【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日(開催日):平成27年2月17日(平成26年度近畿大学薬学部創薬科学科卒業研究発表会) 公開された場所:学校法人近畿大学39号館2階 201講義室
【文献】
Mark Feldman et al.,Comparative Evaluation of Two Structurally Related Flavonoids, Isoliquiritigenin and Liquiritigenin, for Their Oral Infection Therapeutic Potential,Journal of Natural Products,2011年,vol.74,p.1862-1867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年口臭に悩みを抱える人々が増加している。その多くは歯科・口臭外来を受診し治療を受けるが、口臭の発症には様々な要因があるため、改善しないケースも多いと言われている。
【0003】
口臭には糖尿病や肝疾患などの全身病変由来のものと、歯周病や虫歯などの口腔病変由来のものがあるとされ、全身と口腔局所の病変に分けた治療が行われている。
【0004】
口腔病変に起因する口臭の最大の原因は歯周病であることが明らかにされている。歯周病は歯周病菌感染に伴う歯周組織の破壊を特徴とする病態である。歯周病が進行すると、歯周組織が細菌の温床になって、さらに細菌感染が進行し、口臭の原因物質が産生されるという悪循環に陥る。従って、歯周病菌の増殖を抑制するとともに歯周病の発症及び進行を抑制することは口臭の抑制につながると考えられる。
【0005】
歯周病における歯周組織の破壊は、歯肉の構造維持に重要な役割を担う結合組織の主成分であるコラーゲンの分解に起因する場合が多いとされている。細胞由来のコラゲナーゼについて、コラーゲンの分解は細菌の侵入が引き金となり、歯肉線維芽細胞より産生・放出されるマトリックスメタロプロテアーゼ‐1(MMP−1)によって促進される。
従って、コラゲナーゼ阻害作用や線維芽細胞からのMMP−1放出抑制作用を有する素材は歯周病の進行を抑制することにより口臭を軽減できると考えられる。
【0006】
このような観点から、口臭の予防あるいは治療を目的とした安全な、つまり天然由来の活性成分を含む口腔ケア化粧品の開発が望まれている。
【0007】
これまで、歯周病菌に有効な天然資源が報告されている(例えば非特許文献1及び2)。
しかし、これらの発明は歯周病菌に対する抗菌作用を有するものであり、歯周組織におけるコラーゲンの破壊を抑制する成分は含まれていないという問題点を有する。
【0008】
一方、アーユルヴェーダ医学はインドにおける伝統医学であり、近年その治療法や経験値が応用されている。
アーユルヴェーダ医学では、歯磨きに“歯木”と称される天然物素材が使われている。歯木による歯磨きは、磨くことによって物理的に口に生じた汚れを除くことができるが、それだけではなく、歯木は甘味、苦味、渋味及び辛味のいずれかを持つものだけが用いられていたことから化学的にも口臭の原因を除去していた可能性が考えられる。
【0009】
「歯木」の口腔製品への応用例として下記特許文献1乃至3が挙げられる。
特許文献1には、歯木として使用されるヤナギ科のポプルス属及びサリクス属植物から選ばれる植物又は該植物の溶媒抽出物を有効成分として配合すること、あるいはポプリン、サリシン及びサリゲニンから選ばれる成分を有効成分として配合することにより、上記有効成分由来の収斂作用により優れた口腔内の引き締まり感を付与し得、かつ口内炎、う蝕等の口腔内の痛みの軽減作用を有し、しかも有効成分の安全性の高い口腔用組成物が記載されている。
しかし、特許文献1記載の発明は口内炎や口腔内の痛みを軽減することができるものの、口臭や歯周病を予防することができないという問題点を有する。
【0010】
特許文献2には、ニーム(センダン科、アザディラクタ・インディカ)抽出物を含むう蝕予防剤が記載されているものの、口臭や歯周病を予防することはできないという問題点を有する。
【0011】
特許文献3には、歯周病予防剤としてクロモジ(クスノキ科)抽出物が記載されている。特許文献3記載の発明は歯周病を予防することができるものの、歯垢の形成を抑制するものであるため、上記のような歯周組織におけるコラーゲンの破壊を抑制する成分は含まれていないという問題点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<抽出エキスの製造方法>
図1は、インドキノキから抽出エキスを得る方法の一例として、インドキノキの乾燥心材から抽出エキスを得て、その後さらに酢酸エチル/水及びブタノール/水を用いて抽出操作を行った工程を示す図である。
本発明に係る歯周病改善剤に含まれる抽出エキスは以下の工程を経て得ることができる。
(1)インドキノキ(Pterocarpus marsupium)の乾燥心材を粉末化する工程、
(2)(1)の粉末からアルコール溶液による還流抽出を行う工程、
(3)(2)で得られた抽出液から減圧下でアルコール分を除去した後凍結乾燥させる工程。
【0027】
本発明に係る歯周病改善剤に含まれる抽出エキスの製造方法の一例について詳細に説明する。
先ず、工程(1)について説明する。
インドキノキを破砕機等により粉末化する。
粉末化はインドキノキ中に含まれる成分を抽出しやすくするために行うものであって、粉末化せずに抽出しても良い。
インドキノキは、マメ科シタン属に属するPterocarpus marsupiumであり、インド南部からスリランカに生息する常緑樹である。本例において、粉末化するにあたって、インドキノキの乾燥させた心材を使用しているが、インドキノキは乾燥したものでなくてもよく、心材以外にもインドキノキの葉、枝、地下部等他の部分であっても良い。また、粉末化により得られる粉末の粒径については特に限定されない。
【0028】
工程(2)について説明する。
粉末化したインドキノキの粉末を含水系極性溶媒で溶媒抽出する。
溶媒抽出の方法としては、本例では還流抽出を使用しているが、還流抽出、浸漬抽出及び振とう抽出等いずれの抽出方法を使用しても良い。
還流抽出に用いる装置としてソックスレー抽出器等が挙げられるが、固体試料から溶媒抽出できる装置であれば特に限定されない。
含水系極性溶媒を用いて、含水系極性溶媒に可溶する成分を得る。このとき使用される含水系極性溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール等を含むアルコール溶液が好適に利用される。更にアルコール溶液に含まれるアルコールの含有量は30〜80%であることが好ましい。アルコール含有量が30%より少ないと有効成分であるプテロスチルベン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニン、プテロスピン等が抽出され難くいため好ましくない。
この操作に含水系極性溶媒を用いることで、インドキノキに含まれる歯周病の改善に有効な成分を抽出することができる。更に、この抽出操作に使用するインドキノキ及びアルコール溶液の質量比は、1:5〜1:20であることが好ましい。1:3未満だとインドキノキに含まれる歯周病の改善に有効な成分を十分に抽出できないため好ましくなく、1:20を超えると工程(3)においてアルコール分を手早く除去することができないため好ましくない。
還流抽出を行う時間や回数は、使用するインドキノキの量や状態によって適宜変更し得る。
【0029】
工程(3)について説明する。
本例においては、工程(2)により得られた抽出液から減圧乾燥器等によってアルコール分を除去するが、この工程はなくても良い。このとき、減圧乾燥に使用される装置については特に限定されない。
その後抽出エキスを凍結乾燥させて使用しても良い。凍結乾燥は−40℃で24時間行うことが好ましい。
【0030】
得られた抽出エキスは、以下の式(1)で示されるプテロスチルベン、式(2)で示されるリクイリチゲニン、式(3)で示されるイソリクイリチゲニン、及び式(4)で示されるプテロスピンを含んでいる。(
図1−3参照)。
【0035】
上記した方法により得られた抽出エキスは、歯周組織を形成するコラーゲン分解を促進するMMP−1の放出を抑制することができることから、口臭予防に有効な歯周病改善剤とすることができる(抽出エキスのMMP−1放出抑制作用については下記明細書段落[0062]及び
図4で説明する)。
【0036】
また、上記抽出エキスに含まれるプテロスチルベン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニン、及びプテロスピンはそれぞれ単体でもMMP−1の放出を抑制する効果を奏する(下記実施例2参照)。
本発明に係る歯周病改善剤に含まれるプテロスチルベン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニン、及びプテロスピンは、それぞれ以下の工程を経て得られる。
【0037】
<プテロスチルベンの抽出方法>
本発明に係る歯周病改善剤に含まれるプテロスチルベンは以下の工程を経て得られる。
(A)前記抽出エキスを水に懸濁する工程。
(B)(A)に酢酸エチルを加えて有機層を分離し、溶媒を除去して酢酸エチル可溶画分を得る工程。
(C)(B)をシリカゲルクロマトグラフィに付し、ヘキサン/酢酸エチル混液で溶出し、5つの画分を得る工程。
(D)(C)で得られた5つの画分の内2番目の画分から、逆相HPLCにてプテロスチルベンを溶出する工程。
なお、本実施形態においては出発材料である抽出エキスの量が40.0gである場合について記載する。当然ながら、出発材料の量や状態によって抽出条件は適宜変更し得る。
【0038】
工程(A)について説明する。
図1に示すように、抽出エキス(40.0g)を水(250ml)に懸濁する。懸濁する方法や装置は特に限定されない。
【0039】
工程(B)について説明する。
工程(A)で得られた懸濁液に酢酸エチルを加える。この際、酢酸エチルは懸濁液のおおよそ3倍量(本実施形態の場合750ml)であることが好ましい。酢酸エチルは一度に懸濁液に加えても、複数回に分けて加えても良い。
その後有機層を分離し、溶媒を減圧下で除去し、酢酸エチル可溶画分を得る。
【0040】
工程(C)について説明する。
図2は、
図1で示す工程中で得られた酢酸エチル可溶画分をさらにシリカゲルクロマトグラフィに付し、プテロスチルベン、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを抽出する工程を示す図である。
図2に示すように、工程(B)で得られた酢酸エチル可溶画分をシリカゲルクロマトグラフィ(silica gel 60、280g 2.25×40cm)に付し、ヘキサンと酢酸エチルが5:1であるヘキサン/酢酸エチル混液で溶出し、300mlずつ分取して30の画分を得る。得た画分の薄層クロマトグラフィ(TLC)における検出スポットが同じRf値を示す分画同士を合わせ5つの分画(F−J)とした。
【0041】
工程(D)について説明する。
得られた5つの画分の内、画分Gから逆相HPLC(SunFire C18カラム、19×250mm、日本ウォーターズ)にて、移動相を75%メタノール(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出280nmの条件でプテロスチルベンを溶出する。溶出した物質がプテロスチルベンであることは、
1H−及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献(Jo G.、Hyun J.、Hwang D.、Lee Y.H.、Koh D.、Lim Y.、Magn.Reson.Chem.、49、374−377(2011))で示されている値との比較によって確認する。
【0042】
<リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンの抽出方法>
本発明に係る歯周病改善剤に含まれるリクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンは以下の工程を経て得られる。
(A)前記抽出エキスを水に懸濁する工程。
(B)(A)に酢酸エチルを加えて有機層を分離し、溶媒を除去して酢酸エチル可溶画分を得る工程。
(C)(B)をシリカゲルクロマトグラフィに付し、ヘキサン/酢酸エチル混液で溶出し、5つの画分を得る工程。
(D)(C)で得られた5つの画分の内3番目の画分をさらにシリカクロマトグラフィに付し、6つの画分を得る工程。
(E)(D)で得られた6つの画分の内3番目の画分から逆相HPLCにて、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを溶出する工程。
(F)(E)で得られた溶出液から分取用HPLCにて、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを分ける工程。
なお、本実施形態においては出発材料である抽出エキスの量が40.0gである場合について記載する。当然ながら、出発材料の量や状態によって抽出条件は適宜変更し得る。
【0043】
工程(A)乃至(C)は、プテロスチルベンを抽出する方法における工程(A)乃至(C)と同様の条件で行う。
工程(D)について説明する。
得られた5つの画分の内、画分Hをシリカゲルカラムクロマト(silica gel 60、50g、1.25×25cm)に付し、50mlずつ分取して50の画分を得る。得られた画分のTLCにおける検出スポットが同じRf値を示す分画同士を合わせ6つの分画(H−1〜H−6)とした。
【0044】
工程(E)について説明する。
得られた6つの画分の内、画分H−3から逆相HPLC(SunFire C18カラム、19×250mm、日本ウオーターズ)にて、移動相を35%アセトニトリル(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出254nmの条件で、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを溶出した。
【0045】
工程(F)について説明する。
工程(E)で得られた溶出液を分取用HPLC(日本ウオーターズ製)にて、移動相を35%アセトニトリル(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出254nmの条件で、リクイリチゲニンとイソリクイリチゲニンを分けた。
溶出した物質がリクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンであることは、
1H−及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献(リクイリチゲニンはChawla A.、Kaur J.、Sharma A.K.、Int.J.Pharm.Phytopharmacol.Res.、2、319−327(2013)、イソリクイリチゲニンはSato Y.、He J.X.、Nagai H.、Tani T.、Akao T.、Biol.Pharm.Bull.、30、145−149(2007))に示された値との比較から同定した。
【0046】
<プテロスピンの抽出方法>
本発明に係る歯周病改善剤に含まれるプテロスピンは以下の工程を経て得られる。
(A)前記抽出エキスを水に懸濁する工程。
(B)(A)に酢酸エチルを加えて水層を分離する工程。
(C)(B)で分離した水層にブタノールを加えて有機層を分離し、溶媒を除去してブタノール可溶画分を得る工程。
(D)(C)をシリカゲルクロマトグラフィに付し、クロロホルム/メタノール/水の混液で溶出し、5つの画分を得る工程。
(E)(D)で得られた5つの画分の内4番目の画分から逆相HPLCにてプテロスピンを溶出する工程。
なお、本実施形態においては出発材料である抽出エキスの量が40.0gである場合について記載する。当然ながら、出発材料の量や状態によって抽出条件は適宜変更し得る。
【0047】
工程(A)及び(B)は上記プテロスチルベン、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンの抽出方法における工程(A)及び(B)とほぼ同様に行うが、工程(B)において有機層ではなく水層を分離する点で相違する。
【0048】
工程(C)について説明する。
工程(B)で分離した水層にブタノールを加える。この際、ブタノールは分離した水層のおおよそ等量(本実施形態の場合250ml)であることが好ましい。ブタノールは一度に懸濁液に加えても、複数回に分けて加えても良い。
その後有機層を分離し、溶媒を減圧下で除去し、ブタノール可溶画分を得る。
【0049】
図3は、
図1で示す工程中で得られたブタノール可溶画分をさらにシリカゲルクロマトグラフィに付し、プテロスピンを抽出する工程を示す図である。
工程(D)について説明する。
図3に示すように、工程(C)で得られたブタノール可溶画分をシリカゲルクロマトグラフィ(silica gel 60、250g 2.25×35cm)に付し、クロロホルム/メタノール/水(30:10:1)混液で溶出し、300mlずつ分取して35の画分を得る。得た画分の薄層クロマトグラフィ(TLC)の検出スポットが同じRf値を示す分画同士を合わせ5つの分画(A−E)とした。
【0050】
工程(E)について説明する。
得られた5つの画分の内、画分Dから逆相HPLC(SunFire C18カラム、19×250 mm、日本ウオーターズ)にて、移動相を30%メタノール(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出280nmの条件で、プテロスピンを溶出した。溶出した物質がプテロスピンであることは、
1H−及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献(Adinarayana D.、Syamasundar K.V.、Seligmann O.、Wagner H.、Z.Naturforsch.、37c、145−147(1982))に示された値との比較から同定した。
【0051】
<歯周病改善剤の剤形>
本発明の歯周病改善剤の剤形は、飲食品、医薬品及び医薬部外品のいずれとするかによって適宜決定することができ、特に限定されない。経口投与される際の剤形の例としては、洗口剤等の液状のもの(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、錠(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、シロップ状(シロップ剤)、固形状、半液体状、口腔塗布剤等のクリーム状のもの、歯磨き粉等のペースト状のものが挙げられる。
【実施例】
【0052】
本発明に係る歯周病改善剤及びその製造方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明はこの実施例に何ら限定されるものでない。
【0053】
<実施例1:インドキノキからの抽出エキスを含む歯周病改善剤のMMP−1放出抑制作用>
(1−1.歯周病改善剤の作製)
インドキノキの乾燥心材を粉砕し、5倍量の50%エタノールで2時間2回還流抽出した。還流抽出にはマントルヒ−タ−(大科電器(株)社製)を使用した。得られた50%エタノール抽出液を合わせ、減圧下でエタノールを留去した後に凍結乾燥させ、50%エタノール抽出エキス(収率:11.6%)を得た。
【0054】
(1−2.歯肉線維芽細胞からのMMP‐1放出抑制作用)
(A.細胞)
本実施例では、Scien Cell Research Laboratoriesより購入した歯肉線維芽細胞(Human gingival fibroblast、HGF)を用いた。HGFは10%(v/v)FBSを加えたDulbecco’s modified Eagle medium(DMEM)を用いて、37℃、5%CO
2下にて7日間培養した。これを1回の継代培養として、継代回数3から8回のHGFを使用した。
【0055】
(B.IL−1β刺激)
HGFからのMMP−1の放出を促進するため、HGFをIL−1βで刺激した。刺激した方法について以下に具体的に説明する。
上記A.のように培養したHGF(1×10
5細胞/2ml)を6−wellマイクロプレートに播種し、37℃、5% CO
2下にてコンフルエントになるまで培養した。HGFをphosphate−buffered saline(PBS、pH7.4)1mlで2回洗浄した後、抽出エキス及びIL−1βを添加した無血清培地2mlにて、37℃、5% CO
2下で48時間培養した。抽出エキスをDMSOあるいはDMSO含有DMEMに溶解し、DMEMで所定の濃度に希釈した(DMSO最終濃度:0.2%)。陰性対照群及び溶媒対照群には2%(v/v)DMSO/DMEMを用いた。溶媒対照群及び抽出エキス群にIL−1βを添加した.IL−1βは0.1%bovine serum albumin(BSA)を含む10mM Tris−HCl(pH8.2)で溶解して0.1mg/mlの濃度に調整し、−80℃で凍結保存させたものを用時溶解して用いた。
【0056】
(C.培地中に放出されたMMP−1のウエスタンブロット分析)
HGFを6−wellマイクロプレートで無血清培地にて37℃、5% CO
2下で48時間培養した。培地1mlを採取し、12、000×g、4℃、15分間遠心分離し上清を得た。β−Mercaptoethanolを最終濃度が5%(v/v)になるように添加したsodium dodecyl sulfate(SDS)含有サンプルバッファーと、得られた上清を等量混合し、100℃、4分間インキュベートした後、氷上で冷却したものをウエスタンブロット用試料とした。ウエスタンブロット用試料10μlを10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEにて分離し、分離したタンパクをPVDF(Bio−Rad Laboratories)メンブレンに転写した。これを5%(w/v)skimmed milkと0.1%Tween20を含むTBS(25mM Tris、137mM NaCl、2.68mM KCl)で一晩ブロッキングした後、1%skimmed milkと0.1%Tween20を含むTBSで400倍希釈した抗−MMP−1抗体を室温、1時間反応させた。続いて、メンブレンに4、000倍希釈したhorseradish peroxidase(HRP)標識二次抗体を室温、1時間反応させた。タンパクの検出にはECL Plusを用い、ChemiDoc XRS Plus System(Bio−Rad Laboratories)で化学発光を検出した。バンドの強度はQuantity One 1−D Analysis Software(Version.4.6.7、2008、Bio−Rad Laboratories)にて評価した。
【0057】
(D.統計処理)
実験結果は平均値±標準誤差で表し、統計学的な有意差検定には一元配置分散分析(ANOVA)及びDunnetの多重比較検定を用いた。
【0058】
(E.結果)
図4は、インドキノキの心材から抽出した抽出エキスが、IL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図4に示すように、抽出エキスは10、25及び50μg/mlの濃度で強いMMP−1放出抑制作用を示した。つまり、インドキノキの心材から得られた抽出エキスは、歯周組織の分解に関わる酵素MMP−1の歯肉線維芽細胞からの放出に対する抑制作用を示すことが、本実施例からも明らかである。このことから、インドキノキから得られた抽出エキスは歯周組織を構成するコラーゲンの分解を抑制することで、歯周病の進行を抑制し、その結果として、口臭の予防・治療に寄与できる可能性が考えられる。
【0059】
<実施例2:インドキノキから得られた抽出エキスから分画したプテロスチルベン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニン及びプテロスピンのいずれかを含む歯周病改善剤のMMP−1放出抑制作用>
(2−1.抽出エキスの分画)
図1に示すように、実施例1記載の方法と同様の方法で得られた抽出エキス(40.0g)を水(250ml)で懸濁し、これを酢酸エチル(250ml)で3回抽出し、続いてブタノール(250ml)で抽出した。酢酸エチル及びブタノール抽出液をそれぞれ合わせ、減圧下で溶媒を留去し、酢酸エチル可溶画分(6.0g、抽出エキスからの収率:15.0%)とブタノール可溶画分(8.8g、22.0%)を得た。水層を減圧濃縮した後に凍結乾燥し、水可溶画分(21.0g、52.5%)を得た。これらの画分についてMMP−1放出抑制作用を検討した。
【0060】
図2に示すように、酢酸エチル可溶画分(5.6g)をシリカゲルカラムクロマト(silica gel 60、280g、2.25×40cm)に付し、TLCでモニターしながらヘキサン/酢酸エチル(5:1)混液で溶出し、各画分を300mlずつ分取して30の画分を得た。得られた画分のTLCで検出したスポットでRf値の同じ物を合わせ1つの分画部とし、F〜Jの5つの分画にした。
【0061】
画分Gから逆相HPLC(SunFire C18 Column、19×250mm、日本ウォーターズ)にて、移動相を75%メタノール(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/min、検出280nmの条件で溶出し、化合物1を得た。下記表1及び2に示す化合物1の
1H−及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献値(Jo G.、Hyun J.、Hwang D.、Lee Y.H.、Koh D.、Lim Y.、Magn.Reson.Chem.、49、374−377(2011))との比較から、化合物1をプテロスチルベンと同定した。
【0062】
画分H(970mg)をシリカゲルカラムクロマト(silica gel 60、50g、1.25×25cm)に付し、各画分を50mlずつ分取して50の画分を得た。得られた画分のTLCのデータに基づき、画分H−1〜H−6に分画した。得られた画分H−3から逆相HPLC(SunFire C18 Column、19×250mm、日本ウオーターズ)にて、移動相を35%アセトニトリル(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出254nmの条件で溶出し、化合物2及び3を得た。さらに化合物2及び3を分けるために、分取用HPLC(日本ウオーターズ製)にて、移動相を35%アセトニトリル(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/分、検出254nmの条件で溶出し、化合物2及び3を分けた。表1及び2に示す化合物2及び3の
1H−及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献値(Chawla A.、Kaur J.、Sharma A.K.、Int.J.Pharm.Phytopharmacol.Res.、2、319−327(2013)及びSato Y.、He J.X.、Nagai H.、Tani T.、Akao T.、Biol.Pharm.Bull.、30、145−149(2007))との比較から、化合物2をリクイリチゲニン、化合物3をイソリクイリチゲニンと同定した。
【0063】
図3に示すように、ブタノール可溶画分(5.4g)をシリカゲルカラムクロマト(silica gel 60、250g、2.25×35cm)に付し、TLCでモニターしながらクロロホルム/メタノール/水(30:10:1)混液で溶出し、各画分を300mlずつ分取して35の画分を得た。得られた画分のTLCのデータに基づき、画分A〜E(2.30g、42.6%)に分画した。画分Dから逆相HPLC(SunFire C18 Column、19×250mm、日本ウォーターズ)にて、移動相を30%メタノール(0.1%ギ酸)、流速10.0ml/min、検出280nmの条件で溶出し、化合物4を得た。表3及び4に示す化合物4の
1H−、及び
13C−NMRスペクトル及びDEPT、HSQC、DQF−COSY、HMBC−NMRスペクトルの解析と文献値(Adinarayana D.、Syamasundar K.V.、Seligmann O.、Wagner H.、Z. Naturforsch.、37c、145−147(1982))との比較から、化合物4をプテロスピンと同定した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
(2−2.歯肉線維芽細胞からのMMP−1放出抑制作用)
(A.細胞)
実施例1と同様に行った。
(B.IL−1β刺激)
実施例1と同様に行った。
(C.培地中に放出されたMMP−1のウエスタンブロット分析)
実施例1と同様に行った。
(D.統計処理)
実施例1と同様に行った。
【0069】
(E.結果)
(E−1.抽出エキスから得られた酢酸エチル可溶画分、ブタノール可溶画分及び水可溶画分のMMP−1放出抑制作用)
図5は、インドキノキの心材から抽出した抽出エキスの酢酸エチル可溶画分、ブタノール可溶画分及び水可溶画分が、IL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図5に示すように、いずれの画分も10μgmlの濃度でMMP−1放出抑制作用を示した。
【0070】
(E−2.酢酸エチル可溶画分含有成分のMMP−1放出抑制作用)
図6は、プテロスチルベン(化合物1)がIL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図7は、リクイリチゲニン(化合物2)がIL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図8は、イソリクイリチゲニン(化合物3)がIL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図6が示すように、プテロスチルベンは1.0μMの濃度で溶媒対照群に対してMMP−1の放出を抑制する作用を示した。これ以上の濃度では細胞毒性を示したため検討できなかった。
図7及び8に示すように、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンは細胞毒性を示すことなく、それぞれ10−40μM、20−40μMの濃度でMMP−1放出抑制作用を示した。
【0071】
(E−3.ブタノール可溶画分含有成分のMMP−1放出抑制作用)
図9は、プテロスピン(化合物4)がIL−1βによって刺激されたHGFからのMMP−1放出に与える影響を示す図である。
図9に示すように、プテロスピンは40μmの濃度でMMP−1放出抑制作用を示した。
【0072】
(E−4.考察)
インドキノキの抽出エキスを分画し、得られた酢酸エチル可溶画分、ブタノール可溶画分及び水可溶画分の作用を検討した。その結果、いずれの画分にもその作用が認められ、特に、酢酸エチル可溶画分及びブタノール可溶画分が強い作用を示した。
そこで酢酸エチル可溶画分より、活性を指標に有効成分の探索を進め、プテロスチルベン(化合物1)、リクイリチゲニン(化合物2)及びイソリクイリチゲニン(化合物3)を単離した。これらのMMP−1放出抑制作用について検討したところ、いずれの化合物もMMP−1放出抑制作用を示した。
具体的には、化合物1は弱いながらも1.0μMという低濃度で活性を示した。また、化合物2は10、20及び40μMの濃度で、化合物3は20及び40μMの濃度で活性を示した。これらの化合物にHGFからのMMP−1放出抑制作用を見出したのは初めてである。
さらにブタノール可溶画分から有効成分の探索を進め、プテロスピン(化合物4)を単離した。これらのMMP−1放出抑制作用について検討したところ、化合物4にMMP−1放出抑制作用が40μMの濃度で認められた。これらの化合物にHGFからのMMP−1放出抑制作用を見出したのは初めてである。
以上の結果から、インドキノキはIL−1β刺激HGFからのMMP−1の放出を抑制する作用を有することが明らかとなり、さらに、その有効成分を明らかにすることに成功した。