(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、HBV及びHPVなどのウイルスのDNAの組み込みはランダムに生じるものであるため、ウイルスのヒトゲノム組み込み部位による発癌への影響に関しては未だ不明である。断片化したヒトゲノムをシークエンス解析し、ウイルスDNAの組み込み部位を特定しようとした場合、大量の解析不能配列の中に、組み込まれたウイルス配列が埋もれてしまい、ウイルスのヒトゲノム組み込み部位を特定することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、HBVの全ジェノタイプの配列をもとにプライマーライブラリーを作成し、HBVのDNAの組み込み部位に関する研究を行った結果、HBVのDNAの組み込みは確かにランダムに生じるものであるが、ヒトゲノムにおける組み込み部位の相違によってHBVが関連する疾患の重篤度が異なるという知見を得た。より具体的には、メチル化頻度の高いヒトゲノムの領域にHBVのDNAが組み込まれた場合、組み込まれたHBVのDNAのメチル化頻度も高くなり、それによってHBVのDNAの発現が抑制され、HBVが関連する疾患の重篤度が低かった。一方、メチル化頻度の低いヒトゲノムの領域にHBVのDNAが組み込まれた場合、組み込まれたHBVのDNAのメチル化頻度も低くなり、それによってHBVのDNAの発現が十分抑制されず、HBVが関連する疾患の重篤度が高かった。また、本発明者らは、HPVについても同様の方法により、HPVのDNAの組み込み部位を特定できることを確認した。本発明者らは、この知見をウイルス関連疾患の診断に利用できると考え、本発明を完成するに至った。
【0006】
第一に、本発明は、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する方法を提供する。先に述べたように、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込みはランダムに生じるため、診断に先立って宿主ごとの組み込み位置を決定する必要がある。かかる方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全核酸領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)宿主ゲノムを断片化する工程
c)宿主ゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)宿主ゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)宿主ゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された宿主ゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する工程
を含む。
【0007】
次に、本発明は、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおけるDNAメチル化頻度を測定する方法を提供する。ウイルス核酸が組み込まれた宿主ゲノムの領域のDNAメチル化頻度を測定することで、組み込まれたウイルス核酸がDNAメチル化を受けやすいかどうかを判断することができる。かかる方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全核酸領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)宿主ゲノムを断片化する工程
c)宿主ゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)宿主ゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)宿主ゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された宿主ゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する工程
h)ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおいてDNAメチル化頻度を測定する工程
を含む。
【0008】
さらに、本発明は、ウイルスに感染した患者におけるウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクの指標を得る方法を提供する。この指標を利用して、ウイルス関連疾患の診断を行うことができる。かかる方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全DNA領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)患者のゲノムを断片化する工程
c)患者のゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)患者のゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)患者のゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された患者のゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の患者のゲノムへの組み込み部位を決定する工程
h)ウイルス核酸の患者のゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおいてDNAメチル化頻度を測定する工程
を含み、
DNAメチル化頻度をウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクの指標とする。
【0009】
別の態様では、本発明は、上記方法に利用可能なプライマーライブラリーを提供する。かかるプライマーライブラリーは、ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなり、プライマーライブラリーはウイルスの全核酸領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるウイルスDNAの宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する方法は、ウイルス関連疾患の診断方法として利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の対象となるウイルスは、DNAウイルスでもRNAウイルスでもよい。DNAウイルスとしては、例えば、HBV、HPV、ヒトヘルペスウイルス(HHV)が挙げられ、RNAウイルスとしては、例えば、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV、特にHTLV−1)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのレトロウイルスやC型肝炎ウイルス(HCV)が挙げられる。
【0013】
本発明の対象となる宿主及び患者は、ウイルスが感染してウイルス核酸がゲノムに組み込まれる限り特に制限されない。宿主及び患者は、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが最も好ましい。宿主及び患者はイヌ及びネコなどのペットでもよく、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ及びニワトリなどの家畜でもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全核酸領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)宿主ゲノムを断片化する工程
c)宿主ゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)宿主ゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)宿主ゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された宿主ゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する工程
を含む。
【0015】
工程aでは、ウイルスのゲノム配列に基づいて、宿主に組み込まれたウイルス核酸を釣るためのプライマー(ベイト)を設計及び合成する。各プライマーは100〜140mer、好ましくは110〜130mer、最も好ましくは約120merの核酸である。核酸はDNAでもRNAでもよい。各プライマーは標識されており、この標識により後の工程でウイルス核酸が組み込まれた宿主ゲノムの断片化DNAを回収することが可能となる。標識は、例えばビオチンを用いることが可能である。プライマーの集合体であるプライマーライブラリーが、ウイルスの全核酸領域をカバーできるように、各プライマーを設計する。このようにすることで、組み込み部位を確実に決定できるようにすることが可能となる。ウイルスが複数の遺伝子型を有する場合、すべての遺伝子型の核酸領域をカバーできるようにプライマーを設計してもよい。例えば、HBVは、遺伝子型A〜Jまで存在することが知られており(具体的には、表1に記載の遺伝子型が知られている)、これらすべての遺伝子型をカバーできるようなプライマーライブラリーを準備することができる。プライマーの設計に際しては、ウイルスの遺伝子データベースに開示されている遺伝子配列情報をもとに、市販のソフトウェアを利用することが可能である。
【0017】
また、ウイルスが複数の遺伝子型を有する場合、一又は複数の所定の遺伝子型の核酸領域をカバーできるようにプライマーを設計してもよい。所定の遺伝子型は、地域、人種、疾患の種類、疾患のリスクの高さなどを基準に、当業者が適宜選択することが可能である。例えば、日本では、A,B及びC型のHBVの感染が多いことが知られているため、日本でのHBVの診断を目的とする場合は、A,B及びC型のHBVの核酸領域をカバーできるプライマーを設計してよい。また、HPVのうち16,18,31,33,35,39,45,51,55,56,58,59,66、68型などが高リスクであることが知られているため、HPVの高リスクの患者を診断する目的の場合は、これらの型のHPVの核酸領域をカバーできるプライマーを設計してよい。さらに、子宮頸癌は主として16及び18型のHPVが原因であることが知られているため、子宮頸癌の診断を目的とする場合は、16及び18型のHPVの核酸領域をカバーできるプライマーを設計してよい。また、尖圭コンジロームは主として6及び11型のHPVが原因であることが知られているため、尖圭コンジロームの診断を目的とする場合は、6及び11型のHPVの核酸領域をカバーできるプライマーを設計してよい。
【0018】
工程bでは、宿主から採取した試料からゲノムを適切な長さに切断し、配列決定を行いやすくする。断片化は、例えば、超音波処理、制限酵素処理などを利用することが可能である。100〜1000bpの長さのDNA断片とすることが好ましい。
【0019】
工程cでは、工程bで得られた宿主ゲノムの断片化DNAを増幅する。PCRなどの周知の核酸増幅技術を利用することが可能である。
【0020】
工程dでは、工程cで得られた増幅後の宿主ゲノムの断片化DNAと工程aで準備したプライマーライブラリーを混ぜることで、両者のハイブリッド形成を行う。ハイブリダイズの条件は、Green et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, FourthEdition", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012等を参照の上、当業者が適宜設定することが可能である。
【0021】
工程eでは、工程dで得たハイブリッドを回収し、ハイブリッド形成しなかった宿主ゲノムの断片化DNAを除去する。例えば、プライマーがビオチン標識されている場合、ストレプトアビジンが結合した磁性ビーズを混ぜ、磁力を利用して磁性ビーズを回収することで、ハイブリッドを選択的に回収することが可能である。
【0022】
工程fでは、工程eで回収したハイブリッドからプライマーを除去し、ウイルス核酸が組み込まれた宿主ゲノムの断片化DNAを得る。ハイブリッド形成が生じない条件下で、磁力を利用して磁性ビーズを回収することで、ビオチン標識されたプライマーのみを除去することが可能である。
【0023】
工程gでは、工程fで得たウイルス核酸が組み込まれた宿主ゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ゲノムアセンブリを行うことで、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する。
【0024】
かかる方法は、Agilent’s SureSelect Target Enrichment System(登録商標)を利用して行うことも可能である。
【0025】
本発明の一実施形態において、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおけるDNAメチル化頻度を測定する方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全核酸領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)宿主ゲノムを断片化する工程
c)宿主ゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)宿主ゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)宿主ゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された宿主ゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する工程
h)ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおいてDNAメチル化頻度を測定する工程
を含む。
【0026】
工程a〜工程gは、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位を決定する方法で説明した通りである。
【0027】
工程hは、工程gで決定されたウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、ウイルス核酸の組み込みが生じていないアレルにおいてDNAメチル化頻度を測定する。この測定には、重亜硫酸塩処理−パイロシーケンス法とアレル特異的PCRとを組み合わせたアレル特異的DNAメチル化分析を利用することが可能である。
【0028】
本発明の一実施形態において、ウイルスに感染した患者におけるウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクの指標を得る方法は、
a)ウイルス核酸とハイブリダイズするプライマーからなるプライマーライブラリーを準備する工程であって、プライマーライブラリーはウイルスの全DNA領域をカバーするものであり、プライマーは標識されている、工程
b)患者のゲノムを断片化する工程
c)患者のゲノムの断片化DNAを増幅する工程
d)患者のゲノムの断片化DNAとプライマーをハイブリダイズする工程
e)患者のゲノムの断片化DNA及びプライマーのハイブリッドを回収する工程
f)回収したハイブリッドからプライマーを除去する工程
g)プライマーが除去された患者のゲノムの断片化DNAの配列決定を行い、ウイルス核酸の患者のゲノムへの組み込み部位を決定する工程
h)ウイルス核酸の患者のゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおいてDNAメチル化頻度を測定する工程
を含み、
DNAメチル化頻度をウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクの指標とする。
【0029】
工程a〜工程hは、宿主を患者に置き換えた点以外は、ウイルス核酸の宿主ゲノムへの組み込み部位に対応する、非組み込みアレルにおけるDNAメチル化頻度を測定する方法で説明した通りである。
【0030】
非組み込みアレルにおけるDNAメチル化頻度を測定することで、組み込まれたウイルス核酸がDNAメチル化を受けやすいか否かを予測することが可能となり、組み込まれたウイルス核酸が発現し易いか否か、ひいてはウイルス関連疾患の発症又は重症化につながるか否かを予測することが可能となる。DNAメチル化頻度の高い領域に組み込まれたウイルス核酸は、その後DNAメチル化を受けやすくなり、ウイルス核酸の発現が抑制されることとなり、ウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクが低いと判断できる。逆に、DNAメチル化頻度の低い領域にウイルス核酸が組み込まれると、ウイルス関連疾患の発症又は重症化のリスクが高いと判断できる。
【0031】
ここで、ウイルス関連疾患とは、ウイルスの種類に応じて異なる。例えば、ウイルスがHBV及びHCVの場合は、代表的な疾患は肝炎、肝硬変及び肝細胞癌であり、ウイルスがHPVの場合は、代表的な疾患は尖圭コンジローマ及び子宮頚癌であり、ウイルスがHTLVの場合は、代表的な疾患は成人T細胞白血病であり、ウイルスがHIVの場合は、代表的な疾患は後天性免疫不全症候群であり、ウイルスがHHV6の場合は、代表的な疾患は突発性発疹である。
【実施例】
【0032】
実施例1:HBV−HCC組織における腫瘍関連遺伝子のCpGアイランドのDNAメチル化頻度の測定
メチル化CpGアイランド(CGI)増幅マイクロアレイ(MCAM)分析を行って、HBV抗原陽性のヒト肝細胞癌由来であるPLC/PRF/5(別名Alexander)細胞株及び一次HCC試料(HBV陽性がn=4、HCV陽性がn=5)におけるメチル化遺伝子の選別を行った。健常ボランティアの末梢血リンパ球(PBL)混合物又は近接非腫瘍試料のCGIのDNAメチル化状態と比較して、PLC/PRF/5細胞株及びHBV−HCC試料では、顕著なDNAメチル化の頻度は少なかった。重亜硫酸塩処理−パイロシーケンス法でも、PLC/PRF/5細胞株及びHBV−HCC試料において、候補遺伝子のメチル化頻度は高くなかった。
【0033】
これらの結果は、腫瘍関連遺伝子のプロモーターCGIは、HCV−HCCと比較して、HBV−HCCでは通常メチル化していないことを示唆している。
【0034】
実施例2:HBVのX遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化
HBVのX遺伝子プロモーターのDNAメチル化レベルを、重亜硫酸塩処理−パイロシーケンス法により、16のHBV−HCC試料、15の近接非腫瘍試料及びPLC/PRF/5細胞株について分析した。結果を
図1に示す。ほとんどのHBVゲノムにおいて、前がん病変よりもメチル化しているものの、非メチル化状態のHB−XをコードするHBV遺伝子を保有していた。
【0035】
さらに、組み込まれた染色体に基づいて、X遺伝子のDNAメチル化レベルを調べた。結果を
図2に示す。驚いたことに、組み込まれたX遺伝子のDNAメチル化レベルは、組み込まれた染色体によって異なっていた。これらの結果は、組み込み部位に依存してHBVのメチル化の広がりに関して何らかの規則があることを示唆している。
【0036】
X遺伝子プロモーターのメチル化レベルとLINE−1及びAluリピートのメチル化レベルとの関係についても調べたが、両者には何の関係も見出せなかった。
【0037】
実施例3:HBV組み込みのFISH分析
PLC/PRF/5細胞株にHBVが存在することを確かめるために、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)を行った。PLC/PRF/5細胞株において、HBV配列がヒトゲノムに組み込まれていることを確認した。
【0038】
実施例4:Alu−PCR及びNGSによるHBV DNA組み込み部位配列の分析
Alu−PCRにより、PLC/PRF/5細胞株におけるHBV DNA組み込み部位の分析を行った。しかしながら、一つのHBV DNA組み込み部位配列の増幅しかできなかった。そこで、HBV DNA組み込み部位配列のための、次世代シーケンサー(NGS)分析を開発した。Agilent’s SureSelect Target Enrichment System(登録商標)はNGSを最適化するための高度に効率的なハイブリッド選択技術である。本発明者らは、このシステム及びHBVの遺伝子型AからJのDNA配列をカバーする12391個のカスタムベイトを利用し、FLXチタニウムNGSシステム(ロシュ)に実験を最適化した。2つの細胞株及び4つの対臨床試料において、断片化したHBV配列の組み込みを特徴づけることができた。平均読み込み長さは333.14であった。PLC/PRF/5細胞株における、HBVのDNAの組み込み部位を特定した結果の一例を
図3に示し、HBV−VCCの臨床試料における、HBVのDNAの組み込み部位を特定した結果の一例を
図4に示す。PLC/PRF/5細胞株の場合、組み込みが起きたのは、インタージェニック(40%)、イントロン(40%)、プロモーター(7%)、双方向性プロモーター(13%)及びエクソン(0%)であった。DNA組み込みパターンはHBV−HCCの臨床試料と酷似しているため、PLC/PRF/5細胞株は、肝細胞癌発症におけるHBVの役割を明らかにするのに役立つモデルシステムであると考えられる。
【0039】
実施例5:PLC/PRF/5細胞株における組み込まれたHBVのDNAメチル化
ディープ重亜硫酸塩処理−パイロシーケンス法により、組み込まれたHBVのDNAメチル化を分析した。ヒトゲノムに組み込まれたHBV配列は低メチル化及び高メチル化の両方があることを見出した。共通したHBV組み込み部位は存在しなかった。一方、メチル化の広がりには何らかの規則がありそうであった。そこで、アレル特異的DNAメチル化分析により、HBVゲノムのメチル化状態をさらに決定した。結果を
図5に示す。最も重要なことに、メチル化されたヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは顕著なメチル化を受けているのに対して、非メチル化ヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは非メチル化のままであった。一方、HBVのメチル化パターンとヒトゲノムのヒストン修飾とは何の相関もなかった。
【0040】
実施例6:HepG2.2.15細胞株における組み込まれたHBVのDNAメチル化
HBV抗原陰性のヒト肝癌株であるHepG2にHBV DNAをトランスフェクトしたHepG2.2.15細胞株について、組み込まれたHBVのDNAメチル化を分析した。PLC/PRF/5細胞株の結果と同様に、メチル化されたヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは顕著なメチル化を受けているのに対して、非メチル化ヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは非メチル化のままであった。HepG2.2.15細胞株は、マルチコピーのHBV DNAが安定的にトランスフェクトされた細胞株であるため、自然のHBV感染を模したものである。そうであっても、HBVの組み込みとヒト及びHBVの両方のエピゲノムとの関連は、臨床試料においてさらに調べる必要がある。
【0041】
実施例7:HBV−HCC組織における組み込まれたHBVのDNAメチル化
上記のインビトロの結果が、実際のヒト腫瘍と関連しているのかを決定するため、HCC及び近接非腫瘍組織からなる外科検体対におけるHBV及びヒトのゲノムメチル化状態を調べた。結果を
図6に示す。PLC/PRF/5細胞株及びHepG2.2.15細胞株の結果と同様に、メチル化されたヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは顕著なメチル化を受けているのに対して、非メチル化ヒトゲノムに組み込まれた場合、HBVゲノムは非メチル化のままであった。
【0042】
実施例8:NGSによるHPV DNA組み込み部位配列の分析
実施例4と同様に、Agilent’s SureSelect Target Enrichment System(登録商標)と、HPV−16のDNAをカバーする391個及びHPV−18のDNA配列をカバーする397個の計788個のカスタムベイトを利用し、FLXチタニウムNGSシステム(ロシュ)に実験を最適化した。HPV抗原陽性のヒト子宮頚癌由来であるHeLa、SiHa、SKG−I、SKG−II及びSKG−IIIaの5つの細胞株全てにおいて、断片化したHPV配列の組み込みを特徴づけることができた。平均読み込み長さは350.93であった。HeLa、SiHa、SKG−I、SKG−II及びSKG−IIIa細胞株における、HPVのDNAの組み込み部位を特定した結果の一例を
図7に示す。