【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを破砕して、減圧乾燥装置(エスイーバイオマステクノ株式会社型式:SC−200U)へ投入し、減圧下(絶対真空圧力0.01〜0.02MPa)で、撹拌しながら加熱乾燥(72±1℃、6時間、120kg/日)を行った。1時間の冷却の後、約29%の収量で加熱処理したサツマイモが得られた。加熱処理したサツマイモ中の水分は4%、粗タンパク質は4.5%であった。加熱処理したサツマイモは粉砕して飼料の配合に用いた。
【0041】
加熱処理したサツマイモを市販の臼式粉砕機で微粉末状にし、F−キット(スターチ用及び麦芽糖/ショ糖/D−グルコース用)(J.K.インターナショナル、東京)を用いて、説明書に従ってデンプン及びマルトースの定量を行った。加熱処理したサツマイモのデンプン含有量は36.5重量%であり、マルトース含有量は9.1重量%であった。
【0042】
(比較例1)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを、プラスチック製のカゴ上に広げて、室温下にて送風機で送風しながら4日間乾燥させた。得られた室温乾燥したサツマイモの水分は12%、粗タンパク質は4%であった。この室温乾燥したサツマイモのデンプン含有量は47.5重量%であり、マルトース含有量は5.7重量%であった。
【0043】
(比較例2)
焼酎製造工場から回収したサツマイモの廃棄物残さを破砕して、三州式コンテナバルク乾燥機SCD125−6.6−2−P−MCへ投入し、金網の上に広げて温風乾燥(約50℃、12時間)を行った。約25%の収量で、常圧下で加熱処理したサツマイモが得られた。常圧下で加熱処理したサツマイモ中の水分は4%、粗タンパク質は4.5%であった。常圧下で加熱処理したサツマイモは粉砕して用いた。
【0044】
実施例1の減圧下で加熱処理したサツマイモ粉末と比較例2の常圧下で加熱処理したサツマイモ粉末の抗酸化物質(総ポリフェノール、α−トコフェロール、β−カロテン)の含有量を調べた。
【0045】
総ポリフェノール、α−トコフェロール、β−カロテンの含有量は以下の方法で測定した。
【0046】
総ポリフェノール:
実施例1及び比較例2の各サツマイモ粉末0.1gを2mL容マイクロチューブに精秤し、80%エタノール1mLを加えて、80℃で30分間アルミブロック中にて保温して総ポリフェノールを抽出した。マイクロチューブを遠心分離(15,000回転、数分間)して上清を回収し、80%エタノールで10倍に希釈し、試料溶液とした。
【0047】
検量線を作成するために、0μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、75μg/mL、100μg/mL、200μg/mLに濃度調整した没食子酸(ナカライテスク社製)標準液を調製した。
【0048】
96穴プレートに、試料溶液又は没食子酸標準液20μL、10%Na
2CO
3溶液20μL、超純水150μL及びフェノール試薬(ナカライテスク社製)10μLを加えてよく混和した。室温で1時間放置して反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて700nmの吸光度の測定を行った。
【0049】
没食子酸標準液の吸光度から検量線を作成し、試料溶液の吸光度から試料溶液の総ポリフェノール濃度を算出した。
【0050】
α−トコフェロール及びβ−カロテン:
実施例1及び比較例2の各サツマイモ粉末0.5gを30mL容の蓋付きガラス製試験管に秤量し、ヘキサン5.0mLを加えて30分間撹拌し、抽出した。試験管を遠心分離(3,000回転、5分)し、パスツールピペットで上層のヘキサン画分を100mL容のナス型フラスコに回収した。この操作を2回繰り返した。ロータリーエバポレーターを用いて、ヘキサン画分を減圧乾固(水浴温度35℃、100hPa)し、直ちに0.025%ジブチルヒドロキシトルエン含有エタノール500μLを加えて残渣を再溶解して高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)用の試料とした。試料は500μL容アダプターガラス管を取り付けたHPLC用バイアル瓶に回収して分析に供した。HPLCの測定条件は以下の通りであった:
分析カラム:Inertsil ODS3
カラム温度45℃
移動相:メタノール、ブタノール及び酢酸緩衝液(体積比;メタノール:ブタノール:酢酸=800:200:10)
流速:1mL/分
検出:蛍光検出:励起波長292nm、蛍光波長:330nm。
【0051】
試料中のα−トコフェロールの同定及び定量は、既知濃度のα−トコフェロール(ナカライテスク社製)溶液のピーク溶出時間及び面積を基準に行った。また、試料中のβ−カロテンの同定及び定量は、α−トコフェロールの分析に用いたのと同じ試料を使用し、既知濃度のβ−カロテン(ナカライテスク社製)溶液のピーク溶出時間及び面積を基準に行った。β−カロテンの検出は450nmの吸光度を測定して行った。
【0052】
結果を表1に示す。
【表1】
【0053】
表1より、実施例1の減圧下で加熱処理したサツマイモは、比較例2の常圧下で加熱処理したサツマイモと比較して、総ポリフェノール、α−トコフェロール及びβ−カロテンの含有量がそれぞれ約1.5倍高かった。サツマイモを減圧下で加熱処理することにより、抗酸化物質含有量が高くなり、抗酸化物質の損失を低下させることができた。
【0054】
(実施例2)
1.試験方法
チャンキー種(Ross308)雄初生ヒナ60羽を実験室の保温環境下に置き、市販のブロイラー肥育前・後期用配合飼料(日和産業、パワーチキンP、粗タンパク質22%、代謝エネルギー3.0Mcal/kg)を自由摂取させ群飼育した。14日齢時にブロイラー18羽を選抜し、1試験区あたり6羽とする対照区及び試験区1、2を設け、アルミニウム製ケージ(40×50×60cm)中での個別飼育に切り替えて飼料の給与を開始した。対照区には、トウモロコシ及び大豆粕を主原料とする基礎飼料を給与し、試験区1には、基礎飼料のトウモロコシの半量を実施例1の加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料を給与し、試験区2には、基礎飼料のトウモロコシの全量を実施例1の加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料を給与した。飼料の配合を表2に示す。ここで、圧ぺんトウモロコシ(粗タンパク質8.4%、アルファルファミール5%含有)は竹之内穀類(鹿児島)より購入し、大豆粕ミール(粗タンパク質45%)はJオイルミルズ(東京)より購入し、それぞれ粉砕して飼料に配合した。ミネラル混合及びビタミン混合はブロイラー用プレミックス(日本農産工業、神奈川)を使用した。コーンオイル及びDL−メチオニンは一般市販品を使用した。基礎飼料はトウモロコシ及び大豆粕を主原料として用い、日本飼養標準・家禽(ブロイラー)に準拠して配合した。
【表2】
【0055】
飼料及び水は自由摂取とし、温度23〜25℃、24時間照明の環境下で各試験区のブロイラーの飼育を行った。試験開始から3日毎に個体別に体重を測定し、各試験区の増体重を算出した。また、試験開始から3日毎に飼料摂取量を各試験区別に調べ、飼料要求率を総飼料摂取量及び総増体重量より算出した。試験開始14日目に、断頭によりブロイラーを屠殺・解体して浅胸筋(ムネ肉)、深胸筋(ササ身)、大腿部(モモ)、腹腔内脂肪、心臓、肝臓の重量の測定を行った。浅胸筋は一部を分析まで凍結保存した。同時に、血液を採取、血漿を分離し、分析まで凍結保存した。
【0056】
2.試験結果
(1)飼養成績(体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量)
対照区及び試験区1、2の体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量の結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
(1−1)体重の変化
加熱したサツマイモを用いた飼料を給与した試験区1、2では、対照区に比べて体重増加が認められた。特に、試験区1では対照区と比較して体重が約40%有意に増加した。
【0058】
(1−2)飼料要求率
試験区1及び2では、対照区に比べて飼料要求率が改善した。試験区1が飼料要求率の最小値を示した。
【0059】
(1−3)臓器・組織重量
心臓重量は、試験区1及び2で増加しているが大きな変化ではなかった。肝臓重量は試験区で有意に増加しているが、血液GOT活性に変化が無いことから(以下の表4)、異常な肥大ではないと判断される。浅胸筋及び深胸筋重量は試験区1で最大となり、試験区1の浅胸筋重量は対照区と比較して約24%有意に増加したが、試験区2では対照区と同等の値を示した。大腿部の重量は対照区及び試験区1、2ともに約20g(10数%)増加していた。ムネ肉、ササ身肉、モモ肉を合わせた正肉重量は試験区1で最大(18%増)となった。腹腔内脂肪は、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に増加した。
【0060】
(2)血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量、過酸化脂質量
試験区1、2及び対照区の血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量及び過酸化脂質量を以下の通り測定した。
【0061】
血液生化学性状:
血液のGOT活性、中性脂肪及び総コレステロール濃度は、生化学自動分析装置富士ドライケム3500(富士フィルム)を使用して、各測定キット(富士ドライケムスライド)を用いて測定を行った。
【0062】
血中ビタミンE(α−トコフェロール)濃度及び筋組織中ビタミンE含有量:
血中ビタミンE濃度は、血漿0.2mLを試験管に採取し、抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを含むエタノールを0.2mL加えて混和した後、ヘキサンを1.0mLを加えて十分に攪拌してビタミンEを抽出し、高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長、292nm;蛍光波長、330nm)にて測定した。
【0063】
筋組織中ビタミンE含有量は、浅胸筋0.1gを粉砕ホモジナイズ用チューブに秤量し、トリス塩酸緩衝液1.0mLを加えて粉砕ホモジナイズ(5000回転、15秒)し、このホモジネート0.5mLを試験管に分取し、ヘキサン/2−プロパノール混合液1.0mLを加えて十分に攪拌してビタミンEを抽出し、高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長、292nm;蛍光波長、330nm)にて測定した。
【0064】
過酸化脂質量:
過酸化脂質の指標である筋組織チオバルビツール酸反応物価(TBARS)を測定した。TBARS値は以下のように測定した。筋組織を5倍量の1.15%のKCl中で粉砕ホモジナイズし、ホモジネートの一部をマイクロチューブに移し、同量の8.1%のSDS、8倍量の20%の酢酸緩衝液及び8倍量の0.8%のチオバルビツール酸溶液を加えて混合し、アルミブロックヒーター中で反応(95℃、60分)を行った。冷却によって反応を停止した後、筋組織の10倍量のブタノール/ピリジン混合液を加えて撹拌し、マロンジアルデヒド(MDA)の抽出を行った。上層(ブタノール層)の吸光度(535nm)をマイクロプレートリーダーで測定し、テトラエトキシプロパンを標準物質としてMDA濃度(TBARS)を算出した。一般にTBARS値が高いほど、細胞は酸化ストレス状態にあるとされる。
【0065】
試験区1、2及び対照区の血中ビタミンE濃度、筋組織中ビタミンE含有量及び過酸化脂質量の結果を表4に示す。
【表4】
【0066】
(2−1)血中ビタミンE濃度
血中ビタミンE濃度は、試験区1、2では、対照区に比べて3倍以上に有意に上昇した。各試験区に用いた飼料のビタミンE(α−トコフェロール)含有量を高速液体クロマトグラフ蛍光検出法(励起波長:292nm;蛍光波長:330nm)で測定したところ、試験区1及び2の飼料は、対照区の飼料と比較して、それぞれ4.5倍及び7.7倍のビタミンE含有量であった(表2)ことから、各試験区に用いた飼料のビタミンE含有量が血中ビタミンE濃度の上昇に対して強い影響を及ぼしていることが示された。
【0067】
(2−2)筋組織中ビタミンE含有量
筋組織中のビタミンE含有量は、試験区1及び2で増加し、特に、試験区1では対照区の1.5倍に有意に上昇した。
【0068】
(2−3)過酸化脂質量
TBARSは試験区1で最低値を示した。試験区1では、筋組織中のビタミンE含有量が増加したことにより、酸化ストレスが低減したと考えられる。また、サツマイモはビタミンEの他に、ビタミンCやポリフェノール類などの抗酸化物質を比較的多く含有しており(それぞれ100g当たり:ビタミンE1.6mg、ビタミンC29mg、ポリフェノール類228mg)、これらも抗酸化活性に寄与すると考えられる。試験区1及び2に用いた加熱したサツマイモを含む飼料のフリーラジカル除去能は、対照区の飼料の1.5〜2倍の値を示し、抗酸化能が高いことが示された(表2)。飼料のフリーラジカル除去能の測定は、試験区1、2及び対照区1の飼料を10倍量の80%エタノールで抽出し、その抽出液を、α−トコフェロールの水溶性同族体Troloxを標準物質として用い、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)の消去活性によって測定し、試料1g当たりのラジカル捕捉活性を、Trolox当量(nmol/g)で表した。試験区1及び2の飼料のフリーラジカル除去能は、それぞれ、22.9当量(trolox mol/g)及び30.0当量(trolox mol/g)であり、対照区の飼料のフリーラジカル除去能は、14.5当量(trolox mol/g)であった。また、試験区1及び2の飼料に用いた実施例1の加熱処理したサツマイモは57当量(trolox mol/g)のフリーラジカル除去能を有していた。
【0069】
(3)筋組織及び脂肪組織の色調
試験区1、2及び対照区の筋組織及び脂肪組織の色調について、色彩色差計(コニカミノルタCM−700d)を用いて、浅胸筋及び腹腔内脂肪の明度(L*値)、赤色度(a*値)、黄色度(b*値)の測定を行い評価した。結果を表5に示す。
【表5】
【0070】
浅胸筋の色調については目視による違いは確認できず、数値化しても明度(L*値)、赤色度(a*値)、黄色度(b*値)に差は無かった。これにより、試験区1及び2で用いた飼料に含まれる加熱したサツマイモは、筋組織(赤身)の色調には影響を及ぼさないことが示された。一方、試験区1及び2の腹腔内脂肪の色調は目視でも違いが確認できるほどの差があり、明らかに白色化していた。腹腔内脂肪の赤色度(a*値)は、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に低くなり、赤色が薄くなることが示された。腹腔内脂肪の黄色度(b*値)も、試験区1及び2では、対照区と比較して有意に低くなり、黄色が薄くなることが示された。腹腔内脂肪の明度(L*値)は、試験区1及び2と対照区とで変化は無かった。以上より、加熱したサツマイモを含む飼料を給与すると、赤身(筋組織)と脂身(脂肪組織)のコントラストが明瞭な鶏肉が得られることが示された。
【0071】
(実施例3)
実施例2と同様に14日齢時まで群飼育したブロイラーについて、1試験区あたり8羽とする試験区3及び4を設け、アルミニウム製ケージ(40×50×60cm)中での個別飼育に切り替えて飼料の給与を開始した。試験区3には、基礎飼料のトウモロコシの半量を比較例1で得られた室温乾燥したサツマイモと置き換えた飼料を給与し、試験区4には、実施例2の試験区1で用いた飼料(基礎飼料のトウモロコシの半量を実施例1で得られた加熱処理したサツマイモと置き換えた飼料)を給与した。飼料の配合を表6に示す。
【表6】
【0072】
飼料の栄養成分の消化率を測定するために、試験開始11〜14日目に、飼料に酸化クロム(Cr
2O
3)を0.3%添加して給与した。排泄物が酸化クロムにより緑色に着色したことを確認(試験開始12日目)してから48時間分の排泄物を回収して分析まで凍結保存した。他は、実施例2と同様に行った。
【0073】
試験区3及び4の飼料の消化率について、フードプロセッサーを用いて48時間分の排泄物を均質化し、必要量を乾燥(105℃、3時間)した。これを乳鉢で粉砕して、50mLのファルコンチューブに回収し、分析までデシケーター中で保存した。乾燥排泄物及び飼料を、常圧加熱乾燥法による水分定量、CNコーダーによる粗タンパク質の定量、ボンブカロリーメーターによる燃焼熱の測定及び比色定量法による酸化クロム含有量の定量に用いて、飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率を計算した。試験区3及び4の飼養成績(体重の変化、飼料要求率、臓器・組織重量)並びに飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率の結果を表7に示す。
【表7】
【0074】
増体量は、試験区4では試験区3と比較して高くなる傾向(P=0.05)を示し、その結果、試験区4では試験区3と比較して飼料要求率が有意に改善された。浅胸筋(ムネ肉)及び深胸筋(ササ身)の各重量は、試験区4の飼料区では試験区3と比較して増加する傾向を示した(それぞれP=0.06及びP=0.05)。さらに、飼料のタンパク質消化率及びエネルギー消化率も、試験区4では試験区3と比較して有意に改善し、サツマイモを70℃で加熱処理したことによってサツマイモの消化吸収率が改善されたことが示された。また、サツマイモ中に存在し、タンパク質の消化率の減少に関与するトリプシンインヒビターが加熱処理で失活したことにより、加熱処理したサツマイモを含む飼料におけるタンパク質消化率が改善したと考えられる。