特許第6551778号(P6551778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6551778蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551778
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20190722BHJP
   G01R 31/36 20190101ALI20190722BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20190722BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   G01R31/392
   G01R31/36ZHV
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H01M10/42 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-73389(P2015-73389)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-194415(P2016-194415A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】柏 雄太
(72)【発明者】
【氏名】古川 和輝
(72)【発明者】
【氏名】落合 誠二郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 隆明
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−91217(JP,A)
【文献】 特開2005−127894(JP,A)
【文献】 特開2012−13554(JP,A)
【文献】 特開2004−301595(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0322284(US,A1)
【文献】 特開2008−298786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/389
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/36
H01M 10/42
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出する検出部と、
前記検出部で検出した抵抗の対数と温度の逆数のプロットにフィッティングする二次関数を導出する式導出部と、
前記二次関数によって規定される二次曲線の形状の変化に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定する判定部と、を備える、蓄電素子の劣化判定装置。
【請求項2】
前記式導出部によって導出される二次関数は、y=ax+bx+c(a、b、cは、係数)であり、
前記判定部は、前記二次関数の係数であるa、b、cの少なくとも一つに基づいて前記蓄電素子の劣化を判定する、請求項1に記載の蓄電素子の劣化判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記係数の比であるb/a又はb/cが所定の閾値以上のときに、前記蓄電素子が劣化していると判定する、請求項2に記載の蓄電素子の劣化判定装置。
【請求項4】
蓄電素子の劣化の有無の判定に用いられる判定データを格納する記憶部と、
前記記憶部の判定データを用いて前記蓄電素子の劣化の有無を判定する判定部と、を備え、
前記判定データは、前記蓄電素子の劣化状態毎において、該蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数y=ax+bx+cが導出されたときの該蓄電素子の抵抗及び温度の組と、前記二次関数y=ax+bx+cの係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて判定された劣化状態に基づく該蓄電素子の劣化の有無と、を関係づけたものであり、
前記判定部は、判定対象の蓄電素子から検出された抵抗及び温度が含まれる前記抵抗及び温度の組を前記判定データから見つけることによって、該判定対象の蓄電素子の劣化を判定する、蓄電素子の劣化判定装置。
【請求項5】
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出する検出部と、
前記検出部で検出した抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数を導出する式導出部と、
前記二次関数に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定する判定部と、を備え
前記式導出部によって導出される二次関数は、y=ax+bx+c(a、b、cは、係数)であり、
前記判定部は、前記係数の比であるb/a又はb/cが所定の閾値以上のときに、前記蓄電素子が劣化していると判定する、蓄電素子の劣化判定装置。
【請求項6】
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出することと、
前記検出された抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数を導出することと、
前記導出された二次関数に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定することと、を備え
導出される前記二次関数は、y=ax+bx+c(a、b、cは、係数)であり、
前記判定では、前記係数の比であるb/a又はb/cが所定の閾値以上のときに、前記蓄電素子が劣化していると判定する、
蓄電素子の劣化判定方法。
【請求項7】
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出することと、
前記検出された抵抗の対数と温度の逆数とのプロットにフィッティングする二次関数を導出することと、
前記導出された二次関数によって規定される二次曲線の形状の変化に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定することと、を備える、蓄電素子の劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗から蓄電素子の容量劣化を判定できる蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二次電池の性能(容量劣化率)を診断する二次電池の性能推定方法が知られている(特許文献1参照)。この性能推定方法は、二次電池のセル筐体をハンマーで打撃し、この打撃による前記セル筐体の振動の大きさを計測し、計測された振動を示す波形を解析して前記セル筐体の共振周波数を算出し、算出された共振周波数に基づいて前記二次電池の性能(容量劣化率)を推定する。
【0003】
しかし、上記の二次電池の性能推定方法は、前記ハンマーで前記セル筐体を打撃する必要があるため、前記二次電池の性能を診断する度に、該二次電池を電源として使用している装置等から取り外す必要があり、煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−122817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、蓄電素子を電源として使用する装置等から該蓄電素子を取り外すことなく、該蓄電素子の容量劣化を判定できる蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
蓄電素子では、複数の性能劣化モード、即ち、劣化モードAと、該劣化モードAと異なる劣化モードBとが存在する。この蓄電素子において、劣化モードAから劣化モードBへ移行した場合、蓄電素子の容量劣化が急激に進行する(図5参照)。このため、早期にこの変化(劣化モードBの発現)を検知し、蓄電素子が劣化したことを使用者に通知する必要がある。
【0007】
本発明の発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を行った結果、所定の充電状態(SOC)における蓄電素子の抵抗と温度との相関関係(即ち、抵抗の温度依存性)が二次関数と近似し、且つ、蓄電素子を放置することによって劣化モードBが該蓄電素子に発現すると、前記相関関係に近似する二次関数を表す二次曲線の形状が大きく変化する(例えば、図5図7図9参照)ことを発見し、これらに基づくことで、蓄電素子の劣化を精度よく判定(即ち、所定量以上の容量劣化が生じているか否かを判定)できることを見出した。
【0008】
そこで、この知見に基づいて、前記発明者らは、所定の充電状態(SOC)における蓄電素子の抵抗と温度との相関関係(即ち、抵抗の温度依存性)に二次関数を近似させたときの、該二次関数(即ち、二次関数から得られる二次曲線の形状)に着目し、以下の構成の蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法を創作した。
【0009】
本発明に係る蓄電素子の劣化判定装置は、
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出する検出部と、
前記検出部で検出した抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数を導出する式導出部と、
前記二次関数に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定する判定部と、を備える。
【0010】
かかる構成によれば、異なる複数の温度での蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出することで、蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数が得られ、これにより、該蓄電素子において劣化モードBが発現しているか否かを精度よく判断することができる。このため、蓄電素子を電源として使用する装置等から該蓄電素子を取り外すことなく、該蓄電素子の劣化を精度よく判定することができる。
【0011】
具体的に、
前記式導出部によって導出される二次関数は、y=ax+bx+c(a、b、cは、係数)であり、
前記判定部は、前記二次関数の係数であるa、b、cの少なくとも一つに基づいて前記蓄電素子の劣化を判定してもよい。
【0012】
かかる構成によれば、判定部は、式導出部において導出された二次関数の係数に基づいて判定するため、蓄電素子の劣化を容易に且つ精度よく判定できる。
【0013】
この場合、
前記判定部は、前記係数の比であるb/a又はb/cが所定の閾値以上のときに、前記蓄電素子が劣化していると判定することが好ましい。
【0014】
このように二次関数の係数の比を求めることで、二次曲線の形状の変化がより大きく現れるため、蓄電素子の劣化をより容易に且つより精度よく判断することができる。
【0015】
また、本発明に係る蓄電素子の劣化判定装置は、
蓄電素子の劣化の有無の判定に用いられる判定データを格納する記憶部と、
前記記憶部の判定データを用いて前記蓄電素子の劣化の有無を判定する判定部と、を備え、
前記判定データは、前記蓄電素子の劣化状態毎において、該蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数y=ax+bx+cが導出されたときの該蓄電素子の抵抗及び温度の組と、前記二次関数y=ax+bx+cの係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて判定された劣化状態に基づく該蓄電素子の劣化の有無と、を関係づけたものであり、
前記判定部は、判定対象の蓄電素子から検出された抵抗及び温度が含まれる前記抵抗及び温度の組を前記判定データから見つけることによって、該判定対象の蓄電素子の劣化を判定する。
【0016】
かかる構成によれば、予め判定データ(蓄電素子の劣化状態毎において、該蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数y=ax+bx+cが導出されたときの該蓄電素子の抵抗及び温度の組と、二次関数y=ax+bx+cの係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて判定された劣化状態に基づく該蓄電素子の劣化の有無(即ち、使用に適さない程度まで劣化しているか否か)と、を関係づけたデータ)が記憶部に格納されているため、判定対象の蓄電素子から抵抗(抵抗値)と温度とを検出するだけで、該判定対象の蓄電素子の劣化状態(即ち、使用に適した状態か否か)を容易且つ確実に判定することができる。
【0017】
また、本発明に係る蓄電素子の劣化判定方法は、
所定の充電状態の蓄電素子から、異なる複数の温度での該蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出することと、
前記検出された抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数を導出することと、
前記導出された二次関数に基づいて前記蓄電素子の劣化を判定することと、を備える。
【0018】
かかる構成によれば、異なる複数の温度での蓄電素子の抵抗をそれぞれ検出することで、蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数が得られ、これにより、該蓄電素子において劣化モードBが発現しているか否かを精度よく判断することができる。このため、蓄電素子を電源として使用する装置等から該蓄電素子を取り外すことなく、該蓄電素子の劣化を精度よく判定することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明によれば、蓄電素子を電源として使用する装置等から該蓄電素子を取り外すことなく、該蓄電素子の容量劣化を判定できる蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態に係る劣化判定装置による判定対象の蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、前記蓄電素子の分解斜視図である。
図3図3は、前記蓄電素子の電極体を説明するための図である。
図4図4は、前記劣化判定装置の概略構成図である。
図5図5は、蓄電素子の容量劣化と放置期間との関係を示す図である。
図6図6は、所定のSOCの蓄電素子から検出された抵抗と温度との相関関係、及びこの相関関係に近似させた二次曲線を示す図である。
図7図7は、前記二次曲線を規定する二次関数(y=ax+bx+c)の係数aと、蓄電素子の放置期間と、の関係を示す図である。
図8図8は、前記二次関数の係数bと、蓄電素子の放置期間と、の関係を示す図である。
図9図9は、前記二次関数の係数cと、蓄電素子の放置期間と、の関係を示す図である。
図10図10は、前記二次関数の係数の比b/aと、蓄電素子の放置期間と、の関係を示す図である。
図11図11は、前記二次関数の係数の比b/cと、蓄電素子の放置期間と、の関係を示す図である。
図12図12は、前記劣化判定装置による蓄電素子の劣化判定のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図1図12を参照しつつ説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
本実施形態の蓄電素子の劣化判定装置(以下、単に「判定装置」と称する。)は、例えば、エンジンとモータとによって駆動されるハイブリッド車両に搭載され、該ハイブリッド車両に搭載された蓄電素子の容量劣化を判定する。以下では、先ず、判定装置による容量劣化の判定対象である蓄電素子について説明する。
【0023】
蓄電素子は、図1図3に示すように、正極123及び負極124を含む電極体102と、電極体102を収容するケース103と、ケース103の外側に配置される外部端子104と、を備える。また、蓄電素子100は、電極体102と外部端子104とを導通させる集電体105等も有する。
【0024】
電極体102は、巻芯121と、互いに絶縁された状態で巻芯121の周囲に巻回された正極123と負極124と、を備える。電極体102においてリチウムイオンが正極123と負極124との間を移動することにより、蓄電素子100が充放電する。
【0025】
正極123は、金属箔と、金属箔の上に形成された正極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。
【0026】
負極124は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、銅箔である。
【0027】
本実施形態の電極体102では、以上のように構成される正極123と負極124とがセパレータ125によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体102では、正極123、負極124、及びセパレータ125が積層された状態で巻回される。セパレータ125は、絶縁性を有する部材である。セパレータ125は、正極123と負極124との間に配置される。これにより、電極体102において、正極123と負極124とが互いに絶縁される。また、セパレータ125は、ケース103内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子100の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ125を挟んで交互に積層される正極123と負極124との間を移動する。
【0028】
ケース103は、開口を有するケース本体131と、ケース本体131の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板132と、を有する。このケース103は、ケース本体131の開口周縁部136と、蓋板132の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。このケース103は、ケース本体131と蓋板132とによって画定される内部空間を有する。そして、ケース103は、電極体102及び集電体105等と共に、電解液を内部空間に収容する。
【0029】
ケース本体131は、矩形板状の閉塞部134と、閉塞部134の周縁に接続される角筒形状の胴部135とを備える。即ち、ケース本体131は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有している。
【0030】
蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板132は、ケース本体131の開口周縁部136に対応した輪郭形状を有する。即ち、蓋板132は、矩形状の板材である。この蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐように、蓋板132の周縁部がケース本体131の開口周縁部136に重ねられる。以下では、図1に示すように、蓋板132の長辺方向を直交座標におけるX軸方向とし、蓋板132の短辺方向を直交座標におけるY軸方向とし、蓋板132の法線方向を直交座標におけるZ軸方向とする。
【0031】
外部端子104は、他の蓄電素子の外部端子又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子104は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子104は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0032】
集電体105は、ケース103内に配置され、電極体102と通電可能に直接又は間接に接続される。この集電体105は、導電性を有する部材によって形成され、ケース103の内面に沿って配置される。
【0033】
蓄電素子100は、電極体102とケース103とを絶縁する絶縁部材106等を備える。本実施形態の絶縁部材106は、袋状である。この絶縁部材106は、ケース103(詳しくはケース本体131)と電極体102との間に配置される。本実施形態の絶縁部材106は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂によって形成される。
【0034】
次に、蓄電素子100の容量劣化を判定する判定装置について、図4図12も参照しつつ説明する。
【0035】
判定装置は、図4に示すように、所定のSOC(充電状態)の蓄電素子100から、異なる複数の温度での該蓄電素子100の抵抗をそれぞれ検出する検出部2と、検出部2で検出した抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数を導出する式導出部3と、式導出部3で導出された二次関数に基づいて蓄電素子100の劣化を判定する判定部4と、を備える。また、判定装置1は、判定部4での判定結果を外部に出力する出力部5等も備える。本実施形態の判定装置1は、ハイブリッド車両に搭載された複数の蓄電素子100のそれぞれの容量劣化の判定を行う。尚、判定装置1は、検出部2を備えず、他の目的で設置されている計測器等から、前記抵抗及び前記温度を取得する構成であってもよい。
【0036】
検出部2は、所定のSOCの蓄電素子100に対して該蓄電素子100の抵抗を検出する抵抗検出部21と、前記蓄電素子100の温度を検出する温度検出部22と、を有する。抵抗検出部21と温度検出部22とは、蓄電素子100の抵抗と温度とを同じタイミングで検出する。温度検出部22は、蓄電素子100のケース103の一部(例えば、蓋板132、閉塞部134、胴部135の長側面又は短側面等)の温度を検出する。本実施形態の抵抗検出部21及び温度検出部22は、複数の蓄電素子100のそれぞれに対して設けられている。尚、温度検出部22は、複数の蓄電素子100のうちの一部の蓄電素子100の温度を測定する構成でもよい。
【0037】
具体的に、抵抗検出部21は、所定のSOCの蓄電素子100に対し、時間間隔をあけて複数回、抵抗を検出する。本実施形態の抵抗検出部21は、蓄電素子100に生じる電流値及び各蓄電素子100の電圧値から、オームの法則に基づいて抵抗(抵抗値)を算出する。つまり、本実施形態の抵抗検出部21は、一つの電流計211と、蓄電素子100の数に対応した電圧計212と、を有する。また、温度検出部22は、抵抗検出部21と同じタイミングで、蓄電素子100の温度を検出する。このとき、異なる複数の温度での抵抗を検出するために、蓄電素子100の温度を変化させる。この蓄電素子100の温度の変化は、判定装置1に蓄電素子100の温度を変化させる構成を設けてもよく、他の装置等を用いてもよい。尚、検出部2は、温度検出部22が蓄電素子100の温度を検出し続け、蓄電素子100が異なる複数の温度のときに抵抗検出部21が抵抗をそれぞれ検出する構成であってもよい。
【0038】
抵抗検出部21は、検出した抵抗(抵抗値)を抵抗信号として式導出部3に出力する。また、温度検出部22は、検出した蓄電素子100の温度、詳しくは、抵抗検出部21によって電流が検出されたときの蓄電素子100の温度を温度信号として式導出部3に出力する。
【0039】
式導出部3は、所定のSOCの蓄電素子100から検出される抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数:y=ax+bx+c(a、b、cは係数)を導出する。この式導出部3は、抵抗検出部21及び温度検出部22からの抵抗信号と温度信号とに基づいて二次関数(y=ax+bx+c)を導出する。本実施形態の式導出部3は、例えば、蓄電素子100から検出された複数の抵抗と各抵抗に対応する温度との関係をプロットしたグラフに近似する二次曲線を定め(図6参照)、この二次曲線を規定する二次関数(y=ax+bx+c)を導出する。そして、式導出部3は、導出した二次関数(y=ax+bx+c)を関数信号として判定部4に出力する。
【0040】
判定部4は、二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて蓄電素子100の劣化を判定する。本実施形態の判定部4は、蓄電素子100の容量劣化を判定する。この判定部4は、式導出部3からの関数信号に基づき蓄電素子100の劣化を判定する。具体的に、判定部4は、二次関数の係数の比b/a又はb/cに基づいて蓄電素子100の劣化を判定する。本実施形態の判定部4は、例えば、二次関数の係数の比b/aが所定の閾値(本実施形態の例では、−5.7)以上のときに、蓄電素子100が劣化していると判定する。一方、判定部4は、二次関数の係数の比b/aが閾値より小さいときに、蓄電素子100が劣化していないと判定する。この判定の具体的な原理(理由)は、以下の通りである。
【0041】
蓄電素子100には、複数の劣化モード、即ち、劣化モードAと、該劣化モードAと異なる劣化モードBとがある。この蓄電素子100において、該蓄電素子100の劣化が大きくなると、通常の使用時における劣化モード(劣化モードA)とは異なる劣化モードBが発現するため、該蓄電素子100の劣化が急速に進む(図5参照)。
【0042】
この蓄電素子100を長期間放置している場合において、該蓄電素子100劣化モードAとは異なる劣化モードBが発現すると、所定のSOCの蓄電素子100から得られた抵抗と温度との相関関係に基づき導出した二次関数(前記抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数(y=ax+bx+c):図6参照)の係数a、b、cも、それぞれ急激に変化する(図7図9参照)、換言すると、二次関数(y=ax+bx+c)によって規定される二次曲線の形状が大きく変化する。このため、図7図9における係数a、b、cの変化率(図7図9におけるグラフの傾き)や、係数a、b、cが所定の閾値を超えたか否かによって、蓄電素子100において劣化モードBが発現しているか否かを容易に判断することができる。
【0043】
また、図7図9に示すように、二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cのそれぞれが、蓄電素子100において劣化モードBが発現した後、急激に変化するため、これらの比(係数の比)b/a又はb/cでは、図10及び図11に示すように、劣化モードBが発現した後の変化がより大きくなる。従って、この二次関数(y=ax+bx+c)の係数の比b/a又はb/cを用いることで、蓄電素子100における劣化モードBの発現の有無を、より精度よく且つ確実に判断することができる。
【0044】
このようにして蓄電素子100の劣化(容量劣化)を判定した判定部4は、判定結果を結果信号として出力部5に出力する。
【0045】
出力部5は、判定部4からの結果信号に基づいて判定部4での判定結果を外部に出力する。本実施形態の出力部5は、モニター等の表示装置であり、蓄電素子100が劣化しているか否かを表示する。尚、出力部5は、画像によって判定結果を外部に出力する構成に限定されず、蓄電素子100が劣化していると判定されたときにブザー等の警告音を出力するスピーカー等の音出力装置でもよく、文字等をプリントアウトするプリンター等の文字出力装置等でもよい。また、出力部5は、例えば、画像及び音によって判定部4の判定結果を出力する等、複数の出力方法を有する構成でもよい。
【0046】
次に、判定装置1による蓄電素子100の劣化の判定について、図12も参照しつつ説明する。
【0047】
蓄電素子100が所定のSOCのときに、検出部2によって複数の温度での蓄電素子100の抵抗を検出し(ステップS1)、検出結果を式導出部3に出力する。本実施形態の判定装置1は、例えば、SOC50%未満の所定のSOC(低SOC)のときに、蓄電素子100の抵抗と温度とを検出する。
【0048】
検出部2によって複数の温度での蓄電素子100の抵抗が検出されると、式導出部3が、検出された抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数(y=ax+bx+c:a、b、cは係数)を導出し(ステップS2)、導出結果を判定部4に出力する。
【0049】
続いて、判定部4が、式導出部3によって導出された二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cに基づいて蓄電素子100が劣化しているか否かを判定する。本実施形態の判定部4は、係数の比b/aが閾値(本実施形態の例では、−5.7)以上か否かによって、蓄電素子100の容量劣化を判定し(ステップS3)、判定結果を出力部5に出力する。具体的に、判定部4は、係数の比b/aが閾値以上のときに、蓄電素子100の容量劣化が該蓄電素子100の使用に適しない状態まで進行していると判断して、蓄電素子100が劣化しているとの判定結果を出力部5に出力する。一方、判定部4は、係数の比b/aが閾値より小さいときに、蓄電素子100の容量劣化が該蓄電素子100の使用に適しない状態まで進行していないと判断し、蓄電素子100が劣化していないとの判定結果を出力部5に出力する。
【0050】
出力部5は、判定部4による判定結果を画像として表示(外部に出力)する(ステップS4)。この表示に基づいて、運転手等は、蓄電素子100の使用を続けるか、蓄電素子を交換するかを判断する。
【0051】
以上の蓄電素子の劣化判定装置1及び劣化判定方法によれば、異なる複数の温度での蓄電素子100の抵抗をそれぞれ検出することで、蓄電素子100の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数(y=ax+bx+c:a、b、cは係数)が得られ、これにより、該蓄電素子100において劣化モードBが発現しているか否かを精度よく判断することができる。このため、蓄電素子100を電源として使用するハイブリッド車両等の装置から該蓄電素子100を取り外すことなく、該蓄電素子100の劣化を精度よく判定することができる。
【0052】
また、上記実施形態の判定装置1では、判定部4は、式導出部3において導出された二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cに基づいて判定するため、蓄電素子100の劣化を容易に且つ精度よく判定できる。
【0053】
しかも、判定部4は、二次曲線の形状の変化がより大きく現れる係数の比b/aを用いることで(具体的には、係数の比b/aと閾値(−5.7)とを比較することで)蓄電素子100の劣化を判定しているため、蓄電素子100の劣化をより容易に且つより精度よく判断することができる。
【0054】
尚、本発明の蓄電素子の劣化判定装置及び劣化判定方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0055】
上記実施形態の劣化判定装置1では、判定部4は、二次関数(y=ax+bx+c)の係数の比b/aと閾値(上記実施形態の例では−5.7)との比較によって蓄電素子100の劣化を判定しているが、この構成に限定されない。劣化モードBが蓄電素子100に現れると、二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cが大きく変化する(即ち、二次関数(y=ax+bx+c)によって規定される二次曲線の形状が大きく変化する:図7図9参照)ため、判定部4は、二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cのうちの少なくとも一つに基づいて判定すればよい。
【0056】
また、図10及び図11に示すように、係数の比b/cも、係数の比b/aと同様に蓄電素子100において劣化モードBが発現して以降に急激に変化するため、判定部4は、係数の比b/cを劣化の判定に用いる構成でもよい。
【0057】
また、劣化判定装置1が搭載(配置)される装置等は、ハイブリッド車両に限定されない。劣化判定装置1が搭載(配置)される装置等は、蓄電素子100を充放電可能に搭載(配置)しているものであればよい。また、劣化判定装置1は、前記装置等に搭載されずに、単独で使用される構成であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態の劣化判定装置1では、二次関数(y=ax+bx+c)を導出し、その係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて蓄電素子100の劣化を判定しているが、この構成に限定されない。例えば、劣化判定装置1は、マップ、テーブル等の判定データを記憶部(ハードディスク、メモリ等)に格納しておき、この判定データに基づいて蓄電素子100の劣化(使用に適するか否か)を判定する構成であってもよい。
【0059】
例えば具体的に、劣化判定装置は、蓄電素子の劣化の有無の判定に用いられる判定データを格納する記憶部と、前記記憶部の判定データを用いて前記蓄電素子の劣化の有無を判定する判定部と、を備える。この劣化判定装置において、記憶部に格納されている判定データは、蓄電素子の劣化状態毎において、該蓄電素子の抵抗と温度との相関関係に近似させた二次関数(y=ax+bx+c)が導出されたときの該蓄電素子の抵抗及び温度の組と、二次関数(y=ax+bx+c)の係数a、b、cの少なくとも一つに基づいて判定された劣化状態に基づく該蓄電素子の使用の可否と、を関係づけたものである。そして、判定部は、判定対象の蓄電素子100から検出された抵抗及び温度が含まれる前記抵抗及び温度の組を記憶部に格納されている判定データから見つけ、この抵抗及び温度の組に対応する蓄電素子の劣化の有無から、判定対象の蓄電素子100の劣化の有無を判定する。
【0060】
かかる構成によれば、予め判定データが記憶部に格納されているため、判定対象の蓄電素子から抵抗(抵抗値)と温度とを検出するだけで、該判定対象の蓄電素子の劣化状態(即ち、使用に適した状態か否か)を容易且つ確実に判定することができる。
【0061】
また、劣化判定装置は、例えば、蓄電素子100(又は蓄電素子100を備えた蓄電装置)と共に車両等に搭載される場合に蓄電素子(判定対象の蓄電素子)100が劣化していると判定すると、蓄電素子100がそれ以上劣化しないように、蓄電素子100の動作条件を変更(限定)等する構成であってもよい。詳しくは、劣化判定装置は、蓄電素子100が劣化していく方向に進みつつある(蓄電素子100内において(起こって欲しくない)化学反応が進行する)と判断したときに、それを回避するように蓄電素子100の動作条件を変更(限定)する。また、劣化判定装置は、前記劣化していく方向に進みつつあると判断したときに、ユーザー、ディーラー等に連絡する(或いは、車両メーカーのデータセンター等にデータ送信する)構成であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…劣化判定装置、2…検出部、21…抵抗検出部、211…電流計、212…電圧計、22…温度検出部、3…式導出部、4…判定部、5…出力部、100…蓄電素子、102…電極体、103…ケース、104…外部端子、105…集電体、106…絶縁部材、121…巻芯、123…正極、124…負極、125…セパレータ、131…ケース本体、132…蓋板、134…閉塞部、135…胴部、136…開口周縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12