【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究領域「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Angew. Chem. Int. Ed.,2010年,49,5510-5514
【文献】
Journal of Organometallic Chemistry,2003年,688(1-2),100-111
【文献】
Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry(1972-1999),1976年,(5),399-404
【文献】
Journal of the Chemical Society [Section] A: Inorganic, Physical, Theoretical,1969年,(12),1749-53
【文献】
Journal of the American Chemical Society,2014年,136(38),13217-13225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.第1の態様(製造方法)
本発明の第1の態様におけるアルコールの製造方法は、ルテニウム錯体の存在下に、水素雰囲気下でカルボン酸化合物を水素化する工程を備える。
【0034】
(1)ルテニウム錯体
第1の態様における本発明で使用するルテニウム錯体は、一般式(1):
RuX
nY
pZ
q
[式中、Xは
【0036】
(式中、R
1は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基であり、A
1及びA
2は同じか又は異なり、O、NR
4(ここで、R
4は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基である)、又はSであり、mは1以上の整数である。実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である。)で示される基であり、Yは、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を有するホスフィン配位子であり、ZはX及びY以外の配位子であり、nは1又は2であり、pは1〜4の整数であり、qは0〜2の整数である。]
で示される化合物である。
【0037】
第1の態様における本発明で使用するルテニウム錯体中におけるルテニウムの価数は、何価でもよいが、2価又は3価が好ましく、2価がより好ましい。なお、反応系中で、ルテニウムの価数が不明な場合も含むものとする。
【0040】
(式中、R
1は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基であり、A
1及びA
2は同じか又は異なり、O、NR
4(ここで、R
4は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基である)、又はSであり、mは1以上の整数である。実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である。)で示される基である。
【0041】
R
1としては、例えば、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基等が挙げられる。
【0042】
R
1で示されるアルキル基として、例えば、炭素数が1〜20の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、特に1〜4が好ましい。アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0043】
R
1で示されるアルキル基が置換されている場合における置換基は特に制限されない。このような置換基として、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;アミノ基;ヒドロキシ基;シアノ基;トリメチルシリル基等のシリル基;チオール基等が挙げられる。置換基で置換されている場合の置換基の数は、例えば1〜3個程度とすることができる。
【0044】
R
1で示されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピレニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、ピリジル基、フリル基、チオフェニル基、ピロリル基等が挙げられる。
【0045】
R
1で示されるアリール基が置換されている場合における置換基は特に制限されない。このような置換基として、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;アミノ基;ヒドロキシ基;シアノ基;トリメチルシリル基等のシリル基;チオール基等が挙げられる。置換基で置換されている場合の置換基の数は、例えば1〜3個程度とすることができる。
【0046】
これらのなかでも、R
1としては非置換アルキル基及び非置換アリール基が好ましい。非置換アルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基等がより好ましく、非置換アリール基として、フェニル基がより好ましい。
【0047】
A
1及びA
2は同じか又は異なり、O、NR
4、又はSである。
【0048】
ここで、NR
4のR
4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基である。R
4で示される置換されていてもよいアルキル基として、上記R
1としての置換されていてもよいアルキル基と同様のものが挙げられ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が好ましい。また、R
4で示される置換されていてもよいアリール基として、上記R
1としての置換されていてもよいアリール基と同様のものが挙げられ、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が好ましい。NR
4として、具体的には、NH、NCH
3、NC
6H
5等が挙げられ、NHが好ましい。
【0049】
A
1とA
2との組み合わせとして、OとO、NR
4とNR
4、SとS、OとNR
4、OとS等が挙げられ、A
1及びA
2がいずれもOである組み合わせが好ましい。
【0050】
一般式(1)において、mは1以上の整数であり、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、1〜3の整数が好ましく、1又は3がより好ましい。
【0053】
(R
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である)
等で示される基が好ましく、これらのなかでも、
【0055】
(R
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である)
等で示される基がより好ましい。Xとして、上記式において、R
1が、メチル基、エチル基、又はn−プロピル基であるものが好ましく、−OC(CH
3)O−(アセタト)が特に好ましい。
【0056】
一般式(1)において、Yは、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を有するホスフィン配位子である。このような配位子としては、単座配位子、二座配位子、三座配位子及び四座配位子のいずれも使用できるが、単座配位子又は二座配位子が好ましい。
【0057】
置換されていてもよいアルキル基としては、上記R
1としての置換されていてもよいアルキル基と同様のものが挙げられ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が好ましい。
【0058】
置換されていてもよいアリール基としては、上記R
1としての置換されていてもよいアリール基と同様のものが挙げられ、フェニル基、ナフチル基、ピレニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、ピリジル基、フリル基、チオフェニル基、ピロリル基等が好ましい。
【0059】
本発明で使用できる、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を有するホスフィン配位子Yとして、具体的には、単座配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィン、トリ(4−フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(2−トリル)ホスフィン、トリ(3−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリル)ホスフィン、トリス[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィン、トリ(4−アニシル)ホスフィン、トリ(2,4−キシリル)ホスフィン、トリ(3,5−キシリル)ホスフィン、トリ(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−メトキシフェニル)ホスフィン等のトリアリールホスフィン等が挙げられ、二座配位子としては、ビスジフェニルホスフィノメタン(dppm)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン(dpppn)、1,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン(dpphe)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)、2,2’−ビス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−メトキシブチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−イソプロピルフェニル)ホスフィノ)ブタン等が挙げられ、三座配位子としては、ビス(2−ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン、1,1,1−トリス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノメチル)エタン等が挙げられ、四座配位子としては、トリス(2−ジフェニルホスフィノエチル)ホスフィン等が挙げられる。なかでも、単座又は二座配位子が好ましく、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリ(3,5−キシリル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジ−メトキシフェニル)ホスフィン、ビスジフェニルホスフィノメタン(dppm)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン(dpppn)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)、2,2’−ビス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、ビス(ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−メトキシブチルフェニル)ホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ビス(3,5−ジ−イソプロピルフェニル)ホスフィノ)ブタン等が好ましい。
【0060】
これらの配位子Yは、仕込むルテニウム錯体中に含まれていてもよいし、系中でルテニウム錯体に形成されてもよい。
【0061】
一般式(1)において、Zで示される配位子は、X及びY以外の配位子であり、Ruに配位し得るものであれば特に制限はない。具体的には、水素原子(ヒドリド;H
−)、酸素原子(オキソ基;O
2−)、水分子(H
2O)、一酸化炭素(CO)、芳香族炭化水素(ベンゼン、ナフタレン、ピレン、シクロペンタジエン、p−シメン等)、低級アルコキシ基(メトキシ基等のC1〜4アルコキシ基等)、β−ジケトネート(アセチルアセトン等)、ジメチルスルホキシド、一酸化窒素(NO)、不飽和炭化水素(シクロオクタジエン、アセチレン、2−メチルアリル等)、シアン化物イオン(
−CN)、チオシアネート(NCS
−)、アミン(アンモニア、トリエチルアミン等)、ヘテロ環式化合物(ピリジン、チオフェン、THF)、カルボニル化合物(ホルムアルデヒド、アセトン、酢酸エチル、DMF等)、ホスフィンオキシド、ニトリル(アセトニトリル等)、窒素分子(N
2)、水素分子(H
2)、酸素分子(O
2)、二酸化炭素(CO
2)、N−ヘテロ環状カルベン、トリフラート(CF
3SO
3−)、トシラート(p−CH
3C
6H
4SO
3−)、トリフリルイミド((CF
3SO
2)
2N
−)等が挙げられ、水分子(H
2O)、一酸化炭素(CO)、芳香族炭化水素(シクロペンタジエン、p−シメン等)、1,3−ジケトン(アセチルアセトン等)、ジメチルスルホキシド、シクロオクタジエン等が好ましい。
【0062】
一般式(1)において、nは1又は2であり、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、2が好ましい。
【0063】
一般式(1)において、pは1〜4の整数であり、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、1又は2が好ましい。
【0064】
一般式(1)において、qは0〜2の整数であり、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0065】
なお、ルテニウム原子に配位するリン原子の数は、ルテニウム原子の2〜4倍が好ましく、2〜3倍がより好ましい。
【0066】
本発明で使用するルテニウム錯体の好ましい例としては、例えば、一般式(1A):
RuX
nY
p
[式中、Xは
【0068】
(式中、R
1は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基であり、A
1及びA
2は同じか又は異なり、O、NR
4(ここで、R
4は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基である)、又はSであり、mは1以上の整数である。実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である。)で示される基であり、Yは、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を有するホスフィン配位子であり、nは1又は2であり、pは1〜4の整数である。]
で示される化合物(以下、ルテニウム錯体(1A)と言うこともある)が挙げられる。
【0069】
一般式(1A)において、X、Y、n、及びpは前記に同じである。
【0070】
このようなルテニウム錯体(1A)の好ましい例としては、例えば、一般式(1A−1):
【0072】
[式中、R
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、R
2及びR
3は同じか又は異なり、それぞれ置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、1個のR
2と1個のR
3とは互いに結合し、隣接する−P−Ru−P−とともに環を形成してもよい。実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である。]
で示される化合物(以下、ルテニウム錯体(1A−1)と言うこともある)が挙げられる。
【0073】
一般式(1A−1)において、R
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。置換されていてもよいアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。置換されていてもよいアリール基として、フェニル基、ナフチル基、ピレニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、ピリジル基、フリル基、チオフェニル基、ピロリル基等が挙げられる。R
1として好ましくは、水素原子、メチル基、フェニル基、キシリル基等である。
【0074】
一般式(1A−1)において、R
2及びR
3は、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。置換されていてもよいアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。置換されていてもよいアリール基として、フェニル基、ナフチル基、ピレニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、ピリジル基、フリル基、チオフェニル基、ピロリル基等が挙げられる。R
2及びR
3として好ましくは、メチル基、フェニル基、キシリル基等である。
【0075】
ただし、1個のR
2と1個のR
3とは互いに結合し、隣接する−P−Ru−P−とともに環を形成してもよい。環を形成する場合、形成し得る環は、特に制限はないが、具体的には、
【0077】
[R
2及びR
3は同じか又は異なり、前記に同じである。]
等が挙げられる。
【0078】
このように環を形成する場合も、R
2及びR
3は、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。置換されていてもよいアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられ、置換されていてもよいアリール基として、フェニル基、ナフチル基、ピレニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、ピリジル基、フリル基、チオフェニル基、ピロリル基等が挙げられる。R
2及びR
3として、メチル基、キシリル基、フェニル基等が好ましい。
【0079】
上記で説明したルテニウム錯体(1A−1)としては、例えば、
【0081】
[Arは3,5−キシリル基を示し、Phはフェニル基を示す;以下同様]
等が挙げられ、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、ルテニウム錯体(1A−1a)、ルテニウム錯体(1A−1b)等が好ましい。
【0082】
本発明で使用されるルテニウム錯体としては、ルテニウム錯体(1A−1)が好ましく、なかでも、ルテニウム錯体(1A−1a)及びルテニウム錯体(1A−1b)が特に好ましい。
【0083】
このようなルテニウム錯体は、公知又は市販のものを用いてもよいし、合成してもよい。
【0084】
(2)水素化反応
本発明の製造方法では、具体的には、ルテニウム錯体の存在下に、基質(カルボン酸化合物)に水素を添加して水素化反応を引き起こし、アルコールを得る。
【0085】
反応に供される基質としては、カルボン酸化合物であれば特に制限はなく、広範なカルボン酸化合物を使用できる。この点において、本発明は、特殊な基質に対してしか水素化反応を起こすことができず、また、基質によって錯体を変える必要が生じる従来技術と比較して有用である。
【0086】
本発明においては、カルボキシル基を1個のみ有するカルボン酸のみならず、これらの基を複数有するカルボン酸化合物も、水素化反応を引き起こしてアルコールを得ることができる。つまり、分子内エステル化し得ないようなカルボン酸も含めて、種々多様なカルボン酸化合物を水素化してアルコールを得ることもできる。
【0087】
なお、基質がカルボキシル基以外に官能基(ケトン基、エーテル基、エステル基、アミド結合、二重結合等)を有する場合は、カルボキシル基と同様に水素化させることもできるし、カルボキシル基以外の官能基を保護し、カルボキシル基のみを水素化(還元)することもできる。官能基の保護は、常法に従い行うことができる。基質がカルボキシル基を複数有する場合も同様である。本発明は、特に、従来の方法では水素化することが難しかったアミノ酸誘導体を水素化してアルコールを得ることができる。さらに、アミノ酸誘導体がキラリティーを有する場合には、得られたアルコールにおいてもキラリティーがある程度保たれている。
【0088】
ただし、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、カルボキシル基以外の官能基を有さないことが好ましく、カルボキシル基を1個のみ有し、他の官能基を有さないカルボン酸化合物がより好ましい。
【0089】
このような基質としては、広範なカルボン酸化合物を使用できるが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、4−トリフルオロメチル安息香酸、3−フェニルプロピオン酸、ケイ皮酸、1−アダマンタンカルボン酸、フェノキシ酢酸、スベリン酸モノメチル、3−(4−メトキシカルボニル)フェニル)アクリル酸、5−(ベンゾイル)吉草酸、4−(2−チエニル)ブタン酸、3−シクロヘキシルプロピオン酸、3−(4−クロロフェニル)アクリル酸、ギ酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、マロン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、セバシン酸、キシロン酸、グルタル酸、イタコン酸、レブリン酸、アコニチン酸、クエン酸、グルコン酸、グルカル酸、リジン、グルタミン酸、2,5−フランジカルボン酸、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、2−(1−ピロリル)プロパン酸、2−(1−ピロリル)−3−フェニルプロパン酸、2−(1−ピロリル)−4−メチルペンタン酸等を使用できる。
【0090】
ルテニウム錯体の使用量は、基質(カルボン酸化合物)の種類により適宜選択することが可能であり、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、例えば、基質(カルボン酸化合物)1モルに対して、通常、0.0001〜1モル程度、好ましくは0.001〜0.1モル程度、より好ましくは0.003〜0.07モル程度とすることができる。
【0091】
本発明の水素化は、溶媒中で行うことが好ましい。
【0092】
溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン(1,4−ジオキサン等)、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム等のエーテル;ベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等の分岐状C3〜C6アルコール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのうち、エーテル、芳香族炭化水素又はC3〜C6アルコールが好ましく、ジオキサン、トリフルオロメチルベンゼン、トルエン、メシチレン、tert−ブチルアルコール等がより好ましく、ジオキサン、トルエンが特に好ましい。
【0093】
本発明の水素化工程では、基質(カルボン酸化合物)に対して水素を添加するが、水素としては水素ガスを用いることができる。水素化中の水素の分圧(水素圧)は、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、通常、0.1〜8MPa程度、好ましくは0.5〜6MPa程度、より好ましくは1〜4MPa程度とすることができる。
【0094】
反応温度及び反応時間は、基質(カルボン酸化合物)の種類により変動し得るが、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、反応温度は、通常、0〜190℃程度、好ましくは10〜170℃程度、より好ましくは20〜160℃程度とすることができる。反応時間は、水素化(還元)におけるアルコールの収率の観点から、通常、10分〜100時間程度、好ましくは1〜50時間程度とすることができる。本反応では、通常、オートクレーブ等を用いることができる。
【0095】
本発明の水素化では、水素の存在下又は非存在下にルテニウム錯体を反応させた後、水素の存在下に基質(カルボン酸化合物)を反応させることもできる。ルテニウム錯体の反応により、一旦水素化還元能の高い触媒活性種が調製されるため、これと基質(カルボン酸化合物)を反応させることにより効率よく水素添加反応物を得ることができる。この場合、いずれの反応においても、条件は上記と同様とすることができる。
【0096】
反応終了後は、通常の単離及び精製工程を経て、水素添加反応物(アルコール)を得ることができる。
【0097】
2.第2の態様(新規ルテニウム錯体)
上記で説明した本発明の製造方法で使用するルテニウム錯体のうち、一般式(1A−1’):
【0099】
[式中、R
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、R
2及びR
3は同じか又は異なり、それぞれ置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である(ただし、R
2及びR
3とが結合し、隣接する−P−Ru−P−とともに環を形成することはない)。実線と破線とで示される結合は、単結合又は二重結合である。]
で示される化合物は、文献未記載の新規化合物である。ルテニウム錯体(1A−1’)として、例えば、
【0102】
この化合物群は、カルボン酸化合物を水素化反応させて、アルコールを製造するための触媒として用いることができる。特に、本発明の製造方法に用いることができる。
【0103】
以下、本発明の新規ルテニウム錯体は、例えば、以下の反応式:
【0105】
[式中、X
1〜X
4は同じか又は異なり、それぞれハロゲン原子であり、及びR
1’〜R
4’は同じか又は異なり、それぞれ置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり;X
5は同じか又は異なり、それぞれハロゲン原子であり、X
1〜X
4のいずれかと同じ;R
6’は同じか又は異なり、それぞれ置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、一般式(1A−1’)のR
2及びR
3と同じである。]
にしたがって合成したルテニウム原子を2つ有する錯体(前駆体)を合成する第1工程、及び得られた前駆体をR
1−CO
2M(M:アルカリ金属)と反応させる第2工程により製造することができる。
【0106】
(1)第1工程
第1工程において、ルテニウム原子を2つ有する錯体(前駆体)を製造する。
【0107】
原料として使用するRuX
53で示される化合物は、ルテニウムハロゲン化物である。式中、X
5はいずれもハロゲン原子であり、その具体例は上述したものが挙げられる。また、X
5は、得られる前駆体におけるX
1〜X
4のいずれかと同じものである。
【0108】
このようなルテニウムハロゲン化物としては、具体的には、RuCl
3、RuBr
3、RuF
3、RuI
3等が使用できる。これらは、そのまま用いてもよいし、水和物又は溶媒和物として用いてもよい。
【0109】
また、配位子として使用するPR
6’3は、上記説明した置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を有するホスフィン配位子Yと同じものである。また、R
6’は、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、最終的に得られる新規ルテニウム錯体(1A−1’)におけるR
2及びR
3と同じものである。
【0110】
配位子PR
6’3の使用量は、ルテニウムハロゲン化物に対して過剰量とすることが好ましく、具体的には、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、ルテニウムハロゲン化物1モルに対して、通常、2〜100モル、好ましくは3〜50モル、より好ましくは4〜20モルとすることができる。
【0111】
この反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のC1〜C6アルコール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのうち、芳香族炭化水素又はC1〜C6アルコールが好ましく、直鎖状C1〜C6アルコールがより好ましく、メタノール、エタノール等が特に好ましい。
【0112】
反応雰囲気は、特に制限されないが、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。具体的には、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等とすればよい。
【0113】
反応温度及び反応時間は、ルテニウムハロゲン化物の種類により変動し得るが、収率の観点から、反応温度は、通常、0〜190℃程度、好ましくは10〜170℃程度、より好ましくは20〜160℃程度とすることができる。反応時間は、収率の観点から、通常、10分〜50時間程度、好ましくは20分〜30時間程度とすることができる。本反応では、通常、オイルバス等を用いることができる。
【0114】
反応終了後は、通常の単離を経て、上記前駆体を得ることができる。必要であれば、単離した後に、通常の精製工程を行ってもよい。
【0115】
(2)第2工程
第2工程において、第1工程で得られた前駆体から新規ルテニウム錯体を製造する。
【0116】
R
1−CO
2M(M:アルカリ金属)のR
1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、その具体例は上述したものが挙げられる。また、R
1は、最終的に得られる新規ルテニウム錯体におけるR
1と同じものである。Mはアルカリ金属であり、例えばナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0117】
R
1−CO
2Mとして、具体的には、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロパン酸ナトリウム、プロパン酸カリウム、ブタン酸ナトリウム、ブタン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、3−フェニルプロピオン酸ナトリウム、3−フェニルプロピオン酸カリウム、4−トリフルオロメチル安息香酸ナトリウム、4−トリフルオロメチル安息香酸カリウム、4−tert−ブチル安息香酸ナトリウム、4−tert−ブチル安息香酸カリウム等が挙げられる。
【0118】
R
1−CO
2Mの使用量は、第1工程で得られた前駆体に対して過剰量とすることが好ましく、具体的には、カルボン酸化合物の水素化(還元)によるアルコールの収率の観点から、前駆体1モルに対して、通常、2〜100モル程度、好ましくは3〜50モル程度、より好ましくは10〜30モル程度とすることができる。
【0119】
この反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、等のC1〜C6アルコール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのうち、C1〜C6アルコールが好ましく、分岐状アルコールがより好ましく、tert−ブチルアルコール等が特に好ましい。
【0120】
反応雰囲気は、特に制限されないが、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。具体的には、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等とすればよい。
【0121】
反応温度及び反応時間は、前駆体の種類により変動し得るが、収率の観点から、反応温度は、通常、0〜150℃程度、好ましくは10〜130℃程度、より好ましくは20〜90℃程度とすることができる。反応時間は、収率の観点から、通常、10分〜10時間程度、好ましくは20分〜2時間程度とすることができる。本反応では、通常、オイルバス等を用いることができる。
【0122】
反応終了後は、通常の単離及び精製工程を経て、新規ルテニウム錯体を得ることができる。
【実施例】
【0123】
次いで、実施例を挙げて本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
[合成例1:ルテニウム錯体bの合成]
(1)ルテニウム錯体([P(3,5-xylyl)
3]
2ClRu(μ-H
2O)(μ-Cl)
2RuCl[P(3,5-xylyl)
3]
2)の合成
【0125】
【化17】
【0126】
アルゴンガス雰囲気下、75mLのヤングストップコックを備えた容器に、塩化ルテニウム水和物(RuCl
3・nH
2O:Ru含有量41.91wt%、241.7mg、1.0mmol)、脱気し、アルゴンをパージしたエタノール(20mL)、及び磁気撹拌子を収容した。混合物を90℃で15分間攪拌し、室温まで冷却した。この反応混合物に、トリ(3,5−キシリル)ホスフィン(2.08g、6.0mmol)及び脱気したエタノール(3mL)を加え、攪拌せずに90℃で19時間加熱すると赤味を帯びた褐色の結晶が得られた。母液の温度が室温まで冷却される前に、アルゴンガス雰囲気下でこの結晶をろ過により採取し、脱気したクロロホルム(3×20mL)及び脱気したジエチルエーテル(3×10mL)で洗浄し、真空で乾燥させることにより上記ルテニウム錯体(721.8mg、0.41mmol、収率83%)を得た。なお、結晶構造中にエタノールが含まれる。
【0127】
得られたルテニウム錯体のスペクトルデータは以下の通りであった。なお、ルテニウム錯体の
1H NMR及び
13C NMRを25℃で測定すると1セットの複雑な幅広いピークが得られたので、代わりに75℃で測定した。
1H NMR (600 MHz, C
6D
6, 75℃) δ 1.93 (bs, 36H, 12CH
3), 2.01 (bs, 36H, 12CH
3), 3.53 (bs, 2H, H
2O), 6.66-6.80 (m, 12H, 12Me
2C
6H
2H), 7.38 (bs, 12H, 12Me
2C
6H
2H), 7.58 (bs, 12H, 12Me
2C
6H
2H);
13C NMR (151 MHz, C
6D
6, 75℃) δ 21.3 (12C), 21.4 (12C), 130.0-131.8 (m, 12C), 132.3-134.8 (m, 24C), 135.2-137.5 (m, 36C);
31P{
1H} NMR(243 MHz, C
6D
6) δ 52.2 (d,
2J
PP = 39.5 Hz), 61.2 (d,
2J
PP = 39.5 Hz);
IR (KBr): 3417 (m), 3021 (m), 2993 (m), 2948 (m), 2916 (s), 2859 (m), 1955 (w), 1598 (m), 1582 (m), 1455 (m), 1415 (m), 1375 (w), 1271 (w), 1169 (w), 1131 (s), 1038 (w), 994 (w), 849 (m), 694 (s);
HRMS (ESI, {Ru[P(3,5-xylyl)
3]
2Cl}
+) calcd for C
48H
54ClP
2Ru
+: 829.2427. Found m/z = 829.2434;
elemental analysis calcd (%) for C
96H
110Cl
4OP
4Ru
2・C
2H
6O: C 65.62, H 6.52; found: C 65.69, H 6.45.
【0128】
(2)ルテニウム錯体b(Ru (OC(CH
3)O)
2[P(3,5-xylyl)
3]
2)の合成
アルゴンガス雰囲気下、75mLのヤングストップコックを備えた容器に、上記(1)で得られたルテニウム錯体(できるだけ細かく粉砕したもの、174.4mg、0.10mmol)、酢酸ナトリウム(163.3mg、2.0mmol)、及び脱気し、アルゴンをパージしたtert−ブチルアルコール(25mL)、及び磁気撹拌子を収容した。混合物を90℃で2時間攪拌し、室温まで冷却した。混合物をセライト(登録商標)パッドでろ過して白色残渣を取り除き、アルゴンガス雰囲気下で少量のtert−ブチルアルコールで洗浄した。オレンジ色の沈殿が生成するまで溶液を減圧下で濃縮した。オレンジ色の沈殿が再び溶解するまで、オイルバスを用いてスラリーを90℃で攪拌及び加熱し、次いでオレンジ色の結晶を得るためにオイルを加熱するのを停止した。14時間後、オレンジ色の結晶をろ過により採取し、水及びtert−ブチルアルコールで洗浄し、真空で乾燥させることにより上記ルテニウム錯体b(90.1mg、0.099mmol、収率49%)を得た。
【0129】
得られたルテニウム錯体bのスペクトルデータは以下の通りであった。
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 1.42 (s, 6H, 2CH
3COO), 2.11 (s, 36H, 6(CH
3)2Ph), 6.80-6.89 (m, 18H, 6Me
2C
6H
3);
13C NMR (151 MHz, CDCl
3) δ 21.3 (12C), 23.3 (2C), 130.4 (6C), 132.1 (t,
2J
PC = 4.34 Hz, 12C), 134.9-135.7 (m, 6C), 136.2 (t,
3J
PC = 4.33 Hz, 12C), 187.7 (2C);
31P{
1H} NMR (243 MHz , CDCl
3) δ 62.9;
HRMS (ESI, {Ru[P(3,5-xylyl)
3]
2(OAc)(CH
3CN)}
+) calcd for C
52H
60NO
2P
2Ru
+: 894.3137. Found m/z = 894.3158;
IR (KBr): 3447 (w), 3023 (w), 2992 (w), 2947 (w), 2916 (m), 2858 (w), 1599 (w), 1583 (w), 1517 (m, κ
2-OCO
asym),
6,71458 (s, κ
2-OCO
sym),
6,7 1414 (m), 1376 (w), 1129 (s), 1038 (w), 943 (w), 848 (m), 691 (s);
elemental analysis calcd (%) for C
52H
60O
4P
2Ru: C 68.48, H 6.63; found: C 68.15, H 6.61.
【0130】
実施例1
【0131】
【化18】
【0132】
以下の方法により、3−フェニルプロピオン酸の還元(水素化)を行った。
【0133】
ガラス製のチューブに、3−フェニルプロピオン酸(150.2mg、1.0mmol)、合成例1で得たルテニウム錯体b(18.2mg、0.020mmol)、及び磁気撹拌子を収容した。このガラス製のチューブをオートクレーブ内に挿入し、オートクレーブをかたく閉じ、真空下で蒸発させ、アルゴンガスで満たした。アルゴンガスを流し続けながら混合物に脱水トルエン(3.0mL)を加え、オートクレーブの内部を水素ガス(P
H2 = 1.5MPa)で数回パージした。オートクレーブを25℃で水素ガス(P
H2 = 1MPa)により加圧し、攪拌しながら(1000rpm) 160℃で24時間加熱した。オートクレーブを氷水浴中で0℃に冷却した。反応混合物をクロロホルムとともに100mLの丸底フラスコに移し、減圧下(約35mmHg、40℃)で濃縮した。残渣をCDCl3で希釈し、
1H NMRにより分析した。3−フェニルプロピルアルコール及び3−フェニルプロピオン酸1−(3−フェニルプロピル)の収率(それぞれ35%及び18%)は、内部標準物質(メシチレン)に対するこれらの化合物のシグナル間の積分比に基づいて計算した。
【0134】
本実施例1の結果は、後述する表1のエントリー5に相当する。
【0135】
実施例2
上記実施例1において、ルテニウム錯体、添加剤、溶媒、及び水素化条件(水素圧及び反応時間)について、ルテニウム錯体は3mol%添加し、それ以外は表1に記載された条件を採用し、実施例1と同様にして還元(水素化)を行った。なお、合成例1で合成したルテニウム錯体b以外の原料は、市販品又は公知の方法により合成したものを使用した。その結果を表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
実施例3
上記実施例1において、基質(カルボン酸)、ルテニウム錯体、添加剤、溶媒、及び水素化条件(水素圧及び反応時間)について、表2に記載された条件を採用すること以外は、実施例1と同様にして還元(水素化)を行った。その結果を表2に示す。なお、表2のエントリー1は表1のエントリー13に相当し、表2のエントリー2は表1のエントリー4に相当し、表2のエントリー3は表1のエントリー1に相当し、表2のエントリー4は表1のエントリー2に相当する。
【0138】
【表2】