【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年10月30日 刊行物 第24回新構造・機能制御と傾斜機能材料シンポジウム<FGMs2013>講演要旨集 〔刊行物等〕 開催日 平成25年10月31日 集会名 第24回新構造・機能制御と傾斜機能材料シンポジウム<FGMs2013> 開催場所 鳥取県産業技術センター機械素材研究所(鳥取県米子市日下1247)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように熱電材料のZT値を向上させるための手法が種々検討されているものの、熱電変換効率は、未だ改善の余地がある。また、熱電材料は、温度差に基づく起電力の相違を利用して発電を行うものであるが、熱電材料を用いて発電モジュールを組み立てた場合、熱伝導などによって温度差が小さくなり、発電量が低下してしまうことが懸念される。このため、温度差を維持するための冷却装置等が必要となり、モジュールが複雑化してしまう。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、各半導体部の間に温度差がなくても、発電をすることができる半導体単結晶を提供することを目的とする。また、このような半導体単結晶を用いることによって、効率よく発電することができる発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、各半導体部の間に温度差がなくても発電をすることが可能な材料を種々検討した。その結果、半導体単結晶のバンドギャップを制御することによって、温度差がなくても発電できることを見出した。
【0010】
本発明は、一つの側面において、n型半導体部とp型半導体部とこれらの間に真性半導体部を有し、真性半導体部が、n型半導体部及びp型半導体部よりも小さいバンドギャップを有する半導体単結晶を提供する。
【0011】
上記半導体単結晶を所定の温度範囲に加熱すると、n型半導体部とp型半導体部との間に温度差がなくても、pn接合部にある真性半導体部においてのみ、価電子帯から伝導帯に電子が励起する。伝導帯に励起された電子は、エネルギーの低いn型半導体部に移動し、荷電子帯に生じたホールは、p型半導体部に移動する。これらの移動によって生じたキャリアの偏りによって、p型半導体部側を正極、n型半導体部側を負極とした発電材料となる。上記半導体単結晶は、このように所定の温度範囲に加熱することによって、n型半導体部とp型半導体部との間に温度差がなくても所定の温度範囲で発電をすることができる。
【0012】
本発明の幾つかの実施形態における半導体単結晶では、単結晶を構成する元素のうち、少なくとも一種の元素の濃度が、p型半導体部、真性半導体部、及びn型半導体部の順に高くてもよい。また、半導体単結晶は、下記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含んでいてもよい。半導体単結晶は、下記式(I)で表わされるクラスレート化合物であってもよい。
A
xB
yC
46−y (I)
【0013】
式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜8であり、yは3.5〜6又は11〜17であり、y/xは、p型半導体部、真性半導体部、及びn型半導体部の順に高い。
【0014】
上記半導体単結晶は、下記式(II)で表わされるクラスレート化合物を含んでいてもよい。上記半導体単結晶は、下記式(II)で表わされるクラスレート化合物であってもよい。
Ba
xAu
ySi
46−y (II)
式(II)中、xは7〜8であり、yは3.5〜6であり、y/xは、p型半導体部、真性半導体部、及びn型半導体部の順に高い。
【0015】
上記半導体単結晶を構成する化合物を、式(I)又は式(II)で表されるクラスレート化合物とすることによって、n型半導体部とp型半導体部との間の電位差を一層大きくすることができる。その結果、発電量を一層大きくすることができる。
【0016】
本発明は、別の側面において、n型半導体部又はp型半導体部からなる第1の半導体部を有し、第1の半導体部における一方の端部と他方の端部のバンドギャップが異なる半導体単結晶を提供する。
【0017】
上記半導体単結晶を所定の温度範囲に加熱すると、第1の半導体部の一方の端部と他方の端部との間に温度差がなくても、両端部のどちらか一方においてのみ、価電子帯から伝導帯に電子を励起させることができる。例えば、一方の端部で伝導帯に励起された電子は、エネルギーの低い他方の端部に移動する。又は、荷電帯に生じたホールが、エネルギーの高い他方の端部に移動する。このいずれかの移動によって生じたキャリアの偏りによって、両端部の一方が正極、他方が負極である発電材料となる。この半導体単結晶は、このように所定の温度範囲に加熱することによって、両端部の間に温度差がなくても所定の温度範囲で発電をすることができる。
【0018】
上記半導体単結晶は、上記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含んでもよい。但し、上記式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5又は11〜16である。前記第1の半導体部がp型半導体部からなる場合、xは7〜8であり、yは5.3〜6又は16〜17である。y/xは、一方の端部と他方の端部において異なる。上記半導体単結晶は、上記式(II)で表わされるクラスレート化合物で含んでいてもよい。このとき、式(II)中のx、y及びy/xは、上述のとおりである。
【0019】
上記半導体単結晶は、第1の半導体部に隣り合うように真性半導体部からなる第2の半導体部を有し、第2の半導体部が、第1の半導体部よりも小さいバンドギャップを有していてもよい。
【0020】
上記半導体単結晶を所定の温度範囲に加熱すると、第1の半導体部と第2の半導体部との間に温度差がなくても、真性半導体部においてのみ、価電子帯から伝導帯に電子が励起する。第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、伝導帯に励起された電子は、エネルギーの低いn型半導体部に移動する。この移動によって生じたキャリアの偏りによって、真性半導体部側を正極、n型半導体部側を負極とした発電材料となる。一方、第1の半導体部がp型半導体部からなる場合、第2の半導体部において、荷電帯に生じたホールは、p型半導体部に移動する。この移動によって生じたキャリアの偏りによって、p型半導体部側を正極、真正半導体部側を負極とした発電材料となる。この半導体単結晶は、このように所定の温度範囲に加熱することによって、第1の半導体部と第2の半導体部との間に温度差がなくても所定の温度範囲で発電をすることができる。
【0021】
上記半導体単結晶における第1の半導体部及び第2の半導体部は、上記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含んでいてもよい。但し、第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5又は11〜16である。第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、xは7〜8、yは3.5〜5.5又は11〜16であり、y/xは真性半導体部の方がn型半導体部よりも高い。第1の半導体部がp型半導体部からなる場合、xは7〜8、yは5.3〜6又は16〜17であり、y/xはp型半導体部の方が真性半導体部よりも高い。
【0022】
上記半導体単結晶における第1の半導体部及び第2の半導体部は、上記式(II)で表わされるクラスレート化合物で含んでいてもよい。式(II)中、第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5又は11〜16である。第2の半導体部を有する場合、y/xは、真性半導体部の方がn型半導体部よりも高い。第1の半導体部がp型半導体部からなる場合、xは7〜8であり、yは5.3〜6又は16〜17である。第2の半導体部を有する場合、y/xはp型半導体部の方が真性半導体部よりも高い。
【0023】
本発明の幾つかの実施形態において、半導体単結晶は、400℃において、両端部の間の電位差の絶対値を0.3mV以上にすることができる。
【0024】
本発明は、さらに別の側面において、n型半導体部とp型半導体部とこれらの間に真性半導体部とを有する半導体単結晶であって、下記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含む半導体単結晶を提供する。半導体単結晶は、下記式(I)で表わされるクラスレート化合物であってもよい。
A
xB
yC
46−y (I)
【0025】
式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜8であり、yは3.5〜6又は11〜17の値であり、y/xは、p型半導体部、真性半導体部、及びn型半導体部の順に高い。
【0026】
すなわち、上記半導体単結晶は、y/xがp型半導体部、真性半導体部、及びn型半導体部の順に高い組成を有している。このような半導体単結晶は、p型半導体部とn型半導体部との間に温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができる。
【0027】
この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、pn接合部における真性半導体部のバンドギャップが、p型半導体部及びn型半導体部のバンドギャップよりも小さくなっていることが一因であると考えている。すなわち、本発明の半導体単結晶は、所定の温度範囲に加熱すると、所定の温度範囲でn型半導体部とp型半導体部との間に温度差がなくても、バンドギャップが小さいpn接合部の真性半導体部においてのみ、価電子帯から伝導帯に電子が容易に励起する。
【0028】
真性半導体部で伝導帯に励起された電子は、エネルギーの低いn型半導体部に移動する。一方、真性半導体部で荷電子帯に生じたホールは、p型半導体部に移動する。これらの移動によって生じたキャリアの偏りによって、半導体単結晶はp型半導体側を正極、n型半導体側を負極とした発電材料となる。このようなメカニズムによって、上記半導体単結晶は、p型半導体部とn型半導体部との温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができるものと考えている。
【0029】
本発明は、さらに別の側面において、n型半導体部又はp型半導体部からなる第1の半導体部を有し、上記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含む半導体単結晶を提供する。
【0030】
式(I)中、第1の半導体部がn型半導体からなる場合、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5又は11〜16である。第1の半導体部がp型半導体からなる場合、xは7〜8であり、yは5.3〜6又は16〜17である。y/xは、前記半導体単結晶の一方の端部と他方の端部において異なる。
【0031】
上記半導体単結晶は、一方の端部と他方の端部との間に温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができる。この理由としては、一方の端部のバンドギャップが、他方の端部のバンドギャップよりも小さいか、又は大きいことが一因であると考えられる。すなわち、上記半導体単結晶は、所定の温度範囲に加熱すると、一方の端部と他方の端部との間に温度差がなくても、バンドギャップが小さい方の端部においてのみ価電子帯から伝導帯に電子が容易に励起する。
【0032】
一方の端部において、伝導帯に励起された電子、及び荷電子帯に生じたホールのどちらか一方は、他方の端部に移動する。これによって、端部間に電位差が生じる。このようなメカニズムによって、上記半導体単結晶は、端部間に温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができるものと考えられる。
【0033】
上記半導体単結晶は、第1の半導体部に隣り合うように真性半導体部からなる第2の半導体部を有し、前記真性半導体部が上記式(I)で表わされるクラスレート化合物を含んでいてもよい。第1の半導体部がn型半導体部からなる場合、y/xは真性半導体部の方がn型半導体部よりも高い。第1の半導体部がp型半導体部からなる場合、y/xはp型半導体部の方が真性半導体部よりも高い。
【0034】
上記半導体単結晶は、第1の半導体部と第2の半導体部との間に温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができる。この理由も必ずしも明らかではないが、本発明者らは、第2の半導体部のバンドギャップが、第1の半導体部のバンドギャップよりも小さくなっていることが一因であると考えている。すなわち、上記半導体単結晶は、所定の温度範囲に加熱すると、第1の半導体部と第2の半導体部との間に温度差がなくても、バンドギャップが小さい真性半導体部からなる第2の半導体部においてのみ、価電子帯から伝導帯に電子が容易に励起する。
【0035】
第1の半導体部がn型半導体部である場合、真性半導体部からなる第2の半導体部で伝導帯に励起された電子は、エネルギーの低いn型半導体部に移動する。この移動によって生じたキャリアの偏りによって、半導体単結晶は真性半導体部側を正極、n型半導体側を負極とした発電材料となる。一方、第1の半導体部がp型半導体部である場合、真性半導体部からなる第2の半導体部で荷電子帯に生じたホールは、p型半導体部に移動する。このようなメカニズムによって、上記半導体単結晶は、第1の半導体部と第2の半導体部との温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができるものと考えている。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態において、クラスレート化合物は式(II)で表される化合物であってもよい。式(II)中、xは7〜8であり、yは3.5〜6である。
Ba
xAu
ySi
46−y (II)
【0037】
半導体単結晶を構成する化合物を、式(II)で表されるクラスレート化合物とすることによって、n型半導体部とp型半導体部との間の電位差を一層大きくすることができる。その結果、発電量を一層大きくすることができる。本発明の幾つかの実施形態において、半導体単結晶は、400℃において、両端部の間の電位差の絶対値を0.3mV以上にすることができる。
【0038】
本発明は、さらに別の側面において、上述の半導体単結晶を加熱して発電する発電方法を提供する。この発電方法では、上述の特徴を有する半導体単結晶を用いていることから、温度差がなくても、所定の温度範囲で効率よく発電をすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、各半導体部に間に温度差がなくても、発電をすることが可能な半導体単結晶を提供することができる。また、このような半導体単結晶を用いることによって、効率よく発電することが可能な発電方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。なお、図面において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、場合により重複する説明は省略する。
【0042】
図1は、本実施形態の半導体単結晶の構成を模式的に示す図である。半導体単結晶の形状は特に限定されず、例えば柱状であってもよい。
図1に示すように、半導体単結晶10が柱状又は板状である場合、半導体単結晶10の上部側にn型半導体部12を有し、下部側にp型半導体部14を有する構成とすることができる。半導体単結晶10は、n型半導体部12とp型半導体部14との間のpn接合部に真性半導体部16を有する。
【0043】
このような半導体単結晶10は、n型半導体部12からp型半導体部14に向かって所定の元素の濃度が変化している。このような元素の濃度勾配が、以下に説明するような、半導体単結晶10のバンドギャップの分布に寄与している。
【0044】
図2(A)及び(B)は、本実施形態の半導体単結晶のバンドギャップの状態を示す概念図である。
図2(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体単結晶のn型半導体部12側の端部からの距離である。
図2(A)及び(B)に示すとおり、真性半導体部16におけるバンドギャップは、n型半導体部12及びp型半導体部14におけるバンドギャップよりも小さくなっている。なお、n型半導体部12は、フェルミレベルfが伝導帯側にある部分であり、p型半導体部14は、フェルミレベルfが価電子帯側にある部分である。真性半導体部16は、フェルミレベルfが、伝導帯と価電子帯との間の禁止帯の中央にある部分である。
【0045】
図2(A)は、半導体単結晶10を所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。
図2(A)に示すように、半導体単結晶10を所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さいpn接合部の真性半導体部16のみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが真性半導体部16よりも大きいp型半導体部14及びn型半導体部12では、電子が熱励起されない。
【0046】
図2(B)は、半導体単結晶10を所定の温度に加熱したときの電子(黒丸)及び正孔(白丸)の移動を示す概念図である。
図2(B)に示すように、伝導帯に励起した電子は、エネルギーの低い方、すなわちn型半導体部12側に移動する。一方、電子の励起により価電子帯側に生じたホールはエネルギーの低いp型半導体部14側へと移動する。これによって、n型半導体部12が負に帯電し、p型半導体部14が正に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体単結晶10は、n型半導体部12とp型半導体部14との間に温度差がなくても、発電することができる。このような起電力発生のメカニズムは、温度差に基づいて起電力を生じるゼーベック効果とは異なる。
【0047】
本実施形態の半導体単結晶10は、温度差がなくても発電できることから、モジュール化した場合にも、冷却又は加熱等の温度制御のための設備をなくしたり、簡素化したりすることができる。したがって、半導体単結晶10は、熱電変換用、又は排熱回収用の発電材料として好適に使用することができる。例えば、発電モジュールにして、内燃機関を有する自動車及び航空機などの輸送機器、装置、並びにプラント等に設置することができる。
【0048】
n型半導体部12及びp型半導体部14におけるバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)に対する、真性半導体部16のバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)の比は、特に制限はないが、小さい方が好ましい。例えば、上記比は、0.8以下であってもよく、0.1〜0.7であってもよい。この比が小さいほど、発電できる温度領域を十分に広くすることができる。
【0049】
真性半導体部16のエネルギーギャップは、例えば、0.4eV以下であってもよく、0.05〜0.3eVであってもよい。n型半導体部12、p型半導体部14及び真性半導体部16におけるエネルギーギャップは、例えば逆光電子分光法などによって測定することができる。
【0050】
半導体単結晶10を構成する材料としては、構成元素としてA,B,Cを有する、下記式(I)で表わされるクラスレート化合物であってもよい。
A
xB
yC
46−y (I)
【0051】
式(I)中、Aは、Ba,Na,Sr及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Bは、Au,Ag,Cu,Ni及びAlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、Cは、Si,Ge及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。xは7〜8、及びyは3.5〜6又は11〜17である。
【0052】
クラスレート化合物において、A元素は1価又は2価のドナーとして機能し、B元素は3価又は1価のアクセプタとして機能する。半導体単結晶10において、クラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyは、
図1の矢印α方向に沿って増加している。一方、A元素のモル比を示すxは、半導体単結晶10においてほぼ均一に分布していてもよいし、
図1の矢印α方向に沿って減少していてもよい。すなわち、半導体単結晶10では、y/xの値が、
図1の上端から下端に向かう矢印α方向に沿って概ね増加している。したがって、下部の方がA元素に対するB元素のモル比(y/x)が高くなっている。これによって、上部はn型半導体部12となり、下部はp型半導体部14となっている。なお、y/xの値は、n型半導体部12、真性半導体部16、及びp型半導体部14の順に高くなる。すなわち、y/xの値は、n型半導体部12で最も低く、p型半導体部14で最も高い。
【0053】
クラスレート化合物(包接化合物)は、B元素及びC元素によって構成されるカゴ状組織と、それに内包されるA元素で構成される。通常のクラスレート化合物として、カゴ状組織がC元素のみによって構成されたものが知られている(例えば、Ba
8Si
46)。しかしながら、このようなクラスレート化合物の製造には、非常に高い圧力が必要となる。一方、C元素(Si)の6cサイトをB元素で置換した構造のものは、常圧でアーク溶融法によって合成することができる。
【0054】
クラスレート化合物の好ましい例としては、Ba
xAu
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは3.5〜6である。)
、Ba
xAl
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは11〜17である。)、及びBa
xCu
xSi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは3.5〜6である。)が挙げられる。このようなクラスレート化合物からなる半導体単結晶10は、B元素であるAu、Al又はCuの濃度勾配を設けることによって、極めて良好な発電材料となる。
【0055】
図3(A)は、Ba
8Au
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図3(B)は、Ba
8Au
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=5の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図3(C)は、Ba
8Au
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0056】
図4(A)は、Ba
8Al
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=14の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図4(B)は、Ba
8Al
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=15の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図4(C)は、Ba
8Al
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=16の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0057】
図5(A)は、Ba
8Cu
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=4の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図5(B)は、Ba
8Cu
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=5の場合のバンドエネルギーを示す図である。
図5(C)は、Ba
8Cu
ySi
46−yのクラスレート化合物において、y=6の場合のバンドエネルギーを示す図である。
【0058】
図3、
図4及び
図5のそれぞれにおける(A)、(B)及び(C)に示すバンドエネルギーは、第一原理計算ソフトAdvance/PHASEを用いて導出したものである。導出にあたっては、計算速度及び計算精度の観点から、密度汎関数法を用い、交換相互作用ポテンシャルはPBE−GGAを用いた。計算方法は、Projector augmented wave(PAW)法を用いた。K−Point(k点)は4×4×4=64点とし、cut off energyは340eVとした。
図3から求められるバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)を表1に示す。
【0060】
表1に示す結果から、Ba
8Au
ySi
46−yのようなクラスレート化合物の場合、y=5の組成では、y=4及びy=6の組成に比べてバンドギャップの幅がかなり小さくなっていることがわかる。すなわち、Ba
8Au
ySi
46−yのバンドギャップの幅は、Auのモル比に大きく依存する。一方、Ba
8Al
ySi
46−yのようなクラスレート化合物の場合、y=15の組成では、y=14及びy=16の組成に比べてバンドギャップの幅がわずかに小さくなっていることがわかる。すなわち、Ba
8Al
ySi
46−yのバンドギャップの幅はAlのモル比に依存するが、その依存性は、Ba
8Au
ySi
46−yのAuのモル比に比べて小さい。
【0061】
Ba
8Au
ySi
46−y(但し、y=4〜6である。)は、Ba
8Al
ySi
46−y(但し、y=14〜16である。)よりも、バンドギャップの幅の差が大きい。このようにバンドギャップの幅の差が大きい材料からなる半導体単結晶10の方が、より広い温度領域において、起電力を発生することができる。したがって、汎用性が一層高い発電材料とすることができる。ただし、Ba
8Al
ySi
46−yも、所定の温度範囲で起電力を生じる有望な発電材料である。
【0062】
Ba
8Cu
ySi
46−yのクラスレート化合物の場合、y=6の組成では、y=4及びy=5の組成に比べてバンドギャップの幅がかなり小さくなっていることがわかる。すなわち、Ba
8Cu
ySi
46−yのバンドギャップの幅は、Cuのモル比に大きく依存する。Ba
8Cu
ySi
46−y(但し、y=4〜6である。)は、Ba
8Al
ySi
46−y(但し、y=14〜16である。)よりも、バンドギャップの幅の差が大きい。したがって、Ba
8Cu
ySi
46−yからなる半導体単結晶10も、広い温度領域において、起電力を発生することができる。したがって、汎用性が一層高い発電材料とすることができる。
【0063】
半導体単結晶10では、y/xがn型半導体部12からp型半導体部14に向かって増加することによって、p型半導体部とn型半導体部とこれらの間にpn接合部とを有する。式(I)で表されるようなクラスレート化合物の構成元素の濃度を、一端側から他端側に沿って傾斜した組成とすることによって、一端側から他端側に向かって、p型半導体部、pn接合部及びn型半導体部が順次配置された構造となる。このような構造を有する本実施形態の半導体単結晶は、p型半導体部とn型半導体部との温度差がなくても、所定の温度範囲で発電をすることができる。
【0064】
半導体単結晶10と、n型半導体部12及びp型半導体部14にそれぞれ接続される一対の電極とを備える発電モジュールを用いて発電方法を実施することができる。発電モジュールの半導体単結晶10以外の構成は、公知のものを用いることができる。半導体単結晶10は、例えば50〜700℃に、好ましくは200〜500℃に加熱することによって、効率よく発電することができる。半導体単結晶10は、例えば、400℃における両端部の間の電位差の絶対値を0.3mV以上、又は、0.5mV以上にすることが可能であり、0.3〜20mVとすることも可能である。
【0065】
本実施形態の半導体単結晶10の製造方法を、式(I)のクラスレート化合物を例にして以下に説明する。まず、式(I)の構成元素であるA元素、B元素及びC元素に対応する、金属又は半金属を準備する。そして、最終目的物の組成に応じて、準備した金属及び半金属を所定量秤量する。秤量は、必要に応じてアルゴンガスに置換されたグローブボックス内で行う。秤量した金属及び反金属を、銅製のモールド内に入れて、アーク溶融法等によって溶解する。アーク溶解中の溶融金属の温度は、例えば約3000℃である。
【0066】
アーク溶融によって得られた融液を冷却すると、式(I)のクラスレート化合物のインゴットが得られる。得られたインゴットを破砕して、クラスレート化合物の粒子としてもよい。この粒子を坩堝中で溶融させて、チョクラルスキー法によって単結晶を製造してもよい。これによって、式(I)のクラスレート化合物からなる半導体単結晶10を得ることができる。得られた半導体単結晶10は、所望の形状となるように切断してもよい。
【0067】
ここで、チョクラルスキー法では、坩堝内の融液から結晶を引き上げて単結晶を得る方法である。式(I)のような複数の構成元素を有するクラスレート化合物の単結晶をチョクラルスキー法で作製する場合、密度の大きい成分よりも小さい成分の方が容易に引き上げられて先に結晶化する傾向がある。このため、単結晶の製造が進行するにつれて、融液の組成が変化する。したがって、チョクラルスキー法で作製された半導体単結晶は、先に形成された部分の方が、後に形成された部分よりも、密度の大きい成分の濃度が低い傾向にある。
【0068】
例えば、B元素がAuであり、C元素がSiである場合、Auの方がSiよりも密度が大きいため、後に形成された部分の方が、Au濃度が高くなる。したがって、この場合、当初の各金属及び半金属の配合比を調整することによって、先に形成された部分がn型半導体部12となり、後に形成された部分がp型半導体部14となる。
【0069】
図6は、別の実施形態の半導体単結晶の構成を模式的に示す図である。半導体単結晶10aは、上側にn型半導体部12を有し、下側に真性半導体部16を有する。一方、半導体単結晶10aは、p型半導体部を有していない。n型半導体部12は第1の半導体部に相当し、真性半導体部16は第2の半導体部に相当する。
【0070】
半導体単結晶10aは、n型半導体部12から真性半導体部16に向かって所定の元素の濃度が変化している。半導体単結晶10と同様に、このような元素の濃度勾配が、半導体単結晶10aのバンドギャップの分布に寄与している。
【0071】
図7(A)及び(B)は、本実施形態の半導体単結晶のバンドギャップの状態を示す概念図である。
図7(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体単結晶のn型半導体部12側の端部からの距離である。
図7(A)及び(B)に示すとおり、真性半導体部16におけるバンドギャップは、n型半導体部12におけるバンドギャップよりも小さくなっている。n型半導体部12は、フェルミレベルfが伝導帯側にある部分である。真性半導体部16は、フェルミレベルfが、伝導帯と価電子帯との間の禁止帯の中央にある部分である。半導体単結晶10aのバンドギャップは、n型半導体部12側の端部から、真性半導体部16側の端部に向かって漸減していてもよい。
【0072】
図7(A)は、半導体単結晶10aを所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。
図7(A)に示すように、半導体単結晶10aを所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さい真性半導体部16のみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが真性半導体部16よりも大きいn型半導体部12では、電子が熱励起されない。
【0073】
図7(B)は、半導体単結晶10aを所定の温度に加熱したときの電子(黒丸)の移動を示す概念図である。
図7(B)に示すように、伝導帯に励起した電子は、エネルギーの低い方、すなわちn型半導体部12側に移動する。一方、電子の励起により価電子帯側に生じたホール(白丸)は真性半導体部16に滞留する。これによって、n型半導体部12が負に帯電し、真性半導体部16が正に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体単結晶10aは、n型半導体部12と真性半導体部16との間に温度差がなくても、発電することができる。
【0074】
半導体単結晶10aは、キャリアが電子のみである点で、キャリアが電子と正孔である半導体単結晶10と異なる。本実施形態の半導体単結晶10aも、温度差がなくても発電できることから、半導体単結晶10と同様に有用である。半導体単結晶10aでは、p型半導体部を形成する必要がない。このため、上記式(I)で表されるクラスレート化合物によって製造することが容易となる。
【0075】
半導体単結晶10aにおける、n型半導体部12及び真性半導体部16のバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)及びその比は、半導体単結晶10と同様である。また、半導体単結晶10aを構成する材料は、半導体単結晶10と同様に上記式(I)で表されるクラスレート化合物であってもよい。ただし、半導体単結晶10aは、p型半導体部を有しないことから、上記式(I)におけるxは、7〜8、及びyは3.5〜5.5又は11〜16である。
【0076】
半導体単結晶10aにおいて、クラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyは、
図6の矢印α方向に沿って増加している。一方、A元素のモル比を示すxは、半導体単結晶10aにおいてほぼ均一に分布していてもよいし、
図6の矢印α方向に沿って減少していてもよい。すなわち、半導体単結晶10aでは、y/xの値が、
図6の上端から下端に向かう矢印α方向に沿って概ね増加している。したがって、下部の方がA元素に対するB元素のモル比(y/x)が高くなっている。これによって、上部はn型半導体部12となり、下部は真性半導体部16となっている。なお、y/xの値は、n型半導体部12よりも真性半導体部16の方が高い。半導体単結晶10aにおいて、y/xの値は、真性半導体部16側の端部から、n型半導体部12側の端部に向かって漸減していてもよい。
【0077】
クラスレート化合物の好ましい例としては、Ba
xAu
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5である。)
、Ba
xAl
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは11〜16である。)、及びBa
xCu
xSi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは3.5〜5.5である。)が挙げられる。
【0078】
半導体単結晶10aは、半導体単結晶10と同様にして製造し、同様の温度に加熱して発電することができる。半導体単結晶10におけるp型半導体部以外の上記説明内容は、半導体単結晶10aにも適用できる。
【0079】
図8は、さらに別の実施形態の半導体単結晶の構成を模式的に示す図である。半導体単結晶10bは、上側に真性半導体部16を有し、下側にp型半導体部14を有する。一方、半導体単結晶10bは、n型半導体部を有していない。p型半導体部14は第1の半導体部に相当し、真性半導体部16は第2の半導体部に相当する。
【0080】
半導体単結晶10bは、真性半導体部16からp型半導体部14に向かって所定の元素の濃度が変化している。半導体単結晶10,10aと同様に、このような元素の濃度勾配が、半導体単結晶10bのバンドギャップの分布に寄与している。
【0081】
図9(A)及び(B)は、本実施形態の半導体単結晶のバンドギャップの状態を示す概念図である。
図9(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体単結晶の真性半導体部16側の端部からの距離である。
図9(A)及び(B)に示すとおり、真性半導体部16におけるバンドギャップは、p型半導体部14におけるバンドギャップよりも小さくなっている。p型半導体部14は、フェルミレベルfが価電子帯側にある部分である。真性半導体部16は、フェルミレベルfが、伝導帯と価電子帯との間の禁止帯の中央にある部分である。半導体単結晶10bのバンドギャップは、真性半導体部16側の端部から、p型半導体部14側の端部に向かって漸増していてもよい。
【0082】
図9(A)は、半導体単結晶10bを所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。
図9(A)に示すように、半導体単結晶10bを所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さい真性半導体部16のみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが真性半導体部16よりも大きいp型半導体部14では、電子が熱励起されない。
【0083】
図9(B)は、半導体単結晶10bを所定の温度に加熱したときのホール(白丸)の移動を示す概念図である。
図9(B)に示すように、伝導帯に励起した電子は、エネルギーの低い方、すなわち真性半導体部16側に滞留する。一方、電子の励起により価電子帯側に生じたホールはp型半導体部14に移動する。これによって、p型半導体部14が正に帯電し、真性半導体部16が負に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体単結晶10bは、p型半導体部14と真性半導体部16との間に温度差がなくても、発電することができる。
【0084】
半導体単結晶10bは、キャリアがホールのみである点で、キャリアが電子と正孔である半導体単結晶10と異なる。本実施形態の半導体単結晶10bも、温度差がなくても発電できることから、半導体単結晶10,10aと同様に有用である。
【0085】
半導体単結晶10bにおける、p型半導体部14及び真性半導体部16のバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)及びその比は、半導体単結晶10と同様である。また、半導体単結晶10aを構成する材料は、半導体単結晶10と同様に上記式(I)で表されるクラスレート化合物であってもよい。ただし、半導体単結晶10bは、n型半導体部を有しないことから、上記式(I)におけるxは、7〜8、及びyは5.3〜6又は16〜17である。
【0086】
半導体単結晶10bにおいて、クラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyは、
図8の矢印α方向に沿って増加している。一方、A元素のモル比を示すxは、半導体単結晶10bにおいてほぼ均一に分布していてもよいし、
図8の矢印α方向に沿って減少していてもよい。すなわち、半導体単結晶10bでは、y/xの値が、
図8の上端から下端に向かう矢印α方向に沿って概ね増加している。したがって、下部の方がA元素に対するB元素のモル比(y/x)が高くなっている。これによって、上部は真性半導体部16となり、下部はp型半導体部14となっている。なお、y/xの値は、真性半導体部16よりもp型半導体部14の方が高い。半導体単結晶10bにおいて、y/xの値は、真性半導体部16側の端部から、p型半導体部14側の端部に向かって漸増していてもよい。
【0087】
クラスレート化合物の好ましい例としては、Ba
xAu
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは5.3〜6である。)
、Ba
xAl
ySi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは16〜17である。)、及びBa
xCu
xSi
46−y(但し、xは7〜8であり、yは5.3〜6である。)が挙げられる。
【0088】
半導体単結晶10bは、半導体単結晶10,10aと同様にして製造し、同様の温度に加熱して発電することができる。半導体単結晶10におけるp型半導体部以外の上記説明内容は、半導体単結晶10bにも適用される。
【0089】
図10は、さらに別の実施形態の半導体単結晶の構成を模式的に示す図である。半導体単結晶10cは、n型半導体部12(第1の半導体部)を備える。すなわち、半導体単結晶10cはn型半導体のみで構成される。半導体単結晶10cは、上端部12A(一方の端部)から下端部12B(他方の端部)に向かって所定の元素の濃度が変化している。半導体単結晶10,10a,10bと同様に、このような元素の濃度勾配が、半導体単結晶10cのバンドギャップの分布に寄与している。
【0090】
図11(A)及び(B)は、本実施形態の半導体単結晶のバンドギャップの状態を示す概念図である。
図11(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体単結晶10cの上端からの距離である。
図11(A)及び(B)に示すとおり、n型半導体12(半導体単結晶10c)の下端部12Bにおけるバンドギャップは、n型半導体12(半導体単結晶10c)の上端部12Aにおけるバンドギャップよりも小さくなっている。半導体単結晶10cは、上端部12Aから下端部12Bに向かってバンドギャップが漸減していてもよい。
【0091】
図11(A)は、半導体単結晶10cを所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。
図11(A)に示すように、半導体単結晶10cを所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さい下端部12Bのみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが下端部12Bよりも大きい上端部12Aでは、電子が熱励起されない。
【0092】
図11(B)は、半導体単結晶10cを所定の温度に加熱したときの電子(黒丸)の移動を示す概念図である。
図11(B)に示すように、伝導帯に励起した電子は、上端部12A側に移動する。一方、電子の励起により価電子帯側に生じたホール(白丸)は下端部12B側に滞留する。これによって、上端部12A側が負に帯電し、下端部12B側が正に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体単結晶10cは、上端部12Aと下端部12Bとの間に温度差がなくても、発電することができる。
【0093】
半導体単結晶10cは、キャリアが電子のみである点で、半導体単結晶10aと共通する。本実施形態の半導体単結晶10cも、温度差がなくても発電できることから、半導体単結晶10,10a,10bと同様に有用である。
【0094】
半導体単結晶10cにおける、上端部12A及び下端部12Bのバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)及びその比に特に制限はない。上端部12Aにおけるバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)に対する、下端部12Bのバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)の比は、小さい方が好ましい。上記比は、0.8以下であってもよく、0.1〜0.7であってもよい。この比が小さいほど、発電できる温度領域を十分に広くすることができる。
【0095】
半導体単結晶10cを構成する材料は、半導体単結晶10と同様に上記式(I)で表されるクラスレート化合物であってもよい。ただし、半導体単結晶10cは、p型半導体部及び真性半導体部を有しないことから、上記式(I)におけるxは、7〜8、及びyは3.5〜5.5又は11〜16である。
【0096】
半導体単結晶10cにおいて、クラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyは、
図10の矢印α方向に沿って概ね増えていてもよい。一方、A元素のモル比を示すxは、半導体単結晶10cにおいてほぼ均一に分布していてもよいし、
図10の矢印α方向に沿って概ね減少していてもよい。半導体単結晶10cでは、y/xの値が、上端部12Aよりも下端部12Bの方が大きい。すなわち、上端部14Aよりも下端部12Bの方がA元素に対するB元素のモル比(y/x)が高くなっている。
【0097】
クラスレート化合物の好ましい例は、半導体単結晶10aと同様である。半導体単結晶10cは、半導体単結晶10aと同様にして製造し、同様の温度に加熱して発電することができる。半導体単結晶10における真性半導体部及びp型半導体部以外の説明内容は、半導体単結晶10cにも適用される。
【0098】
図10の半導体単結晶は、p型半導体14から構成される半導体単結晶10dであってもよい。半導体単結晶10dは、p型半導体部14(第1の半導体部)を備える。すなわち、半導体単結晶10dはp型半導体のみで構成される。半導体単結晶10dは、上端部14A(一方の端部)から下端部14B(他方の端部)に向かって所定の元素の濃度が変化している。半導体単結晶10,10a,10b,10cと同様に、このような元素の濃度勾配が、半導体単結晶10dのバンドギャップの分布に寄与している。
【0099】
図12(A)及び(B)は、半導体単結晶10dのバンドギャップの状態を示す概念図である。
図12(A)及び(B)の縦軸は電子のエネルギーであり、横軸は半導体単結晶10dの上端からの距離である。
図12(A)及び(B)に示すとおり、p型半導体14(半導体単結晶10d)の上端部14Aにおけるバンドギャップは、p型半導体14(半導体単結晶10d)の下端部14Bにおけるバンドギャップよりも小さくなっている。すなわち、半導体単結晶10dは、上端部14Aから下端部14Bに向かってバンドギャップが漸増していてもよい。
【0100】
図12(A)は、半導体単結晶10cを所定の温度に加熱したときの熱励起の状態を示す概念図である。
図12(A)に示すように、半導体単結晶10dを所定の温度に加熱すると、価電子帯の電子が伝導帯に熱励起する。このとき、バンドギャップが相対的に小さい上端部14Aのみで伝導帯に電子が熱励起される。一方、バンドギャップが上端部14Aよりも大きい下端部14Bでは、電子が熱励起されない。
【0101】
図12(B)は、半導体単結晶10dを所定の温度に加熱したときのホール(白丸)の移動を示す概念図である。
図12(B)に示すように、電子の励起によって価電子帯に生じたホールは、下端部14B側に移動する。一方、伝導帯に励起された電子は上端部14A側に滞留する。これによって、上端部14A側が負に帯電し、下端部14B側が正に帯電するため、起電力が生じる。このようにして、半導体単結晶10dは、上端部14Aと下端部14Bとの間に温度差がなくても、発電することができる。
【0102】
半導体単結晶10cは、キャリアが正孔のみである点で、半導体単結晶10bと共通する。本実施形態の半導体単結晶10dも、温度差がなくても発電できることから、半導体単結晶10,10a,10b,10cと同様に有用である。
【0103】
半導体単結晶10dにおける、上端部14A及び下端部14Bのバンドギャップの幅(エネルギーギャップ)及びその比は、半導体単結晶10cと同様である。
半導体単結晶10dを構成する材料は、半導体単結晶10と同様に上記式(I)で表されるクラスレート化合物であってもよい。ただし、半導体単結晶10dは、n型半導体部及び真性半導体部を有しないことから、上記式(I)におけるxは、7〜8、及びyは5.3〜6又は16〜17である。
【0104】
半導体単結晶10dにおいて、クラスレート化合物におけるB元素のモル比を示すyは、
図10の矢印α方向に沿って概ね増えていてもよい。一方、A元素のモル比を示すxは、半導体単結晶10dにおいてほぼ均一に分布していてもよいし、
図10の矢印α方向に沿って概ね減少していてもよい。半導体単結晶10dでは、y/xの値が、上端部14Aよりも下端部14Bの方が大きい。すなわち、上端部14Aよりも下端部14Bの方がA元素に対するB元素のモル比(y/x)が高くなっている。
【0105】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、柱状の半導体単結晶を示したが、本発明の半導体単結晶の形状は角柱形状に限定されるものではなく、用途に応じて種々の形状にすることができる。また、半導体単結晶の製造方法は、上述の方法に限定されるものではなく、各種の単結晶の製造方法を適用することができる。例えば、均一な組成を有する単結晶に、ドーパントなどのイオンを注入する方法、単結晶を所定の金属の融液に浸漬するシンタリングによる方法によって、単結晶に所定元素の濃度差を設けて、半導体単結晶を製造してもよい。また、予め所定の元素濃度が変化するように多結晶の試料を準備しておいて、試料にレーザー光を照射して溶解した後、徐々に冷却して単結晶を成長させるFZ法(フローティングゾーン法)によって製造してもよい。
【実施例】
【0106】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
(実施例1)
<アーク溶融法によるクラスレート化合物の調製>
市販のBa粉末、Au粉末、及びSi粉末(いずれも高純度品)を準備した。これらの粉末を、Ba:Au:Si=8:6:40(モル比)となるように秤量した。秤量した各粉末をCuモールドに入れて、チャンバー内に載置した。チャンバー内をアルゴンガスで置換した後、アーク溶融法によって約2000℃に加熱し、Cuモールド内の粉末を溶融させた。このようにして、クラスレート化合物(Ba
8Au
6Si
40)を調製した。
【0108】
<チョクラルスキー法による単結晶の作製>
調製したクラスレート化合物を粉砕して粒状にした後、アルミナ坩堝に入れた。このアルミナ坩堝をチャンバー内に配置した。チャンバー内の圧力が1.5気圧となるようにチャンバー内にアルゴンガスを約0.5L/分で導入しながら、アルミナ坩堝を加熱して、クラスレート化合物を1112℃に加熱して溶融させた。溶融してから1時間経過後に、種結晶として先端にSiを備えたシャフトを、30rpmで回転させながら溶融液の液面に接触させた。そして、クラスレート化合物を1079℃まで降温させながら、シャフトを5mm/時の速度で引き上げた。このようにして、
図13に示すような釣鐘形状を有するクラスレート化合物の単結晶を作製した。
図13の上方が、チョクラルスキー法の引き上げ方向である。
【0109】
<単結晶の評価>
図13に示すように、単結晶の上方から下方に向かってほぼ同じサイズに切断して、No.1〜7の7つのサンプルを得た。また、単結晶の上下方向に沿って切断して、チョクラルスキー法の引き上げ方向を長手方向とする平板状のNo.8のサンプルを得た。電子線マイクロアナライザ(EPMA−1200(WDX))を用いて、No.1〜7のサンプルの元素分析を行った。このとき、フィラメント電圧は15kVに、フィラメント電流は10nAにそれぞれ設定した。元素分析の測定値を、クラスレート化合物の組成比に換算した。表2に組成比を示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示すとおり、単結晶の上部よりも下部の方が、Auの濃度が高く、且つAu/Baの値も高くなっていた。次に、No.4のサンプルを粉末にして、粉末X線解析法によって結晶構造解析を行った。具体的には、X線回折装置(RINT−2100)を用いて測定したピークと、Crystal Diffract 4.1.2を用いて算出した理論値のピークとを対比した。理論値のピークを算出するにあたっては、シミュレーションモデルとしてBa
8Si
46の6cサイトをAuで置換させたBa
8Au
6Si
40を用い、格子定数として実測値で求めた10.41(Å)を用いた。X線回析の測定条件の詳細は表3のとおりである。X線回折の測定結果を
図14(A)に、シミュレーションによる理論値の結果を
図14(B)に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
図14(A)と
図14(B)とを対比すると、測定結果と理論値とのピークの位置が一致することが確認された。このことから、サンプルの結晶構造はクラスレート構造であることが確認された。
【0114】
次に、サンプルNo.1〜No.7のゼーベック効果を調べた。具体的には、各サンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向と垂直方向)の両端部に導線を接続し、両端部間の温度差を20℃に維持しながら、昇温してゼーベック係数S(μV/K)の温度依存性を調べた。各サンプルについて、低温側と高温側の平均温度が500℃に到達するまでのゼーベック係数Sの変化を
図15に示す。
図15に示す結果から、No.1〜No.6のサンプルのゼーベック係数Sは負の値であり、No.7のサンプルのゼーベック係数Sは正の値であった。すなわち、No.1〜No.6のサンプルはn型半導体であり、No.7のサンプルはp型半導体であった。このことから、No.6とNo.7のサンプルの境界部分がpn接合部であり、当該境界部分に真性半導体部が形成されていることが分かる。
【0115】
さらに、
図15の結果によれば、No.1〜6のサンプルのゼーベック係数Sの絶対値は、昇温の当初に増加し、所定の温度で減少に転じている。そして、増加から減少に転じる温度は、サンプル番号が大きくなるにつれて低下している。このことは、pn接合部、すなわち真性半導体部に近づくほど、バンドギャップが小さくなることを示している。
【0116】
n型半導体部を構成するNo.1〜6のAu/Baは、0.59〜0.61(平均値:0.60)であり、p型半導体部を構成するNo.7のAu/Baは、0.63(平均値:0.63)であった。真性半導体部に相当するNo.6とNo.7のサンプルの境界部分のAu/Baは、0.61〜0.63の中間値である0.62である。このことから、Au/Baは、p型半導体部において最も高く、n型半導体部において最も低く、真性半導体部はp型半導体部とn型半導体部との間であることが確認された。
【0117】
次に、No.8のサンプルの起電力を測定した。具体的には、No.8のサンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向)の両端部に、それぞれ導線を接続し、加熱して両端部の間の電位差を測定した。このとき、両端部に温度が生じないようにしながら加熱して電位差を測定した。測定結果を
図16に示す。
図16に示すとおり、両端の間に温度差がないにもかかわらず、所定の温度以上に加熱することによって、電位差が生じることが確認された。
【0118】
このように、昇温によって電位差が大きくなるのは、熱エネルギーの増加によって、バンドギャップが小さいpn接合部において励起できる電子及びホールが増えるためであると考えられる。すなわち、半導体単結晶10は、所定の温度範囲で、pn接合部の真性半導体部でのみ価電子帯から伝導帯へと電子が励起し、伝導帯へ移動した電子はエネルギーの低いn型半導体部側に移動する。一方、pn接合部の真性半導体部で価電子帯に生じたホールはp型半導体部側へと移動する。このキャリアの偏りによって、No.8のサンプルはp型半導体部を正極、n型半導体部を負極とした発電材料になる。
【0119】
一方、No.8のサンプルの温度が所定温度(
図16では約390℃)を超えると電位差が減少し始めるのは、pn接合部のみならずp型半導体部及びn型半導体部でも電子及びホールの熱励起が生じて、p型半導体部とn型半導体部のバンドのエネルギー差が縮小することに起因しているものと考えられる。したがって、昇温し続けると、半導体単結晶10の全体が真性領域に達し、電位差は得られなくなると考えられる。
【0120】
念のため、No.8のサンプルを長手方向の向きが逆になるように反転して、逆方向の起電力を同様にして測定した。その結果を
図17に示す。
図17に示すとおり、正負が逆になったこと以外は
図17に示す結果と同様の結果が得られた。これらの結果から、No.14のサンプルは、両端の間に温度差がなくても、加熱によって電位差が発生することが確認された。
【0121】
(実施例2)
市販のBa粉末、Au粉末、及びSi粉末を、Ba:Au:Si=8:8:38(モル比)となるように秤量してCuモールドに入れたこと以外は、実施例1と同様にしてアーク溶融を行ってクラスレート化合物(Ba
8Au
8Si
38)を調製した。調製したクラスレート化合物を用いて、実施例1と同様にして、チョクラルスキー法によって、
図18に示すような釣鐘形状を有するクラスレート化合物の単結晶を作製した。
図18の上方が、チョクラルスキー法の引き上げ方向である。
【0122】
図18に示すように、単結晶の上方から下方に向かってほぼ同じサイズに切断して、No.1〜11の11個のサンプルを得た。また、単結晶の上下方向に沿って切断して、チョクラルスキー法の引き上げ方向を長手方向とする平板状のNo.12のサンプルを得た。実施例1と同様にして、No.1〜No.11のサンプルの元素分析を行った。元素分析の測定値を、クラスレート化合物の組成比に換算した。表4に組成比を示す。
【0123】
【表4】
【0124】
表4に示すとおり、単結晶の上部よりも下部の方が、Auの濃度が高く、且つAu/Baの値も大きくなっていた。次に、No.4のサンプルを粉末にして、実施例1と同様に結晶構造解析を行った。理論値のピークを算出には、シミュレーションモデルとしてBa
8Si
46の6cサイトをAuで置換させたBa
8Au
6Si
38を用い、格子定数として実測値で求めた10.41(Å)を用いた。X線回折装置の測定結果を
図19(A)に、シミュレーションによる理論値の結果を
図19(B)に示す。
【0125】
図19(A)と
図19(B)とを対比すると、測定結果と理論値とのピークの位置が一致することが確認された。このことから、サンプルの結晶構造はクラスレート構造であることが確認された。次に、サンプルNo.2〜No.10のゼーベック効果を調べた。具体的には、各サンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向と垂直方向)の両端部に導線を接続し、両端部間の温度差を20℃に維持しながら、昇温してゼーベック係数S(μV/K)の温度依存性を調べた。各サンプルについて、低温側の端部の温度を500℃まで昇温したときのゼーベック係数Sの変化を
図20及び
図21に示す。
【0126】
図20に示すとおり、No.2〜5のサンプルのゼーベック係数Sは負の値であり、n型半導体であった。一方、
図21に示すとおり、No.6〜11のサンプルのゼーベック係数Sは正の値であり、p型半導体であった。このことから、No.5とNo.6のサンプルの境界部分がpn接合部であり、当該境界部分に真性半導体部が形成されていることが分かる。
【0127】
n型半導体部を構成するNo.2〜5のAu/Baは、0.62〜0.63(平均値:0.63)であり、p型半導体部を構成するNo.6〜11のAu/Baは、0.66〜0.69(平均値:0.68)であった。真性半導体部に相当するNo.5とNo.6のサンプルの境界部分のAu/Baは、0.64〜0.66の中間値である0.65である。このことから、Au/Baは、p型半導体部において最も高く、n型半導体部において最も低く、真性半導体部はp型半導体部とn型半導体部との間であることが確認された。
【0128】
さらに、
図20及び
図21の結果によれば、No.2〜5及びNo.7〜11のサンプルのゼーベック係数Sの絶対値は、昇温の当初に増加し、所定の温度で減少に転じることが確認された。No.6のサンプルは、常温にピークがあるため、昇温開始から一貫してゼーベック係数Sの絶対値が下がり続けていると考えられる。したがって、ゼーベック係数Sの絶対値が増加から減少に転じる温度は、No.2〜5のサンプルではサンプル番号が大きくなるにつれて低下し、No.6〜11のサンプルではサンプル番号が小さくなるにつれて低下しているといえる。このことは、No.5とNo.6のサンプルの境界部分に真性半導体部に近づくほど、バンドギャップが小さくなることを示している。
【0129】
次に、No.12のサンプルの起電力を測定した。具体的には、No.12のサンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向)の両端部に、それぞれ導線を接続し、加熱して両端部の間に生じる電位差を測定した。このとき、両端部に温度差が生じないようにしながら加熱して電位差を測定した。測定結果を
図22に示す。
図22に示すとおり、両端の間に温度差がないにもかかわらず、所定の温度以上に加熱することによって、電位差が生じることが確認された。
【0130】
この結果からも、No.12のサンプルはp型半導体部を正極、n型半導体部を負極とする発電材料になることが確認された。すなわち、No.12のサンプルは、両端の間に温度差がなくても、加熱によって電位差が発生することから、有用な発電材料であることが確認された。
【0131】
(実施例3)
市販のBa粉末、Au粉末、及びSi粉末を、Ba:Au:Si=8:8:38(モル比)となるように秤量してCuモールドに入れたこと以外は、実施例1と同様にしてアーク溶融を行ってクラスレート化合物(Ba
8Au
8Si
38)を調製した。調製したクラスレート化合物を用いて、実施例1と同様にして、チョクラルスキー法によって、
図23に示すような形状を有するクラスレート化合物の単結晶を作製した。
図23の上方が、チョクラルスキー法の引き上げ方向である。
【0132】
図23に示すように、単結晶の上方から下方に向かってほぼ同じサイズに切断して、No.13〜16の4個のサンプルを得た。また、単結晶の上下方向に沿って切断して、チョクラルスキー法の引き上げ方向を長手方向とする平板状のNo.17のサンプルを得た。実施例1と同様にして、No.13〜No.16のサンプルの元素分析を行った。元素分析の測定値を、クラスレート化合物の組成比に換算した。表5に組成比を示す。
【0133】
【表5】
【0134】
表5に示すとおり、単結晶の上部よりも下部の方が、Auの濃度が高く、且つAu/Baの値も大きくなっていた。次に、No.13〜No.16のサンプルのゼーベック効果を調べた。具体的には、各サンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向と垂直方向)の両端部に導線を接続し、両端部間の温度差を20℃に維持しながら、昇温してゼーベック係数S(μV/K)の温度依存性を調べた。各サンプルを昇温したときのゼーベック係数Sの変化を
図24に示す。
【0135】
図24に示すとおり、No.13,14のサンプルのゼーベック係数Sは負の値であり、n型半導体であった。No.15のサンプルのゼーベック係数は、負の値〜0の範囲にあった。No.16のサンプルのゼーベック係数Sは正の値であり、p型半導体であった。このことから、No.15とNo.16のサンプルの境界部分がpn接合部であり、当該境界部分に真性半導体部が形成されていると考えられる。
【0136】
n型半導体部を構成するNo.13,14のAu/Baは、0.63であり、p型半導体部を構成するNo.16のAu/Baは、0.65であった。真性半導体部に相当するNo.15とNo.16のサンプルの境界部分のAu/Baは、0.63〜0.65の中間値である0.64である。このことから、Au/Baは、p型半導体部において最も高く、n型半導体部において最も低く、真性半導体部はp型半導体部とn型半導体部との間であることが確認された。
【0137】
さらに、
図24の結果によれば、No.13,14,15,16のサンプルのゼーベック係数Sの絶対値は、昇温の当初に増加し、所定の温度で減少に転じることが確認された。No.15のサンプルは、常温にピークがあるため、昇温開始から一貫してゼーベック係数Sの絶対値が下がり続けていると考えられる。したがって、ゼーベック係数Sの絶対値が増加から減少に転じる温度は、No.13,14のサンプルではサンプル番号が大きくなるにつれて低下し、No.15,16のサンプルではサンプル番号が小さくなるにつれて低下しているといえる。このことは、No.15に近づくほど、バンドギャップが小さくなることを示している。
【0138】
次に、No.17のサンプルの起電力を測定した。
図25は、起電力の測定方法を説明する図である。No.17のサンプルの端部17aは、No.13のサンプルの上端側(No.14側とは反対側の端部)の組成を有する。一方、No.17のサンプルの端部17bは、No.15とNo.16のサンプルの境界部分の組成を有する。すなわち、No.17のサンプルは、端部17a側にn型半導体部と、端部17b側に真性半導体部とを備える半導体単結晶である。
【0139】
図25に示すように、No.17のサンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向)の両端部に、それぞれ導線を接続し、加熱して両端部の間に生じる電位差を測定した。このとき、両端部に温度差が生じないようにしながら加熱して電位差を測定した。測定結果を
図26に示す。
図26に示すとおり、両端の間に温度差がないにもかかわらず、加熱することによって、電位差が生じることが確認された。この結果からも、No.17のサンプルは、真性半導体部を正極、n型半導体部を負極とする発電材料になることが確認された。
【0140】
No.17のサンプルの温度が所定温度(
図26では約450℃)を超えると電位差の絶対値が減少し始めるのは、真性半導体部のみならず、n型半導体部でも電子及びホールの熱励起が生じて、真性半導体部とn型半導体部のバンドのエネルギー差が縮小することに起因しているものと考えられる。したがって、昇温し続けると、半導体単結晶の全体が真性領域に達し、電位差は得られなくなると考えられる。
【0141】
(実施例4)
市販のBa粉末、Cu粉末、及びSi粉末を、Ba:Cu:Si=8:6:40(モル比)となるように秤量してCuモールドに入れたこと以外は、実施例1と同様にしてアーク溶融を行ってクラスレート化合物(Ba
8Cu
6Si
40)を調製した。調製したクラスレート化合物を用いて、実施例1と同様にして、チョクラルスキー法によって、
図27に示すような形状を有するクラスレート化合物の単結晶を作製した。
図27の上方が、チョクラルスキー法の引き上げ方向である。
【0142】
図27に示すように、単結晶の上方から下方に向かってほぼ同じサイズに切断して、No.18〜22の5個のサンプルを得た。また、単結晶の上下方向に沿って切断して、チョクラルスキー法の引き上げ方向を長手方向とする平板状のNo.23のサンプルを得た。実施例1と同様にして、No.18〜No.22のサンプルの元素分析を行った。元素分析の測定値を、クラスレート化合物の組成比に換算した。表6に組成比を示す。
【0143】
【表6】
【0144】
表6に示すとおり、単結晶の上部よりも下部の方が、Cuの濃度が高く、且つCu/Baの値も大きい傾向にあった。次に、サンプルNo.18〜No.22のゼーベック効果を調べた。具体的には、各サンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向と垂直方向)の両端部に導線を接続し、両端部間の温度差を20℃に維持しながら、昇温してゼーベック係数S(μV/K)の温度依存性を調べた。各サンプルについて、低温側の端部の温度を700℃まで昇温したときのゼーベック係数Sの変化を
図28に示す。
【0145】
図28に示すとおり、No.18〜22のサンプルのゼーベック係数Sは負の値であり、n型半導体であった。上端部に相当するNo.18のCu/Baは0.57であり、下端部に相当するNo.22のCu/Baは0.58であった。このことから、Cu/Baは、上端部よりも下端部の方が大きいことが確認された。
【0146】
次に、No.23のサンプルの起電力を測定した。具体的には、No.23のサンプルの長手方向(チョクラルスキー法の引き上げ方向)の両端部に、それぞれ導線を接続し、加熱して両端部の間に生じる電位差を測定した。このとき、両端部に温度差が生じないようにしながら加熱して電位差を測定した。測定結果を
図29に示す。
図29に示すとおり、両端の間に温度差がないにもかかわらず、所定の温度以上に加熱することによって、電位差が生じることが確認された。
【0147】
図28に示す結果によれば、No.18〜22のサンプルは全てn型半導体であった。したがって、No.23のサンプルは、n型半導体のみからなる半導体単結晶である。そして、
図29に示すとおり、No.23のサンプルは両端の間に温度差がなくても、加熱によって電位差が発生した。このことから、No.23のサンプルは、一方の端部が他方の端部よりも小さいバンドギャップを有することが確認された。したがって、No.23のサンプルは、一方の端部を正極、他方の電極を負極とする発電材料である。