特許第6551671号(P6551671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551671
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】アルツハイマー治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4535 20060101AFI20190722BHJP
   A61K 31/4453 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20190722BHJP
   A61K 31/277 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190722BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   A61K31/4535
   A61K31/4453
   A61K31/216
   A61K31/495
   A61K31/277
   A61P43/00 111
   A61P25/28
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-158619(P2015-158619)
(22)【出願日】2015年8月11日
(65)【公開番号】特開2017-36242(P2017-36242A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500439250
【氏名又は名称】学校法人銀杏学園
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】高濱 和夫
(72)【発明者】
【氏名】河原 遼
(72)【発明者】
【氏名】副田 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】三隅 将吾
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−063958(JP,A)
【文献】 特開2001−072684(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/098300(WO,A1)
【文献】 日薬理誌,2004年,Vol.124,p.145-151
【文献】 Brain Research Review,1995年,Vol.20,p.250-267
【文献】 Science,1991年,Vol.254,p.1515-1518
【文献】 Molecular Psychiatry,1999年,Vol.4,p.344-352
【文献】 Molecular Psychiatry,2002年,Vol.7,p.726-733
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61P 25/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニル、およびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を有効成分として含有するアミロイドβ蛋白質により誘発される認知症の予防および/または治療薬。
【請求項2】
前記認知症がアルツハイマー病である、請求項1に記載の予防および/または治療薬。
【請求項3】
前記化合物が、チペピジン又はその薬理学的に許容される塩である、請求項1又は2に記載の予防および/または治療薬。
【請求項4】
前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノンおよびクエン酸イソアミニルからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物である、請求項1又は2に記載の予防および/または治療薬。
【請求項5】
前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジンまたはクエン酸チペピジンである、請求項4に記載の予防および/または治療薬。
【請求項6】
注射剤である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の予防および/または治療薬。
【請求項7】
チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニル、およびそれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を有効成分として含有するアミロイドβ蛋白質の蓄積阻害剤。
【請求項8】
前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノンおよびクエン酸イソアミニルからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項7に記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の主原因と考えられているアミロイドβ蛋白質により誘発される認知症に対する予防および/または治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知機能低下(記憶障害など)を主な症状とする認知症の一つである。アルツハイマー病は、認知症の中で最も多いタイプであり、特に高齢者で頻発するにも関わらず、有効な治療薬が存在しない。
アルツハイマー病の治療薬として、まず、コリンエステラーゼ阻害作用をもつ塩酸ドネペジルが開発され、臨床に適用された。近年、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼを共に阻害するリバスチグミン、コリンエステラーゼ阻害作用に加えてニコチン受容体の感受性亢進作用をもつガランタミン、興奮性アミノ酸受容体のNMDA受容体に対して弱い遮断作用をもつメマンチンの3つの治療薬が開発され、臨床に用いられている。しかし,これらのいずれの治療薬も一時的な症状の緩解をもたらすが、病状の進行を食い止め、根本的に治療できる薬ではない。
【0003】
アルツハイマー病患者の死後脳では老人斑が観察され、これは「アミロイドβ蛋白質」の凝集体であることが知られている。アミロイドβ蛋白質の沈着が、病理学的に確認できる最も初期の病変であり、アミロイドβ蛋白質が凝集し、そして直接、神経細胞毒性を示すことが報告されている。そして、家族性アルツハイマー病患者の遺伝子解析から、アミロイドβ蛋白質の産生および蓄積の異常がアルツハイマー病の発症に広く関連しているということが現在広く受け入れられている。これは、アミロイドカスケード仮説と呼ばれている。このように、アミロイドβ蛋白質がアルツハイマー病の主原因であることは、数多くの研究により広く受け入れられている。そして、従来のアセチルコリン仮説、グルタミン酸仮説に基づくものとは異なり、現在は、アルツハイマー病の発症原因として最も信頼性の高いアミロイドβタンパク質の異常な蓄積を防止または改善する医薬品の研究が行われている。
【0004】
アミロイドβ蛋白質は、40アミノ酸程度のペプチドであり、その前駆体である「アミロイド前駆体蛋白質」から生成される。アミロイド前駆体蛋白質の部分断片であるアミロイドβ蛋白質は、βセクレターゼおよびγセクレターゼによる連続した切断によって生成、分泌される。通常の脳でも、僅かではあるがアミロイド前駆体タンパク質は、βセクレターゼによる切断を受け、アミロイドβ蛋白質が分泌されている。しかし、アルツハイマー病になる脳では、このアミロイドβ蛋白質の産生量が増加するか、より凝集性の高いアミロイドβ蛋白質分子種が生成されるようになると考えられている。このアミロイドβ蛋白質の凝集する性質が、最終的にアルツハイマー病患者の老人斑(アミロイド凝集体)を形成し、脳内沈着として観察される。
【0005】
生成されたアミロイドβ蛋白質は、次第に凝集し、その凝集体に神経毒性があることが分かっている。また、この凝集体をマウス脳内に投与すると、記憶・学習能力が失われることも報告されている。最近の研究では、アミロイドβタンパク質のフラグメントであるAβ(25-35)をマウス脳内に投与すると、記憶障害が表れることが報告されている。
【0006】
上記のような背景のもと、アミロイドβ蛋白質による作用機序に基づいた新たなアルツハイマー治療薬の開発が進められ、いくつかの候補が報告されている。例えば、アミロイド前駆体蛋白質からのアミロイドβ蛋白質の産生を抑制しようとする、γセクレターゼ阻害剤が報告されている。その他には、脳内のアミロイドβ蛋白質に対する抗体を用いた抗体療法が報告されている。
しかしながら、未だに十分な成績が得られておらず、更なる、医薬品の開発が望まれている。
【0007】
これまで,本発明者は,非麻薬性中枢性鎮咳薬の作用メカニズムに関する研究において,鎮咳薬がG−タンパク質共役型内向き整流性Kイオン(GIRK)チャネルの活性化電流を抑制することを発見し、報告している(非特許文献1)。さらにこの作用をもつ鎮咳薬は,様々な難治性脳疾患モデル(難治性うつ、ADHD、強迫性症候群、排尿障害、パーキンソン病、疼痛、環境ホルモンの脳かく乱作用など)の症状を鎮咳有効量で顕著に改善することも見出し、報告している(非特許文献2)。
これらの本発明者らによる長年にわたる研究成果は、このGIRKチャンネル活性化電流を抑制する作用を有するGIRKチャンネル抑制化合物を活性成分として含有する、うつ病や治療抵抗性うつ病などの気分障害または感情障害の治療薬(特許文献1)、注意欠陥・多動性障害の治療薬(特許文献2)、治療薬のない脳梗塞に伴う排尿障害を改善する薬剤(特許文献3)、環境化学物質に起因する脳機能障害の機能改善薬(特許文献4)、排尿障害治療薬(特許文献5)、および疼痛における中枢機能改善薬(特許文献6)として特許出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−227631号公報
【特許文献2】WO2007/037258号公報
【特許文献3】WO2005/084709号公報
【特許文献4】WO2007/139153号公報
【特許文献5】特開2007−204366号公報
【特許文献6】WO2012/118172号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takahama K., et. al., Handb. Exp. Pharmacol. 219-240 (2009)
【非特許文献2】Takahama K., J. Phaemacol. Sci., 120, 146-151 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルツハイマー病の主原因と考えられているアミロイドβ蛋白質により誘発される新たな認知症、特にはアルツハイマー病の予防および/または治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、実験動物をいわゆる刺激の豊かな環境(enriched environment)で飼育すると、その動物の学習行動が亢進し、様々な疾患を示すモデル動物の場合は、これらの症状が発現しないという報告に注目した。さらに本発明者は、多彩な薬理効果を示す鎮咳薬の作用点として腹側被蓋野―側坐核系のドパミンニューロンに着目した。そして、刺激の豊かな環境で飼育した動物でも、このドパミンレベルの上昇が見られることより、GIRKチャネル阻害作用をもつ鎮咳薬のアルツハイマー病モデルに対する作用を検討した結果、チペピジンやクロペラスチンの投与により有意かつ強力な学習行動の改善効果が見られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下のものを含む。
[1]GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を有効成分として含有するアミロイドβ蛋白質により誘発される認知症の予防および/または治療薬。
[2]前記認知症がアルツハイマー病である、上記[1]に記載の予防および/または治療薬。
[3]前記化合物が、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である上記[1]または[2]に記載の予防および/または治療薬。
[4]前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノンおよびクエン酸イソアミニルからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物である、上記[3]に記載の予防および/または治療薬。
[5]前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジンまたはクエン酸チペピジンである、上記[4]に記載の予防および/または治療薬。
[6]注射剤である、上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の予防および/または治療薬。
[7]治療有効量のGIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知症を発症した患者に投与することを含む、認知症の治療方法。
[8]前記認知症がアルツハイマー病である、アルツハイマー病の治療方法。
[9]前記化合物が、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である上記[7]または[8]に記載の治療方法。
[10]GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を有効成分として含有するアミロイドβ蛋白質の蓄積阻害剤。
[11]前記化合物が、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である上記[10]に記載の阻害剤。
[12]前記化合物が、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノンおよびクエン酸イソアミニルからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物である上記[11]に記載の阻害剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の予防・治療剤は、アミロイドβ蛋白質に起因する認知症、特には、アルツハイマー病に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、チペピジンを用いた、Aβ25-35 脳室内投与マウスモデルを用いた実験の概略を示した図である。
図2図2は、Aβ25-35 脳室内投与モデルに対するチペピジンの効果を確認した結果である。
図3図3は、クロペラスチンを用いた、Aβ25-35 脳室内投与マウスモデルを用いた実験の概略を示した図である。
図4図4は、Aβ(25-35)脳室内投与モデルに対するクロペラスチンの効果を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明する。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
【0016】
この発明において使用可能なGIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物は、細胞内の形質膜に存在するGIRKチャンネル活性化電流を抑制することができる化合物(以下、単に、「GIRKチャンネル阻害剤」、または「本発明の化合物」とも言う)であって、具体例としては、例えば、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選択することができる。上記塩は特に限定されないが、例えば、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノンおよびクエン酸イソアミニルをあげることができる。これらの化合物は有効成分として単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
本発明のアミロイドβ蛋白質により誘発される認知症に対する予防および/または治療薬(以下、単に合わせて「本発明の治療薬」という)の有効成分としては、上記GIRKチャンネル阻害剤を用いることが出来るが、好ましくは、チペピジン、クロペラスチン、またはそれらの薬理学的に許容される塩であり、特に好ましくは、チペピジンまたはその薬理学的に許容される塩である。具体的には、上記した化合物、好ましくは、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチンを、特に好ましくは、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンをあげることができる。これらの化合物は、中枢性鎮咳薬としても知られている。
【0018】
本発明の治療薬は、認知症に対して、特にアルツハイマー病に対して優れた効果を示し、ヒトを含む動物における認知症(特に、アルツハイマー病)に対して有用である。
【0019】
本発明の治療薬は、本発明を用いる一つの態様として、通常、長期に渡り、例えば、数週間に渡り連続的に投与することができる。本発明の化合物は、安全性に優れているので、このような長期の投与に適している。
【0020】
本発明の化合物の投与量は、投与形態、塩の種類、患者の症状の程度、年齢、性別、体重、薬剤に対する感受性差、(あるとすれば)併用される薬剤等に応じて異なるが、通常、成人の場合、1回あたり、1〜100mg、好ましくは1〜50mgである。
【0021】
本発明の化合物は、経口的(舌下投与を含む)または非経口的に投与できる。このような薬剤の形態としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、シロップ剤、輸液剤、注射剤、吸入剤、坐剤等を挙げることができる。
【0022】
経口用固形製剤を調製する場合は、本発明の化合物に、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、矯味剤、抗酸化剤、矯臭剤、保存剤、無機充填剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、粉末剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。このような固形製剤の中では、嚥下しやすい錠剤の形状をしていることが好ましい。また、崩壊錠とすることもできる。さらに、他の治療薬と混合して使用してもよい。
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明の化合物に、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤、界面活性剤、可溶化剤等を加え、常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0023】
注射剤を調製する場合は、本発明の化合物に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。注射剤は、凍結乾燥製剤として用時溶解して使用すること、或いはプレフィルド・シリンジに充填して使用することのいずれでもよい。
【0024】
坐剤を調製する場合は、本発明の化合物に、当該技術分野において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等を、更に必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法により製造することができる。
【0025】
本発明の化合物を輸液剤として生体内に投与する際には、生理食塩水に、必要に応じて他の水溶性の添加剤、薬液を配合したものを用いることができる。このような(生理食塩)水に添加される添加剤としては、カリウム、マグネシウム等のアルカリ金属イオン、乳酸、各種アミノ酸、脂肪、グルコース、フラクトース、サッカロース等の糖質等の栄養剤、ビタミンA、B、C、D等のビタミン類、リン酸イオン、塩素イオン、ホルモン剤、アルブミン等の血漿蛋白、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ等の高分子多糖類等を挙げることができる。このような水溶液における化合物の濃度は、投与対象の状態、症状その他に応じて適宜選択できるが、10-7Mから10-5Mの濃度の範囲とすることが好ましい。
【0026】
本発明の治療薬はまた、他のアルツハイマー治療薬、例えば、アミロイドβ蛋白質に関連する他の治療薬、アセチルコリン仮説またはグルタミン酸仮説に基づく治療薬と併用することができる。例えば、これに限定されないが、γセクレターゼ阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネペジル、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼを共に阻害するリバスチグミン、コリンエステラーゼ阻害作用に加えてニコチン受容体の感受性亢進作用をもつガランタミン、あるいは、興奮性アミノ酸受容体のNMDA受容体に対して弱い遮断作用をもつメマンチンと併用することもできる。本発明化合物とこれらの化合物は、配合剤として一つの医薬品として製剤化することもできる。
【0027】
本発明の化合物はまた、アミロイドβ蛋白質が関与する認知症の治療方法にも利用できる。具体的な方法としては、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を、アミロイドβ蛋白質が関与する認知症と診断されたヒトに投与する工程を含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知症の治療方法である。
上記化合物は、好ましくは、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる化合物である。
【0028】
本発明の化合物はまた、アミロイドβ蛋白質の蓄積阻害剤または蓄積阻害方法としても利用できる。具体的には、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を含む生体内でのアミロイドβ蛋白質の蓄積阻害剤である。阻害方法は、具体的には、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物を、ヒトに投与し、ヒト生体内でのアミロイドβ蛋白質の蓄積を阻害する工程を含む、アミロイドβ蛋白質の蓄積阻害方法である。
上記化合物は、好ましくは、チペピジン、クロペラスチン、カラミフェン、エプラジノン、イソアミニルまたはそれらの薬理学的に許容される塩から選ばれる化合物である。
【0029】
以下の仮説に拘束される訳ではないが、GIRKチャネル阻害がアミロイドβの異常な蓄積を阻害するメカニズムは、以下のことが考えられる。
ソマトスタチンは、アミロイドβを分解するネプリライシンの活性を上昇させるが、このソマトスタチン受容体はGIRKチャネルと共役しており、その阻害はソマトスタチン含有細胞の興奮性を増し、ソマトスタチンのレベルを上昇させることが予想される.
GIRKチャネル阻害作用をもつ薬物は、側坐核のドパミンレベルを上昇させ、同じ作用は、アミロイドβ蓄積のトランスジェニックマウスの学習行動を改善するenriched environment飼育でも見られる.
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Aβ25-35 脳室内投与モデルを用いて、以下のようにして本発明の化合物の効果を確認した。
実験には、5週齢のICR 系雄性マウスを用い、図1に示すプロトコールで行った. Aβ25-35 (SIGMA-ALDRICH Amyloid β-Protein Fragment 25-35)を凝集させるために、脳室内投与の前に37 ℃ で 4日間インキュベートし、HaleyとMcCormickの方法(Haley & McCormic, Br. Jr. Pharmacol. Chemother. 1975 Mar, 12(1): 12-15)に準じ,Aβ25-35 (3 nmol)またはvehicle(滅菌水)を 3.2 μLの容量で脳室内投与した。すなわち、ジエチルエーテルで麻酔し、正中から右側に 1 mm、目と耳から等距離の位置に、先端 3 mmを直角に折り曲げた28ゲージの注射針を皮膚面より垂直に挿入し、薬液を注入した。脳室内投与の5日後〜8日後の4日間で新奇物体認識試験を行った。新奇物体認識試験は、まず2日間(1日 10分間)テストケージにマウスを馴化させ(habituation)(図1の5dayおよび6day)、その後、2つの同一の物体を置いたテストケージでマウスを10分間自由に探索させ(training)(図1の7day)、両物体の探索時間を測定した。その24時間後に2つの物体のうち、片方を新奇物体に替えたテストケージでマウスを自由に探索させ(retention)(図1の8day)、両物体の探索時間を測定し、下記の式より識別指数(DI)を算出した。
DI(%)=(新奇物体の探索時間/両物体の探索時間の合計)×100
試験薬として、チペピジン(40 mg/kg)または生理食塩水は、training(7日目)の30分前に皮下投与した。
結果を、図2に示す。チペピジンの投与により、有意かつ強力な学習行動の改善効果が見られた。
【0031】
(実施例2)
実施例1と同様にして、図3に示すプロトコールに従い、クロペラスチンの効果を確認した。但し、クロペラスチン(40 mg/kg)および生理食塩水は、Training(7日目)の30分前に皮下注射した。さらに、Aβ25-35 未処理の対照としてAβ25-35 の代わりに生理食塩水を加えたマウスも同時に試験した。
結果を図4に示す。*は、p<0.05を示す。クロペラスチンの投与により、有意かつ強力な学習行動の改善効果が見られた。
【0032】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の治療薬は、アミロイドβ蛋白質に起因する認知症、特にはアルツハイマー病の予防および/または治療に有効である。
図1
図2
図3
図4