【文献】
William O'Neill,High-Quality Micromachining of Silicon at 1064 nm Using a High-Brightness MOPA-Based 20-W Yb Fiber Laser,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,Volume: 15, Issue: 2, March-april 2009,pages 462-470,DOI: 10.1109/JSTQE.2009.2012269, https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=4806027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記パルス幅を大きくする場合には、前記シード光が複数の光パルスを含むパルス列として前記シード光源から出射されるように、前記シード光源を制御する、請求項4に記載の光増幅装置。
前記制御部は、前記パルス列を構成する前記光パルスの数を決定するための複数の設定パターンの中から、前記モードおよび前記他のモードの各々を設定するためのパターンをユーザに選択させる処理を実行する、請求項5に記載の光増幅装置。
前記制御部は、前記繰り返し周波数を決定するための複数の設定パターンの中から、前記モードおよび前記他のモードの各々を設定するためのパターンをユーザに選択させる処理を実行する、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の光増幅装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ファイバレーザ発振器を有する従来のレーザ加工装置では、発振周期の低周波数領域において平均パワーを上げることが難しかった。その理由は、以下のような問題が発生するためである。励起光のパワーを一定にしたまま周波数を低下させた場合には、ピークパワーが上昇する。ピークパワーが上昇する場合、ファイバを損傷する可能性がある。また、ピークパワーの上昇によって、誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)に代表される非線形光学現象が発生した場合には、位相の揃わない伝送モードが増長する。
【0006】
上述した問題を避けるため、ファイバレーザ発振器を低周波数で使用する場合には、励起光パワーを低下させることにより平均パワーを下げた状態で使用しなければならない。
【0007】
一方で、たとえば金属の深堀りあるいは黒色印字といった加工を、レーザ光を用いて行う場合には、そのレーザ光のパワーがある程度大きいことが求められる。そのため、金属をレーザ光によって加工する場合には、平均パワーの大きいレーザ発振器を低周波数で使用していた。従来のファイバレーザ発振器では、出力の平均パワーを高くすることができなかったため、金属の深堀りあるいは黒色印字といった加工が難しかった。したがって、加工のための高パワーの光を出力可能なファイバレーザ発振器が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある局面に係る光増幅器は、パルス状のシード光を発生するシード光源と、励起光を発生する励起光源と、シード光を励起光によって増幅して、増幅光を出力する光増幅ファイバと、シード光源および励起光源を制御する制御部とを備え、制御部は、増幅光のパルス幅の設定値が大きくなるほど、パルス幅の最小設定値における閾値以内で増幅光のピークエネルギーが増大するように、励起光のパワーを制御するモードを有する。
【0009】
上記の「モード」とは、パルス幅を大きくした場合に、励起光のパワーを増大させるモードをいう。
【0010】
好ましくは、モードが設定された場合において、制御部は、増幅光の繰り返し周波数の上限を、モードとは異なる他のモードにおける繰り返し周波数の上限よりも低下させるとともに、パルス幅を最小設定値よりも大きく設定する。制御部は、励起光源が発生する励起光のパワーを、他のモードにおける励起光のパワーよりも増加させる。
【0011】
「他のモード」とはパルス幅、繰り返し周波数のパラメータ調整に対して励起光のパワーが一定のモードをいう。
【0012】
好ましくは、制御部は、モードにおける増幅光の平均パワーを、他のモードにおける平均パワーよりも高くする。
【0013】
好ましくは、モードにおけるパルス幅の最大値は、他のモードにおけるパルス幅の最大値よりも大きい。
【0014】
好ましくは、制御部は、パルス幅を大きくする場合には、シード光が複数の光パルスを含むパルス列としてシード光源から出射されるように、シード光源を制御する。
【0015】
好ましくは、制御部は、パルス列を構成する光パルスの数を決定するための複数の設定パターンの中から、モードおよび他のモードの各々を設定するためのパターンをユーザに選択させる処理を実行する。
【0016】
好ましくは、制御部は、繰り返し周波数を決定するための複数の設定パターンの中から、モードおよび他のモードの各々を設定するためのパターンをユーザに選択させる処理を実行する。
【0017】
好ましくは、制御部は、リブート処理によってモードと他のモードとを互いに切り替える。
【0018】
好ましくは、モードとは異なる他のモードからモードが設定された場合において、制御部は、増幅光の繰り返し周波数の上限を低下させるためのユーザからの入力に応じて、パルス幅を、他のモードにおけるパルス幅よりも増加させるとともに、励起光のパワーを、他のモードにおける励起光のパワーよりも増加させる。
【0019】
好ましくは、モードとは異なる他のモードからモードが設定された場合において、制御部は、パルス幅を増加させるためのユーザからの入力に応じて、励起光のパワーを他のモードにおける励起光のパワーよりも増加させるとともに、繰り返し周波数の上限を、他のモードにおける繰り返し周波数の上限よりも低下させる。
【0020】
好ましくは、モードとは異なる他のモードからモードが設定された場合において、制御部は、励起光のパワーを増加させるためのユーザからの入力に応じて、パルス幅を、他のモードにおけるパルス幅よりも増加させるとともに、繰り返し周波数の上限を、他のモードにおける繰り返し周波数の上限よりも低下させる。
【0021】
本発明の他の局面に係るレーザ加工装置は、上記のいずれかに記載の光増幅装置を備える、レーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高パワーの光を出力可能なファイバレーザ発振器を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
<A.装置構成>
まず、本発明の実施の形態に係る光増幅装置およびその光増幅装置を含むレーザ加工装置の装置構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るレーザ加工装置の構成例を示す図である。
【0026】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100は、たとえばレーザマーカとして実現される。レーザ加工装置100は、コントローラ101と、マーカーヘッド102とを含む。コントローラ101は、本発明の実施の形態に係る光増幅装置の主要部を構成する。
【0027】
この実施の形態では、光増幅装置は、その強度がパルス状に周期的変化するレーザ光を出射する。以下、出射光を「レーザパルス」とも称する。以下の説明において、特に断りのない限り、「レーザパルス」は、1または複数のパルスからなるレーザ光を意味する。また、「レーザパルス」に含まれるそれぞれのパルスの強度(パワー)の最大値を「ピークパワー」と総称する。典型的には、「レーザパルス」の有するパワーの包絡線が「ピークパワー」に相当する。
【0028】
レーザ加工装置100は、典型的には、MOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式のファイバ増幅器を含む。この実施の形態では、レーザ加工装置100は、2段のファイバ増幅器を含む。より具体的には、コントローラ101は、光増幅ファイバ1と、シード用レーザダイオード(LD)2と、励起用レーザダイオード3,7と、アイソレータ4,6と、コンバイナ5,8と、駆動回路21,22と、制御部20とを含む。マーカーヘッド102は、光増幅ファイバ9と、光カプラ10と、アイソレータ11と、ビームエキスパンダ12と、Z軸走査レンズ13と、ガルバノスキャナ14,15とを含む。なお、以下の説明においては、レーザダイオードを単に「LD」と表記することもある。
【0029】
光増幅ファイバ1、シード用LD2、および励起用LD3は、MOPA方式のファイバ増幅器の基本的な構成要素である。光増幅ファイバ1は、光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを含む。光増幅ファイバ9は、光増幅ファイバ1と同じく、光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを含む。
【0030】
光増幅ファイバ1,9のコアに添加される希土類元素の種類は、特に限定されないが、例えば、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Nd(ネオジム)などを用いることができる。本実施の形態においては、希土類元素としてYbが添加された光増幅ファイバを用いる場合について例示する。光増幅ファイバ1,9は、例えば、コアの周囲に一層のクラッドが設けられたシングルクラッドファイバでもよいし、コアの周囲に二層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバでもよい。
【0031】
光増幅ファイバ1は、シード用LD2からのシード光を励起用LD3からの励起光によって増幅する。すなわち、MOPA方式のファイバ増幅器では、励起用LD3からの励起光およびシード用LD2からのパルス状のシード光が、光増幅ファイバ1へ与えられる。光増幅ファイバ1に入射した励起光は、コアに含まれる希土類元素の原子に吸収され、原子の励起を生じる。原子の励起が生じた状態で、シード光が光増幅ファイバ1のコアを伝搬すると、シード光により励起された原子が誘導放出を生じるため、シード光が増幅される。このように、光増幅ファイバ1は、励起光を用いてシード光を増幅することになる。
【0032】
シード用LD2は、レーザ光源であり、シード光を発生するシード光源である。シード光の波長は、例えば、1000〜1100nmの範囲から選択される。駆動回路21は、制御部20からの指令に従って、シード用LD2にパルス状の電流を繰り返して印加することにより、シード用LD2をパルス駆動する。すなわち、シード用LD2はパルス状のシード光を出射する。
【0033】
シード用LD2から出射されるシード光は、アイソレータ4を通過した後に、光増幅ファイバ1へ入射する。アイソレータ4は、光を一方向のみに通過させ、それとは逆方向に入射する光を遮断する機能を有する。アイソレータ4は、シード用LD2からのシード光を通過させるとともに、光増幅ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって、光増幅ファイバ1からの戻り光がシード用LD2に入射するのを防止することができる。これは、光増幅ファイバ1からの戻り光がシード用LD2に入射した場合には、シード用LD2が損傷するおそれがあるからである。
【0034】
励起用LD3は、レーザ光源であり、光増幅ファイバ1のコアに添加された希土類元素の原子を励起するための励起光を発生する励起光源である。希土類元素としてYbを添加した場合、励起光の波長は、例えば915±10nmに設定される。励起用LD3は、駆動回路22によって駆動される。
【0035】
シード用LD2からのシード光と励起用LD3からの励起光とは、コンバイナ5により結合されて光増幅ファイバ1に入射する。光増幅ファイバ1がシングルクラッドファイバである場合には、シード光および励起光はいずれもコアに入射する。これに対し、光増幅ファイバ1がダブルクラッドファイバである場合には、シード光はコアに入射し、励起光は第1クラッドに入射する。ダブルクラッドファイバの第1クラッドは励起光の導波路として機能する。第1クラッドに入射した励起光が第1クラッドを伝搬する過程で、コアを通過するモードによりコア中の希土類元素が励起される。
【0036】
光増幅ファイバ1で増幅されたレーザ光は、アイソレータ6を通り、コンバイナ8において、励起用LD7からの励起光と結合される。励起用LD7は、光増幅ファイバ9のコアに添加された希土類元素の原子を励起するための励起光を発生する。励起用LD7は、駆動回路22によって駆動される。
【0037】
光増幅ファイバ9は、光カプラ10によって、コントローラ101からのファイバに光学的に結合される。光増幅ファイバ1によって増幅されたレーザ光は、光増幅ファイバ9の内部において、励起用LD7からの励起光によってさらに増幅される。
【0038】
光増幅ファイバ9から出射されたレーザ光は、アイソレータ11を通過する。アイソレータ11は、光増幅ファイバ9で増幅され、かつ光増幅ファイバ9から出射されたレーザ光を通過させるとともに、光増幅ファイバ9に戻るレーザ光を遮断する。
【0039】
アイソレータ11を通過したレーザ光は、ビームエキスパンダ12によって、そのビーム径が拡大される。Z軸走査レンズ13は、レーザ光をZ軸方向(すなわち上下方向)に走査する。ガルバノスキャナ14,15は、レーザ光を、X軸方向およびY軸方向にそれぞれ走査する。これにより、レーザ光が加工対象物250の表面において、二次元方向に走査される。なお、図示しないが、レーザ光を集光するためのfθレンズ等の他の光学部品がマーカーヘッド102に含まれてもよい。
【0040】
加工対象物250の表面上でレーザ光、すなわち光増幅装置からのレーザパルスを二次元方向に走査することにより、樹脂、金属等を素材とする加工対象物250の表面に加工が施される。例えば、加工対象物250の表面に、文字や図形等からなる情報が印字(マーキング)される。
【0041】
本実施の形態では、光増幅装置は、1段目の増幅(コントローラ101における光増幅)において励起光を増大するように構成される。しかしながら、マーカーヘッド102が光増幅を行うことは、必ずしも必須ではない。すなわちマーカーヘッド102から光増幅ファイバ9が省略されてもよい。
【0042】
制御部20は、主として、シード用LD2(シード光源)および励起用LD3(励起光源)による光の発生を制御する。より具体的には、制御部20は、上位装置300から、レーザ光の走査のために必要な指令を受信する。さらに、制御部20は、設定装置301を介して、ユーザからの設定を受付ける。制御部20は、設定装置301からのユーザ操作に従って、駆動回路21,22を制御するとともに、ガルバノスキャナ14,15等を制御する。
【0043】
制御部20は、制御指令を与える構成であれば、どのようなハードウェア用いてもよい。例えば、所定のプログラムを実行するコンピュータを用いて、制御部20を実装してもよい。設定装置301としては、例えば、パーソナルコンピュータを使用することができる。パーソナルコンピュータは、入力部として、マウス、キーボード、タッチパネル等を備えることができる。
【0044】
シード用LD2、励起用LD3,7、アイソレータ4,6,11などの光学素子の特性は、温度に依存して変化し得る。そのため、これらの光学素子の温度を一定に保つための温度コントローラをレーザ加工装置100に設けることがより好ましい。
【0045】
本実施の形態に係るレーザ加工装置100は、平均パワー、レーザパルスの繰り返し周波数および、レーザパルスのパルス幅を、互いに独立に制御可能である。ユーザは、平均パワー、レーザパルスの繰り返し周波数およびレーザパルスのパルス幅を、互いに独立に設定することができる。
図1に示されるように、本実施の形態では、光増幅装置は、多段増幅構成を有するので、各増幅段において励起光を増大させることにより、非線形現象が起きない範囲でレーザ光の平均パワーを高くすることができる。
【0046】
本実施の形態に係る光増幅装置(レーザ加工装置100)は、2つのモードを有する。言い換えると、制御部20は2つの制御モードを有する。第1のモードは、パルス幅、繰り返し周波数等のパラメータ調整に対して励起光のパワーが一定のモードである。第2のモードは、パルス幅を大きくした場合に、励起光のパワーを増大させるモードである。なお、第2のモードは、本発明およびその実施の形態における「モード」に対応し、第1のモードは、本発明およびその実施の形態における「他のモード」に対応する。
【0047】
<B.第1のモード>
第1のモードでは、レーザパルスの繰り返し周波数の設定、および、レーザパルスのパルス幅を広い範囲で設定できる。
【0048】
図2は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100によって発せられる、最小パルス幅を有するレーザパルスを説明するための波形図である。
図2を参照して、fは、レーザパルスの繰り返し周波数を表す。wは、レーザパルスのパルス幅を表す。平均パワーは、単位時間(たとえば1秒)に光増幅装置から出力されたレーザパルスのエネルギーの総和であると定義することができる。
【0049】
Ppは、レーザパルスのピークパワーを表す。ピークパワーPpは、閾値パワーPthを超えないように制御される。閾値パワーPthは、たとえば光増幅ファイバの破損が生じない上限のパワーであるように予め定められる。
【0050】
図3は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100によって発せられる、最小パルス幅よりも大きいパルス幅を有するレーザパルスを説明するための波形図である。
図3を参照して、この実施の形態では、パルス幅wを大きくする場合には、1つのパルスの幅を大きくするのではなく、複数のパルスを含むパルス列が出力される。1つのパルスの幅は、最小パルス幅と同じである。したがってパルス幅wは、パルスの数に比例する。
【0051】
第1のモードにおいて、パルス幅wの最小値は、たとえば15nsであり、パルス幅wは15ns〜300nsの間で可変である。また、繰り返し周波数fは、たとえば10kHz〜1000kHzの範囲内で可変である。
【0052】
図4は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100が第1のモードにおいてパルス幅を増加させたときのピークパワーPpの変化を説明するための波形図である。
図4を参照して、レーザパルスのエネルギーが一定のままパルス幅wを大きくした場合には、ピークパワーPpが低下する。
【0053】
たとえば金属加工(たとえば金属の深堀りあるいは黒色印字)においては、レーザパルスのエネルギーをより高くする必要がある。ファイバレーザ発振器を有するレーザ加工装置においては、平均パワーを大きくする(一例では50W)とともに、繰り返し周波数を下げなければならない。繰り返し周波数を下げることにより、レーザパルスが光増幅ファイバから出力される時間間隔が長くなる。光増幅ファイバに励起光のパワーが蓄積される時間が長くなるため、ピークパワーPpは、繰り返し周波数fを低下させることによって増大する。
【0054】
しかしながら、ファイバレーザ発振器を有するレーザ加工装置においては、繰り返し周波数、ピークパワー、パルス幅等を互いに独立に変更できるため、高い平均パワーを必要とする加工に必要なレーザパルスを発生させるための条件を設定することは容易ではない。そこで本実施の形態では、レーザ加工装置100は第2のモードを有する。第2のモードは、第1のモードよりも、高い平均エネルギーでレーザパルスを出力することを可能にするモードである。
<C.第2のモード>
第2のモードでは、第1のモードに比べて平均パワーを高くすることができるように、繰り返し周波数の設定範囲、およびパルス幅の設定範囲が定められる。
【0055】
図5は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100が第2のモードにおいてパルス幅を増加させたときのピークパワーPpの変化を説明するための波形図である。
図5を参照して、実線によって示された波形は、第2のモードにおいてレーザ加工装置100から出力されるレーザパルスのパワーを表す。点線によって示された波形は第1のモードにおいてレーザ加工装置100から出力されるレーザパルスのパワーを表す。第2のモードでは、レーザパルスのパルス幅wを、最小のパルス幅よりも大きくし、かつ、閾値パワーPth内でピークパワーPpを増大させる。これにより平均パワーを高めることができるので、たとえば金属の深堀りあるいは黒色印字といった加工を行うことができる。
【0056】
第2のモードでは、繰り返し周波数fの設定範囲は、第1のモードでの繰り返し周波数の設定範囲よりも狭く、パルス幅wの設定範囲も、第1のモードでの繰り返し周波数の設定範囲よりも狭い。具体的には、第2のモードでは、繰り返し周波数fの設定範囲の上限値は、第1のモードでの繰り返し周波数の設定範囲の上限値よりも小さい。すなわち第2のモードでは、繰り返し周波数は、低い周波数領域内で設定可能である。これにより、ピークパワーを増大させることができる。さらに、第2のモードでは、パルス幅wの下限値は、パルス幅の最小値よりも大きい。これにより、ピークパワーPpが閾値パワーPthを上回る可能性を低減できる。
【0057】
さらに、パルス幅wの最大値は、第1のモードにおけるパルス幅の最大値よりも大きい。これにより、金属の深堀り、あるいは黒色印字といった加工に適した高いパワーのレーザパルスを出力することができる。
【0058】
図6は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を第1のモードおよび第2のモードで動作させた場合におけるレーザパルスの波形の例を示した波形図である。
図6を参照して、2つのグラフの間では、パワーを表す縦軸のスケール、時間を表す横軸のスケールは同じである。第2のモードにおいては、第1のモードよりもピークエネルギーを高くすることができる。
図6に示された例では、第2のモードにおいて、パルス列の初めのパルスのピークパワーが特に高い。このようなパルス波形は、金属の深堀りへの寄与を高くすることができる。
【0059】
図7は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を、第1のモードおよび第2のモードの各々において動作させるための設定パターンの例を示した図である。
図7を参照して、たとえば第1のモードでは、ユーザーは、レーザ加工装置100が記憶する15個の設定パターンの中から、加工の条件に適したパターンを選択することができる。一方、第2のモードでは、ユーザは、レーザ加工装置100が記憶する3個の設定パターンの中から、加工の条件に適したパターンを選択することができる。第2のモードにおける設定パターンでは、設定可能なパルスの数、言い換えるとパルス幅の設定範囲が第1のモードにおける設定パターンに比べて制限される。
【0060】
第2のモードにおけるパルス幅の最大値は、第1のモードにおけるパルス幅の最大値よりも大きい。すなわち第2のモードにおいて設定可能なパルス数の最大値は30であるのに対して、第1のモードにおいて設定可能なパルス数の最大値は20である。
<D.モードの設定>
図8は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100の設定処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、主として制御部20によって実行される。
図8を参照して、ステップS1において、制御部20は、レーザ加工装置100のリブート処理が実行されたかどうかを判断する。リブート処理が実行されなかった場合(ステップS1においてNO)、モードは現在のモード(第1のモードまたは第2のモード)に維持される(ステップS2)。一方、リブート処理が実行された場合(ステップS1においてYES)、制御部20は、モードを切り替える(ステップS3)。
【0061】
ステップS2またはステップS3に続き、ステップS4において、制御部20は、現在のモードに応じた設定パターン(
図7を参照)を準備する。たとえば制御部20は、その内部に記憶された設定パターンを読み出す。
【0062】
ステップS5において、制御部20は、複数の設定パターンの中から、第1のモードおよび第2のモードの各々を設定するためのパターンをユーザに選択させる処理を実行する。たとえば、設定装置301は、制御部20からの指示により、ユーザがパルス幅等を入力するための入力画面を準備する。ユーザは、その入力画面を通じて、パルス幅(パルス数)を選択することができる。設定装置301に入力されたパラメータは設定装置301から制御部20へと送られる。入力画面の例は後に詳細に説明される。
【0063】
ステップS6において、制御部20は、設定装置301を通じて、ユーザからの入力(設定パラメータ)を受付ける。設定パラメータは、たとえば繰り返し周波数、平均パワーなどである。図示の便宜上、
図8ではユーザによる設定を制御部20が受け付ける処理を、ステップS5とステップS6とに分けて記載されているが、ユーザによる設定を制御部20が受け付ける処理は1つのステップで実行されてもよい。また、複数の設定パターンは、パルス幅のパターンに限定されず、繰り返し周波数の設定パターンであってもよく、パルス幅と繰り返し周波数とを組み合わせた設定パターンであってもよい。
【0064】
ステップS7において、制御部20は、ユーザの設定が完了したかどうかを判断する。たとえばユーザが設定装置301に設定完了を指示した場合、その指示が設定装置301から制御部20へと送られる。これにより、制御部20は、ユーザの設定が完了したと判断する。この場合(ステップS7においてYES)、制御部20は、ユーザが設定したパラメータを記憶する。記憶されたパラメータは、レーザ加工装置100の動作の際に用いられる。一方、ユーザの設定がまだ完了していないと制御部20が判断した場合(ステップS7においてNO)、処理はステップS5に戻り、ユーザの設定処理が継続される。
【0065】
<E.ユーザインターフェース>
ユーザインターフェースに関する以下の説明において、第1のモードおよび第2のモードを、それぞれ「スタンダードモード」および「EEモード」と称する。これらの名称は、本実施の形態を限定することを意図として用いられるものではないことに留意すべきである。
【0066】
図9は、本実施の形態に係るレーザ加工装置のモードを設定するためのユーザインターフェース画面の一例を示す模式図である。
図9を参照して、レーザ加工装置100のモードを設定する場合、ユーザは、メニュー一覧の中から「環境設定」メニュー(符号210)を選択すする。これにより、「EEモード設定(オプション)」が選択可能となるので、ユーザは、たとえばマウスのクリック動作によって「EEモード設定(オプション)」を選択する。これにより、スタンダードモードおよびEEモードの中からモードを選択するためのダイアログが表示される。
【0067】
図10は、モード選択のためのダイアログの一例を示した模式図である。
図10を参照して、ユーザは、ダイアログ211を通じて、EEモードまたはスタンダードモードを選択し、OKボタン212を押下する。これにより、レーザ加工装置100がリブートされ、モードが切り替わる。すなわち、
図8に示されたステップS1およびステップS3の処理が実行される。
【0068】
図11は、スタンダードモード(第1のモード)のための設定画面の一例を示す模式図である。
図11を参照して、「基本設定」(符号221)および「詳細設定」(符号222)は、パラメータを設定するための欄である。レーザパルスのパワー、繰り返し周波数(
図11において「周波数」と表示)、パルス形状(パルス幅に対応)、および加工速度が基本的な設定パラメータである。スタンダードモードにおいて、繰り返し周波数は、たとえば10.0kHz〜1000.0kHzの範囲内から設定可能である。パルス形状は、パターン1〜パターン15の中から選択可能である。
【0069】
図12は、EEモード(第2のモード)のための設定画面の一例を示す模式図である。
図12を参照して、EEモードでは、繰り返し周波数は、10.0kHz〜100.0kHzの範囲内から設定可能である。パルス形状は、パターン1〜パターン3の中から選択可能である。
【0070】
スタンダードモードおよびEEモードの各々において、パターンとパルス数とは
図7に示されるように関連付けられ、制御部20の内部に記憶される。ユーザが、
図11または
図12に示された設定画面においてパラメータを入力することにより、
図7に示されたステップS5,S6の処理が実行される。
【0071】
<F.レーザ特性>
図13〜
図16に、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を動作させたときのレーザ特性の一例を示す。
図13は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を第1のモードおよび第2のモードで動作させたときの出力の平均パワーを示したグラフである。
図14は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を第1のモードおよび第2のモードで動作させたときのパルスエネルギを示したグラフである。
図15は、本実施の形態に係るレーザ加工装置100を第1のモードおよび第2のモードで動作させたときのピークパワーを示したグラフである。
【0072】
図13〜
図15において、グラフの縦軸は、第2のモードでの特性値を1に規格化した場合の数値を表す。また、
図13および
図14では、第1のモードおよび第2のモードともに、パルス数(
図7を参照)が20であるときのレーザ特性が示される。
図15では、第1のモードおよび第2のモードともに、パルス数(
図7を参照)が20であるときのピークパワーに加え、第2のモードにおいてパルス数(
図7を参照)が10であるときのピークパワーが示される。
【0073】
図13〜
図15に示されるように、100kHz以下の繰り返し周波数において、レーザ加工装置100の平均出力、パルスエネルギ、およびピークパワーは、いずれも第2のモードにおいて第1のモードよりも高い。さらに、第2のモードにおいて、パルス数が20であるときのピークパワーに比べて、パルス数が10であるときのピークパワーが高い。すなわちパルス幅が小さい程、ピークパワーは高い。
【0074】
以上のとおり、本実施の形態に係るレーザ加工装置100は、増幅光のパルス幅の設定値(パルスの数)が大きくなるほど、パルス幅の最小設定値における閾値以内で増幅光のピークエネルギーが増大するように、励起光のパワーを制御するモード(第2のモード)を有する。これにより、ファイバレーザ発振器からより高い平均パワーのレーザパルスを出力可能とすることができる。
【0075】
図16は、第2のモードによる金属の深堀りの効果を説明するための図である。なお、金属の材質はアルミニウムである。
図16に示されるように、第1のモードに比べて第2のモードでは、加工回数に対する金属表面からの加工深さがより大きくなる。したがって加工比(第2のモードによる加工深さ/第1のモードによる加工深さ)は、1よりも大きく、かつ、加工回数が増えるにしたがって増大する。
図16は、第2のモードにおいて、金属の深堀りが実現可能であることを示す。
【0076】
<G.変形例>
上記に開示された実施の形態においては、第1のモードと第2のモードとの間の2つのモードでの切り替えが説明される。他の実施の形態において、第1のモードから第2のモードが設定された場合、制御部20は、増幅光の繰り返し周波数fの上限を段階的あるいは連続的に変化させるユーザインターフェースからの入力(ユーザ入力)に応じて、パルス幅を、第1のモードにおけるパルス幅よりも増加させるとともに、励起光のパワーを、第1のモードにおける励起光のパワーよりも増加させてもよい。制御部20は、パルス幅および励起光のパワーを、段階的に増加させてもよく、連続的に増加させてもよい。
【0077】
また、別の実施の形態において、第1のモードから第2のモードが設定された場合、制御部20は、パルス幅を段階的あるいは連続的に変化させるユーザインターフェースからの入力に応じて、励起光のパワーを、第1のモードにおける励起光のパワーよりも段階的または連続的に増加させるとともに、繰り返し周波数の上限を、第1のモードにおける繰り返し周波数の上限よりも段階的または連続的に低下させてもよい。
【0078】
さらに別の実施の形態において、第1のモードから第2のモードが設定された場合、制御部20は、増幅光のパワーを段階的または連続的に変化させるためのユーザインターフェースからの入力に応じて、パルス幅を、第1のモードにおけるパルス幅よりも段階的または増加させるとともに、繰り返し周波数の上限を、他のモードにおける繰り返し周波数の上限よりも段階的または連続的に低下させてもよい。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。