特許第6551233号(P6551233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6551233セルロースナノファイバーとその製造方法、該セルロースナノファイバーを用いた水分散液、及び繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551233
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーとその製造方法、該セルロースナノファイバーを用いた水分散液、及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20190722BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20190722BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H15/02
   C08J5/04CEP
   C08J5/04CER
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-536622(P2015-536622)
(86)(22)【出願日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2014074058
(87)【国際公開番号】WO2015037658
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年5月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-188801(P2013-188801)
(32)【優先日】2013年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 昌範
(72)【発明者】
【氏名】吉村 彰
(72)【発明者】
【氏名】天野 良彦
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−163773(JP,A)
【文献】 特開2011−208015(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/176033(WO,A1)
【文献】 特開2012−046848(JP,A)
【文献】 特開2012−180602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
C08J5/04−5/10
5/24
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料の強化繊維として用いるセルロースナノファイバーであって、
未修飾のセルロースからなり、
前記セルロースナノファイバーの平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下、平均繊維径が30nm以上50nm以下であることを特徴とするセルロースナノファイバー。
【請求項2】
繊維強化複合材料であって、
請求項1記載のセルロースナノファイバーを分散させることにより得られることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項3】
繊維強化複合材料の強化繊維として用いるセルロースナノファイバー水分散液であって、
未修飾のセルロースからなる平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下、平均繊維径が30nm以上50nm以下であるセルロースナノファイバーを水に分散させる
ことを特徴とするセルロースナノファイバー水分散液。
【請求項4】
繊維強化複合材料であって、
請求項3記載のセルロースナノファイバー水分散液を用いて製造することを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項5】
請求項1記載のセルロースナノファイバーの製造方法であって、
セルロース材料に少なくとも1回酵素及び/又は酸処理と、
少なくとも1回機械的せん断処理を行うことを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを水溶性ポリマー中に分散させ繊維強化複合材料を製造する際に、分散性の良いセルロースナノファイバー及び該セルロースナノファイバーを得る方法に関する。また、該セルロースナノファイバーを用いた繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、高強度で軽量であることから、航空機、自動車等の構造材料や、ゴルフシャフト、テニスラケット等のスポーツ用品、また、一般産業用途の成形用素材として広く用いられている。
【0003】
従来からセルロースナノファイバーは、繊維強化複合材料の補強材として、炭素繊維、ガラス繊維等とともに使用されている。
【0004】
炭素繊維やガラス繊維は、強化繊維として非常に優れた特性を有しているが製造に多くのエネルギーを必要とすることや、鉱物や化石燃料を材料としており、再利用が難しく、環境負荷が高いことが指摘されている。
【0005】
一方、セルロースナノファイバーは、他の強化繊維に比べても、優れた補強効果が得られるだけではなく、植物、あるいはバクテリア等に由来するセルロースから製造するため、製造時の環境負荷が小さく、また、ガラス繊維のように廃棄時に燃焼残渣が残らない等の利点がある。そのため、セルロースナノファイバーを強化繊維とする繊維強化複合材料が近年注目されている。
【0006】
セルロースナノファイバーは、ホモジナイザー等による機械的せん断(特許文献1)や、イオン液体を含む溶液で処理する(特許文献2)等、いくつかの方法により製造することができる。
【0007】
上記方法により製造されたセルロースナノファイバーを水に分散させた水分散液は、低濃度でも非常に高粘度で、水溶性ポリマーへの分散性が悪い。そのため、高濃度にセルロースをポリマーに混合する、いわゆる高濃度充填が容易ではなかった。そこで、セルロースナノファイバー表面の水酸基を修飾基で化学修飾したり、添加剤を加えることにより、水溶性ポリマー内での分散性を向上させる方法(特許文献2)がとられている。
【0008】
また、低濃度のセルロースナノファイバーの分散液を低濃度のポリマー溶液と混合した後、濃縮を行うことにより所望の強度を達成する方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−17592号公報
【特許文献2】特開2011−184816号公報
【特許文献3】特開2011−208293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、セルロースナノファイバーを化学修飾したり、低濃度の分散液をポリマー溶液と混合後、高濃度に濃縮する等の前処理工程は煩雑であることから、これら工程を必要としないセルロースナノファイバーが求められていた。
【0011】
そこで、重合度が小さく、短いセルロースナノファイバーを用いて、分散性の改善が図られたが、製造された複合体の強度が高くならないという問題点があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、補強材としての補強効果に優れたセルロースナノファイバーの特性は維持しつつ、化学修飾等の前処理工程を必要とせず、水への分散性が良く、水溶性ポリマーに高濃度で分散性良く含有させることのできるセルロースナノファイバーを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の繊維強化複合材料の強化繊維として用いるセルロースナノファイバーは、未修飾のセルロースからなり、前記セルロースナノファイバーの平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下、平均繊維径が30nm以上50nm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の平均重合度、アスペクト比のセルロースナノファイバーを用いて、繊維強化複合材料を製造することにより、未修飾のセルロースナノファイバーであっても高濃度で分散性良く水溶性ポリマーに含有できることから、高強度の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0015】
ここで、未修飾というのは、セルロースナノファイバーの水酸基をエーテル化剤、エステル化剤等により化学修飾をしていないことを意味する。本発明によれば、化学修飾を行わずとも、水への分散性が良く、水溶性ポリマーに高濃度で分散性良く含有させることのできるセルロースナノファイバーを得ることができる。したがって、従来に比べ少ない工程で分散性の良いセルロースナノファイバーを得ることができる。その結果、製造コストを削減することもできる。
【0021】
上記アスペクト比の範囲内であり、さらに、平均繊維径の範囲を30nm以上50nm以下のセルロースナノファイバーとすることにより、水溶性ポリマーへの均一な分散性を得ることができる。その結果として水溶性ポリマーへの補強効果が十分得られるため、成形品物性も向上する。また、セルロースナノファイバーの水溶性ポリマーへの分散性が均一であることから、透明性の高い成形品を製造することができる。
【0022】
また、繊維強化複合材料は、前記セルロースナノファイバーを水溶性ポリマーに分散させることにより得られることを特徴とする。
【0023】
本発明のセルロースナノファイバーは、上記のとおり水への分散性が良く、高濃度で分散性良く水溶性ポリマーと含有することができるので、強度の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0024】
本発明の繊維強化複合材料の強化繊維として用いるセルロースナノファイバーの水分散液は、未修飾のセルロースからなる平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下、平均繊維径が30nm以上50nm以下であるセルロースナノファイバーを水に分散させることを特徴とする。
【0025】
本発明の平均重合度、アスペクト比のセルロースナノファイバーを用いることにより、未修飾のセルロースナノファイバーであっても水に非常に分散性が良いことが本発明者らにより明らかにされた。
【0031】
上記範囲の平均繊維径のセルロースナノファイバーを用いることにより、水への分散性が高いセルロースナノファイバー水分散液が得られ、このセルロースナノファイバー水分散液を用いることで、引張強度等機械的特性の高い繊維強化複合材料を得ることができるからである。
【0032】
また、本発明の繊維強化複合材料は、前記セルロースナノファイバー水分散液を用いて製造することを特徴とする。
【0033】
本発明のセルロースナノファイバー水分散液は、分散性が高いために、高濃度にセルロースナノファイバーを充填することができるため、強度の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0034】
さらに、本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、セルロース材料に少なくとも1回酵素及び/又は酸処理と、少なくとも1回機械的せん断処理を行うことを特徴とする。
【0035】
酵素及び/又は酸処理、機械的せん断処理を施すことによって、繊維強化複合材料としたときの補強強化が十分でありながら、高濃度で分散性良く水溶性ポリマーに含有させることのできるセルロースナノファイバーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】セルロースナノファイバー製造工程を示す図。
図2】セルロースナノファイバーの光学顕微鏡写真像。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げながら詳細に説明する。
本発明のセルロースナノファイバーのセルロース原料としては、木材、綿花、竹、ケナフ、ジュート、アバカ、藁等の植物由来の原料や、酢酸菌等の微生物が製造するバクテリアセルロース、ホヤ等の動物由来のセルロース、布、古紙等、セルロースが多量に含まれているものであれば、どのようなものでも使用することができる。
【0038】
木材、綿花、竹、ケナフ、アバカ、藁等の植物資源や、酢酸菌等の微生物が製造するバクテリアセルロースは、資源として豊富に存在することから、好ましく用いることができる。
【0039】
また、木材、竹、ケナフ等の植物資源に由来する溶解パルプや微結晶セルロース粉末は、不純物がある程度除去されており、セルロースを高い割合で含むことから、安定して水への分散性が良いセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0040】
[セルロースナノファイバーの製造方法]
図1に示すように、本発明のセルロースナノファイバーは、セルロース原料を酸処理及び/又は酵素処理、機械的せん断処理を各々少なくとも1回行い、平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下、平均繊維径が30nm以上50nm以下のものを製造する。
【0041】
溶解パルプであれば、セルロース濃度1.0重量%以上2.0重量%以下になるように分散させ、以下の処理条件で、酸又は酵素処理を行う。
【0042】
酸処理を行う場合には、1.0N以上4.0N以下の塩酸、又は5vol%以上20vol%以下の硫酸を用い、セルロース原料を、これらの酸中に浸漬させて、30℃以上90℃以下で5分間以上120分間以下処理する。また、酵素処理を行う場合には、エンドグルカナーゼを含む酵素製剤を0.01g/L以上1.0g/L以下の濃度で用い、セルロース原料を、酵素製剤中に浸漬させて、20℃以上40℃以下で30分以上24時間以下処理を行う。また、酵素処理の後に酸処理を行うことも可能である。
【0043】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法において、酸処理及び/又は酵素処理は、複数回行うことが可能であり、1〜2回行うことが好ましく、製造コストの観点からは酸処理と酵素処理のいずれか1回を行うことがより好ましい。酸処理と酵素処理のいずれかを行う場合には、酸処理を行うことが好ましい。酸及び酵素処理を各一回行う場合には、処理液の調製しやすさや作業性の観点から、酵素処理を行った後に酸処理を行うことが好ましい。
【0044】
原料としては、日本製紙製の溶解パルプNSPPや結晶性セルロース粉末KCフロック等や、FMC製のアビセル等を好ましく用いることができる。
【0045】
酵素としてはエンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)を含むものを用いればよく、精製された酵素や酵素製剤の他、該酵素を含む微生物菌体の培養液や破砕液などの粗酵素溶液を利用することもできる。
【0046】
酵素製剤としては、明治製菓製のアクレモニウムセルラーゼやメイセラーゼ、ノボザイムズ製のセルソフトやセルクラスト、Novozyme476、洛東化成工業製のエンチロンCM等を好ましく用いることができる。
【0047】
いずれの場合も、用いるセルロース原料により処理時間を変える必要があるが、この段階でセルロースの平均重合度が1000以下程度になるまで処理を行う。次に、セルロース原料に対して、機械的せん断を行い、セルロースナノファイバーを得る。
【0048】
機械的せん断は、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ハンマー式微粉砕機、水流対向衝突分散機、水流対向衝突分散機、石臼式摩砕機、凍結摩砕機、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、ビーズミル、アトライター、グラインダー等、一般的にせん断処理に用いられる装置を使用することができる。
【0049】
ここでは、石臼式摩砕機(増幸産業製、マスコロイダーMKCA6−2)で機械的せん断を行っているが、上記いずれの装置を用いてもよい。
【0050】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法において、機械的せん断は、複数回行うことが可能であり、1〜2回行うことが好ましく、製造コストの観点からは1回行うことが好ましい。
【0051】
機械的せん断処理後に、吸引ろ過で、得られたセルロースファイバーから、酸又は酵素を除き、さらに蒸留水で数回、きれいに洗浄を行う。なお、ろ過、洗浄は、機械的せん断処理後に行っているが、酸又は酵素処理後に行っても良い。
【0052】
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−3400N)で5枚以上重複しない領域の画像を撮影し、1枚の画像あたり10本以上のセルロースナノファイバーの繊維径、繊維長を測定した。得られた繊維径と繊維長のデータから、平均繊維径及び平均繊維長を算出することができ、これらの値からアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を算出した。なお、本発明において、平均繊維長、平均繊維径、及び、アスペクト比は、本方法により算出される値として定義される。
【0053】
また、平均重合度は、TAPPI T230標準法(粘度法)により測定した。具体的には、セルロースナノファイバーを、0.5M銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて、その流出時間を測定し、粘度平均分子量を算出した。以上により得られた粘度平均分子量を、セルロースの構成単位であるグルコースの分子量で除して、平均重合度を算出した。なお、本発明において、平均重合度は、本方法により算出される値として定義される。
【0054】
以下で示す実施例1〜3及び、参考例1〜3のセルロースナノファイバーは、酸又は酵素処理、及び機械的せん断の程度を上述の範囲で調整して得られたものである。一方、比較例1、2のセルロースナノファイバーは、酸又は酵素処理、及び機械的せん断を上述の範囲で行わず、平均重合度の大きいもの(比較例1)、平均重合度の小さいもの(比較例2)を得ている。また、比較例4として、機械的せん断のみを行い繊維径の大きいセルロースナノファイバーを得ている。
【0055】
製造されたセルロースナノファイバーの光学顕微鏡写真を図2に示す。酵素処理のみ、機械的せん断のみでは、繊維径、繊維長ともに大きな繊維しか得られないのに対し、両方の工程を経て得られた本発明のセルロースナノファイバーは(実施例1)均一な繊維が得られている。
【0056】
また、平均重合度、アスペクト比が小さいセルロースナノファイバー(比較例2)は、酵素処理、機械的せん断工程を経ているために、均一な繊維は得られているが、繊維長等が本発明の好適な範囲とは異なっている。
【0057】
[繊維強化複合材料の評価]
本発明の平均重合度、アスペクト比、平均繊維径を満たすナノファイバー(実施例1〜)と、これら条件を満たさないナノファイバー(比較例1、2)、セルロースナノファイバーを入れないもの(比較例3)、機械的せん断処理のみを行ったもの(比較例4)を用いてフィルムを作製し、光透過率、引張強度の評価を行った。
【0058】
フィルムの作製は、ポリビニルアルコール水溶液に実施例1〜3、参考例1〜3及び、比較例1、2、4のセルロースナノファイバーを樹脂に対して5重量%になるように添加し、30分以上スターラーで撹拌する。得られたセルロースナノファイバー含有ポリビニルアルコール溶液をフィルムに成形し、乾燥させ、厚さ20μmのセルロースナノファイバーを含有するポリビニルアルコールフィルムを得た。
【0059】
分散液粘度は、各セルロースナノファイバー1wt%の水分散液をB型粘度計(東機産業(株)製、B型粘度計TV−10、粘度計プローブNo.2)を用い、回転数50rpm、測定温度20℃で測定した。なお、本発明において分散液粘度は、本方法により測定される値として定義される。
【0060】
得られたポリビニルアルコールフィルムの光透過率、引張強度を以下の方法で測定し、繊維強化複合材料の評価を行った。
【0061】
光透過率は、セルロースナノファイバー含有ポリビニルアルコールフィルムを分光光度計(日立製作所製、U3900)を用いて、600nmにおける透過率を測定した。
【0062】
引張強度は引張試験機(東洋精機製、STROGRAPH VE20D)を用い、30mmの試験片を用い、引張試験速度1mm/minで強度を測定した。
【0063】
分散度は、セルロースナノファイバー0.1重量%の水分散液100mlをメスシリンダーに入れ、24時間静置したときの沈降堆積を測定し、次式より算定した。
分散度(%)=沈降体積(ml)/分散液体積(ml)
分散度が大きいほど、分散性が良いことを示す。なお、本発明において、分散度は、本方法により算定される値として定義される。
表1に結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
本発明のセルロースナノファイバーは、いずれも水分散液の分散度が95.2%以上、水分散液粘度も150mPa・s以下と非常に分散性が良い。そのため作成したフィルムの光透過率も69.7%以上と透明性が高く、引張強度も54.8MPa以上と、機械的特性が優れたものを得ることができる。
【0066】
特に、実施例1〜で示すように、平均重合度300以下、アスペクト比550以下、平均繊維径35〜50nmのセルロースナノファイバーを用いることにより、水分散液粘度が150mPa・s以下、分散度が95.2%以上、作成したフィルムの光透過率も69.7%以上と透明性が高く、扱いが容易なセルロースナノファイバーを得ることができる。なお、分散液粘度は低ければ低いほど分散性が良いことから、下限値は水の分散液粘度である、1.5mPa・s程度にまで近づくことが望ましい。
【0067】
一方、比較例1で示すように、平均重合度が高く、アスペクト比の大きいセルロースナノファイバーを用いた場合には、水分散液粘度が非常に高く、分散度の低い水分散液しか得られず、その結果作成したフィルムは光透過率が低く、引張強度の低いものとなっている。これは、セルロースナノファイバーの分散性が低いため、均一に水溶性ポリマーに分散させることができないためであると考えられる。
【0068】
また、比較例2で示すように、平均重合度が100未満と重合度が小さく、アスペクト比の非常に小さいセルロースナノファイバーを用いた場合には、分散性は良いものの、引張強度が50MPaに達せず、フィルムを作成した際に十分な引張強度を得ることができない。
【0069】
また、平均重合度が800を超えると、分散液粘度が高くなるために、やはり引張強度が50MPaに達するものが製造できない。繊維のアスペクト比が150以上であれば強化繊維として十分な補強効果を発現し、フィルムを作成した際に50MPaを超える引張強度を得ることができるが、アスペクト比が2000を超えると分散液粘度が極端に高くなるために、引張強度が50MPaに達するものを製造することができない。
【0071】
また、セルロースナノファイバーは、平均重合度が120以上300以下、アスペクト比が150以上600以下であることがより好ましい。この範囲のセルロースナノファイバーを用いると、引張強度がほぼ55MPaを超えるものとなり、非常に強度の高いものを得ることが製造できる。
【0072】
さらに、セルロースナノファイバーは、平均重合度が120以上180以下、アスペクト比が150以上250以下であることが好ましい。本発明のセルロースナノファイバーは、これらの範囲の平均重合度及びアスペクト比を有することで、溶媒への分散度が97%程度と非常に高くなる。また、これらの範囲のセルロースナノファイバーを用いた繊維強化複合材料は、特に優れた引張強度及び光透過性を有する。
【0073】
また、本発明のセルロースナノファイバーは、平均繊維径が30nm以上50nm以下である。平均繊維径は、アスペクト比とも密接に関連するが、この範囲の平均繊維径であって、上記アスペクト比を満たすものであれば、分散性が良く、引張強度の高い複合材料を得ることができる。
【0074】
次に、水溶性ポリマーに対して加えるセルロースナノファイバーの量を変えて、フィルムを作成し、フィルムの光透過率と引張強度を測定した。
【0075】
ポリビニルアルコール水溶液に、実施例3で用いたセルロースナノファイバーをポリビニルアルコールに対して5重量%以上25重量%以下になるように添加し、30分以上スターラーで撹拌する。得られたセルロースナノファイバー含有ポリビニルアルコール溶液をフィルムに成形し、乾燥させ、厚さ20μmのセルロースナノファイバーを含有するポリビニルアルコールフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、水溶性ポリマーに添加するセルロースナノファイバーを10重量%まで増加すると、引張強度が62.4MPaと非常に強いフィルムを得ることができる。さらにセルロースナノファイバーを添加すると、引張強度は低下していく。これは、添加するセルロースナノファイバーの量が増加するにしたがって、水溶性ポリマーにセルロースナノファイバーが均一に分散せず、結果として強度が下がるためだと思われる。
【0078】
添加するセルロースナノファイバーの平均重合度、アスペクト比によって、作成するフィルムに最大の引張強度を与える量は異なるが、平均重合度300、アスペクト比550程度のセルロースナノファイバーであれば、水溶性ポリマーに対して5重量%以上20重量%以下程度の量を添加することにより光透過率、引張強度ともに高いフィルムを作成することができる。
【0079】
本発明の繊維強化複合材料は、繊維強化複合材料に対して2重量%以上20重量%以下の本発明のセルロースナノファイバーが分散することにより得られるものであることが好ましく、繊維強化複合材料に対して8重量%以上16重量%以下の本発明のセルロースナノファイバーが分散することにより得られるものであることが好ましい。本発明のセルロースナノファイバーがこれらの範囲で繊維強化複合材料中に分散されることで、繊維強化複合材料中は特に優れた引張強度を有する。
図1
図2