(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551907
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】鉄鋼スラグの処理方法及び鉄鋼スラグの処理装置
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20190722BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20190722BHJP
C21B 3/04 20060101ALI20190722BHJP
F27D 15/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
C04B5/00 C
C21C5/28 C
C21B3/04
F27D15/00 B
F27D15/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-250697(P2015-250697)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-114717(P2017-114717A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591146125
【氏名又は名称】日鉄スラグ製品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 拓司
(72)【発明者】
【氏名】神保 正人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰和
(72)【発明者】
【氏名】小川 英俊
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−118549(JP,A)
【文献】
特開2009−280445(JP,A)
【文献】
特開2014−234332(JP,A)
【文献】
特開2011−246753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
B09B 1/00− 5/00
B09C 1/00− 1/10
C21B 3/04
C21C 5/00
C21C 5/28− 5/50
F27D 7/00− 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入開口部を有して鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を圧力容器に収容して、加圧状態で鉄鋼スラグを処理する方法であって、先ず、所定の圧力の水蒸気雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグをエージング処理した後、スラグ容器を圧力容器の外部に取り出し、又は、スラグ容器が収容された圧力容器を大気圧に開放して、複数の吹出孔を備えてスラグ容器内に配設された内部配管を介して鉄鋼スラグに冷却用空気を流し、エージング後の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、次いで、所定の圧力のCO2含有ガス雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグを炭酸化処理することを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項2】
スラグ容器中の鉄鋼スラグのエージング処理を行うエージング用圧力容器と、スラグ容器中の鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う炭酸化用圧力容器とを個別に用意して、エージング用圧力容器で鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、スラグ容器内の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、炭酸化用圧力容器で鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う請求項1に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項3】
スラグ容器中の鉄鋼スラグのエージング処理を行う圧力容器と、スラグ容器中の鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う圧力容器とを共用して、鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、スラグ容器内の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、スラグ容器を圧力容器内に戻して鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う請求項1に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項4】
圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下の水蒸気雰囲気にして鉄鋼スラグのエージング処理を行い、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下のCO2含有ガス雰囲気にして鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う請求項1〜3のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項5】
投入開口部を有したスラグ容器に鉄鋼スラグが投入されるスラグ投入台と、加圧したガスが供給されるガス配管を備えると共に、鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を収容して、スラグ容器中の鉄鋼スラグを加圧状態で処理することができる圧力容器と、鉄鋼スラグをスラグ容器ごと仮置きするスラグ仮置台とが並設されて、かつ、これらに沿うように設置された横行レール上の移載台車を介して、スラグ投入台、圧力容器、及びスラグ仮置台の間でスラグ容器を移動させることができる鉄鋼スラグの処理装置であって、スラグ容器には、複数の吹出孔を備えた内部配管が配設され、スラグ仮置台には、該スラグ容器の内部配管に接続されて冷却用空気をスラグ容器側に供給することができる空気発生装置が設置されていることを特徴とする鉄鋼スラグの処理装置。
【請求項6】
前記圧力容器及びスラグ容器をそれぞれ2以上備えている請求項5に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄鋼スラグの処理方法及び鉄鋼スラグの処理装置に係るものであり、詳しくは、鉄鋼スラグを天然砕石、骨材等の土木材料、建築材料等の代替品としたり、海域環境を修復する資材等として利用した際のスラグの膨張を防ぐと共に、高アルカリ水や白濁水が溶出するのを抑制するための鉄鋼スラグの処理方法、及びこれに用いる鉄鋼スラグの処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所での製鉄過程や精錬過程において発生する高炉スラグや製鋼スラグ等の鉄鋼スラグ(以下、単にスラグと称する場合がある)は、道路の路盤材を始めとして、土木材料、建築材料、海域環境修復資材等として広く利用されているが、スラグに含まれた遊離CaOが水と接触してCa(OH)
2となると体積が約2倍に膨張することから、例えば、路盤材として利用した際に、亀裂や隆起を発生させてしまうおそれがある。また、遊離CaOやCa(OH)
2等のような水可溶性カルシウム成分(水可溶性Ca成分)は、雨水等の水と接触するとpH値の高いスラグ溶出水(pHが約12.5の高アルカリ水)を溶出し、更には、このスラグ溶出水中のカルシウム成分が大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを生成すると、スラグ溶出水中の水分が蒸発した後に白色沈殿物として残存し、白色痕として周辺の美観を損ねる等の環境保全の面で問題となるおそれがある。
【0003】
そこで、スラグを土木材料、建築材料等として利用するにあたり、通常は、スラグ中の遊離CaOの膨張を事前に進行させて割れ等の発生を防止するエージング処理が行われる。また、高アルカリ水等の溶出を防ぐには、スラグ中に含まれる水可溶性カルシウム成分を事前に二酸化炭素(CO
2)と反応させて不溶化させる炭酸化処理を行う必要がある。
【0004】
このうち、エージング処理としては、スラグを野外で山積みし、半年からそれ以上の期間放置して、雨水等による水和反応を進行させて遊離CaOを安定化させる自然エージング(大気エージング)のほか、側壁三方をコンクリート擁壁で囲ったピット等にスラグを堆積させて、その上面に保温シートを被せて下方から蒸気を供給して水和反応させる蒸気エージング(例えば特許文献1参照)や、圧力容器内にスラグを収容し、加圧した水蒸気を供給して所定の圧力の水蒸気雰囲気下でスラグをエージング処理する加圧式蒸気エージング(例えば特許文献2参照)が知られている。例えば、スラグを路盤材に使用する場合に、JIS A5015の“道路用鉄鋼スラグ”で定められている水浸膨張比1.5%以下にするには、上記のような自然エージングではおよそ2年を要するのに対して、蒸気エージングではそれを2日間程度に短縮でき、更に、加圧式蒸気エージングでは2時間程度で完了させることができる。このように、蒸気を用いたエージング処理によれば、大気下で行われるエージング処理に比べてスラグ中の遊離CaOの水和反応速度を劇的に向上させることができる。
【0005】
一方で、炭酸化処理については、積み上げられたスラグの左右側面と上面の三方をビニールシートや鉄板等の囲繞材で囲むと共に前後の面を開閉可能な囲繞材で囲み、その底部のガス配管からCO
2含有ガスを供給してスラグの炭酸化処理を行う固定床式の炭酸化処理装置を用いる方法(例えば特許文献3参照)や、内部に攪拌羽等を備えた回転ドラムにスラグを入れてCO
2含有ガスを供給し、スラグに機械攪拌を加えるロータリー式の処理装置を用いる方法が知られている(例えば特許文献4参照)。
【0006】
ちなみに、この炭酸化処理は、スラグ中の水可溶性Ca成分(CaOやCa(OH)
2)が水に溶解して生成するCa
2+イオンと、CO
2が水に溶解して生成するCO
32−イオンとが反応し、水に不溶性のCaCO
3を生成するという水可溶性Ca成分の炭酸化反応を利用するものであり、その際、水は、水可溶性Ca成分を溶解する媒体として働く。
【0007】
ところで、上記で説明したように、スラグのエージング処理では、遊離CaOと水との反応によりCa(OH)
2を形成するのに対して、炭酸化処理では、エージング処理で生成したCa(OH)
2や残された遊離のCaOにCO
2を反応させて、不溶性のCaCO
3を形成するものであり、これらは異なる反応を利用した別の処理である。その際、仮に炭酸化処理を先に実施すると、スラグ表面に形成された不溶性のCaCO
3がスラグ内部への水の浸入を阻害するため、エージング処理を十分に行うことができない。仮に同時に行っても、やはりエージング処理が不十分になってしまう。そのため、通常は、スラグのエージング処理を行った後に炭酸化処理が実施されるが、これらの処理の反応速度を向上させるために、それぞれに適した処理装置が用いられることから、エージング処理が終わったスラグは、一旦、山積みにするか、又は貯蔵ホッパー等に投入しておき、これらの一時的な保管場所からエージング処理後のスラグを炭酸化処理装置に搬送して、スラグの炭酸化処理がなされている。
【0008】
加えて、なかでも蒸気を用いてスラグ中の水可溶性Ca成分を水和反応させる蒸気エージングや加圧式蒸気エージングでは、処理後のスラグは100℃程度に加熱される。このような高温のスラグを直ちに炭酸化処理しても、スラグ中の水分が蒸発してしまい水可溶性Ca成分の炭酸化反応が進まないことから、上記のようにエージング処理後のスラグを一時的に保管することは、スラグを冷却させて次の炭酸化処理に備えるための意味もある。
【0009】
しかしながら、このような従来の処理方法では、エージング処理と炭酸化処理との間でホイルローダー等の重機を用いたスラグの積み替え作業や搬送作業が発生することや、エージング処理後のスラグを一時的に保管するための保管場所が必要になることなどの問題がある。
【0010】
また、上述した特許文献3には、固定床式の処理装置でスラグの蒸気エージングを行った後、処理後のスラグに対して二酸化炭素(CO
2)を含有したCO
2含有ガスを供給して、スラグの炭酸化処理を行うことが記載されており、炭酸化処理にあたってピット内に堆積したスラグに水を散布するとしている。ところが、このような散水によって蒸気エージング後のスラグを冷却させる効果が見込まれるものの、一般に、スラグの炭酸化処理では、過剰に水分が存在すると炭酸化反応の速度が遅くなると考えられることから(例えば特許文献5の段落0043では、スラグが吸収しきれない水の存在によりCO
2含有ガスの接触が邪魔されて炭酸化速度が遅くなるとする)、炭酸化処理を効果的に行うためには、スラグに散水された余分な水分が乾燥するまでの間、放置して待たなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−259284号公報
【特許文献2】特開2012−41234号公報
【特許文献3】特開2011−84424号公報
【特許文献4】特開2005−200234号公報
【特許文献5】特開2007−31220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、鉄鋼スラグを天然砕石や骨材等の土木材料、建築材料等の代替品としたり、海域環境を修復する資材等として利用するにあたり、スラグの膨張や高アルカリ水の溶出等を防ぐために必要なエージング処理と炭酸化処理とを効率良く行う方法について鋭意検討を重ねた結果、加圧式蒸気エージングで用いられるような圧力容器を利用してスラグの炭酸化処理を行うようにし、しかも、圧力容器内にスラグを装入する際に利用するスラグ容器に内部配管を配設して、冷却用空気を流してエージング処理後のスラグを冷却することで、炭酸化処理で求められる温度まで短時間で冷却することができると共に、従来のようなスラグの積み替え作業や搬送の手間を省いたり、各処理間でのスラグの一時的な保管場所や保管設備が不要になることから、本発明を完成させた。
【0013】
したがって、本発明の目的は、鉄鋼スラグのエージング処理と炭酸化処理とを効率良く行うことができる鉄鋼スラグの処理方法及び鉄鋼スラグの処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。なお、本発明の説明においては、水可溶性の遊離CaO及び/又はCa(OH)
2を水可溶性カルシウム成分(水可溶性Ca成分)と称する。
【0015】
(1)投入開口部を有して鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を圧力容器に収容して、加圧状態で鉄鋼スラグを処理する方法であって、先ず、所定の圧力の水蒸気雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグをエージング処理した後、スラグ容器を圧力容器の外部に取り出し、又は、スラグ容器が収容された圧力容器を大気圧に開放して、複数の吹出孔を備えてスラグ容器内に配設された内部配管を介して鉄鋼スラグに冷却用空気を流し、エージング後の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、次いで、所定の圧力のCO
2含有ガス雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグを炭酸化処理することを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
(2)スラグ容器中の鉄鋼スラグのエージング処理を行うエージング用圧力容器と、スラグ容器中の鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う炭酸化用圧力容器を個別に用意して、エージング用圧力容器で鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、スラグ容器内の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、炭酸化用圧力容器で鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う(1)に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
(3)スラグ容器中の鉄鋼スラグのエージング処理を行う圧力容器と、スラグ容器中の鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う圧力容器とを共用して、鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、スラグ容器内の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却して、スラグ容器を圧力容器内に戻して鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う(1)に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
(4)圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下の水蒸気雰囲気にして鉄鋼スラグのエージング処理を行い、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下のCO
2含有ガス雰囲気にして鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う(1)〜(3)のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【0016】
(5)投入開口部を有したスラグ容器に鉄鋼スラグが投入されるスラグ投入台と、加圧したガスが供給されるガス配管を備えると共に、鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を収容して、スラグ容器中の鉄鋼スラグを加圧状態で処理することができる圧力容器と、鉄鋼スラグをスラグ容器ごと仮置きするスラグ仮置台とが並設されて、かつ、これらに沿うように設置された横行レール上の移載台車を介して、スラグ投入台、圧力容器、及びスラグ仮置台の間でスラグ容器を移動させることができる鉄鋼スラグの処理装置であって、スラグ容器には、複数の吹出孔を備えた内部配管が配設され、スラグ仮置台には、該スラグ容器の内部配管に接続されて冷却用空気をスラグ容器側に供給することができる空気発生装置が設置されていることを特徴とする鉄鋼スラグの処理装置。
(6)前記圧力容器及びスラグ容器をそれぞれ2以上備えている(5)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エージング処理後のスラグを短時間で冷却して、引き続き炭酸化処理を施すことができるようになり、しかも、エージング処理と炭酸化処理との間でスラグの積み替え作業や搬送の手間を省け、これらの処理の途中でスラグを一時的に保管するための保管場所や保管設備が不要になることから、従来の方法に比べて効率良くスラグを処理することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る鉄鋼スラグの処理装置を説明するための平面図である。
【
図2】
図2は、スラグ容器を説明するための断面図(B-B断面)である。
【
図3】
図3は、スラグ容器を説明するための断面図(C-C断面)である。
【
図4】
図4は、圧力容器に対するスラグ容器の移動の様子を示した側面説明図である。
【
図5】
図5は、スラグ容器を収容した圧力容器を説明するための断面図(A-A断面)である。
【
図6】
図6は、圧力容器とスラグ容器とをそれぞれ2つ備えた鉄鋼スラグの処理装置を説明するための正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明における鉄鋼スラグの処理方法では、鉄鋼スラグを投入して圧力容器に収容するスラグ容器に対して、複数の吹出孔を備えた内部配管を配設し、この内部配管を介して鉄鋼スラグに冷却用空気を流して、エージング処理後の鉄鋼スラグを冷却できるようにする。すなわち、圧力容器内を所定の圧力の水蒸気雰囲気に保持して行うエージング処理(以下、加圧式蒸気エージングという)では、処理後のスラグは100℃程度に加熱されるが、上述したように、スラグの炭酸化反応は水を介する反応であることから、このように加熱された状態では水分が蒸発してしまうため、スラグ中の水可溶性Ca成分の炭酸化反応が十分に進行しない。また、スラグの炭酸化反応(スラグ中の水可溶性Ca成分の炭酸化反応)は発熱反応であり、これらを考慮して、スラグ容器内に配設された内部配管を介して鉄鋼スラグに冷却用空気を流し、エージング後の鉄鋼スラグを80℃以下、好ましくは70℃以下に冷却するようにする。
【0020】
ここで、エージング処理後の鉄鋼スラグを冷却するにあたり、スラグ容器を圧力容器の外部に取り出して、内部配管に冷却用空気を流して鉄鋼スラグを冷却するようにしてもよく、或いは、スラグ容器が収容された圧力容器を大気圧に開放して、スラグ容器を圧力容器内に収容したまま内部配管に冷却用空気を流して鉄鋼スラグを冷却するようにしてもよい。後者のように圧力容器内でエージング処理後の鉄鋼スラグを冷却することで、圧力容器内を同時に冷却できるメリットがあるが、圧力容器の内壁に結露が生じる可能性があることなどから、好ましくは、前者のように圧力容器の外でエージング処理後の鉄鋼スラグを冷却するのがよい。
【0021】
また、鉄鋼スラグの冷却に用いる冷却用ガスについては特に制限はないが、冷却効率を高めることができるなどの観点から、好ましくは、加圧した圧縮空気を用いるのがよい。下記で説明するように、例えば約40cm×80cm×25cmの容積を有したスラグ容器にスラグを満載し、加圧式蒸気エージング処理された鉄鋼スラグは水分を2〜5質量%程度含んでおり、スラグの冷却は主にこの水分が蒸発することによるものと考えられる。このとき、このままスラグ容器を放置すると、100℃程度に加熱されたエージング処理後のスラグの全体が80℃まで冷却されるには数時間を要してしまう。一方、20℃の乾燥空気を内部配管に流し、スラグをスラグ容器内に投入されたスラグ層内より100℃から80℃へ冷却することを考えると、スラグ層内から流出する空気の湿度が100%、温度がスラグと同じ履歴をたどると仮定した場合、理論計算では100L/min程度の圧縮乾燥空気を流すことでその冷却時間を10分とすることができる。
【0022】
本発明において、エージング処理後のスラグを80℃以下に冷却した後には、所定の圧力のCO
2含有ガス雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグを炭酸化処理する。その際、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下、好ましくは0.4MPa以上2.0MPa以下のCO
2含有ガス雰囲気にして、スラグ中の水可溶性Ca成分の炭酸化反応を行うようにするのがよい。このような加圧状態で炭酸化処理を行うことで、常圧の場合に比べて炭酸化反応を速めることができると共に、処理後のスラグから溶出されるスラグ溶出水のpHを効果的に低下させることができる。また、炭酸化処理に用いるCO
2含有ガスについては、二酸化炭素(CO
2)を含有したものであればよく、工業用の炭酸ガスをはじめ、排ガスのようなCO
2濃度が数%程度のものを用いるようにしてもよい。
【0023】
一方、鉄鋼スラグのエージング処理については、所定の圧力の水蒸気雰囲気に保持された圧力容器内でスラグ容器中の鉄鋼スラグをエージング処理する公知の加圧式蒸気エージングを行うことができる。その際、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下、好ましくは0.4MPa以上2.0MPa以下の水蒸気雰囲気で蒸気エージングするのがよい。
【0024】
このような鉄鋼スラグの処理方法を実施するにあたり、1つの圧力容器を用いて行うようにしてもよく、2以上の圧力容器を用いて行うようにしてもよい。すなわち、鉄鋼スラグのエージング処理を行う圧力容器と炭酸化処理を行う圧力容器とを共用して、鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、スラグ容器を圧力容器の外部に取り出し、又は、スラグ容器が収容された圧力容器を大気圧に開放して、スラグ容器内の鉄鋼スラグを冷却し、次いで、スラグ容器を圧力容器内に戻して鉄鋼スラグの炭酸化処理を行うようにしてもよく、或いは、エージング処理を行うエージング用圧力容器と炭酸化処理を行う炭酸化用圧力容器とを個別に用意して、エージング用圧力容器で鉄鋼スラグのエージング処理を行った後、同様にしてスラグ容器内の鉄鋼スラグを冷却して、次いで、炭酸化用圧力容器で鉄鋼スラグの炭酸化処理を行うようにしてもよい。
【0025】
なかでも、大量のスラグを工業的に処理することができるなどの観点から、好ましくは、
図1に示したような処理装置を用いるようにするのがよい。この鉄鋼スラグの処理装置は、投入開口部を有したスラグ容器1にショベルカー等を用いて鉄鋼スラグを投入するスラグ投入台2と、加圧したガスが供給されるガス配管を備えると共に、鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器1を収容して、スラグ容器中の鉄鋼スラグを加圧状態で処理することができる圧力容器3と、圧力容器3で処理した鉄鋼スラグをスラグ容器1ごと仮置きするスラグ仮置台4とが横並びに並設されており、これらに沿うように横行レール5が設置され、その上に積載された移載台車6を介して、スラグ投入台2、圧力容器3、及びスラグ仮置台4の間でスラグ容器1を移動させることができるようになっている。
【0026】
この処理装置におけるスラグ容器1には、
図2に示した例のように、複数の吹出孔8aを備えた内部配管8が配設されており、内部配管8の少なくとも吹出孔8aを備えた部分は、投入されたスラグ9によって埋設される。一方、スラグ仮置台4には、圧縮空気等の冷却用空気を供給することができる空気発生装置10が設置されており、エージング処理後にスラグ容器1をスラグ仮置台4に移動させ、スラグ容器1における内部配管8の接続端部8bに空気発生装置10を接続することで、スラグ容器中の鉄鋼スラグに冷却用空気を流して冷却することができる。すなわち、スラグ投入台2で鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器1を圧力容器3に移動させて収容し、ガス配管から供給された加圧水蒸気により所定の圧力の水蒸気雰囲気下で保持して鉄鋼スラグをエージング処理した後、スラグ容器1をスラグ仮置台4に移動させて、空気発生装置10から供給される冷却用空気をスラグ容器1の内部配管8に流して、スラグ容器中の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却することができる。
【0027】
ここで、スラグ容器1は、
図3に示したように、上部から鉄鋼スラグが投入される投入開口部13を有した略円筒状をしており、かつ、底部が開動可能となるように左右対称の2つの収容部材1a、1bにより形成されている。すなわち、左右の収容部材1a、1bは、ピボット軸12を回転中心にして底部側の開閉動作が可能であり、鉄鋼スラグの処理が全て終了した後には、スラグ容器1を
図1に示した払出ピット11に移動させて、収容部材1a、1bから形成されるスラグ容器1の開閉部14からスラグの払い出しが行われる。
【0028】
また、スラグ容器1の移動にあたり、圧力容器3の長手方向に垂直に敷設された横行レール5に対して、移載台車6には、圧力容器3の長手方向に平行に移載レール7を敷設し、この移載レール7の先端部には、例えば
図4に示したように、同じ幅で傾倒可能に接続された橋架レール7aを設けて、圧力容器3の内部に敷設された圧力容器側移載レール3aを通じて、移載台車6の移載レール7に積載されたスラグ容器1を圧力容器3内に収容したり、外部への取り出しが可能になるようにしてもよい。スラグ投入台2やスラグ仮置台4についても同様に、移載台車6に設けた橋架レール7aと接続可能なスラグ投入台側移載レール2a及びスラグ仮置台側移載レール4aを敷設して、移載台車6を介して、スラグ容器1の移動(収容及び取り出し)を可能にすることができる。更には、移載台車6の移載レール7に積載するスラグ容器1は、それ自体に車輪15を装着してもよく、昇降台車(図示外)を介して移載レール7に積載するようにしてもよい。すなわち、圧力容器3側にスラグ容器1が移動したところで、昇降台車によりスラグ容器1を持ち上げ、圧力容器3の内壁面に突設した支持部(図示外)にスラグ容器1を載せて、昇降台車は移載台車6側に戻して、圧力容器3内にスラグ容器1だけを収容するようにしてもよい。
【0029】
鉄鋼スラグを処理する圧力容器3については、
図5に示したように、開閉蓋3aを有した円筒状のものなどを用いて、内部にスラグ容器1を収容して密閉できるようにする。
図5に示した圧力容器3には、加圧した水蒸気が供給される水蒸気供給配管(ガス配管)16と、加圧したCO
2含有ガスが供給されるCO
2供給配管(ガス配管)17と、圧力容器3内の雰囲気ガスを外部に排出する排気配管18とが備え付けられており、これらの配管はいずれもバルブ19を有している。
【0030】
そして、エージング処理する際には、スラグ容器1を圧力容器3に収容して、水蒸気供給配管16と排気配管18のバルブ19を開け、水蒸気供給配管16から加圧した水蒸気を供給すると共に排気配管18から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器3内を水蒸気雰囲気に置換した上で、排気配管18のバルブ19を閉めて、水蒸気供給配管16から加圧した水蒸気を供給し、圧力容器3内を加圧状態の水蒸気雰囲気に保持して鉄鋼スラグを処理するようにすればよい。エージング処理後は上記のようにしてスラグ容器中の鉄鋼スラグを80℃以下に冷却し、次いで、スラグ容器1を圧力容器3に移動させて収容し、ガス配管から供給された加圧CO
2含有ガスにより所定の圧力のCO
2含有ガス雰囲気下で保持して鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う。すなわち、炭酸化処理の際には、CO
2供給配管17を用いてエージング処理の場合と同様にして圧力容器3内をCO
2含有ガスに置換した上で、CO
2供給配管17から加圧したCO
2含有ガスを供給して、圧力容器3内を加圧状態のCO
2含有ガス雰囲気に保持して鉄鋼スラグを処理すればよい。このように、本発明に係る処理装置によれば、鉄鋼スラグのエージング処理と炭酸化処理とを連続して処理可能にすることができる。
【0031】
この圧力容器3における排気配管18は、エージング処理において圧力容器3内を水蒸気雰囲気に置換する際に用いる水蒸気排気配管20と、炭酸化処理において圧力容器3内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際に用いるCO
2排気配管21とで個別に備えるようにしてもよい。詳しくは、
図5に示したように、水蒸気供給配管16と圧力容器3との接続口である水蒸気供給口16aが、水蒸気排気配管20と圧力容器3との接続口である水蒸気排気口20aよりも鉛直方向の上側に位置するようにして、空気より軽い水蒸気(H
2Oの分子量は18)が圧力容器3内の上方から徐々に充満して、圧力容器内の雰囲気ガス(空気)が鉛直方向の下側に位置する水蒸気排気口20aから排気されるようにする。一方で、CO
2供給配管17と圧力容器3との接続口であるCO
2供給口17aが、CO
2排気配管21と圧力容器との接続口であるCO
2排気口21aよりも鉛直方向の下側に位置するようにして、空気より重いCO
2(CO
2の分子量は44)が圧力容器3内の下方から徐々に充満して、圧力容器内の雰囲気ガス(空気)が鉛直方向の上側に位置するCO
2排気口21aから排出されるようにする。これらの接続口位置関係を有することによって、いずれも効率良く圧力容器内を所定の雰囲気に置換することができる。
【0032】
また、鉄鋼スラグのエージング処理や炭酸化処理を行うにあたり、スラグ容器1の内部配管8を利用して圧力容器3内に加圧した水蒸気やCO
2含有ガスを流すようにしてもよい。すなわち、スラグ容器1の内部配管8に加圧した水蒸気が供給されるようにして、水蒸気供給口16aから加圧した水蒸気が供給されると共に、スラグ容器1の内部配管8を通じて、投入された鉄鋼スラグに加圧した水蒸気が供給されるようにしてもよい。同様に、スラグ容器1の内部配管8に加圧したCO
2ガスが供給されるようにして、炭酸化処理の際に、CO
2供給口17aから加圧したCO
2含有ガスが供給されると共に、スラグ容器1の内部配管8を通じて、投入された鉄鋼スラグに加圧したCO
2含有ガスが供給されるようにしてもよい。
【0033】
この鉄鋼スラグの処理装置は、圧力容器とスラグ容器とをそれぞれ2以上備えて、スラグ投入台で鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を少なくとも1つの圧力容器に収容して鉄鋼スラグのエージング処理を行うと共に、エージング処理後にスラグ仮置台で鉄鋼スラグを冷却したスラグ容器を少なくとも1つの圧力容器に収容して鉄鋼スラグの炭酸化処理を行うようにしてもよい。例えば、
図6に示したように、圧力容器3を2つ並べると共にスラグ容器1を2つ用意して、スラグ投入台2で鉄鋼スラグが投入された第1のスラグ容器1_1を第1の圧力容器3_1に収容して鉄鋼スラグのエージング処理を行う間に、エージング処理後にスラグ仮置台4で鉄鋼スラグを80℃以下に冷却した第2のスラグ容器1_2を第2の圧力容器3_2に収容して、鉄鋼スラグの炭酸化処理を行うようにすることができる。圧力容器3やスラグ容器1の数を更に増やしたり、並設するスラグ仮置台4を複数にしてもよい。その際、炭酸化処理に要する時間が1〜2時間程度であるのに対して、エージング処理に要する時間が5時間程度であることから、エージング処理を行うことができる圧力容器の数をより多くして、全体的に処理する鉄鋼スラグのバランスが取れるようにしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0035】
〔試験例1〕
図1に示したような処理装置を用いて鉄鋼スラグを処理するにあたり、下記のような実験装置を用意して、表1に示す組成を有するスラグAのエージング処理、及び炭酸化処理を行った。ここで、スラグAは、銑鉄を脱リン処理と脱炭処理とに分けて精錬する精錬工程において脱リン処理で排出されたスラグであり、粒度範囲0−35mmに粒度調整されたものである。また、本発明に係る鉄鋼スラグの処理装置を模して、縦40cm×横80cm×高さ25cmの容積を有したスラグ容器1を準備した。このスラグ容器の内側には、
図2に示したように、複数の吹出孔を複数備えた内部配管が配設されており、投入されたスラグAが吹出孔から吹出される冷却用空気により冷却できるようになっている。更に、開閉蓋3bを有した直径80cm×長さ120cmの円筒状の圧力容器3(容量530L)を準備した。この圧力容器3は、地面に横向きに据え置いた際の頂上部側に水蒸気供給配管16とCO
2排気配管21とが接続され、底面部側にはCO
2供給配管17と水蒸気排気配管20とが接続されて、圧力容器3に対するこれらの接続口は上述したような接続口位置関係を有している。
【0036】
【表1】
【0037】
先ず、上記のスラグ容器1にスラグAを100kg入れ、圧力容器3にスラグ容器1ごと収容して開閉蓋3bを閉じた。そして、この圧力容器内に水蒸気供給配管16から加圧した水蒸気を供給すると共に水蒸気排気配管20から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器3内が大気圧下で水蒸気濃度が90vol%になるまで置換した。次いで、水蒸気排気配管20のバルブ19を閉めて、圧力容器3内が水蒸気により圧力0.5MPaGで維持されるようにして、スラグAの加圧式蒸気エージングを5時間行った。エージング終了後、圧力容器3内を大気圧に開放した上で、圧力容器3の開閉蓋3bを開けてスラグ容器1を取り出し、スラグ容器内に投入されたスラグAの山の表層部分の温度を測定したところ100℃であった。また、エージング終了後のスラグAは約5質量%の水分を保有していた。なお、エージング終了後のスラグAについて、JIS A5015“道路用鉄鋼スラグ”で規定される水浸膨張比を測定したところ1.2%であった。
【0038】
ここで、エージング後のスラグAの冷却が水分の蒸発によってのみ成されると仮定して、このスラグAが100℃から80℃に冷却されるのに必要な水分蒸発量を算出し、その水分が蒸発するのに必要な冷却用乾燥空気の必要流量を計算により求めると以下のとおりである。
先ず、上記の関係について熱バランスをとると下記のようになる。
「スラグの冷却熱(Kcal:100℃⇒80℃)=水の蒸発熱(Kcal)+空気の持ち去る熱(Kcal)」 ・・・(1)
このとき、乾燥空気(湿度0wt%)の入側温度は20℃、出側温度はスラグ温度、湿度は100%とする。そして、飽和水蒸気量の計算には下記式(2)に示すアントワンの式(Antoine式)を用いて飽和水蒸気圧を算出し、式(3)に示した気体の状態方程式から、単位体積当たりの水蒸気質量(m/V:g-H
2O/Nm
3)へ変換する。一方、大気圧と飽和水蒸気圧の差が空気分圧だとすれば、単位体積当たりの空気量(g-Air/Nm
3)を算出できる。以上より、単位空気当たりの水蒸気放出量(g-H
2O/g-Air)を計算できる。この関係と式(1)の熱バランスを満たすよう冷却に必要な乾燥空気流量を算出した。
【数1】
(但し、A=8.02754、B=1705.616、C=231.405、p=4.881558303mmHgであり、Tは℃を表す。)
【数2】
〔但し、P:圧力(Pa)、V:体積(Nm
3)、m:水蒸気又は空気の質量(g)、M:水又は空気の分子量(18又は28)、R:ガス定数、T:温度(K)である。〕)
【0039】
上述の計算手法で示したように、エージング後の温度100℃のスラグAを80℃まで冷却する際に発生する水蒸気量は1.14Nm
3であり、例えば、その冷却に必要な冷却用乾燥空気量は550Lである。すなわち、スラグ容器内のスラグAの全体に冷却用空気を流すことができるとして、圧縮空気により50L/minの冷却用空気を流せば、理論上約10分で80℃まで冷却することができることになる。仮にスラグAに対して十分に冷却空気が流れずに、50L/minの圧縮空気の10%しか流れないとした場合には、80℃まで冷却するのに100分の冷却時間が必要となる。なお、計算に用いた詳細条件は表2に示したとおりである。
【0040】
【表2】
【0041】
ちなみに、内部配管から冷却用空気を流さずに、スラグ容器内に投入された状態でスラグをそのまま放置した場合、表面に露出せずに内部に積まれたスラグには空気がほとんど流れずに、スラグ粒子間に存在する空気は直ぐに湿度が100%になるため、水分の蒸発によるスラグの冷却は進まず、冷却はすべてスラグ層表面からの伝熱のみによりなされることになる。攪拌を行えばスラグ層内の空気の入れ替えが発生し冷却時間が飛躍的に短くなるが、処理規模が大きくなると時間と労力がかかる。実績では、1500トンのスラグを4tのホイールローダー1台による攪拌により90℃から80℃に冷却するのに12時間を要する。この場合、理論計算では1.4tの水蒸気を蒸発させる必要があるが、スラグ容器内に配設された内部配管を介してスラグ層内に50Nm
3/minの流量の乾燥空気を流せば、約2時間で乾燥を終了することができる。
【0042】
そして、エージング後のスラグAが入れられたスラグ容器1の内部配管8に対して、50L/minの圧縮空気を流して3時間冷却したところ、スラグ容器1内の全てのスラグの温度が80℃以下に低下した。
【0043】
次に、上記のようにしてスラグAを冷却した後のスラグ容器1を再び圧力容器3に収容して開閉蓋3bを閉じ、この圧力容器内にCO
2供給配管17から加圧したCO
2ガス(濃度100vol%)を供給すると共にCO
2排気配管21から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器3内が大気圧下でCO
2濃度が80vol%になるまで置換した。次いで、CO
2排気配管21のバルブ19を閉めて、圧力容器3内がCO
2ガスにより圧力0.02MPaGで維持されるようにして、60分間スラグAを炭酸化反応させた。炭酸化終了後、圧力容器3内を大気圧に開放した上で、圧力容器3の開閉蓋3bを開けてスラグ容器1を取り出して処理を終了した。
【0044】
炭酸化終了後のスラグAについて、水中に入れて炭酸化処理後のスラグAから溶出されるスラグ溶出水のpHを測定した。このpH測定にあたっては、JIS K0058-1を参考にして、スラグ40g(S)と純水1リットル(L)とを混合し(液固比:L/S=25)、150rpmの回転速度で溶液部分を攪拌しながら24時間静置した後、ガラス電極式pH計を用いて測定した。その結果、炭酸化処理前のスラグAのスラグ溶出水のpHが約12であったのに対して、この試験例で得られた炭酸化終了後のスラグAのスラグ溶出水のpHはpH=10.4まで低下していた。
【0045】
以上のように、本発明によれば、エージング処理後のスラグを短時間で冷却できて、引き続き炭酸化処理を施すことができるようになる。しかも、本発明によれば、エージング処理と炭酸化処理との間でスラグの積み替え作業や搬送の手間を省いたり、これらの処理の途中でスラグを一時的に保管するための保管場所や保管設備が不要になることから、従来の方法に比べて効率良くスラグを処理することができるようになる。
【符号の説明】
【0046】
1:スラグ容器、1a,1b:収容部材、2:スラグ投入台、2a:スラグ投入台側移載レール、3:圧力容器、3a:圧力容器側移載レール、4:スラグ仮置台、4a:スラグ仮置台側移載レール、5:横行レール、6:移載台車、7:移載レール、7a:橋架レール、8:内部配管、8a:吹出孔、8b:接続端部、9:スラグ、10:空気発生装置、11:払出ピット、12:ピボット軸、13:投入開口部、14:開閉部、15:車輪、16:水蒸気供給配管(ガス配管)、16a:水蒸気供給口、17:CO
2供給配管(ガス配管)、17a:CO
2供給口、18:排気配管、19:バルブ、20:水蒸気排気配管、20a:水蒸気排気口、21:CO
2排気配管、21a:CO
2排気口、22:ショベルカー。