特許第6551609号(P6551609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551609
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】フローセル
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   G01N21/05
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-536006(P2018-536006)
(86)(22)【出願日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2016074831
(87)【国際公開番号】WO2018037536
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真人
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055784(JP,A)
【文献】 特表2013−507615(JP,A)
【文献】 特開平02−042337(JP,A)
【文献】 特表2007−502446(JP,A)
【文献】 特表2009−501903(JP,A)
【文献】 米国特許第4488776(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0346081(US,A1)
【文献】 特開平09−170981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G01N 30/00−30/96
G01N 35/00−35/10
G01N 37/00
G01M 3/00− 3/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を流通させるためのセルを内部に有し、前記セルの少なくとも一方の端部側に前記セルに通じる開口が設けられているとともに、前記開口の縁に平坦面を有する筐体と、
中央部にレンズ部を有するとともに一方及び他方の面が平坦な周縁部を有し、前記開口を封止するように前記周縁部の一方の面が前記筐体の前記平坦面と対向して設けられた窓部材と、
前記窓部材を挟んで前記セルとは反対側に設けられ、中央部に光を通過するための孔を有し、前記窓部材の前記周縁部の他方の面と面接触して前記窓部材を前記セル側へ押圧する押圧部材と、を備えたフローセル。
【請求項2】
前記窓部材のレンズ部は前記セルとは反対側の面に凸面レンズを有する請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
前記凸面レンズは前記周縁部の面に対して垂直又は前記周縁部の面に対して90度よりも大きな角度をなす側面を有する請求項2に記載のフローセル。
【請求項4】
前記窓部材の前記周縁部は前記レンズ部よりも光透過率が低くなっている請求項1から3のいずれか一項に記載のフローセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフなどの分析装置の検出器に用いられるフローセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料に光を照射し、その透過光や反射光、散乱光を用いて試料の分析を行なう手法は、吸光度測定法など広く知られている。それらの測定法では、試料が流れる流路となるセルを内部に有するフローセルが用いられる。フローセルには、セル内部に光を取り込むための透明な窓部材が取り付けられている。ここで、透明とは、分析に使用する光の波長に対して透過率が高い(少なくとも80%以上である)ことを意味する。透明な窓部材として、例えば合成石英からなる平窓が挙げられる。
【0003】
フローセル内のセルを流れる試料に光を効率的に照射するために、半球レンズやボールレンズなどのレンズを用いる場合がある。この場合、レンズはフローセルの窓部の外側に配置してもよいが、部品点数の低減等を図るためにフローセルの窓部材としてレンズを用いることも行われている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−55784号公報
【特許文献2】特公表2012−522253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レンズを窓部材として用いたフローセルでは、レンズをフローセルの筐体に固定するために、レンズの前面側(セル側)と背面側(セルと反対側)にある程度弾性をもつ樹脂パッキンを配置し、ネジ式の固定部材によって樹脂パッキンを介してレンズの背面をセル側へ押圧することにより、セルの端部においてレンズを安定的に固定してセルからの液漏れを防止する方法が一般にとられている。
【0006】
しかし、レンズの一方の表面は曲率をもつため、レンズ曲面と樹脂パッキンとの接触は線接触となってしまい、レンズの固定が不安定になりやすい。レンズの固定を安定させるために固定部材を過度に締め付けると、樹脂パッキンがフローする(塑性変形する)という問題もある。
【0007】
特に、高耐圧環境下でレンズを保持するために、レンズの背面側の樹脂パッキンをOリングにし、Oリングを介してレンズをセル側へ押し付ける方法も提案されている(特許文献2参照。)。Oリングを用いることで、一般的にフローのリスクは低減するとされているが、線接触で保持することに変わりはない。
【0008】
レンズとレンズ背面側の樹脂パッキンとの接触を面接触にすることが好ましいが、レンズの曲面と同一の曲面を有する樹脂パッキンを製造することは困難であり、複数の線接触によってレンズを保持することが限界である。
【0009】
そこで、本発明は、レンズ機能を有する窓部材の固定を安定的に行なうことができるフローセルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るフローセルは、試料を流通させるためのセルを内部に有し、前記セルの少なくとも一方の端部側に前記セルに通じる開口が設けられているとともに、前記開口の縁に平坦面を有する筐体と、中央部にレンズ部を有するとともに一方及び他方の面が平坦な周縁部を有し、前記開口を封止するように前記周縁部の一方の面が前記筐体の前記平坦面と対向して設けられた窓部材と、前記窓部材を挟んで前記セルとは反対側に設けられ、中央部に光を通過するための孔を有し、前記窓部材の前記周縁部の他方の面と面接触して前記窓部材を前記セル側へ押圧する押圧部材と、を備えている。
【0011】
前記窓部材のレンズ部の一例として、前記セルとは反対側の面に凸面レンズを有するものが挙げられる。
【0012】
上記の場合、前記凸面レンズは前記周縁部の面に対して垂直又は前記周縁部の面に対して90度よりも大きな角度をなす側面を有することが好ましい。そうすれば、窓部材をピンセット等によって保持することが容易である。この場合、凸面レンズの側面はレンズの基端側から先端側へかけて真っ直ぐな平面であってもよいし湾曲した平面であってもよい。
【0013】
窓部材の前記周縁部はレンズ部よりも光透過率が低くなっていることが好ましい。そうすれば、窓部材のレンズ部以外の部分を光が通過しにくくなり、散乱光等の影響を小さくすることができる。かかる構造は、周縁部の表面粗さをレンズ部よりも粗くすることにより実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフローセルでは、窓部材が、中央部にレンズ部を有するとともに一方及び他方の面が平坦な周縁部を有し、筐体の開口を封止するように周縁部の一方の面が筐体の平坦面と対向して設けられており、押圧部材が、窓部材を挟んでセルとは反対側に設けられ、窓部材の周縁部の他方の面と面接触して窓部材をセル側へ押圧するようになっているので、窓部材を押圧部材によって安定的に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】フローセルの一実施例を示す断面図である。
図2】同実施例のセル端部の開口部分をより詳細に説明するための断面図である。
図3A】同実施例の窓部材の一例を示す断面図である。(B)は平面図である。
図3B】同窓部材の平面図である。
図4】同窓部材の製造工程の一例を示す工程断面図である。
図5】窓部材の他の例を示す断面図である。
図6】窓部材のさらに他の例を示す分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係るフローセルの一実施例について説明する。
【0017】
図1に示されているように、この実施例のフローセル1は、筐体2の内部に、試料を流通させるためのセル4、セル4の一端側(図において左側)から液を導入する入口流路6、及びセル4の他端側(図において右側)から液を排出するための出口流路8を備えている。
【0018】
筐体2には、セル4の一端部に窓部材14を取り付けるための窓部材取付部12が設けられている。窓部材取付部12は、筐体2の表面からセル4の一端部へ向かって掘り下げられた凹部であって、セル4の内径よりも大きい内径を有する。窓部材取付部12の底部にセル4の一端に通じる開口10が設けられており、その開口10を封止するように窓部材14が配置されている。開口10の周囲に円形の窪みが設けられている。開口10の周囲の窪みにリング状の樹脂パッキン16と、中央部にレンズ部14a(図2参照)を有する窓部材14の一部が嵌め込まれている。
【0019】
図2に示されているように、窓部材14の周縁部14bの両面(セル4側の面とその反対側の面)は平坦面となっており、その周縁部14bがリング状の樹脂パッキン18を介して固定部材20により樹脂パッキン16側へ押圧されている。窓部材取付部12の内周面と固定部材20の外周面には互いに螺合するネジが設けられており、固定部材20をセル4の中心軸を回転中心として回転させることによってセル4の中心軸方向へ移動する。すなわち、固定部材20を回転させることによって、樹脂パッキン18を介して窓部材14の周縁部14bを樹脂パッキン16側へ押圧する力の強さを調節するようになっている。
【0020】
図1に戻って、筐体2のセル4の他端部側(図において左側)にも、セル4の一端部側と同様の構造が設けられている。すなわち、筐体2のセル4の他端部側には、セル4の他端部に窓部材26を取り付けるための窓部材取付部24が設けられている。窓部材取付部26は、筐体2の表面からセル4の他端部へ向かって掘り下げられた凹部であって、セル4の内径よりも大きい内径を有する。窓部材取付部24の底部にセル4の一端に通じる開口22が設けられており、その開口22を封止するように窓部材26が配置されている。開口22の周囲に円形の窪みが設けられている。開口22の周囲の窪みにリング状の樹脂パッキン28と、中央部にレンズ部を有する窓部材26の一部が嵌め込まれている。
【0021】
窓部材26は窓部材14と同様の構造を有し、窓部材26の平坦な周縁部がリング状の樹脂パッキン30を介して固定部材32により樹脂パッキン28側へ押圧されている。窓部材取付部24の内周面と固定部材32の外周面には互いに螺合するネジが設けられており、固定部材32をセル4の中心軸を回転中心として回転させることによってセル4の中心軸方向へ移動する。すなわち、固定部材32を回転させることによって、樹脂パッキン30を介して窓部材26の周縁部を樹脂パッキン28側へ押圧する力の強さを調節するようになっている。
【0022】
樹脂パッキン18及び固定部材20の組、樹脂パッキン30及び固定部材32の組は、それぞれ窓部材14、26の周縁部をセル4側へ押圧するための押圧部材を構成している。樹脂パッキン18と30は窓部材14、26の周縁部とそれぞれ面接触し、窓部材14、26を樹脂パッキン16、28側へ安定的に押圧する。
【0023】
ここで、窓部材14、26は、溶融石英、石英、硬質ガラス、エンジニアリングプラスチックなど、測定に使用する光の波長に対して透明な材質により構成されている。測定に使用する光の波長に対して「透明」な材質とは、使用する光の波長の透過率が80%以上であることを意味する。以下における「透明」についても同様の意味である。
【0024】
また、樹脂パッキン16、18、28及び30の材質としては、耐食性、耐薬品性、弾力性を有し、かつ惰性変形しにくいもの、例えばPCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が挙げられる。
【0025】
窓部材14、26の好ましい実施態様について、図3A及び図3Bを用いて説明する。
【0026】
この例において、窓部材14,26の中央部のレンズ部14a,26aは、一表面側に凸曲面を有するとともに、その凸部の側面が、その周囲の平坦な周縁部14b,26bと直交している。レンズ部14a,26aの曲率を有する表面(曲面)は表面粗さが0.2μm以下であるのに対し、レンズ部14a,26aの側面14c,26cと周縁部14b,26bの凸面側(図において上側)の表面は、表面粗さが12.8μm以上であり、スリガラス状となっている。
【0027】
周縁部14b,26bの表面がスリガラス状となっていることにより、周縁部14b,26bの光透過率がレンズ部14a,26aの曲面の光透過率よりも大きく劣っている。これにより、レンズ部14a,26a以外の部分からの光の入射が防止される。また、レンズ部14a,26aの側面14c,26cの表面粗さが12.8μm以上であることにより、側面14c,26cの摩擦抵抗が大きくなり、ピンセット等によって窓部材14を保持しやすくなっている。
【0028】
なお、この実施例では、レンズ部14a,26aの側面14c,26cが周縁部14b,26bと直交しているが、側面14c,26cと周縁部14b,26bのなす角度が90度よりも大きくてもよい。また、側面14c,26cはレンズ部14a,26aの基端側から先端側にかけて真っ直ぐである必要はなく、湾曲していてもよい。
【0029】
このような窓部材14,26は、図4に示されているように、1つのブロック34からの削り出しによって製造することができる。具体的には、測定に使用する光の波長に対して透明な材質からなるブロック34を用意し(同図(A)参照)、一方表面全体が曲面となるように切削加工を行なう(同図(B)参照)。その後、一方表面が曲面となっているブロック34aの曲面の周縁部が平坦面となるように回転を利用した切削加工を行なうことで、曲面を有するレンズ部14a,26aの周囲に両面が平坦な周縁部14b,26bを形成する。レンズ部14a,26aの曲面の表面加工は、周縁部14b,26bの形成工程の前に行なってもよいし、その後に行なってもよい。
【0030】
なお、窓部材14,26としては、図3A及び図3Bに示されているように、必ずしもレンズ部14a,26aが周縁部14b,26bの表面と直交する側面を有するものでなくてもよい。
【0031】
また、窓部材14,26としては、図5に示されているように、透明な平板36の一方の表面に略半球形状のレンズ部材38をマッチングオイル40によって接着したものであってもよいし、接着に代えて溶融接合等によって平板36とレンズ部材38とを接合したものであってもよい。
【0032】
窓部材14,26としては、リング状の基材42の中央に設けられた貫通孔に、一方側(図において上側)が略半球形状でかつ他方側(図において下側)が円柱形状となっている透明なレンズ部材44を圧入することによって構成されたものであってもよい。この場合、基材42は窓部材14,26の周縁部14b,26bを構成することとなるが、この部分は光を透過させる必要がないため、基材42の材質は透明でなくてもよい。基材42の材質としては、例えばポリイミドが挙げられる。
【0033】
以上において説明した実施例では、セル4の一端側と他端側にそれぞれ設けられている窓部材14,26のレンズ部14a,26aは、セル4とは反対側の面に凸曲面を有するものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、セル4側に凸曲面、両側に凸曲面、少なくとも一方側に凹曲面、一方が凸曲面で他方が凹曲面など、レンズ部14a,26aが種々のレンズ形状を有する場合にも適用することができる。すなわち、本発明は、レンズ部14a,26aの周囲に、両面が平坦な周縁部14b,26bが設けられており、その周縁部14b,26bに樹脂パッキン18,30などからなる押圧部材が面接触するようになっていればよい。
【0034】
また、以上において説明した実施例では、窓部材14と26が同一構造を有するものであるが、これらの窓部材14,26は必ずしも同一構造を有する必要はなく、異なる構造を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 フローセル
2 筐体
4 セル
6 入口流路
8 出口流路
10,22 開口
12,24 窓部材取付部
14,26 窓部材
14a,26a レンズ部
14b,26b 周縁部
14c,26c レンズ部側面
16,18,28,30 樹脂パッキン
20,32 固定部材
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6