特許第6551681号(P6551681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551681
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】サツマイモを含む飼料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20190722BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20190722BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20190722BHJP
【FI】
   A23K10/30
   A23K10/37
   A23K50/75
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-543940(P2015-543940)
(86)(22)【出願日】2014年10月27日
(86)【国際出願番号】JP2014078481
(87)【国際公開番号】WO2015060456
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-222643(P2013-222643)
(32)【優先日】2013年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504344060
【氏名又は名称】有限会社そおリサイクルセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(74)【代理人】
【識別番号】100176197
【弁理士】
【氏名又は名称】平松 千春
(72)【発明者】
【氏名】大塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】井尻 大地
(72)【発明者】
【氏名】津末 成太和
(72)【発明者】
【氏名】宮地 光弘
(72)【発明者】
【氏名】神田 享志
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−204761(JP,A)
【文献】 深澤秀夫,廃棄サツマイモの飼料化調整技術の構築,九州大学博士論文,2013年 7月10日,69−83,URL,http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/21696/agr624.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 − 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下、60℃〜110℃の温度で水分含有量8重量%以下となるまで加熱処理したサツマイモを含む家禽用飼料。
【請求項2】
加熱処理したサツマイモが6重量%〜15重量%のマルトースを含有する請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
サツマイモとして廃棄物残さを用いる請求項1又は2に記載の飼料。
【請求項4】
サツマイモを減圧下、60℃〜110℃の温度で水分含有量8重量%以下となるまで加熱する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飼料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の飼料を家禽に給与することを含む、家禽の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモを原料とする家畜用飼料及びその製造方法に関する。本発明は、この飼料を用いる家畜の飼育方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サツマイモ(甘藷)は、食品として利用される他、家畜用飼料としても広く利用されてきた。サツマイモは、家畜用飼料として利用する場合、茎葉や塊根の生食給与やサイレージの形態で自給飼料として利用されてきた。特に、鹿児島県のブランド豚である「かごしま黒豚」は、サツマイモを10〜20%添加した飼料を給与することにより、その肉質が改善されることが知られている。しかし、サツマイモを原料とする家禽用飼料はほとんど報告されていない。
【0003】
特許文献1では、乾燥サツマイモに水と酸を添加して加熱し、澱粉の一部をデキストリン及び還元糖に分解したサツマイモからなる養豚用飼料原料が記載されているが、澱粉を分解するためには水と酸を添加した上で120℃の高温に加熱することが必要であり、80℃程度の加熱では澱粉の分解がほとんど進行しなかったことが記載されている。
【0004】
一方、サツマイモの主要な生産地である鹿児島県では、サツマイモの生産量は年間35万トン(平成23年度)に達するが、その一方で、収穫や加工利用に際して、規格外品や塊根の上下末端・表皮部位等のサツマイモの廃棄物残さが年間6千トン以上発生しているといわれている。そして、このサツマイモの廃棄物残さは利用されずに廃棄されるか、又は飼料用サツマイモよりも価値の低い飼料として利用されている。そこで、このようなサツマイモの廃棄物残さを有効利用することが望まれている。
【0005】
また、近年、消費者は、食品に対し、安価であることよりも安心して口にできる安全なものであることを求めるようになっており、さらに、美味である又は健康に良いなどの付加価値を有する高品質な食品を望んでいる。鶏等の家畜の肉についても同様に、安心して口にでき、肉質が良く見た目も良好な高品質なものが望まれている。しかし、鶏等の家畜の肉は不飽和脂肪酸を多く含み、生体膜を構成する不飽和脂肪酸の酸化により過酸化脂質が生成するため、品質が劣化し易く、保存性が他の食肉と比較して劣るといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−204761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、簡便な方法で家畜の肉質を改善することが望まれている。また、サツマイモの廃棄物残さを有効利用することも望まれている。それ故、本発明は、簡便な方法で家畜の肉質を改善することができるサツマイモを原料とする家畜用飼料を提供することを目的とする。また、本発明は、サツマイモを原料とする家畜用飼料をコストを抑えて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、所定の条件下で加熱処理したサツマイモを含む家畜用飼料を用いると、家畜の肉質が改善することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)減圧下、60℃〜110℃の温度で水分含有量8重量%以下となるまで加熱処理したサツマイモを含む家畜用飼料。
【0011】
(2)加熱処理したサツマイモが6重量%〜15重量%のマルトースを含有する(1)の飼料。
【0012】
(3)家禽用飼料である、(1)又は(2)の飼料。
【0013】
(4)サツマイモとして廃棄物残さを用いる(1)〜(3)のいずれかの飼料。
【0014】
(5)サツマイモを減圧下、60℃〜110℃の温度で水分含有量8重量%以下となるまで加熱する工程を含む、(1)〜(4)のいずれかの飼料の製造方法。
【0015】
(6)(1)〜(4)のいずれかの飼料を家畜に給与することを含む、家畜の飼育方法。
【0016】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-222643号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、簡便な方法で家畜の肉質を改善することができるサツマイモを原料とする家畜用飼料を提供することが可能となる。また、本発明により、サツマイモを原料とする家畜用飼料をコストを抑えて提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
1.家畜用飼料
本発明は、加熱処理したサツマイモ(甘藷)を含む家畜用飼料に関する。本発明の飼料は、サツマイモを含むことにより、飼料中のビタミンE含有量が増加し、優れた抗酸化効果によりその保存性が向上する。
【0020】
本発明の飼料に用いるサツマイモは、特に限定されずに黄金千貫、ベニサツマ、ベニアズマ、ベニハヤト、ジョイホワイト、シロユタカ、金時イモ、ムラサキイモ等の品種を用いることができる。
【0021】
サツマイモは、特に限定されずに、生サツマイモ、処理をして水分を減少させたもの、処理加工(浸漬、温水浸漬等)したものを用いることができる。
【0022】
本発明の飼料に用いるサツマイモとしては、好ましくはサツマイモの廃棄物残さが用いられる。本発明において、「サツマイモの廃棄物残さ」とは、収穫や加工の際に規格外品であると判断されて廃棄されたサツマイモ、及び、塊根の上下末端、表皮部位等の利用されずに廃棄されたサツマイモを意味する。
【0023】
本発明の飼料に用いるサツマイモの形状は、特に限定されずに、そのままの形態、破砕した形態又は粉末状とすることができる。
【0024】
本発明の飼料は、特定の条件下で加熱処理したサツマイモを含むことを特徴とする。
【0025】
本発明において、加熱処理される材料(サツマイモ)は、好ましくは他の成分を含まない。加熱処理される材料(サツマイモ)は、加熱処理される材料に対して好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上のサツマイモを含む。
【0026】
サツマイモの加熱処理は、減圧下、例えば絶対真空圧力0.005〜0.065MPa、好ましくは絶対真空圧力0.01〜0.02MPaで実施する。減圧下でサツマイモの加熱処理を実施することにより、加熱処理後のサツマイモの抗酸化物質の含有量が増加する。
【0027】
サツマイモの加熱処理は60℃〜110℃、好ましくは65℃〜105℃の温度で実施する。この温度範囲で加熱処理することにより、サツマイモ中のデンプンの糊化が起こり、サツマイモに含有されるβ−アミラーゼが作用することにより、加熱処理後のサツマイモがより多量のマルトースを含有することができる。加熱処理は、サツマイモの水分含有量が8重量%以下となるまで、好ましくは6重量%となるまで実施する。この時間は、例えば温度70℃の場合には5時間〜7時間である。
【0028】
前記のように、加熱処理したサツマイモは、好ましくは6重量%〜15重量%、更に好ましくは7重量%〜14重量%のマルトースを含有する。飼料に含まれるサツマイモのマルトース含有量がこの範囲であると、飼料を給与された家畜において飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率が向上し、サツマイモの消化吸収率が改善される。
【0029】
また、本発明の飼料は、前記の加熱処理したサツマイモを主原料として用いるが、通常の配合飼料に使用される原料を家畜の種類、発育ステージ、地域などの飼育環境に応じて適宜配合してもよい。かかる原料としては、例えば穀物類又は加工穀物類(トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、キビ、小麦粉、小麦胚芽粉等)、糟糠類(ふすま、米糠、コーングルテンフィード等)、植物性油粕類(大豆油粕、ごま油粕、綿実油粕、落花生粕、ヒマワリ粕、サフラワー粕等)、動物性原料(脱脂粉乳、魚粉、肉骨粉等)、ミネラル類(炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、食塩、無水ケイ酸等)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6 、ビタミンB12、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、葉酸等)、アミノ酸(グリシン、メチオニン等)、ビール酵母などの酵母類、無機物質の微粉末(結晶性セルロース、タルク、シリカ、白雲母、ゼオライト等)などが挙げられる。
【0030】
本発明の飼料は、前記の飼料原料に、配合飼料に通常使用される賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等の飼料用添加剤、所望によりその他の成分(抗生物質や殺菌剤、駆虫剤、防腐剤等)を配合してもよい。
【0031】
本発明の飼料の形態は特に限定されるものではなく、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、ペレット状、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、錠剤等が挙げられる。
【0032】
本発明の飼料中の加熱処理したサツマイモの配合量は特に限定されるものではなく、例えば、飼料全体の25〜100重量%、好ましくは35〜100重量%、特に好ましくは40〜80重量%の範囲である。飼料中の加熱処理したサツマイモの配合量がこの範囲であると、この飼料を給与した家畜において、成長促進効果、抗酸化効果及び脂肪白色化効果等の優れた効果が得られる。しかしながら、前記配合量は、対象の家畜の種類、体重、飼育条件、給与方法等により適宜調節できる。
【0033】
2.飼料の製造方法
本発明の飼料は、サツマイモを減圧下、60℃〜110℃の温度で水分含有量8重量%以下となるまで加熱する工程を含む方法によって製造する。
【0034】
サツマイモの加熱処理については前記の通りである。前記のように加熱処理したサツマイモに、必要に応じて、本発明の飼料に含まれる他の成分を添加する。加熱処理したサツマイモ及び他の成分は必要に応じて破砕、粉砕等して用いる。ここで、飼料中の加熱したサツマイモの配合量については前記の通りである。加熱処理したサツマイモに、必要に応じて、本発明の飼料に含まれる他の成分を添加した後、十分に混合して本発明の飼料を得る。本発明の飼料は、必要に応じて前記の所望の形状にすることができる。
【0035】
3.家畜の飼育方法
本発明は、前記の飼料を家畜に給与することを含む家畜の飼育方法も含む。
【0036】
本発明の飼料の給与対象となる家畜は、特に限定されるものではないが、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シカ、ウサギ等の哺乳類の家畜、ニワトリ(ブロイラー、採卵鶏の両方を含む)、七面鳥、アヒル、マガモ、合鴨、キジ、ウズラ、又はガチョウ等の鳥類の家畜(家禽)が挙げられ、好ましくはブタ及び家禽であり、特に好ましくは家禽である。
【0037】
本発明の飼料は、給与対象となる家畜の成長を促進し、血中ビタミンE濃度及び筋組織中ビタミンE含有量の増加により肉の品質の低下を抑制し、酸化による肉の褐色化を防止し、さらに、脂肪を白色化することにより赤身(筋組織)と脂身(脂肪組織)のコントラストが明瞭な鶏肉を得ることができる。よって、本発明の飼料は、給与された家畜に良好な発育を付与するほか、その生産物(肉、卵)に、例えば、抗酸化性や脂肪白色化効果などの多様な機能を付与することができる。
【0038】
本発明の家畜の飼育方法は、前記飼料を家畜に給与して飼育する方法である。本発明の飼料の家畜への給与は、該飼料の形態、用途、使用目的等に応じて、一般の飼料の給与方法に準じて行えばよく、特に限定はされない。本発明の家畜の飼育方法において、前記飼料の給与量は、対象とする家畜の種類、年齢若しくは日齢、性別等により適宜決定すればよい。給与時期も特に限定されるものではなく、家畜の飼育開始から終了の間に渡って継続して給与してもよいし、その間に断続的に給与してもよいし、特定の期間のみに継続して給与してもよい。また、給与時期を対象となる家畜やその産物の性質に応じて適宜決定してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを破砕して、減圧乾燥装置(エスイーバイオマステクノ株式会社型式:SC−200U)へ投入し、減圧下(絶対真空圧力0.01〜0.02MPa)で、撹拌しながら加熱乾燥(72±1℃、6時間、120kg/日)を行った。1時間の冷却の後、約29%の収量で加熱処理したサツマイモが得られた。加熱処理したサツマイモ中の水分は4%、粗タンパク質は4.5%であった。加熱処理したサツマイモは粉砕して飼料の配合に用いた。
【0041】
加熱処理したサツマイモを市販の臼式粉砕機で微粉末状にし、F−キット(スターチ用及び麦芽糖/ショ糖/D−グルコース用)(J.K.インターナショナル、東京)を用いて、説明書に従ってデンプン及びマルトースの定量を行った。加熱処理したサツマイモのデンプン含有量は36.5重量%であり、マルトース含有量は9.1重量%であった。
【0042】
(比較例1)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを、プラスチック製のカゴ上に広げて、室温下にて送風機で送風しながら4日間乾燥させた。得られた室温乾燥したサツマイモの水分は12%、粗タンパク質は4%であった。この室温乾燥したサツマイモのデンプン含有量は47.5重量%であり、マルトース含有量は5.7重量%であった。
【0043】
(比較例2)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを破砕して、三州式コンテナバルク乾燥機SCD125−6.6−2−P−MCへ投入し、金網の上に広げて温風乾燥(約50℃、12時間)を行った。約25%の収量で、常圧下で加熱処理したサツマイモが得られた。常圧下で加熱処理したサツマイモ中の水分は4%、粗タンパク質は4.5%であった。常圧下で加熱処理したサツマイモは粉砕して用いた。
【0044】
実施例1の減圧下で加熱処理したサツマイモ粉末と比較例2の常圧下で加熱処理したサツマイモ粉末の抗酸化物質(総ポリフェノール、α−トコフェロール、β−カロテン)の含有量を調べた。
【0045】
総ポリフェノール、α−トコフェロール、β−カロテンの含有量は以下の方法で測定した。
【0046】
総ポリフェノール:
実施例1及び比較例2の各サツマイモ粉末0.1gを2mL容マイクロチューブに精秤し、80%エタノール1mLを加えて、80℃で30分間アルミブロック中にて保温して総ポリフェノールを抽出した。マイクロチューブを遠心分離(15,000回転、数分間)して上清を回収し、80%エタノールで10倍に希釈し、試料溶液とした。
【0047】
検量線を作成するために、0μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、75μg/mL、100μg/mL、200μg/mLに濃度調整した没食子酸(ナカライテスク社製)標準液を調製した。
【0048】
96穴プレートに、試料溶液又は没食子酸標準液20μL、10%NaCO溶液20μL、超純水150μL及びフェノール試薬(ナカライテスク社製)10μLを加えてよく混和した。室温で1時間放置して反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて700nmの吸光度の測定を行った。
【0049】
没食子酸標準液の吸光度から検量線を作成し、試料溶液の吸光度から試料溶液の総ポリフェノール濃度を算出した。
【0050】
α−トコフェロール及びβ−カロテン:
実施例1及び比較例2の各サツマイモ粉末0.5gを30mL容の蓋付きガラス製試験管に秤量し、ヘキサン5.0mLを加えて30分間撹拌し、抽出した。試験管を遠心分離(3,000回転、5分)し、パスツールピペットで上層のヘキサン画分を100mL容のナス型フラスコに回収した。この操作を2回繰り返した。ロータリーエバポレーターを用いて、ヘキサン画分を減圧乾固(水浴温度35℃、100hPa)し、直ちに0.025%ジブチルヒドロキシトルエン含有エタノール500μLを加えて残渣を再溶解して高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)用の試料とした。試料は500μL容アダプターガラス管を取り付けたHPLC用バイアル瓶に回収して分析に供した。HPLCの測定条件は以下の通りであった:
分析カラム:Inertsil ODS3
カラム温度45℃
移動相:メタノール、ブタノール及び酢酸緩衝液(体積比;メタノール:ブタノール:酢酸=800:200:10)
流速:1mL/分
検出:蛍光検出:励起波長292nm、蛍光波長:330nm。
【0051】
試料中のα−トコフェロールの同定及び定量は、既知濃度のα−トコフェロール(ナカライテスク社製)溶液のピーク溶出時間及び面積を基準に行った。また、試料中のβ−カロテンの同定及び定量は、α−トコフェロールの分析に用いたのと同じ試料を使用し、既知濃度のβ−カロテン(ナカライテスク社製)溶液のピーク溶出時間及び面積を基準に行った。β−カロテンの検出は450nmの吸光度を測定して行った。
【0052】
結果を表1に示す。
【表1】
【0053】
表1より、実施例1の減圧下で加熱処理したサツマイモは、比較例2の常圧下で加熱処理したサツマイモと比較して、総ポリフェノール、α−トコフェロール及びβ−カロテンの含有量がそれぞれ約1.5倍高かった。サツマイモを減圧下で加熱処理することにより、抗酸化物質含有量が高くなり、抗酸化物質の損失を低下させることができた。
【0054】
(実施例2)
1.試験方法
チャンキー種(Ross308)雄初生ヒナ60羽を実験室の保温環境下に置き、市販のブロイラー肥育前・後期用配合飼料(日和産業、パワーチキンP、粗タンパク質22%、代謝エネルギー3.0Mcal/kg)を自由摂取させ群飼育した。14日齢時にブロイラー18羽を選抜し、1試験区あたり6羽とする対照区及び試験区1、2を設け、アルミニウム製ケージ(40×50×60cm)中での個別飼育に切り替えて飼料の給与を開始した。対照区には、トウモロコシ及び大豆粕を主原料とする基礎飼料を給与し、試験区1には、基礎飼料のトウモロコシの半量を実施例1の加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料を給与し、試験区2には、基礎飼料のトウモロコシの全量を実施例1の加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料を給与した。飼料の配合を表2に示す。ここで、圧ぺんトウモロコシ(粗タンパク質8.4%、アルファルファミール5%含有)は竹之内穀類(鹿児島)より購入し、大豆粕ミール(粗タンパク質45%)はJオイルミルズ(東京)より購入し、それぞれ粉砕して飼料に配合した。ミネラル混合及びビタミン混合はブロイラー用プレミックス(日本農産工業、神奈川)を使用した。コーンオイル及びDL−メチオニンは一般市販品を使用した。基礎飼料はトウモロコシ及び大豆粕を主原料として用い、日本飼養標準・家禽(ブロイラー)に準拠して配合した。
【表2】
【0055】
飼料及び水は自由摂取とし、温度23〜25℃、24時間照明の環境下で各試験区のブロイラーの飼育を行った。試験開始から3日毎に個体別に体重を測定し、各試験区の増体重を算出した。また、試験開始から3日毎に飼料摂取量を各試験区別に調べ、飼料要求率を総飼料摂取量及び総増体重量より算出した。試験開始14日目に、断頭によりブロイラーを屠殺・解体して浅胸筋(ムネ肉)、深胸筋(ササ身)、大腿部(モモ)、腹腔内脂肪、心臓、肝臓の重量の測定を行った。浅胸筋は一部を分析まで凍結保存した。同時に、血液を採取、血漿を分離し、分析まで凍結保存した。
【0056】
2.試験結果
(1)飼養成績(体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量)
対照区及び試験区1、2の体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量の結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
(1−1)体重の変化
加熱したサツマイモを用いた飼料を給与した試験区1、2では、対照区に比べて体重増加が認められた。特に、試験区1では対照区と比較して体重が約40%有意に増加した。
【0058】
(1−2)飼料要求率
試験区1及び2では、対照区に比べて飼料要求率が改善した。試験区1が飼料要求率の最小値を示した。
【0059】
(1−3)臓器・組織重量
心臓重量は、試験区1及び2で増加しているが大きな変化ではなかった。肝臓重量は試験区で有意に増加しているが、血液GOT活性に変化が無いことから(以下の表4)、異常な肥大ではないと判断される。浅胸筋及び深胸筋重量は試験区1で最大となり、試験区1の浅胸筋重量は対照区と比較して約24%有意に増加したが、試験区2では対照区と同等の値を示した。大腿部の重量は対照区及び試験区1、2ともに約20g(10数%)増加していた。ムネ肉、ササ身肉、モモ肉を合わせた正肉重量は試験区1で最大(18%増)となった。腹腔内脂肪は、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に増加した。
【0060】
(2)血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量、過酸化脂質量
試験区1、2及び対照区の血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量及び過酸化脂質量を以下の通り測定した。
【0061】
血液生化学性状:
血液のGOT活性、中性脂肪及び総コレステロール濃度は、生化学自動分析装置富士ドライケム3500(富士フィルム)を使用して、各測定キット(富士ドライケムスライド)を用いて測定を行った。
【0062】
血中ビタミンE(α−トコフェロール)濃度及び筋組織中ビタミンE含有量:
血中ビタミンE濃度は、血漿0.2mLを試験管に採取し、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを含むエタノールを0.2mL加えて混和した後、ヘキサンを1.0mLを加えて十分に攪拌してビタミンEを抽出し、高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長、292nm;蛍光波長、330nm)にて測定した。
【0063】
筋組織中ビタミンE含有量は、浅胸筋0.1gを粉砕ホモジナイズ用チューブに秤量し、トリス塩酸緩衝液1.0mLを加えて粉砕ホモジナイズ(5000回転、15秒)し、このホモジネート0.5mLを試験管に分取し、ヘキサン/2−プロパノール混合液1.0mLを加えて十分に攪拌してビタミンEを抽出し、高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長、292nm;蛍光波長、330nm)にて測定した。
【0064】
過酸化脂質量:
過酸化脂質の指標である筋組織チオバルビツール酸反応物価(TBARS)を測定した。TBARS値は以下のように測定した。筋組織を5倍量の1.15%のKCl中で粉砕ホモジナイズし、ホモジネートの一部をマイクロチューブに移し、同量の8.1%のSDS、8倍量の20%の酢酸緩衝液及び8倍量の0.8%のチオバルビツール酸溶液を加えて混合し、アルミブロックヒーター中で反応(95℃、60分)を行った。冷却によって反応を停止した後、筋組織の10倍量のブタノール/ピリジン混合液を加えて撹拌し、マロンジアルデヒド(MDA)の抽出を行った。上層(ブタノール層)の吸光度(535nm)をマイクロプレートリーダーで測定し、テトラエトキシプロパンを標準物質としてMDA濃度(TBARS)を算出した。一般にTBARS値が高いほど、細胞は酸化ストレス状態にあるとされる。
【0065】
試験区1、2及び対照区の血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量及び過酸化脂質量の結果を表4に示す。
【表4】
【0066】
(2−1)血中ビタミンE濃度
血中ビタミンE濃度は、試験区1、2では、対照区に比べて3倍以上に有意に上昇した。各試験区に用いた飼料のビタミンE(α−トコフェロール)含有量を高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長:292nm;蛍光波長:330nm)で測定したところ、試験区1及び2の飼料は、対照区の飼料と比較して、それぞれ4.5倍及び7.7倍のビタミンE含有量であった(表2)ことから、各試験区に用いた飼料のビタミンE含有量が血中ビタミンE濃度の上昇に対して強い影響を及ぼしていることが示された。
【0067】
(2−2)筋組織中ビタミンE含有量
筋組織中のビタミンE含有量は、試験区1及び2で増加し、特に、試験区1では対照区の1.5倍に有意に上昇した。
【0068】
(2−3)過酸化脂質量
TBARSは試験区1で最低値を示した。試験区1では、筋組織中のビタミンE含有量が増加したことにより、酸化ストレスが低減したと考えられる。また、サツマイモはビタミンEの他に、ビタミンCやポリフェノール類などの抗酸化物質を比較的多く含有しており(それぞれ100g当たり:ビタミンE1.6mg、ビタミンC29mg、ポリフェノール類228mg)、これらも抗酸化活性に寄与すると考えられる。試験区1及び2に用いた加熱したサツマイモを含む飼料のフリーラジカル除去能は、対照区の飼料の1.5〜2倍の値を示し、抗酸化能が高いことが示された(表2)。飼料のフリーラジカル除去能の測定は、試験区1、2及び対照区1の飼料を10倍量の80%エタノールで抽出し、その抽出液を、α−トコフェロールの水溶性同族体Troloxを標準物質として用い、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)の消去活性によって測定し、試料1g当たりのラジカル捕捉活性を、Trolox当量(nmol/g)で表した。試験区1及び2の飼料のフリーラジカル除去能は、それぞれ、22.9当量(trolox mol/g)及び30.0当量(trolox mol/g)であり、対照区の飼料のフリーラジカル除去能は、14.5当量(trolox mol/g)であった。また、試験区1及び2の飼料に用いた実施例1の加熱処理したサツマイモは57当量(trolox mol/g)のフリーラジカル除去能を有していた。
【0069】
(3)筋組織及び脂肪組織の色調
試験区1、2及び対照区の筋組織及び脂肪組織の色調について、色彩色差計(コニカミノルタCM−700d)を用いて、浅胸筋及び腹腔内脂肪の明度(L*値)、赤色度(a*値)、黄色度(b*値)の測定を行い評価した。結果を表5に示す。
【表5】
【0070】
浅胸筋の色調については目視による違いは確認できず、数値化しても明度(L*値)、赤色度(a*値)、黄色度(b*値)に差は無かった。これにより、試験区1及び2で用いた飼料に含まれる加熱したサツマイモは、筋組織(赤身)の色調には影響を及ぼさないことが示された。一方、試験区1及び2の腹腔内脂肪の色調は目視でも違いが確認できるほどの差があり、明らかに白色化していた。腹腔内脂肪の赤色度(a*値)は、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に低くなり、赤色が薄くなることが示された。腹腔内脂肪の黄色度(b*値)も、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に低くなり、黄色が薄くなることが示された。腹腔内脂肪の明度(L*値)は、試験区1及び2と対照区とで変化は無かった。以上より、加熱したサツマイモを含む飼料を給与すると、赤身(筋組織)と脂身(脂肪組織)のコントラストが明瞭な鶏肉が得られることが示された。
【0071】
(実施例3)
実施例2と同様に14日齢時まで群飼育したブロイラーについて、1試験区あたり8羽とする試験区3及び4を設け、アルミニウム製ケージ(40×50×60cm)中での個別飼育に切り替えて飼料の給与を開始した。試験区3には、基礎飼料のトウモロコシの半量を比較例1で得られた室温乾燥したサツマイモと置き換えた飼料を給与し、試験区4には、実施例2の試験区1で用いた飼料(基礎飼料のトウモロコシの半量を実施例1で得られた加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料)を給与した。飼料の配合を表6に示す。
【表6】
【0072】
飼料の栄養成分の消化率を測定するために、試験開始11〜14日目に、飼料に酸化クロム(Cr)を0.3%添加して給与した。排泄物が酸化クロムにより緑色に着色したことを確認(試験開始12日目)してから48時間分の排泄物を回収して分析まで凍結保存した。他は、実施例2と同様に行った。
【0073】
試験区3及び4の飼料の消化率について、フードプロセッサーを用いて48時間分の排泄物を均質化し、必要量を乾燥(105℃、3時間)した。これを乳鉢で粉砕して、50mLのファルコンチューブに回収し、分析までデシケーター中で保存した。乾燥排泄物及び飼料を、常圧加熱乾燥法による水分定量、CNコーダーによる粗タンパク質の定量、ボンブカロリーメーターによる燃焼熱の測定及び比色定量法による酸化クロム含有量の定量に用いて、飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率を計算した。試験区3及び4の飼養成績(体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量)並びに飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率の結果を表7に示す。
【表7】
【0074】
増体量は、試験区4では試験区3と比較して高くなる傾向(P=0.05)を示し、その結果、試験区4では試験区3と比較して飼料要求率が有意に改善された。浅胸筋(ムネ肉)及び深胸筋(ササ身)の各重量は、試験区4の飼料区では試験区3と比較して増加する傾向を示した(それぞれP=0.06及びP=0.05)。さらに、飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率も、試験区4では試験区3と比較して有意に改善し、サツマイモを70℃で加熱処理したことによってサツマイモの消化吸収率が改善されたことが示された。また、サツマイモ中に存在し、タンパク質の消化率の減少に関与するトリプシンインヒビターが加熱処理で失活したことにより、加熱処理したサツマイモを含む飼料におけるタンパク質消化率が改善したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の飼料を用いることにより、高品質な家畜を生産することが可能となる。
【0076】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。