特許第6552022号(P6552022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552022
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】バルブリフタ
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/14 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   F01L1/14 F
   F01L1/14 G
   F01L1/14 B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-167576(P2018-167576)
(22)【出願日】2018年9月7日
(62)【分割の表示】特願2015-557748(P2015-557748)の分割
【原出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-194006(P2018-194006A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2018年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-4845(P2014-4845)
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】吉元 明男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正之
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256716(JP,A)
【文献】 特開2007−046660(JP,A)
【文献】 特開2008−174590(JP,A)
【文献】 特開昭63−106427(JP,A)
【文献】 特開2005−254316(JP,A)
【文献】 特開2011−256717(JP,A)
【文献】 実開平01−069102(JP,U)
【文献】 特開2005−036666(JP,A)
【文献】 特開2001−316686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブとカムとの間に配置され、カムの回転動作をバルブのリフト動作に変換するバルブリフタであって、
円形状のバルブリフタ冠面の中心から半径方向に第1の距離で規定される中心領域には、潤滑油を保持するための第1のテクスチャー溝が周方向に形成され、前記中心領域に隣接する中間領域を隔てて半径方向に第1の距離よりも大きい第2の距離で規定される外周領域には、潤滑油を保持するための第2のテクスチャー溝が周方向に形成され、
前記第1の距離は、カムとの面圧またはカムとの接触回数が予め決められたしきい値以上となる値に設定され、前記第2の距離は、カムとの面圧またはカムとの接触回数が予め決められたしきい値以下となる値に設定され、
前記中間領域には、第1および第2のテクスチャー溝よりも溝が浅い第3のテクスチャー溝が形成される、バルブリフタ。
【請求項2】
第3のテクスチャー溝のピッチは、第1および第2のテクスチャー溝のピッチよりも広い、請求項1に記載のバルブリフタ。
【請求項3】
前記バルブリフタ冠面には、非晶質硬質炭素被膜が形成され、第1、第2および第3のテクスチャー溝の深さは、前記非晶質硬質炭素被膜の膜厚よりも小さい、請求項1または2に記載のバルブリフタ
【請求項4】
第3のテクスチャー溝は、半径方向の延びる直線状の溝である、請求項1ないし3いずれか1つに記載のバルブリフタ。
【請求項5】
第1および第2のテクスチャー溝は、ヘリングボーンのパターンである、請求項1または2に記載のバルブリフタ。
【請求項6】
第1および第2のテクスチャー溝の少なくとも一方は、周方向に連続する溝である、請求項1または2に記載のバルブリフタ。
【請求項7】
第1および第2のテクスチャー溝の少なくとも一方は、周方向に非連続の溝である、請求項1または2に記載のバルブリフタ。
【請求項8】
第1、第2および第3のテクスチャー溝は、レーザー加工によって形成される、請求項1ないし7いずれか1つに記載のバルブリフタ。
【請求項9】
潤滑油は、モリブデン系オイルである、請求項1ないし7いずれか1つに記載のバルブリフタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直打式動弁機構に用いられるバルブリフタに関し、特にバルブリフタ冠面の表面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー、環境問題に対応して燃費を向上させるため、内燃機関の摩擦損失の低減は重要な課題となっている。内燃機関の主要な摺動部としては、動弁系、ピストン系、クランクシャフト系が挙げられる。摩擦損失はこれらの主要摺動部で75〜90%を占めており、中高速回転域ではピストンリング、ピストン、コンロッドの割合が高く、低速回転域では動弁系のフリクションの占める割合が高い。これらの摩擦損失を低減する技術は、基本的に摺動面の表面粗さを低減して摩擦抵抗を低くすること、潤滑の観点から保油性を向上した表面構造とすることを基本に様々な改良が成されている。
【0003】
内燃機関の典型的な動弁系の1つにバルブリフタがある。バルブリフタは、カムとバルブとの間に配置され、カムの回転運動をバルブの開閉運動に変換する部材である(特許文献1、2等)。バルブリフタは、冠部およびスカート部を含むバルブリフタ本体を有し、その冠面でカムが摺動するため、バルブリフタ冠面での摩擦抵抗を低減することが望ましい。例えば、特許文献3では、バルブリフタの摺動面にプラトー状の凸部を形成し、溝状凹部深さが摺動中央部で最深、ストローク端へ向けて浅くなる表面構造を持たせ、ストローク端での油切れを防止し、中央部の摩擦損失を低減させている。また、特許文献4では、バルブリフタ冠面の中心部分に矩形状の窪みを同心円状に多数形成し、中心から離れた環状体部分に円形の窪みを多数形成し、摩擦抵抗の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−240601号
【特許文献2】特開2008−215172号
【特許文献3】特開2002−235852号
【特許文献4】特開2007−46660号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1(A)は、バルブリフタの動弁系の概略断面図、図1(B)は、バルブリフタが上昇しバルブが閉じたときの断面図、図1(C)は、バルブリフタが降下しバルブが開いたときの断面図である。シリンダヘッド10に形成されたボア12内に適度なクリアランスで上下動可能にバルブリフタ14が配置される。バルブリフタ14の冠面と摺動するカム16は、カムシャフト18に取付けられ、カムシャフト18はチェーン等の駆動系20によって回転される。カムシャフト18内の空間18Aに供給された潤滑油は、孔22を介してカムジャーナル部24、カムジャーナルキャップ26に供給され、さらにカムジャーナル部24を潤滑した潤滑油は、間接的にその外周部に散布され、一部がバルブリフタ14の潤滑に利用される。また、ここには図示しないが、シリンダヘッド10のボア12の外周部に潤滑油を溜める堰を形成し、起動時に潤滑油が迅速にバルブリフタへ供給されるようにしている。
【0006】
こうして、バルブリフタ14には、カムシャフト18の回転に伴い潤滑油が供給され、カム16は、バルブリフタ冠面を一定方向に摺動する。また、カム幅の中心は、バルブリフタ14の中心から幾分オフセットされているため、カム16が冠面上を摺動するときバルブリフタ14に回転モーメントが与えられ、バルブリフタ14が回転する。このようなカムの回転往復運動によって摺動されるバルブリフタ冠面の摺動条件は領域によって異なる。特に、冠面の中心領域と外周領域の摺動条件には大きな差がある。図2に、バルブリフタ冠面の平面図を示し、便宜上、中心領域40と外周領域50とをハッチングで例示する。
【0007】
(面圧)
中心領域40は、その裏面側に配置されたバルブステム28にカム16の回転運動を直接伝達する領域であるため、中心領域40の面圧Pcは、外周領域50の面圧Ppよりも大きくなる(Pc>Pp)。
(接触回数)
バルブリフタ14は、常に回転されるため、外周領域50とカム16との接触頻度または接触回数Npは、中心領域40とカム16との接触回数Ncよりも小さくなる(Nc>Np)。つまり、カム16と接触する外周領域50はローテーションされるので、中心領域40と比較して接触する機会が少なくなる。
【0008】
中心領域40の面圧Pcが大きくなると、潤滑油の保油性が小さくなり、中心領域40の摩擦抵抗が増加する。
【0009】
外周領域50には、潤滑油の引き込み速度が非常に小さくなる領域、あるいは引き込み速度が0となる地点が含まれ得る。そのような領域または地点では、潤滑油の保油性がさらに悪化する。上記したように、カム16は冠面上を一定方向に摺動し、他方、バルブリフタ14は一定方向に回転するため、カム16の摺動速度とバルブリフタ14の回転速度との間に相対速度がゼロとなる地点、すなわち潤滑油の引き込み速度が0となる地点が生じる。引き込み速度が0となる地点は、カムの摺動速度にもよるが、総じて冠面上の周方向の速度が大きくなる外周領域50において生じ得る。また、外周領域50の保油性の低下は、バルブリフタ14のスカート部とボア間の潤滑にも悪影響を及ぼす。つまり、回転モーメントを与えられたバルブリフタは、軸方向に傾斜する力を受けながらボア内を上下動するため、潤滑油が不十分になるとボア12の上端または下端の摩耗が大きくなり、そこでの最適なクリアランスが失われてしまい、それが原因で異音を発生させてしまう。
【0010】
このようにバルブリフタ14の冠面の中心領域40と外周領域50では摺動条件が異なるため、中心領域40と外周領域50の潤滑の最適化が図られないと、摩擦損失が大きくなり燃費を向上できないだけでなく、摩耗による製品寿命が低下するという不具合がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、潤滑性能に優れ摩擦損失を低減することが可能な摺動条件に適合した表面構造をもつバルブリフタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るバルブリフタは、バルブとカムとの間に配置され、カムの回転動作をバルブのリフト動作に変換するものであって、円形状のバルブリフタ冠面の中心から半径方向に第1の距離で規定される中心領域には、潤滑油を保持するための第1のテクスチャー溝が周方向に形成され、前記中心領域に隣接する中間領域を隔てて半径方向に第2の距離で規定される外周領域には、潤滑油を保持するための第2のテクスチャー溝が周方向に形成される。
【0013】
好ましくは前記バルブリフタ冠面には、非晶質硬質炭素被膜が形成され、当該非晶質硬質炭素被膜上に第1および第2のテクスチャー溝が形成される。好ましくは外周領域は、潤滑油の引き込み速度が0となる領域を含む。好ましくは第1および第2のテクスチャー溝は、ヘリングボーンのパターンである。好ましくは第1および第2のテクスチャー溝の少なくとも一方は、周方向に連続する溝である。好ましくは第1および第2のテクスチャー溝の少なくとも一方は、周方向に非連続の溝である。好ましくは前記中間領域には、テクスチャー溝が形成されない。好ましくは前記中間領域には、第1および第2のテクスチャー溝よりも溝が浅くかつ溝ピッチが大きい第3のテクスチャー溝が形成される。好ましくは第3のテクスチャー溝は、半径方向の延びる直線状の溝である。好ましくはテクスチャー溝は、レーザー加工によって形成される。好ましくは潤滑油は、モリブデン系オイルである。
【0014】
本発明に係るバルブリフタは、バルブとカムとの間に配置され、カムの回転動作をバルブのリフト動作に変換するものであって、円形状のバルブリフタ冠面には非晶質硬質炭素被膜が形成され、非晶質硬質炭素被膜上には、周方向に連続するヘリングボーンのテクスチャー溝が形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、潤滑性能に優れ摩擦損失を低減したバルブリフタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は、バルブリフタの動弁系の概略を示す断面図、図1(B)は、バルブリフタが上昇しバルブが閉じたときの断面図、図1(C)は、バルブリフタが降下しバルブが開いたときの断面図である。
図2】従来のバルブリフタ冠面の平面図である。
図3図3(A)は、本実施例のバルブリフタの冠面の表面構造の平面図、図3(B)は、そのA−A線断面図である。
図4】本発明の実施例に係るバルブリフタ冠面に形成されるヘリングボーン状のテクスチャー溝の一例を示す図である。
図5】本発明の実施例に係るバルブリフタ冠面に形成される他のテクスチャーパターンの例を示す図である。
図6】本実施例によるバルブリフタとテクスチャー溝が形成されていないバルブリフタのフリクショントルクを比較する実験結果を示す図である。
図7】本発明の第2の実施例に係るバルブリフタ冠面の表面構造の平面図である。
図8】本発明の第2の実施例に係るバルブリフタ冠面に形成されるテクスチャー溝の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るバルブリフタについて図面を参照して説明する。なお、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際の装置や部品のスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0018】
本実施例に係るバルブリフタは、内燃機関の直打式動弁機構において、バルブステムとカムとの間に配置されカムのリフト動作をバルブに伝達する機能を有する。さらにバルブリフタは、その内部に油圧のON−OFFの制御によりバルブステムのリフト動作を休止させあるいは動作させる休止機構を備えるものであってもよい。例えば、内燃機関が低速運転されるとき、カムのリフト動作がバルブに伝達されないように休止させ、中高速運転されるとき、カムのリフト動作がバルブに伝達されるようにする。
【0019】
図3(A)は、本実施例に係るバルブリフタの概略平面図、図3(B)は、そのA−A線断面図である。本実施例に係るバルブリフタ100は、図3(B)に示すように、概して倒立カップ形状のバルブリフタ本体を有し、バルブリフタ本体は、円形状の冠部110と、冠部110から垂直方向に延びる円周状のスカート部120とを有する。ここには詳細に示さないが、スカート部120内の空間にバルブ休止機構を配置させることができる。
【0020】
バルブリフタ本体の材質には、JIS規格によるSCM材を浸炭処理したものを用いることができるほか、他の鋼材、鋳物、鉄系合金、チタン合金、アルミ合金及び高強度樹脂等を用いることができ、好ましくは、耐摩耗性を向上させるため、冠部110の表面には、窒化処理により窒化層、Crめっき被膜、窒化チタン又は窒化クロムなどのイオンプレーティングによる硬質皮膜が形成される。さらに好ましい態様として、冠部110の表面には、高硬度で摩擦特性に優れた非晶質硬質炭素被膜(以下、DLC(Diamond like carbon)被膜という)112が形成される。DLC被膜112は、基材表面に直接形成してもよいが、密着性を向上させるために、Cr等の金属又はその金属窒化物の中間層を介して形成してもよい。DLC被膜112を形成する基材には、SCM415材などの鋼材や鉄系合金或いは前記鋼材や鉄系合金に浸炭処理や焼入処理等の硬化熱処理を施し、表面硬度をHRC53以上としたものを用いることが好ましい。また、DLC被膜112は、PVD法、CVD法、PACVD法などによって形成することができる。例えば、アークイオンプレーティング法によりDLC被膜112を形成するとき、水素含有量が0.5原子%以下であるものが硬度及び耐摩耗性の観点で好ましい。DLC被膜112の膜厚は、例えば、PVD法であれば、0.3〜1.5μm、CVD法であれば、20μm程度の膜厚を有することができる。DLC被膜112の表面粗さは、カムへの攻撃性の観点でRa0.01〜0.03が好適である。冠部110の裏面側には、肉厚のボス122が形成され、当該ボス112は、バルブステムまたはその間に介在されるシムに当接される。以下の説明では、冠部110にDLC被膜112が形成されたバルブリフタを例示するが、本発明は、DLC被膜112を必須とするものではなく、冠部110の表面が窒化処理されたようなバルブリフタにも適用できることに留意すべきである。
【0021】
冠部110の最上層に形成されたDLC被膜112は、カムの摺動が行われる冠面114を提供する。冠面114の中心領域130には、テクスチャー溝132が形成される。テクスチャー溝132は、規則性または周期性のある微細な凹凸の溝である。このようなテクスチャー溝132は、後述するように潤滑油を保持する機能等を備える。中心領域130は、バルブリフタ100の中心から半径r1の距離で規定される。好ましくは、半径r1は、カムとの摺動により面圧Pcが相対的に高い領域、あるいは接触回数Ncが相対的に高くなる領域を規定する。例えば、半径r1は、面圧Pcがエンジン設計仕様等に基づき予め決められたしきい値以上となる値、あるいは、接触回数Ncがしきい値以上となる値に設定することができる。また、他の例では、半径r1は、冠部110の裏面に形成されたボス122の半径と等しいかそれよりも一定値大きな値とすることができる。
【0022】
中心領域130に隣接して中間領域140が規定される。中間領域140は、半径r1と半径r2(r1<r2)によって囲まれた領域である。本実施例では、中間領域140にテクスチャー溝が形成されず、中間領域140の表面はDLC被膜112である。
【0023】
中間領域140に隣接して外周領域150が規定される。外周領域150は、半径r2と半径r3(r3>r2)によって囲まれた領域である。外周領域150には、テクスチャー溝152が形成される。テクスチャー溝152は、中心領域130に形成されるテクスチャー溝132と同一構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。テクスチャー溝の構成は、例えば、パターン、深さ、ピッチ、サイズ、面積率、断面形状から特定される。
【0024】
外周領域150は、面圧Ppが相対的に小さく、またカムとの接触回数Npが相対的に小さく、潤滑油の引き込みが小さくなる領域である。例えば、半径r3は、面圧Ppが予め決められたしきい値以下となる値、あるいは接触回数Npがしきい値以下となる値に設定することができる。さらに外周領域150は、潤滑油の引き込み速度がしきい値以下となる地点、つまり、カムと冠面との間の相対速度がしきい値以下となる地点を含み、より好ましくは、外周領域150は、引き込み速度または相対速度が0となる地点を含む。
【0025】
本実施例の好ましい態様では、中心領域130および外周領域150のテクスチャー溝132、152は、レーザー加工によって形成される。レーザー光を光学的に走査することにより、DLC被膜112上に、周期性または規則性のある、微細かつ複雑なテクスチャー溝を形成することができる。溝の深さは、レーザー光の出力によって任意に調整することができ、例えば、300nm程度の溝を形成することができる。溝のピッチも任意であるが、例えば、0.1〜0.2mmのピッチを形成することができる。
【0026】
テクスチャー溝は、微細な凹凸を含む周期構造であり、摺動面に供給された潤滑油を溝内に保持する効果がある。潤滑油の保持により保油性が高まれば、油膜が薄くなることが防止され、摩擦損失を低減した良好な潤滑を得ることができる。
【0027】
摺動するカムと冠面114間の油量(油膜厚さ)で見た場合、外周領域150では、理論上、油膜厚さが瞬間的にほぼ0(油膜が切れる)となるタイミングが含まれ、この瞬間、動的に油膜が構成できない状態となる。他方、中心領域130は、面圧が高いにも拘わらず、油膜は多少なりとも形成されるため、外周領域150よりは理論上、良好な潤滑状態を得ることができるが、接触荷重が高く、また高回転時の慣性系の異常挙動(バウンス、バネのサージング)により、冠面114の潤滑状態は厳しい状況となる。さらに、カムとの摺動の繰り返し数が外周領域150に比べて数倍程度多くなるため、摩耗量も必然的に多くなる。
【0028】
中心領域130にテクスチャー溝132を形成することで、供給された潤滑油が溝内に効果的に保持され、接触回数Ncが多くかつ高い面圧が印加されても、潤滑油の一定の油膜が維持され、それ故、中心領域130の潤滑性能が改善される。
【0029】
外周領域150にテクスチャー溝152を形成することで、少ない量の潤滑油が溝内に保持され、一定の油膜が維持され、それ故、外周領域150の潤滑性能が改善される。
【0030】
また本実施例では、中間領域140にはテクスチャー溝が形成されない。中間領域140は、中心領域130と比較して面圧が小さい。このため、中間領域140では、DLC被膜112による表面処理で十分な潤滑を得ることができ、テクスチャー溝は必須ではない。中間領域140へのテクスチャー溝の加工を不要にすることで、レーザー加工によるテクスチャー溝の形成のためのサイクルタイムが速くなり、生産性が向上し、コストを低減させることができる。
【0031】
次に、テクスチャー溝の好ましい例を図4に示す。図4(A)は、中心領域130および外周領域150のテクスチャー溝132、152の一部を示している。テクスチャー溝132、152は、いわゆるへリングボーンのパターン(模様)の溝から構成される。1つ1つの溝は、概略V字型であり、これが周方向に連続しかつ半径方向に複数組配列されている。へリングボーンは、カムの摺動方向に対して一定の角度で交差する溝を有し、これが周方向で連続するため、溝内に潤滑油が保持され易くなる。
【0032】
図4(B)は、図4(A)のヘリングボーンの一部を変形したものである。図4(B)では、ヘリングボーンの先端部の溝をなくし、周方向での連続性を断ち切ったものである。このようなヘリングボーンのパターンは、特に、外周領域150のカム幅方向での油膜圧力の保持が改善される。従って、中心領域130のテクスチャー溝132を図4(A)のパターンにし、外周領域150のテクスチャー溝152を図4(B)のパターンにしてもよい。なお、図4(A)、(B)では、外周領域150のへリングボーンのサイズ、ピッチを、面積に応じて中心領域130のヘリングボーンのサイズ、ピッチよりも大きくしているが、これらは同じであってもよいし、摺動条件に応じて適宜変更され得る。
【0033】
本実施例のテクスチャー溝132、152は、ヘリングボーンに限らず、他のパターン(模様)であってもよい。その一例を図5に示す。図5(A)は、菱形溝を周方向に連続して形成したものであり、図4(A)に示したヘリングボーン溝と同様の効果を得ることができる。図5(B)は、図5(A)の菱形溝の周方向および冠面の外周側での連続を遮断したものであり、これにより油膜圧力の保持を図ることができる。
【0034】
図5(C)は、周方向で45°と135°の斜線溝を交互に設定し半径方向で連続V字溝を構成したものである。溝の長さはは、比較的長く設定される。図5(D)は、図5(C)の各々の斜線溝の半径方向の連続を遮断したものである。図5(E)は、周方向に45°の比較的短い溝を形成し、半径方向で各溝位置をオフセットさせ、溝が矩形化されるように構成されたものである。図5(F)は、135°方向での斜線溝を形成したものであり、図5(E)とは逆方向のパターンである。図5(G)は、周方向に矩形溝を形成し、半径方向で上下溝がオフセットされた構成である。
【0035】
次に、本実施例によるバルブリフタと、冠面にテクスチャー溝が形成されていないバルブリフタ(比較例)とのフリクショントルクとを比較する実験データを図6に示す。本実施例のバルブリフタは、DLC被覆112上に図4(A)に示すようなヘリングボーンのテクスチャー溝が形成され、他方、比較例のバルブリフタは、冠面にDLC被覆が形成されているだけである。図6(A)、(B)、(C)は、油温が40℃、80℃、120℃のときのカム回転数500rpm、1000rpm、1500rpmにおいて比較例のフリクショントルクを1としたときのフリクショントルク比を示している。
【0036】
本実施例のバルブリフタは、油温が比較的低い40℃のとき、カム回転数が500rpm近傍においてフリクショントルクが比較例よりも顕著に低下している。カム回転数が500rpmのとき、本実施例のバルブリフタでは、比較例よりも8%のフリクショントルクの低減が確認された。さらに、油温が高くなるにつれ、フリクショントルクに低下をもたらすカム回転数も大きくなっていることがわかる。油温80℃のカム回転数が500rpmのとき、本実施例のバルブリフタでは、比較例よりも15%のフリクショントルクの低減が確認され、油温120℃のカム回転数が500rpmでは、26%のフリクショントルクの低減が確認された。
【0037】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図7は、第2の実施例に係るバルブリフタ冠面の表面構造を示す図であり、第1の実施例と同一部分について同一参照番号を付してある。第2の実施例では、中間領域140にテクスチャー溝142が形成される。中間領域140は、中心領域130および外周領域150と異なる摺動条件を有するものであるから、その摺動条件に適したテクスチャー溝が形成される。外周領域150は、中心領域130よりも潤滑油が引き込まれ難いので、中間領域140のテクスチャー溝142は、中心領域130から外周領域150へ潤滑油が流動され易いようなパターンに構成される。例えば、テクスチャー溝142は、テクスチャー溝132とテクスチャー溝152とを連続するような半径方向に延びる溝であることができる。この場合、テクスチャー溝142は、中心領域130および外周領域150のテクスチャー溝132、152よりも深さが浅くかつ溝ピッチが大きいことが望ましい。これにより、潤滑油の流動抵抗を低減させることができる。
【0038】
図8に、第2の実施例のテクスチャー溝の一例を示す。図8(A)は、テクスチャー溝142が半径方向に延びるほぼ垂直な溝から構成され、中心領域130から外周領域150への流体抵抗の緩和が図られている。図8(A)は、図4(A)のヘリングボーンとの組み合わせ、図8(B)は、図5(A)に示すパターンとの組み合わせ、図8(C)は、図5(C)に示すパターンとの組み合わせ、図8(D)は、図5(G)に示すパターンとの組み合わせを示している。ここには図示しないが、図5(B)、(D)、(F)との組み合わせであってもよい。
【0039】
上記の組み合せ以外にも、バルブリフタ冠面の全体にテクスチャー溝を形成し、中間領域140のテクスチャー溝142の深さが中心領域130および外周領域150のテクスチャー溝132、152の深さよりも浅くなるようにレーザー出力を制御するようにしてもよい。この場合、テクスチャー溝132、152と、テクスチャー溝142とは、同一パターンであってもよいし、異なるパターンであってもよい。
【0040】
上記した実施例では、バルブリフタ冠面に形成されるテクスチャー溝によって潤滑油の保油性が良好となり、潤滑性能が改善される点について説明したが、さらにこのようなテクスチャー溝の形成によって次のような効果を得ることができる。
【0041】
カムの粗さ、硬さに対し最適なテクスチャー溝を形成することで、カム摺動面との初期ならし効果を得ることができる。また、DLC被膜112は、潤滑油の組合せによって保油性が良好でないことがある。例えば、モリブデンオイルはDLC被膜と親和性が悪く、DLC被膜によってはじかれ易い。本実施例のようにDLC被膜112に周期性、規則性、連続性のあるテクスチャー溝を形成することで、モリブデンオイルがDLC被膜上に保持され易くなる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
100、100A:バルブリフタ
110:冠部
112:DLC被膜
114:冠面
120:スカート部
122:ボス
130:中心領域
132:テクスチャー溝
140:中間領域
142:テクスチャー溝
150:外周領域
152:テクスチャー溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8