(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551244
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】車載用制御システム
(51)【国際特許分類】
G06F 8/654 20180101AFI20190722BHJP
【FI】
G06F8/654
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-5228(P2016-5228)
(22)【出願日】2016年1月14日
(65)【公開番号】特開2017-126202(P2017-126202A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】谷口 知弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 真也
【審査官】
福西 章人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/194652(WO,A1)
【文献】
特開2010−258990(JP,A)
【文献】
特開2013−151222(JP,A)
【文献】
特開2015−099692(JP,A)
【文献】
特開2000−339551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 8/00−8/77
G06F 9/44−9/455
B60R 16/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載され、いずれもがそれぞれ有する更新可能なプログラムに基づいて動作する、少なくとも一つの制御装置と、
車載され、前記制御装置の前記プログラムを更新する更新プログラムを送信する更新プログラム送信装置と、
前記更新プログラム送信装置に接続され、前記更新プログラムを送信する送信線と、
全ての前記制御装置同士を接続し、前記更新プログラムを受信する受信線と、
前記送信線と前記受信線との間に接続され、前記更新プログラムを中継する中継器を有して車載される中継装置と、
車載される電源と、
前記電源から全ての前記制御装置及び前記更新プログラム送信装置へ給電し、前記更新プログラム送信装置から前記制御装置へと前記更新プログラムの伝達も行う給電線と
を備える車載用制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の車載用制御システムであって、
前記給電線において、前記制御装置の少なくとも一つと前記電源との間に設けられるノーマリーオフ型のスイッチ
を更に備え、
前記中継装置は、
前記更新プログラム送信装置からの前記更新プログラムの送信が検知されると前記スイッチを導通させる駆動信号を出力する駆動線
を更に備える車載用制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の車載用制御システムであって、
前記電源に接続された一端と、前記駆動線に接続された他端とを有するコイル
を更に備え、
前記駆動信号が活性化することによって前記コイルに通電され、前記コイルへの通電によって前記スイッチが導通する車載用制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車載用制御システムに関し、特に制御装置のプログラムを更新する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載される制御装置としては、例えばECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)が公知である。そしてECUはプログラムに基づいて動作するところ、このプログラムを更新する技術も公知である。
【0003】
例えば特許文献1ではゲートウェイを介してプログラムの更新を行う技術が紹介されている。そしてその更新のためのデータ転送処理において、ゲートウェイでの処理速度を改善する方法が提案されている。
【0004】
図4は従来のプログラムの更新を示す模式図である。ECU30は、ECU31,32,33,…のプログラムを更新する機能を担う。ゲートウェイ2は中継器24を有しており、信号線41,42の間での信号の授受を中継する。ECU30が送信する更新用のプログラム(以下「更新プログラム」と称す)は信号C4として信号線41,中継器24、信号線42を経由して、ECU31,32,33,…に伝達される。
【0005】
図5は他の従来の(例えば特許文献1参照)、プログラムの更新を示す模式図である。ゲートウェイ2は中継器24と並列に接続されたスイッチ25を有しており、信号C4はスイッチ25を経由して信号線41から信号線42へ伝達される。よって更新プログラムは中継器24のデータ転送処理を受けずにECU30からECU31,32,33,…へと送信され、
図4に示された技術よりも短い時間で更新プログラムが送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−57994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、
図5に示された技術であっても、更新プログラムが信号線41,42を経由して送信される。例えばCAN(コントローラー・エリア・ネットワーク)通信の伝送速度は最大でも500kbpsであり、実際に使用できる通信帯域は多くてもその半分程度である。よってCAN通信のみを用いた場合、例えばエンジン制御用のECUの更新プログラムのようにデータ容量が大きいと、その伝送に必要な時間は数分かかる場合もある。
【0008】
例えば10個のECUに対してCAN通信を使用して更新プログラムを格納する場合を想定する。使用できる帯域が500kps/2=250kps程度であるので、10個のECUに対して更新プログラムを送信するとして、1個のECUで使用できる帯域は250kps/10=25kps程度である。更新プログラムを格納する側のECUにおいて、その格納に用いられるメモリ領域を1MBとすると、その格納に要する時間は8388608b/25kbps≒330sとなり、5分半程度必要となる。
【0009】
中継器24での遅延は20μs程度であるので、スイッチ25によってこの程度の遅延を回避しても、更新プログラムの送信に必要な時間を低減する貢献は低い。他方、更新プログラムが信号線41,42で送信される速度は、ECU31,32,33,…が更新プログラムを格納する際の処理速度よりも遅い。よって更新プログラムをECU31,32,33,…に格納するのに必要な時間を短くするには、更新プログラムを高速に送信することが望ましい。
【0010】
そこで、本発明は、更新プログラムの送信速度を実施的に増大させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
車載用制御システムは、車載され、いずれもがそれぞれ有する更新可能なプログラムに基づいて動作する、少なくとも一つの制御装置と、車載され、前記制御装置の前記プログラムを更新する更新プログラムを送信する更新プログラム送信装置と、前記更新プログラム送信装置に接続され、前記更新プログラムを送信する送信線と、全ての前記制御装置同士を接続し、前記更新プログラムを受信する受信線と、前記送信線と前記受信線との間に接続され、前記更新プログラムを中継する中継器を有して車載される中継装置と、車載される電源と、前記電源から全ての前記制御装置及び前記更新プログラム送信装置へ給電し、前記更新プログラム送信装置から前記制御装置へと前記更新プログラムの伝達も行う給電線とを備える。
【発明の効果】
【0012】
当該車載用制御システムは、更新プログラムの送信速度を実施的に増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る車載用制御システムを例示する模式図である。
【
図2】第2実施形態に係る車載用制御システムが解決する課題を示す模式図である。
【
図3】第2実施形態に係る車載用制御システムを例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
{第1実施形態}
以下、第1実施形態に係る車載用制御システムについて説明する。
図1は、当該車載用制御システムの構成を例示する模式図である。
【0015】
当該車載用制御システムは、電源1(図中「バッテリ」と表記)、ゲートウェイ2、ECU30,31,32,33,…、信号線41,42、給電線50,51,52,53,…を備える。
【0016】
これらの構成要素は車載され、信号線41,42、給電線50,51,52,53,…は、例えばワイヤーハーネスと通称される配線の束において実現される。
【0017】
ECU31,32,33,…はそれぞれが有するプログラムに基づいて動作する。そしてこれらは、図示を省略した種々の被制御装置(例えばエンジン、バッテリなどの車載される負荷)を制御する。そして当該プログラムは更新可能である。ECU30は、プログラムを更新するための更新プログラムを送信する、更新プログラム送信装置として機能する。かかるECU30,31,32,33,…それ自体の構成及び動作については公知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0018】
信号線41はECU30に接続され、更新プログラムを送信する送信線として機能する。信号線42は全てのECU31,32,33,…同士を接続し、更新プログラムを受信する受信線として機能する。ゲートウェイ2は信号の授受を中継する中継装置である。ゲートウェイ2は中継器24を有しており、中継器24は信号線41,42の間での信号の授受を中継する。
【0019】
給電線50,51,52,53,…により、電源1から全てのECU30,31,32,33,…への給電(動作電源の供給)が行われる。具体的には給電線50,51,52,53,…はそれぞれ電源1からECU30、31,32,33,…へ給電する。
【0020】
但し本実施形態では、給電線50,51,52,53,…はECU30からECU31,32,33,…への更新プログラムの伝達をも行う。つまり給電線50,51,52,53,…はいわゆるPLC(パワー・ライン・コミュニケーション)に用いられる。
【0021】
本実施形態では更新プログラムが、信号線41,42を用いた信号C4と、給電線50,51,52,53を用いた信号C5との二つに分けて送信される。これにより、更新プログラムの送信速度を実質的に増大させることができる。
【0022】
信号C4,C5の通信プロトコルにはいずれもCAN通信を用いることができる。これにより、更新プログラムを送信する通信速度(送信速度)は実質的に二倍となり、更新プログラムの送信に必要な時間は半分となる。ECU31,32,33,…の側で複数の信号C4,C5から元の更新プログラムを構築する技術は公知であり、上述の様に更新プログラムの格納に必要な処理速度はその送信速度と比べて早い。よって更新プログラムの格納に必要な時間を短くすることができる。
【0023】
{第2実施形態}
以下、第2実施形態に係る車載用制御システムについて説明する。
図2は、第2実施形態が解決する課題を説明するための模式図である。
図2で示された構成は、第1実施形態に示された車載用制御システムの構成に対し、イグニッションリレー6を追加した構成を示す。なお、本実施形態の説明において、第1実施形態で説明したものと同様構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0024】
イグニッションリレー6はノーマリーオープン形のリレーであり、イグニッション用のECU7(以下「電源状態遷移ECU」と称す)によってクローズされる。具体的にはイグニッションリレー6はコイル61と、コイル61への通電によってオン(導通)するノーマリーオフ型のスイッチ62とを備える。
【0025】
スイッチ62は給電線において、ECU31,32,33,…の少なくとも一つと電源1との間に設けられる。ここではECU31と、ECU32,33との間での給電線に設けられる場合が例示される。
【0026】
コイル61は電源1に接続された一端56と、他端57とを有する。他端57は電源状態遷移ECU7に接続される。具体的には電源状態遷移ECU7はイグニッションを開始させる駆動部72と、スイッチング用のトランジスタ73とを有し、トランジスタ73はいわゆるオープンコレクタかつエミッタ接地の態様で電源状態遷移ECU7に設けられている。そして他端57がトランジスタ73のコレクタに接続されている。
【0027】
駆動部72は周知の技術によってイグニッションを開始する指示を受け、トランジスタ73のベースに電流を供給する。これによりトランジスタ73がオンし、電源1とトランジスタ73のエミッタとの間でコイル61に電流が流れる。このようにして電源状態遷移ECU7の動作により、コイル61に通電され、スイッチ62が導通し、ECU32,33に給電され、イグニッションが開始する。
【0028】
このようにイグニッションリレー6が給電線において設けられることにより、一部のECU、ここの例示ではECU32,33には、イグニッションリレー6がオフしていると給電されない。
【0029】
通常、プログラムの更新は車両が停車しているときに行われるので、イグニッションオフの状況、つまりスイッチ62がオフしている状況で行われる。よって第1実施形態のようにPLCを行うと、ECU32,33への給電線52,53には信号C5を送信できない。この場合、ECU32,33に対する更新プログラムの送信は従来の技術と同様、信号C4のみに依拠することになる。これでは更新プログラムの送信速度を実質的に高めることはできない。
【0030】
第2実施形態はかかるイグニッションリレー6の存在を考慮したものであり、イグニッションリレー6が存在しても給電線52,53をPLCに用いる技術を呈示する。
【0031】
図3は第2実施形態の構成を例示する模式図である。
図2で示された構成は、第1実施形態に示された車載用制御システムの構成に対し、イグニッションリレー6を追加した構成を示す。
【0032】
第2実施形態では第1実施形態のゲートウェイ2に対し、コイル61の他端57に接続された駆動線71を追加した構成を有している。駆動線71には駆動信号Kが出力される。ECU30からの更新プログラムの送信が検知されると、駆動信号Kがスイッチ62を導通させる。
【0033】
より具体的には、本実施形態においてゲートウェイ2は、検知部21、駆動部22,スイッチング用のトランジスタ23を更に備えている。検知部21は信号線41に接続され、ECU30からの更新プログラムの送信を検知する。駆動部22は検知部21が上記送信を検知することにより、トランジスタ23をオンする。トランジスタ23のコレクタは駆動線71に接続され、エミッタは接地されるので、トランジスタ23がオンすることにより、駆動信号Kは接地電位となる。ここではこのような接地電位となる状況を駆動信号Kが活性化した状態として考える。
【0034】
駆動信号Kの活性化により、電源1とトランジスタ23のエミッタとの間でコイル61に電流が流れる。このようにして更新プログラムの送信をきっかけとしてコイル61に通電され、スイッチ62が導通し、信号C5はECU32,33に伝達される。よって第1実施形態と同様に更新プログラムの格納に必要な時間を短くすることができる。
【0035】
{変形例}
信号C4,C5の通信プロトコルを共通にする必要はない。もちろん、これらの通信プロトコルとして、CAN通信よりも高速な通信プロトコル(例えばイーサネット(登録商標))を採用できる。
【0036】
また、第2実施形態において、駆動信号Kを用いて駆動部72にトランジスタ73をオンさせてもよい。また検知部21が更新プログラムの送信が終了したことを検知して、駆動信号Kを非活性にし、以てイグニッションリレー6をオープンにしても(つまりスイッチ62をオフにしても)よい。
【0037】
上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【0038】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0039】
1 電源
2 ゲートウェイ(中継装置)
24 中継器
30 ECU(更新プログラム送信装置)
31,32,33 ECU(制御装置)
41 信号線(送信線)
42 信号線(受信線)
50,51,52,53 給電線
56 一端
57 他端
61 コイル
62 スイッチ
71 駆動線