【実施例】
【0039】
(リン含有量の測定方法)
検量線の作成
標準試料としてリン酸1カリウム(試薬特級)を用いて2μg/mlのリンに相当する水溶液を作成した。この水溶液をホールピペットで適量(0〜70μgの間で数種)を分液ロートに分取し、水で全量を50mlとした。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n−ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。
【0040】
前処理方法
飽和食塩水50mLとエチルエーテル20mLを分液ロート(A)へ加え、そこに脂肪酸クロライドを0.1〜0.5g量りとった。分液漏斗(A)を3分間振とう、静置し、分層させた。分層した下層の飽和食塩水層は別の分液漏斗(B)に分取した。この分液漏斗(B)にエチルエーテル20mLを加え、分液漏斗(B)を3分間振とう、静置し、分層させた。また、エチルエーテル層の残った分液漏斗(A)に飽和食塩水25mLを加え、3分間振とう、静置し、分層させた。その後、分液漏斗(A)および(B)の下層を同一のコニカルビーカー(C)に分取し、飽和食塩水層を得た。また、分液漏斗(A)および(B)に残った溶液を同一のケルダールフラスコ(D)へ分取し、エチルエーテル層を得た。
【0041】
無機リン化合物のリン含有量の測定方法
(C)コニカルビーカーの飽和食塩水層は10%硝酸水溶液1mlおよび2%過マンガン酸カリウム溶液5mlを加えて、200℃で加熱し、含まれるリンを酸化した。酸化して酸化マンガンの褐色沈殿が生成した後、約10分間加熱を続け、10%亜硫酸ナトリウム溶液を滴下し還元した。室温まで放冷後、ブロムフェノールブルー指示薬を数滴加え、14%アンモニア水で中和した。この溶液を200mlメスフラスコに移し、水で定溶した。この溶液50mlをホールピペットで分液ロートに分取した。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n-ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。あらかじめ作成した検量線よりリンの含有量を求めた。
なお、本試験と平行して空試験を行った。
【0042】
有機リン化合物のリン含有量の測定方法
(D)ケルダールフラスコ中のエチルエーテルを完全に留去した。これに硫酸5mlを加え、ケルダール分解装置で炭化させた。フラスコ内を室温まで冷却後、滴下ロートより過酸化水素水約5mlをゆっくりと加え、ケルダール分解装置で分解した。次に、滴下ロートより過酸化水素水を1分間あたり約1.5mlの割合で約15ml連続的に滴下した。この溶液を濃縮してほとんどの過酸化水素水を追い出し、硫酸の白煙が発生した後、溶液が無色透明になった。室温まで放冷後、水50mlおよび2%過マンガン酸カリウム溶液1mlを加え、ケルダール分解装置内で過酸化水素を分解すると同時に酸化し、酸化マンガンの褐色沈殿が生成した後、約10分間加熱を続け、10%亜硫酸ナトリウム溶液を滴下して還元した。室温まで放冷後、ブロムフェノールブルー指示薬を数滴加え、14%アンモニア水で中和した。この溶液を200mlメスフラスコに移し、水で定溶した。この溶液50mlをホールピペットで分液ロートに分取した。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n−ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。あらかじめ作成した検量線よりリンの含有量を求めた。
なお、本試験と平行して空試験を行った。
【0043】
無機リン化合物のリン含有量(重量%)=
(検量線より求めたリン含有量(g)/試料採取量(g))×希釈倍率×100
有機リン化合物のリン含有量(重量%)=
(検量線より求めたリン含有量(g)/試料採取量(g))×希釈倍率×100
【0044】
三塩化リンのリン含有量の測定方法
1gの酸クロライドを量り採り、n−ブタノールを3mL程度加えてブチルエステルに変換した(A)。また、打ち込み量の補正基準のために、所定量のステアリン酸ブチルをn−ブタノールで220mLに定容した溶液から1mLをホールピペットを用いて10mLメスフラスコに加えた(B)。そして、(A)の溶液をn−ブタノール2mL程度で共洗いしながら(B)の10mLメスフラスコに移し、n−ブタノールで10 mLに定容した。その混合液に水を同量加え、上層をガスクロマトグラフィーで測定した。得られたピークの面積からあらかじめ作成しておいた三塩化リンの検量線を用いて、酸クロライド中の三塩化リン量を測定した後、その三塩化リン中のリン含有量を算出した(三塩化リンのリン含有量=算出値×(リン/三塩化リン))。
【0045】
副生亜リン酸のリン含有量の測定方法
無機リン化合物含有量より三塩化リンのリン含有量を除いた値を副生亜リン酸のリン含有量とした。
【0046】
(実施例1:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.0g)を除去し、反応溶液(473.0g)を得た。続いて、70℃、665Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量300g/hrでトッピング処理し、未反応の三塩化リンを除去してヤシ油脂肪酸クロライド(451.7g)を得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.04重量%であった。その後、リン含有量が0.04重量%となるように三塩化リン(0.8g)を添加してヤシ油脂肪酸クロライド(452.5g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.07重量%であった。
【0047】
(実施例2:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し1.5/3当量(130.7g)の三塩化リンを50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(58.2g)を除去し、反応溶液(472.5g)を得た。続いて、85℃、133.3×10Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量300g/hrで処理し、未反応の三塩化リンを除去してラウリン酸クロライド(451.2g)を得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.03重量%であった。その後、リン含有量が0.06重量%となるように三塩化リン(1.2g)を添加してラウリン酸クロライド(452.4g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.10重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.06重量%であった。
【0048】
(実施例3:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.8/3当量の三塩化リン(156.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.1g)を除去し、反応溶液(498.9g)を得た。続いて、60℃、266.6Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量300g/hrで処理し、未反応の三塩化リンを除去してヤシ油脂肪酸クロライド(476.4g)を得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.17重量%であった。その後、リン含有量が0.03重量%となるように三塩化リン(0.6g)を添加してヤシ油脂肪酸クロライド(477.0g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.09重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.20重量%であった。
【0049】
(実施例4:ステアリン酸クロライド)
ステアリン酸(435.0g)に対し2.0/3当量の三塩化リン(131.0g)を60〜65℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(45.0g)を除去し、反応溶液(521.0g)を得た。続いて、220℃、665Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量200g/hrで蒸留処理し、ステアリン酸クロライド(442.9g)を得た。蒸留処理後の副生亜リン酸のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)であった。その後、リン含有量が0.05重量%となるように三塩化リン(1.0g)を添加してステアリン酸クロライド(443.9g)を得た。得られたステアリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.03重量%であった。
【0050】
(実施例5:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400g)に対し1/3当量の三塩化リン(86.7g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(56.6g)を除去し、反応溶液(455.4g)を得た。続いて、140℃、665Pa伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量200g/hrで蒸留処理し、ヤシ油脂肪酸クロライド(432.0g)を得た。蒸留処理後の副生亜リン酸のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)であった。その後、リン含有量が0.05重量%となるように三塩化リン(1.0g)を添加してヤシ油脂肪酸クロライド(443.0g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.04重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.03重量%であった。
【0051】
(実施例6:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.0g)を除去し、反応溶液(473.0g)を得た。続いて、140℃、266Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量200g/hrで蒸留処理し、ヤシ油脂肪酸クロライド(452.6g)を得た。蒸留処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.01重量%であった。その後、リン含有量が0.05重量%となるように三塩化リン(1.0g)を添加してヤシ油脂肪酸クロライド(453.6g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.03重量%であった。
【0052】
(比較例1:ステアリン酸クロライド)
ステアリン酸(435.0g)に対し2.0/3当量の三塩化リン(131.0g)を60〜65℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(45.0g)を除去し、反応溶液(521.0g)を得た。合成後の副生亜リン酸のリン含有量は0.40重量%であった。得られたステアリン酸クロライド中の有機リン化合物のリン含有量は0.04重量%であり、無機リン化合物のリン含有量は0.90重量%であった。
【0053】
(比較例2:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.5g)を除去し、反応溶液(472.5g)を得た。続いて、135℃、133.3Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量100g/hrで蒸留処理し、ヤシ油脂肪酸クロライド(401.6g)を得た。蒸留処理後の副生亜リン酸のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)であった。得られたヤシ油脂肪酸クロライド中の有機リン化合物のリン含有量は0.01重量%であり、無機リン化合物のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)であった。
【0054】
(比較例3:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し2.5/3当量の三塩化リン(218.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(58.2g)を除去し、反応溶液(559.8g)を得た。続いて、65℃、133.3×10Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量300g/hrでトッピング処理し、未反応の三塩化リンを除去してラウリン酸クロライド(534.6g)を得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.40重量%であった。その後、リン含有量が0.04重量%となるように三塩化リン(1.0g)を添加してラウリン酸クロライド(535.6g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.12重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.53重量%であった。
【0055】
(比較例4:パーム核脂肪酸クロライド)
パーム核脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.0g)を除去し、パーム核脂肪酸クロライド(473.0g)を得た。続いて、80℃、200×10
2Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量100g/hrでトッピング処理し、未反応の三塩化リンを除去してパーム核脂肪酸クロライド(451.7g)得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.09重量%であった。その後、リン含有量が0.04重量%となるように三塩化リン(0.8g)を添加してパーム核脂肪酸クロライド(452.5g)を得た。得られたパーム核脂肪酸クロライドについて、有機リン化合物のリン含有量は0.22重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.13重量%であった。
【0056】
(比較例5:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の副生亜リン酸(57.0g)を除去し、ラウリン酸クロライド(473.0g)を得た。続いて、70℃、133Pa、伝熱面積が0.03m
2の薄膜蒸留機を用いて流量300g/hrでトッピング処理し、未反応の三塩化リンを除去して、ラウリン酸クロライド(451.7g)を得た。トッピング処理後の副生亜リン酸のリン含有量は0.10重量%であった。その後、リン含有量が0.22重量%となるように三塩化リン(4.5g)を添加してラウリン酸クロライド(456.2g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.09重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.28重量%であった。
【0057】
(比較例6−12)
比較例2の蒸留ヤシ脂肪酸クロライドにホスホン酸(特級、和光純薬工業製)およびドデシルリン酸(和光純薬工業製)を添加し、無機リン化合物および有機リン化合物のリン含有量を測定した。
【0058】
(脂肪酸クロライドのにごりの評価)
得られた各脂肪酸クロライドの溶液100mlガラス製サンプル瓶にいれ、25℃で外観を観察し、以下の基準で評価した。
◎: 透明
○: わずかなにごりあり
△: にごりあり
×: 沈殿あり
【0059】
(脂肪酸クロライドの色相の評価(経時安定性))
得られた各脂肪酸クロライドを100mlガラス製サンプル瓶に蓋をして、25℃及び40℃、1ヶ月保存したときの色相の変化(ΔAPHA)を評価した。
ΔAPHA=
(経時安定性試験後のAPHAの値)−(経時安定性試験前のAPHAの値)
◎: ΔAPHAが0〜29
○: ΔAPHAが30〜59
△: ΔAPHAが60〜89
×: ΔAPHAが90以上
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
表1の実施例においては、脂肪酸クロライドのにごりが少なく、経時による色相変化が抑制されている。
【0064】
比較例1では、工程2及び3を行っておらず、無機リン化合物のリン含有量が多く、沈殿物がある。
比較例2では、工程3を行っておらず、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例3では、工程1での三塩化リンの仕込み比率が高く、工程2での副生亜リン酸のリン含有量が多く、有機リン化合物のリン含有量、無機リン化合物のリン含有量が多く、沈殿物があり、経時による色相変化が大きい。
比較例4では、工程2での圧力が高く、有機リン化合物のリン含有量が多く、にごりがあり、経時による色相変化が大きい。
比較例5では、工程3での三塩化リンの添加量が多く、無機リン化合物のリン含有量が多く、沈殿物があり、経時による色相変化がある。
【0065】
比較例6〜12では、リンを蒸留によって除去した比較例2の脂肪酸クロライドに対して、無機リン化合物、有機リン化合物を外部から添加することによって、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量を調整したものである。
【0066】
そして、比較例6〜8では、有機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例9〜11では、無機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例12では、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量ともに本発明実施例と変わらないが、経時による色相変化が大きい。