(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551660
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】一重壁成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/48 20060101AFI20190722BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20190722BHJP
B29C 51/18 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
B29C49/48
B29C51/10
B29C51/18
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-103451(P2015-103451)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-215504(P2016-215504A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠治
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−255531(JP,A)
【文献】
特開平10−244583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00−49/80
B29C 51/00−51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金型を型締めし、一方の金型キャビティに沿わせて溶融樹脂シートを賦形するとともに、当該金型からリブ形成用ブレードを突出させて溶融樹脂シートを突き出すことによりリブを形成する一重壁成形体の製造方法において、
対向する金型に凹部を形成しておき、前記リブ形成用ブレードを突出させることで前記溶融樹脂シートの先端部分を前記凹部に係止させ、
その後、リブ形成用ブレードを後退させるとともに、型締めされた金型空間内を加圧することで、突き出された溶融樹脂シートの対向内面同士を溶着させて前記リブを形成することを特徴とする一重壁成形体の製造方法。
【請求項2】
前記凹部は、開口部分の寸法よりも奥部の寸法が大とされたアンダー形状を有することを特徴とする請求項1記載の一重壁成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一重壁成形体の製造方法に関するものであり、特に、インナーリブを有する一重壁成形体の成形において、インナーリブの成形不良を改善するための新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内装材や建材、物流・包装材として、いわゆる樹脂積層板が採用されており、強度を向上し軽量化を実現することを目的に、表面材と裏面材との間にインナーリブを形成した中空二重壁構造の成形体が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
前記中空二重壁構造の成形体は、一方の壁と他方の壁とを中空部内で互いにつなぐリブにより一体化した構造を有し、ブロー成形において、一方の壁と他方の壁とを他方の壁の一部を一方の壁に接するまで突出させて中空部内で一体的につなぐリブ、いわゆるインナーリブを形成することにより製造されている。
【0004】
例えば特許文献1に開示される中空二重壁構造体の製造方法では、リブを形成する摺動金型(リブ形成用ブレード)を備えた一対の分割金型間に、摺動金型をキャビティ面から突出させた状態で熱可塑性樹脂のパリソンを配置して型締めし、パリソンの摺動金型により押出された部分を対向するパリソンに圧着させた後、摺動金型の後退直前から後退直後までの間の適時間帯にパリソン内に圧力流体を導入してパリソンを一対の金型のキャビテイ面に沿わせた形状に成形するとともに、引き続いて摺動金型を後退させながら、摺動金型により突出させた壁の側面をブロー圧により互いに溶着させることで、一方の壁と他方の壁との間に一体的なリブを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−239576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、樹脂製パネルの分野においては、より一層の軽量化が求められており、前述の中空二重壁構造の成形体よりも軽量な樹脂製パネルの開発が進められている。例えば、中空二重壁構造の成形体において、一方の壁面を省略することで軽量化を図ることが検討されている。
【0007】
しかしながら、中空二重壁構造の成形方法を、そのまま一方の壁面を省略した一重壁成形体の成形に適用しようとすると、インナーリブの成形不良が発生するという大きな問題が生ずる。
【0008】
中空二重壁構造の成形体の成形においては、リブ形成用のリブ形成用ブレード先端によってリブの先端が反対側の壁面に押し付けられ、融着する。したがって、インナーリブ形成用のリブ形成用ブレードを後退させた後も、前記融着によってリブ形状が維持され、適切な形状を成形することができる。
【0009】
これに対して、一重壁成形体の成形においては、リブ形成用ブレードの先端を突き出すことでインナーリブを成形する際に、対向する反対側の壁面がないため、インナーリブの先端が融着により固定されることはない。そのため、リブ形成用ブレードの戻りにインナーリブが追随してしまい、リブ先端が所定の高さで保持されず、設計通りの高さのインナーリブ形状が形成できないという問題が生ずる。
【0010】
また、リブ形成用ブレードで引き伸ばされたインナーリブは、この段階では溶融状態にある。この状態でリブ形成用ブレードを後退させ、ブロー圧を加えると、インナーリブが変形してしまうおそれもある。
【0011】
本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、インナーリブを設計通りの高さで形成することができ、変形等の成形不良も発生することのない一重壁成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明の一重壁成形体の製造方法は、一対の金型を型締めし、一方の金型キャビティに沿わせて溶融樹脂シートを賦形するとともに、当該金型からリブ形成用ブレードを突出させて溶融樹脂シートを突き出すことによりリブを形成する一重壁成形体の製造方法において、対向する金型に凹部を形成しておき、前記リブ形成用ブレードの突出させることで前記溶融樹脂シートの先端部分を前記凹部に係止させ、その後、リブ形成用ブレードを後退させるとともに、型締めされた金型空間内を加圧することで、突き出された溶融樹脂シートの対向内面同士を溶着させて前記リブを形成することを特徴としている。
【0013】
溶融樹脂シートの先端部分を対向する金型の凹部に係止させ、その後、リブ形成用ブレードを後退させることで、リブがリブ形成用ブレードの後退に追随することがなくなり、所定の高さに保たれる。また、リブが溶融状態であっても、直立状態に保持され、変形等の成形不良が発生することもない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インナーリブを設計通りの高さで形成することができ、変形等の成形不良も発生することのない一重壁成形体の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1a】本発明を適用した一重壁成形体の製造方法を示すものであり、リブ形成用ブレード突き出し工程を示す概略断面図である。
【
図1b】溶融樹脂シートの先端を対向する金型の凹部へ係止させる工程を示す概略断面図である。
【
図1c】リブ形成用ブレードを後退させる工程を示す概略断面図である。
【
図1d】ブロー圧を加える工程を示す概略断面図である。
【
図1e】一重壁成形体の取り出し工程を示す概略断面図である。
【
図2】対向する金型に設けられた凹部を拡大して示す図である。
【
図3】
図1aの工程において、凹部近傍を拡大して示す図である。
【
図4】
図1bの工程において、凹部近傍を拡大して示す図である。
【
図5】成形された一重壁成形体の概略斜視図である。
【
図6a】対向する金型に凹部を設けない場合の製造工程を示すものであり、リブ形成用ブレード突き出し工程を示す概略断面図である。
【
図6b】リブ形成用ブレードを後退させる工程を示す概略断面図である。
【
図6c】リブ形成用ブレード後退後のリブの状態を示す概略断面図である。
【
図6d】ブロー圧を加える工程を示す概略断面図である。
【
図6e】一重壁成形体の取り出し工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一重壁成形体の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の製造方法により製造される一重壁成形体は、1枚の溶融樹脂シートをパネル形状等に成形されるとともに、補強のためのリブが形成されてなるものである。
【0018】
溶融樹脂シートに用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではなく、成形が可能なものであれば如何なるものであってもよく、例示するならば、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等のエンジニアリング・プラスチック等が好適であり、必要に応じて適宜にガラス繊維、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等の充填材を添加することもできる。
【0019】
一重壁成形体を製造するには、先ず、樹脂押出ヘッドから押し出される溶融状態の溶融樹脂シートを一対の金型間に配置し、例えば真空吸引により一方の金型のキャビティに沿わせて賦形する。前記一方の金型は、真空チャンバ及び通気接触面を有しており、通気接触面において真空吸引することで、溶融樹脂シートが金型のキャビティに沿った形状に賦形される。
【0020】
次に、賦形された溶融樹脂シートをリブ形成用ブレードを突き出すことで引き伸ばし、リブを形成する。
図1aは、リブ形成用ブレードを突き出した状態を示すものである。一対の金型1,2のうち、一方の金型1のキャビティ形状に賦形された溶融樹脂シート3は、スライド機構4に設けられたリブ形成用ブレード5によって対向する金型2に向かって引き伸ばされる。この引き伸ばされた部分(リブ形成部)3aにより、リブが形成される。
【0021】
対向する金型2には、リブ形成用ブレード5に対応して凹部2aが設けられており、
図1bに示すように、リブ形成用ブレード5は、溶融樹脂シート3のリブ形成部3aの先端が、前記凹部2aに食い込むまで突き出される。
【0022】
図2は、対向する金型2に設けられた凹部2aの形状を拡大して示すものである。対向する金型2に設けられる凹部2aは、溶融樹脂シート3の先端部分を係止し得る形状であればよく、例えば、開口部2bの開口幅L1が、凹部2aの奥部の最大空間幅L2より若干小さくなるような形状(いわゆるアンダー形状)とすればよい。これによって、凹部2a内に入り込んだ溶融樹脂シート3が、簡単に外れることなく支持される。開口部2bの幅L1が最大空間幅L2よりも大きいと、凹部2a内に押し込まれた溶融樹脂シート3が、不用意に外れてしまうおそれがある。ただし、凹部2aの最大空間幅L2が開口部2bの開口幅L1に比べて大きくなりすぎると、凹部2a内に押し込まれた溶融樹脂シート3が外れ難くなるので、適正な範囲内とすることが好ましい。
【0023】
図3及び
図4は、
図1a及び
図1bの工程にそれぞれ対応するものであり、対向する金型2の凹部2a近傍を拡大して示すものである。前記リブ形成用ブレード5の突出により、溶融樹脂シート3のリブ形成部3aの先端が凹部2a内に食い込み、保持される。
【0024】
溶融樹脂シート3のリブ形成部3aの先端を凹部2a内に食い込ませたら、
図1cに示すように、リブ形成用ブレード5を後退させる。この時、溶融樹脂シート3のリブ形成部3aの先端が前記凹部2aによって保持された状態であるので、リブ形成部3がリブ形成用ブレード5の後退に追随することがなく、所定の高さが維持される。また、溶融樹脂シート3は、この段階では溶融状態にあり、変形し易い状態にあるが、前記保持により、リブ形成部3aが倒れる等の成形不良が生ずることもない。
【0025】
次いで、
図1dに示すように、一対の金型1,2間の空間に例えばブロー圧を加えることで内圧を加え、リブ形成部3を加圧して一体化する。ブロー圧を加えることで、リブ形成部3の対向する内面3c,3dが溶着され、一体化されてリブが形成される。
【0026】
最後に、
図1eに示すように、金型1,2を型開きし、溶融樹脂シート3が所定の形態(リブを有する形態)に成形された成形体を取り出す。金型2に設けられた凹部2aの形態を適正なものすることで、リブ形成部3aの先端が簡単に凹部2aから外れ、成形体が取り出される。
【0027】
成形される一重壁成形体10は、
図5に示すように、金型1で賦形されたパネルに補強のためのリブ(リブ形成部3a)が形成されたものであり、リブ形成部3aの高さ寸法は、金型2の凹部2aで維持され、設計通りに形成される。、また、リブ形成部3aに変形等の成形不良が発生することもない。
【0028】
次に、比較のため、対向する金型2を設けないで、あるいは対向する金型2に凹部2aを形成しないで一重壁成形体を成形する場合について説明する。
図6a〜
図6eは、対向する金型2を設けないで、あるいは対向する金型2に凹部2aを形成しないで一重壁成形体を成形する際の、各工程を示す図である。
【0029】
対向する金型2を設けないで、あるいは対向する金型2に凹部2aを形成しないで一重壁成形体を成形する場合においても、樹脂押出ヘッドから押し出される溶融状態の溶融樹脂シートを例えば真空吸引により金型キャビティに沿わせて賦形し、賦形された溶融樹脂シートをリブ形成用ブレードを突き出すことで引き伸ばし、リブを形成することは、本発明の製造方法と同様である。
【0030】
すなわち、溶融樹脂シート13を金型11のキャビティに沿わせて賦形した後、
図6aに示すように、スライド機構14に設けられたリブ形成用ブレード15を突き出すことで、リブ形成部13aを引き伸ばす。この時、リブ形成部13aの先端は、対向する金型によって係止されることはなく、フリーな状態である。
【0031】
この状態で、
図6bに示すように、リブ形成用ブレード15を後退させるが、この時、リブ形成用ブレード15の後退に伴って、リブ形成部13aがリブ形成用ブレード15に追随する形で後退し、
図6cに示すように、所定の高さを維持することができない。
【0032】
次いで、
図6dに示すように、ブロー圧を加え、リブ形成部13aを溶着し一体化し、
図6eに示すように、成形体を取り出すが、得られる一重壁成形体においては、リブの高さが設計値に足りず、成形不良となる。また、
図6b〜
図6dの工程において、リブ形成部13aが変形する可能性もある。
【0033】
以上の成形方法を比較すると明らかな通り、本発明の一重壁成形体の製造方法では、リブ形成部3aが対向する金型2に設けられた凹部2aで保持されるので、リブ高さを設計通りに形成することができ、変形も生ずることがない等、一重壁成形体の品質を維持する上で明らかに有利である、
【0034】
以上、本発明を適用した実施形態について説明してきたが、本発明がこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1,2 金型
2a 凹部
3 溶融樹脂シート
3a リブ形成部
4 スライド機構
5 リブ形成用ブレード
10 一重壁成形体