【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
以下に分析に用いた各試料の調製方法を記載する。なお、実施例において用いた試薬は、特に記載がない限り和光特級の試薬を用いた。
【0053】
(1)10%グリシン溶液:グリシン100gを秤量し蒸留水900gに溶解して、調製した。
【0054】
(2)標準添加溶液
(2−1)PQQ原液:100mgのピロロキノリンキノンニナトリウム塩(三菱瓦斯化学社製、Na/ピロロキノリンキノンモル比1.70〜2.10、水分量<12%、HPLC純度>99.0%)を10%グリシン液で溶解し、総重量が20gとなるように、メスアップした。PQQ原液中のPQQの濃度は5g/Lであった。
(2−2)0.1g/L添加溶液:PQQ原液2gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.1g/Lであった。
(2−3)0.2g/L添加溶液:PQQ原液4gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.2g/Lであった。
(2−4)0.3g/L添加溶液:PQQ原液6gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.3g/Lであった。
【0055】
(3)炭酸緩衝液
(3−1)250mM炭酸緩衝液:15.95gのNa
2CO
3と8.4gのNaHCO
3を蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップした。
(3−2)50mM炭酸緩衝液:250mM炭酸緩衝液を水で5倍希釈して調製した。
【0056】
(4)比較用標準添加溶液
(4−1)PQQ比較用原液:100mgのピロロキノリンキノンニナトリウム塩(三菱瓦斯化学社製、Na/ピロロキノリンキノンモル比1.70〜2.10、水分量<12%、HPLC純度>99.0%)を50mM炭酸緩衝液で溶解し、総重量が20gとなるように、メスアップした。PQQ比較用原液中のPQQの濃度は5g/Lであった。
(4−2)0.1g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液2gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.1g/Lであった。
(4−3)0.2g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液4gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.2g/Lであった。
(4−4)0.3g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液6gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.3g/Lであった。
【0057】
(5)HPLC溶離液(100mM CH
3COOH/100mM CH
3COONH
4=30/70(pH5.1)):
6.0gのCH
3COOHを蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CH
3COOH(1液)を調製し、これとは別に、7.71gのCH
3COONH
4を蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CH
3COONH
4(2液)を調製した。その後、300mLの1液と700mLの2液を混合して、HPLC溶離液及び炭酸緩衝液として用いる緩衝液を得た。なお、得られた緩衝液のpHが5.1±0.2であることを確認した。
【0058】
(6)サンプル希釈液:HPLC溶離液をサンプル希釈液とした。
【0059】
〔HPLC分析条件〕
送液ユニット :LC−10AD(島津製作所社製)
カラム :YMC−Pack ODS−A
(YMC社製、長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)
検出器 :UV259nm
HPLC溶離液:上記のとおり
カラム温度 :40℃
溶離液流速 :1.5mL/min、
導入量 :3μL
分析時間 :30min
【0060】
〔実施例1:ハードカプセル〕
(サンプル調製工程)
測定対象物として、市販のピロロキノリンキノン二ナトリウム塩5mg相当入りハードカプセル品を1粒使用した。当該ハードカプセル品の原材料名表記には、酵素処理アスパラガス抽出物、デキストリン、コエンザイムQ10、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩,ショ糖脂肪酸エステル、着色料(カラメル)、二酸化ケイ素、ゼラチンが記載されていた。
【0061】
上記ハードカプセル品の外皮カプセルを切断し、50mLの容器(遠心チューブ)に外皮カプセル及びそのカプセル内容物を全て入れた。その後、容器に酢酸エチル5mLと、10%グリシン液25mLを加え、振盪混和しつつ容器外から超音波を60分当て、ピロロキノリンキノンとグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリンを生成するように混合した。そして、混合後の溶液を遠心分離器にて遠視分離を行い、水層と油層(酢酸エチル層)に分離し、そのうち水層のみを採取して、測定用サンプルした。
【0062】
測定用サンプルのうち0.2mLを50mLの容器に分取し、250mM炭酸緩衝液2mLを添加した。その後、70℃で1時間放置し、さらに、室温で1時間振盪したのち、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた溶液をフィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。得られたクロマトグラフを
図1に示す。クロマトグラフのリテンションタイム(Rt)10〜11分にかけてみられるピークがイミダゾピロロキノリンに由来するピークであった。次いで、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。なお、上記ピークエリアの算出までの操作は3回行い(測定対象物としてのハードカプセル品を合計3粒用い)、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値Bを3点得た。
【0063】
(定量分析工程)
25mLの10%グリシン液に代えて、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を25mLずつ用いたこと以外は、上記と同様の方法により、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合毎のクロマトグラフを得て、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピーク面積)をそれぞれ算出した。なお、上記ピークエリアの算出までの操作は合計3回行い、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合におけるイミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値をそれぞれ3つずつ、合計9点の値を得た。
【0064】
その後、PQQの濃度を横軸とし、HPLCピークエリアを縦軸として、10%グリシン液、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合におけるイミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値(合計12点)をそれぞれプロットし、そのプロットから最小二乗法により直線aを作成し、当該直線aの傾きA(area/mg)を算出した。そして、標準添加法における検量線bを作成した。
図2に、各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線a及び検量線bを示す。
【0065】
ハードカプセルには未知の量αmg含まれる。この時に示されるピーク面積はBである。ここにPQQを添加したときのピーク面積=A(α+添加量)として直線aをあわわしている。添加量を変えてプロットすることでAを求めることで未知のα=B/Aであらわされる。
【0066】
最後に、3点のピークエリアの値Bそれぞれに対して下記式を適用し、測定用サンプルのPQQの含量を求めた。その結果を標準偏差及び相対標準偏差とともに表1に示す。
PQQの含量(mg/カプセル)=B(area)/A(area/mg)
【表1】
【0067】
表1からわかるように、本発明の分析方法によれば、ばらつきも少なく定量性に優れた分析が可能となることがわかる。なお、実施例1においてはばらつきの確認のため、ピークエリアの値Bを3点測定して比較しているが、本発明の分析方法はピークエリアの値Bを複数点測定することが必須となるものではない。
【0068】
〔比較例1:ハードカプセル〕
25mLの10%グリシン液に代えて、50mM炭酸緩衝液を用いたこと、及び、酢酸エチルを用いた遠心分離(水層と油層の分離)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、ピロロキノリンキノンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。また、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液に代えて、0.1g/L比較用添加溶液、0.2g/L比較用添加溶液、又は0.3g/L比較用添加溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として4.54mg/カプセルという値が得られた。
【0069】
4.54mg/カプセルという値は、実施例1の5.08mg/カプセルよりも小さい値である。このように比較例1において得られる値が実施例1よりも小さくなった理由としては、ハードカプセルに含まれる夾雑物(例えば、クロマトグラム上のPQQ以外のピークで現れる夾雑物や、UV259nmで検出されない夾雑物)が、PQQの検出を妨害しているためであると考えられる。特に、当該ハードカプセル品のラベル表記から考えれば、植物抽出物であるアスパラガス抽出物の影響も少なからずあるものと推察される。上記結果により、グリシンを用いることにより、正確な含量が定量できることがわかる。さらに、HPLCに導入されたサンプル組成がHPLC溶離液と大きく異なる場合、ショックピーク、ピーク形状の乱れ、溶出時間の変動が生じやすい傾向にあるところ、HPLC溶離液による再希釈によりこれらも効果的に防止されたものと考えられる。
【0070】
〔実施例2:ソフトカプセル〕
(サンプル調製工程)
測定対象物として、MGCアドバンストケミカル株式会社販売のPQQ10mg相当入りサプリ(ソフトカプセル)を使用した。該PQQサプリの原材料名表記には、食用オリーブ油、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩、ゼラチン、ビタミンC、グリセリン、ミツロウ、着色剤(カラメル)が記載されていた。
【0071】
ハードカプセルに代えて上記ソフトカプセルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bと、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として10.03mg/カプセルという値が得られた。
【0072】
〔比較例2:ソフトカプセル〕
25mLの10%グリシン液に代えて、50mM炭酸緩衝液を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、ピロロキノリンキノンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。また、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液に代えて、0.1g/L比較用添加溶液、0.2g/L比較用添加溶液、又は0.3g/L比較用添加溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として5.5mg/カプセルという値が得られた。
【0073】
5.5mg/カプセルという値は、実施例2の10.03mg/カプセルの約半分の値である。このように比較例2において得られる値が実施例2よりも小さくなった理由としては、ソフトカプセルに含まれる夾雑物(例えば、クロマトグラム上のPQQ以外のピークで現れる夾雑物や、UV259nmで検出されない夾雑物)が、PQQの検出を妨害しているためであると考えられる。特に、当該ソフトカプセル品のラベル表記から考えれば、妨害効果の高いアスコルビン酸(ビタミンC)の影響も少なからずあるものと推察される。上記結果により、アスコルビン酸共存下においても正確な含量が定量できることがわかる。また、炭酸バッファーを用いた希釈により還元型PQQが酸化型PQQとなり、IPQが進行しやすいため、比較的妨害効果の高いアスコルビン酸(ビタミンC)の影響を排して、正確性がより向上したものと推察される。さらに、HPLCに導入されたサンプル組成がHPLC溶離液と大きく異なる場合、ショックピーク、ピーク形状の乱れ、溶出時間の変動が生じやすい傾向にあるところ、HPLC溶離液による再希釈によりこれらも効果的に防止されたものと考えられる。
【0074】
〔実施例3:飲料〕
測定対象物として、キリンビバレッジ社製「生茶」525mLに対し、ピロロキノリンキノンジナトリウムを20mg添加し、一晩室温で静置させたものを使用した。さらに検量線作成用に生茶に対してピロロキノリンキノンジナトリウムを15、20、40mgになるように添加したものを準備した。なお、原材料名表記には、緑茶、生茶葉抽出物、ビタミンCが記載されていた。
【0075】
50mLの容器に静置後の生茶2mLを入れ、粉末のグリシンを0.3g添加した。その後、容器外から超音波を15分当て、粉末のグリシンを全て溶解させた。さらに4時間振盪させたあと、フィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bと、傾きA(area/mg)を算出し、得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として20mg/飲料という値が得られた。
【0076】
〔比較例3:飲料〕
粉末のグリシンを添加しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法により、HPLC分析を行った。しかしながら、PQQ20mg添加と40mg添加のPQQピーク面積はほぼ同じ値であった。このことからグリシンを添加しない場合には、PQQピーク面積からは飲料に含まれるPQQの濃度依存性を確認することはできなかった。これは、アスコルビン酸と植物抽出物である緑茶が検出を妨害しているためと推察される。
【0077】
〔実施例4:共存物質の影響〕
ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩1gとデキストリン9gを粉末状態で混合した。この粉末50mgを50mLの容器に入れ、そこに、表2に示す物質1と物質2を50mgずつ添加して、粉末状態で混合した。次いで、酢酸エチル5mLと、10%グリシン液25mLを加え、振盪混和しつつ容器外から超音波を30分当て、ピロロキノリンキノンとグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリンを生成するように混合した。そして、混合後の溶液を遠心分離器にて遠心分離した、水層と油層(酢酸エチル層)に分離し、そのうち水層のみを採取して、測定用サンプルとした。
【0078】
測定用サンプル2mLを15mLの容器に分取し、その後、70℃で1時間放置し、さらに、室温で1時間振盪したのち、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた測定用サンプルに対してHPLC分析を行い、PQQに由来するピークの消失とIPQに由来するピークの生成を確認することにより、共存物質(物質1及び2)共存下におけるグリシンによるPQQのIPQへの誘導体化反応の進行を確認した。誘導体化反応が完全に進行したものをAとし、共存物質による妨害が有意に認められるものをBとした。なお、下記表2においては、物質1及び2を組み合わせて用いているが、物質1又は2の単独使用においても実質的に同様の傾向が見られた。
【表2】
共存物質して妨害するアミノ酸が存在したとしてもグリシンを用いることによりIPQへの誘導体化が選択的かつ優位に進行したことを確認できた。
【0079】
〔実施例5:分析範囲〕
0.1g/L添加溶液等と同様にして、0.5g/L添加溶液、1.0g/L添加溶液、2.0g/L添加溶液、3.0g/L添加溶液、4.0g/L添加溶液を調整した。測定対象物は特に使用せず、これら0.1〜4.0g/L添加溶液を、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた溶液をフィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。
【0080】
イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピーク面積)をそれぞれの添加溶液ごとに算出し、PQQの濃度を横軸とし、HPLCピークエリアを縦軸として、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値をそれぞれプロットし、そのプロットから最小二乗法により直線cを作成した。
図3に、各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線cを示す。標準添加法において高濃度から低濃度まで直線cの直線性が保たれているということは、本発明の分析方法の正確性を担保するための一つの指標となる。
図3に示されるとおり、本発明の分析方法によれば2.5mgから100mgの範囲で直線性が確認された。このことからすると、打ち込み量の増加、希釈操作を組み合わせればさらに広い濃度範囲で分析が可能であることがわかる。
【0081】
本出願は、2018年1月12日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018−003636)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。