特許第6551254号(P6551254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ車体株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000002
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000003
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000004
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000005
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000006
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000007
  • 特許6551254-車椅子の吊り上げ装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551254
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】車椅子の吊り上げ装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/08 20060101AFI20190722BHJP
   B60R 9/042 20060101ALI20190722BHJP
   B60P 3/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   A61G3/08 701
   B60R9/042
   B60P3/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-25828(P2016-25828)
(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2017-143887(P2017-143887A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 光宏
【審査官】 小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−131365(JP,A)
【文献】 特開平09−277834(JP,A)
【文献】 特開2010−068902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/06−3/08
B60P 3/00
B60R 9/04−9/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面の幅方向に折り畳み可能な車椅子を吊り上げるための吊り上げベルトを備えた装置であって、
前記車椅子は、前記座面の幅方向両側の座面フレーム間に掛け渡された折り畳みベルトを上方へ引き上げて該幅方向両側の座面フレームを相互に接近させる方向に変位させることにより折り畳み可能とされており、
前記吊り上げベルトに備えたフックに、前記折り畳みベルトの長手方向に相互に離間した2箇所を引き掛ける第1及び第2フック部を設け
前記座面フレームに補助リングを設け、該補助リングの内側を経て前記折り畳みベルトの長手方向の一部に折り返し部を設け、該折り返し部を構成しない非折り返し部に前記第1フック部を引き掛け、前記折り返し部に前記第2フック部を引き掛ける構成とした吊り上げ装置。
【請求項2】
請求項記載の吊り上げ装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、座面幅方向に折り畳み可能な車椅子を吊り上げるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子の着座者が車両に乗降する際の便宜を図るために、車両には空いた車椅子を路面から吊り上げて例えばルーフ上に格納するための吊り上げ装置を装備したものが提供されている。この吊り上げ装置は運転席に着座した着座者自身が操作して車椅子をルーフ上に格納することができることから、他者の援助を受けることなく車両への乗降を楽に行うことができる。
【0003】
この種の吊り上げ装置若しくは車椅子に関する従来の技術が下記の特許文献に開示されている。特許文献1には、車椅子を路面から吊り上げて車両ルーフ上に格納する際に雨に濡れないようにするための技術が記載されている。特許文献2には、車椅子を吊り上げる際に、当該車椅子に対して折り畳み方向の外力(折り畳み力)を作用させるための折り畳みベルトに関する技術が記載されている。特許文献3には、吊り上げ装置のフックを車椅子側の折り畳みベルトに引き掛ける際の便宜を図るための技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−237238号公報
【特許文献2】特開2010−68902号公報
【特許文献3】特開2010−131365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように車椅子の吊り上げ装置については従来より様々な改良が施されているが、次のような問題を解消する必要があった。空いた車椅子を吊り上げる際に、吊り上げ装置の吊りベルトを車椅子の折り畳みベルトに引き掛けて上昇させると、折り畳みベルトが上方へ引き上げられて車椅子が幅方向に折り畳まれるのであるが、特に座面幅の大きな車椅子の場合には、吊りベルトの上方への巻上げ量に比して折り畳みベルトの上方への引き上げ量(弛み)が大きいため、吊りベルトが上昇端まで引き上げられた段階で車椅子のリフト量が不十分で一定の高さまでリフトされない問題が発生する場合があった。
【0006】
車椅子の折り畳みベルトは、座面両側の座面フレーム間に掛け渡されて吊り上げ時に折り畳み力を作用させる機能を有するものであることから座面幅が大きい場合には長くなる。一方、吊りベルトの巻上げ量(リフト量)を大きくするには当該吊り上げ装置の設置高さを高くする必要があることから、結果として車両の車高を高くしてしまう問題があった。吊り上げ装置による車椅子のリフト量が不十分である場合には、例えば一定高さに設置された車輪ホルダに車輪が当接しないため当該車椅子が宙吊り状態となって確実に固定されなくなる問題があった。
【0007】
本発明は、座面幅が大きな車椅子であっても吊り上げ装置によって座面幅方向に折り畳みつつ十分な距離だけ確実にリフトされるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は下記の発明により解決される。第1の発明は、座面の幅方向に折り畳み可能な車椅子を吊り上げるための吊り上げベルトを備えた装置である。第1の発明では、車椅子は、座面の幅方向両側の座面フレーム間に掛け渡された折り畳みベルトを上方へ引き上げて幅方向両側の座面フレームを相互に接近させる方向に変位させることにより折り畳み可能とされている。第1の発明では、吊り上げベルトに備えたフックに、折り畳みベルトの長手方向に相互に離間した2箇所を引き掛ける第1及び第2フック部を設けた構成となっている。
【0009】
第1の発明によれば、折り畳みベルトの長手方向に相互に離間した2箇所が第1及び第2フック部にそれぞれ引き掛けられることから、当該折り畳みベルトは2箇所間の長さ分だけ短くなった状態でフックに引き掛けられる。このため、座面幅が大きく折り畳みベルトが比較的長い車椅子であっても、吊り上げベルトにより一定高さまで確実に吊り上げられる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、座面フレームに補助リングを設けた構成となっている。第2の発明では、この補助リングの内側を経て折り畳みベルトの長手方向の一部に折り返し部を設け、この折り返し部を構成しない非折り返し部に第1フック部を引き掛け、折り返し部に第2フック部を引き掛ける構成となっている。
【0011】
第2の発明によれば、折り畳みベルトが折り返し部の長さ分だけ短くなった状態でフックに引き掛けられて吊り上げられる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る吊り上げ装置を搭載した車両である。
【0013】
第3の発明によれば、座面幅が比較的大きな車椅子を十分な距離だけ吊り上げて車室内に固定することができる。第3の発明によれば、車椅子の着座者の車両への乗降を楽に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の吊り上げ装置の概略の構成を前側から見た図である。
図2】折り畳みベルト及びフックの斜視図である。
図3】折り畳みベルトにフックを引き掛けた状態を前側から見た図である。
図4】折り畳みベルトの引き上げ途中の状態を前側から見た図である。
図5】上昇端まで引き上げられた車椅子を前側から見た図である。
図6】折り畳みベルトの他の実施形態を示す図である。
図7図6に示す折り畳みベルトの引き上げ途中の状態を前側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を図1図7に基づいて説明する。なお、各図において、前後、左右、上下の各方向については着座者を基準にして表示している。以下説明する本実施形態の吊り上げ装置10は、車両Mに備え付けられている。この吊り上げ装置10は、着座者が離れて空になった車椅子20を車室内の一定高さに吊り上げて車輪21を車輪ホルダHに下方から押し付けて固定する機能を備えている。図1及び図2に示すように吊り上げ装置10は、電動モータを駆動源とする機構部11と、機構部11により巻き上げられる吊り上げベルト12を備えている。吊り上げベルト12の先端には吊り上げフック13が取り付けられている。
【0016】
吊り上げ装置10により吊り上げられる車椅子20は、左右の車輪21と、車輪21を支持する左右の車輪フレーム22と、左右の車輪フレーム22を相互に折り畳み可能に結合するX字形のリンク機構23と、リンク機構23の上部間に掛け渡された座面24と背もたれ部25を備えている。この車椅子20は、リンク機構23を介して左右の車輪フレーム22を相互に接近する方向に変位させることにより、座面幅方向に折り畳むことができる。座面24と背もたれ部25は布製で、本実施形態の場合座面フレームに相当するリンク機構23の上部フレーム間に掛け渡されている。以下、座面24が掛け渡されたリンク機構23の上部フレームを座面フレーム26という。
【0017】
左右の座面フレーム26間には、折り畳みベルト30が掛け渡されている。折り畳みベルト30は、座面24の上面側を経て掛け渡されている。折り畳みベルト30の両端部は、それぞれ座面フレーム26に結合されている。この折り畳みベルト30を上方へ引き上げると、当該引き上げ力が左右の座面フレーム26に対して相互に接近させる方向の外力(折り畳み力F)として作用する結果当該車椅子20が座面幅方向に折り畳まれる。
【0018】
図2に示すように折り畳みベルト30の右端部には、矩形の補助リング31が取り付けられている。補助リング31は右側の座面フレーム26から離脱しないよう、その一辺を中心にして上下に回動可能に結合されている。図示するようにこの補助リング31の内側に折り畳みベルト30を挿通させることにより、当該折り畳みベルト30はS字形に折り返えされて、2つのU字形の折り返し部30a,30bをその長手方向の一部に作ることができる。以下、折り畳みベルト30の長手方向について、折り返し部30a,30bを構成しないその他の部位を非折り返し部30cという。
【0019】
吊り上げ装置10により車椅子20を吊り上げる際には、先ず手動操作により左右の車輪フレーム22(座面フレーム26)を接近させて折り畳みベルト30を十分に弛ませる。その後図2に示すように弛んだ折り畳みベルト30を補助リング31の内側を挿通させて2つの折り返し部30a,30bを作ることができる。
【0020】
なお、図2では、上面側に取り付けられた補助リング31に対して折り畳みベルト30を下側から挿通させることにより、折り返し部30aが非折り返し部30cの上方に作られているが、補助リング31を折り畳みベルト30の下面側に取り付けて、折り畳みベルト30を上側から挿通させれば、非折り返し部30cの下側に折り返し部30aが作られる。いずれの場合であっても、以下の操作は同じである。
【0021】
次に、図3に示すように吊り上げ装置10の吊り上げベルト12を下方へ引き出して吊り上げフック13の下側の第1フック部13aを非折り返し部30cに下方から引き掛け、上側の第2フック部13bを折り返し部30aの内側に引き掛ける。こうして吊り上げフック13を折り畳みベルト30に引き掛けた後、吊り上げ装置10の機構部11を作動させて吊り上げベルト12を巻き上げる。
【0022】
図4に示すように吊り上げベルト12が巻き上げられると、吊り上げフック13に引き掛けた折り畳みベルト30が上方へ引き上げられる。折り畳みベルト30が上方へ引き上げられることにより、車椅子20が先ずその座面幅方向に折り畳まれ、その後上方へ吊り上げられる。車椅子20が座面幅方向に折り畳まれると、座面24は図示するように下方に弛む。この段階では、図4に示すように折り畳みベルト30は、補助リング31と吊り上げフック13との間の距離Lのほぼ2倍に相当する長さ分だけ実質的に短くなった状態で上方へ吊り上げられる。なお、距離Lは、吊り上げ当初の段階では、左右の座面フレーム26が接近して車椅子20が座面幅方向に折り畳まれるに従って大きくなる。
【0023】
このように、折り畳みベルト30をS字形に折り返して実質的に短くした状態で吊り上げベルト12を巻き上げることにより車椅子20が上方へリフトされる。図5に示すように吊り上げベルト12が上昇端まで巻き上げられると、車椅子20が一定高さまでリフトされてその車輪21が、車両Mに設けた車輪ホルダHに下側から当接されて当該車椅子20が固定される。
【0024】
以上のように構成した本実施形態の吊り上げ装置10によれば、車椅子20の折り畳みベルト30に吊り上げフック13を引き掛けて吊り上げる段階で、折り畳みベルト30がS字形に折り返されて実質的に短くなった状態で吊り上げられる。このため、比較的座面幅が大きく折り畳みベルト30が長い場合であっても、吊り上げベルト12を上昇端まで巻き上げた段階で車椅子20を確実に一定高さまでリフトさせることができ、これにより当該車椅子20を車両Mの車輪ホルダHに確実に当接させて固定することができる。
【0025】
このことから、本実施形態の吊り上げ装置10によれば、従来座面幅が大きいために十分なリフト量を確保することができず、その結果車両Mへの固定が困難であった車椅子20についても車輪21を車輪ホルダHに当接させて確実に固定することができるようになる。この点で、本実施形態の吊り上げ装置10によれば、適用可能な車椅子の範囲を拡大することができ、車椅子利用者の便宜を図ることができる。
【0026】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、補助リング31を着座者から見て右側の座面フレーム26に取り付けた構成を例示したが、左側の座面フレーム26に補助リング31を取り付けることも可能である。
【0027】
また、補助リング31を用いて折り畳みベルト30にS字形の折り返し部30a,30bを作る構成を例示したが、例えば図6及び図7に示すように折り畳みベルト35の下面に一定の距離を置いて円筒形を有する少なくとも2つの引き掛け部35a,35bを設け、車椅子20を予め折り畳んで折り畳みベルト35を十分に弛ませた状態とした上で、第1フック部13aを一方の引き掛け部35bに差し込み、第2フック部13bを他方の引き掛け部35aに差し込んでおくことにより、両引き掛け部35a,35b間にU字形の折り返し部36を作ることができる。
【0028】
係る第2実施形態の折り畳みベルト35によっても、折り返し部36により折り畳みベルト35を実質的に短くした状態で吊り上げることができるので、従来適用できなかった比較的座面が幅広の車椅子20についても十分なリフト量を確保して車輪ホルダHに確実に固定することができる。この場合、折り畳みベルト35の上面又は下面に設ける引き掛け部を適宜間隔をおいて3箇所以上に設け、そのうち2つの引き掛け部を選択して第1フック部13aと第2フック部13bを差し込むことにより、必要長さの折り返し部36を作ることができ、これにより当該吊り上げ装置10により適用可能な車椅子20の範囲を一層拡大することができる。
【0029】
また、例示した吊り上げ装置10では、車椅子20を車両フロアから一定高さまで吊り上げてその車輪21を車輪ホルダHに当接させて固定する場合を例示したが、車椅子20を単に路面から車両フロアの高さまでリフトさせる場合にも適用可能であり、さらに車室内に移動させた後、車椅子20を固定する手段については車輪ホルダHとは別の手段を用いる構成とすることができる。
【0030】
逆に、当該吊り上げ装置10を車室内外間で移動可能に設置することにより、路面上の車椅子を車両フロアの高さまで吊り上げ、その後車室内側に水平移動させて搬入し、車室内においてさらに吊り上げることにより車輪21を車輪ホルダHに当接させて固定する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
M…車両
H…車輪ホルダ
10…吊り上げ装置
11…機構部
12…吊り上げベルト
13…吊り上げフック
13a…第1フック部、13b…第2フック部
20…車椅子
21…車輪
22…車輪フレーム
23…リンク機構
24…座面
25…背もたれ部
26…座面フレーム
30…折り畳みベルト
30a,30b…折り返し部、30c…非折り返し部
31…補助リング
35…折り畳みベルト(第2実施形態)
35a,35b…引き掛け部
36…折り返し部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7