特許第6551719号(P6551719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6551719
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20190722BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20190722BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20190722BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20190722BHJP
   G01N 33/03 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   G01N30/88 E
   G01N30/88 C
   G01N30/88 F
   G01N30/88 N
   G01N30/04 P
   G01N30/06 E
   G01N30/06 Z
   G01N31/00 V
   G01N33/03
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-520750(P2019-520750)
(86)(22)【出願日】2018年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2018046770
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-3636(P2018-3636)
(32)【優先日】2018年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
(72)【発明者】
【氏名】伊丸岡 智子
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 熊澤武志,食品に含まれるピロロキノリンキノン誘導体の検索と定量に関する研究,科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,日本,日本学術振興会,2012年 5月23日,21580154,p.2-3,URL,https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21580154/21580154seika.pdf
【文献】 安藤篤正ほか,ピロロキノリンキノン(PQQ)のLC-MS/MS分析,Vitamins,日本,2014年12月25日,Vol.88, No.12,p.601-609,ISSN 2424-080X
【文献】 KUMAZAWA, Takeshi et al.,Levels of pyrroloquinoline quinone in various foods,Biochem. J.,1995年 4月15日,Vol.307,p.331-333,ISSN 0264-6021
【文献】 池本一人, 伊丸岡智子, 平野龍一,HPLCによるカプセル中のピロロキノリンキノン分析,分析化学,日本,2016年 6月 5日,Vol.65, No.6,p.339-342,ISSN 0525-1931
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、前記ピロロキノリンキノン又はその塩を含む測定対象物と前記グリシンとを混合し、測定サンプルを調製するサンプル調製工程と、
クロマトグラフィー法による前記測定サンプルに含まれる前記イミダゾピロロキノリン及びその塩のクロマトグラムに基づいて、前記測定対象物に含有される前記ピロロキノリンキノン及びその塩の量を定量する定量分析工程と、を有する
分析方法。
【請求項2】
前記サンプル調製工程において、水と相溶しない有機溶剤をさらに混合し、前記測定対象物中の油溶性成分を前記有機溶剤に溶解させた後、前記有機溶剤を取り除くことにより、前記測定対象物中の油溶性成分が除去された測定サンプルを調製する、
請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記グリシンとの反応の前または反応中において、前記ピロロキノリンキノンを酸化型にする酸化工程をさらに含む、
請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記測定対象物に含まれる前記ピロロキノリンキノン又はその塩の含有量が、0.0001質量%以上100質量%未満である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記測定サンプルに含まれる前記グリシンの含有量が、1〜40質量%である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
前記測定サンプルに含まれる前記グリシンの含有量は、ピロロキノリンキノン又はその塩の含有量に対して、100〜1000000倍重量である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項7】
前記ピロロキノリンキノンを含む前記測定対象物と前記グリシンとを混合した後、希釈剤を加える希釈工程をさらに含む、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項8】
前記クロマトグラフィー法による定量分析の方法が、標準添加法である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項9】
前記測定対象物が、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、テアニン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アセチルシステイン、コラーゲン、野菜抽出物、グルコース、及びフルクトースからなるA群より選ばれる少なくとも1種を含むものである、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項10】
前記測定対象物が、食用油脂、リポ酸、DHA,EPA,レシチン、ビタミンE,グリセリルホスホリルコリン、ステアリン酸マグネシウム、シリカ、コメ粉、セルロース、デキストリン、マンニトール、キシリトール、乳糖、及びシクロデキストリンからなるB群より選ばれる少なくとも一種を含むものである、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン又はその塩の定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone以下、単にPQQということがある)は、ピロール環とキノリン環が縮合したものがo−キノン構造をとる物質である。PQQは電子伝達体としての機能が知られており、必須アミノ酸リジンの代謝に関与するアミノアジピン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aminoadipate semialdehyde dehydrogenase;AASDH)中に取り込まれることで、AASDHが酸化還元反応できるようになる。すなわち、AASDHの補酵素と考えられており、このことから、ニコチンアミド(ピリジンヌクレオチド)とフラビンに次ぐ3番目の酸化還元補酵素とされ、新規のビタミンとなる可能性を有する。
【0003】
またPQQは、細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防・治療作用、創傷治癒促進作用、抗アレルギー作用、逆転写酵素阻害作用、グリオキシラーゼI阻害作用および制癌作用などの多くの重要な生理活性を有するとされ、PQQ利用の産業上の重要性が高まっている。
【0004】
PQQは、細菌並びにカビおよび酵母など真菌に広く存在していることが知られていたが、近年、細菌だけでなく、イネなどの植物や哺乳類に至るまで広く存在することが報告されている。哺乳動物でも様々な組織、器官からその検出が報告されているものの、哺乳動物はPQQの合成経路をもたないため、PQQを食物から摂取しているとされる。
【0005】
機能性を利用する機能性表示食品制度では食品中のPQQの正確な測定データを算出する必要が求められている。多くの食品では単独での製品はなく、色々な物質と混合して提供される。一方でPQQは多くの食品成分と反応しやすく、分析時に妨害を受けやすい。また、分析スケールはカプセルや錠剤に含まれるmgオーダーの含有量の分析である。
【0006】
これまでにPQQの分析方法として、ガスクロマトグラフィー/質量分析(特許文献1)、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(特許文献2)が報告されている。しかしながら、これらの分析方法はngオーダーやnmol/Lオーダーといった微量分析に最適化されたものであり、mgオーダーの分析には適していない。また、誘導体化を含む前処理が複雑で作業効率が上がらない。さらには、定量分析のために主に13Cを利用した特殊な内部標準物質が要求されることから一般的な方法にならない。そのため、従来の方法ではカプセル等を初めとする機能性食品の分析に適していない。また、これら方法では、PQQが多くの食品成分と反応しやすく分析時に妨害を受けその定量性が脅かされ得るという点について、何ら対策はとられていない。
【0007】
また、mgオーダーの分析が可能でありかつ簡便な方法としては、ジアミン類によりPQQを誘導体化して吸光度分析をする方法が非特許文献1に記載されている。しかしながら、当該方法は試料中にPQQ以外に特定の吸光度を示すものが存在しないことが前提となるものであり、そもそもPQQとその他の多数の共存成分を含む機能性食品を測定対象とすることは想定されていない。つまり、吸光度分析では食品成分の妨害に対して対応できず、PQQの誘導体化分析について安価で安全な分析方法は知られていない。
【0008】
また、分析時の妨害を抑制する方法については非特許文献2に報告されているが、この方法はアスコルビン酸による妨害を抑制するために、測定前にアスコルビン酸を除去する工程を経た後にHPLC分析をする方法である。したがって、アスコルビン酸以外の成分については特段の考慮はされておらず、複雑かつ多種多様な共存成分を含む機能性食品等の定量分析を考慮した場合には、十分に対応できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−145360号公報
【特許文献2】特開2017−187321号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】水津智樹ら著、分析化学Vol.60,No.7,pp.599−602(2011)
【非特許文献2】池本一人ら著、分析化学Vol.65,No.6,pp.339−342(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の方法の中で、複雑かつ多種多様な共存成分を含む機能性食品等の定量分析を考慮した場合、HPLCを用いた方法は比較的簡便であるが、一方で、妨害物質による影響を受けやすく、定量性が損なわれるという課題がある。このような課題を解消するため、PQQを誘導体化することが考えられる。一般に誘導体化はエステル化、アシル化、シリル化反応を使用して行われるが、これらの誘導体化試薬は高価であり、また、反応性が高く、安全性や取り扱いについて注意を払う必要が生じる。
【0012】
さらに、カプセル等に含まれるmgオーダーのPQQ誘導体には大量の誘導体化試薬が必要であるため、より汎用性がありかつ簡便な定量分析方法の提供ということを前提とした場合に、このような誘導体化試薬を用いることは適さない。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、機能性食品等のようなmgオーダーのPQQとその他の多数の共存成分を含む測定対象物を測定対象とした際に、共存成分による影響を受けることなく、当該測定対象物に含まれるPQQを迅速かつ簡便に定量できる分析方法を提供することを目的とする。また、本発明は、共存成分による影響を排除すべくPQQを誘導体化する際に、安全かつ簡便で、取り扱い性にも優れる誘導体化工程を含む分析方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、グリシンを用いてピロロキノリンキノンをより安定なイミダゾピロロキノリンへ変換し、イミダゾピロロキノリンを定量することでイミダゾピロロキノリンを定量分析でき、これにより、上記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
その過程において、PQQはキノンを有するために還元、アルドール、イミノ化反応を生じやすく、還元性物質、アミノ化合物、アルデヒト化合物によって妨害されやすいという点においては、本発明者らは妨害物質による反応より早く、誘導体化を完了し、その誘導体化物質が妨害物質によって変化しない方法を検討し、その結果として、さらに安全で、安価な試薬によって達成することを検討し、適切な方法を見出した。
【0016】
また、本発明者らは、測定対象物の剤型に応じたより適切な方法として、例えば、カプセルや錠剤に含まれるPQQを分析するために有機溶媒抽出方法により脂溶性夾雑物を除去すること、誘導体化反応条件を調整することについても検討し、適切な方法を見出した。具体的には、有機溶媒で脂溶性成分を除去し、水溶性妨害物質よりも速い反応、酸化工程によるより完全な誘導体化で定量性の一層の向上を図ることや、また、標準添加法により定量精度を高めること等を見出した。但し、これら個別具体的方法については、本発明の分析方法が幅広い態様の測定対象物を対象とすることに由来するより最適化された具体的手段の一つであり、本発明の分析方法の利用者に対してより適した具体的方法を提示するものであるが、本発明はこれら具体的手段が必須のものとして限定解釈されるべきものではない。
【0017】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、前記ピロロキノリンキノン又はその塩を含む測定対象物と前記グリシンとを混合し、測定サンプルを調製するサンプル調製工程と、
クロマトグラフィー法による前記測定サンプルに含まれる前記イミダゾピロロキノリン及びその塩のクロマトグラムに基づいて、前記測定対象物に含有される前記ピロロキノリンキノン及びその塩の量を定量する定量分析工程と、を有する
分析方法。
〔2〕
前記サンプル調製工程において、水と相溶しない有機溶剤をさらに混合し、前記測定対象物中の油溶性成分を前記有機溶剤に溶解させた後、前記有機溶剤を取り除くことにより、前記測定対象物中の油溶性成分が除去された測定サンプルを調製する、
〔1〕に記載の分析方法。
〔3〕
前記グリシンとの反応の前または反応中において、前記ピロロキノリンキノンを酸化型にする酸化工程をさらに含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の分析方法。
〔4〕
前記測定対象物に含まれる前記ピロロキノリンキノン又はその塩の含有量が、0.0001質量%以上100質量%未満である、
〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔5〕
前記測定サンプルに含まれる前記グリシンの含有量が、1〜40質量%である、
〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔6〕
前記測定サンプルに含まれる前記グリシンの含有量は、ピロロキノリンキノン又はその塩の含有量に対して、100〜1000000倍重量である、
〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔7〕
前記ピロロキノリンキノンを含む前記測定対象物と前記グリシンとを混合した後、希釈剤を加える希釈工程をさらに含む、
〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔8〕
前記クロマトグラフィー法による定量分析の方法が、標準添加法である、
〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔9〕
前記測定対象物が、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、テアニン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アセチルシステイン、コラーゲン、野菜抽出物、グルコース、及びフルクトースからなるA群より選ばれる少なくとも1種を含むものである、
〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の分析方法。
〔10〕
前記測定対象物が、食用油脂、リポ酸、DHA,EPA,レシチン、ビタミンE,グリセリルホスホリルコリン、ステアリン酸マグネシウム、シリカ、コメ粉、セルロース、デキストリン、マンニトール、キシリトール、乳糖、及びシクロデキストリンからなるB群より選ばれる少なくとも一種を含むものである、
〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機能性食品等のような相当量のPQQとその他の多数の共存成分を含む測定対象物を測定対象とした際に、共存成分による影響を受けることなく、当該測定対象物に含まれるPQQを迅速かつ簡便に定量できる分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、共存成分による影響を排除すべくPQQを誘導体化する際に、安全かつ簡便で、取り扱い性にも優れる誘導体化工程を含む分析方法を提供することもできる。これにより、食品をはじめとして様々な製品におけるPQQの定量が広い濃度範囲で確立され、PQQ類に関連した健康食品や医薬品等の開発に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1において測定用サンプルをHPLC分析にて得られたクロマトグラフである。
図2】実施例1におけるIPQの各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線a及び検量線bを示すグラフである。
図3】実施例5におけるIPQの各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線cを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0021】
〔分析方法〕
本実施形態の分析方法は、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、前記ピロロキノリンキノンを含む測定対象物と前記グリシンとを混合し、測定サンプルを調製するサンプル調製工程と、クロマトグラフィー法による前記測定サンプルに含まれる前記イミダゾピロロキノリン及びその塩のクロマトグラムに基づいて、前記測定対象物に含有される前記ピロロキノリンキノンの量を定量する定量分析工程と、を有する。
【0022】
〔サンプル調製工程〕
サンプル調製工程は、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、ピロロキノリンキノンを含む測定対象物とグリシンとを混合し、測定サンプルを調製する工程である。ここで、「イミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように」とは、ピロロキノリンキノンを含む測定対象物とグリシンとの混合において、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応する態様であれば特に制限されない。
【0023】
(分析対象)
本実施形態の分析方法における分析対象となるピロロキノリンキノンを以下に示す。PQQには、下記式(1)で表される酸化型PQQと、下記式(2)で表される還元型PQQがあり、環境に応じて酸化型PQQが相対的に多い状態から還元型PQQが相対的に多い状態まで様々取りうる。例えば、溶液中では、還元が進みやすく還元型PQQが相対的に多く存在し、酸化環境下では酸化型PQQが相対的に多く存在する。この点、本実施形態の分析方法によれば、酸化型PQQ及び還元型PQQの総量を定量することができる。
【化1】
【0024】
また、分析対象となる上記ピロロキノリンキノンの塩としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属などの金属との塩;アンモニウムカチオン等の非金属との塩が挙げられる。特に、アルカリ金属塩の一種であるジナトリウム塩は、食品として多用されており、分析対象としては重要である。
【0025】
(測定対象物)
ピロロキノリンキノンを含む測定対象物としては、特に制限されないが、例えば、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などの経口投与用の薬剤及びサプリメント;飲料;ゼリー;グミ;レトルト食品などその他食品が挙げられる。測定対象物については、上記の他、飲食品ではない化粧料、洗浄料、その他外用剤なども対象とすることができ、PQQを含む製品全般を対象とすることができる。これら測定対象物には、ピロロキノリンキノン以外の成分が任意に含まれる。任意成分には、ピロロキノリンキノンの定量分析に特段の影響を与えない物の他、従来法では、ピロロキノリンキノンの定量分析を妨害するもの(以下、「妨害物質」ともいう。)も含まれる。ピロロキノリンキノンと共存し得る妨害物質としては、以下のA群及びB群が想定される。
【0026】
A群は、サンプル調製工程においてPQQと反応し、不特定の類縁体を形成することにより分析の妨害を起こす可能性のある化合物群である。このようなA群に属する化合物としては、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン等の必須アミノ酸;テアニン、アセチルシステイン等の必須アミノ酸の誘導体;必須アミノ酸以外のアミノ酸;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等のビタミン類及びその誘導体;コラーゲン等のタンパク質;グルコース、及びフルクトース等の糖類;その他、野菜類、果実類、種子類、香辛料類、ハーブ類、海産物類、及び畜肉類等の食材抽出物が挙げられる。このなかでも、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等のビタミン類及びその誘導体、並びにアセチルシステイン等の必須アミノ酸の誘導体は妨害効果が高く、定量化の妨げになりやすい。これに対して、本実施形態の分析方法によればこれらA群の化合物による妨害の影響を受けずに定量分析をすることができる。なお、本願明細書において、「妨害の影響を受けずに」には、妨害の影響があったとしても分析としては誤差範囲内である場合も含まれるものとする。
【0027】
また、B群は、サンプル調製工程においてPQQの抽出を阻害することにより分析の妨害を起こす可能性のある化合物群である。このようなB群に属する化合物としては、具体的には、脂溶性成分、粉末成分が挙げられる。より具体的には、B群に属する化合物として、食用油脂、非食用油脂、動物性油脂、及び植物性油脂等の油脂類;リポ酸;ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA),レシチン等の脂質;ビタミンE等の脂溶性ビタミン類及びその誘導体;グリセリルホスホリルコリン、ステアリン酸マグネシウム;セルロース、デキストリン、マンニトール、キシリトール、乳糖、シクロデキストリン等の糖類及び糖アルコール;シリカ等の無機粉体;コメ粉等の有機粉体が挙げられる。このなかでも、油脂は妨害効果が高く、定量化の妨げになりやすい。これに対して、本実施形態の分析方法によればこれらB群の化合物による妨害の影響を受けずに定量分析をすることができる。
【0028】
測定対象物に含まれるピロロキノリンキノン又はその塩の含有量は、好ましくは0.0001質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは0.0005質量%以上100質量%未満であり、さらに好ましくは0.001質量%以上100質量%未満である。本実施形態の分析方法によれば、比較的多量のピロロキノリンキノン又はその塩を含むものを測定対象物とした場合であっても、簡便に定量分析を行うことが可能である。
【0029】
(測定対象)
本実施形態の分析方法における測定対象となるイミダゾピロロキノリン(以下、「IPQ」ともいう。)を以下に示す。イミダゾピロロキノリンは、ピロロキノリンキノンとグリシンとを反応させて得られるピロロキノリンキノンの誘導体であり、下記式(3)で表される。IPQはPQQと異なり、更なるアミノ酸等の任意成分と反応をしないという点で、安定性に優れる。また、液体クロマトグラフィーの溶出時間がPQQと異なり、クロマトグラムのピークの分離も容易になる。本実施形態の分析方法においてはIPQを形成させて検出することにより、測定サンプル中に共存する任意成分の妨害を受けずに定量分析が可能となる。
【化2】
【0030】
(グリシン)
グリシンを用いることにより、IPQの生成が効率的及び優先的に進行し、上記妨害物質による影響を排することができる。添加するグリシンの態様は、特に制限されず、水溶液であっても、粉末状であってもよい。水溶液である場合には、溶媒として水を用いても緩衝液を用いてもよい。
【0031】
(前処理)
サンプル調製工程において、ピロロキノリンキノンを含む測定対象物とグリシンとを混合するに際して、測定対象物の形態に応じた前処理を行ってもよい。例えば、測定対象物がカプセル剤であればカプセルを切断したり、錠剤であれば錠剤を粉砕したりするなど、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが混合されやすいよう適切に処理することができる。
【0032】
(分液操作)
また、サンプル調製工程において、水と相溶しない有機溶剤をさらに混合し、測定対象物中の油溶性成分を有機溶剤に溶解させた後、有機溶剤を取り除くことにより、測定対象物中の油溶性成分が除去された測定サンプルを調製してもよい(分液操作)。特に、測定対象物が脂溶性成分を含む場合には、分液操作を行うことにより、有機層に脂溶性成分を抽出し、水層にPQQ(若しくは反応後のIPQ)を抽出することで、PQQ(若しくは反応後のIPQ)の定量精度がより向上する傾向にある。なお、水槽に抽出されるのがPQQであるかIPQであるかという点については、分液操作をピロロキノリンキノンとグリシンとを反応させた後に行うか、前に行うかによって異なる。また、反応中である場合には、未反応のPQQと反応済のIPQがともに水層に抽出されるということもある。
【0033】
分液処理において用い得る有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、シクロヘキサン、トルエン、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトンが挙げられる。このなかでも、水溶性が低いという観点から、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレンが好ましく、より好ましくは生分解性の高い酢酸エチルである。なお、分液操作は脂溶性成分を含まないと考えられる場合には、省略することも可能である。分液操作を行うことにより、PQQ(IPQ)の定量精度がより向上する傾向にある。
【0034】
(遠心分離操作)
測定対象物が、難溶性成分等の粉末成分を含む場合には、遠心分離操作を行ってもよい。また、分液操作の過程で水層と有機層を分離させるために遠心分離操作を利用してもよい。
【0035】
(混合方法)
ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、ピロロキノリンキノンを含む測定対象物と前記グリシンとを混合する方法としては、特に制限されないが、少なくとも、水又は緩衝液などの水溶液中で、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとを共存させる方法が挙げられる。
【0036】
その条件としては、特に制限されない。例えば、イミダゾピロロキノリンを生成する反応の温度と時間はサンプル濃度、妨害物質濃度によって変更することができる。このなかでも、反応温度は、好ましくは0〜120℃であり、より好ましくは10〜90℃であり、さらに好ましくは、20〜80℃である。また、反応時間は、好ましくは5分〜2日であり、より好ましくは10分〜24時間であり、さらに好ましくは10分〜10時間である。さらに、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが共存する溶液(反応液)のpHは、好ましくは2〜12であり、より好ましくは2〜10であり、さらに好ましくは6〜8である。溶液内でのIPQはpHにあわせてイオン化しており、塩が溶けた状態と同じである。
【0037】
グリシンの使用量は、ピロロキノリンキノン又はその塩に対して大過剰で使用することが好ましく、好ましくは100〜1000000倍重量であり、より好ましくは200〜500000倍重量であり、さらに好ましくは300〜100000倍重量である。
【0038】
(酸化工程)
上記混合方法の一態様として、イミダゾピロロキノリンを生成する反応をより効率的に進める観点からは、グリシンとの反応の前または反応中において、ピロロキノリンキノンを酸化型にする酸化工程を有することが好ましい。酸化工程において、一部の還元型となったPQQを酸化型PQQとすることにより、IPQ化の反応がさらに進行し得る。なお、酸化工程における酸化方法、すなわち、還元型PQQを酸化型PQQにする方法としては、特に制限されないが、例えば、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが共存する液中に空気を吹き込む方法や、当該液を容器に入れ、十分に空気と接触させるために振る等の操作をする方法(容器中の空気とよくなじませること)が挙げられる。
【0039】
また、上記酸化方法の一態様として、ピロロキノリンキノンを含む測定対象物とグリシンとを混合した後、希釈剤を加える希釈化工程を有していてもよい。希釈剤としては特に制限されないが、水又は緩衝液を添加する方法が挙げられる。緩衝液としては、特に制限されないが、例えば、炭酸バッファーが好ましい。このような希釈化工程を経ることにより、ピロロキノリンキノンを酸化型にしやすくなるめ、イミダゾピロロキノリンを生成する反応をより効率的に進める傾向にある。
【0040】
さらに、上記希釈化工程においては、HPLCに導入するサンプル組成とHPLC溶離液の組成との相違を少なくし、これにより、ショックピーク、ピーク形状の乱れ、溶出時間の変動が生じることを抑止する観点から、希釈剤として、HPLC溶離液を用いてもよい。上記還元型PQQを酸化型PQQにする目的において用いる希釈剤と、ショックピーク等による変動を抑止する目的において用いる希釈剤とは、同一であっても異なってもよい。また、これら異なる目的の希釈剤は、同時に添加しても別々に添加してもよく、好ましくは、グリシンによる誘導体化反応の進行の観点から、上記還元型PQQを酸化型PQQにする目的において用いる希釈剤を先に添加し、ショックピーク等による変動を抑止する目的において用いる希釈剤を後に添加するか、若しくは同時に添加することが好ましい。特に、ショックピーク等による変動を抑止する目的において用いる希釈剤を後に添加する場合、これを再希釈化工程ともいう。
【0041】
(測定サンプル)
上記のようにして得られる測定サンプルは、ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応して得られたイミダゾピロロキノリン又はその塩と、未反応のグリシンと、測定対象物に含まれるその他の各成分が含まれ得る。
【0042】
測定サンプルに含まれるグリシンの含有量は、好ましくは1〜40質量%であり、より好ましくは3〜20質量%であり、さらに好ましくは3〜10質量%である。測定サンプルに含まれるグリシンの含有量は、未反応の測定サンプルに含まれるグリシンの残存量、すなわち、ピロロキノリンキノン又はその塩がイミダゾピロロキノリンに全て転化したあとのグリシンの残存量と考えることができる。グリシンの含有量が1質量%以上であることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩がイミダゾピロロキノリンに十分に転化したものということができる。また、グリシンの含有量が40質量%以下であることにより、測定サンプル内に含まれるグリシンが多すぎることによる定量測定に与える影響が抑えられる傾向にある。
【0043】
〔定量分析工程〕
定量分析工程は、クロマトグラフィー法による測定サンプルに含まれるイミダゾピロロキノリン及びその塩のクロマトグラムに基づいて、測定対象物に含有されるピロロキノリンキノンの量を定量する工程である。ここで、クロマトグラムとは、溶出時間ごとに得られる各成分の信号を、X軸を時間、Y軸を信号強度としてプロットすることで得られるチャートである。
【0044】
クロマトグラフィー法による測定サンプルに含まれるイミダゾピロロキノリン及びその塩の定量分析方法としては、常法を用いることができ、例えば、標準添加法、内部標準法、絶対検量線法が挙げられる。定量法は求める精度と補正を考慮して採用すればよいが、このなかでも、妨害の影響を最小限にして、分析精度を高める観点から、標準添加法が好ましい。
【0045】
本実施形態において用い得る標準添加法は、常法と同様であり、例えば、イミダゾピロロキノリン及びその塩を検出可能な検出器を用いて、測定サンプルのクロマトグラムを得て、当該クロマトグラム中のイミダゾピロロキノリン及びその塩に由来するピークを特定し、かつ当該ピークの面積に基づき予め定めた検量線から、測定サンプルに含まれるイミダゾピロロキノリン及びその塩を定量する方法が挙げられる。検量線の作成にあっては、初めに、濃度が既知のイミダゾピロロキノリンの標準溶液を予め調製し、当該標準溶液を測定サンプルに添加して、検量線作成用のサンプル群を調製する。そして、当該サンプル群のクロマトグラムを得て、イミダゾピロロキノリン及びその塩に由来するピークの面積を測定し、測定されたピークの面積と、測定したサンプルに添加されたイミダゾピロロキノリンの量(標準溶液により添加されたイミダゾピロロキノリンの量)とをプロットしたグラフを作成する。当該プロットから最小二乗法等により、ピークの面積とイミダゾピロロキノリン及びその塩の濃度の関係を示す近似直線を得て、当該近似直線に基づいて検量線を作成する。
【0046】
本実施形態において用い得るクロマトグラフィー法としては、求める精度と補正を考慮して採用すればよいが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の液体クロマトグラフィー(LC)が挙げられる。当該方法におけるカラム及び溶離液の組み合わせは特に制限されない。HPLC装置は、分離カラム、および分離溶液を分離カラムに送り込むポンプを備える。HPLC装置は、それ以外の要素、例えば、オートサンプラー、ヒーター、分離された成分を検出する検出器等備えていてもよい。検出器としては、例えば、UV検出器や蛍光検出器、質量分析装置が挙げられる。
【0047】
分離カラムとしては、逆相カラムを用いることができる。逆相カラムとしては、例えば、オクタデシルシリル化シリカゲル充填剤を充填したカラム(ODSカラム、C8カラム、C2カラム)、これらにイオン交換樹脂を配合したカラムが挙げられるが、特にODSカラムが好ましい。特に、HPLCによる分析を行う場合には、粒径が5.0μm以下のオクタデシルシリル化シリカゲル充填剤を充填したカラム(ODSカラム)を使用することが好ましく、1.7〜5.0μmのODSカラムが更に好ましい。
【0048】
溶離液としては、特に制限されないが、例えば、燐酸バッファー、酢酸バッファー、ギ酸バッファー、炭酸バッファー、及びこれらの混合バッファーが挙げられる。また、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。このような有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、アセトニトリル、メタノールが挙げられる。また、分離度を上げることを目的として、イオンペア試薬を溶離液に添加するイオンペア法を用いてもよい。イオンペア試薬としては、特に制限されないが、例えば、アンモニウム塩、スルホン酸化合物等が挙げられる。
【0049】
溶出法としては、特に制限されないが、例えば、送液中において移動相(溶離液)の組成を変化させないアイソクラティック溶出法、及び、送液中において移動相(溶離液)の組成を変化させるグラジエント溶出法が挙げられる。溶出法は、分離能に応じて適宜選択することができる。
【0050】
本実施形態の分析方法は、PQQ定量分析において以下の利点、特徴を有する。第一に、誘導体化することで安定になり、経時的変化が小さくなる、第二に、PQQと反応する物質による妨害効果を小さくできる。また、その他に、誘導体化に使用するグリシン等のグリシンは安価で安全である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
以下に分析に用いた各試料の調製方法を記載する。なお、実施例において用いた試薬は、特に記載がない限り和光特級の試薬を用いた。
【0053】
(1)10%グリシン溶液:グリシン100gを秤量し蒸留水900gに溶解して、調製した。
【0054】
(2)標準添加溶液
(2−1)PQQ原液:100mgのピロロキノリンキノンニナトリウム塩(三菱瓦斯化学社製、Na/ピロロキノリンキノンモル比1.70〜2.10、水分量<12%、HPLC純度>99.0%)を10%グリシン液で溶解し、総重量が20gとなるように、メスアップした。PQQ原液中のPQQの濃度は5g/Lであった。
(2−2)0.1g/L添加溶液:PQQ原液2gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.1g/Lであった。
(2−3)0.2g/L添加溶液:PQQ原液4gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.2g/Lであった。
(2−4)0.3g/L添加溶液:PQQ原液6gを10%グリシン液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.3g/Lであった。
【0055】
(3)炭酸緩衝液
(3−1)250mM炭酸緩衝液:15.95gのNaCOと8.4gのNaHCOを蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップした。
(3−2)50mM炭酸緩衝液:250mM炭酸緩衝液を水で5倍希釈して調製した。
【0056】
(4)比較用標準添加溶液
(4−1)PQQ比較用原液:100mgのピロロキノリンキノンニナトリウム塩(三菱瓦斯化学社製、Na/ピロロキノリンキノンモル比1.70〜2.10、水分量<12%、HPLC純度>99.0%)を50mM炭酸緩衝液で溶解し、総重量が20gとなるように、メスアップした。PQQ比較用原液中のPQQの濃度は5g/Lであった。
(4−2)0.1g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液2gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.1g/Lであった。
(4−3)0.2g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液4gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.2g/Lであった。
(4−4)0.3g/L比較用添加溶液:PQQ比較用原液6gを50mM炭酸緩衝液で希釈し、総重量が100gとなるように、メスアップした。PQQの濃度は0.3g/Lであった。
【0057】
(5)HPLC溶離液(100mM CHCOOH/100mM CHCOONH=30/70(pH5.1)):
6.0gのCHCOOHを蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CHCOOH(1液)を調製し、これとは別に、7.71gのCHCOONHを蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CHCOONH(2液)を調製した。その後、300mLの1液と700mLの2液を混合して、HPLC溶離液及び炭酸緩衝液として用いる緩衝液を得た。なお、得られた緩衝液のpHが5.1±0.2であることを確認した。
【0058】
(6)サンプル希釈液:HPLC溶離液をサンプル希釈液とした。
【0059】
〔HPLC分析条件〕
送液ユニット :LC−10AD(島津製作所社製)
カラム :YMC−Pack ODS−A
(YMC社製、長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)
検出器 :UV259nm
HPLC溶離液:上記のとおり
カラム温度 :40℃
溶離液流速 :1.5mL/min、
導入量 :3μL
分析時間 :30min
【0060】
〔実施例1:ハードカプセル〕
(サンプル調製工程)
測定対象物として、市販のピロロキノリンキノン二ナトリウム塩5mg相当入りハードカプセル品を1粒使用した。当該ハードカプセル品の原材料名表記には、酵素処理アスパラガス抽出物、デキストリン、コエンザイムQ10、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩,ショ糖脂肪酸エステル、着色料(カラメル)、二酸化ケイ素、ゼラチンが記載されていた。
【0061】
上記ハードカプセル品の外皮カプセルを切断し、50mLの容器(遠心チューブ)に外皮カプセル及びそのカプセル内容物を全て入れた。その後、容器に酢酸エチル5mLと、10%グリシン液25mLを加え、振盪混和しつつ容器外から超音波を60分当て、ピロロキノリンキノンとグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリンを生成するように混合した。そして、混合後の溶液を遠心分離器にて遠視分離を行い、水層と油層(酢酸エチル層)に分離し、そのうち水層のみを採取して、測定用サンプルした。
【0062】
測定用サンプルのうち0.2mLを50mLの容器に分取し、250mM炭酸緩衝液2mLを添加した。その後、70℃で1時間放置し、さらに、室温で1時間振盪したのち、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた溶液をフィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。得られたクロマトグラフを図1に示す。クロマトグラフのリテンションタイム(Rt)10〜11分にかけてみられるピークがイミダゾピロロキノリンに由来するピークであった。次いで、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。なお、上記ピークエリアの算出までの操作は3回行い(測定対象物としてのハードカプセル品を合計3粒用い)、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値Bを3点得た。
【0063】
(定量分析工程)
25mLの10%グリシン液に代えて、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を25mLずつ用いたこと以外は、上記と同様の方法により、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合毎のクロマトグラフを得て、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピーク面積)をそれぞれ算出した。なお、上記ピークエリアの算出までの操作は合計3回行い、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合におけるイミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値をそれぞれ3つずつ、合計9点の値を得た。
【0064】
その後、PQQの濃度を横軸とし、HPLCピークエリアを縦軸として、10%グリシン液、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液を加えた場合におけるイミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値(合計12点)をそれぞれプロットし、そのプロットから最小二乗法により直線aを作成し、当該直線aの傾きA(area/mg)を算出した。そして、標準添加法における検量線bを作成した。図2に、各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線a及び検量線bを示す。
【0065】
ハードカプセルには未知の量αmg含まれる。この時に示されるピーク面積はBである。ここにPQQを添加したときのピーク面積=A(α+添加量)として直線aをあわわしている。添加量を変えてプロットすることでAを求めることで未知のα=B/Aであらわされる。
【0066】
最後に、3点のピークエリアの値Bそれぞれに対して下記式を適用し、測定用サンプルのPQQの含量を求めた。その結果を標準偏差及び相対標準偏差とともに表1に示す。
PQQの含量(mg/カプセル)=B(area)/A(area/mg)
【表1】
【0067】
表1からわかるように、本発明の分析方法によれば、ばらつきも少なく定量性に優れた分析が可能となることがわかる。なお、実施例1においてはばらつきの確認のため、ピークエリアの値Bを3点測定して比較しているが、本発明の分析方法はピークエリアの値Bを複数点測定することが必須となるものではない。
【0068】
〔比較例1:ハードカプセル〕
25mLの10%グリシン液に代えて、50mM炭酸緩衝液を用いたこと、及び、酢酸エチルを用いた遠心分離(水層と油層の分離)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、ピロロキノリンキノンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。また、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液に代えて、0.1g/L比較用添加溶液、0.2g/L比較用添加溶液、又は0.3g/L比較用添加溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として4.54mg/カプセルという値が得られた。
【0069】
4.54mg/カプセルという値は、実施例1の5.08mg/カプセルよりも小さい値である。このように比較例1において得られる値が実施例1よりも小さくなった理由としては、ハードカプセルに含まれる夾雑物(例えば、クロマトグラム上のPQQ以外のピークで現れる夾雑物や、UV259nmで検出されない夾雑物)が、PQQの検出を妨害しているためであると考えられる。特に、当該ハードカプセル品のラベル表記から考えれば、植物抽出物であるアスパラガス抽出物の影響も少なからずあるものと推察される。上記結果により、グリシンを用いることにより、正確な含量が定量できることがわかる。さらに、HPLCに導入されたサンプル組成がHPLC溶離液と大きく異なる場合、ショックピーク、ピーク形状の乱れ、溶出時間の変動が生じやすい傾向にあるところ、HPLC溶離液による再希釈によりこれらも効果的に防止されたものと考えられる。
【0070】
〔実施例2:ソフトカプセル〕
(サンプル調製工程)
測定対象物として、MGCアドバンストケミカル株式会社販売のPQQ10mg相当入りサプリ(ソフトカプセル)を使用した。該PQQサプリの原材料名表記には、食用オリーブ油、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩、ゼラチン、ビタミンC、グリセリン、ミツロウ、着色剤(カラメル)が記載されていた。
【0071】
ハードカプセルに代えて上記ソフトカプセルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bと、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として10.03mg/カプセルという値が得られた。
【0072】
〔比較例2:ソフトカプセル〕
25mLの10%グリシン液に代えて、50mM炭酸緩衝液を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、ピロロキノリンキノンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bを算出した。また、0.1g/L添加溶液、0.2g/L添加溶液、又は0.3g/L添加溶液に代えて、0.1g/L比較用添加溶液、0.2g/L比較用添加溶液、又は0.3g/L比較用添加溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法により、傾きA(area/mg)を算出した。得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として5.5mg/カプセルという値が得られた。
【0073】
5.5mg/カプセルという値は、実施例2の10.03mg/カプセルの約半分の値である。このように比較例2において得られる値が実施例2よりも小さくなった理由としては、ソフトカプセルに含まれる夾雑物(例えば、クロマトグラム上のPQQ以外のピークで現れる夾雑物や、UV259nmで検出されない夾雑物)が、PQQの検出を妨害しているためであると考えられる。特に、当該ソフトカプセル品のラベル表記から考えれば、妨害効果の高いアスコルビン酸(ビタミンC)の影響も少なからずあるものと推察される。上記結果により、アスコルビン酸共存下においても正確な含量が定量できることがわかる。また、炭酸バッファーを用いた希釈により還元型PQQが酸化型PQQとなり、IPQが進行しやすいため、比較的妨害効果の高いアスコルビン酸(ビタミンC)の影響を排して、正確性がより向上したものと推察される。さらに、HPLCに導入されたサンプル組成がHPLC溶離液と大きく異なる場合、ショックピーク、ピーク形状の乱れ、溶出時間の変動が生じやすい傾向にあるところ、HPLC溶離液による再希釈によりこれらも効果的に防止されたものと考えられる。
【0074】
〔実施例3:飲料〕
測定対象物として、キリンビバレッジ社製「生茶」525mLに対し、ピロロキノリンキノンジナトリウムを20mg添加し、一晩室温で静置させたものを使用した。さらに検量線作成用に生茶に対してピロロキノリンキノンジナトリウムを15、20、40mgになるように添加したものを準備した。なお、原材料名表記には、緑茶、生茶葉抽出物、ビタミンCが記載されていた。
【0075】
50mLの容器に静置後の生茶2mLを入れ、粉末のグリシンを0.3g添加した。その後、容器外から超音波を15分当て、粉末のグリシンを全て溶解させた。さらに4時間振盪させたあと、フィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピークの面積)の値Bと、傾きA(area/mg)を算出し、得られた値B及び傾きAに基づいて、上記式によりPQQの含量(mg/カプセル)を算出したところ、平均値として20mg/飲料という値が得られた。
【0076】
〔比較例3:飲料〕
粉末のグリシンを添加しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法により、HPLC分析を行った。しかしながら、PQQ20mg添加と40mg添加のPQQピーク面積はほぼ同じ値であった。このことからグリシンを添加しない場合には、PQQピーク面積からは飲料に含まれるPQQの濃度依存性を確認することはできなかった。これは、アスコルビン酸と植物抽出物である緑茶が検出を妨害しているためと推察される。
【0077】
〔実施例4:共存物質の影響〕
ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩1gとデキストリン9gを粉末状態で混合した。この粉末50mgを50mLの容器に入れ、そこに、表2に示す物質1と物質2を50mgずつ添加して、粉末状態で混合した。次いで、酢酸エチル5mLと、10%グリシン液25mLを加え、振盪混和しつつ容器外から超音波を30分当て、ピロロキノリンキノンとグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリンを生成するように混合した。そして、混合後の溶液を遠心分離器にて遠心分離した、水層と油層(酢酸エチル層)に分離し、そのうち水層のみを採取して、測定用サンプルとした。
【0078】
測定用サンプル2mLを15mLの容器に分取し、その後、70℃で1時間放置し、さらに、室温で1時間振盪したのち、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた測定用サンプルに対してHPLC分析を行い、PQQに由来するピークの消失とIPQに由来するピークの生成を確認することにより、共存物質(物質1及び2)共存下におけるグリシンによるPQQのIPQへの誘導体化反応の進行を確認した。誘導体化反応が完全に進行したものをAとし、共存物質による妨害が有意に認められるものをBとした。なお、下記表2においては、物質1及び2を組み合わせて用いているが、物質1又は2の単独使用においても実質的に同様の傾向が見られた。
【表2】
共存物質して妨害するアミノ酸が存在したとしてもグリシンを用いることによりIPQへの誘導体化が選択的かつ優位に進行したことを確認できた。
【0079】
〔実施例5:分析範囲〕
0.1g/L添加溶液等と同様にして、0.5g/L添加溶液、1.0g/L添加溶液、2.0g/L添加溶液、3.0g/L添加溶液、4.0g/L添加溶液を調整した。測定対象物は特に使用せず、これら0.1〜4.0g/L添加溶液を、サンプル希釈液(HPLC溶離液)を用いて5倍に希釈した。得られた溶液をフィルターにてろ過し、上記条件にてHPLC分析を行った。
【0080】
イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリア(ピーク面積)をそれぞれの添加溶液ごとに算出し、PQQの濃度を横軸とし、HPLCピークエリアを縦軸として、イミダゾピロロキノリンに由来するピークのピークエリアの値をそれぞれプロットし、そのプロットから最小二乗法により直線cを作成した。図3に、各ピークエリアの値のプロットとそれに基づいて作成された直線cを示す。標準添加法において高濃度から低濃度まで直線cの直線性が保たれているということは、本発明の分析方法の正確性を担保するための一つの指標となる。図3に示されるとおり、本発明の分析方法によれば2.5mgから100mgの範囲で直線性が確認された。このことからすると、打ち込み量の増加、希釈操作を組み合わせればさらに広い濃度範囲で分析が可能であることがわかる。
【0081】
本出願は、2018年1月12日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018−003636)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の分析方法は、食品等に含まれるPQQの定量的な測定方法として、産業上の利用可能性を有する。
【要約】
ピロロキノリンキノン又はその塩とグリシンとが反応してイミダゾピロロキノリン又はその塩を生成するように、前記ピロロキノリンキノン又はその塩を含む測定対象物と前記グリシンとを混合し、測定サンプルを調製するサンプル調製工程と、クロマトグラフィー法による前記測定サンプルに含まれる前記イミダゾピロロキノリン及びその塩のクロマトグラムに基づいて、前記測定対象物に含有される前記ピロロキノリンキノン及びその塩の量を定量する定量分析工程と、を有する分析方法。
図1
図2
図3