(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ペリクルフレーム
本発明のペリクルフレームは、フレームと、当該フレームの表面に形成された、ポリイミド樹脂を含む電着塗装膜とを有する。
【0015】
前述のように、ペリクルフレームの表面に陽極酸化皮膜が形成されていると、陽極酸化処理時に付着したイオンが溶出して異物となったり、アウトガスとなったりしやすく、マスクやペリクル膜が汚染されやすかった。また、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等からなる電着塗装膜では、膜強度や耐熱性、耐光性が十分ではなく、劣化しやすいとの課題があった。
【0016】
これに対し、本発明のペリクルフレームは、表面にポリイミド樹脂を含む電着塗装膜を有する。ポリイミド樹脂は、光や熱に対する耐性が非常に高く、例えばエキシマ光等によっても分解され難い。また、当該電着塗装膜は、金属製のフレームと密着性が非常に高い。したがって、ペリクルと露光用マスクとを貼り合わせる際や、ペリクルの輸送の際に、電着塗装膜がフレームから剥離し難い。さらに、フレームが陽極酸化処理されていたとしても、電着塗装膜によって、イオン溶出を抑制することができる。したがって、当該ペリクルフレームを有するペリクルは、各種露光用マスクの保護部材として、非常に有用である。以下、本発明のペリクルフレームの電着塗装膜、及びフレームについて説明する。
【0017】
1−1.フレーム
本発明のペリクルフレームのフレームの形状は、ペリクルと貼り合わせるマスクの形状に合わせて適宜選択される。フレームの材質は、表面に電着塗装膜を形成可能な金属であれば特に制限されず、その例には、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン、真鍮、鉄、ステンレス等が含まれる。中でもアルミニウム合金が、重量、加工性、耐久性、電着塗装膜の形成容易性等の観点から好ましい。
【0018】
ここで、フレームは、プラズマ処理や粗面化処理、サンドブラスト処理、ショットブラスト処理等により、表面処理されていてもよい。これらの処理によれば、表面に付着した異物や油成分が除去される。したがって、フレームにこのような表面処理が施されていると、フレームと電着塗装膜との密着性が高まりやすい。また、上記処理によってフレーム表面が粗面化されると、ペリクルフレームの表面が艶消しされやすくなり、ペリクルフレーム表面に付着した異物を検出しやすくなる。
【0019】
また、フレームは、陽極酸化処理によって形成された陽極酸化皮膜を有することが、ペリクルフレームの化学的安定性等の観点から好ましい。フレームの陽極酸化処理方法は特に制限されず、硫酸や、リン酸、硝酸、酒石酸等を用いた公知の陽極酸化処理方法を適用できる。本発明のペリクルフレームでは、フレーム表面に後述の電着塗装膜を有することから、フレームが陽極酸化処理されていたとしても、各種イオンがペリクルフレーム表面に溶出し難い。また特に、フレームが酒石酸により陽極酸化処理されていると、ペリクルフレーム表面へのイオンの溶出やアウトガスの発生が抑制されやすい。
【0020】
フレームは陽極酸化処理後、さらなる電解析出処理等によって、黒色に着色(黒色化処理)されていてもよい。フレームが黒色である、すなわちペリクルフレームが黒色であると、ペリクルフレームに光を照射し、光の反射によって塵埃の有無を検査するペリクルフレームの受け入れ検査において、迷光が抑制され、塵埃が確認され易くなる。なお、電解析出処理により、フレーム表面に析出させる金属の種類は特に制限されず、例えばNi、Co、Cu、Sn、Mn、Fe等でありうる。
【0021】
一方で、フレームは、陽極酸化処理後、封孔処理されていないことが好ましい。封孔処理によって、表面に水酸化アルミニウム等が形成されると、フレーム表面の通電性が低下するため、後述の電着塗装膜の形成が困難になる。
【0022】
1−2.電着塗装膜
電着塗装膜は、フレームの表面に電着塗装法により形成された膜であって、ポリイミド樹脂を含む膜である。電着塗装膜は、カチオン電着塗装法で形成された膜であってもよく、アニオン電着塗装法で形成された膜であってもよい。
【0023】
電着塗装膜は、ポリイミド樹脂や、その前駆体、もしくはこれらの変性体等を含む電着塗装用組成物を用い、後述の方法で電着塗装することで得られる。以下、カチオン電着塗装法に用いるカチオン電着塗装用組成物の例を説明するが、電着塗装用組成物は、これらに制限されない。
【0024】
(カチオン電着塗装用組成物)
カチオン電着塗装用組成物は、例えば、(A)ポリイミド樹脂と、(B)カチオン性ポリマーと、(C)中和剤と、(D)水性媒体とを含む組成物とすることができる。また、(A)ポリイミド樹脂及び(B)カチオン性ポリマーの代わりに、ポリイミド樹脂がカチオン変性された(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂を含んでもよい。また、カチオン電着塗装用組成物は、必要に応じて(E)顔料や(F)その他の成分を含んでもよい。以下、これらの成分について説明する。
【0025】
(A)ポリイミド樹脂
カチオン電着塗装用組成物が含むポリイミド樹脂は特に制限されない。(A)ポリイミド樹脂は、電着塗装膜の耐熱性や耐光性が高まるとの観点から、例えば下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する「重縮合ポリイミド樹脂」を含むことが好ましい。なお、本発明でいう「重縮合ポリイミド樹脂」とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重縮合させて得られるポリイミド樹脂をいい、全芳香族ポリイミド類、全脂肪族ポリイミド類、半芳香族(半脂肪族)ポリイミド類のいずれかは問わない。ただし、後述の「熱架橋イミド樹脂」は含まないものとする。
【化1】
【0026】
一般式(1)におけるAは、下記一般式で表される2価の基から選ばれる。
【化2】
【0027】
上記一般式におけるZ
1〜Z
10はそれぞれフェニレンジアミン残基、ナフタレンジアミン残基、アントラセンジアミン残基、フェナントレンジアミン残基、一般式C
xH
2xにおけるxが6〜12であるアルカンジアミン残基、シクロブタンジアミン残基、シクロヘキサンジアミン残基、シクロヘプタンジアミン残基、シクロデカンジアミン残基、ジアミノビシクロヘキサン残基、ジアミノビシクロヘプタン残基、ノルボルナンジアミン残基、イソホロンジアミン残基である。X
1〜X
6はそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−または−NHCO−である。複数のAに含まれるZ
1〜Z
10およびX
1〜X
6は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
一般式(1)におけるAでありうる芳香環を含む2価の基は、芳香族ジアミンから誘導される2価の基でありうる。芳香族ジアミンの例には、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどが含まれる。ポリイミド樹脂には、これらが一種のみ含まれてもよく、複数種類含まれてもよい。
【0029】
好ましい芳香族ジアミンの例には、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルがより好ましく、特に好ましくは、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンである。
【0030】
また、一般式(1)におけるAでありうるアルケニル基、または脂環式構造を含む2価の基は、脂肪族ジアミン、または脂環式ジアミン由来の2価の基でありうる。好ましい脂肪族ジアミンや脂環式ジアミンの例には、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、シクロブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、〔1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの〕ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノビシクロヘプタン、(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)ジアミノメチルビシクロヘプタン、ジアミノオキシビシクロヘプタン、(オキサノルボルナンジアミンを含む)ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデンなどが含まれる。より好ましい脂肪族ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノメチルビシクロヘプタンが挙げられる。本発明におけるポリイミド樹脂には、上記ジアミンが1種類のみ含まれてもよく、複数種類含まれていてもよい。また、芳香族ジアミン及び脂肪族ジアミンのいずれか一方のみが含まれてもよく、双方が含まれていてもよい。
【0031】
一方、上記一般式(1)におけるBは、下記式で表される4価の基から選ばれる。
【化3】
【0032】
上記式におけるW
1〜W
10はベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、及びペリレン等の芳香環を含む4価の基;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロデカン、ビシクロヘプタン類、ビシクロオクタン類、テトラヒドロフラン類等の脂環式構造を含む4価の基;である。また、Y
1〜Y
5はそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−または−NHCO−である複数のBに含まれるW
1〜W
10、およびY
1〜Y
5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
一般式(1)におけるBであり得る芳香環を含む4価の基は、芳香環を含むテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。芳香環を含むテトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニル−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物などが含まれる。
【0034】
一般式(1)におけるBであり得る、脂環式構造を含む4価の基は、脂環式構造を含むテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。脂環式構造を含むテトラカルボン酸二無水物の好ましい例には、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2.]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5−トリカルボン酸−6−酢酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ−1,4,5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0035】
好ましいテトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニル−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、が含まれる。特に好ましくは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。本発明におけるポリイミド樹脂には、上記酸二無水物が1種類のみ含まれてもよく、複数種類含まれていてもよい。また、芳香族酸二無水物及び脂肪族酸二無水物のいずれか一方のみが含まれてもよく、双方が含まれていてもよい。
【0036】
上記重縮合ポリイミド樹脂は、カチオン電着塗装用組成物中に、5〜50質量%含まれることが好ましく、10〜40質量%含まれることがより好ましい。重縮合ポリイミド樹脂の量が上記範囲であると、(D)水性媒体中における分散性が高まりやすい。
【0037】
(A)ポリイミド樹脂は、上記「重縮合ポリイミド樹脂」と併せて、「熱架橋イミド樹脂」を含むことが好ましい。本発明における「熱架橋イミド樹脂」とは、イミド結合を含み、かつ分子末端に不飽和二重結合等の熱架橋可能な基を含む樹脂をいう。ここで、熱架橋イミド樹脂は、上述の重縮合ポリイミド樹脂及び後述の(B)カチオン性ポリマーといずれも相容しやすい。そのため、カチオン電着塗装用組成物が熱架橋イミド樹脂を含むと、上記重縮合ポリイミド樹脂の水性媒体への分散性が高まったり、カチオン電着塗装時に重縮合ポリイミド樹脂の析出性が高まったりしやすい。また、熱架橋イミド樹脂は、熱架橋イミド樹脂同士が反応、もしくは熱架橋イミド樹脂の熱架橋可能な基と後述の(B)カチオン性ポリマーのOH基等とが反応して、架橋構造を形成する。したがって、カチオン電着塗装用組成物が熱架橋イミド樹脂を含むと、得られる電着塗装膜の膜強度が高まりやすい。
【0038】
熱架橋イミド樹脂の例には、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−m−キシレンビスナジイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスアリルナジイミド等が含まれる。
【0039】
熱架橋イミド樹脂は、カチオン電着塗装用組成物中に10〜80質量%含まれることが好ましく、15〜60重量%がより好ましく、20〜50重量%がさらに好ましい。熱架橋イミド樹脂の量が上記範囲であると、(D)水性媒体中における重縮合ポリイミド樹脂等の分散性が高まりやすく、電着塗装膜の強度が高まりやすい。
【0040】
(B)カチオン性ポリマー
(B)カチオン性ポリマーは、例えばアミノ基や、アミノ基の4級化塩等のカチオン性基を少なくとも1種含むポリマーであり得る。カチオン電着塗装用組成物が(B)カチオン性ポリマーを含む場合、前述の(A)ポリイミド樹脂に直接カチオン性基を導入しなくとも、(B)カチオン性ポリマーと(A)ポリイミド樹脂との相溶性等によって、(A)ポリイミド樹脂をフレーム表面に析出させることが可能となる。(B)カチオン性ポリマーは、例えばアクリル共重合体や、エポキシアミンアダクト樹脂等でありうる。
【0041】
アクリル共重合体の例には、(メタ)アクリル酸のアミノ誘導体と、(メタ)アクリル酸のヒドロキシ誘導体と、ビニルエステルとを共重合した共重合体等が含まれる。ここで、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルのいずれか一方、もしくは両方をいうこととする。
【0042】
(メタ)アクリル酸のアミノ誘導体の例には、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド等が含まれる。一方、(メタ)アクリル酸のヒドロキシ誘導体の例には、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル等が含まれる。さらに、ビニルエステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボ
ルニル、メタクリル酸2−(パーフロロオクチル)エチル、メタクリル酸トリフロロメチル等が含まれる。
【0043】
一方、エポキシアミンアダクト樹脂は、エポキシ樹脂のエポキシ基を1級アミンまたは2級アミンで変性した誘導体等でありうる。エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(油化シェル社製));ノボラックフェノール型エポキシ樹脂(商品名:エピコート152、エピコート154(油化シェル製))等が含まれる。
【0044】
上記エポキシ樹脂を変性する1級アミンの例には、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノn−プロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が含まれる。2級アミンの例には、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジn−プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジn−ブチルアミン等が含まれる。
【0045】
(B)カチオン性ポリマーは、カチオン電着塗装用組成物中に10〜85質量%含まれることが好ましく、20〜80重量%がより好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。(B)カチオン性ポリマーの量が上記範囲であると、(D)水性媒体中における(A)ポリイミド樹脂の分散性が高まりやすい。一方で、(B)カチオン性ポリマーの量が上記範囲であれば、相対的に(A)ポリイミド樹脂の量が十分になるため、電着塗装膜の耐熱性等が十分に高まりやすい。
【0046】
(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂
前述のように、カチオン電着塗装用組成物は、前述の(A)ポリイミド樹脂及び(B)カチオン性ポリマーの代わりに、(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂を含んでもよい。カチオン電着塗装用組成物が、(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂を含む場合、カチオン電着塗装用組成物に上述のアクリル樹脂やエポキシ樹脂等からなる(B)カチオン性ポリマーを別途含む必要がない。したがって、電着塗装膜の耐熱性がより高まりやすくなる。
【0047】
(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂は、前述の(A)ポリイミド樹脂に、ウレア結合またはウレタン結合等を介して、カチオン性基が結合した樹脂等でありうる。カチオン性基の例には、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基等が含まれる。前述の(A)ポリイミド樹脂にカチオン性基を結合させる方法の一例として、以下の方法がある。
【0048】
前述の(A)ポリイミド樹脂の酸無水物基に「多官能ブロックイソシアネート化合物」を反応させて、ポリイミド樹脂にブロックイソシアネート基を導入する。そして、ブロックイソシアネート基に、「カチオン性基含有化合物」を公知の方法(例えば特開2009−256489号公報に記載の方法)で反応させることにより、(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂が得られる。
【0049】
ポリイミド樹脂と反応させる「多官能ブロックイソシアネート化合物」の例には、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6’−トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;ポリメリックMDI(日本ポリウレタン社製 コロネートMR−200等)等の2官能を超えるイソシアネート等が含まれる。これらは一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。
【0050】
一方、「カチオン性
基含有化合物」の例には、多官能アミン、水酸基含有アミン、ケチミン化アミン、水酸基含有ケチミン等が含まれる。これらは一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。
【0051】
多官能アミンは、一分子中に2つ以上のアミノ基を有する化合物であればよく、その例には、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルプロピレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン等が含まれる。
【0052】
水酸基含有アミンの例には、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類が含まれる。
【0053】
ケチミン化アミンの例には、上記多官能アミンとアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類とを反応させて得られるケチミン化アミン等が含まれる。
【0054】
水酸基含有ケチミンの例には、アミノエチルエタノールアミン、アミノエチルプロパノールアミン、アミノエチルイソプロパノールアミン、アミノプロピルエタノールアミン、アミノプロピルプロパノールアミン等のアミノアルキルアルカノールアミン類と、上記ケトン類とを反応させて得られる水酸基含有ケチミン等が含まれる。
【0055】
(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂は、カチオン電着塗装用組成物中に5〜70質量%含まれることが好ましく、10〜60重量%がより好ましい。(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂の量が上記範囲であると、電着塗装膜の耐熱性等が十分に高まりやすく、さらに電着塗装膜の形成を効率よく行うことができる。
【0056】
(C)中和剤
カチオン電着塗装用組成物は、上述の(B)カチオン性ポリマーや、(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂の水性媒体への分散性を向上させるための中和剤を含む。中和剤の例には、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、コハク酸、酪酸のような無機酸または有機酸などが含まれる。中和剤は、カチオン電着塗装用組成物のpHが3〜5の範囲となるように含まれることが好ましい。
【0057】
(D)水性媒体
カチオン電着塗装用組成物が含む水性媒体は、イオン交換水、純水などである。水性媒体は、必要に応じて、少量のアルコール類などを含んでもよい。カチオン
電着塗装用組成物が含む(D)水性媒体の量は、カチオン
電着塗装用組成物の粘度等に応じて適宜選択される。
【0058】
(E)顔料
カチオン電着塗装用組成物は、カーボンブラック等の顔料を含んでもよい。ペリクルフレームが、カチオン電着塗装膜により黒色化されると、前述のようにペリクルフレーム表面に付着した塵埃を確認しやすくなる。
【0059】
顔料の含有量は、一般に、カチオン電着塗装用組成物の全固形分の1〜35重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0060】
(F)その他
カチオン電着塗装用組成物は、必要に応じて、他の成分を含んでもよい。他の成分の例には、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが含まれる。
【0061】
なお、カチオン電着塗装用組成物は、上記各成分を調製して得られる組成物であってもよいが、市販の電着塗装用組成物であってもよい。市販のカチオン電着塗装用組成物の例には、(株)シミズ製 エレコートPI等が含まれる。
【0062】
(電着塗装方法)
電着塗装膜は、1)フレーム表面に、前述のカチオ
ン電着塗装用組成物の膜を形成する工程と、2)得られた膜を加熱硬化および乾燥させて硬化電着塗装膜とする工程と、により形成される。
【0063】
1)の工程では、前記カチオ
ン電着塗装用組成物を投入した電着槽内に、被塗布物であるフレームを浸漬させる。フレームを陰極とし、陽極との間に電圧を印加して、フレーム表面に前述の(A)ポリイミド樹脂及び(B)カチオン性ポリマー、もしくは(A’)カチオン変性ポリイミド樹脂を析出させる。これにより、フレーム表面にポリイミド樹脂を含む膜が形成される。電着塗装は、電圧100〜220V、通電時間30〜240秒間で行うことが好ましい。
【0064】
電着塗装後の膜(ウェット膜)の厚さは5μm以上30μm未満が好ましく、7μm以上25μm以下がさらに好ましい。電着塗装後の膜が薄すぎると、これを硬化して得られる電着塗装膜の凝集力が十分でなく、所望の耐熱性や膜強度が得られ難い。一方で、電着塗装後の膜の厚さが厚すぎると、膜表面が粗くなり柚子肌状の表面になることがあり、平滑性に劣るだけでなく、最終的に得られる電着塗装膜の厚さが均一になり難い。電着塗装後の膜の厚さは、電着塗装時の電圧や通電時間によって調整される。
【0065】
1)の工程で得られた膜を水洗する。その後、2)の工程では、ペリクルフレームを120〜260℃、好ましくは140〜220℃で10〜30分間焼き付けして電着塗装膜を加熱硬化させて、電着塗装膜とする。
【0066】
電着塗装膜(硬化膜)の厚さは、前述の膜の厚さとほぼ同等であり、好ましくは5μm以上30μm未満であり、より好ましくは7μm以上25μm以下である。
【0067】
なお、上記のようにして得られるペリクルフレームは、ペリクルフレームの受け入れ検査工程や、ペリクルフレーム上にペリクル膜を設置したペリクルの出荷検査工程等において、塵埃の有無を検査される。
【0068】
ペリクルフレームの受け入れ検査工程では、強い光をペリクルフレームに照射し、光の反射によって塵埃の有無を検査する。目に見えない大きさの塵埃があれば、照射した光が反射しキラリと光る。光が反射しないペリクルフレームのみが合格とされる。
【0069】
2.ペリクル
本発明のペリクルは、ペリクル膜と、前記ペリクル膜の外周を支持する前述のペリクルフレームと、前記ペリクルフレームと前記ペリクル膜とを接着させる膜接着剤と、前記ペリクルフレームと前記マスクとを接着するためのマスク接着剤とを有する。
図1には、本発明のペリクルの一例が示される。ペリクル10は、ペリクル膜12と、ペリクル膜12の外周を支持するペリクルフレーム14とを有する。ペリクル膜12は、ペリクルフレーム14の一方の端面にある膜接着剤層13を介して張設されている。一方、ペリクルフレーム14をマスク(不図示)に接着させるために、ペリクルフレーム14のもう一方の端面には、マスク接着剤層15が設けられている。
【0070】
ペリクル膜12は、ペリクルフレーム14によって保持されており、マスク(不図示)の露光エリアを覆う。したがって、ペリクル膜12は露光によるエネルギー(光)を遮断しないような透光性を有する膜である。ペリクル膜12の材質の例には、石英ガラスや、フッ素系樹脂や酢酸セルロースなどの透明性の材質が含まれる。
【0071】
膜接着剤層13は、ペリクルフレーム14とペリクル膜12を接着する。マスク接着剤層15は、ペリクルフレーム14とマスク(不図示)を接着する。
【0072】
膜接着剤層13は、例えばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、含フッ素シリコーン系接着剤、含フッ素エーテル系接着剤等のフッ素ポリマー等でありうる。一方、マスク接着剤層15は、例えば、両面粘着テープ、シリコーン樹脂系接着剤、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤、ビニル系接着剤、エポキシ系接着剤等でありうる。
【0073】
ペリクル10は、マスク接着剤層15を介してマスク(不図示)上に装着され、マスク(不図示)に異物が付着することを防止する。マスクに付着した異物は、それに露光光の焦点が合うと、ウェハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル10はマスク(不図示)の露光エリアを覆うように装着される。
【0074】
マスク(不図示)とは、パターン化された遮光膜を配置されたガラス基板などである。遮光膜とは、CrやMoSiなどの金属の、単層または複数層構造の膜である。パターン化された遮光膜を含むマスクが、露光エリアとなる。
【0075】
半導体素子に描画される回路パターンの形成工程等のリソグラフィに用いられる露光光は、水銀ランプのi線(波長365nm)、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)等の短波長の光でありうる。
【0076】
本発明のペリクルフレームが有する電着塗装膜は、金属(フレーム)との良好な密着性を有しつつ、優れた膜強度を有する。また、当該電着塗装膜によって、フレームからのイオン溶出も抑制することができる。したがって、電着塗装膜の剥がれによる発塵が生じ難く、さらにペリクルフレームからのガスの発生や異物の発生等も生じ難い。さらに、当該電着塗装膜は、エキシマレーザ光(ArF光、KrF光等)の照射によっても分解し難い。したがって、当該ペリクルフレームを有するペリクルは、種々のパターニングに適用可能である。
【実施例】
【0077】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0078】
[実施例1]
JIS A7075−T6製のアルミニウムフレーム(寸法:149mm×122mm×高さ5.8mm、支持枠厚さ2mm)を用意した。当該フレームを大気中、温度250℃で20分間焼鈍した。その後、平均直径約100μmのステンレスにて、フレーム表面をショットブラスト処理した。
次いで、15質量%の硫酸の電解浴を用い、電解電圧20V、電気量10C/cm
2にて当該フレームを陽極酸化した。その後、硫酸ニッケル6水和物160g/L、ホウ酸40g/L、酒石酸3g/L、及び酸化マグネシウム1g/Lが溶解した電解析出浴を用い、30℃、交流電圧15Vの定電圧電解にて、電解析出処理を6分間行った。これにより、着色したフレームが得られた。
そして、フレームを純水にて洗浄し、カチオン系ポリイミド電着塗料((株)シミズ製 エレコートPI)の入った浴槽に入れ、25℃、電圧100Vで1分間電着塗装した。電着塗装後のフレームを水洗し、100℃で15分乾燥後、180℃、30分間焼付を実施して、フレーム上に厚さ10μmの電着塗装膜が形成されたペリクルフレーム1を得た。
【0079】
[実施例2]
陽極酸化処理及び電着塗装を以下の条件で行った以外は、実施例1と同様にペリクルフレーム2を作製した。
【0080】
(陽極酸化処理)
酒石酸ナトリウム二水和物53g/L、及び水酸化ナトリウム4g/Lが溶解したアルカリ性水溶液を電解液とし、5℃、電解電圧30V、電気量10C/cm
2の条件で陽極酸化を行った。
【0081】
(電着塗装)
電解析出処理後のフレームを純水で洗浄し、カチオン系ポリイミド電着塗料((株)シミズ製 エレコートPI)の入った浴槽に入れた。そして、陽極にカーボン板、陰極にフレームを使用し、25℃、電圧100Vで1分電着塗装した。その後、実施例1と同様に水洗、乾燥、及び焼き付けを実施し、厚さ9μmの電着塗装膜を得た。
【0082】
[比較例1]
電着塗装の代わりに、以下の条件で封孔処理した以外は、実施例1と同様にペリクルフレーム3を作製した。
【0083】
(封孔処理)
電解析出処理後のフレームを、蒸気封孔装置にいれ、相対湿度100%、2.0kg/cm
2G、130℃の水蒸気を発生させながら30分間封孔処理を行った。
【0084】
[比較例2]
電着塗装の代わりに、以下の条件で封孔処理した以外は、実施例2と同様にペリクルフレーム4を作製した。
(封孔処理)
電解析出処理後のフレームを、蒸気封孔装置にいれ、相対湿度100%、2.0kg/cm
2G、130℃の水蒸気を発生させながら30分間封孔処理を行った。
【0085】
[比較例3]
電着塗装時に、カチオン系ポリイミド電着塗料((株)シミズ製 エレコートPI)の代わりに、アクリル系樹脂電着塗料((株)シミズ製 エレコート ナイスロン)を使用し、陰極にカーボン板、陽極にフレームを使用した以外は、実施例1と同様に、ペリクルフレーム5を作製した。このとき、電着塗装膜の厚さは10μmであった。
【0086】
[評価]
1)発生ガス量の評価
実施例1、及び比較例3で作成したペリクルフレームを各々4cm程度に切断し、測定用サンプルを作製した。各測定用サンプルをそれぞれ2口のスクリューキャップが付いた太鼓型石英セルに入れ、1つのスクリューキャップに窒素を流すラインを取り付け、窒素を100mL/minで流した。さらにもう1つのスクリューキャップに捕集管(ジーエルサイエンス製TRAP TUBE、TENAX GL)を取り付けた。窒素を使用するのは、酸素があるとArFレーザにより酸素がオゾンに変化し、オゾンによって
捕集管中の捕集材が劣化するため、サンプルから発生するガスが捕集できなくなることを防ぐためである。
スクリューキャップ内を完全に窒素置換後、太鼓型石英セル内の測定用サンプルにArFレーザを1000Hz、0.4mJ/cm
2の条件で5分間照射した。
ArFレーザ照射により、測定用サンプル表面からガスとなって脱離した物質を捕集管に採取し、発生ガスサンプルを得た。
次いで、加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて捕集管で採取した物質量を発生ガス量(ウンデカン換算)として測定した。測定には株式会社島津製作所製の加熱脱着GC−MS(TDTS−2010)、ガスクロマトグラフ(GC−2010)、質量分析計(GCMS−QP2010)を使用した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
上記表1に示されるように、実施例1のペリクルフレームの電着塗装膜(ポリイミド樹脂を含む膜)は、比較例
3のペリクルフレームの電着塗装膜(アクリル系樹脂を含む膜)と比較して、アウトガス量が少なかった。これは、実施例1の電着塗装膜が、ArFエキシマレーザ光によって分解され難かったためであると推察される。
【0089】
ここで、光エネルギーの吸収量が多いほど不安定化するという一般的な通念から見れば、ArFレーザ光(波長:193nm)の吸光係数はアクリル系樹脂が約0.15μm
−1であり、ポリイミド樹脂が20μm
−1である。したがって、吸光度で比較する限り、ArFレーザ光を吸収しやすいポリイミド樹脂の方が分解しやすいと推測される。
【0090】
しかしながら、上記表1に示されるように、実際にArFエキシマレーザ光を照射すると、推測とは逆の結果が得られた。そこで、本発明者らは、ポリイミド樹脂を含む膜がアクリル系樹脂を含む膜より分解され難かった理由を検討するため、計算科学的手法により電子状態解析を行った。
【0091】
電子状態計算はGaussian 09 Rev.D.01により行った。そして、密度汎関数法であるTD−CAM−B3LYP法によりcc−pVDZを基底関数として、ポリイミド樹脂およびアクリル樹脂の励起一重項状態(S1)における結合エネルギーを評価した。
【0092】
その結果、ポリイミド樹脂の分子骨格において、反応の起点となるN−C結合およびC−O結合部分のS1状態における結合エネルギーはそれぞれ366kJ/molと269kJ/molであった。ポリイミド樹脂はS1状態における結合エネルギーが十分に高いため、ArFレーザ光によって分解され難くガス発生が起こりにくかったと考えられる。
【0093】
一方、アクリル樹脂では、O=C−O−CにおけるO−C結合のS1状態のエネルギーが63kJ/molと、比較的小さい値であるため、ArFレーザ光による分解が容易に起こりやすかったといえる。また、アクリル樹脂では、側鎖のO=C−Oが74kJ/molの活性化エネルギーでさらにβ開裂し、CO
2となって脱離する。そして主鎖部分にラジカルが生成するため、主鎖の開裂が進行しやすい。これらのことから、アクリル系樹脂はArFレーザ光によってガスが発生しやすかったと考えられる。
【0094】
2)イオン溶出量の測定
旭化成株式会社製のジッパー付き耐熱袋(ジップロック(登録商標))に、100mlの超純水を入れた。これに、実施例1、2、および比較例1、2で作製したペリクルフレーム毎に、ペリクルフレームを3枚ずつ入れて空気を抜き、ジッパーで密閉した。この耐熱袋を、90℃の高温水槽に3時間浸漬して、ペリクルフレームに含まれる各種イオンを抽出した。抽出液に含まれる各種イオン量を、イオンクロマトグラフ分析装置(DIONEX Corporation製ICS−1000(カラム:AS9−HC))により測定した。このとき、溶離液は1mmol/LのK
2CO
3溶液とした。各ペリクルフレームから溶出されたイオンの種類及びその量を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示されるように、陽極酸化処理後に電着塗装を行った場合には、陽極酸化処理後に封孔処理を行った場合と比較して、各イオン溶出量が減少した(実施例1と比較例1との比較、及び実施例2と比較例2との比較)。当該結果から、電着塗装膜により、陽極酸化処理時に付着した各種イオンが溶出し難くなることがわかる。