特許第6551657号(P6551657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

特許6551657結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法
<>
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000004
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000005
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000006
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000007
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000008
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000009
  • 特許6551657-結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551657
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190722BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20190722BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C22C38/00 301N
   C22C38/38
   C21D8/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-79842(P2015-79842)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-199784(P2016-199784A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】木村 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】梅森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石倉 亮平
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−146438(JP,A)
【文献】 特開平11−012684(JP,A)
【文献】 特開2015−127434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00− 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.30〜2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.30〜1.50%、
Mo:0.50%以下、
Al:0.016〜0.060%、
N:0.0085〜0.030%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
フェライト及びパーライト組織であり、質量%でN含有量をX、Al含有量をXAlとした場合に下記式(1)を満たし、かつ前記パーライト1個当たりの面積をSpμm/個、1000℃におけるAlNの平衡析出量をWp質量%とした場合に下記式(2)を満たすことを特徴とする結晶粒粗大化防止特性に優れ、浸炭温度が940〜1060℃である高温浸炭部品用素材。
(X−8.5×10−3)(XAl−1.6×10−2)≧5.2×10−5…(1)
Sp×Wp≧4 …(2)
【請求項2】
請求項1に記載の高温浸炭部品用素材の製造方法であって、
質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.30〜2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.30〜1.50%、
Mo:0.50%以下、
Al:0.016〜0.060%、
N:0.0085〜0.030%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
質量%でN含有量をX、Al含有量をXAlとした場合に下記式(1)を満たす鋼材を熱間鍛造後、900〜1000℃の範囲内における所定の加熱温度まで加熱し、その加熱温度で20分以上加熱保持した後、600〜700℃の範囲内における所定の冷却温度まで0.5℃/sec以下の所定の冷却速度で冷却し、その冷却温度で30分以上加熱保持することを特徴とする高温浸炭部品用素材の製造方法。
(X−8.5×10−3)(XAl−1.6×10−2)≧5.2×10−5…(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭部品用素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温浸炭処理は、浸炭温度を高く設定(1000℃以上)して反応を促進させる浸炭方法である。この浸炭方法によれば、短時間でより多くの炭素を侵入・拡散させることができるので、処理時間の短縮化を図ることができ、浸炭部品を効率よく製造することができる。一方、この浸炭方法によると、特定の結晶粒が異常粒成長し、混粒となることがある。このような組織が生じると、疲労強度や衝撃強度が低下し、熱処理歪みが増加するため、異常粒成長を防止する必要がある。
従来、異常粒成長を防止する技術としては、例えば下記特許文献1〜3に記載されているように、析出物を分散させて粒界をピン止めする方法や、浸炭前の組織状態を制御して異常粒成長の発生を抑える方法が知られている。析出物の分散による粒界のピン止め方法が主に用いられ、析出物としてはAlNやNbC等の炭窒化物が用いられることが多い。具体的には、下記特許文献1〜3では、ピン止めする析出物としてAlNのみならず、NbやTiの炭窒化物を効率良く分散させることで、高温浸炭処理時の結晶粒粗大化を防止するようにしている。また、下記特許文献1では、浸炭前の鋼の組織状態としてベイナイト分率やパーライト分率、フェライト結晶粒度を規定することで、結晶粒粗大化特性又は切削加工性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−303174号公報
【特許文献2】特開2003−027135号公報
【特許文献3】特開2008−189989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、NbやTiのような析出物の構成元素を積極的に添加することは、製造コストや加工性の悪化につながるおそれがある。また、浸炭前の鋼の組織状態を制御する場合、単に組織状態に着目するだけでは、高温浸炭処理時において結晶粒粗大化を防止するのに十分とはいえなかった。
【0005】
本発明は以上のような事情を背景としてなされたものであり、その目的は1000℃以上の高温浸炭処理を行った場合でも、結晶粒粗大化を良好に防止し得る高温浸炭部品用素材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記目的を達成するために本発明における結晶粒粗大化防止特性に優れ、浸炭温度が940〜1060℃である高温浸炭部品用素材は、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.30〜2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.50%以下、Al:0.016〜0.060%、N:0.0085〜0.030%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
フェライト及びパーライト組織であり、質量%でN含有量をX、Al含有量をXAlとした場合に下記式(1)を満たし、かつ前記パーライト1個当たりの面積をSpμm/個、1000℃におけるAlNの平衡析出量をWp質量%とした場合に下記式(2)を満たすことを特徴とする。
(X−8.5×10−3)(XAl−1.6×10−2)≧5.2×10−5…(1)
Sp×Wp≧4 …(2)
また、上記目的を達成するために本発明の高温浸炭部品用素材の製造方法は、上記した高温浸炭部品用素材の製造方法であって、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.30〜2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.50%以下、Al:0.016〜0.060%、N:0.0085〜0.030%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
質量%でN含有量をX、Al含有量をXAlとした場合に上記式(1)を満たす鋼材を熱間鍛造後、900〜1000℃の範囲内における所定の再加熱温度まで加熱し、その再加熱温度で20分以上加熱保持した後、600〜700℃の範囲内における所定の冷却温度まで0.5℃/sec以下の所定の冷却速度で冷却し、その冷却温度で30分以上加熱保持することを特徴とする。
【0007】
本発明の発明者らは、ピン止めする析出物としてのAlNと、高温浸炭部品用素材としての浸炭前の鋼の組織状態との関係に着目したところ、AlNの平衡析出量と浸炭前の鋼の組織状態との間には、結晶粒粗大化特性を向上させる上で、それぞれ適切な平衡析出量及び組織状態があることを見出した。すなわち、上記式(1)及び(2)を満たすようにAlNの平衡析出量と浸炭前の鋼の組織状態を規定することで、1000℃以上の高温浸炭処理を行った場合でも、結晶粒粗大化を良好に防止することができる。そして、このような高温浸炭部品用素材に所定の浸炭処理を施すことで、適切な組織状態に調整した浸炭部品を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)は浸炭前の熱間鍛造における温度−時間の工程図。(B)は(A)の後に施される等温焼きなましにおける温度−時間の工程図。(C)は(B)の後に施される浸炭における温度−時間の工程図。
図2】AlN平衡析出量Wpを算出するための基となるAlとNの溶解度積を示すグラフ。
図3】AlN平衡析出量Wp−異常粒成長発生温度の関係を示すグラフ。
図4】式(1)の条件を満たす領域を示すグラフ。
図5】Sp×Wp−異常粒成長発生温度の関係を示すグラフ。
図6】浸炭前の熱処理における冷却速度−パーライト1個当たりの面積の関係を示すグラフ。
図7】(A)〜(C)はパーライト1個当たりの面積Spを算出する方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の高温浸炭部品用素材における各元素の組成限定理由及び限定条件について説明する。
【0010】
(1)C:0.10〜0.30%
Cは浸炭処理後に急冷を行った鋼部品の心部強度を確保するための必須元素である。ただし、過度の添加は加工性の悪化を招く。好ましくは0.15〜0.25%である。
【0011】
(2)Si:0.05〜1.00%
Siは鋼の焼入れ性を高め、鋼の脱酸元素として有効な元素である。ただし、過度の添加は素材の加工性の低下を招く。好ましくは0.10〜0.50%である。
【0012】
(3)Mn:0.30〜2.00%
Mnは鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であるが、過度の添加は加工性の悪化を招く。好ましくは0.50〜1.50%である。
【0013】
(4)P:0.030%以下
Pは結晶粒界を脆化させるため、その含有量の最小化が求められる。0.030%以下の含有量であれば粒界強度低下の効果は軽微である一方、含有量を極度に抑制することは精錬プロセスの延長を招き、コスト増を伴うため工業上好ましくない。
【0014】
(5)S:0.030%以下
Sは不可避に鋼中に存在し、Mnと結合して応力集中の起点となるMnS介在物を生成する。過度の含有はMnS介在物の量を増加させ、ひいては疲労強度の低下を招く。ただし、0.030%以下の含有量であれば疲労強度の低下は極めて軽微である。
【0015】
(6)Cr:0.30〜1.50%
Crは鋼の焼入れ性を高める元素であり、鋼の焼入れ性を確保するために0.30%以上の添加が必要である。他方、過度の添加は被削性を低下させることになるため、1.50%を上限とする。好ましくは0.80〜1.20%である。
【0016】
(7)Mo:0.50%以下
Moは鋼の焼入性を高め、また耐摩耗性の向上に有効な元素であるが、高価であるため、工業上その含有量の最小化が求められている。好ましくは0.50%以下である。
【0017】
(8)Al:0.016〜0.060%
Alは脱酸作用を有する。またNと結合してAlNを形成しやすい元素である。AlNは結晶粒の粗大化を防止する効果があり、この効果を得るためには0.016%以上の含有が必要である。他方、0.060%を超えて添加すると介在物が増加し、却って曲げ疲労強度の低下を招くため、0.060%を上限とする。
【0018】
(9)N:0.0085〜0.030%
NはAlと結合して窒化物を形成し、結晶粒の粗大化を防止する効果があり、この効果を得るためには0.0085%以上の含有が必要である。他方、0.030%を超えて添加すると、素材の硬さを増加させるため、0.030%を上限とする。
【0019】
(10)残部:Fe及び不可避不純物
なお、表1ではFe及び不可避不純物の記載を省略してある。
【0020】
次に、1000℃以上の浸炭温度で結晶粒粗大化を良好に防止できること、換言すれば異常粒成長発生温度が1000℃以上となるためには、質量%でN含有量をX、Al含有量をXAlとした場合に下記式(1)を満たし、かつパーライト1個当たりの面積をSpμm/個、1000℃におけるAlNの平衡析出量をWp質量%とした場合に下記式(2)を満たすことが必要である点について説明する。
(X−8.5×10−3)(XAl−1.6×10−2)≧5.2×10−5…(1)
Sp×Wp≧4 …(2)
【0021】
式(1)、(2)を導き出すために以下の試験を行った。試験の供試材として、表1に示す化学成分を有する鋼種A〜F(残部はFe及び不可避不純物)からなる鋼を用いた。各供試材を電気炉で溶解し、圧延してφ80の棒鋼を作成し、φ8×12mmの試験片を採取した。この試験片に対して加工フォーマスタ試験機により、図1(A)に示される条件で熱間鍛造を行い、次いで図1(B)及び表2に示される等温焼きなましを実施した。このような熱処理を施した試験片より、パーライト1個当たりの面積の測定、及び図1(C)に示される条件で浸炭処理を行い、異常粒成長発生温度の評価を行った。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
次に、AlN平衡析出量(質量%)と1000℃以上の高温度での結晶粒粗大化には何らかの対応関係があるものと予想し、各試験片において1000℃におけるAlN平衡析出量(1000℃に長く保持したならば得られるであろうAlN析出量)を図2に基づいて計算した。図2において、X軸はAl含有量(質量%)を示し、Y軸はN含有量(質量%)を示し、線1はAl(原子量27)とN(原子量14)の化学量論比が1:1となる線を示している。また、線2はAlとNの溶解度積(W.C.Leslie;Trans.ASM,Vol46(1954),p.1470)を示しており、
log[Al][N]=1.03−6770/T(K) …線2として表される。
【0025】
いま、Al含有量とN含有量が図2中のA(x1,y1)で示される組成であるときのAlN平衡析出量を求める場合を考える。この場合、線1をA(x1,y1)を通るように平行移動した線1’([N]−y1=14/27×([Al]−x1))と線2の交点B([Al],[N])が固溶分となり、残り(差)が析出分となる。すると、析出するAl(質量%)、N(質量%)はそれぞれ次のようになる。
析出Al=含有Al−固溶Al=x1−[Al] …式(3)
析出N=含有N−固溶N=y1−[N] …式(4)
また、AlN分子量=41、Al原子量=27、N原子量=14であるから、
AlN平衡析出量=(41/27)×析出Al
=(41/27)×(x1−[Al]) …式(5)
【0026】
したがって、与えられたA(x1,y1)と線1’を線2に代入して[Al]を求め、この[Al]を式(5)に代入すれば、AlN平衡析出量を求めることができる。具体的には、表1の鋼種Aは(x1,y1)=(0.030,0.014)であるから、これとT=1273(K:1000℃)を線2に代入すれば、[Al]=0.0116が得られる。よって、式(5)から1000℃におけるAlN平衡析出量として0.0280の値が得られる(表2参照)。同様に、各鋼種B〜Fにおいては1000℃におけるAlN平衡析出量(質量%)として、それぞれ0.0332、0.0326、0.0428、0.0197、0.0107の値が得られる。
【0027】
次に、各試験片について異常粒成長が発生する温度、すなわち結晶粒が粗大化する温度を測定し、異常粒成長発生温度と上記AlN平衡析出量との関係を調べた。この場合、光学顕微鏡(100倍)でランダムに10視野観察を行い、視野内において粒度6番以下の粗粒が1つでも存在することを条件として、異常粒成長が発生したものと判定した。結果を図3に示す。
【0028】
図3から明らかなように、AlN平衡析出量が同じであっても、冷却速度が異なると異常粒成長発生温度が20〜40℃の範囲内でばらついて分布するようになり、冷却速度が遅くなるほど異常粒成長発生温度が高温度側に移行することが分かる。例えば、AlN平衡析出量を0.0280質量%に設定した場合には、大方の冷却速度で異常粒成長発生温度が1000℃を超えることとなるが、冷却速度が早過ぎる(2.5℃/sec)と、異常粒成長発生温度が1000℃を僅かに下回ることとなった。各々の試験片の試験結果を踏まえ、異常粒成長発生温度が1000℃以上となるためには、AlN平衡析出量が少なくとも0.025質量%程度は必要であると判断した。
【0029】
AlN平衡析出量が0.025質量%以上を満たす条件は、図4に示すとおりとなる。ここで、AlNが0.025質量%となるときのN、Alの含有量は、それぞれ8.5×10−3質量%、1.6×10−2質量%となり、前記線2の1273K(1000℃)における曲線をその分だけ平行移動させることで式(1)が得られる。
【0030】
式(1)を満たすN含有量とAl含有量は、図4にて斜線で示す領域11で表され、N含有量とAl含有量がいずれも領域11内にあることが、浸炭温度が1000℃以上の高温でも異常粒成長を発生させないための必要条件となる。
【0031】
次に、1000℃以上の高温度での結晶粒粗大化防止には、AlN平衡析出量の観点の他、浸炭前の組織とも何らかの対応関係があるものと予想し、各試験片において異常粒成長発生温度と、パーライト1個当たりの面積Sp及びAlN平衡析出量Wpの積との関係を調べた。結果を図5に示す。
【0032】
図5から明らかなように、Sp×Wp≧4の範囲で、異常粒成長発生温度が1000℃以上となることが分かる。ここで、Spについては、各試験片において、測定面積0.4mm中のパーライト面積を、同じく測定面積0.4mm中のパーライト個数で除算して、パーライト1個当たりの面積とした。具体的には、図7(A)〜(C)の手順でパーライト1個当たりの面積を計算した。まず、図7(A)に示すように、光学顕微鏡にて各試験片の組織(フェライト+パーライト組織)を撮影した(腐食液としてピクラルを使用)。
【0033】
撮影した組織写真から測定面積0.4mm中のパーライト個数を測定した。この場合、例えば図7(B)にて破線で囲んだパーライトP1を代表して示すように、連結状態にあるパーライトは1個とみなした。また、一辺が5μm以下のパーライトは含まないこととした。次に、図7(C)に示すように、撮影した組織写真を2値化し(所定の画像編集ソフトを使用)、パーライト面積を測定した。そして、測定面積0.4mm中のパーライト面積を、同じく測定面積0.4mm中のパーライト個数で除算して、パーライト1個当たりの面積を求めた。また、AlN平衡析出量は、鋼種毎の1000℃における計算値を使用した。
【0034】
なお、図5中、データ12は鋼種をBとする試験片に対応しており、異常粒成長発生温度が約1060℃、その温度に対応したAlN平衡析出量の計算値が0.0284、パーライト1個当たりの面積Spが326であるのに対し、鋼種Bの試験片の1000℃におけるAlN平衡析出量Wpの計算値は、表2で示すように0.0332である。このため、浸炭温度を1000℃〜1060℃に設定する場合には、実際の異常粒成長発生温度に基づいて計算したAlN平衡析出量に代えて、1000℃におけるAlN平衡析出量Wpの計算値を用いたとしても、式(2)に基づいた評価を行うに際しては、何らの問題はないと考えられる。この場合、1000℃におけるAlN平衡析出量Wpの計算値を用いることとも関連して、式(2)を充足するためには、パーライト1個当たりの面積Spを少なくとも150以上に設定することが望ましく、より好ましくは250以上に設定することが望まれる。
【0035】
また、各試験片においては、図1(B)に示したように、3種の冷却速度で冷却するようにしたが、冷却速度とパーライト1個当たりの面積Spとの間には、図6に示すような関係があることが分かった。図6から明らかなように、冷却速度が0.5℃/sec以下になると、パーライト1個当たりの面積Spが著しく増加することが分かる。なお、表2に示すように、1000℃におけるAlN平衡析出量Wpの値が0.025質量%に比して大きいほど、冷却速度が0.5℃/secを超えても異常粒成長発生温度が1000℃を超える場合が多くなるが、AlN平衡析出量Wpが0.025質量%を超えていてもその程度が小さい場合、冷却速度が0.5℃/secを超えると異常粒成長発生温度が1000℃を下回る場合が認められる。
【0036】
以上の説明からも明らかなように、本実施例の高温浸炭部品用素材によれば、上記式(1)及び(2)を満たすことで、1000℃以上の高温浸炭処理を行った場合でも、結晶粒粗大化を良好に防止することができる。また、浸炭前における上記冷却温度を0.5℃/sec以下に設定することで、パーライト1個当たりの面積を所定の大きさ以上に確保できることに伴い、結晶粒粗大化をより一層良好に防止できるようになる。
【符号の説明】
【0037】
B点 レスリーの式における固溶([Al],[N])の一例
11 式(1)を満たすN含有量とAl含有量の領域
12 式(2)を満たすデータの一例
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7