(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、搬送ローラーまたはタッチローラーとして溝付ローラーを用いた場合、次のような問題が起こる。
(1)溝によって形成されウェブに接触する凸部の両縁において、ウェブが強く帯電し放電現象が起こる。
(2)溝によって形成されウェブに接触する凸部の両縁において、ウェブにキズが入る。
【0009】
また、スイーパーローラーにおいても、ローラー表面に溝が形成されているため、凸部両縁においてフィルムにキズが入ってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、凸部両縁においてもウェブやシートに帯電やキズを発生させることの無い溝付ローラーを提供する。さらに、本発明はこの溝付ローラーを用いたプラスチックフィルムの製造装置および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の第一の溝付ローラーは、
表面に溝が形成され、
前記溝はローラー円周方向に沿う一条以上の螺旋溝またはローラー円周方向に沿う複数のリング状溝であり、
前記溝と溝とに挟まれた凸部は、ローラーの中心軸を通りこの中心軸に垂直な方向から凸部に向かって照射された直進光により、凸部の影がこの凸部を挟む溝のそれぞれに投影される形状である。
【0012】
また、本発明の第二の溝付ローラーは、
表面に溝が形成され、
前記溝はローラー円周方向に沿う一条以上の螺旋溝またはローラー円周方向に沿う複数のリング状溝であり、
前記溝と溝とに挟まれた凸部は、中央部と、この中央部を挟み中央部より相対的に縦弾性係数の低い側面部とで構成されており、
前記中央部は、前記側面部が無い状態で、ローラーの中心軸を通りこの中心軸に垂直な方向から中央部に向かって照射された直進光により、中央部の影がこの中央部を挟む溝のそれぞれに投影される形状である。
【0013】
また、本発明のウェブロール体の製造装置は、ウェブを搬送する複数の搬送ローラーとウェブをロール状に巻き取る巻取装置を備え、前記搬送ローラー、前記巻取り装置で巻き取られるウェブロール体に対して圧接するタッチローラーおよびウェブを一対のローラーで挟圧するニップローラーからなる群より選ばれる少なくとも一つのローラーが本発明の第一または第二の溝付ローラーである。
【0014】
また、本発明のプラスチックフィルムの製造装置は、Tダイ、冷却ローラーおよびスイーパーローラーを備え、前記スイーパーローラーとしてローラー円周方向に沿う一条以上の螺旋溝が形成された本発明の第一または第二の溝付ローラーを用いている。
【0015】
また、本発明のプラスチックフィルムの製造方法は、本発明のプラスチックフィルムの製造装置を用い、前記Tダイから溶融樹脂を吐出し、前記冷却ローラーに前記溶融樹脂を接触させて冷却固化し、前記融樹脂が冷却ローラーに接触してから離れるまでの間に、前記溶融樹脂または冷却固化されたプラスチックフィルムに前記スイーパーローラーを接触させる。
【0016】
本発明において「螺旋溝」とは、たとえば
図1に示すように溝の長手方向がローラー回転軸およびローラー回転方向に対して平行でない溝である。螺旋溝は必ずしも円周を1周していなくともよく、途中で方向が変わっていてもよく、溝がローラー軸方向の端から他端まで繋がっていなくともよい。
【0017】
本発明において「リング状溝」とは、
図5に示すように溝がローラー回転方向に対して平行であり、環状に繋がっている溝である。
【0018】
本発明において「搬送ローラー」とは、回転によってウェブをウェブの長手方向に搬送するローラーである。ウェブを幅方向に拡幅しながら搬送する拡幅ローラーも搬送ローラーに含まれる。
【0019】
本発明において「タッチローラー」とは、ウェブの巻取装置において、巻取中のウェブロールに接触しながら回転するローラーである。
【0020】
本発明において「ニップローラー」とは、搬送中のウェブを一対のローラーで挟圧するローラーのうち、どちらか一方のローラーである。
【0021】
本発明において「スイーパーローラー」とは、Tダイから溶融樹脂を吐出し、冷却ローラーに溶融樹脂を接触させて冷却固化しプラスチックフィルムとするプラスチックフィルムの製造方法において、溶融樹脂が冷却ローラーに接触してから離れるまでの間に、溶融樹脂またはフィルムに接触するローラーである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、以下に説明するとおり、凸部両縁においてもウェブやシートに帯電やキズを発生させることの無い溝付ローラーを提供できる。さらに、本発明の溝付ローラーを用いたプラスチックフィルムの製造装置および製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の第一の溝付ローラーの一実施形態を示す概略平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一の溝付ローラーの溝および凸部の形状の概略断面図であり、さらに凸部に直進光を照射した様子を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一の溝付ローラーの、無負荷状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一の溝付ローラーの、加圧状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第一の溝付ローラーの別の実施形態を示す概略平面図である。
【
図6】
図6は、本発明のプラスチックフィルムの製造装置を示す概略側面図である。
【
図7】
図7は、本発明のウェブロール体の製造装置を示す概略側面図である。
【
図8】
図8は、拡幅ローラーとして用いた従来の溝付ローラーの概略正面図である。
【
図9】
図9は、拡幅ローラーとして用いた本発明の第一の溝付ローラーの溝及び凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図10】
図10は、拡幅ローラーとして用いた本発明の第一の溝付ローラーの、無負荷状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図11】
図11は、拡幅ローラーとして用いた本発明の第一の溝付ローラーの、加圧状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図12】
図12は、従来の溝付ローラーの、無負荷状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図13】
図13は、従来の溝付ローラーの、加圧状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図14】
図14は、拡幅ローラーとして用いた従来の溝付ローラーの、無負荷状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図15】
図15は、拡幅ローラーとして用いた従来の溝付拡幅ローラーの、加圧状態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第一の溝付ローラーの別の実施形態を示す概略断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第一の溝付ローラーの溝および凸部形状の一例を示す概略断面図である。
【
図18】
図18は、従来の溝付ローラーの溝および凸部形状の一例を示す概略断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の第一の溝付ローラーの凸部に、放射状成分を含む光を照射した様子を示す概略図である。
【
図20】
図20は、本発明の第二の溝付ローラーの凸部の形状を示す概略断面図である。
【
図21】
図21は、本発明の第二の溝付ローラーの別の実施形態における凸部の形状を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[第一の溝付ローラー]
図1は本発明の第一の溝付ローラーの一実施形態を示す概略平面図である。
図1に示すように、溝付ローラー1は軸11の外周にゴム12が被覆され、溝13がゴム12の表面に設けられている。
【0026】
軸11の構造としては、以下のような構造が例示できる。
(1)
図1に示すような単純な中空ローラー状、すなわち、中空円筒体16の端部に軸受け14によって支持するためのジャーナル部17を備えた構造。この構造のローラーは、ローラーの製作コストや重量を抑えることができる。
(2) 内部に熱媒を流通させるための流路を設けた構造。この構造のローラーは、ローラーの表面温度を制御することができるので、冷却や加熱を要する工程に用いることができる。
(3) 中軸と外筒部材とを軸受けを介して同心上に連結した構造。この構造のローラーは、中軸をモーターなどで駆動(テンデンシー駆動)することで、メカロスの小さな従動ローラーとすることができる。
(4)
図16に示すような同心上に設けられた中軸131と外筒部材132を軸方向中央部のみで連結させた二重管構造。この構造のローラーは、ニップローラーやタッチローラーとして使用した際に、相手ローラーやウェブロールと同じ方向に外筒部材132が撓むため、軸方向で均一な圧力を得ることができる。
(5) 外筒部材両端に軸受けを介してジャーナル部を備え、ジャーナル部に曲げモーメントを加えることで、外筒部材のたわみを制御するベンド構造。この構造のローラーは、ベンド機構によって外筒部材を相手ローラーやフィルムロールと同じ方向に撓ませることで、軸方向で均一な圧力を得ることができる。
【0027】
軸11の材質は一般的な機械構造材料から適宜選択でき、たとえば鋼やステンレス、アルミニウム、繊維強化樹脂などが好ましく用いられる。
【0028】
ゴム12の種類は特に限定されず、たとえば天然ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、フッ素ゴム、およびこれらの混合物、さらにはこれらに充填材を含む各種添加剤を混合したものから、使用環境や樹脂の特性などに合わせて適宜選択し用いることができる。たとえば、スイーパーローラーのように外部から熱を受ける用途である場合には、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、フッ素ゴムといった非ジエン系ゴムを主成分とするゴムを用いることが好ましく、シリコーンゴムを用いることが特に好ましい。非ジエン系ゴムは耐熱老化性に優れるため、加熱環境下でもゴム弾性を維持することができ、長期にわたり本発明の効果を維持することができる。特にシリコーンゴムは耐熱老化性に優れ、また、加熱により溶融または軟化した樹脂に対しての離型性にも優れるため、好適である。また、静電気印加装置などのオゾン発生源が付近に設置されている場合には、耐オゾン性に優れるエチレンプロピレンゴムなどが好適に用いられる。
【0029】
ゴム12の表面には摩擦係数の調整や離型性の付与、耐摩耗性の向上を目的とした各種表面処理、たとえば薬液処理やコーティング、スパッタリングなどが施されていてもよい。
【0030】
ゴム12のゴム硬度は特に限定されないが、一般的なゴムの製造可能範囲としてHs30〜90JISA(JIS K 6301:1995)の中から要求性能に合わせて適宜選択し用いることができる。また、圧力の分散性の観点からさらに低硬度(Hs30JISA以下)のゴムを必要とする場合には、ゴムをスポンジ状としたものが好適に用いられる。
【0031】
軸11にゴム12を被覆する方法としては、種々の手法の中から適宜選択することができる。たとえば軸の表面に接着材を塗布し、未加硫のゴムシートを巻き付けたのち、熱と圧力を加えて加硫、成型する方法や、あらかじめ円筒状に加硫成型したゴムに軸をはめ込んで接着する方法などである。
【0032】
ゴム12の表面には少なくとも1条の螺旋溝13、または
図5に示すような複数のリング状溝51が設けられている。螺旋溝であれば最少で1回の加工によってローラーの全周に溝加工ができるため加工コストの面で好ましい。ウェブのスリットに用いられる受け刃ローラーのように、回転方向に環状に溝が繋がっている必要がある場合にはリング状溝が好ましく用いられる。螺旋溝13の条数、すなわち溝付ローラー1の半径方向断面における溝の数は溝付ローラーの用途や溝によって実現させたい機能によって適宜設定することができる。また、複数の螺旋溝13が互いに交差していてもよい。たとえば、
図8のような拡幅ローラーの場合、大きな拡幅量を得るために溝のリード角θは0°に近いほど好ましいため、溝の条数としては1条または2条が好ましく用いられる。巻取装置に用いられるタッチローラーの場合は、リード角θが小さいと溝にウェブが落ち込み、シワを誘発するため、リード角θを大きくするために5条以上の多条が好ましく用いられる。
【0033】
図2に本発明の第一の溝付ローラーの溝および凸部の断面形状の一例を示す。溝付ローラー1の表面には、溝13と、溝と溝とに挟まれた凸部15とが形成されている。凸部15は、ローラーの中心軸Oを通りこの中心軸に垂直な方向から凸部に向かって照射された直進光Sにより、凸部15の影21がこの凸部15を挟む溝13のそれぞれに投影される形状となっている。直進光Sとは
図2に示すように点状または溝13と平行に伸びる線状の光源Pから、ローラー回転軸中心Oに向かってまっすぐに最短距離を進む仮想的な光である。直進光Sには、光源Pからローラー回転軸中心に向かわない
図19に示すような放射成分Dは含まない。言い換えると、溝13の両側面は、この溝13を挟む2つの凸部15表面の縁間の中心とローラー回転軸中心Oとを通る線Nから遠ざかる部分をそれぞれ備えている。このような溝形状により、凸部15両縁において、ウェブに帯電やキズが発生することを防止できる。
【0034】
溝付ローラー1の凸部15の断面形状は、
図2に例示したようなローラー表面からローラー中心部に向かって凸部の幅が徐々に狭くなるような形状に限られず、例えばローラー表面からローラー中心部に向かって凸部の幅が一旦狭くなり再び広がるような形状であってよい。このような凸部の幅が一旦狭くなり再び広がるような形状であっても、「溝と溝とに挟まれた凸部が、ローラーの中心軸Oを通りこの中心軸に垂直な方向から凸部に向かって照射された直進光Sにより、凸部の影がこの凸部を挟む溝のそれぞれに投影される形状」であるので、本発明の効果を奏することができる。いずれにせよ、本発明の溝付ローラーは「溝と溝とに挟まれた凸部が、ローラーの中心軸Oを通りこの中心軸に垂直な方向から凸部に向かって照射された直進光Sにより、凸部の影がこの凸部を挟む溝のそれぞれに投影される形状」であればよい。
【0035】
図12は、従来の代表的な溝形状の溝付ローラーの表面部分の概略断面図である。
図13は、
図12の凸部分に圧力が加わった様子を示す概略図である。従来の代表的な形状の溝付ローラーに、ウェブの張力やウェブロールに対する接圧といった圧力が加わると、凸部両縁において局所的に圧力が増大し、ウェブに帯電やキズが発生する。本発明者らは、この圧力の増大は、
図13に示すように、圧力によって凸部が弾性変形し、凸部両縁が盛り上がることに起因することを見出した。
【0036】
図14は、一般的な溝付拡幅ローラーの表面部分の概略断面図である。一般的な溝付拡幅ローラーでは、圧力によって凸部が倒れ、
図15に示すように変形するため、倒れ方向とは逆側の縁がウェブに強くあたる。そのため、
図12の形状の溝付ローラーと同様に帯電やキズが発生する。
【0037】
図3は、本発明の第一の溝付ローラーの表面部分の概略断面図である。
図4は、本発明の第一の溝付ローラーの凸部に圧力が加わった様子を示す概略図である。
図2に示すように凸部15がローラーの中心軸Oを通りこの中心軸Oに垂直な方向から凸部に向かって照射された直進光Sにより、凸部15の影21がこの凸部15を挟む溝13のそれぞれに投影される形状であれば、凸部は
図3から
図4のように凸部両縁が垂れ下がるように変形する。これにより、凸部両縁での圧力の増大を解消し、ひいては帯電やキズを防止することができる。また、溝付拡幅ローラーにおいても、上記の通り
図9に示す凸部形状とすることにより、
図10から
図11のように変形するため同様の効果を得ることができる。
【0038】
本発明の溝付ローラーの凸部形状を得る方法は、次の方法が例示できる。溝13の断面形状が左右対称の場合であれば、溝13の幅方向中央とローラー回転中心を通る法線Nを軸として溝断面形状を回転させて得られる形状のリューター(砥石)を製作してゴム12を研削加工すればよい。溝13の断面形状が左右非対称や複雑な形状であれば、溝断面形状と同じ形状に加工された金属ワイヤーに通電したもので溶断加工すればよい。
【0039】
[第二の溝付ローラー]
図20、21は、本発明の第二の溝付ローラーの凸部の形状を示す概略断面図である。第二の溝付ローラーは、凸部15が中央部18とこの中央部18をはさみ中央部18よりも相対的に縦弾性係数の低い側面部19とで構成されている。そして、仮に側面部19を無くした状態で、中央部18の形状が、ローラーの中心軸Oを通りこの中心軸に垂直な方向から中央部18に向かって照射された直進光Sにより、中央部18の影がこの中央部を挟む溝のそれぞれに投影される形状となっている。側面部19の縦弾性係数が中央部18よりも低いので、中央部18の変形が側面部19に妨げられることがない。そのため、凸部15に圧力が加わったときの中央部18の変形の様子は、あたかも第一の溝付ロールの凸部15と同じ状態となるので、ウェブに帯電やキズが発生することを防止できる。そのうえ、中央部18の両側面の凹んでいる部分に側面部19が充填されているので、溝の清掃が容易に行えるようになる。その結果、たとえば低分子量物などのコンタミが溝部13に溜まって、その後脱落や飛散することによる工程や製品の汚染を防止しやすくなる。側面部19は、
図20に示すように溝部13の底面でつながっていなくとも、
図21に示すように溝部13の底面でつながっていてもよい。側面部19が溝部13の底面でつながっていれば、側面部19を防汚性の材質とすることで、さらに容易に溝部13の清掃を行うことができ、汚染も防止しやすくなる。
【0040】
第二の溝付ロールに備えられる、中央部18と側面部19とで異なる材質である凸部15を得る方法としては、あらかじめ前述の凸部を得る方法で中央部18を得た後、溝部13に中央部18よりも縦弾性係数の低いゴムを充填して加硫し、再び溝部20を研削など公知の加工方法にて加工する方法が挙げられる。
【0041】
[ウェブロール体の製造装置]
図7は本発明のウェブロール体の製造装置の一実施形態を示す概略側面図である。図示しない前工程(たとえば延伸工程やコーティング工程、巻出工程など)から搬送されたウェブ2は、搬送部74で所定の搬送張力に制御され、トリミング部75で不要なエッジ(耳)部分73をトリミング、および/または所定の製品の幅にスリット(裁断)されたのち、巻取部76でロール状に巻き取られる。
【0042】
各部で用いられる搬送ローラー5は、モーターによって回転駆動される駆動ローラーや、ウェブ2からの摩擦力により連れ回る従動ローラーや、テンデンシー駆動と呼ばれる間接駆動方式で回転するローラーなどがある。駆動ローラーは、摩擦力によってウェブ2の張力を制御したり、搬送速度を決定する。駆動ローラーでウェブ2の張力を制御したり搬送速度を決定するにはウェブ2との摩擦力が不可欠であるが、ウェブ2と搬送ローラー5の間に空気が噛み込まれるために摩擦力を確保することが難しい場合がある。従動ローラーでも空気の噛み込みによる摩擦力不足により、回転不良となる場合がある。噛み込んだ空気を逃がし、摩擦力を確保する手段の一つとして一般的に溝付ローラーが用いられている。前述の通り、搬送ローラー5に従来の溝付ローラーを使用すると、凸部の縁で圧力が増大するため、圧力が増大した部分でウェブ2が帯電したりキズになったりする。これらの問題を解消できるので、搬送ローラー5に本発明の溝付ローラー1を用いるのが好ましい。
【0043】
摩擦力を確保するもう一つの手段として、一対のローラーでウェブ2を挟圧するニップローラー6を用いる場合がある。ニップローラー6を用いることで、ウェブとローラーの間の空気が排除されるとともに、挟圧力によって摩擦力が確保される。しかし、排除された空気は挟圧部でせき止められているにすぎないため、挟圧部の手前のウェブ2とローラー5の間に空気溜まりが生じ、これが原因でウェブ2にシワが発生する場合があり、特に薄く剛性の低いウェブで顕著である。これを防止する手段の一つとして溝付ローラーをニップローラー6として使用する場合がある。このニップローラー6として、本発明の溝付ローラーを使用することが好ましい。本発明の溝付ローラーを使用することにより、従来の溝付ローラーで発生するウェブ2の帯電やキズを防止することができる。特に、薄く剛性の低いウェブを搬送する場合には、本発明の溝付ローラーは好適である。
【0044】
また、搬送ローラー5の一つにウェブのシワを伸ばしたり、ウェブを幅方向に裁断後、裁断したウェブ同士が重なるのを防ぐために幅方向に移動させたりするための拡幅ローラーがある。溝付ローラータイプの拡幅ローラーとしては
図8に示すような傾斜溝ローラー8が一般的である。しかし、前述のとおり傾斜溝によって凸部が倒れ変形することで凸部縁部がウェブに強くあたり、ウェブに帯電やキズといった不具合を引き起こす場合がある。この拡幅ローラー8に
図9および
図10に示すような凸部形状を備えた本発明の溝付ローラーを使用するのが好ましい。本発明の溝付ローラーであれば、
図11のように凸部は変形するため帯電やキズを防止することができる。
【0045】
巻取部76においては、巻き取られるウェブロール体3のフィルム層間の空気量を調整し、シワやブロッキングなどを防止するためにタッチローラーやコンタクトローラーと呼ばれるウェブロール体3に当接するローラー4が用いられる。そして、特に空気を多くウェブ層間に巻き込ませる目的で溝付ローラーがタッチローラー(コンタクトローラー)4に用いられる。また、上記傾斜溝タイプの拡幅ローラー8をタッチローラー(コンタクトローラー)4として用いることも一般的である。この溝付タッチローラーとして本発明の溝付ローラー1を使用することが、ニップローラー6に適用する際と同様の理由から好ましい。
【0046】
このように、本発明のウェブロール体の製造装置を用いることで、帯電と帯電による放電痕などの欠点およびキズの無いウェブロール体を得ることができる。
【0047】
[プラスチックフィルムの製造装置]
図6は本発明のプラスチックフィルムの製造装置の一実施形態を示す概略側面図である。本発明におけるプラスチックフィルムの製造装置では、
図6に示すようにTダイから吐出された溶融樹脂62を冷却ローラー64で冷却、固化しフィルム7を得る。
【0048】
次いで必要に応じ、延伸工程にてフィルム7を長手方向または/および幅方向に延伸し、スリット工程にて裁断、もしくはエッジのトリミングを行い、巻取り工程にてロール状に巻取り、フィルムロール9を得る。その後、必要に応じ再びスリット工程やその他の加工工程を経て製品ロールを得る。
【0049】
Tダイ63は図示しない押出機によって溶融混練され、送られてきた溶融樹脂62を、図面に対し奥行き方向に設けられたスリットから連続的に吐出することにより、溶融樹脂62をシート状に押し出す。
【0050】
溶融樹脂62は特に限定されないが、フィルム7の用途によってたとえばポリエステルやポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂などの樹脂およびこれら樹脂に各種添加剤を加えたものや、これらを積層したものを用いることができる。
【0051】
冷却ローラー64は例えば内部に冷媒を流通させる流路を有し、表面温度を制御することができる構造のものが用いられる。
【0052】
冷却ローラー64の表面の材質は特に限定されないが、金属、セラミックス、樹脂、樹脂と金属の複合膜、さらにはダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系被膜を用いることができる。冷却ローラー64の表面形状はキャスト工程の速度やフィルム7の厚み、溶融樹脂62および冷却ローラー64の温度などによって適宜設定される。
【0053】
[スイーパーローラー]
スイーパーローラー10は、溶融樹脂62が冷却ローラー64に接触してから離れるまでの間に溶融樹脂62(または冷却固化されたフィルム7)に接触し、冷却ローラー64とともに溶融樹脂62(フィルム7)を挟圧する。溶融樹脂62から揮発し、冷却ローラー64に付着したオリゴマーや添加剤などの汚れは、連続的かつ品質に影響しない程度に少量ずつフィルム7に持ち去られる。こうすることで、汚れによって冷却ローラー64の冷却能力が低下したり、堆積した汚れが一度に剥がれてフィルム7に付着したりすることを防止できる。
【0054】
スイーパーローラー10を冷却ローラー64に向かって押圧させる手段は特に限定されないが、容易に押圧力を変更できる等の利便性から空気圧力を用いたエアシリンダーが好ましく用いられる。フィルム7の種類や厚み、キャスト工程の速度や冷却ローラー64の温度などによって、スイーパーローラー10を溶融樹脂62に接触させる適切な位置は異なるので、スイーパーローラー10は、溶融樹脂62との接触位置を変更できる構成となっていることが好ましい。接触位置と、溶融樹脂62と冷却ローラー64の接触点との距離を適切な距離に変更することにより、冷却ローラー64やスイーパーローラー10の表面形状が溶融樹脂62(フィルム7)に転写することを防いだり、冷却ローラー64の表面の汚れを十分に溶融樹脂62(フィルム7)に転写できる。スイーパーローラーの押圧力は溶融樹脂64(フィルム7)の種類や厚みによって異なるが、10〜500N/mの範囲が好ましく用いられる。押圧力がこの範囲であれば、過剰な押圧力によるフィルム7のキズの発生を防止しつつ、冷却ローラー64上の汚れを溶融樹脂62(フィルム7)に容易に転写できる。
【0055】
本発明のプラスチックフィルムの製造装置におけるスイーパーローラー10は、ローラー円周方向に沿う一条以上の螺旋溝13が形成された本発明の溝付ローラー1である。
【0056】
スイーパーローラー10に適用する溝付ローラー(以下、スイーパーローラーと称す)の軸の構造としては、以下のような構造が例示できる。
(1)
図1に示すような単純な中空ローラー状の構造。この構造のローラーは、軸の製造コストを抑えることができる
(2) 軸の内部に冷却用の冷媒を流通させる流路を設けた構造。この構造のローラーは、ローラー表面に高温の樹脂が接触したとしても、ゴム12の温度を一定以下に保つことができるため、ゴム12の熱による劣化を抑制することができる。
(3)
図16に示すような二重管の構造。この構造のローラーは、冷却ローラー64との軸方向の圧力分布をフラットにできる。また、外筒部材162が冷却ローラー64と同一方向に撓むため、溶融樹脂64(フィルム7)に対する圧力をローラー軸方向に渡ってフラットにすることができる。その結果、圧力の偏りにより局所的に圧力が過大となって後述のスイーパーマークが発生、悪化することを抑制することができる。
(4) 軸11を単純な中空ローラー状とし外周に被覆されるゴム13の外径をクラウン状とした構造。この構造のローラーは、二重管の構造のローラーと同様な効果が期待できる。
【0057】
軸11の材質は一般的な機械構造材料から適宜選択でき、たとえば鋼やステンレス、アルミニウム、繊維強化樹脂などが好ましく用いられる。
【0058】
スイーパーローラー10のゴム12の種類は特に限定されず、たとえば天然ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、フッ素ゴム、およびこれらの混合物、さらにはこれらに充填材を含む各種添加剤を混合したものから、使用環境や樹脂の特性等に合わせて適宜選択し用いることができる。たとえば、溶融樹脂64(フィルム7)に粘着性があったり、高温であったりする場合には離型性と耐熱性に優れるシリコーンゴムを主成分とするゴムが好ましく用いられる。静電気印加装置などのオゾン発生源が付近に設置されている場合には、耐オゾン性にすぐれるエチレンプロピレンゴムなどが好適に用いられる。
【0059】
ゴム12のゴム硬度は特に限定されないが、一般的なゴムの製造可能範囲としてHs30〜90JISA(JIS K 6301:1995)の中から、要求性能に合わせて適宜選択し用いることができる。たとえば、スイーパーマークの発生しやすいフィルムであったり、フィルム幅が広い場合には、圧力の分散性が重要となるため、低硬度(Hs30〜60JISA)のゴムが好ましく用いられる。一方、フィルムの幅が狭い場合やゴム12の耐久性が重視される場合には高硬度(Hs60〜90JISA)のゴムが好ましく用いられる。また、圧力の分散性の観点からさらに低硬度(Hs30JISA以下)のゴムを必要とする場合には、ゴムをスポンジ状としたものが好適に用いられる。
【0060】
スイーパーマークとは、スイーパーローラー10の表面の溝パターンが製品フィルムに転写してしまう欠点である。スイーパーマークは次の2つの形態に分類できる。
(1) スイーパーローラー10の表面の溝が形成されていない部分(凸部)で冷却ローラーの汚れがフィルムに転写され、溝部では汚れが転写されないことによって起こる汚れの有無による明暗。
(2) 接触部での圧力によって、冷却ローラー64やスイーパーローラー10の表面形状が転写することなどが原因となって発生するキズ。
【0061】
図12に示すような従来の凸部形状を備える溝付ローラーをスイーパーローラー10として用いた場合、キズによるスイーパーマークが凸部両縁に強く発生する。スイーパーローラー10として本発明の溝付ローラーを用いることで、凸部両縁の圧力上昇を解消することができるため、キズによるスイーパーマークの発生を防止できる。
【実施例】
【0062】
(実施例)
図6に示すプラスチックフィルムの製造装置を用いた。Tダイ63からポリプロピレンを単種単層構成にて吐出し、50m/minの速度で回転する外径900mmの冷却ローラー64にて冷却固化し、厚み100μmのポリプロピレンフィルムとし、ワインダーにて巻取り、フィルムロール9を得た。スイーパーローラー10は
図1に示す構造とした。炭素鋼からなる軸11にゴム硬度がHs40JISAのシリコーンゴム12を15mmの厚さRtで被覆し、外径は230mmとした。スイーパーローラー表面には2条の螺旋溝を設けた。設けた溝の形状は
図17に示す通りであり、凸部幅Pwは30mm、溝幅Gwは30mm、溝底幅Bwは40mm、溝深さGdは10mmとした。得られたフィルムを目視で観察しスイーパーマークの有無を確認したところ、スイーパーマークの発生を確認できなかった。
【0063】
(比較例)
スイーパーローラー表面に設けた溝を
図18に示す形状とし、凸部幅Pwは30mm、溝幅Gwは30mm、溝深さGdは10mmとした以外は、実施例1と同じ装置および条件にて製膜し、フィルムロール9を得た。得られたフィルムを目視で観察しスイーパーマークの有無を確認したところ、凸部の両縁が接触する部分でキズによるスイーパーマークが発生していた。