(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0020】
[横波周期予測システム1の構成]
図1は、本実施形態における横波周期予測システム1のハードウェア構成とソフトウェア機能を説明するためのブロック図である。
【0021】
横波周期予測システム1は、データを制御する制御部10と、ユーザや他の機器と通信を行う通信部20と、データを記憶する記憶部30と、ユーザからの情報の入力を受け付ける入力部40と、制御部10で制御したデータや画像を出力する表示部50と、データを計測する計測部60とを備える。
【0022】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備える。
【0023】
通信部20は、他の機器と通信可能にするためのデバイス、例えば、IEEE802.11に準拠したWi−Fi(Wireless Fidelity)対応デバイスを備える。
【0024】
制御部10は、所定のプログラムを読み込み、必要に応じて通信部20及び/又は計測部60と協働することで、船体状態量検知モジュール11と、吃水値算出モジュール12と、横波周期算出モジュール13と、予測横波周期算出モジュール14と、横揺れ周期検知モジュール15と、代表横揺れ周期同定モジュール16と、GM算出モジュール17とを実現する。
【0025】
記憶部30は、データやファイルを記憶する装置であって、ハードディスクや半導体メモリ、記録媒体、メモリカード等による、データのストレージ部を備える。記憶部30は、後に説明する船体状態量データベース31を記憶する。
【0026】
入力部40の種類は、特に限定されない。入力部40として、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。
【0027】
表示部50の種類は、特に限定されない。表示部50として、例えば、モニタ、タッチパネル等が挙げられる。
【0028】
計測部60は、本実施形態において、水面から船体の底までの垂直距離として定義される吃水値を計測するために設けられる吃水計D1〜D4によって構成される。
図2に示すように、吃水計は、船体船首部の中心付近に設置される吃水計D1、船体中心部付近の左右に一基ずつ設置される吃水計D2、D3、及び、船体船尾部付近に設置される吃水計D4の四基からなる。
【0029】
[吃水計D1〜D4の構成]
本実施形態における横波周期予測システム1を構成する吃水計D1〜D4として、水晶式の吃水計を使用する。以下、水晶式の吃水計の作動原理について説明する。
【0030】
水晶式の吃水計においては、検出素子として水晶振動子が使用される。水晶振動子には、印加される圧力に比例して発信周波数が変化するという性質があるため、水晶式の吃水計においては、その周波数を直接的にカウンターで計測することにより、検出素子に印加されている圧力(水圧)を把握することができ、それにより、検出素子が設置されている位置の水深を検出して吃水値を計算する。
【0031】
水晶振動子を使用した吃水計では、水晶の発信周波数を直接的にカウンターで計測するため、デジタル計測が可能であり、半導体式の吃水計のように圧力をアナログ信号として計測してA/D変換を行う必要がある従来の吃水計とは異なり、変換誤差のない高精度な吃水の検出が可能となる。
【0032】
すなわち、仮に、半導体式等、他の形式の吃水計を使用した場合には、吃水計を設置した位置における圧力がアナログ計測される。そして、時系列で計測される圧力に対して、フーリエ解析などのデータ処理を行う場合、計測される圧力値をアナログ信号からデジタル信号へと変換(A/D変換)する必要が生じる。その際、アナログ信号をデジタル信号に変換することに伴う誤差が生じることになり、そのため、半導体式の吃水計の計測誤差は、本実施形態における水晶式の吃水計の計測誤差の10倍程度になってしまう。
【0033】
そして、本実施形態においては、水晶式吃水計を使用することにより、水晶振動子の発信周波数をカウンターでデジタル信号として計測することができる。そのため、計測したデータをデジタル変換する必要がなく、A/D変換に伴う変換誤差を無くすことができ、高い精度でGM値を計算することが可能となる。
【0034】
なお、左右舷に設けられる吃水計D2、D3は、それぞれ、右舷及び左舷の端部に設置されることが好ましい。右舷及び左舷の端部に吃水計を設置することにより、測定誤差の少ないシステムを構築することが可能となる。
【0035】
[横波周期予測システム1を用いた横波周期予測方法を示すフローチャート]
図3は、横波周期予測システム1を用いた横波周期予測方法を示すフローチャートである。また、
図4は、船体状態量データベース31の一例を示す図である。
図2〜
図4を用いて、上述した各ハードウェアと、ソフトウェアモジュールが実行する処理について説明する。本実施形態においては、ステップS110からステップS160までの制御ロジックを繰り返し実行することによって、船体の横波周期の予測値を繰り返し算出する。
【0036】
〔ステップS110:船体状態量の検知〕
最初に、システムが始動すると、横波周期予測システム1の制御部10は、計測部60と協働して船体状態量検知モジュール11を実行し、船体状態量を時系列に検知する(ステップS110)。ステップS110における船体状態量の検知は、船体に設置された吃水計によって、所定の時間間隔で、所定の期間にわたって行われる。所定の時間間隔とは、例えば1/2秒間隔又は1/10秒間隔など、適宜設定することができる。
【0037】
本実施形態においては、左右舷に設置された吃水計D2、D3によって、水晶の発信周波数を船体状態量の時系列データとして検知している。
【0038】
〔ステップS120:船体の左右舷における吃水値の算出〕
次に、横波周期予測システム1の制御部10は、吃水値算出モジュール12を実行し、船体左右舷に設けられた水晶式吃水計D2、D3を用いて、船体の右舷及び左舷における吃水値を時系列に計測する(ステップS120)。船体左右舷に設けられた水晶式吃水計D2、D3を用いて吃水値を計測するにあたっては、ステップS110で船体状態量として検知された発信周波数を圧力(水圧)に変換し、そこから検出素子が設置されている位置の水深を算出し、当該水深と、検出素子の設置位置から船底までの距離とを用いて、船体の吃水値を算出する。
【0039】
船体中心部付近の左右二か所の吃水計D2、D3は、ともに、船体中央線からずらした位置に設置されているため、吃水計D2、D3により計測された計測値を船体中央線に換算することで、船体中央部の左右吃水値とする。
【0040】
このようにして得られた吃水値に対し、それぞれの吃水計D2、D3に取り付けられた温度計により計測された水温を用いた温度補正、及び、自動演算機能による船体傾斜補正(トリム:前後傾斜、ヒール:横傾斜)を行うことで、補正された吃水値を得ることができる。
【0041】
なお、港湾における海水の比重は、一般海水域、汽水域、淡水域によって異なるため、港湾の海水比重補正は計測値を手動で入力することにより行う。運航状態においては標準海水比重を採用する。
【0042】
〔ステップS130:船体の左右舷における吃水値の記憶〕
ステップS120で船体の左右舷における吃水値が算出されると、算出された吃水値は船体状態量データベース31に記憶される(ステップS130)。船体状態量の検知及び吃水値の算出は、例えば1/2秒ごとに連続的に行われており、
図4に示すように、算出された左右舷における吃水値が、対応する船体状態量が検知された時刻ともに、時系列データとして船体状態量データベース31に蓄積される。
【0043】
〔ステップS140:船体に加わる横波の周期の算出〕
次に、横波周期予測システム1の制御部10は、横波周期算出モジュール13を実行し、所定期間において船体に加わった横波の周期を算出する(ステップS140)。ここで、所定期間とは、例えば、現在時刻から過去20分の間といった期間を指す。
【0044】
横波周期の算出は、船体の一方の舷に設置された吃水計D2で計測された吃水値と、他方の舷に設置された吃水計D3で計測された吃水値との差の時系列データに基づいて行う。
【0045】
すなわち、ステップS110及びステップS120に基づいて、それぞれの吃水計D2、D3において、船体の右舷及び左舷における吃水値が時系列データとして算出され、算出された左右舷の吃水値はステップS130に基づいて、時刻とともに船体状態量データベース31に蓄積されている。
【0046】
そして、ステップS140においては、ステップS130で船体状態量データベース31に蓄積された各時刻における右舷の吃水値と左舷の吃水値の差分を取り、その差分を検出時刻とともに時系列に抽出する。このとき、吃水値の差分の時系列データは、船体に加わる横波の大きさや周期に基づいて、波形を描くように変動した値を取る。そして、例えば、現在時刻から過去20分間など、所定期間にわたって抽出した吃水値の差分をフーリエ解析することにより、当該所定期間における横波の周期を算出する。
【0047】
そして、このような横波周期の算出を、例えば4分毎など、所定時間間隔ごとに実行する。このようにすることで、4分おきに、その時点から過去20分間における代表的な横波周期を算出することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、左右舷の吃水値の差の時間変動から船体に加わる横波周期を検知しているが、これに限ったものではなく、横波周期を検知できるものであれば、他の船体状態量を使用したものであっても構わない。例えば、水晶式吃水計を使用して測定された水晶の発信周波数を使用して横波周期を検知するものであってもよい。
【0049】
すなわち、水晶式吃水計で検知される発信周波数は水晶振動子に印加される圧力に相当する状態量であるため、発信周波数の時間的な変動は、圧力の時間的な変動を表す。この変動は、すなわち、船体の揺れを表すため、吃水計D2、D3における発信周波数の時系列データを表す波形の周期は、船体の横揺れの周期に相当する。したがって、発信周波数の時系列データを表す波形から、発信周波数が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から横揺れ周期を検出することができる。
【0050】
そのほか、船体の傾斜度あるいは横揺れ量の時間変動から横波周期を検知するものであっても構わない。
【0051】
また、本実施形態においては、所定期間における左右舷の吃水値の差分の時間変動をフーリエ解析することで横波周期を算出したが、これに限ったものではなく、船体状態量の時系列データを表す波形からピークを検出し、ピーク間の時間から周期を検知するものや、動揺の時系列を表す既存の統計モデルを使用して周期を検知するものであっても構わない。
【0052】
〔ステップS150:船体に加わる横波周期の記憶〕
ステップS140で船体に加わる横波周期が算出されると、算出された横波周期は
船体状態量データベース31に記憶される(ステップS150)。横波周期の算出は、所定時間間隔ごと、例えば4分おきに行われており、算出された横波周期の値が、
図4に示すように、算出された時刻ともに、時系列データとして、船体状態量データベース31に蓄積される。
【0053】
〔ステップS160:予測横波周期の算出〕
続いて、制御部10は、記憶部30と協働して予測横波周期算出モジュール14を実行し、船体状態量データベース31に記憶されている所定期間における横波周期を抽出し、抽出した横波周期を用いて、当該所定期間の後の時刻における横波周期の予測値を算出する(ステップS160)。
【0054】
前述の通り、ステップS150において、ある時刻から所定時間遡った期間における横波周期が時刻とともに記憶にされる。そして、現在時刻から所定の時間(ここでは20分)遡った時刻の間に算出された横波周期(この場合5つ)を算出時刻とともにすべて抽出し、抽出された横波周期データを時間で微分演算することで、現在時刻から20分先の時刻における横波周期の予測値を算出する。
【0055】
例えば、現在時刻から所定時間遡った期間において、船体状態量データベース31に記憶されている複数の横波周期と、その横波周期を算出した時刻を抽出し、時刻に対する横波周期の値を回帰分析する。回帰分析の結果から得られた最も新しいデータにおける傾きに基づいて、現在時刻から所定時間経過後の時刻における波長データを予測する。
【0056】
あるいは、抽出されたそれぞれの時刻における横波周期の時間変化率(時間による微分値)すなわち傾きを差分方式で算出し、横波周期の時間微分値の時間変化を予め記憶されている実績と比較し、所定の傾向が見受けられる場合に、次の時刻における横波周期の時間微分値を推定するようにしてもよい。そして、推定された横波周期の時間微分値に基づいて、次の時刻における横波周期の予測値を算出する。
【0057】
また、後述するGM値と気圧データから、多重回帰分析を用いて横波周期の予測値を算出することも可能である。
【0058】
さらには、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Conclutional Nueral Network,CNN)などの機械学習モデルを使用し、横波周期と気象情報とを紐づけて学習を行い教師データとして記憶しておき、記憶した教師データと現在の気象情報とに基づいて、横波周期を予測するようにしてもよい。
【0059】
ステップS160においては、これらのうち、いずれかの手法を用いて、上記所定期間の後の時刻における横波周期の予測値を算出する。
【0060】
なお、ステップS140において横波周期を算出するために吃水値の差分を抽出する期間と、ステップS160において横波周期の予測値を算出するために横波周期を抽出する期間は、同じであってもよいし、異なるものであっても構わない。
【0061】
ステップS160において横波周期の予測値を算出するにあたり、船体が航行している地域における気圧情報を考慮に入れることにより、より精度の高いシステムを構築することができる。すなわち、気圧の高低は波の発達に大きな影響を与えることが知られているため、気圧情報を考慮に入れた計算を行うことにより、より高精度に横波周期の予測値を算出することができる。気圧情報は通信部20を介して入手するよう構成することができる。
【0062】
ステップS160における予測横波周期の算出は、所定時間おき、たとえば、4分おきに実施される。すなわち、ステップS140において横波周期が算出されるごとに予測横波周期を算出するようにしてもよい。
【0063】
このようにして、船体に設けられた吃水計で検知される船体状態量の時系列データを用い、フーリエ解析によって算出された横波周期の時系列データを使用して、船体に加わる横波の周期の予測値を算出することにより、複雑なデータ処理を必要とせずに予測横波周期を精度よく計算することができる。また、船体状態量を検知するための吃水計は既に船体に設置されているため、予測横波周期を算出するために新たなセンサ類を設置する必要がなく、低コストで高精度の横波周期予測システムを構築することが可能となる。
【0064】
また、横波の周期を算出するにあたり、船体の左右舷に設けられた吃水計で検知された船体状態量の時系列データから得られる、右舷の吃水値と左舷の吃水値との差分の時系列データのみを使用するため、特殊な測定機器や高性能な計算機器を必要とせず、既に備えられている機器を使用して、波の入射角や波の合成を考慮することなく、横波の周期を的確に予測することが可能なシステムを構築することができる。
【0065】
さらに、船体状態量を検知する吃水計として、水晶式吃水計を使用しているため、他の形式の吃水計とは異なり、船体状態量をデジタル信号として計測することができる。そのため、データ処理の際のA/D変換が不要となり、変換誤差がなく精度の高い横波周期予測システムを構築することが可能となる。
【0066】
[横波周期予測システム1を用いたGM計算方法を示すフローチャート]
図5は、横波周期予測システム1を用いたGM計算方法を示すフローチャートである。また、
図4は、船体状態量データベース31の一例を示す図である。
図2、
図4〜
図5を用いて、上述した各ハードウェアと、ソフトウェアモジュールが実行する処理について説明する。本実施形態においては、ステップS210からステップS250までの制御ロジックを繰り返し実行することによって、船体のGMの値を繰り返し算出する。
【0067】
ここで、船体のGMとは、船体が横に傾斜したとき、浮力の中心を作用点とする浮力の方向と船の横断面において重心を通る垂直方向の線が交わる点であるメタセンタMと、船体の重心Gとの距離として定義され、船体の傾き等によって時々刻々と変位する値である。万が一、GMを誤って推定してしまうと、安全に航行できないばかりか、最悪の場合、転覆させてしまう危険も伴う。
【0068】
ところで、GMに影響を与えるのは横からの波だけではなく、様々な方向から来る波の合成波を考慮する必要がある。そのため、従来においては、GMを正確に把握または予測するためには、船体に対して波浪が入射する方向を把握し、入射角度を人の手で入力する必要があった。しかしながら、船体が大きな波浪にあおられて転覆するかどうかという状況下において、波浪が入射する角度を人の手によって入力するというのは現実的ではない。
【0069】
したがって、波浪が入射する角度を人の手によって入力することなく、しかも、別途のセンサを設置する必要なく、既設のセンサの計測データを利用して、複雑なデータ処理を必要とせずにGMを精度よくリアルタイムに計算する必要がある。
【0070】
〔ステップS210:船体状態量の検知〕
最初に、システムが始動すると、横波周期予測システム1の制御部10は、計測部60と協働して船体状態量検知モジュール11を実行し、船体状態量を時系列に検知する(ステップS210)。ステップS210における船体状態量の検知は、船体に設置された吃水計によって、所定の時間間隔で、所定の期間にわたって行われる。所定の時間間隔とは、例えば1秒間隔又は1/10秒間隔など、適宜設定することができる。
【0071】
本実施形態においては、左右舷に設置された吃水計D2、D3によって、水晶の発信周波数を時系列データとして検知している。
【0072】
〔ステップS220:船体の横揺れ周期の検知〕
次に、横波周期予測システム1の制御部10は、横揺れ周期検知モジュール15を実行し、左右舷の最大横揺れの時間間隔として定義される、船体の横揺れ周期を連続的に検知する(ステップS220)。
【0073】
本実施形態においては、左右舷に設置された吃水計D2、D3で検知された発信周波数の時系列データに基づいて、船体の横揺れ周期が検知される。検知される発信周波数は水晶振動子に印加される圧力に相当する状態量であるため、発信周波数の時間的な変動は、圧力の時間的な変動を表す。この変動は、すなわち、船体の揺れを表すため、吃水計D2、D3における発信周波数の時系列データを表す波形の周期は、船体の横揺れの周期に相当する。を本実施形態においては、発信周波数の時系列データを表す波形から、発信周波数が極大値及び極小値を取るピークを検出し、ピーク間の時間から横揺れ周期を検出する。
【0074】
なお、本実施形態においては、水晶式吃水計を使用して測定された水晶の発信周波数を使用して船体の横揺れ周期を検知しているが、これに限ったものではなく、横揺れ周期を検知できるものであれば、他の船体状態量を使用したものであっても構わない。例えば、左右舷の吃水値の時間変動から横揺れ周期を検知するものであってもよい。または、傾斜度あるいは横揺れ量の時間変動から横揺れ周期を検知するものであってもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、船体状態量の時系列データを表す波形からピークを検出し、ピーク間の時間から横揺れ周期を検知したが、これに限ったものではなく、波形をスペクトル解析して周期を検知するものや、動揺の時系列を表す既存の統計モデルを使用して周期を検知するものであっても構わない。
【0076】
〔ステップS230:船体の横揺れ周期の記憶〕
ステップS220で船体の横揺れ周期が検知されると、検知された横揺れ周期は船体状態量データベース31に記憶される(ステップS230)。横揺れ周期の検知は連続的に行われており、検知された横揺れ周期の値が、
図4に示すように、検知された時刻ともに船体状態量データベース31に蓄積される。
【0077】
〔ステップS240:代表横揺れ周期の同定〕
続いて、制御部10は、記憶部30と協働して代表横揺れ周期同定モジュール16を実行し、船体状態量データベース31に記憶されている所定期間の横揺れ周期を抽出し、抽出した横揺れ周期を用いて、当該所定期間における横揺れ周期の代表周期を同定する(ステップS240)。
【0078】
ここで、所定期間とは、例えば、現在時刻から過去20分間といった期間を指し、その場合における所定期間の代表周期とは、その20分間における横揺れ周期の代表値を指す。前述の通り、ステップS230において、横揺れ周期が時刻とともに記憶にされる。そして、現在時刻から所定の時間(ここでは20分)遡った時刻の間に検知された横揺れ周期をすべて抽出し、抽出された横揺れ周期データをフーリエ解析することで、所定期間における横揺れ周期の代表周期を同定する。
【0079】
ステップS240における代表周期の同定は、所定時間おき、たとえば、2秒おきに実施される。
【0080】
〔ステップS250:GM値の算出〕
続いて、制御部10は、GM算出モジュール17を実行し、ステップS240で同定された、船体の横揺れ周期の代表周期を使用して、式(1)を用いてGM値を算出する。算出されたGM値は、表示部50にリアルタイムに表示される。
GM=(0.8B/Tγ’)
2 ・・・・・式(1)
【0081】
ここで、式(1)におけるBは船体の船幅(m)であり、Tγ’は、ステップS240でフーリエ解析により同定された、横揺れ周期の代表周期(秒)である。
【0082】
ステップS250におけるGM値の算出は、例えば2秒おきなど、所定の時間間隔で実行され、算出が実行されるごとに、最新の値が表示部50に表示される。船員は、表示部50に逐一表示されるGM値を確認し、船体に関する各種の制御を実行することで、安全な航行を継続することができる。
【0083】
なお、GM値を算出するにあたって、より厳密に算出したい場合には、新造時の重心検査(傾斜試験)によって得られる環動半径を用いる式(2)を使用することができる。
GM=(2.01K/T)
2 ・・・・・式(2)
【0084】
ここで、式(2)におけるKは、船体の環動半径(m)であり、Tは吃水値により変化する船体の固有周期(秒)である。
【0085】
船体の環動半径K(m)が入手できる場合には、式(2)を採用してGMの値を算出することが可能である。ただし、式(1)を使用した場合であっても、式(2)を採用した場合と同等の精度でGMの値を算出することが可能である。
【0086】
このようにして、船体に設けられた吃水計で検知される船体状態量の時系列データを用い、フーリエ解析によって同定された横揺れ周期の代表周期を使用してGM値を算出することにより、複雑なデータ処理を必要とせずにGM値を精度よくリアルタイムに計算することができる。また、船体状態量を検知するための吃水計は既に船体に設置されているため、GM値を算出するために新たなセンサ類を設置する必要がなく、低コストで高精度にGM値を計算するためのシステムを構築することが可能となる。
【0087】
また、船体の左右舷に設けられた吃水計で検知された船体状態量の時系列データを使用して、左右舷の最大横揺れの時間間隔である横揺れ周期を検知するため、特殊な測定機器や高性能な計算機器を必要とせず、既に備えられている機器を使用して、低コストで高精度にGM値を計算するためのシステムを構築することが可能となる。
【0088】
さらに、船体状態量を検知する吃水計として、水晶式吃水計を使用しているため、他の形式の吃水計とは異なり、船体状態量をデジタル信号として計測することができる。そのため、データ処理の際のA/D変換が不要となり、変換誤差がなく高精度にGM値を計算するためのシステムを構築することが可能となる。
【0089】
そして、検知する船体状態量として、船体の左右に設けられた水晶式吃水計における水晶振動子の発信周波数を採用しているため、発信周波数の変動を横揺れ周期として直接的かつ連続的に計測することができる。そのため、わざわざ具体的な別の物理量に変換する必要がなく、少ないデータ処理で高精度にGM値を計算するためのシステムを構築することが可能となる。
【0090】
[船体の吃水値の計測]
本実施形態における横波周期予測システム1を構成する吃水計D1及びD4を使用して、船体の船首部及び船尾部における吃水値を計測する手法について説明する。
【0091】
吃水値を計測するにあたっては、発信周波数を圧力(水圧)に変換し、そこから検出素子が設置されている位置の水深を算出し、当該水深と、検出素子の設置位置から船底までの距離とを用いて、船体の吃水値を導出する点については、
図3のステップS120と同様である。
【0092】
図2に示す通り、船首部の吃水計D1は船首線からずらした位置に設置されているため、吃水計D1により計測された計測値を船首線位置に変換することで船首吃水値とする。
【0093】
また、船尾部の吃水計D4は船尾線からずらした位置に設置されているため、吃水計D4により計測された計測値を船尾線位置に変換することで船尾吃水値とする。
【0094】
このようにして得られた吃水値に対し、それぞれの吃水計D1、D4に取り付けられた温度計により計測された水温を用いた温度補正、及び、自動演算機能による船体傾斜補正(トリム:前後傾斜、ヒール:横傾斜)を行うことで、補正された吃水値を得ることができる。
【0095】
なお、港湾における海水の比重は、一般海水域、汽水域、淡水域によって異なるため、港湾の海水比重補正は計測値を手動で入力することにより行う。運航状態においては標準海水比重を採用する。
【0096】
以上のようにして船体の吃水値の計測を実施する。
【0097】
[船体船首部の波浪との出会い周期の同定]
本実施形態における横波周期予測システム1を構成する吃水計D1又はD4を使用して、船体船首部の出会い周期を同定する手法について説明する。
【0098】
まず、吃水計D1又はD4を使用して、船首部又は船尾部の縦揺れ周期を計測する。すなわち、GM値を算出した際と同様に、吃水計に備えられた水晶振動子の発信周波数の変動から、船体の揺れを検知することができ、発信周波数の変動の周期から、揺れの周期を検知することができる。
【0099】
そして、船首部又は船尾部に設けられた吃水計D1又はD4における発信周波数の変動から、船首部又は船尾部の最大縦揺れの時間間隔を連続的に検知し、その検知された連続縦揺れ周期データについてフーリエ解析し、その縦揺れ周期の代表周期を同定する。
【0100】
[船体の前後方向のたわみの算出]
本実施形態における横波周期予測システム1を構成する吃水計D1〜D4を使用して、船体の前後方向のたわみを算出する手法について説明する。
【0101】
船体の前後方向のたわみは、船首吃水値と船尾吃水値の平均値と船体中央吃水との差として定義され、船体が前後方向にホギング状態(凸状態)にあるかサギング状態(凹状態)にあるかを端的に示す値である。この値を算出するには、各測定値において、例えば150秒など、所定の期間における吃水値の時間平均を取る。
【0102】
そして、船首吃水値と船尾吃水値の算術平均から、船体中央吃水値の算術平均を減算することにより、たわみの値を算出する。この値は船体強度に深く関係する船体曲げモーメント量や積載貨物重量の大小を左右する重要な指標であり、正確に把握することにより、重大な事故を防止することができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【課題】別途のセンサを追設する必要なく、既設のセンサの計測データを利用して、複雑なデータ処理を必要とせずに、精度よく横波周期を予測するためのシステムを提供する。
【解決手段】横波周期予測システム1において、船体の右舷及び左舷における吃水値を時系列に計測する吃水値計測手段と、所定期間にわたって吃水値計測手段によって計測された右舷の吃水値と左舷の吃水値との差分の時系列データに基づいて、所定期間において船体に加わった横波の周期を算出する横波周期算出手段と、横波周期算出手段によって所定時間間隔ごとに算出された横波周期に基づいて横波周期の予測値を算出する予測横波周期算出手段と、を備える。