(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551667
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】電動自動車の登坂発進モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20190722BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20190722BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L15/20 J
H02P27/06
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-148515(P2015-148515)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-28961(P2017-28961A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】長森 健夫
【審査官】
清水 康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−239276(JP,A)
【文献】
特開2006−238560(JP,A)
【文献】
特開2008−114634(JP,A)
【文献】
特開2010−022179(JP,A)
【文献】
特開2012−035692(JP,A)
【文献】
米国特許第08862302(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換する複数のスイッチング素子を有するインバータと、
前記インバータに接続された走行用モータと、
前記走行用モータの出力を駆動輪に伝えるドライブシャフトと、
アクセルペダル操作により前記スイッチング素子から交流を出力し前記走行用モータにトルクを印加させる制御部とを備え、
電動自動車の登坂路の発進時、前記スイッチング素子の温度が許容温度の上限値に上昇したとき、前記走行用モータに印加されたトルクを抑える電動自動車の登坂発進モータ制御装置であって、
前記制御部は、
前記電動自動車の登坂路発進時での前記トルクの抑制直後、前記ドライブシャフトに発生する前記ドライブシャフトの反駆動方向および正駆動回転方向へ交互に振動する減衰振動の周期を検出する振動周期検出部と、
前記検出したドライブシャフトの減衰振動の周期に合わせて、前記走行用モータにトルクを印加させる再トルク印加部とを有する
ことを特徴とする電動自動車の登坂発進モータ制御装置。
【請求項2】
前記再トルク印加部は、
前記ドライブシャフトの減衰振動が正駆動方向へ位相するときのタイミングで、前記走行用モータへトルクを印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の電動自動車の登坂発進モータ制御装置。
【請求項3】
前記再トルク印加部での前記走行用モータのトルク印加は、
前記スイッチング素子の温度が許容温度の上限値を下回るときに実行される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動自動車の登坂発進モータ制御装置。
【請求項4】
前記振動周期検出部での減衰振動の周期検出は、
前記ドライブシャフトの固有振動数にしたがい設定された周期時間に基づくものである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動自動車の登坂発進モータ制御装置。
【請求項5】
前記振動周期検出部での減衰振動の周期検出は、
センサによる位相の検出に基づくものである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動自動車の登坂発進モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動自動車の登坂発進モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(電動自動車)の多くは、車載バッテリの直流電力をインバータで交流電力に変換して走行用モータ(例えば同期型交流三相モータ)を駆動し、走行用モータの出力をドライブシャフトを介して駆動輪へ伝えている。具体的にはインバータには、スイッチング素子としてU相、V相、W相といった三相のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられる。そして、ECU(制御部)にて、IGBTを走行用モータの状態に応じ制御(スイッチング)し、アクセルペダル操作にしたがい、生成される三相交流(U相、V相、W相)を走行用モータに出力して、走行用モータにトルクを印加させている。
【0003】
ところで、電気自動車に搭載されるインバータのIGBTは、発熱しやすい部品である。すなわち、
図7(a)に示されるようにIGBTは、走行用モータが高速回転する場合、スイッチングされる周期は短いうえ周波数は高いので、U相、V相、W相のIGBTに流れる電流は早い周期で増減され、IGBTの温度上昇は小さいものの、
図7(b)に示されるように走行用モータの回転が低速になるにしたがい、スイッチングされる周期は長く周波数は低下するため、U相、V相、W相のIGBTに流れる電流が遅い周期で増減され、IGBTは温度上昇する傾向が高まる。さらに
図7(c)に示されるように走行用モータがロックする状態になる場合、U相、V相、W相に流れるはずの電流が、1相のIGBTに集中して大電流で流れ続けるため、当該1相のIGBTが急激に発熱し、急激なる温度上昇をきたす。
【0004】
このIGBTの特性が電気自動車の登坂路発進時に影響を与える。
すなわち、通常、電気自動車が登坂路を発進する場合、アクセルペダルを踏み込むと、走行用モータの状態に応じた周期の三相交流が走行用モータに出力され、走行用モータにトルクを印加させるが、このとき
図8に示されるように平坦路の場合、走行用モータは即、動き始め加速するため、IGBTの温度は上昇しない。また登坂路の場合、
図8に示されるように登坂路の勾配が次第に急になるしたがい、走行用モータの回転は上昇しにくくなるため、アクセルペダルの踏込み時は、IGBTの温度が上昇するものの、その後は走行用モータの動き始めにより、IGBTを流れる電流が早い周期で増減されるため、IGBTの温度は下降する。
【0005】
ところが、通常、IGBTは、過度な温度上昇から保護されるよう(過度な温度なると、IGBTは破損)、保護用の許容温度が設定されている。すなわち、例えば
図8中のa1のようなIGBTの温度がIGBTの許容範囲の上限値tを越えるような登坂路の勾配を発進する場合、上限値にまで過熱されるIGBTを護るため、通電を停止させるという、走行用モータに印加されるトルクを抑制させる制御が働く(トルク抑制)。
【0006】
IGBTは、「ms」という時間単位で温度が変化する部品なので、上記のようにトルク抑制(通電停止)が行われると、即、IGBTの温度が上限値を下回る。
しかし、IGBTは、上限値を下回ると、再びスイッチングが行われ、三相交流が走行用モータに出力されて、トルクを走行用モータに印加するが、登坂路の勾配は変わらないので、再びIGBTの温度が許容範囲の上限値を越えるまで上昇する。つまり、電気自動車は、IGBTの過度な温度上昇を生じさせるような急勾配の登坂路の場合、IGBTの保護機能により、走行用モータにトルクを印加したり、同トルクを抑制したりすることが繰り返されるだけで、電気自動車は、登坂路上を止まり、発進できなくなる。
【0007】
一方、電気自動車の登坂路を発進させる制御には、特許文献1に示される予め登坂可能な最大勾配において登坂開始可能なトルク値を設定して、登坂路を発進させるような制御が開示されているだけで、過度なIGBTの温度上昇をもたらす勾配からの発進をうながすような技術は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−199205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このため、電気自動車は、IGBTの過度な温度上昇を抑制する保護機能が障害となって、登坂性能の限界を越える登坂路発進性能を確保することは難しい。
そこで、本発明の目的は、スイッチング素子の許容温度の上限値を障害に発進が困難とされる登坂路の勾配でも、登坂路発進を可能にした電動自動車の登坂発進モータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様は、直流電力を交流電力に変換する複数のスイッチング素子を有するインバータと、インバータに接続された走行用モータと、走行用モータの出力を駆動輪に伝えるドライブシャフトと、アクセルペダル操作によりスイッチング素子から交流を出力し走行用モータにトルクを印加させる制御部とを備え、電気自動車の登坂路の発進時、スイッチング素子の温度が許容温度の上限値に上昇したとき、走行用モータに印加されたトルクを抑える電気自動車の登坂発進モータ制御装置であって、制御部は、電動自動車の登坂路発進時でのトルクの抑制直後、ドライブシャフトに発生するドライブシャフトの反駆動方向および正駆動回転方向へ交互に振動する減衰振動の周期を検出する振動周期検出部と、検出したドライブシャフトの減衰振動の周期に合わせて、走行用モータにトルクを印加させる再トルク印加部とを有するものとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電動自動車の登坂路発進時、急勾配により、スイッチング素子の温度が許容温度の上限値に達し、スイッチング素子の保護のため走行用モータに印加されるトルクが抑えられたとき、その直後に発生するドライブシャフトの反駆動方向、駆動方向に振動する減衰振動の周期に合わせて、走行用モータにトルクが印加されるから、走行用モータは、ドライブシャフトの減衰振動がもたらすねじりトルクの支援を受けて動き始める。
【0012】
したがって、電動自動車は、減衰振動がもたらすドライブシャフトのねじりトルクの助けにより、今まで許容温度の上限値を障害に発進が困難とされる勾配からの登坂路発進が可能となり、電動自動車に、限界を越える登坂路の発進性能を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態の登坂発進モータ制御装置の各部を、電気自動車(電動自動車)の主要部と共に示すブロック図。
【
図2】登坂発進モータ制御装置で行われる制御のフローチャート。
【
図3】電気自動車がIGBT上限値の制限を受けトルク抑制されたとき、ドライブシャフトに発生する減衰振動を説明するためのタイムチャート。
【
図4】減衰振動の周期に合わせて走行用モータにトルクを印加するときを説明するためのタイムチャート。
【
図5】走行用モータのトルクに、減衰振動がもたらすドライブシャフトのねじりトルクが合わさり駆動輪へ伝わるのを説明する斜視図。
【
図6】本発明の第2の実施形態の要部となる異なる減衰振動周期に合わせたトルクの印加制御を示すフローチャート。
【
図7】走行用モータの回転速度に応じ変化するIGBTの温度上昇特性を説明するタイムチャート。
【
図8】同走行用モータの回転速度に基づく登坂路を発進するときにおけるIGBTの温度上昇の変化を説明するための線図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を
図1から
図5に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
図1は電気自動車(電動自動車)の概略構成を示している。この電気自動車の主要部を説明すると、
図1中1は電気自動車の車体、3は同車体1の前部に配置された前輪、5は車体1の後部に配置された後輪(駆動輪に相当)、7は走行用モータ(例えば同期型交流三相モータで構成される)、9はバッテリ、11は、U相,V相,W相といった複数相のIGBT11a(スイッチング素子に相当)を有して構成されるインバータ、13はECU(マイクロコンピュータで構成:制御部に相当))を示している。走行用モータ7の出力部は、ドライブシャフト15(鋼製のシャフト部材でなる)を介して後輪5に接続される。
【0015】
バッテリ9は、インバータ11を介して走行用モータ7に接続され、バッテリ9の直流出力を交流出力に変換して走行用モータ7へ出力する。これにより、バッテリ9の電力で後輪5の駆動が行われる。
ECU13は、予め設定された制御情報に基づきIGBT11aを、走行用モータ7の状態(モータ回転速度センサ21やモータ回転位相センサ23からの信号)に応じスイッチングしたり、アクセルセンサ17からの信号、すなわちアクセルペダル19のアクセル開度信号にしたがい、生成された交流を走行用モータ7に出力したりする。つまり、ECU13により、走行用モータ7が駆動、すなわち走行用モータ7にトルクが印加される。
【0016】
この電気自動車に、登坂路発進に関わる制御を行う登坂発進モータ制御装置29が設けられている。登坂発進モータ制御装置29は、例えばECU13に、IGBT11aを過度な温度上昇から保護する機能と、同保護機能で生じる現象を利用して登坂発進性能を高める機能とを有している。
IGBT11aの保護機能(IGBT保護部)は、ECU13に、予めIGBT11aを保護する許容温度を設定しておく。インバータ11に、IGBT11aの温度を検出する温度センサ14を設ける。さらにECU13に、電気自動車の急勾配の登坂路発進時、温度センサ14で検出されるIGBT11aの温度が許容温度の上限値t(
図3、
図4)に上昇した場合(例えば1相のIGBT11aに電流が集中し、IGBT11aが過熱されるとき)、一旦、IGBT11aの通電を停止する制御機能を設ける。つまり、IGBT11aの通電停止によって、走行用モータ7に印加されるトルクを抑制するものとしている。このトルク抑制により、IGBT11aの温度は低下し、IGBT11aにおける過大な温度上昇は抑えられる。ちなみにIGBT11aの温度低下は、例えば数十msといった極めて短い時間単位で行われる。
【0017】
電気自動車の発進性能の限界を高める機能は、トルク抑制が行われた直後に発生するドライブシャフト15の減衰振動を利用して行うものである。
すなわち、走行用モータ7のトルク抑制制御の実行直後、ドライブシャフト15は(走行用モータ7:非通電)、
図3のモータ回転位相に見られるように当初の正駆動方向へねじれた状態から反駆動方向へねじれ、再び正駆動方向へねじれ、更に反駆動方向へねじれるという、周方向に交互にねじれ振動を繰り返しながら減衰することがわかっている(ms単位の短い周期で減衰)。この振動は減衰振動Sという。
【0018】
発進性能の限界を高める機能は、この減衰振動の周期に合わせて、走行用モータ7にトルクを印加させる共振制御でなる。具体的には同制御は、トルク抑制直後、ドライブシャフト15に発生する減衰振動Sの周期を検出する検出機能(振動周期検出部に相当)と、この検出した減衰振動Sの周期に合わせて、再度、走行用モータ7にトルクを印加されるようIGBT11aをスイッチングする再トルク印加機能(再トルク印加部に相当)とを有してなる。
【0019】
本実施形態の検出機能は、ドライブシャフト15の固有振動数に基づき設定された周期時間に基づき、減衰振動Sの周期を検出する手法を用いている。例えばドライブシャフト15の固有振動数が「10Hz」であると、減衰振動Sの1周期は「およそ100ms」であるから、トルク抑制後、同時間まで経過したことを検出することで、ドライブシャフト15の減衰振動の周期検出が行える。
【0020】
また再トルク印加機能は、ドライブシャフト15のねじれが開放したときのねじりトルクが、最も有効に後輪5へ発進トルクとして伝わるよう、
図4中のモータ回転位相、モータ回転速度に示される減衰振動Sが反駆動方向へ位相、その後、正駆動方向へ位相するときの戻るタイミング(y)、ここでは「100ms」の半分、例えばトルク抑制後、「50ms」経過したときのタイミングで、再度、走行用モータ7の状態(停止状態)に応じ生成された交流が走行用モータ7に出力させる制御でなる。
【0021】
つまり、許容温度で規制されるような急勾配の登坂路発進時には、走行用モータ7からのトルクと、ドライブシャフト15に生じるねじりトルクとが後輪5に加わる。このねじりトルクによるアシストにより、本来、無理であった走行用モータ7が動き始められるようにしている。むろん、IGBT11aを過熱から護るため、再トルク印加は、IGBT11aの温度が許容温度の上限値を下回るときに実行されるものとしている。
【0022】
つぎに、この登坂発進モータ制御装置29の作用を。
図2に示されるフローチャート、図および
図4に示されるタイムチャート、
図5に示される登坂路上を停止した電気自動車(車両)を模式した斜視図を参照して説明する。
例えば
図5に示されるような登坂路を停止している電気自動車が発進するときを例に挙げて説明すると、運転者がサイドブレーキ(図示しない)を解除し、アクセルペダル19を踏み込む。これにより、インバータ11の複数のIGBT11aは、走行用モータ7の状態(停止)に応じスイッチングされ、走行用モータ7に応じた周期の三相交流が生成される。そして、
図2のステップS1に示されるようにアクセルペダル19の踏込みにしたがい走行用モータ7に、生成されたトルクが印加される。この印加されたトルクは、
図5に示されるようにドライブシャフト15へ伝わり、まずドライブシャフト15を正駆動回転方向へねじる。ドライブシャフト15がねじり終えると、
図5中の矢印Aのように後輪5へトルクが伝わり、電気自動車を発進(前進)へさせようとする。
【0023】
このとき、
図5に示される登坂路の勾配θが急勾配なため、モータロックが生じるとする。すると、IGBT11aの1相に電流が集中して流れ、当該一相のIGBT11aが過大に発熱し、温度センサ14で検出されるIGBT11aの温度が、
図3に示されるように許容温度の上限値tに達する。
続く
図2のステップS3は、IGBT11aの温度が上限値tか否かの判定を行っている。IGBT温度が上限値tに達すると、ステップS5へ進み、走行用モータ7を過熱から護るIGBT保護制御、すなわち走行用モータ7に印加されるトルクを抑制するトルク抑制制御が行われる。
【0024】
具体的にはIGBT11aの通電を停止する制御が行われる。これにより、
図3に示されるようにIGBT11aの温度は低下する。
さらに走行用モータ7はフリーな状態となり、ドライブシャフト15のねじれが開放されるため、ドライブシャフト15には、
図3のモータ回転位相(モータ回転位相センサ23の検出信号)、モータ回転速度(モータ回転速度センサ21の信号)に示されるような減衰振動Sが発生する。すなわち、減衰振動Sは、ドライブシャフト15の正駆動方向へねじれた状態から、反駆動方向へねじれ、再び正駆動方向へねじれ、更に反駆動方向へねじれるという、周方向に交互にねじれる周期を繰り返しながら減衰していく振動である(ms単位の短い周期)。
【0025】
つぎのステップS7は、この減衰振動Sの周期を検出するために、
図4に示されるようにトルク抑制後からの経過時間が、所定時間である、ドライブシャフト15の固有振動数(例えば10Hz)に基づき設定された1周期時間、ここでは「50ms」を経過したか否かを判定している。
「50ms」のタイミングは、
図4のモータ回転位相に示されるように反駆動方向へねじれたドライブシャフト15が正駆動方向へ位相するという戻るタイミングである。同タイミング(y)になると、ステップS9へ進み、このタイミングに合わせて、
図4のモータトルクに示されるようにIGBT11aで生成された三相交流の出力を、再度、走行用モータ7に加え、走行用モータ7にトルクを印加させる(共振)。
【0026】
これにより、
図5に示されるように後輪5に加わるトルクAは、走行用モータ7からのトルクA1に、減衰振動Sがもたらすドライブシャフト15の正駆動方向のねじりトルクA2が加わった過大なトルクが印加されるので、IGBT11aの過熱が要因に発進できない、すなわち登坂路上を停止し続けることが与儀なくされる状況であっても、走行用モータ7は動き始められる。
【0027】
続くステップS11は、走行用モータ7が動き始めたか否かを判定していて、走行用モータ7が動き始めると、IGBT11aの過度な温度上昇は生じないと判定され、ステップS13へ進む。これにより、走行用モータ7は、通常のモータ状態に応じたIGBT11aのスイッチングで制御され、電気自動車は、登坂路上を加速しながら発進する。
以上説明したように電動自動車の登坂路発進時、たとえIGBT11aの保護のため走行用モータ7のトルクが抑制されたとしても、走行用モータ7は、ドライブシャフト15の減衰振動Sがもたらすねじりトルクの支援を受けて動き始める。
【0028】
それ故、電気自動車は、今まで許容温度の上限値を障害に発進が困難とされる勾配からの発進が可能となり、電動自動車に、限界を越える登坂路の発進性能を与えることができる。特に減衰振動Sが正駆動方向へ位相するときのタイミングで、走行用モータ7へトルクを印加させたので、ドライブシャフト15に生じる減衰振動Sのねじりトルクを、最も有効に走行用モータ7のアシストに利用できる。
【0029】
しかも、減衰振動Sの周期の検出には、ドライブシャフト15の固有振動数に基づく周期時間(ここでは50ms)を用いたので、簡単な制御で、ドライブシャフト15の減衰振動Sの振動の周期に合わせて、走行用モータ7にトルクを印加させることができる。
そのうえ、走行用モータ7の再トルク印加は、IGBT11aの温度が許容温度の上限値tを下回るときに実行するので、安定した再トルク印加の制御が約束できる。
【0030】
図6は、本発明の第2の実施形態を示す。
第1の実施形態のように減衰振動の周期の検出を、ドライブシャフトの固有周波数に基づく周期時間の検出といった間接的な手法で行うのではなく、センサ、例えばモータ回転位相センサ23(あるいはモータ速度センサ線21)を用いて、
図4に示されるモータ回転位相から、ドライブシャフト15の減衰振動Sの周期を直接的に検出するようにしたものである。
【0031】
具体的には、
図6のフローチャートのように、
図2のフローチャート中のステップS7の代わりに(第1の実施形態)、ステップS6として、モータ回転位相センサ23の出力信号から、トルク抑制後に発生するドライブシャフト15の減衰振動Sのうち、
図4中の反駆動方向へ戻り始めるときの位相点(x)から、反転して正駆動方向へ向かう位相点(y)までの位相を検出する周期検出処理を設け、つぎのステップS9にて、ステップS6で検出した減衰振動Sの周期に合わせて、走行用モータ7にトルクを印加するようにしたものである。
【0032】
走行用モータ7の再トルク印加は、トルク抑制後の第1回目の周期タイミングではなく、第2回目の周期タイミングで行うようにしてもよい。
但し、
図6において
図2(第1の実施形態)と同じ部分には、同一符号を付してその説明を省略した。
なお、上述した実施形態における各構成および組合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であることはいうまでもない。また本発明は、上述した実施形態によって限定されることはなく、「特許請求の範囲」によってのみ限定されることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0033】
5 後輪(駆動輪)
7 走行用モータ
11 インバータ
11a IGBT(スイッチング素子)
13 ECU(制御部、振動周期検出部、再トルク印加部)
15 ドライブシャフト
A 減衰振動