特許第6551963号(P6551963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551963
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】巨核球前駆細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20190722BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20190722BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190722BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20190722BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C12N5/078ZNA
   C12N5/0735
   C12N5/10
   C12N5/0789
   C12N1/00 G
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-100422(P2014-100422)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-216853(P2015-216853A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】江藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小池 朋
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−003975(JP,A)
【文献】 特表2005−512961(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157586(WO,A1)
【文献】 特開2012−065644(JP,A)
【文献】 特表2002−527101(JP,A)
【文献】 特表2013−538810(JP,A)
【文献】 特表2015−528284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5μM〜20μMのMC1568または0.5nM〜2nMのパノビノスタット(Panobinostat)と、幹細胞因子(stem cell factor (SCF))およびトロンボポエチン(TPO)との存在下で造血前駆細胞を培養する工程を含む、巨核球細胞を製造する方法。
【請求項2】
前記造血前駆細胞が、多能性幹細胞から分化誘導された細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造血前駆細胞が、ヒト由来である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
5μM〜20μMのMC1568または0.5nM〜2nMのパノビノスタットと、SCFおよびTPOとを含む、造血前駆細胞から巨核球細胞への分化誘導促進剤。
【請求項5】
前記造血前駆細胞が、ヒト由来である、請求項に記載の分化誘導促進剤。
【請求項6】
請求項4または5に記載の分化誘導促進剤を含む培養液。
【請求項7】
5μM〜20μMのMC1568または0.5nM〜2nMのパノビノスタットと、SCFおよびTPOとの存在下で巨核球細胞を維持培養する方法。
【請求項8】
前記巨核球細胞の前駆細胞が、外来性の癌遺伝子、p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子、並びに/あるいはアポトーシス抑制遺伝子を発現する細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記巨核球細胞の前駆細胞が、ヒト由来である、請求項8に記載の培養液。
【請求項10】
5μM〜20μMのMC1568または0.5nM〜2nMのパノビノスタットと、SCFおよびTPOとの存在下で造血前駆細胞を培養する工程を含む、血小板を製造する方法。
【請求項11】
前記造血幹細胞が、多能性幹細胞から分化誘導された細胞である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞を製造する方法、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞への分化誘導促進剤ならびに巨核球前駆細胞を維持培養する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液関連疾患の治療や、外科的な治療には、多くの血液細胞が必要とされる。血液細胞の中でも、血液凝固及び止血のために必須の細胞である血小板は特に重要な血液細胞の1つである。血小板は、白血病、骨髄移植、抗癌治療などにおいて需要が多く、安定供給の必要性は高い。これまでに、血小板は、ドナーからの献血により採取する方法の他、トロンボポエチン(TPO)様類似構造 (ミメティクス)製剤を投与する方法、臍帯血又は骨髄細胞から巨核球を分化させる方法などにより確保されてきた。最近では、ES細胞又はiPS細胞などの多能性幹細胞をインビトロにおいて分化誘導し、血小板などの血液細胞を調製する技術も開発されている。
【0003】
発明者らは、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞から巨核球及び血小板を分化誘導する技術を確立し、血小板のソースとしての多能性幹細胞の有効性を示している(非特許文献1、並びに特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
さらに、発明者らは、多能性幹細胞をもとに不死化した巨核球前駆細胞株の樹立方法を見いだし、インビトロにおいて血小板等を大量に調製するために重要な技術を開発した(非特許文献2、並びに特許文献3及び特許文献4)。
【0005】
生体において、巨核球は、proplatelets(血小板前駆体)と呼ばれる偽足形状(pseudopodial formation)を形成し、その細胞質を断片化して血小板を放出する。巨核球は、血小板を放出するまでに、核内分裂(endomitosis)によって多核化すると考えられている。巨核球の核内分裂は、分裂溝形成及び紡錘体伸長を伴わない、核分裂及び細胞質分裂の異常による多極性有糸分裂であり、その結果、幾つかに分葉化した核を含む細胞が形成される。このような核内分裂が繰り返し生じることで、巨核球の多核化が誘導される。
【0006】
巨核球の多核化に関し、これまでに多くの研究結果が報告されている。Lodierらは(非特許文献3)、巨核球の核内分裂において、分裂溝は形成されるものの、非筋細胞ミオシンIIの収縮環への局在が認められず、収縮環形成及び紡錘体伸長に欠陥が生じていることを明らかにした。そして、これら収縮環や紡錘体伸長の異常は、RhoA及びRockの活性を阻害することにより、より顕著になることが示された(非特許文献4)。RhoAは分裂溝に蓄積し、Rhoキナーゼ (Rock)、シトロンキナーゼ、LIMキナーゼ及びmDia/forminsなどを含む幾つかのエフェクター因子の活性化を促進する。これらの結果から、RhoA及びRockなど収縮環形成などに関与する因子の活性を阻害することで、巨核球の核内分裂が促進されることが示唆されている。また、インテグリンα2/β1下流に位置するRhoのシグナルが増強されると、未熟な多核化していない巨核球の血小板前駆体(proplatelet)形成が阻害されるとの報告もある。
【0007】
Schweinfurthらは、転写因子であるオールトランスレチノイン酸(ATRA;all trans retinoic acid)、ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase (HDAC))の阻害剤として知られるバルプロ酸がヒト巨核芽球性白血病由来の巨核球前駆細胞株から巨核球への分化に関与していることが報告されている(非特許文献4)。同様に、マウスES細胞由来の造血前駆細胞から誘導した巨核球株に対してバルプロ酸を添加することで巨核球の成熟が促進することが報告されている(非特許文献5)。
【0008】
この他にも巨核球の成熟を促進する方法として、癌抑制遺伝子産物であるp53をノックダウンする方法(非特許文献6)、または通常の培養温度より高温の39℃で培養する方法(非特許文献7)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/041370
【特許文献2】WO2009/122747
【特許文献3】WO2011/034073
【特許文献4】WO2012/157586
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Takayama, et al, Blood,111 : 5298-5306 2008
【非特許文献2】Nakamura, et al, Cell Stem Cell, 14 : 1-14, 2014
【非特許文献3】Lordier, et al, Blood,112 : 3164-3174 2009
【非特許文献4】Schweinfurth, et al, Platelets,21:648-657 2010
【非特許文献5】Chagraoui, and Porcher, PLoS One. 7:e32981 2012
【非特許文献6】Fuhrken, et al, J.Biol.Chem.,283:15589-15600 2008
【非特許文献7】Proulx, et al, Biotechnol.Bioeng.,88:675-680 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞を誘導し、血小板製剤を製造するにあたり、一つの巨核球前駆細胞からより多くの血小板を製造する方法が必要であると考えた。
【0012】
このように、本発明は、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞を製造する新規な方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
背景技術として、巨核球前駆細胞へHDAC阻害剤を添加することで多核化を促し、血小板を産生させることは知られていたが、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞を製造する工程においてHDAC阻害剤を添加することでも効果があるのか不明であった。
【0014】
そこで、本発明者らは、巨核球前駆細胞または血小板を製造する工程において、造血前駆細胞とHADC阻害剤を接触させて培養したところ、血小板がより多く得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤と造血前駆細胞とを接触させる工程を含む、巨核球前駆細胞を製造する方法。
[2]前記造血前駆細胞が、多能性幹細胞から分化誘導された細胞である、[1]に記載の方法。
[3]前記HDAC阻害剤が、トリコスタチンA、ボリノスタット(Vorinostat)、MC1568およびパノビノスタット(Panobinostat)から成る群より選択される化合物である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記接触工程が、幹細胞因子(stem cell factor (SCF))およびトロンボポエチン(TPO)の存在下で実施される、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記巨核球前駆細胞が、ヒト巨核球前駆細胞である、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6]HDAC阻害剤を含む、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞への分化誘導促進剤。
[7]前記HDAC阻害剤が、トリコスタチンA、ボリノスタット、MC1568およびパノビノスタットから成る群より選択される化合物である、[6]に記載の分化誘導促進剤。
[8]SCFおよびTPOをさらに含む、[6]または[7]に記載の分化誘導促進剤。
[9]前記巨核球前駆細胞が、ヒト巨核球前駆細胞である、[6]から[8]のいずれかに記載の分化誘導促進剤。
[10][6]から[9]のいずれかに記載の分化誘導促進剤を含む培養液。
[11]HDAC阻害剤の存在下で巨核球前駆細胞を維持培養する方法。
[12]前記巨核球前駆細胞が、外来性の癌遺伝子、p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子、並びに/あるいはアポトーシス抑制遺伝子を発現する細胞である、[11]に記載の方法。
[13]前記HDAC阻害剤が、トリコスタチンA、ボリノスタット、MC1568およびパノビノスタットから成る群より選択される化合物である、[11]または[12]に記載の方法。
[14]前記巨核球を培養する工程が、SCFおよびTPOを含む培地で培養する工程である、[11]から[13]のいずれかに記載の方法。
[15]HDAC阻害剤を含む、巨核球前駆細胞を維持培養するための培養液。
[16]前記巨核球前駆細胞が、外来性の癌遺伝子、p16遺伝子若しくはp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子、及び/又はアポトーシス抑制遺伝子を発現する細胞である、[15]に記載の培養液。
[17]前記HDAC阻害剤が、トリコスタチンA、ボリノスタット、MC1568およびパノビノスタットから成る群より選択される化合物である、[15]または[16]に記載の培養液。
[18]SCFおよびTPOをさらに含む、[15]から[17]のいずれかに記載の培養液。
[19]前記巨核球前駆細胞が、ヒト巨核球前駆細胞である、[15]から[18]のいずれかに記載の培養液。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、血小板を効率よく産生する巨核球前駆細胞を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1Aは、末梢血血小板を前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)で展開したフローサイトメーターの解析結果を示す。図1Bは、iPS細胞(TKDN SeV5)を分化誘導した10日目の培養上清を回収し、FSCおよびSSCで展開したフローサイトメーターの解析結果を示す。図1Cは、iPS細胞(TKDN SeV5)を分化誘導した10日目の細胞のうち、末梢血血小板と同じ大きさの粒子(FSCおよびSSCゲート内)をCD41aおよびCD42bで展開したフローサイトメーターの解析結果を示す。
図2図2は、各多能性細胞株から誘導した造血幹細胞へ10nMのトリコスタチンA (TSA)を添加して培養して得られた血小板数の陰性対照に対する比率を示したグラフである。
図3図3は、各多能性細胞株から誘導した造血幹細胞へ10μMのMC1568を添加して培養して得られた血小板数の陰性対照に対する比率を示したグラフである。
図4図4は、各多能性細胞株から誘導した造血幹細胞へ1nMのLBH-589を添加して培養して得られた血小板数の陰性対照に対する比率を示したグラフである。
図5図5は、各多能性細胞株から誘導した造血幹細胞へ100nMのスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)を添加して培養して得られた血小板数の陰性対照に対する比率を示したグラフである。
図6図6は、TKDN SeV5から誘導した造血幹細胞へ10nMのトリコスタチンA (TSA)を各条件(Day 0-10、Day 0-4、Day 4-8、およびDay 8-10)で添加して、または代わりにDMSOを添加して、その後培養して得られた血小板数の陰性対照(DMSO)に対する比率を示したグラフである。
図7図7は、EP2から誘導した造血幹細胞へ10nMのトリコスタチンA (TSA)を各条件(Day 0-10、Day 0-4、Day 4-8、およびDay 8-10)で添加して、または代わりにDMSOを添加して、その後培養して得られた血小板数の陰性対照(DMSO)に対する比率を示したグラフである。
図8図8は、EP6から誘導した造血幹細胞へ10nMのトリコスタチンA (TSA)を各条件(Day 0-10、Day 0-4、Day 4-7、およびDay 7-10)で添加して、または代わりにDMSOを添加して、その後培養して得られた血小板数の陰性対照(DMSO)に対する比率を示したグラフである。
図9図9は、EP2から誘導した造血幹細胞へ10μMのMC1568を各条件(Day 0-10、Day 0-4、Day 4-8、およびDay 8-10)で添加して、または代わりにDMSOを添加して、その後培養して得られた血小板数の陰性対照(DMSO)に対する比率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(巨核球前駆細胞の製造方法)
本発明は、HDAC阻害剤と造血前駆細胞とを接触させる工程を含む、巨核球前駆細胞を製造する方法を提供する。好ましい態様において、造血前駆細胞はHDAC阻害剤を含む培養液中でHDAC阻害剤と接触される。本発明では、HDAC阻害剤以外の物質と接触させることを妨げない。
【0019】
本発明における「巨核球」は、多核化した細胞であってもよく、例えば、CD41a陽性/CD42a陽性/CD42b陽性として特徴付けられる細胞を含む。この他にも、巨核球とは、GATA1、FOG1、NF-E2およびβ1-チューブリンが発現している細胞として特徴づけてもよい。多核化した巨核球とは、造血前駆細胞と比較して核の数が相対的に増大した細胞又は細胞群のことをいう。例えば、本発明の方法を適用する造血前駆細胞の核が2Nの場合には、4N以上の細胞が多核化した巨核球となる。また、本発明において、巨核球は、巨核球株として不死化されていてもよく、クローン化された細胞群であってもよい。
【0020】
本発明における「巨核球前駆細胞」とは、成熟することで巨核球となる細胞であって、多核化していない細胞であり、例えば、CD41a陽性/CD42a陽性/CD42b弱陽性として特徴付けられる細胞を含む。本発明の巨核球前駆細胞は、好ましくは、拡大培養により増殖させることが可能である細胞であり、例えば、少なくとも60日以上は、適切な条件で拡大培養可能な細胞である。本発明において、巨核球前駆細胞は、クローン化されていてもされていなくても良く、特に限定されないが、クローン化されたものを巨核球前駆細胞株と呼ぶこともある。
【0021】
本発明において、巨核球前駆細胞を製造するにあたり、接触工程はサイトカインの存在下で行ってもよい。サイトカインは培養液中に含まれていてもよい。サイトカインとは、血球系分化を促進するタンパク質であり、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(stem cell factor (SCF))、インターロイキン(IL)-1、-3、-4、-6、-7、-11、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、またはエリスロポエチン(EPO)などが例示される。本発明で用いる好ましいサイトカインは、TPOおよびSCFである。TPOおよびSCFを培養液に含める場合、培養液中の濃度は、TPOの場合、10〜200ng/mL、好ましくは、50〜100ng/mL程度が例示され、SCFの場合、10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度が例示される。
【0022】
本発明において、HDAC阻害剤は、HDACの脱アセチル化活性を阻害する物質として定義され、例えば、ヒドロキサム酸誘導体、環状テトラペプチド、短鎖脂肪酸(SCFA)誘導体、ベンズアミド誘導体、求電子ケトン誘導体、siRNA、およびその他のHDAC阻害活性を有する化合物等を含むがこれらに限定されない。
【0023】
ヒドロキサム酸誘導体としては、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)(Vorinostat)(Richon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95,3003-3007 (1998));m-カルボキシケイ皮酸ビスヒドロキサミド(CBHA)(Richon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95,3003-3007 (1998));ピロキサミド;トリコスタチンA(TSA)およびトリコスタチンCなどのトリコスタチン類縁体(Koghe et al. 1998. Biochem. Pharmacol. 56: 1359-1364);サリチルヒドロキサム酸(Andrews et al., International J. Parasitology 30,761-768 (2000));スベロイルビスヒドロキサム酸(SBHA)(米国特許第5,608,108号);アゼライン酸ビスヒドロキサム酸(ABHA)(Andrews et al., International J. Parasitology 30,761-768 (2000));アゼライン酸-1-ヒドロキサメート-9-アニリド(AAHA)(Qiu et al., Mol. Biol. Cell 11, 2069-2083 (2000));6-(3-クロロフェニルウレイド)カルポイックヒドロキサム酸(3Cl-UCHA)];オキサムフラチン[(2E)-5-[3-[(フェニルスルホニル)アミノフェニル]-ペンタ-2-エン-4-イノヒドロキサム酸](Kim et al. Oncogene, 18: 2461 2470 (1999));A-161906、スクリプタイド(Su et al. 2000 Cancer Research, 60: 3137-3142);PXD-101(Prolifix);LAQ-824;CHAP;MW2796(Andrews et al., International J. Parasitology 30,761-768 (2000));MW2996(Andrews et al., International J. Parasitology 30,761-768 (2000));LBH-589 (Panobinostat);MC1568(Mai A, et al, J Med Chem. 48:3344-3353 (2005))または米国特許第5,369,108号、第5,932,616号、第5,700,811号、第6,087,367号および第6,511,990号に開示されているヒドロキサム酸のいずれかなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
環状テトラペプチドとしては、例えば、トラポキシン(TPX)A-環状テトラペプチド(シクロ-(L-フェニルアラニル-L-フェニルアラニル-D-ピペコリニル-L-2-アミノ-8-オキソ-9,10-エポキシデカノイル))(Kijima et al., J Biol. Chem. 268,22429-22435 (1993));FR901228(FK 228、デプシペプチド)(Nakajima et al., Ex. Cell Res. 241,126-133 (1998));FR225497環状テトラペプチド(H. Mori et al., WO00/08048);アピシジン環状テトラペプチド[シクロ(N-O-メチル-L-トリプトファニル-L-イソロイシニル-D-ピペコリニル-L-2-アミノ-8-オキソデカノイル)](Darkin-Rattray et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93,1314313147 (1996));アピシジンIa、アピシジンIb、アピシジンIc、アピシジンIIa、およびアピシジンIIb(WO1997/11366);CHAP、HC-トキシン環状テトラペプチド(Bosch et al., Plant Cell 7, 1941-1950 (1995));WF27082環状テトラペプチド(WO1998/48825);ならびにクラミドシン(Bosch et al., Plant Cell 7, 1941-1950 (1995))などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
短鎖脂肪酸(SCFA)誘導体としては、酪酸、プロピオン酸等の低分子のモノカルボン酸の誘導体、例えば、酪酸ナトリウム(NaB)(Cousens et al., J. Biol. Chem. 254,1716-1723 (1979));イソ吉草酸塩(McBain et al., Biochem. Pharm. 53: 1357-1368 (1997));吉草酸塩(McBain et al., Biochem. Pharm. 53: 1357-1368 (1997));4-フェニル酪酸塩(4-PBA)(Lea and Tulsyan, Anticancer Research, 15,879-873 (1995));フェニル酪酸塩(PB)(Wang et al., Cancer Research, 59, 2766-2799 (1999));プロピオン酸塩(McBain et al., Biochem. Pharm. 53: 1357-1368 (1997));ブチルアミド(Lea and Tulsyan, Anticancer Research, 15,879-873 (1995));イソブチルアミド(Lea and Tulsyan, Anticancer Research, 15,879-873 (1995));フェニル酢酸塩(Lea and Tulsyan, Anticancer Research, 15,879-873 (1995));3-ブロモプロピオン酸塩(Lea and Tulsyan, Anticancer Research, 15,879-873 (1995));トリブチリン(Guan et al., Cancer Research, 60,749-755 (2000));バルプロ酸、バルプロ酸塩およびPivanex(登録商標)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
ベンズアミド誘導体としては、例えば、CI-994;MS-275[N-(2-アミノフェニル)-4-[N-(ピリジン-3-イルメトキシカルボニル)アミノメチル]ベンズアミド](Saito et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4592-4597 (1999));およびMS-275の3'-アミノ誘導体(Saito et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4592-4597 (1999))などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
求電子ケトン誘導体としては、例えば、トリフルオロメチルケトン(Frey et al, Bioorganic & Med. Chem. Lett. (2002), 12, 3443-3447; U.S. 6,511,990)およびN-メチル-α-ケトアミドなどのα-ケトアミドなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
siRNAとしては、例えば、HDAC1 siRNA Smartpool (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene) などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
その他のHDAC阻害剤としては、例えば、天然物、サマプリン、およびデプデシン(Kwon et al. 1998. PNAS 95: 3356-3361)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本発明において、好ましいHDAC阻害剤は、トリコスタチンA、ボリノスタット(Vorinostat)(あるいは、本明細書においてはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)とも称する)、MC1568およびパノビノスタット(Panobinostat)(あるいは、本明細書においてはLBH-589とも称する)から成る群より選択される1つ以上の化合物である。これらの化合物は組み合わせて用いられてもよく、または単独で用いられてもよい。
【0031】
(分化誘導促進剤)
本発明はまた、HDAC阻害剤を含む、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞への分化誘導促進剤を提供する。本発明において、「分化誘導促進剤」とは、HDAC阻害剤と接触させない対照と比較して、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞へ分化誘導を有意に、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.7倍以上促進する物質を意味する。分化誘導促進の程度は、巨核球前駆細胞数の増大をフローサイトメトリーにより確認することで評価することができる。好ましい態様において、本発明の分化誘導促進剤は造血前駆細胞を培養する培養液に含まれる。
【0032】
(巨核球前駆細胞機能改善剤)
本発明はまた、HDAC阻害剤を含む、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞への分化誘導時において用いる巨核球前駆細胞機能改善剤を提供する。本発明において、「巨核球前駆細胞機能改善剤」とは、造血前駆細胞から巨核球前駆細胞への分化誘導時に当該細胞へ接触させることによって、HDAC阻害剤と接触させない対照と比較して、得られた巨核球前駆細胞からの血小板産生量を有意に、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.7倍以上増加させる物質を意味する。巨核球前駆細胞の機能改善の程度は産生される血小板の量を測定することによって評価することもできる。好ましい態様において、本発明の巨核球前駆細胞機能改善は造血前駆細胞を培養する培養液に含まれる。本発明において、特に断りがない場合は、巨核球前駆細胞機能改善剤は、分化誘導促進剤に包含される。
【0033】
本発明で使用されるHDAC阻害剤の培養液中の濃度は、通常0.1nM〜100μMであり、HDAC阻害剤の添加量を変更することによって適宜調整可能である。HDAC阻害剤の濃度は、TSAを用いる場合、例えば、0.1nM〜100nM、1nM〜50nM、5nM〜20nM、10nMであり、MC1568を用いる場合、例えば、0.1μM〜100μM、1μM〜50μM、5μM〜20μM、10μMであり、LBH-589を用いる場合、例えば、0.01nM〜10nM、0.1nM〜5nM、0.5nM〜2nM、1nMであり、SAHAを用いる場合、例えば、1nM〜1μM、10nM〜500nM、50nM〜200nM、100nMである。
【0034】
本発明において用いる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地の定義には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
【0035】
本発明において好ましい基礎培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、アスコルビン酸を含むIMDM培地である。
【0036】
本発明の造血前駆細胞から巨核球前駆細胞を製造する工程において、造血前駆細胞は、フィーダー細胞(例えば、哺乳類胎仔のAGM(aorta-gonad-mesonephros)領域から得られた細胞(特開2001−37471)、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)、OP9細胞(ATCCより入手可能)またはC3H10T1/2細胞(JCRB Cell Bankより入手可能))上、あるいは細胞外基質上で培養する方法が例示される。
【0037】
本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(登録商標)などの細胞からの調製物であってもよい。好ましくは、細胞外基質はラミニンまたはその断片である。本発明においてラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質である。特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2またはβ3であり、γ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される、より好ましいラミニンは、α5、β1およびγ1からなるラミニン511である。本発明では、ラミニンは断片であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメントであってもよい。従って、本発明では、WO2011/043405に記載されたラミニン511E8(好ましくはヒトラミニン511E8)が例示される。
【0038】
本発明において、巨核球前駆細胞を製造する好ましい培養条件は、C3H10T1/2細胞と造血前駆細胞を共培養する方法である。
【0039】
本発明において、造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells(HPC))とは、リンパ球、好酸球、好中球、好塩基球、赤血球、巨核球等の血球系細胞に分化可能な細胞である、本発明において、造血前駆細胞と造血幹細胞は、区別されるものではなく、特に断りがなければ同一の細胞を示す。造血幹細胞/前駆細胞は、例えば、表面抗原であるCD34および/またはCD43が陽性であることによって認識できる。本発明において、造血幹細胞は、多能性幹細胞、臍帯血・骨髄血・末梢血由来の造血幹細胞及び前駆細胞などから分化誘導された造血前駆細胞に対しても適用することができる。例えば、多能性幹細胞を使用する場合、造血前駆細胞は、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法にしたがって、多能性幹細胞をVEGFの存在下でC3H10T1/2上で培養することで得られるネット様構造物(ES−sac又はiPS−sacとも称する)から調製することができる。ここで、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。この他にも、多能性幹細胞からの造血前駆細胞の製造方法として、胚様体の形成とサイトカインの添加による方法(Chadwick et al. Blood 2003, 102: 906-15、Vijayaragavan et al. Cell Stem Cell 2009, 4: 248-62、Saeki et al. Stem Cells 2009, 27: 59-67)または異種由来のストローマ細胞との共培養法(Niwa A et al. J Cell Physiol. 2009 Nov;221(2):367-77.)等が例示される。本発明において、好ましい造血前駆細胞は、多能性幹細胞から誘導された造血前駆細胞である。
【0040】
本発明において、多能性幹細胞とは、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、例えば胚性幹(ES)細胞(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)、精子幹細胞(「GS細胞」)(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)、人工多能性幹(iPS)細胞(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);WO2007/069666)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)(WO2011/007900)などが含まれる。より好ましくは、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
【0041】
本発明に係る巨核球前駆細胞の製造方法は、一態様として、造血前駆細胞へ癌遺伝子、p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子、並びに/あるいはアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて該細胞を培養する工程を含んでもよい。
【0042】
本発明において、「癌遺伝子」とは、その発現、構造または機能等が正常細胞と異なることに起因して、正常細胞のがん化を引き起こす遺伝子であり、例えば、MYCファミリー遺伝子、Srcファミリー遺伝子、Rasファミリー遺伝子、Rafファミリー遺伝子、c-KitやPDGFR、Ablなどのプロテインキナーゼファミリー遺伝子などを挙げることができる。MYCファミリー遺伝子として、c-MYC、N-MYCおよびL-MYCが例示される。より好ましくは、癌遺伝子はc-MYC遺伝子である。c-MYC遺伝子とは、例えば、NCBIのアクセッション番号NM_002467で示される核酸配列からなる遺伝子である。また、c-MYC遺伝子には、そのホモログも含まれてよく、c-MYC遺伝子ホモログとは、そのcDNA配列が、例えば、NCBIのアクセッション番号NM_002467で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。NCBIのアクセッション番号NM_002467で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、NCBIのアクセッション番号NM_002467で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、NCBIのアクセッション番号NM_002467で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、これらのDNAによってコードされるタンパク質が、造血前駆細胞など、分化段階の細胞の増幅に寄与するもののことである。
【0043】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーションの条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な実験条件である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補的鎖がその融点よりやや低い環境における再アニール能力に依存する。
【0044】
例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが上げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSCおよび0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。ストリンジェントな条件をより高くすることにより、相同性の高いポリヌクレオチドを得ることができる。
【0045】
本発明において、c-MYCの発現量を抑制することが好ましいため、不安定化ドメインと融合させたタンパク質をコードするc-MYCであってもよい。不安定化ドメインは、ProteoTuner社またはClontech社から購入して用いることができる。
【0046】
本発明において、「p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子」として、BMI1またはId1などが例示される。本発明において好ましくは、p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子はBMI1である。BMI1遺伝子とは、例えば、NCBIのアクセッション番号NM_005180で示される核酸配列からなる遺伝子である。また、BMI1遺伝子には、そのホモログも含まれてよく、BMI1遺伝子のホモログとは、そのcDNA配列が、例えばNCBIのアクセッション番号NM_005180で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。NCBIのアクセッション番号NM_005180で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、NCBIのアクセッション番号NM_005180で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、NCBIのアクセッション番号NM_005180で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、そのDNAによってコードされるタンパク質が、MYCファミリー遺伝子などの癌遺伝子が発現している細胞内で生じる癌遺伝子誘導性細胞老化を抑制し、該細胞の増幅を促進するもののことである。
【0047】
本発明において、上記の遺伝子を造血前駆細胞において強制発現させる方法は、当業者の常法にしたがって行うことができる。例えば、強制発現は、これらの遺伝子を発現するベクター、これらの遺伝子がコードするタンパク質またはこれらの遺伝子をコードするRNAを造血前駆細胞へ導入することによって成し得る。さらには、これらの遺伝子の発現を誘導する低分子化合物等を造血前駆細胞と接触させることによっても強制発現を行うことができる。ここで、本発明では、一定期間、上記遺伝子を発現し続ける必要があることから、発現ベクター、タンパク質、RNAまたは発現を誘導する低分子化合物等は、必要な期間に合わせて複数回導入することによって行い得る。
【0048】
これらの遺伝子を発現するベクターとして、例えば、レトロウイルス、レンチウィルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウィルス、ヘルペスウイルス及びセンダイウィルスなどのウィルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。単回導入により実施し得るという点において、レトロウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターが好ましいベクターである。
【0049】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターの例としては、EF-αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウィルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウィルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターおよび薬剤応答性プロモーターが例示される。薬剤応答性プロモーターとは、対応する薬剤の存在下で遺伝子を発現するTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、reverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることで、対応する薬剤(例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンが例示される)の存在下で遺伝子発現を誘導する様式を用いることが好ましい。さらに好ましいベクターは、同一ベクターにTREプロモーターならびにrtetRおよびVP16ADの融合遺伝子が配置されており、当該融合遺伝子を発現する様式を持つベクターである。
【0050】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。有用な選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0051】
本発明において、Cre-loxPシステムを使用して、遺伝子をベクターから切り出すため、loxP配列にて遺伝子またはプロモーター領域もしくはその両方をはさむようにloxP配列を設置された発現ベクターを用いてもよい。
【0052】
本発明では、同時に複数の遺伝子を導入するため、遺伝子が縦に連結されてポリシストロニックなベクターを得てもよい。ポリシストロニックな発現を可能にするために、強制発現させる複数の遺伝子間に、口蹄疫ウィルスの2A自己開裂ペプチド(Science, 322, 949-953, 2008などを参照)およびIRES(Internal ribosome entry site)配列などをライゲーションしてもよい。
【0053】
本発明において、発現ベクターを造血前駆細胞に導入する方法は、ウィルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や補完細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されたウィルスを回収し造血前駆細胞と接触させ感染させることによって成し得る。非ウィルスベクターの場合、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いてプラスミドベクターを細胞に導入することができる。
【0054】
本発明に係る巨核球前駆細胞の製造方法の一態様として、造血前駆細胞へ癌遺伝子、あるいはp16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子を強制発現させた後に、さらに、アポトーシス抑制遺伝子を強制発現させてもよい。アポトーシス抑制遺伝子の強制発現も、上述と同様に、発現ベクター、またはこれらの遺伝子がコードするタンパク質またはこれらの遺伝子をコードするRNAを造血前駆細胞へ導入することによって成し得る。
【0055】
本発明において、さらにアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させる場合、特に限定しないが、癌遺伝子、およびp16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子を少なくとも7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上または14日間以上強制発現した後にアポトーシス抑制遺伝子の強制発現が行われ、より好ましくは、14日以上である。
【0056】
本発明において、「アポトーシス抑制遺伝子」とは、アポトーシスを抑制する遺伝子であれば特に限定されず、例えば、BCL2遺伝子、BCL−XL遺伝子、Survivin、MCL1などが挙げられる。好ましくは、アポトーシス抑制遺伝子はBCL-XL遺伝子である。BCL−XL遺伝子とは、例えば、NCBIのアクセッション番号NM_001191またはNM_138578で示される核酸配列からなる遺伝子である。また、BCL−XL遺伝子には、そのホモログも含まれてよく、BCL−XL遺伝子のホモログとは、そのcDNA配列が、例えば、NCBIのアクセッション番号NM_001191またはNM_138578で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。NCBIのアクセッション番号NM_001191またはNM_138578で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、NCBIのアクセッション番号NM_001191またはNM_138578で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、NCBIのアクセッション番号NM_001191またはNM_138578で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、そのDNAによってコードされるタンパク質が、アポトーシスを抑制する効果を有するもののことである。
【0057】
本発明では、アポトーシス抑制遺伝子を造血前駆細胞において強制発現させることに代わって、カスパーゼ阻害剤を細胞と接触させても良い。本発明において、カスパーゼ阻害剤は、ペプチド性化合物、非ペプチド性化合物、あるいは、生物由来のタンパク質のいずれであってもよい。ペプチド性化合物としては、例えば人工的に化学合成された下記(1)〜(10)のペプチド性化合物を挙げることができる。
(1)Z-Asp-CH2-DCB(分子量454.26)
(2)Boc-Asp(OMe)-FMK(分子量263.3)
(3)Boc-Asp(OBzl)-CMK(分子量355.8)
(4)Ac-AAVALLPAVLLALLAP-YVAD-CHO(分子量1990.5)(配列番号1)
(5)Ac-AAVALLPAVLLALLAP-DEVD-CHO(分子量2000.4)(配列番号2)
(6)Ac-AAVALLPAVLLALLAP-LEVD-CHO(分子量1998.5)(配列番号3)
(7)Ac-AAVALLPAVLLALLAP-IETD-CHO(分子量2000.5)(配列番号4)
(8)Ac-AAVALLPAVLLALLAP-LEHD-CHO(分子量2036.5)(配列番号5)
(9)Z-DEVD-FMK (Z-Asp-Glu-Val-Asp-fluoromethylketone)(配列番号6)
(10)Z-VAD FMK
【0058】
例えば、ペプチド性化合物のカスパーゼ阻害剤として、(1)VX-740 - Vertex Pharmaceuticals (Leung-Toung et al., Curr. Med. Chem. 9, 979-1002 (2002))、(2)HMR-3480 - Aventis Pharma AG (Randle et al., Expert Opin. Investig. Drugs 10, 1207-1209 (2001))、を挙げることができる。
【0059】
非ペプチド性化合物のカスパーゼ阻害剤としては、(1)アニリノキナゾリン(anilinoquinazolines (AQZs))-AstraZeneca Pharmaceuticals (Scott et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 304, 433-440 (2003))、(2)M826 - Merck Frosst (Han et al., J. Biol. Chem. 277, 30128-30136 (2002))、(3)M867 - Merck Frosst (Methot et al., J.Exp. Med. 199, 199-207 (2004))、(4)ニコチニルアスパチルケトンズ(Nicotinyl aspartyl ketones)- Merck Frosst (Isabel et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 13, 2137-2140 (2003))、などを例示することができる。
【0060】
また、その他の非ペプチド性化合物のカスパーゼ阻害剤として、(1)IDN-6556 - Idun Pharmaceuticals (Hoglen et al., J.Pharmacol. Exp. Ther. 309, 634-640 (2004))、(2)MF-286 and MF-867 - Merck Frosst (Los et al., Drug Discov. Today 8, 67-77 (2003))、(3)IDN-5370 - Idun Pharmaceuticals (Deckwerth et al., Drug Dev. Res. 52, 579-586 (2001))、(4)IDN-1965 - Idun Pharmaceuticals (Hoglen et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 297, 811-818 (2001))、(5)VX-799 - Vertex Pharmaceuticals (Los et al., Drug Discov. Today 8, 67-77 (2003))、などを挙げることができる。このほかに、M-920 and M-791 - Merck Frosst (Hotchkiss et al., Nat. Immunol. 1, 496-501 (2000))などもカスパーゼ阻害剤として挙げることができる。
【0061】
本発明において、好ましいカスパーゼ阻害剤は、Z-VAD FMKである。カスパーゼ阻害剤としてZ-VAD FMKを用いる場合、その添加は造血前駆細胞を培養する培地に対し行われる。培地中でのZ-VAD FMKの好ましい濃度は、例えば、10μM以上、20μM以上、30μM以上、40μM以上、および50μM以上が挙げられ、好ましくは、30μM以上である。
【0062】
本発明において、培養する際の温度条件は、特に限定されないが、37℃以上の温度で造血前駆細胞を培養することにより、巨核球前駆細胞への分化を促進することが確認されている。ここで、37℃以上の温度とは、細胞にダメージを与えない程度の温度が適当であることから、例えば、約37℃〜約42℃程度、約37〜約39℃程度が好ましい。また、37℃以上の温度における培養期間については、当業者であれば巨核球前駆細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。所望の巨核球前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも6日間以上、12日以上、18日以上、24日以上、30日以上、42日以上、48日以上、54日以上、60日以上であり、好ましくは60日以上である。培養期間が長いことについては、巨核球前駆細胞の製造においては問題とされない。また、培養期間中は、適宜、継代を行うことが望ましい。
【0063】
(巨核球前駆細胞の維持培養方法)
本発明はまた、HDAC阻害剤の存在下で巨核球前駆細胞を維持培養する方法を提供する。本明細書において「維持培養」とは、巨核球前駆細胞の巨核球への分化・成熟を抑制しながら巨核球前駆細胞を増殖させることをいう。維持培養においては、培養細胞の数が全体として増加を続ける限り、巨核球前駆細胞の一部が巨核球に分化してもよい。
【0064】
本発明において、巨核球前駆細胞の維持培養は、巨核球前駆細胞と同様の培養条件によって行い得る。巨核球前駆細胞が「癌遺伝子」、「p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子」および/または「アポトーシス抑制遺伝子」を発現させている場合、維持培養の間、これらの遺伝子は発現を維持されることが望ましい。
【0065】
(血小板の製造方法)
本発明は、上述の方法で得られた巨核球前駆細胞からさらに巨核球細胞および/または血小板を製造する方法を提供する。「癌遺伝子」、「p16遺伝子又はp19遺伝子の発現を抑制する遺伝子」および/または「アポトーシス抑制遺伝子」を強制発現させている場合、当該強制発現を停止して培養することによって巨核球細胞および/または血小板が製造され得る。強制発現の停止は、例えば、薬剤応答性ベクターを用いて強制発現をしている場合、対応する薬剤と当該細胞と接触させないことによって達成してもよい。この他にも、上記のLoxPを含むベクターを用いた場合は、Creリコンビナーゼを当該細胞に導入することによって強制発現を停止してもよい。さらに、一過性発現ベクター、およびRNAまたはタンパク質導入を用いた場合は、当該ベクター等との接触を止めることによって強制発現を停止してもよい。強制発現の停止において用いられる培地は、上記と同一の培地を用いて行うことができる。
【0066】
強制発現を停止して培養する際の温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃〜約42℃程度、約37〜約39℃程度が好ましい。また、37℃以上の温度における培養期間については、当業者であれば巨核球の数などをモニターしながら、適宜決定することが可能であるが、例えば、2日間〜10日間、好ましくは3日間〜7日間程度である。少なくとも3日以上であることが望ましい。また、培養期間中は、適宜、継代を行うことが望ましい。
【0067】
本発明では、上述の方法で得られた巨核球前駆細胞を凍結保存することができる。巨核球前駆細胞は、凍結保存した状態で流通させることができる。
【0068】
本発明において、巨核球細胞および/または血小板の製造方法の一態様では、培地にROCK阻害剤および/またはアクトミオシン複合体機能阻害剤が加えられる。ROCK阻害剤としては、例えばY27632が挙げられる。アクトミオシン複合体機能阻害剤としては、ミオシン重鎖II ATPase阻害剤である、ブレビスタチンが挙げられる。培地には、ROCK阻害剤を単独で加えてもよく、ROCK阻害剤とアクトミオシン複合体機能阻害剤を異なるタイミングでそれぞれ単独で加えてもよいし、これらを組み合わせて加えてもよい。
【0069】
ROCK阻害剤および/またはアクトミオシン複合体機能阻害剤は、0.1μM〜30μMで培地に加えることが好ましく、より具体的には、阻害剤の濃度を例えば0.5μM〜25μM、5μM〜20μM等としてもよい。
【0070】
本明細書中に記載される「細胞」の由来は、ヒト及び非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、トリなど)であり、特に限定はされないが、ヒト由来の細胞が特に好ましい。
【0071】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
1) ES/iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトES細胞(khES3:京都大学より入手、H1:WiCell Research Instituteより入手可能)およびiPS細胞(TKDN SeV2およびTKDN SeV5:センダイウィルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞、TKPB SeV8およびTKPB SeV9:センダイウィルスを用いて樹立されたヒト末梢血単核球由来iPS細胞、EP1(585A1)、EP2(585B1)およびEP6(692D2):Okita K, et al, Stem Cells 31, 458-66, 2013に記載のエピソーマルベクターを用いて樹立されたヒト末梢血単核球由来iPS細胞)から、Takayama N., et al. Blood, 5298-5306 (2008)に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。即ち、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF (R&D SYSTEMS)を含む基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS -G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove's Modified Dulbecco's Medium) (Sigma-Aldrich))中でC3H10T1/2細胞(RIKEN BioResource Center)と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells(HPC))を作製した。培養は20% O2、5% CO2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
【0073】
2)ヒト血小板
ドナーより同意を得て得られた全血に1/9量のデキストロース溶液を添加し、900rpm,で10分間遠心した後、回収した上清を多血小板血漿(platelet rich plasma (PRP))として用いた。
【0074】
3)血小板の誘導
上記1)の共培養14日目に上記HPCを回収し、6well plate中のC3H10 T1/2細胞上に3x104/wellで播種し、50ng/mlのSCF (R&D SYSTEMS)、50ng/mlのTPO (R&D SYSTEMS)およびHDAC 阻害剤(10nM TSA(トリコスタチンA)(Sigma-Aldrich)、100nM SAHA(Vorinostat)(Sigma-Aldrich)、10μM MC1568(Sigma-Aldrich)、または1nM LBH-589 (Panobinostat) (Sigma-Aldrich))を含む基本培地で10日間培養した。陰性対照として、50ng/mlのSCF、50ng/mlのTPOおよびDMSOを含む基本培地で10日間 HPCを培養した。
【0075】
10日目に回収した培養上清に、1/9量のデキストロース溶液(85mM クエン酸ナトリウム、104 mM グルコース、および65mM クエン酸)、抗CD41a抗体(BioLegend)および抗CD42b抗体(BioLegend)を添加した後、フローサイトメーターを用いて大きさ(FSCおよびSSC)によって、2)で得られた多血小板血漿と同等の大きさの粒子を選択し(図1AおよびB)、当該選択した粒子を細胞表面抗原(CD41aおよびCD42b)によって血小板として計数した(図1C)。CD41a陽性/CD42b陽性画分のパーティクル数をBD Trucountチューブを用いて補正し、1wellあたりの血小板の総数として算出した。得られた血小板数は、HDAC 阻害剤の代わりにDMSOを添加した陰性対照の血小板数に対する比率として算出し、当該比率を各iPS細胞株からの血小板産出量として図2から図5に示した。
【0076】
その結果、各iPS細胞株からTSA、SAHA、MC1568、またはLBH-589を添加することで得られた血小板数は、添加しなかった場合と比較して約1.7倍から5.0倍程度増加した。
【0077】
以上の結果より、HDAC阻害剤を添加した培地中で造血前駆細胞を培養することで、血小板の産生量を増加させることができることが確認された。
【実施例2】
【0078】
HDAC阻害剤の添加時期の検討
実施例1に記載した方法でTKDN SeV5およびEP2から得られたHPCを、6well plate中のC3H10 T1/2細胞上に3x104/wellで播種し、次の5つの条件のいずれかで培養した;
(条件1)DMSOを添加した血小板誘導培地(50ng/ml SCFおよび50ng/ml TPOを添加した基本培地)で10日間培養(DMSO)、
(条件2)10nM TSAを添加した血小板誘導培地で10日間培養(Day 0-10)、
(条件3)10nM TSAを添加した血小板誘導培地で4日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換しさらに6日間培養(Day 0-4)、
(条件4)DMSOを添加した血小板誘導培地で4日間培養後、10nM TSAを添加した血小板誘導培地に交換し4日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換し2日間培養(Day 4-8)、または
(条件5)DMSOを添加した血小板誘導培地で8日間培養後、10nM TSAを添加した血小板誘導培地に交換し2日間培養(Day 8-10)。
【0079】
各条件で得られた血小板産出量を実施例1の方法に従って算出した。TKDN SeV5における結果を図6に示し、EP2における結果を図7に示した。
【0080】
続いて、実施例1に記載した方法でEP6から得られたHPCを、6well plate中のC3H10 T1/2細胞上に3x104/wellで播種し、次の5つの条件のいずれかで培養した;
(条件1)DMSOを添加した血小板誘導培地で10日間培養(DMSO)、
(条件2)10nM TSAを添加した血小板誘導培地で10日間培養(Day 0-10)、
(条件3)10nM TSAを添加した血小板誘導培地で4日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換しさらに6日間培養(Day 0-4)、
(条件4)DMSOを添加した血小板誘導培地で4日間培養後、10nM TSAを添加した血小板誘導培地に交換し3日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換し3日間培養(Day 4-8)、または
(条件5)DMSOを添加した血小板誘導培地で7日間培養後、10nM TSAを添加した血小板誘導培地に交換し3日間培養(Day 8-10)。
【0081】
この条件で得られた血小板産出量を実施例1の方法に従って算出し、結果を図8に示した。
【0082】
さらに、実施例1に記載した方法でEP2から得られたHPCを、6well plate中のC3H10 T1/2細胞上に3x104/wellで播種し、次の5つの条件のいずれかで培養した;
(条件1)DMSOを添加した血小板誘導培地(50ng/ml SCFおよび50ng/ml TPOを添加した基本培地)で10日間培養(DMSO)、
(条件2)10μM MC1568を添加した血小板誘導培地で10日間培養(Day 0-10)、
(条件3)10μM MC1568を添加した血小板誘導培地で4日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換しさらに6日間培養(Day 0-4)、
(条件4)DMSOを添加した血小板誘導培地で4日間培養後、10μM MC1568を添加した血小板誘導培地に交換し4日間培養した後、DMSOを添加した血小板誘導培地に交換し2日間培養(Day 4-8)、または(条件5)DMSOを添加した血小板誘導培地で8日間培養後、10μM MC1568を添加した血小板誘導培地に交換し2日間培養(Day 8-10)。
【0083】
この条件で得られた血小板産出量を実施例1の方法に従って算出し、結果を図9に示した。
【0084】
以上の結果より、HDAC阻害剤は、HPCの分化誘導初期に作用させることで効率よく血小板を誘導することができることが示唆された。この結果は、巨核球の多核化にHDAC阻害剤が有用であるとの従来の知見とは異なり、新たな血小板誘導技術を提供するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]