーション方法では、次に、タイヤモデル等の初期設定を行う設定工程S2が実行される。設定工程S2では、例えば、路面モデルの設定、境界条件の設定、タイヤモデルの内圧付加及びタイヤモデルと路面モデルとの接地等が行われる。
【0036】
路面モデルの設定は、例えば、タイヤモデルと同様に、評価対象となる路面に関する情報に基づいて、路面を数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素に離散化している。路面モデルとしては、平滑な表面を有するものであるのが望ましいが、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり又は轍等の実走行路面に近似した凹凸が設けられていてもよい。
【0037】
境界条件の設定は、例えば、タイヤモデルの内圧条件、負荷荷重条件、キャンバー角及びタイヤモデルと路面モデルとの摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、走行速度に対応する角速度、並進速度、及び、横力等が設定される。
【0038】
タイヤモデルの内圧付加では、例えば、内圧条件の基づいて内圧が充填された後のタイヤモデルが計算される。内圧は、例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
【0039】
タイヤモデルと路面モデルとの接地では、例えば、負荷荷重条件、キャンバー角及び摩擦係数等に基づいて、内圧充填後のタイヤモデルの変形が計算される。これにより、路面モデルに接地したタイヤモデルが計算される。
【0040】
第2実施形態のシミュレーション方法では、次に、コンピュータが、タイヤモデルに前後加速度を単独で作用させる駆動条件及び制動条件での、タイヤモデルの摩耗エネルギーを計算する第1計算工程S3が実行される。第1計算工程S3では、コンピュータが、設定工程S2において予め定めた路面モデル上でタイヤモデルを走行させて、タイヤモデルの摩耗エネルギーを、各要素F(i)の節点P(j)毎に計算している。
【0041】
第1計算工程S3では、摩耗エネルギーとして、駆動条件及び制動条件におけるタイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE1及び左右方向摩耗エネルギーE2が、上記式(2)及び上記式(3)に基づいて計算される。すなわち、第1計算工程S3において、タイヤモデルに前後加速度が単独で作用しているときのタイヤモデルの摩耗エネルギーは、前後方向と左右方向との各成分に分解されて計算される。このような第1計算工程S3は、前後加速度が単独で作用させる条件でのタイヤモデルの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。
【0042】
第2実施形態のシミュレーション方法では、次に、コンピュータが、タイヤモデルに横加速度を単独で作用させる旋回条件での、タイヤモデルの摩耗エネルギーを計算する第2計算工程S4が実行される。第2計算工程S4でも、コンピュータが、設定工程S2において予め定めた路面モデル上でタイヤモデルを走行させて、タイヤモデルの摩耗エネルギーを、各要素F(i)の節点P(j)毎に計算している。
【0043】
第2計算工程S4では、摩耗エネルギーとして、旋回条件におけるタイヤモデルの前後方向摩耗エネルギーE3及び左右方向摩耗エネルギーE4が、上記式(4)及び上記式(5)に基づいて計算される。すなわち、第2計算工程S4においても、タイヤモデルに横加速度が単独で作用しているときのタイヤモデルの摩耗エネルギーは、前後方向と左右方向との各成分に分解されて計算される。このような第2計算工程S4は、横加速度が単独で作用させる条件でのタイヤモデルの摩耗エネルギーを、より正確に分析することができる。
【0044】
第2実施形態のシミュレーション方法では、次に、コンピュータが、第1計算工程S3及び第2計算工程S4で得られた各エネルギーE1、E2、E3及びE4と、上記式(1)とに基づいて複合走行時のタイヤモデルの摩耗エネルギーである複合摩耗エネルギーEを計算する第3計算工程S5が行われる。このような第3計算工程S5は、車両毎又はタイヤ毎に適切な係数a、b、c及びdを選択することができ、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確かつ迅速に予測することができる。
【0045】
第2実施形態のシミュレーション方法では、次に、コンピュータが、複合摩耗エネルギーEに基づいて、複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する第4計算工程S6が行われる。第4計算工程S6では、例えば、タイヤ摩耗性能として、タイヤ摩耗量Dが上記式(6)に基づいて計算される。タイヤ摩耗量Dは、例えば、タイヤモデルの踏面に表れる全ての節点P(j)について計算される。
【0046】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【0047】
例えば、上述の実施形態では、第4工程M4又は第4計算工程S6において、タイヤ又はタイヤモデルの摩耗性能として、タイヤ摩耗量Dが計算されていたが、複合摩耗エネルギーEに基づいて、直接タイヤ又はタイヤモデルの摩耗性能を予測してもよい。
【実施例】
【0048】
図1に示される予測方法に従って、タイヤモデルのトレッド部について、複合走行時のタイヤ摩耗量が予測された(実施例)。このときの上記式(1)の各係数a、b、c及びdは、a=1、b=0、c=0及びd=1であった。比較例として、車両に前後加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーと車両に横加速度が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーとを累積して複合走行時のタイヤ摩耗量が予測された。
【0049】
結果が
図3に示される。
図3は、実摩耗量と実施例及び比較例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。
図3の横軸は、実験的に複合走行時のタイヤ摩耗量を測定した実摩耗量であり、縦軸は、タイヤ摩耗量を実施例又は比較例の方法により予測した予測摩耗量である。実摩耗量と予測摩耗量の計算値との関係が、■印として示され、実摩耗量と比較例の予測摩耗量との関係が◆印として示されている。また、実施例の■印の分布を線型回帰した直線が太い直線で示され、比較例の◆印の分布を線型回帰した直線が細い直線で示されている。なお、実摩耗量と予測摩耗量とが同一である直線が、点線で示されている。
【0050】
図3から明らかなように、実施例の■印は、実摩耗量と予測摩耗量とが同一である点線近傍に分布し、実施例の予測摩耗量が、実摩耗量に近い値となっていることが確認された。従って、実施例は、比較例に対し、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測していることが確認できた。
【符号の説明】
【0051】
M1 第1工程
M2 第2工程
M3 第3工程
M4 第4工程