(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
旋回側ラップ(52)とボス部(53)とが形成された旋回スクロール(50)と、上記旋回スクロール(50)の上記ボス部(53)に連結する回転軸(25)を支持する軸受部(64)が形成されたハウジング(60)と、上記旋回側ラップ(52)と噛み合う固定側ラップ(42)が形成されて上記ハウジング(60)に固定される固定スクロール(40)とを備えたスクロール流体機械であって、
上記固定スクロール(40)と上記ハウジング(60)のそれぞれには、上記ハウジング(60)に対する上記固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造(44,67)が複数ずつ形成される一方、
上記旋回側ラップ(52)の中心軸に対する上記ボス部(53)の中心軸の偏差を上記旋回スクロール(50)の寸法偏差とし、
上記ハウジング(60)の各上記位置決め構造(67)から最短の等距離に位置する直線をハウジング側中心軸とし、上記軸受部(64)の中心軸に対する上記ハウジング側中心軸の偏差を上記ハウジング(60)の寸法偏差とし、
上記固定スクロール(40)の各上記位置決め構造(44)から最短の等距離に位置する直線を固定側中心軸とし、上記固定側中心軸に対する上記固定側ラップ(42)の中心軸の偏差を上記固定スクロール(40)の寸法偏差とし、
上記旋回スクロール(50)の寸法偏差と上記ハウジング(60)の寸法偏差と上記固定スクロール(40)の寸法偏差の合計を合計偏差とし
上記旋回スクロール(50)と上記固定スクロール(40)と上記ハウジング(60)のうちの一つを第1部品として残り二つのうちの少なくとも一つを第2部品としたときに、
上記第1部品の寸法偏差の分散が上記第2部品の寸法偏差の分散を包括し、且つ上記合計偏差の分散が上記第1部品の寸法偏差の分散よりも小さい
ことを特徴とするスクロール流体機械。
旋回側ラップ(52)とボス部(53)とが形成された旋回スクロール(50)と、上記旋回スクロール(50)の上記ボス部(53)に連結する回転軸(25)を支持する軸受部(64)が形成されたハウジング(60)と、上記旋回側ラップ(52)と噛み合う固定側ラップ(42)が形成されて上記ハウジング(60)に固定される固定スクロール(40)とを備えたスクロール流体機械であって、
上記固定スクロール(40)と上記ハウジング(60)のそれぞれには、上記ハウジング(60)に対する上記固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造(44,67)が複数ずつ形成される一方、
上記旋回側ラップ(52)の中心軸に対する上記ボス部(53)の中心軸の偏差を上記旋回スクロール(50)の寸法偏差とし、
上記ハウジング(60)の各上記位置決め構造(67)から最短の等距離に位置する直線をハウジング側中心軸とし、上記軸受部(64)の中心軸に対する上記ハウジング側中心軸の偏差を上記ハウジング(60)の寸法偏差とし、
上記固定スクロール(40)の各上記位置決め構造(44)から最短の等距離に位置する直線を固定側中心軸とし、上記固定側中心軸に対する上記固定側ラップ(42)の中心軸の偏差を上記固定スクロール(40)の寸法偏差とし、
上記旋回スクロール(50)の寸法偏差と上記ハウジング(60)の寸法偏差と上記固定スクロール(40)の寸法偏差の合計を合計偏差としたときに、
上記合計偏差の分散が上記固定スクロール(40)の寸法偏差の分散よりも小さくなるように、上記固定スクロール(40)の寸法偏差の分散が、上記固定スクロール(40)に形成された複数の上記位置決め構造(44)同士の間隔の分散よりも大きくなっている
ことを特徴とするスクロール流体機械。
旋回側ラップ(52)とボス部(53)とが形成された旋回スクロール(50)と、上記旋回スクロール(50)の上記ボス部(53)に連結する回転軸(25)を支持する軸受部(64)が形成されたハウジング(60)と、上記旋回側ラップ(52)と噛み合う固定側ラップ(42)が形成されて上記ハウジング(60)に固定される固定スクロール(40)とを備えたスクロール流体機械であって、
上記固定スクロール(40)と上記ハウジング(60)のそれぞれには、上記ハウジング(60)に対する上記固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造(44,67)が複数ずつ形成される一方、
上記旋回側ラップ(52)の中心軸に対する上記ボス部(53)の中心軸の偏差を上記旋回スクロール(50)の寸法偏差とし、
上記ハウジング(60)の各上記位置決め構造(67)から最短の等距離に位置する直線をハウジング側中心軸とし、上記軸受部(64)の中心軸に対する上記ハウジング側中心軸の偏差を上記ハウジング(60)の寸法偏差とし、
上記固定スクロール(40)の各上記位置決め構造(44)から最短の等距離に位置する直線を固定側中心軸とし、上記固定側中心軸に対する上記固定側ラップ(42)の中心軸の偏差を上記固定スクロール(40)の寸法偏差とし、
上記旋回スクロール(50)の寸法偏差と上記ハウジング(60)の寸法偏差と上記固定スクロール(40)の寸法偏差の合計を合計偏差としたときに、
上記合計偏差の分散が上記ハウジング(60)の寸法偏差の分散よりも小さくなるように、上記ハウジング(60)の寸法偏差の分散が、上記ハウジング(60)に形成された複数の上記位置決め構造(67)同士の間隔の分散よりも大きくなっている
ことを特徴とするスクロール流体機械。
旋回側ラップ(52)とボス部(53)とが形成された旋回スクロール(50)と、上記旋回スクロール(50)の上記ボス部(53)に連結する回転軸(25)を支持する軸受部(64)が形成されたハウジング(60)と、上記旋回側ラップ(52)と噛み合う固定側ラップ(42)が形成されて上記ハウジング(60)に固定される固定スクロール(40)とを備え、上記固定スクロール(40)と上記ハウジング(60)のそれぞれに、上記ハウジング(60)に対する上記固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造(44,67)が複数ずつ形成されたスクロール流体機械の製造方法であって、
被加工部品である上記旋回スクロール(50)の上記旋回側ラップ(52)及び上記ボス部(53)を加工する旋回スクロール加工工程と、
被加工部品である上記固定スクロール(40)の上記固定側ラップ(42)及び上記位置決め構造(44)を加工する固定スクロール加工工程と、
被加工部品である上記ハウジング(60)の上記軸受部(64)及び上記位置決め構造(67)を加工するハウジング加工工程とを備える一方、
上記旋回側ラップ(52)の中心軸に対する上記ボス部(53)の中心軸の偏差を上記旋回スクロール(50)の寸法偏差とし、
上記ハウジング(60)の各上記位置決め構造(67)から最短の等距離に位置する直線をハウジング側中心軸とし、上記軸受部(64)の中心軸に対する上記ハウジング側中心軸の偏差を上記ハウジング(60)の寸法偏差とし、
上記固定スクロール(40)の各上記位置決め構造(44)から最短の等距離に位置する直線を固定側中心軸とし、上記固定側中心軸に対する上記固定側ラップ(42)の中心軸の偏差を上記固定スクロール(40)の寸法偏差とし、
上記旋回スクロール加工工程と上記固定スクロール加工工程と上記ハウジング加工工程のうちの一つを後加工工程として、残り二つのうちの少なくとも一つを上記後加工工程よりも前に行われる前加工工程としたときに、
上記前加工工程の終了後に、上記前加工工程において加工された被加工部品の寸法偏差を計測する計測工程と、
上記計測工程において計測された上記被加工部品の寸法偏差が、上記後加工工程において加工される被加工部品の寸法偏差によって相殺されるように、上記後加工工程において加工される被加工部品の寸法偏差の目標値を設定する目標設定工程とを更に備え、
上記後加工工程では、被加工部品の寸法偏差が上記目標設定工程において設定された目標値となるように、被加工部品の加工を行う
ことを特徴とするスクロール流体機械の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
《実施形態1》
実施形態1のスクロール圧縮機(10)について説明する。このスクロール圧縮機(10)は、スクロール流体機械であって、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示省略)に接続され、流体である冷媒を圧縮する。
【0032】
−スクロール圧縮機の全体構成−
図1に示すように、スクロール圧縮機(10)は、密閉容器であるケーシング(11)に圧縮機構(30)と電動機(20)とが収容された全密閉型圧縮機である。
【0033】
ケーシング(11)は、両端が閉塞された円筒状の圧力容器である。ケーシング(11)は、その軸方向が上下方向となる姿勢で設置される。ケーシング(11)の上端部には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(30)へ導入するための吸入管(12)が設けられる。また、ケーシング(11)には、ケーシング(11)内の冷媒をケーシング(11)外に導出するための吐出管(13)が設けられる。
【0034】
ケーシング(11)の内部において、電動機(20)は、圧縮機構(30)の下方に配置される。電動機(20)と圧縮機構(30)は、駆動軸(25)によって連結される。電動機(20)は、固定子(21)と回転子(22)とを備える。電動機(20)の固定子(21)は、ケーシング(11)に固定される。電動機(20)の回転子(22)は、駆動軸(25)に取り付けられる。
【0035】
駆動軸(25)は、主軸部(26)と、偏心軸部(27)とを備える。主軸部(26)は、その軸心が駆動軸(25)の軸心と一致する。主軸部(26)には、電動機(20)の回転子(22)が取り付けられる。主軸部(26)は、回転子(22)の上側の部分が、後述するハウジング(60)の軸受部(64)に支持される。偏心軸部(27)は、比較的短い軸状に形成され、主軸部(26)の上端に突設される。偏心軸部(27)の軸心は、主軸部(26)の軸心と実質的に平行であり、主軸部(26)の軸心に対して偏心している。
【0036】
−圧縮機構の構成−
圧縮機構(30)は、旋回スクロール(50)と、固定スクロール(40)と、ハウジング(60)と、オルダム継手(32)とを備える。圧縮機構(30)では、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)が、流体室である圧縮室(31)を形成する。
【0037】
ハウジング(60)は、ケーシング(11)に固定される。固定スクロール(40)は、ハウジング(60)の上面に配置される。旋回スクロール(50)は、固定スクロール(40)とハウジング(60)との間に配置される。
【0038】
オルダム継手(32)は、旋回スクロール(50)とハウジング(60)の間に配置される。オルダム継手(32)は、後述する旋回スクロール(50)のキー溝(54)と、後述するハウジング(60)のキー溝(63)とに係合し、旋回スクロール(50)の自転を規制する。
【0039】
〈旋回スクロール〉
図2及び
図3に示すように、旋回スクロール(50)は、旋回側鏡板部(51)と、旋回側ラップ(52)と、ボス部(53)とを備える。
【0040】
旋回側鏡板部(51)は、概ね円形の平板状に形成される。旋回側ラップ(52)は、インボリュート曲線を描く渦巻き壁状に形成され、旋回側鏡板部(51)の前面(
図3における上面)から突出する。ボス部(53)は、旋回側鏡板部(51)の背面(
図3における下面)から突出する円筒状に形成され、旋回側鏡板部(51)の中央部に配置される。ボス部(53)は、ジャーナル軸受を構成する。このボス部(53)には、駆動軸(25)の偏心軸部(27)が差し込まれる(
図1を参照)。
【0041】
旋回スクロール(50)の旋回側鏡板部(51)には、キー溝(54)が形成される。キー溝(54)は、旋回側鏡板の背面に開口する凹溝である。キー溝(54)は、ボス部(53)を挟んで対向する位置に一つずつ配置される。このキー溝(54)には、オルダム継手(32)のキーが嵌まり込む。
【0042】
直線CL
OBは、ボス部(53)の中心軸CL
OBであり、点CP
OBは、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点である。また、点CP
OWは、旋回側ラップ(52)の中心であり、直線CL
OWは、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWである。旋回側ラップ(52)の中心は、旋回側ラップ(52)の形状を規定するインボリュート曲線の基礎円の中心である。点CP
OBと点CP
OWは、ボス部(53)の中心軸CL
OBと直交する一つの平面上の点である。旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWは、点CP
OWを通り、且つボス部(53)の中心軸CL
OBと平行な直線である。
【0043】
旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oは、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWに対するボス部(53)の中心軸CL
OBの偏差である。この寸法偏差D
Oは、点CP
OWを始点として点CP
OBを終点とするベクトルである。なお、
図2及び
図3では、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを誇張して示している。旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの大きさは、最大でも数十μm程度である。
【0044】
〈固定スクロール〉
図4及び
図5に示すように、固定スクロール(40)は、固定側鏡板部(41)と、固定側ラップ(42)と、外周壁部(43)とを備える。
【0045】
固定側鏡板部(41)は、固定スクロール(40)の上部に位置する比較的肉厚の平板状の部分である。固定側ラップ(42)は、インボリュート曲線を描く渦巻き壁状に形成され、固定側鏡板部(41)の前面(
図5における下面)から突出する。外周壁部(43)は、固定側ラップ(42)の外周側を囲むように形成され、固定側鏡板部(41)の前面から突出する。外周壁部(43)の突端面(
図5における下端面)は、実質的な平坦面である。また、外周壁部(43)の突端面は、固定側ラップ(42)の突端面(
図5における下端面)と実質的に面一である。
【0046】
固定スクロール(40)には、二つの位置決め穴(44)が形成される。各位置決め穴(44)は、ハウジング(60)に対する固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造である。
【0047】
各位置決め穴(44)は、外周壁部(43)の突端面に開口する円形断面の穴である。各位置決め穴(44)は、それぞれの中心軸が互いに実質的に平行であり、且つそれぞれの中心軸が外周壁部(43)の突端面と実質的に直交する。各位置決め穴(44)は、外周壁部(43)の外周縁付近に配置される。また、二つの位置決め穴(44)は、一方が他方に対して固定側ラップ(42)を挟んだ反対側に配置される。各位置決め穴(44)と後述する位置決めピン(35)の「はめあい」は、ハウジング(60)に対する固定スクロール(40)の固定位置を所望の精度で定められるように選択される。
【0048】
直線CL
FPは、固定側中心軸CL
FPであり、点CP
FPは、固定側中心軸CL
FP上の点である。固定側中心軸CL
FPは、二つの位置決め穴(44)の中心軸CA
FPを含む一つの平面上に位置し、各位置決め穴(44)の中心軸CA
FPからの距離が等しい直線である。固定側中心軸CL
FPは、各位置決め穴(44)の中心軸CA
FPから等距離かつ最短距離に位置する。
【0049】
点CP
FWは、固定側ラップ(42)の中心であり、直線CL
FWは、固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWである。固定側ラップ(42)の中心は、固定側ラップ(42)の形状を規定するインボリュート曲線の基礎円の中心である。点CP
FPと点CP
FWは、固定側中心軸CL
FPと直交する一つの平面上の点である。固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWは、点CP
FWを通り、且つ固定側中心軸CL
FPと平行な直線である。
【0050】
固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fは、固定側中心軸CL
FPに対する固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWの偏差である。この寸法偏差D
Fは、点CP
FPを始点として点CP
FWを終点とするベクトルである。なお、
図4及び
図5では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fを誇張して示している。固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの大きさは、最大でも数十μm程度である。
【0051】
〈ハウジング〉
図6及び
図7に示すように、ハウジング(60)は、本体部(61)と、軸受部(64)と、保持用突部(66)とを備える。
【0052】
本体部(61)は、肉厚の円板状に形成される。本体部(61)の中央部には、クランク室(62)が形成される。クランク室(62)は、本体部(61)の前面(
図7における上面)に開口する円柱状の窪みである。また、本体部(61)には、キー溝(63)が形成される。キー溝(63)は、本体部(61)の前面に開口する凹溝である。キー溝(63)は、クランク室(62)を挟んで対向する位置に一つずつ配置される。このキー溝(63)には、オルダム継手(32)のキーが嵌まり込む。
【0053】
軸受部(64)は、本体部(61)の背面(
図7における下面)から突出する円筒状に形成され、本体部(61)の中央部に配置される。軸受部(64)は、ジャーナル軸受を構成する。軸受部(64)の内側には、軸受メタル(65)が配置される(
図1を参照)。この軸受部(64)には、駆動軸(25)の主軸部(26)が挿し通される。
【0054】
ハウジング(60)には、四つの保持用突部(66)が形成される。各保持用突部(66)は、本体部(61)の前面から突出している。また、各保持用突部(66)は、本体部(61)の外周縁に沿って延びる湾曲した形状に形成される。各保持用突部(66)の突端面(
図7における上面)は、実質的な平坦面である。また、各保持用突部(66)の突端面は、互いに実質的に面一である。
【0055】
ハウジング(60)には、二つの位置決め穴(67)が形成される。各位置決め穴(67)は、ハウジング(60)に対する固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め構造である。
【0056】
各位置決め穴(67)は、保持用突部(66)の突端面に開口する円形断面の穴である。各位置決め穴(67)は、それぞれの中心軸が互いに実質的に平行であり、且つそれぞれの中心軸が保持用突部(66)の突端面と実質的に直交する。二つの位置決め穴(67)は、一方が他方に対してクランク室(62)を挟んだ反対側に配置される。各位置決め穴(67)と後述する位置決めピン(35)の「はめあい」は、ハウジング(60)に対する固定スクロール(40)の固定位置を所望の精度で定められるように選択される。
【0057】
直線CL
HBは、軸受部(64)の中心軸CL
HBであり、点CP
HBは、軸受部(64)の中心軸CL
HB上の点である。また、直線CL
HPは、ハウジング側中心軸CL
HPであり、点CP
HPは、ハウジング側中心軸CL
HP上の点である。ハウジング側中心軸CL
HPは、二つの位置決め穴(67)の中心軸CA
HPを含む一つの平面上に位置し、各位置決め穴(67)の中心軸CA
HPからの距離が等しい直線である。ハウジング側中心軸CL
HPは、各位置決め穴(67)の中心軸CA
HPから等距離かつ最短距離に位置する。
【0058】
ハウジング(60)の寸法偏差D
Hは、軸受部(64)の中心軸CL
HBに対するハウジング側中心軸CL
HPの偏差である。この寸法偏差D
Hは、点CP
HBを始点として点CP
HPを終点とするベクトルである。なお、
図6及び
図7では、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hを誇張して示している。ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの大きさは、最大でも数十μm程度である。
【0059】
〈固定スクロールと旋回スクロールとハウジングの配置〉
図8に示すように、固定スクロール(40)は、ハウジング(60)の上方に配置され、旋回スクロール(50)は、固定スクロール(40)とハウジング(60)との間に配置される。また、
図8では図示を省略するが、旋回スクロール(50)とハウジング(60)の間には、オルダム継手(32)が配置される。
【0060】
固定スクロール(40)とハウジング(60)は、それぞれの位置決め穴(44,67)に位置決めピン(35)が嵌り込む姿勢で組み合わされる。つまり、互いに向かい合う固定スクロール(40)の位置決め穴(44)とハウジング(60)の位置決め穴(67)には、対応する位置決めピン(35)が一本ずつ嵌り込む。このため、固定スクロール(40)とハウジング(60)を組み合わせた状態では、固定スクロール(40)の各位置決め穴(44)の中心軸CA
FPと、ハウジング(60)の各位置決め穴(67)の中心軸CA
HPとが互いに実質的に一致する。
【0061】
固定スクロール(40)は、図外の複数のボルトによってハウジング(60)に固定される。このボルトを締め込むと、固定スクロール(40)の外周壁部(43)の突端面が、ハウジング(60)の保持用突部(66)の突端面と密着する。そして、固定スクロール(40)は、ハウジング(60)に対して、固定側中心軸CL
FPがハウジング側中心軸CL
HPと実質的に一致する姿勢で固定される。
【0062】
−スクロール圧縮機の製造方法−
スクロール圧縮機(10)の製造方法について説明する。スクロール圧縮機(10)の製造方法では、圧縮機構(30)の構成部品を加工する工程と、圧縮機構(30)の構成部品を組み立てて駆動軸(25)と連結する工程と、圧縮機構(30)と電動機(20)とをケーシング(11)に収容する工程とが行われる。ここでは、圧縮機構(30)の構成部品を加工する工程の要部について説明する。
【0063】
圧縮機構(30)の構成部品を加工する工程では、旋回スクロール加工工程と、ハウジング加工工程と、固定スクロール加工工程と、計測工程と、目標設定工程とが行われる。
【0064】
図9に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)の製造方法では、旋回スクロール加工工程およびハウジング加工工程が前加工工程となり、固定スクロール加工工程が後加工工程となる。また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、後加工工程において加工される固定スクロール(40)が第1部品となり、前加工工程において加工される旋回スクロール(50)及びハウジング(60)が第2部品となる。
【0065】
前加工工程である旋回スクロール加工工程とハウジング加工工程は、計測工程および目標設定工程よりも前に行われる。前加工工程である旋回スクロール加工工程とハウジング加工工程は、一方が他方の後に行われてもよいし、両方が同時に並行して行われてもよい。後加工工程である固定スクロール加工工程は、計測工程および目標設定工程よりも後に行われる。
【0066】
〈旋回スクロール加工工程〉
旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)の表面と、旋回側鏡板部(51)の前面と、ボス部(53)の内周面と、キー溝(54)の表面とに、切削加工が施される(
図2及び
図3を参照)。つまり、旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)及びボス部(53)の加工が行われる。この旋回スクロール加工工程において、旋回側ラップ(52)及びボス部(53)の加工条件は、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBを一致させることを目標とした条件(即ち、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの目標値をゼロとした条件)に設定される。
【0067】
〈ハウジング加工工程〉
ハウジング加工工程では、保持用突部(66)の突端面と、クランク室(62)の周縁部の表面と、軸受部(64)の内周面と、キー溝(63)の表面とに、切削加工が施される(
図6及び
図7を参照)。また、ハウジング加工工程では、保持用突部(66)に位置決め穴(67)を形成する加工が行われる。つまり、ハウジング加工工程では、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工が行われる。このハウジング加工工程において、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工条件は、軸受部(64)の中心軸CL
HBとハウジング側中心軸CL
HPを一致させることを目標とした条件(即ち、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値をゼロとした条件)に設定される。
【0068】
〈計測工程〉
計測工程では、旋回スクロール加工工程において加工された旋回スクロール(50)と、ハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)のそれぞれについて、寸法の計測が行われる。そして、計測工程では、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hとが算出される。
【0069】
具体的に、計測工程では、旋回スクロール(50)の寸法の計測値に基づいて、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWの位置と、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBの位置とが算出される(
図2及び
図3を参照)。上述したように、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oは、点CP
OWを始点として点CP
OBを終点とするベクトルである。計測工程では、算出された点CP
OW及び点CP
OBの位置に基づいて、旋回スクロール(50)の寸法偏差であるベクトルD
Oが特定される。
【0070】
また、計測工程では、ハウジング(60)の寸法の計測値に基づいて、軸受部(64)の中心軸CL
HB上の点CP
HBの位置と、ハウジング側中心軸CL
HP上の点CP
HPの位置とが算出される(
図6及び
図7を参照)。上述したように、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hは、点CP
HBを始点として点CP
HPを終点とするベクトルである。計測工程では、算出された点CP
HB及び点CP
HPの位置に基づいて、ハウジング(60)の寸法偏差であるベクトルD
Hが特定される。
【0071】
〈目標設定工程〉
目標設定工程では、後加工工程である固定スクロール加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値が設定される。この目標設定工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値である目標ベクトルD
F’=(x
F’,y
F’)が、計測工程において算出された旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとを相殺するように設定される。ここでは、目標設定工程について、
図10を参照しながら説明する。
【0072】
図10は、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWを原点Oとする二次元座標を示す。この二次元座標において、計測工程で得られた旋回スクロール(50)の寸法偏差をベクトルD
O=(x
O,y
O)とし、計測工程で得られたハウジング(60)の寸法偏差をベクトルD
H=(x
H,y
H)とする。
【0073】
旋回スクロール(50)のボス部(53)の中心軸CL
OBとハウジング(60)の軸受部(64)の中心軸CL
HBが一致する仮想状態では、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBと、軸受部(64)の中心軸CL
HB上の点CP
HBとが一致する。従って、
図10の二次元座標において、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)は、原点Oを始点として点Aを終点とするベクトルであり、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)は、点Aを始点として点Bを終点とするベクトルである。点Aは、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBであり、且つ軸受部(64)の中心軸CL
HB上の点CP
HBである。点Bは、ハウジング側中心軸CL
HP上の点CP
HPである。
【0074】
固定スクロール(40)とハウジング(60)は、それぞれの位置決め穴(44,67)に嵌り込む位置決めピン(35)によって、相対的な位置が設定される。固定スクロール(40)において、固定側中心軸CL
FP上の点CP
FPは、各位置決め穴(44)の中心軸CA
FPからの距離が等しい。また、ハウジング(60)において、ハウジング側中心軸CL
HP上の点CP
HPは、各位置決め穴(67)の中心軸CA
HPからの距離が等しい。このため、固定スクロール(40)の点CP
FPは、ハウジング(60)の点CP
HPと一致する。従って、
図10において、固定スクロール(40)の寸法偏差であるベクトルD
Fの始点は、点Bとなる。
【0075】
固定スクロール(40)の寸法偏差であるベクトルD
Fの終点は、固定側ラップ(42)の中心点CP
FWである。従って、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)によって旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとを相殺するには、ベクトルD
Fの終点を原点Oにすればよい。つまり、ベクトルD
F(固定スクロール(40)の寸法偏差)を、ベクトルD
O(旋回スクロール(50)の寸法偏差)とベクトルD
H(ハウジング(60)の寸法偏差)の和(ベクトルD
O+ベクトルD
H=(x
O+x
H,y
O+y
H))の逆ベクトルにすればよい。そこで、目標設定工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差の目標値である目標ベクトルD
F’が、D
F’=(x
F’,y
F’)=(−(x
O+x
H),−(y
O+y
H))に設定される。
【0076】
〈固定スクロール加工工程〉
固定スクロール加工工程では、固定側ラップ(42)の表面と、固定側鏡板部(41)の前面と、外周壁部(43)の前面とに、切削加工が施される(
図4及び
図5を参照)。また、固定スクロール加工工程では、外周壁部(43)に位置決め穴(44)を形成する加工が行われる。つまり、固定スクロール加工工程では、固定側ラップ(42)及び位置決め穴(44)の加工が行われる。この固定スクロール加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差であるベクトルD
Fが目標ベクトルD
F’となるような加工条件で、固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0077】
−圧縮機構の寸法偏差−
本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)について、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれの寸法偏差と、それらの合計である合計偏差について説明する。
【0078】
〈旋回スクロールの寸法偏差〉
上述したように、旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBを一致させることを目標とした加工条件で、旋回側ラップ(52)とボス部(53)の加工が行われる。
【0079】
実際の旋回スクロール加工工程では、加工誤差が生じる。このため、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBは、通常は一致しない。
図11は、数十個の旋回スクロール(50)について、それぞれの寸法偏差(ベクトルD
O)の分布を、二次元座標に示したものである。
図11において、二次元座標の原点は、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OW上の点CP
OW(即ち、ベクトルD
Oの始点)である。また、この二次元座標上の点は、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OB(即ち、ベクトルD
Oの終点)である。
【0080】
図11の二次元座標において、点CP
OB(ベクトルD
Oの終点)は、x座標がx
Oi(i=1,2,・・・・,n)であり、y座標がy
Oi(i=1,2,・・・・,n)である。旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のx方向成分とy方向成分は、それぞれの確率分布が
図11に示すような正規分布である。また、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)は、x方向成分の分散がV
Oxであり、y方向成分の分散がV
Oyである。
【0081】
旋回スクロール加工工程では、旋回側鏡板部(51)の前面側から旋回側ラップ(52)の加工が行われ、旋回側鏡板部(51)の背面側からボス部(53)の加工が行われる。このため、旋回スクロール加工工程では、比較的大きな加工誤差が生じる。従って、通常、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)は、x方向成分の分散V
Oxとy方向成分の分散V
Oyのそれぞれが、比較的大きくなる。
【0082】
〈ハウジングの寸法偏差〉
上述したように、ハウジング加工工程では、軸受部(64)の中心軸CL
HBとハウジング側中心軸CL
HPを一致させることを目標とした加工条件で、軸受部(64)と位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0083】
実際のハウジング加工工程では、加工誤差が生じる。このため、ハウジング側中心軸CL
HPと軸受部(64)の中心軸CL
HBは、通常は一致しない。
図12は、数十個のハウジング(60)について、それぞれの寸法偏差(ベクトルD
H)の分布を、二次元座標に示したものである。
図12において、二次元座標の原点は、軸受部(64)の中心軸CL
HB上の点CP
HB(即ち、ベクトルD
Hの始点)である。また、この二次元座標上の点は、ハウジング側中心軸CL
HP上の点CP
HP(即ち、ベクトルD
Hの終点)である。
【0084】
図12の二次元座標において、点CP
HP(ベクトルD
Hの終点)は、x座標がx
Hi(i=1,2,・・・・,n)であり、y座標がy
Hi(i=1,2,・・・・,n)である。ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分とy方向成分は、それぞれの確率分布が
図12に示すような正規分布である。また、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)は、x方向成分の分散がV
Hxであり、y方向成分の分散がV
Hyである。
【0085】
ハウジング(60)の軸受部(64)は、本体部(61)を貫通する孔を形成する。従って、ハウジング加工工程では、ワークの姿勢を一定に保ったまま、本体部(61)の前面側から軸受部(64)を計測して中心軸CL
HBの位置を特定し、特定した中心軸CL
HBの位置に基づいて位置決め穴(67)の加工位置を定めることができる。このため、ハウジング加工工程で生じる加工誤差は、通常、旋回スクロール加工工程で生じる加工誤差よりも小さくなる。従って、通常、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hx及びy方向成分の分散V
Hyは、それぞれ、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)の分散V
Ox及び分散V
Oyよりも小さくなる。
【0086】
〈固定スクロールの寸法偏差〉
上述したように、固定スクロール加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差を目標ベクトルD
F’に一致させることを目標とした加工条件で、固定側ラップ(42)及び位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0087】
目標ベクトルD
F’は、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとを相殺するように設定される。従って、この目標ベクトルD
F’には、旋回スクロール加工工程で生じた加工誤差と、ハウジング加工工程で生じた加工誤差とが含まれる。更に、固定スクロール加工工程においても、加工誤差が生じる。このため、固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)は、通常は目標ベクトルD
F’と一致しない。
【0088】
図13は、本実施形態の固定スクロール加工工程によって加工された数十個の固定スクロール(40)について、それぞれの寸法偏差(ベクトルD
F)の分布を、二次元座標に示したものである。
図13において、二次元座標の原点は、固定側中心軸CL
FP上の点CP
FP(即ち、ベクトルD
Fの始点)である。また、この二次元座標上の点は、固定側ラップ(42)の中心軸CL
FW上の点CP
FW(即ち、ベクトルD
Fの終点)である。
【0089】
図13の二次元座標において、点CP
FW(ベクトルD
Fの終点)は、x座標がx
Fi(i=1,2,・・・・,n)であり、y座標がy
Fi(i=1,2,・・・・,n)である。固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分とy方向成分は、それぞれの確率分布が
図13に示すような正規分布である。また、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)は、x方向成分の分散がV
Fxであり、y方向成分の分散がV
Fyである。
【0090】
固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)には、目標ベクトルD
F’に含まれる旋回スクロール加工工程およびハウジング加工工程の加工誤差と、固定スクロール加工工程の加工誤差とが含まれる。
【0091】
このため、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fxは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のx方向成分の分散V
Oxと、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hxとを包括する。具体的には、分散V
Fxが分散V
Oxと分散V
Hxの和以上となる(V
Fx≧V
Ox+V
Hx)。
【0092】
また、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のy方向成分の分散V
Fyは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のy方向成分の分散V
Oyと、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のy方向成分の分散V
Hyとを包括する。具体的には、分散V
Fyが分散V
Oyと分散V
Hyの和以上となる(V
Fy≧V
Oy+V
Hy)。
【0093】
また、本実施形態の固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)は、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyのそれぞれが、二つの位置決め穴(44)同士の間隔L
FPの分散よりも大きい。位置決め穴(44)同士の間隔L
FPは、各位置決め穴(44)の中心軸CA
FP同士の距離である(
図5を参照)。
【0094】
〈固定スクロール加工工程において生じる加工誤差〉
本実施形態の固定スクロール加工工程において生じる加工誤差について説明する。本実施形態の固定スクロール加工工程で生じる加工誤差は、一般的な固定スクロール加工工程で生じる加工誤差と実質的に同じである。
【0095】
一般的な固定スクロール加工工程では、固定側中心軸CL
FPと固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWを一致させること(即ち、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fをゼロにすること)を目標とした加工条件で、固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)の加工が行われる。
図18は、一般的な固定スクロール加工工程において加工された数十個の固定スクロール(40)について、それぞれの寸法偏差(ベクトルD
F)の分布を、二次元座標に示したものである。この
図18の二次元座標は、
図13に示す二次元座標と同じである。
【0096】
本実施形態の固定スクロール加工工程と一般的な固定スクロール加工工程の何れにおいても、固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)の加工の両方が、外周壁部(43)の突端面側から行われる。このため、固定スクロール加工工程で生じる加工誤差は、通常、旋回スクロール加工工程で生じる加工誤差よりも小さくなる。
【0097】
従って、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fをゼロにすることを目標とした加工条件で固定スクロール(40)を加工した場合、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)は、通常、x方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyが、それぞれ、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)の分散V
Ox及び分散V
Oyよりも小さくなる。また、この場合、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyは、それぞれ、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)の分散V
Hx及び分散V
Hyよりも小さくなる。
【0098】
〈合計偏差〉
旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)と固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の合計である合計偏差D
ASは、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である。ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点は、点Bを始点とするベクトルD
Fの終点Cである(
図10を参照)。
【0099】
図10に示すように、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)が目標ベクトルD
F’と一致する場合は、合計偏差がゼロ(ゼロベクトル)となる。しかし、後加工工程である固定スクロール加工工程においても、加工誤差は生じる。このため、殆どの場合、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)は目標ベクトルD
F’と異なり、従って、合計偏差はゼロにならない。
【0100】
上述したように、本実施形態の固定スクロール加工工程で生じる加工誤差は、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fをゼロにすることを目標とした加工条件で固定スクロール(40)を加工した場合の加工誤差と実質的に同じである。このため、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図10の領域A
AS1内に位置する。
【0101】
なお、
図10では、領域A
AS1を、模式的に原点Oを中心とする真円としている。実際には、領域A
AS1は、やや歪んだ円形となり、領域A
AS1の中心は、原点Oから若干ずれる。
【0102】
本実施形態では、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)が、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)によって相殺される。従って、実質的には、後加工工程である固定スクロール加工工程で生じた加工誤差だけが、本実施形態における合計偏差(ベクトルD
AS)の原因となる。
【0103】
図14は、数十組の旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)について、それぞれの合計偏差(ベクトルD
AS)の分布を、二次元座標に示したものである。
図14において、二次元座標の原点は、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OW上の点CP
OW(即ち、ベクトルD
ASの始点)である。また、この二次元座標上の点は、固定側ラップ(42)の中心軸CL
FW上の点CP
FW(ベクトルD
ASの終点)である。
【0104】
図14の二次元座標において、点CP
FW(即ち、ベクトルD
ASの終点)は、x座標がx
ASi(i=1,2,・・・・,n)であり、y座標がy
ASi(i=1,2,・・・・,n)である。合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分とy方向成分は、それぞれの確率分布が
図14に示すような正規分布である。また、合計偏差(ベクトルD
AS)は、x方向成分の分散がV
ASxであり、y方向成分の分散がV
ASyである。
【0105】
上述したように、本実施形態における合計偏差(ベクトルD
AS)の原因は、実質的には、後加工工程である固定スクロール加工工程で生じた加工誤差だけである。このため、
図14に示す合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分の分散V
ASx及びy方向成分の分散V
ASyは、それぞれ、
図18に示す固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyと概ね一致する。上述したように、
図18は、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fをゼロにすることを目標とした加工条件で固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)を加工した場合の、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の分布を示す。
【0106】
ただし、旋回スクロール(50)、固定スクロール(40)、及びハウジング(60)の寸法を計測器で計測する場合、得られた寸法の計測値には、計測器の誤差が含まれる。このため、
図14に示す合計偏差(ベクトルD
AS)の分散V
ASx及び分散V
ASyは、
図18に示す固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の分散V
Fx及び分散V
Fyと全く同じではない。
【0107】
上述したように、本実施形態の固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)は、その寸法偏差D
Fの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散と、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散とを包括する。従って、
図14に示す合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分の分散V
ASx及びy方向成分の分散V
ASyは、それぞれ、
図13に示す固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyよりも小さい。
【0108】
−実施形態1の効果−
本実施形態の製造方法は、旋回側ラップ(52)とボス部(53)とが形成された旋回スクロール(50)と、旋回スクロール(50)のボス部(53)に連結する回転軸を支持する軸受部(64)が形成されるハウジング(60)と、旋回側ラップ(52)と噛み合う固定側ラップ(42)が形成されたハウジング(60)に固定される固定スクロール(40)とを備え、固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれに、ハウジング(60)に対する固定スクロール(40)の固定位置を定めるための位置決め穴(44,67)が複数ずつ形成されたスクロール流体機械を製造する方法である。
【0109】
本実施形態の製造方法は、被加工部品である旋回スクロール(50)の旋回側ラップ(52)及びボス部(53)を加工する旋回スクロール加工工程と、被加工部品である固定スクロール(40)の固定側ラップ(42)及び位置決め穴(44)を加工する固定スクロール加工工程と、被加工部品であるハウジング(60)の軸受部(64)及び位置決め穴(67)を加工するハウジング加工工程とを備える。また、本実施形態の製造方法では、旋回スクロール加工工程とハウジング加工工程とが前加工工程であり、固定スクロール加工工程が後加工工程である。
【0110】
また、本実施形態の製造方法では、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWに対するボス部(53)の中心軸CL
OBの偏差を旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとし、ハウジング(60)の各位置決め穴(67)から最短の等距離に位置する直線をハウジング側中心軸CL
HPとし、軸受部(64)の中心軸CL
HBに対するハウジング側中心軸CL
HPの偏差をハウジング(60)の寸法偏差D
Hとし、固定スクロール(40)の各位置決め穴(44)から最短の等距離に位置する直線を固定側中心軸CL
FPとし、固定側中心軸CL
FPに対する固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWの偏差を固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとし、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hと固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの合計を合計偏差D
ASとする。
【0111】
本実施形態の製造方法では、旋回スクロール加工工程およびハウジング加工工程が前加工工程であり、固定スクロール加工工程が後加工工程である。そして、本実施形態の製造方法は、前加工工程の終了後に、前加工工程において加工された旋回スクロール(50)及びハウジング(60)の寸法偏差を計測する計測工程と、計測工程において計測された旋回スクロール(50)及びハウジング(60)の寸法偏差が、後加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差によって相殺されるように、後加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差の目標値を設定する目標設定工程とを更に備え、後加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差が目標設定工程において設定された目標値となるように、固定スクロール(40)の加工を行う。
【0112】
ここで、従来のスクロール圧縮機(10)の製造方法において、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)の加工は、それぞれの寸法偏差をゼロにすることを目標とした加工条件で行われていた。量産された多数のスクロール圧縮機(10)のそれぞれについて、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)の寸法偏差は、互いに相殺することもあれば、全く相殺しないこともある。
【0113】
図19は、従来の製造方法で製造されたスクロール圧縮機(10)における旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)と固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)を、
図10と同じ二次元座標に表示したものである。ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図19の領域A
AS5内に位置する。また、
図20は、従来の製造方法で製造されたスクロール圧縮機(10)における合計偏差(合成ベクトルD
AS)の分布を、
図14と同じ二次元座標に示したものである。
【0114】
一方、本実施形態の製造方法において、目標設定工程では、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとが、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fによって相殺されるように、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値が設定される。また、本実施形態の製造方法において、固定スクロール加工工程では、“固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)”が“目標設定工程において設定された目標値(目標ベクトルD
F’)”となるように、固定スクロール(40)の加工が行われる。
【0115】
このため、
図10に示すように、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとが、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fによって相殺される。その結果、ベクトルD
AS(合計偏差)の終点Cが存在し得る領域A
AS1の大きさを、
図19に示す領域A
AS5に比べて、大幅に縮小することができる。そして、
図14と
図20を比較すれば明らかであるが、本実施形態の製造方法によれば、合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分とy方向成分について、それぞれの分散V
ASx及びV
ASyを従来よりも大幅に減少させることができる。
【0116】
従って、本実施形態の製造方法によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工を従来と同程度の加工精度で行いながら、合計偏差D
ASの分散を引き下げることができる。このため、旋回スクロール(50)、ハウジング(60)、及び固定スクロール(40)について、それぞれの寸法の設計値を、加工誤差がゼロである場合の理想の寸法に近づけることができる。その結果、組み立て状態での旋回側ラップ(52)と固定側ラップ(42)の隙間を縮小でき、この隙間を通って圧縮室(31)から漏れ出す流体の量を削減できる。従って、本実施形態によれば、スクロール圧縮機(10)の製造コストの増加を抑えながら、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることができる。
【0117】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散とハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散とを包括し、且つ合計偏差D
ASの分散が、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散よりも小さい。
【0118】
従来は、合計偏差の分散を固定スクロール(40)の寸法偏差の分散よりも小さくすることができなかった。しかし、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとを固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fで相殺することによって、合計偏差D
ASの分散を固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0119】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)は、合計偏差D
ASの分散が固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散よりも小さくなるように、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散が、固定スクロール(40)に形成された複数の位置決め穴(44)同士の間隔L
FPの分散よりも大きくなっている。
【0120】
このため、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oとハウジング(60)の寸法偏差D
Hとを固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fで相殺することによって、“合計偏差D
ASの分散”を“固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散”よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0121】
なお、旋回スクロール(50)、ハウジング(60)、及び固定スクロール(40)の寸法偏差の分散は、概ね30個ずつの旋回スクロール(50)、ハウジング(60)、及び固定スクロール(40)について寸法の計測を行えば、算出できる。
【0122】
《実施形態2》
実施形態2のスクロール圧縮機(10)と、その製造方法について説明する。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(10)とその製造方法のそれぞれについて、実施形態1と異なる点を説明する。
【0123】
−スクロール圧縮機の製造方法−
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の製造方法では、旋回スクロール加工工程および固定スクロール加工工程が前加工工程となり、ハウジング加工工程が後加工工程となる。前加工工程である旋回スクロール加工工程と固定スクロール加工工程は、一方が他方の後に行われてもよいし、両方が同時に並行して行われてもよい。また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、後加工工程において加工されるハウジング(60)が第1部品となり、前加工工程において加工される旋回スクロール(50)及び固定スクロール(40)が第2部品となる。
【0124】
〈旋回スクロール加工工程〉
本実施形態の旋回スクロール加工工程は、実施形態1の旋回スクロール加工工程と同じである。つまり、本実施形態の旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBを一致させることを目標とした加工条件(即ち、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの目標値をゼロとした加工条件)で、旋回側ラップ(52)及びボス部(53)の加工が行われる。
【0125】
〈固定スクロール加工工程〉
本実施形態の固定スクロール加工工程は、加工条件が実施形態1の固定スクロール加工工程と異なる。本実施形態の固定スクロール加工工程では、固定側中心軸CL
FPと固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWを一致させることを目標とした加工条件(即ち、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値をゼロとした加工条件)で、固定側ラップ(42)及び位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0126】
〈計測工程〉
計測工程では、旋回スクロール加工工程において加工された旋回スクロール(50)と、固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)のそれぞれについて、寸法の計測が行われる。そして、計測工程では、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとが算出される。
【0127】
旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを算出する工程は、実施形態1と同じである。つまり、計測工程では、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWの位置と、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBの位置とが算出され、それらの位置に基づいて旋回スクロール(50)の寸法偏差であるベクトルD
Oが特定される。
【0128】
計測工程では、固定スクロール(40)の寸法の計測値に基づいて、固定側ラップ(42)の中心点CP
FWの位置と、固定側中心軸CL
FP上の点CP
FPの位置とが算出される(
図4及び
図5を参照)。上述したように、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fは、点CP
FPを始点として点CP
FWを終点とするベクトルである。計測工程では、算出された点CP
FW及び点CP
FPの位置に基づいて、固定スクロール(40)の寸法偏差であるベクトルD
Fが特定される。
【0129】
〈目標設定工程〉
目標設定工程では、後加工工程であるハウジング加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値が設定される。ここでは、本実施形態の目標設定工程について、
図15を参照しながら説明する。
【0130】
図15は、実施形態1に関する
図10に相当する図である。この
図15は、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWを原点Oとする二次元座標を示す。この二次元座標において、計測工程で得られた旋回スクロール(50)の寸法偏差をベクトルD
O=(x
O,y
O)とし、計測工程で得られた固定スクロール(40)の寸法偏差をベクトルD
F=(x
F,y
F)とする。
【0131】
本実施形態の目標設定工程では、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値である目標ベクトルD
H’が、計測工程において算出された旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとを相殺するように設定される。具体的に、目標設定工程では、目標ベクトルD
H’ =(x
H’,y
H’)が、ベクトルD
O(旋回スクロール(50)の寸法偏差)とベクトルD
F(固定スクロール(40)の寸法偏差)の和(ベクトルD
O+ベクトルD
F=(x
O+x
F,y
O+y
F))の逆ベクトルに設定される。つまり、目標ベクトルD
H’は、 D
H’=(x
H’,y
H’)=(−(x
O+x
F),−(y
O+y
F))となる。
【0132】
〈ハウジング加工工程〉
本実施形態のハウジング加工工程は、加工条件が実施形態1のハウジング加工工程と異なる。本実施形態のハウジング加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差であるベクトルD
Hが目標ベクトルD
H’となるような加工条件で、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0133】
−圧縮機構の寸法偏差−
本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)について、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれの寸法偏差と、それらの合計である合計偏差について説明する。なお、旋回スクロール(50)の寸法偏差は、実施形態1と同じであるので、その説明を省略する。
【0134】
〈固定スクロールの寸法偏差〉
本実施形態の固定スクロール加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fをゼロにすることを目標とした加工条件で、固定スクロール(40)の加工が行われる。従って、本実施形態の固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差は、実施形態1において説明した“一般的な固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差”と同じである。つまり、本実施形態の固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyは、それぞれ、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)の分散V
Ox及び分散V
Oyよりも小さくなる。
【0135】
〈ハウジングの寸法偏差〉
上述したように、ハウジング加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差を目標ベクトルD
H’に一致させることを目標とした加工条件で、軸受部(64)と位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0136】
目標ベクトルD
H’は、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとを相殺するように設定される。従って、この目標ベクトルD
H’には、旋回スクロール加工工程で生じた加工誤差と、固定スクロール加工工程で生じた加工誤差とが含まれる。更に、ハウジング加工工程においても、加工誤差が生じる。このため、ハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)は、通常は目標ベクトルD
H’と一致しない。
【0137】
ハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)には、目標ベクトルD
H’に含まれる旋回スクロール加工工程およびハウジング(60)固定スクロール加工工程の加工誤差と、固定スクロール加工工程の加工誤差とが含まれる。
【0138】
このため、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hxは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のx方向成分の分散V
Oxと、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fxとを包括する。具体的には、分散V
Hxが分散V
Oxと分散V
Fxの和以上となる(V
Hx≧V
Ox+V
Fx)。
【0139】
また、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のy方向成分の分散V
Hyは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のy方向成分の分散V
Oyと、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のy方向成分の分散V
Fyとを包括する。具体的には、分散V
Hyが分散V
Oyと分散V
Fyの和以上となる(V
Hy≧V
Oy+V
Fy)。
【0140】
また、本実施形態のハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)は、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hx及びy方向成分の分散V
Hyのそれぞれが、二つの位置決め穴(67)同士の間隔L
HPの分散よりも大きい。位置決め穴(67)同士の間隔L
HPは、各位置決め穴(67)の中心軸CA
HP同士の距離である(
図7を参照)。
【0141】
〈合計偏差〉
旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)と固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の合計である合計偏差D
ASは、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である。ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点は、点Bを始点とするベクトルD
Fの終点Cである(
図15を参照)。
【0142】
図15に示すように、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)が目標ベクトルD
H’と一致する場合は、合計偏差がゼロ(ゼロベクトル)となる。しかし、後加工工程であるハウジング加工工程においても、加工誤差は生じる。このため、殆どの場合、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)は目標ベクトルD
H’と異なり、従って、合計偏差はゼロにならない。
【0143】
本実施形態のハウジング加工工程で生じる加工誤差は、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hをゼロにすることを目標とした加工条件でハウジング(60)を加工した場合に生じる加工誤差と実質的に同じである。ハウジング(60)の寸法偏差であるベクトルD
Hの終点Bは、
図15の領域A
H内に位置する。このため、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図15の領域A
AS2内に位置する。
【0144】
なお、
図15では、領域A
AS2を、模式的に原点Oを中心とする真円としている。通常、実際の領域A
AS2は、やや歪んだ円形となり、実際の領域A
AS2の中心は、原点Oから若干ずれる。
【0145】
上述したように、本実施形態のハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)は、その寸法偏差D
Hの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散と、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散とを包括する。従って、合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分の分散V
ASx及びy方向成分の分散V
ASyは、それぞれ、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hx及びy方向成分の分散V
Hyよりも小さい。
【0146】
−実施形態2の効果−
本実施形態の製造方法では、旋回スクロール加工工程および固定スクロール加工工程が前加工工程であり、ハウジング加工工程が後加工工程である。そして、本実施形態の製造方法は、前加工工程の終了後に、前加工工程において加工された旋回スクロール(50)及び固定スクロール(40)の寸法偏差を計測する計測工程と、計測工程において計測された旋回スクロール(50)及び固定スクロール(40)の寸法偏差が、後加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差によって相殺されるように、後加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差の目標値を設定する目標設定工程とを更に備え、後加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差が目標設定工程において設定された目標値となるように、ハウジング(60)の加工を行う。
【0147】
本実施形態の製造方法によれば、実施形態1の製造方法と同様に、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工を従来と同程度の加工精度で行いながら、合計偏差D
ASの分散を引き下げることができる。従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様に、スクロール圧縮機(10)の製造コストの増加を抑えながら、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることができる。
【0148】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)では、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散と固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散とを包括し、且つ合計偏差D
ASの分散がハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さい。
【0149】
従来は、合計偏差の分散をハウジング(60)の寸法偏差の分散よりも小さくすることができなかった。しかし、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとをハウジング(60)の寸法偏差D
Hで相殺することによって、合計偏差D
ASの分散をハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0150】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)は、合計偏差D
ASの分散がハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さくなるように、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散が、ハウジング(60)に形成された複数の位置決め穴(67)同士の間隔L
HPの分散よりも大きくなっている。
【0151】
このため、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oと固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fとをハウジング(60)の寸法偏差D
Hで相殺することによって、“合計偏差D
ASの分散”を“ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散”よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0152】
《実施形態3》
実施形態3のスクロール圧縮機(10)と、その製造方法について説明する。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(10)とその製造方法のそれぞれについて、実施形態1と異なる点を説明する。
【0153】
−スクロール圧縮機の製造方法−
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の製造方法では、旋回スクロール加工工程が前加工工程となり、固定スクロール加工工程が後加工工程となる。ハウジング加工工程は、圧縮機構(30)を組み立てる工程よりも前であれば、いつ行われてもよい。また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、後加工工程において加工される固定スクロール(40)が第1部品となり、前加工工程において加工される旋回スクロール(50)が第2部品となる。
【0154】
〈旋回スクロール加工工程〉
本実施形態の旋回スクロール加工工程は、実施形態1の旋回スクロール加工工程と同じである。つまり、本実施形態の旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBを一致させることを目標とした加工条件(即ち、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの目標値をゼロとした加工条件)で、旋回側ラップ(52)及びボス部(53)の加工が行われる。
【0155】
〈計測工程〉
計測工程では、旋回スクロール加工工程において加工された旋回スクロール(50)について、寸法の計測が行われ、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oが算出される。
【0156】
旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを算出する工程は、実施形態1と同じである。つまり、計測工程では、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWの位置と、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBの位置とが算出され、それらの位置に基づいて旋回スクロール(50)の寸法偏差であるベクトルD
Oが特定される。
【0157】
〈目標設定工程〉
目標設定工程では、後加工工程である固定スクロール加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値が設定される。ここでは、本実施形態の目標設定工程について、
図16を参照しながら説明する。
【0158】
図16は、実施形態1に関する
図10に相当する図である。この
図16は、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWを原点Oとする二次元座標を示す。この二次元座標において、計測工程で得られた旋回スクロール(50)の寸法偏差をベクトルD
O=(x
O,y
O)とする。また、この二次元座標において、ハウジング(60)の寸法偏差をベクトルD
H=(x
H,y
H)とする。
【0159】
本実施形態の目標設定工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値である目標ベクトルD
F’が、計測工程において算出された旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを相殺するように設定される。具体的に、目標設定工程では、目標ベクトルD
F’=(x
F’,y
F’)が、ベクトルD
O(旋回スクロール(50)の寸法偏差)の逆ベクトルに設定される。つまり、目標ベクトルD
F’は、 D
F’=(x
F’,y
F’)=(−x
O,−y
O)となる。
【0160】
〈固定スクロール加工工程〉
本実施形態の固定スクロール加工工程では、実施形態1と同様に、固定スクロール(40)の寸法偏差であるベクトルD
Fが目標ベクトルD
F’となるような加工条件で、固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0161】
〈ハウジング加工工程〉
本実施形態のハウジング加工工程は、実施形態1のハウジング加工工程と同じである。つまり、本実施形態のハウジング加工工程では、軸受部(64)の中心軸CL
HBとハウジング側中心軸CL
HPを一致させることを目標とした加工条件(即ち、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値をゼロとした加工条件)で、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0162】
−圧縮機構の寸法偏差−
本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)について、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれの寸法偏差と、それらの合計である合計偏差について説明する。なお、旋回スクロール(50)の寸法偏差とハウジング(60)の寸法偏差とは、実施形態1と同じであるので、その説明を省略する。
【0163】
〈固定スクロールの寸法偏差〉
上述したように、固定スクロール加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差を目標ベクトルD
F’に一致させることを目標とした加工条件で、固定側ラップ(42)と位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0164】
目標ベクトルD
F’は、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを相殺するように設定される。従って、この目標ベクトルD
F’には、旋回スクロール加工工程で生じた加工誤差が含まれる。更に、固定スクロール加工工程においても、加工誤差が生じる。このため、固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)は、通常は目標ベクトルD
F’と一致しない。
【0165】
固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)には、目標ベクトルD
F’に含まれる旋回スクロール加工工程の加工誤差と、固定スクロール加工工程の加工誤差とが含まれる。
【0166】
このため、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fxは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のx方向成分の分散V
Oxを包括する。具体的には、分散V
Fxが分散V
Ox以上となる(V
Fx≧V
Ox)。
【0167】
また、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のy方向成分の分散V
Fyは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のy方向成分の分散V
Oyを包括する。具体的には、分散V
Fyが分散V
Oy以上となる(V
Fy≧V
Oy)。
【0168】
また、本実施形態の固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)は、実施形態1と同様に、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyのそれぞれが、二つの位置決め穴(44)同士の間隔L
FPの分散よりも大きい。
【0169】
〈合計偏差〉
旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)と固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の合計である合計偏差D
ASは、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である。ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点は、点Bを始点とするベクトルD
Fの終点Cである(
図16を参照)。
【0170】
図16に示すように、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)が目標ベクトルD
F’と一致する場合は、合計偏差D
ASがハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)と等しくなる。このため、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)が目標ベクトルD
F’と一致する場合、合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図16の領域A
H内に位置する。この領域A
Hは、“ベクトルD
H(ハウジング(60)の寸法偏差)と等しく且つ原点Oを始点とするベクトル”の終点が存在し得る領域である。また、後加工工程である固定スクロール加工工程においても、加工誤差は生じる。この加工誤差は、
図16の領域A
Fである。このため、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図16の領域A
AS3(即ち、領域A
Hと領域A
Fを含む領域)内に位置する。
【0171】
なお、
図16では、領域A
AS3を、模式的に原点Oを中心とする真円としている。通常、実際の領域A
AS3は、やや歪んだ円形となり、実際の領域A
AS3の中心は、原点Oから若干ずれる。
【0172】
上述したように、本実施形態の固定スクロール加工工程において加工された固定スクロール(40)は、その寸法偏差D
Fの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散を包括する。従って、合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分の分散V
ASx及びy方向成分の分散V
ASyは、それぞれ、固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)のx方向成分の分散V
Fx及びy方向成分の分散V
Fyよりも小さい。
【0173】
−実施形態3の効果−
本実施形態の製造方法では、旋回スクロール加工工程が前加工工程であり、固定スクロール加工工程が後加工工程である。そして、本実施形態の製造方法は、前加工工程の終了後に、前加工工程において加工された旋回スクロール(50)の寸法偏差を計測する計測工程と、計測工程において計測された旋回スクロール(50)の寸法偏差が、後加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差によって相殺されるように、後加工工程において加工される固定スクロール(40)の寸法偏差の目標値を設定する目標設定工程とを更に備え、後加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差が目標設定工程において設定された目標値となるように、固定スクロール(40)の加工を行う。
【0174】
本実施形態の製造方法によれば、実施形態1の製造方法と同様に、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工を従来と同程度の加工精度で行いながら、合計偏差D
ASの分散を引き下げることができる。従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様に、スクロール圧縮機(10)の製造コストの増加を抑えながら、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることができる。
【0175】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)では、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散を包括し、且つ合計偏差D
ASの分散が、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散よりも小さい。
【0176】
従来は、合計偏差の分散を固定スクロール(40)の寸法偏差の分散よりも小さくすることができなかった。しかし、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fで相殺することによって、合計偏差D
ASの分散を固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fよりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0177】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)は、合計偏差D
ASの分散が固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散よりも小さくなるように、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散が、固定スクロール(40)に形成された複数の位置決め穴(44)同士の間隔L
FPの分散よりも大きくなっている。
【0178】
このため、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fで相殺することによって、“合計偏差D
ASの分散”を“固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの分散”よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0179】
《実施形態4》
実施形態4のスクロール圧縮機(10)と、その製造方法について説明する。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(10)とその製造方法のそれぞれについて、実施形態1と異なる点を説明する。
【0180】
−スクロール圧縮機の製造方法−
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の製造方法では、旋回スクロール加工工程が前加工工程となり、ハウジング加工工程が後加工工程となる。固定スクロール加工工程は、圧縮機構(30)を組み立てる工程よりも前であれば、いつ行われてもよい。また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、後加工工程において加工されるハウジング(60)が第1部品となり、前加工工程において加工される旋回スクロール(50)が第2部品となる。
【0181】
〈旋回スクロール加工工程〉
本実施形態の旋回スクロール加工工程は、実施形態1の旋回スクロール加工工程と同じである。つまり、本実施形態の旋回スクロール加工工程では、旋回側ラップ(52)の中心軸CL
OWとボス部(53)の中心軸CL
OBを一致させることを目標とした加工条件(即ち、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの目標値をゼロとした加工条件)で、旋回側ラップ(52)及びボス部(53)の加工が行われる。
【0182】
〈計測工程〉
計測工程では、旋回スクロール加工工程において加工された旋回スクロール(50)について、寸法の計測が行われ、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oが算出される。
【0183】
旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを算出する工程は、実施形態1と同じである。つまり、計測工程では、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWの位置と、ボス部(53)の中心軸CL
OB上の点CP
OBの位置とが算出され、それらの位置に基づいて旋回スクロール(50)の寸法偏差であるベクトルD
Oが特定される。
【0184】
〈目標設定工程〉
目標設定工程では、後加工工程であるハウジング加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値が設定される。ここでは、本実施形態の目標設定工程について、
図17を参照しながら説明する。
【0185】
図17は、実施形態1に関する
図10に相当する図である。この
図17は、旋回側ラップ(52)の中心点CP
OWを原点Oとする二次元座標を示す。この二次元座標において、計測工程で得られた旋回スクロール(50)の寸法偏差をベクトルD
O=(x
O,y
O)とする。また、この二次元座標において、固定スクロール(40)の寸法偏差をベクトルD
F=(x
F,y
F)とする。
【0186】
本実施形態の目標設定工程では、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの目標値である目標ベクトルD
H’が、計測工程において算出された旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを相殺するように設定される。具体的に、目標設定工程では、目標ベクトルD
H’=(x
H’,y
H’)が、ベクトルD
O(旋回スクロール(50)の寸法偏差)の逆ベクトルに設定される。つまり、目標ベクトルD
H’は、 D
H’=(x
H’,y
H’)=(−x
O,−y
O)となる。
【0187】
〈ハウジング加工工程〉
本実施形態のハウジング加工工程は、加工条件が実施形態1のハウジング加工工程と異なる。本実施形態のハウジング加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差であるベクトルD
Hが目標ベクトルD
H’となるような加工条件で、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0188】
〈固定スクロール加工工程〉
本実施形態の固定スクロール加工工程は、実施形態2のハウジング加工工程と同じである。つまり、本実施形態の固定スクロール加工工程では、固定側中心軸CL
FPと固定側ラップ(42)の中心軸CL
FWを一致させることを目標とした加工条件(即ち、固定スクロール(40)の寸法偏差D
Fの目標値をゼロとした加工条件)で、固定側ラップ(42)及び位置決め穴(44)の加工が行われる。
【0189】
−圧縮機構の寸法偏差−
本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)について、旋回スクロール(50)と固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれの寸法偏差と、それらの合計である合計偏差について説明する。なお、旋回スクロール(50)の寸法偏差は、実施形態1と同じであるので、その説明を省略する。また、固定スクロール(40)の寸法偏差は、実施形態2と同じであるので、その説明を省略する。
【0190】
〈ハウジングの寸法偏差〉
上述したように、ハウジング加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差を目標ベクトルD
H’に一致させることを目標とした加工条件で、軸受部(64)及び位置決め穴(67)の加工が行われる。
【0191】
目標ベクトルD
H’は、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oを相殺するように設定される。従って、この目標ベクトルD
H’には、旋回スクロール加工工程で生じた加工誤差が含まれる。更に、ハウジング加工工程においても、加工誤差が生じる。このため、ハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)は、通常は目標ベクトルD
H’と一致しない。
【0192】
ハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)には、目標ベクトルD
H’に含まれる旋回スクロール加工工程の加工誤差と、ハウジング加工工程の加工誤差とが含まれる。
【0193】
このため、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hxは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のx方向成分の分散V
Oxを包括する。具体的には、分散V
Hxが分散V
Ox以上となる(V
Hx≧V
Ox)。
【0194】
また、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のy方向成分の分散V
Hyは、旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)のy方向成分の分散V
Oyを包括する。具体的には、分散V
Hyが分散V
Oy以上となる(V
Hy≧V
Oy)。
【0195】
また、本実施形態のハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)は、実施形態2と同様に、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hx及びy方向成分の分散V
Hyのそれぞれが、二つの位置決め穴(67)同士の間隔L
HPの分散よりも大きい。
【0196】
〈合計偏差〉
旋回スクロール(50)の寸法偏差(ベクトルD
O)とハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)と固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)の合計である合計偏差D
ASは、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である。ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点は、点Bを始点とするベクトルD
Fの終点Cである(
図17を参照)。
【0197】
図17に示すように、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)が目標ベクトルD
H’と一致する場合は、合計偏差D
ASが固定スクロール(40)の寸法偏差(ベクトルD
F)と等しくなる。このため、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)が目標ベクトルD
H’と一致する場合、合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図17の領域A
F内に位置する。この領域A
Fは、ベクトルD
F(固定スクロール(40)の寸法偏差)の終点が存在し得る領域(即ち、固定スクロール加工工程で生じる加工誤差を示す領域)である。また、後加工工程であるハウジング加工工程においても、加工誤差は生じる。この加工誤差は、
図17の領域A
Hである。このため、ベクトルD
OとベクトルD
HとベクトルD
Fの和である合成ベクトルD
ASの終点Cは、
図17の領域A
AS4(即ち、領域A
Hと領域A
Fを含む領域)内に位置する。
【0198】
なお、
図17では、領域A
AS4を、模式的に原点Oを中心とする真円としている。通常、実際の領域A
AS4は、やや歪んだ円形となり、実際の領域A
AS4の中心は、原点Oから若干ずれる。
【0199】
上述したように、本実施形態のハウジング加工工程において加工されたハウジング(60)は、その寸法偏差D
Hの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散を包括する。従って、合計偏差(ベクトルD
AS)のx方向成分の分散V
ASx及びy方向成分の分散V
ASyは、それぞれ、ハウジング(60)の寸法偏差(ベクトルD
H)のx方向成分の分散V
Hx及びy方向成分の分散V
Hyよりも小さい。
【0200】
−実施形態4の効果−
本実施形態の製造方法では、旋回スクロール加工工程が前加工工程であり、ハウジング加工工程が後加工工程である。そして、本実施形態の製造方法は、前加工工程の終了後に、前加工工程において加工された旋回スクロール(50)の寸法偏差を計測する計測工程と、計測工程において計測された旋回スクロール(50)の寸法偏差が、後加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差によって相殺されるように、後加工工程において加工されるハウジング(60)の寸法偏差の目標値を設定する目標設定工程とを更に備え、後加工工程では、ハウジング(60)の寸法偏差が目標設定工程において設定された目標値となるように、ハウジング(60)の加工を行う。
【0201】
本実施形態の製造方法によれば、実施形態1の製造方法と同様に、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工を従来と同程度の加工精度で行いながら、合計偏差D
ASの分散を引き下げることができる。従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様に、スクロール圧縮機(10)の製造コストの増加を抑えながら、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることができる。
【0202】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)では、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散が、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oの分散を包括し、且つ合計偏差D
ASの分散がハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さい。
【0203】
従来は、合計偏差の分散をハウジング(60)の寸法偏差の分散よりも小さくすることができなかった。しかし、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oをハウジング(60)の寸法偏差D
Hで相殺することによって、合計偏差D
ASの分散をハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0204】
また、本実施形態の製造方法によって製造されたスクロール圧縮機(10)は、合計偏差D
ASの分散がハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散よりも小さくなるように、ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散が、ハウジング(60)に形成された複数の位置決め穴(67)同士の間隔L
HPの分散よりも大きくなっている。
【0205】
このため、旋回スクロール(50)の寸法偏差D
Oをハウジング(60)の寸法偏差D
Hで相殺することによって、“合計偏差D
ASの分散”を“ハウジング(60)の寸法偏差D
Hの分散”よりも小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、旋回スクロール(50)とハウジング(60)と固定スクロール(40)の加工精度を従来よりも高めること無く、合計偏差D
ASの分散を引き下げることが可能となり、スクロール圧縮機(10)の効率を向上させることが可能となる。
【0206】
《その他の実施形態》
上記の各実施形態のスクロール圧縮機(10)では、固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれに、位置決め穴(44,67)が三つ以上形成されていてもよい。この場合も、上記の各実施形態のスクロール圧縮機(10)と同様には、固定スクロール(40)の位置決め穴(44)(あるいは、ハウジング(60)の位置決め穴(67))と同数の位置決めピン(35)が設けられる。
【0207】
また、上記の各実施形態のスクロール圧縮機(10)では、固定スクロール(40)とハウジング(60)のそれぞれに位置決め穴(44,67)が位置決め構造として形成されているが、位置決め構造は、位置決め穴(44,67)には限定されない。例えば、固定スクロール(40)とハウジング(60)の一方には位置決め突起が、他方には位置決め突起が嵌まり込む位置決め穴が、それぞれ位置決め機構として形成されていてもよい。
【0208】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【解決手段】スクロール流体機械であるスクロール圧縮機(10)において、前加工工程では、旋回スクロール加工工程とハウジング加工工程とが行われる。計測工程では、前加工工程で加工された旋回スクロール(50)及びハウジング(60)の寸法偏差が計測される。目標設定工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差の目標値が、旋回スクロール(50)及びハウジング(60)の寸法偏差を相殺するように設定される。後加工工程である固定スクロール加工工程では、固定スクロール(40)の寸法偏差が目標値となるように、固定スクロール(40)の加工が行われる。